───それはまあそうなる───
【ケース13:弦月彰/ランポスの受難】
キィイイイ───ビジュンッ!!
彰 「よっしゃどこだここーーーーーっ!!」
遥か彼方より俺推参! そして迷子!
やべぇ! 言われるままに転移しちまったけど、そういや今次元が大変なことになってるんだった! だからこそ改めて何処だここ!
サウザーンなんちゃらとかいう森じゃねーことは確かだ! それは絶対に絶対です!
彰 「うおおなんかミアが居ねぇし!
カイ───も居ねぇよ! うわぁやべぇどうしよう!」
俺だけ!? この広い草原で俺一人!?
なんかもうあれだけ緑に溢れた視界を歩いてばっかだと、こんな広い平原って逆に怖いんですけど!? 森を! 俺に森をギブミー! しまったギブミーだと“俺に”って言葉とかぶる!
はっ! いや落ち着け俺! こんな時こそCOOLになるんだ!
彰 「COOL! COOL! COOL! COOL!!」
やべぇなんかHOTになってきやがった! 全然落ち着けねぇよこれ!!
違うだろ! 落ち着く時はまず掌に人を描いてぇええ………………ムズッ! 人間描くのムズッ!! って人間じゃなくて“人”の字を書くんだろうがァアーーーーーッ!!
彰 「でもやばいだろ実際! あんな竜が居る世界なんだぞ!?
ベヒーモスだって居る! そんな世界で俺一人って……!
いざとなったら月空力ってわけにもいかなくなったし、ア、アゥワワワ……!!」
ふ、震えるぞハート! 震えすぎていてヒート! 刻みまくってるよ血液のビート!
ままままずは街を……そ、そうっ! 街を、拠点を見つけて……!
彰 「……街って何処だよぉおーーーーーーーーっ!!!」
いっそ叫んだ! 情けなくても死ぬよかマシだと声を大にして仲間を呼んだ!
すると───
ゴリファンゴさん『ナゴォオーーーーーッ!!!』
彰 「ギャアアーーーーーーーーッ!!!」
なんとゴリファンゴさんが現れた! 地面からゴヴァーーンと!!
そ、そうだよなぁ! この場合の“仲間を呼ぶ”って、モンスターが出るよなぁ!
だってRPGの主人公に“仲間を呼ぶ”なんてコマンド無いし!
卑怯だよなぁモンスター! 呼べば来るんだよ!? いっそ俺もモンスターになりたい! こう、心だけ!
彰 「くっそ……ナメんなコラァ! こちとら全種の月操力を操る能力最強者だぞ!
親父が体裁なんざ気にしねぇヤツだったら、今ごろ神様だったっつの!」
右手に月醒力を蓄積、突き出すと同時に解放!
彰 「くらえっ! 月醒の矢!」
音を立てて放たれるは青白き閃光!
それはゴリファンゴさんの顔面に直撃し───
ゴリファンゴ『……? ゴホフッ!』
……発生した煙が、鼻息で吹き飛ばされた。
え……マジ? 無傷? 猫の一撃で潰されたようなヤツが?
あっ……あの猫どれだけ強ぇえんだよオイ!!
彰 「エートエート月醒の矢が効かないとなるとブラストも効かないだろうし、
かといってなにか有効な手があるとも───アアアアーーーーッ!!!」
ドフォゥしましょう! なんて驚き役のアナウンサーみたいに言ってる場合じゃねぇ!
飛び道具がダメなら───月切力! 斬り殺す!
彰 「月聖力、標的固定!」
ならばまずは安全策!
月聖力で聖域を作り出し、ゴリファンゴさんの動きを止める!
ゴリ『ナゴッ!? ナゴォオーーーーーッ!!』
彰 「つーかなんなんだよその鳴き声! ナゴ!? すげぇ鳴き声ですね!」
思わず口調も敬語でした! さあそんなことはどうでもヨロシ!
動きを封じたゴリファンゴさん目掛けて一気に走る! そんでもってェエエ!!
彰 「天に三宝! 日、月、星! 地に三宝! 火、水、風!
月醒力+月切力! 龍炎拳!!」
右手に月切力、左手に月醒力を込め、目の前で合掌することで融合!
