───レスターではないレタス─── 【ケース15:弦月彰/旅行けば】 ガガガォン! ガォンガォンガォオオンッ!! 彰 「………」 はい先生、いきなりですが俺の技なんて児戯であったことを認めます。 なにこの人。 銃だけでどんどんモンスターコロがしていってるよ。 創造銃ゼログロードっていったっけ。便利なもんだ。 ボリス「眠たくて面倒だな……」 あ、関係ないけど新発見があった。 この人、レタス───ポリット食うと口癖が増える。 “眠たい”ばっかり言うようになるんだよ。 まあねっ! レタスには安眠作用もあるから解るけどねっ! 違いの解る男よ? 俺。 彰 (……? 誰が言ってたんだっけ、今の言葉) まあいいや。 今は少しでも強くなること考えねーと。 自分が今までどれだけ浮かれてたか、さっきのでよく解った。 所詮平和な地界産まれだ。危機意識だって全然足りないし、なにより実力が足りなすぎる。退魔の真似事で霊を払ったりなんかはしたこともあったけど、そんなものとはやっぱり次元が違った。 それを考えれば、サハギン相手に立ち回れたのは曲がりなりにもカイを握っていたからなのかもしれないと思い始めている この世界でやっていくなら、この世界の武器が必要だ。 彰 (つーか。俺だって創造があれば、まだいろいろと……) あの銃反則だ。 イメージしたものを弾丸として放てる。 敵を消去したいって願えばイレイザーカノンとか撃てるし、爆発させたいって思えば拡散炸裂弾とか撃てるし。賢者の石が嵌め込まれたオリハルコン製の銃で、大昔の遺産だそうなんだけど……どういう原理なんだか。つーかオリハルコンとか賢者の石とか、もう伝説級すぎてどう信じたもんか。 ……でもま、創造があればーとか、あれがあればーって考えは捨てような。 あったとして、使いこなせたかは別だ。てか、使いこなせなかったから死にかけたんだ。 ご先祖さまの月操力は、こんなもんじゃあなかったって言われている。 もっと頑張んねぇとなぁ……ほんと。 彰 「ボリっさーん、俺に力の使い方とか教えてくれねっすかー?」 ボリス「眠いし面倒だ」 彰 「わおっ」 あっさりとしていらっしゃった。それでいてなんというコク。関係ねーけど。 彰 「んー……」 もっと勉強しなきゃだよな。 つーかクエストこなしたら経験値が貰えるとか、そういうシステムだったらよかったのになぁ。ゲームみたいに戦うだけで経験値貰えたら最高だったのに。 戦い方を見て盗むにしたって、ボリっさん銃だし。 彰 「サンローヤルステッキンフォート!」 なので十指を突き出して謎のパワーを解放! すると指の先からドロリと粘着性のある汁が……! 彰 「………」 出るわけない出るわけない。 ポリット一枚分けてもらって食ったから、月操力という名のタクティカルポイントは回復しているものの、考えも無しに力を解放したところで無駄に終わるだけとくる。 見ていろこの世界に住まうGOD的存在め。俺は絶対に食事係りだけでは終わらんぞ。 まずはこの世界に適応することから始めなければッツ! ───……それから……俺の凄絶な修行(自主的)が始まったのでした。 暴れるモンスターあればとことんブチノメされ! 輝くお宝あれば送り届けてクエスト終了! 大胆有敵! 電光石火供えガイ! 世界は世界のためにある! 彰 「ごーらんよーあおーぞらーがーわーらあてーいるー」 蒼空『ガハハハハ……力が欲しいか……!?』 彰 「ほんとに笑ったァアーーーーーーッ!!?」 なんか最近幻覚が見える。大丈夫か、俺。 彰 「大丈夫だ、問題ない」 いや、ボリっさんの一日の仕事量ハンパじゃないよ。なにこの人。 一緒に動き回るだけでクエスト成功報酬とかささやかだけど貰えちゃってるよ。 今日の報酬はナックルだった。拳装備だ。昨日の装備はサブリガだった。脚装備だ。脚っつーか腰っつーか……はぁ。 ミア助がまだ見つからないんだけど、ほんと大丈夫だろうか。 いろいろあったものの、結局は俺が地界に帰るのを手伝うために、出たくもない外に出たわけだし、こう……重く圧し掛かる罪悪感が。 ボリス「新情報だ。以前、魔女のババアが一人の幼女を連れ去るのを見た者が居た」 と、ぼーっと考えていると、情報屋から話を聞き終えたボリっさんが戻ってくる。 世界の規模に比べて、随分と街の数は少ないこの世界で、情報屋の存在は貴重だ。 といってもよほどの暇人ではない限りはそういった情報には耳も向けず、聞くことがあるとすれば魔物が襲ってきたーとかそういう情報くらい。 俺達が今立っているここはレファルド皇国近くの小さな街。 