炎の大剣となったところで無遠慮に突っ込み、跳躍すると同時にゴリファンゴさんの頭頂に振り下ろす!!
ゴキャーン♪
そして有り得ん音が鳴りました! つか全然効いてねィェーーーーーーーッ!!
キャアヤバイどうしましょ! 結構とっておきだったのに!
彰 「だったら消費はデケェエエエけど……!」
着地と同時にバックステッポ! それを数回繰り返したのちに月操力を操り、充実させてゆく。これをくらえば敵の頭がおかしくなって死ぬのは確定的に明らか。
なんて暢気に考えてる暇はねぇんだってばさ!
彰 「いくら硬くても雷撃は通る筈ッッ……“神の裁き”!!」
再び付き出した右手から、今度は月鳴力による波動を放つ。
真っ直ぐに飛ぶ青白くスパークする巨大な光がゴリファンゴさんを飲み込み、雷特有の轟音を高鳴らす所為で耳がギャアアいたやぁあーーーーーーッ!!
彰 「んだどもこれでっ…………効いてねェエーーーーーーッ!!」
雷の波動が過ぎ去ったあとでもきょとんとしとるよコイツ! なにコイツ!
彰 「んな馬鹿なっ! 能力が効かないにもほどがっ───ああもう!」
だったらとっておき。
月壊力を溜めて、溜めて、さらに溜めて……!
そこに他の月操力を折り込んで……月醒力+月聖力+月壊力+月切力!!
彰 「後悔するなら今が旬! 吹き飛べェエエッ……!
アルファレイドカタストロファァアーーーーーッ!!」
突き出した両手から放たれるのは破壊の力。
合成月操力っていう、誰にも見せたことのない能力だ。
轟音を巻き起こしてゴリファンゴさんを飲み込む破壊の奔流が景色の果てへと飛翔。
その轟音が消える頃には、目の前には……ゴリファンゴさんが居た。
彰 「……やべ。ファンタジー甘く見てた」
え? 死ぬ? 死ぬのか俺。
加減無しでぶっぱなした所為で、俺の体が疲労でマッハだ。こりゃ動けん。
くそっ、こんなことならもっと謙虚に生きていればよかった。
褒められても自慢したりしない格の違うナイトのように謙虚に。
最初で最後のファンタジー、俺のFFは早くも終了ですね。今まで知りもしなかったこんな裏世界でひっそり幕を閉じるのか。
って、最後のファンタジー繋がりで謙虚なナイトを思い出してる場合か!
死にたくない! こんなところで死ねるか!
お、俺は、死ぬ時は絶対に親友の腕の中で死ぬって決めてるんだ!
ああでもゴリファンゴさんがその逞しい腕を、すごく……大きく振りかぶって……!
彰 (ああ……死ぬ……死ぬな、こりゃ……。
俺、最後までこんなしょーもないこと考えながら死ぬのか……)
俺は物語りの主人公になれない宿命でも背負っていたのだろうか。
こんなにも早速生死に直面するなんて、あもりにも切なすぐるでしょう?
……だからブロントさんネタはいいってば、俺の脳。
それにしてもつまらない人生だったなぁ。
友達も理解者も居ないで生きたこの十数年……昔のネット言語ばっかり学んで、他の人とは違う個性を得たくてドタバタして、けど逆にそれが溝を深めていっつもハヴられて……最後まで一人寂しくか。
中途半端だったなぁ……俺の人生。
彰 (………………やっぱ諦めきれねぇって! だ、誰かぁ! 誰か助けてぇええ!
死ぬ! 本気で死ぬ! ほ、ほら! ここでカカッと登場すると格好いいですよ!?
それはもうその武器の素晴らしさとジョブの素晴らしさに心打たれちゃいますよ?
憧れちゃうよ!? もう俺全力でついていくッス!)
はいここまでの思考、実に0.2秒!
俺へと迫るゴリファンゴさんのたくましマッスルな腕。その先の拳が、俺を潰そうとしていた。
どうするか? そんなもの、避けるに決まっている!
彰 「ふ、ひぇぁあっ!!」
情けない声を出しながらも横に転がり、なんとかソレを避け……た途端、俺が居た位置の地面にクレーター。……猫の強さを改めて知った。
けどいい、死にたくないならどれだけ無様だろうが生き残ることが正解だ。
本当に目的達成したいヤツが、いちいち他のことなんて気にするもんか。だから、命以外のことは今は頭から除外する。
彰 「月操力のチャージは……いや無理、好物の一つでも食べないとやってられねぇや」
ラーメン食いたい。安いラーメンが。銀色硬貨一枚で買えるやつとか、いいね。
味より安さが俺の好物だ、味だけで命が保てるかっての!
彰 「声を大にして言おう! 5円チョコは貴重なエネルギー源!!」
それだけ!
そう、俺の好物は5円チョコ!
今もこうして懐に手を突っ込めば───………………ねーよ。
ですよねー! そんな都合のいいこと、起こるわけがねぇ!
でもこんなことを思っていると助っ人が! って思っていると絶対にこないフラグ立ちます。そしてフラグがどーのと言ってるとやってきて、でもそんなことを考えてると来なくてアァアアアアアア!!!
彰 「やっべ……! 今ので体力使い果たした……!」
腰が抜けたみたいに体が動かない。
だが無様でもいい、這ってでも逃げる! 生きるということは、せめて命ばかりはと思うことは、他の全てをかなぐり捨ててでも命だけは残すということ! 妙な格好よさなんぞ求めるな! 生にしがみつくってのは、周りの評価なんぞよりもただ己が生きることを真実として手に納めること!
……けど、そんな俺の足が無情にもゴリファンゴさんの手に掴まれる。
俺は大した抵抗も出来ないままに宙吊り状態にされて、大きく口を開けるゴリファンゴさんの姿を見ていた。
……え? 食われる? マジでこのまま生でバリボリ?
ああでもこれも生きるってことか。俺らがドーブツ殺してメシにするのと変わらない。
考えてみたら、魚の活け作りも相当残酷だよな。
自分がやられたらと思うと笑えねぇ。なまものは嫌いだ。でも調理すればほぼなんだって食う。生きるってのはそーゆーことだって知っている。今さら可哀相だなんて思わない。だから、“覚悟”ってものを決めるなら、こんな状態の自分を可哀相だなんて思うのはお門違いもいいところだ。
……でも。ああ、やっぱ、でもだよなぁ。
彰 「なぁ。霊長類のがどーとか言うけど、もし発見されてない霊長類が居たとして、
食物連鎖が狂ったら、俺達は文句もなく食われるべきだと思うか?」
最後にそんな質問を投げ掛けてみた。
答えは否だ。黙って食われるやつなんざ居ない。
ただ、勝てないから食われるだけだ。駆除されるだけだ。
だから、勝てる要素があるなら食物連鎖ってのを狂わせてくれたって構わない。
世の中が食人熊ばっかりだったらどうなってたのかなーなんてことを思いながら、俺はやがてゴリファンゴさんの口の中に……放り込まれる前に、そのニヤニヤした両目に自分の両手を突っ込んだ。手加減無しに、潰した。
響く絶叫。
痛みに引き攣った体が、俺の足を掴む手に渾身を込めさせ、俺の足を粉砕する。
足が千切れ、地面に落ちた。
彰 「足が無くたって……生きていけるさ……!
生きたいなら……他の全てを犠牲に、しようが……!!」
目を庇うために手が開かれ、ぺしゃんこになった足がぐちゃりと落ちる。
それを引っ掴むと、やはり這ってでも逃げ出す。
彰 (っ……死なねぇ……! 絶対に、死なねぇ……!
やらなきゃならねぇことがあるんだ……!
木を、守る……! あのクソ親父の好きになんか、誰が……!!)