随分と歩いたもんだが、周りにモンスターが少ないのが特徴らしく、なんでもモンスターが苦手とする空気がこの場にあるんだとかないんだとか。 彰 「魔女って……」 ボリス「ヤムベリング=ホトマシー。空界の歴史における、ある意味黒歴史的存在だ。 魔術なんてものを確立し、その力を以って他の世界にも干渉。 様々な生物の人生を台無しにしてきた、いわゆる本物の魔女だな」 彰 「魔の女ってわけっすね」 なるほど魔女だ。 で、ミア助がそいつにさらわれたってことは…… 彰 「あの。もしかして会いに行かなくちゃならんのですか。その魔女に」 ボリス「……そうなるな。やれやれ、放棄していいか? このクエスト」 彰 「や、俺も放棄したいっすけど。いいんすか? 成功率9割を保持するポリットイーターの名に傷がついちゃいますけど」 ボリス「名の傷で命が救えるか」 彰 「まったくっすね」 そんなわけでミア助は見捨てることが決定した。 俺達の戦いは、始まったばかりだ───! 彰 「って、さすがに命を見捨てるのはまずいのでは!?」 ボリス「大丈夫だ。命は見捨てない。なにせ魔女は生かしていじくるのが大好きだ」 彰 「ああなら安心っすね」 そんなわけでミア助は見捨てることが決定した。 俺達の戦いは、始まったばかりだ───! 彰 「って結局それって人体実験を永遠にされるのと同じじゃないっすか! 生きてねっすよそんなの! 生殺しっす!」 ボリス「なるほど。では潔くトドメを刺すように頼んでおこう」 彰 「うわーーーーいやっさしィイイーーーーーーっ!!」 話が跳びすぎた。 ええとつまりは、なんとかしてミア助を救出しなければならないってことで……。 彰 「……どーしよ。一応あいつ、恩人だしなぁ。 元を正せばあいつの所為でもあるけど。いや待て? そもそもあいつが居ないと俺、地界に戻れないだろ」 ギャア、これは大変だ。 いきなりレベル高けーなオイ……もうこれ上位どころかG級だろ。怒り狂ったG級黒ディアブロス二頭討伐並に狂ったクエストだろ。 いい武具も満足にない村クエ装備でG級に挑むほど馬鹿な状況だろオイィイイ!! 彰 「母がきさくなので実家に帰ります」 ボリス「賑やかそうでなによりだ」 結局向かうことが決定した。 ほら、あれだ。娘かなんかの紹介状があればなんとかなるだろーとか、そんなことで。 だからまずはイセリアって人を探すことになったわけだが─── ボリス「なに? 仕事をほったらかして何をしている」 声 『次元管理なんて知ったことじゃないわーと言って、部屋に引きこもったが』 彰 「……イセリアって人、ゼロさんのおふくろさんだったんすか……」 しかも一緒に仕事してるとか。 ……ゼロさんはどうやらマザコンでシスコンらしい。幸せそうでなによりだ。 ボリス「つくづく魔女のことになると係わり合いを拒絶するヤツだ……。もういい。 こうなるとほかのツテが必要だが……」 彰 「ツテ無しだとどうなるんすか?」 ボリス「実験台にされるだけだ。 あいつは自分との繋がりのない者は、心底どうでもいいってやつだからな」 彰 「ウハーイ……」 とんでもねぇやつだった。 ボリス「リヴァイアに紹介状を書かせるか? いや、やつもババアのことは好かん。 母同様に係わり合いになどなりたくないだろう。となれば───」 声 『断っておくが俺も書かんぞ』 即当だった。 ここまで血縁関係に嫌われるのも珍しい……のか? や、俺も相当だったか。 ボリス「ヤツの関係者で実力者となるといろいろと難しい話だが……待て。 死神王はどうなった。シェイドでもいい、ガランシアでもいい」 声 『シェイドは随分と見ていないな。 アバランツァ=ガランシアは百以上前の年にロストしている』 ボリス「チッ……ならばどうする。依頼である限りは遂行が信条だが、 あいつとなんのバックも無しに接触するのは吐き気がするほど嫌なんだが」 彰 「そんなにとんでもねーんすか」 ボリス「娘をそこいらの飲み捨ての酒瓶の中で作った女だ」 彰 「母胎ですらないんすか!?」 声 『娘に媚薬めいたものを飲ませ、 あちらこちらの世界の異なる男との間に孫を作らせた存在でもある』 彰 「あ、や……なんかもういいっす……外道って言葉がよく似合うことが解りました」 ひでぇ存在もいたもんだ……。 俺、普通に産まれてよかった。 ボリス「こうなると、然の精霊かオリジン、 スピリットオブノートあたりとコンタクトがとりたいところだが……」 彰 「然の精霊? それってドリアードとかでしたっけ?」 ボリス「そういうことだ。随分前にアルセイドという然の精霊を捕らえ、 研究したという咎が魔女にはある。 