心が問いかける。
そんなもんが生きる理由かと。
ああそーだ。悪いか。価値観の問題に他人なんざ関係ねえ。
だから必ず生きて、戻らなきゃいけない。
潰されようが生きてさえいれば治せる。治して、また両足で立って、このくそったれな人生を寿命まで生き続ける。面倒なことしかなくてもいい、世界が本当にくだらなく見えたらそこで諦めればそれでいい。
自分が頑張れる部分まで頑張って、あとのことは世界に残る誰かに任せてさっさと死ぬ。
そんなんでいい。そんな人生でいいから、今だけは生かさせてほしい。
目は潰した。
逃げられる可能性は作ったが、ここにきて俺はとんでもない失態を起こしていたことに気がつく。
ゴリラとイノシシが合体したようなカタチの二足歩行のそいつは、鼻をフゴフゴ鳴らして俺を探し始めたのだ。……いや、正しくは血の匂いを辿り始めた。
彰 「っ……」
背筋に冷たいものが走った。
目が潰れたソレはまっすぐに俺の方へ向かってくる。
だから、敢えて足を圧迫して血を吹き出させた俺は、その場に血溜まりを作って気力を振り絞る。ぐしゃぐしゃになった足を歯で噛み締め、無理矢理逆立ちをし、その状態で歩き始めた。しかし当然音を拾われ、無駄な努力は無駄なままに“当然”を受け容れる。
胴を掴まれ、圧迫され、嫌な音がして、血を吐いて。
昔、トカゲを捕まえた時のことを思い出した。
尻尾を掴んで捕まえて、けど尻尾が千切れてトカゲが落ちそうになって、咄嗟に掴んだら体が少し潰れてしまい、嫌な液体を吐いていたトカゲ。
気持ち悪くなって離したら、よろよろと逃げて行って…………その日のうち、散々遊んで帰った道の途中、力尽きていたトカゲを見た。同じトカゲである証拠もないのに、そんなことを理由に自分を咎めなかった自分に、今さらながらに吐き気がした。
……ああ、なんだ。今の俺、まるっきりあの時のトカゲじゃないか。
足千切られて、逃げようとして、掴まれて、潰されて。
そして……たとえ逃げても、回復できないままに死んでしまうのだ。
……最後に、嫌な音を聞いて、頭が落ちた。
地面に落ちた俺の視界は、ぐしゃぐしゃになった体を、ただ眺めていた。
───……。
……。
???「……そうか。それは悪いことをしたな。そして実に面倒だ」
目を開けた先に居たのは、黒の外套に身を包んだ黒い長髪の男だった。
そいつはぐしゃぐしゃになった俺の体に妙な薬をぶっかけて治し、頭が落ちたゴリファンゴさんを横目に溜め息を吐いた。実に、面倒臭そうに。
彰 「頭斬られた拍子に体解放してくれたのはいーけどさ。見た時は凍りついたね。
ぐしゃぐしゃな自分の体なんて見るもんじゃない」
落ちたのはゴリファンゴさんの頭。
落とさせたのは目の前の男。
名前はフォード=ゼルブライト。なんでもポリットイーターとかいう、なんでも屋をやっているらしい人だった。
彰 「あのー、ボリス=ジンネマンって呼んでいいスカ? スゲー似てるんで」
フォード「面倒だ、好きにしろ」
……口癖が“面倒だ”のようだ。
実にかったるそうに喋る。
でも実際似てるから困る。そしてこんな容姿でも、年齢は百を越えるらしい。
ボリス「それで? こんな場所で一人でなにをしていた。
面倒だが聞いてやる。暇なんでな」
彰 「面倒なのに暇なんスカ」
ボリス「当然だ。貴様は暇をしているときになにかをしてくれと頼まれて、
面倒だとは思わないか?」
彰 「あ、なんかすっげー納得できたっす」
ボリス「それでいい」
口元が隠れるくらいの無意味に大きな装飾外套の奥で頷く彼は、なんつーかこれで結構おちゃめっぽかった。お茶目の意味なんて詳しく覚えてねーけどさ。
そんな彼にこれまでのことを話してみると。
ボリス「…………忘却の猫。ほう」
俺の話なんかよりも、猫のことに目を光らせた。
あ……やべ。助けてもらったからって、なんでも話すぎた。
ボリス「ところで貴様。まだ助けた対価をもらっていなかったな。払え」
彰 「へ? 対価って……金なんてねーすけど」
ボリス「己の命と引き換えてもいいものをよこせと言っている。
俺が俺から要求を選ぶことはない。俺は対価のみで仕事をする。
お前の命はなにと同列だ」
彰 「………」
今さっき死ぬ思いをしたばっかだ。命の重さってのは十分に刻まれた。
今まで命は大事だって思ってきても、本当に死ぬ思いをしたことなんてなかった。
そうなれば、命の重さは怖いくらい解る。
その命と同列のものを差し出せという。
理屈は解るが、これは困る。困るが……ああ、そっか。
彰 「差し出したとして、大切にしてくれるか?」
ボリス「その意見は俺には関係がないな。貴様の価値観と俺の価値観はそもそも別物だ」
彰 「……そりゃそーだ」
それも、さっき思ったばかりだった。
彰 「死ぬかもしれないって瞬間にも大事にしたいって思えるものがあるンスヶド。
俺はそれを、あんたに預けたい」
ボリス「…………。いいだろう、それを対価として受け取る。
それは今手元にあるものか?」
彰 「あ、や。見ての通り、俺はこの世界の人間じゃないッス。
俺が大切にしているものは、地界にあるもので……」
ボリス「そうか。空界を知る地界人を見るのも久しいが……実に面倒なことだな。
今、空界は次元の歪みに包まれた状態にある。
大方貴様もその影響で迷い込んだのだろうが、簡単には戻れんぞ」
彰 「…………マジですか?」
ボリス「面倒なことにな」
そりゃ、猫がいろいろやってだめだったことは知ってたけど、まさかそれが、この世界に住む人までもが認めていたことだったとは……!
え? それって実力者でもどうにも出来ない状態にあるとか、そんなところまできてる事態なのか? 俺やミアの所為で?
彰 「なんとかする方法は……」
ボリス「現在の至高魔導術師では話にならんな。
次元管理のことならば現王リヴァイアかその親、
そして魔女あたりが詳しいだろうが……」
彰 「魔女っすか」
ねるねるねるねのばーさましか思い浮かばん。
ボリス「俺としてもポリッ───この世界が消えるのは面倒だ。
今はまだ平気だが、なにせ空間世界だ。歪みにはとことん弱いだろう」
彰 「そのおーさまとかは、もう行動に出てるンスかね」
ボリス「知らないな。なにせ面倒だから、極力やつらとは関係をもたない。
なんでも屋を便利屋としてしか見ない類の連中は嫌いだ」
彰 「なにが違うんすか」
ボリス「なんでも屋はなんでもするが、便利屋ではない。
対価は惜しむからこそ対価になる。
たとえば貴様だが、命は惜しいと散々思った上で俺にソレを預けるといったな。
対価とはそういうものであるべきだ。
必要になったからと、ぽんぽん頼める程度の対価など俺は認めない」
彰 「……あ。なんか解るかも」
なんでも屋だけど、金さえよこせばなんでもやるってわけじゃないんだ。
対価にはそれなりの重みがあるから、それを尊重することで面倒を押し退けてでも行動出来る。この人がやっているのは、たぶんそういうことなんだろう。
ボリス「権利のある者の願いや対価などろくなものじゃないな。面倒くさい。
思いも篭らぬ、これだったらくれてやると投げられたものに興味はない。
だから俺はやつらには───《ジジッ》───チッ、なんだ」
彰 「へ?」
ボリっさんが耳に手を当て、目を伏せながら言う。
と、どこからともなく声が聞こえた。
ボリス「ゼロか。なんの用だ」
声 『依頼が入ったぞ。
どこかに飛ばされた銀髪紅眼のガキと丘の魔女を探してほしいと』
ボリス「………」
彰 「ウィ?」
自分を指差して首を傾げる。
や、そりゃ限界まで能力使ったからいろいろと色が変わってるけどさ。
つーか依頼主誰? …………って、一匹しかいないか。
ほんとに家系のいろいろなこと、知ってんだなぁ。
ボリス「依頼主は?」
声 『聞いて驚け。忘却の猫だ。既に対価は払われたよ』
ボリス「……なんだ」
声 『払われはしたが、突き返したがな。一枚の写真だ。が、思いが篭りすぎていた。
よほどに大事な存在なんだろうさ。見つけてやってくれ』
ボリス「………」
……猫……てめぇってやつは……。
ボリス「その依頼は既に一部が完了している。死にかけだったが、助けて正解だな」
声 『そうか。ならば引き続き他の一名の捜索を頼む』
ボリス「ああ。次元の具合はどうだ」
声 『口癖を借りるなら“面倒”の一言だ。良好ではないな』
ボリス「麗しの姉の力は借りられそうか」
声 『貸してほしいならお前が言え。俺は知らない』
ボリス「……チッ、シスコンならもう少し素直になれ。シスコンの名が泣くぞ」
声 『泣いてもらって結構だ』
……よく解らないが、あと一名って……カイのことはどーすんだ?
丘の魔女ってのはミア助のことだよな?
もしかしてカイはもう回収済みとか?
ボリス「聞こえていたな? まあ、そういうことだ。
丘の魔女とどういう関係かは知らないが、仕事は仕事だ。
回収したら、一度ねぐらに戻る。貴様はそれまで食事係りでもしていろ」
彰 「や、料理は得意だからいいっすけど。
会ったばかりのやつに食事作るの任せるなんて、普段なに食ってんすか」
ボリス「知りたいかそうかそうだなそうだろうそうだともそうでなければうそだ。
見るがいい」
言葉を挟む隙も見せずに口早に、しかし大事そうにソロリと荷物袋のようなものからなにかが出された。それは……それは、俺が世界でもっとも愛している食べ物だった。
彰 「───《ピキィーン♪》」
ボリス「───《ゴシャーン♪》」
瞬間、俺達は眼を輝かせた。
それだけで、自分たちがどれだけソレを愛しているのかを、互いが理解した。
俺達は静かに右手を伸ばし、世界は違えど同じカタチをしたそれを片手ずつで手にし、持ち上げた。
彰 「地界ではレタスって呼ぶッス」
ボリス「空界ではポリットという。それを食らう者。ゆえにポリットイーター」
彰 「ポリット……ポリットか! ポリット格好いいですね!」
ボリス「それほどでもない」
こうして俺は、ボリっさんとミア助を探す旅に出ることになった。
料理係りを任された。そのヘンは大丈夫だ。
なにせ月然力でレタスを栽培すればいい。
あとは……ミア助が無事であることを祈ろう。
せめて、俺みたいにひどいことになっていないように。
カイは……きっと大丈夫だ。なにせ猫が探索リストに入れなかったのだから無事なのだろう。
彰 「そういえばどうやってゴリファンゴさんを倒したんすか?」
ボリス「……面倒だ」
そう思うことにして、さっさと歩き始めてしまうボリっさんのあとを追った。
【ケース14:提督猫/聖域巡りの猫】
ゴゾォオオ……!!
提督猫『URYYYYY……!!』
と、彰利みたいなことやってないで、と。
提督猫『いやー、ブラックヘイルのてっぺんに、
伝説の剣チックに突き刺さってるキミを見た時は笑った笑った』
カイ 『こっちは死ぬ思いでしたよ……』
ブラックヘイルの頂上から移動して、一応ゼットが居やしねーかと捜してみるも、さっぱり。現在はシャモンに乗って、世界を駆け巡ってるところです。……駆けるっていうのかね。まあいいや、空を駆ける〜とか言うし。
提督猫『そうだよなー、次元に異常が出来てるんだから、転移して無事で済むはずないし。
途中でポリットイーターのねぐらを発見出来てよかった。
助手くんは……さすがに寿命で死んでたみたいだけど』
カイ 『知り合いだったんですか?』
提督猫『まあね。数少ない空界暮らしの地界人ってことで、仲良くはあった。
空界人惨殺事件の時も殺すリストに入ってなかったのか、無事だったんだけど』
じゃあこの世界に必要な男だったってことだよな。
なにかを残せたんだろうか。それだけが気になった。
カイ 『それで、今は何処に向かっているので?』
提督猫『片っ端から聖域回って各聖域のマナを掻き集めるんさ。
多分キミに足りないのは素材とかじゃなくて、マナだろうから。
集めればきっと以前のステキウェポンに戻れるに違いねー。
それ考えるとロジアーテ鍾乳洞の聖域に貴様を連れて行かなかったのは、
なんつーかそのー、大変な失敗で失態であった』
カイ 『マナで斬れ味が増すんでしょうか』
提督猫『ある意味でキミ、精霊武具だったしね。あ、それは今もか。
それに意思体の精霊を治すためにもマナは必要だし、大丈夫だ、問題ない』
竜王はブチノメしたし、プレートのランクも結構上がってる。
説明によると城入りはまだ無理っぽいからもうちょい必要だけど、まあそれはおいおいね。なんだったら精霊ブチノメすのもいいし。
それは、出来ればやりたくないけどね……ただ、人に空界人殺させておいて、自分たちは忘れてるってのはちとカチンと来た。
……いいんだけどね。今さら、時効だ。
ただ俺の手に、人を殺した結果と感触を残しただけ。
ただそれだけの…………どうしようもない、昔に受け容れた過去のこと。
起こることには抗って、起こったことは受け容れる。
ずっとそうやって生きてきたんだ。今さら、自分の過去を変える気なんてさらさらない。
提督猫『……受け容れたからこそ、悲しいって思いもあるんだけどね』
カイ 「?」
提督猫『ああいや、なんでもないよ』
ずっと昔、人にしてみれば昔って時代に、俺は人を殺した。
四千年を生きても忘れられない、肉と筋と骨、そして命を断つ感覚。
強くなりたいと思ったことがあって、男なんだから最強を目指したいって思ったことがあって、力を手に入れた先の雨の下で泣いた。
架空の蒼空の下で仲間との未来を願いながら必死こいて、全てが手のひらから零れ落ちて、やっぱり雨の下で泣いて。
結局俺はなにを手に出来たのだろう。
世界を救ったことがあるなんて言ってみても、厳密に言えばそれは俺じゃない。
誰か一人が欠けても力が足りず、思いが足りなかったのだ。
でも…………どうしてそんな未来の先で、俺だけがこんなにも……。
提督猫『なぁ、カイ』
カイ 『はい?』
提督猫『俺はずっと、嘘吐きでいるからさ。
いつか未来の先で俺を忘れても、嘘吐きの猫を見つけたら笑ってやってくれな』
カイ 『……? あ、は、はぁ……』
孤独の意味を知っている。
やさしくもない冷たい雨に打たれ続けて、そんな冷たさに命が削られる感触を知っている。やまない雨は、そりゃあないけど───物理的な話じゃないんだよな。だって……見上げれば、瞼の裏にまだ赤い雨が降っている。
俺はこれからも忘れられていくんだろう。
こうして会えた転生した仲間にも、その先で会う誰かにも。
それでも死なずに生きて、人の暖かさに触れながら、忘れられる冷たさを味わっていく。
そんな生き方でいいのか、なんて……今さら心が問いかけるけど、もう決まってた。
あの時、仲間が笑っていられるならって決めた覚悟が、今も胸にある。
だから、会う人会う人をからかって生きよう。
何度みんなに出会われても、俺だけが再会して、俺だけが笑っていよう。
ルドラが発動させた呪いは消えた。
けど、みんなには、自分の中に残っている呪いを砕くほどの意識も力もない。
俺のことなんて覚えてないし、もう思い出す必要もないくらい、今の暮らしに馴染んだだろう。今さらだ。
提督猫『………』
俺の武具に宿る力が、今でも周りから俺の記憶を消す。
消された記憶が何処に行くかは解らない。
それでも俺は人との接触をやめないんだろう。
自分の馬鹿で誰かが楽しいを知ってくれる瞬間が好きだ。
殴られた程度でめげません。
だから、誰かを笑わせて、自分も笑っていよう。
笑っていないと…………もう、地面しか見ていられなくなりそうだから。
人間をくれてやってまで得た未来だもんな……そうじゃなきゃ報われない。
意地でも未来へって願って、こうして未来に辿りつけたんだから……笑わなきゃ。
提督猫『…………覚悟………………』
ばーさんに教えてもらった魔法の言葉を呟いて、小さく胸を小突いた。
完了って言えなかったことが悲しくて、小さく涙した。
俺は……立派な人間ではなかったし、もう人間でもないけど……それでも生きていくよ、ばーさん。覚悟を決めた子は泣いちゃいけないって言ってたもんな。忘れられたって生きていく。傷ついたって生きていく。だから……いつか最果てに辿り着いて、全てをやり遂げたって思ったら…………その時は──────
提督猫『…………よっしゃー! 渓谷が見えてきたぜ〜〜〜っ!
まずは風の聖域のマナを頂戴いたす!
……つーかすげぇ風! 居るよ絶対! 精霊絶対居る!』
カイ 『なら後回しに───』
提督猫『殺してでも奪い取る!!』
カイ 『えぇええーーーーーーっ!!?』
───その時は。どうか、泣くことを許してください。
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