それを利用させてもらえば、とりあえずは話にはなるはずだ」 彰 「精霊まで研究対象スカ」 ほんととんでもねぇヤツが居たもんだ……。 彰 「じゃあドリアードの協力が得られればいいってわけっすね?」 ボリス「簡単に言ってくれるな。ドリアードはある日を境に人を信用しなくなって久しい。 今やこの世界を満たす自然の力全てが彼女の力と言ってもいい。 強行しようにも無残に負けるのが目に見えている。力を示す以前の問題だ」 彰 「や、けどたぶん一発っすよ? えと、さっき話した猫なんすけど、そいつと仲いいみたいで。 そいつ抱き締めてわんわん泣いてましたし。 猫と合流出来れば一発っす。一緒に居る筈ですし」 ボリス「……それを早く言え。聞こえたなゼロ、俺はこれから忘却の猫の回収に向かう。 次元探知……は出来ないな。おい彰、猫が何処に居るか、見当がつくか」 彰 「あ……なんか精霊の聖域に入ってマナを頂戴するとか言ってたっすね。 だから多分、今は聖域巡りでもしてるんじゃないかと」 ボリス「───」 あ。びしりって感じに固まった。 ボリス「自然に溢れたこの世界からマナを奪うだと!? そんなことをすれば益々“然のマナ”のみが溢れ、 自然こそが世界を圧迫するぞ! それが解らんわけでもないだろう!」 彰 「や、俺に言われても」 ボリス「ちぃっ……おいゼロ! クエスト用の転移システムを開け! アイテムを転移出来るなら人だって飛ばせるだろう!」 声 『モノと違って複雑だからな。上手くいくかは五分にも満たんぞ』 ボリス「そうか。ならばやめよう」 彰 「諦め早いっすね!」 ボリス「考えてみれば俺が慌てる理由がなかった」 彰 「………」 立っている立場を変えて、俺も考えてみた。 ………………なるほど! 誰だって自分が一番可愛いのさ! あんただってそうだろ!? でもほっときゃ空界が自然に飲み込まれるらしいから、ちょっとシャレになってない。 ボリス「ようは忘却の猫を押さえられればいい。 マナを集めて回っているのなら、 どこぞの聖域ででも待っていれば向こうからやってくる」 彰 「押さえられますかね……。 相手、キングベヒーモスさえ一方的に黙らせられるバケモノ猫っすよ?」 ボリス「説得なりしてみればいい。ダメなら男らしく諦める。 大丈夫だ、手土産にぬかりはない」 彰 「いや…………誇らしげにポリット担いでいるところに悪いっすけど、 絶対に、大事なので二回言いますけど、絶対にそれじゃ頷きません」 ボリス「大丈夫だ。地界から流れ込んだこの猫缶もつけよう。 よく解らん文字でなにかおどろおどろしく書いてあるが、大丈夫だろう。 なにせ絵が猫なんだ、なんとかなる」 彰 「賞味期限百数十年前の猫缶出されても激怒されるだけだと思うなぁ」 つーか、それだけ前の表示なのに絵とかが無事なんて、どれだけ保存状況がいいんすか。 しかしまあなんだ、厄介な話になってきた。 これってこのままいくと、下手すりゃ猫と戦うことになるかもしれないってことか? ……冗談だろ。 勝てないとかそんなことはどうでもいい。俺は、そもそもあいつとは戦えない。 戦うなんてことすら頭どころか体が拒絶している。 生涯をかけたところで返せない感謝と謝罪が、魂のレベルで俺の中に存在している。 カタチさえも解らないのに、それは絶対にしてはいけないことだって魂が知っている。 ……訳が解らない。 俺はあいつとは出会ったばっかりで、そりゃあご先祖さまの友人だってことは知れた。 けどそれだけ。 あいつを庇う理由もなければ、利用して捨ててもいいくらいだって思っている。 普通じゃないだろ、だって。喋る猫にこんな世界。 死に掛けるようなことがあっても、まだそんな存在を信用しきっていられるほど冷静な人生を生きちゃいない。 “人間”から嫌われた存在だろうが、この世界で生きるよりはよっぽど平和だった。 死ぬ思いなんてしたこともなかったし、絡んでくる連中が居ようが身体能力だけでもなんとでもできた。 でも……それが通用しない世界を知って、俺が望んだことは……強くなることよりも“帰りたい”ってこと。帰って、また俺の力が通用するぬるま湯で、強者を気取って居たかった。 彰 「……賞味期限か」 人でもなんでも、誰もが負けることを恐れる。 十と数年生きてそれを知った俺は、けれど負けることよりも死ぬことを恐れた。 死んだら全てが終わる。その先のことなんて知りもしないのに、死んだら全てが終わるとここまで培った知識を以って、いつの間にか決定していた。 でも思う。 死んで終わりなら、生きていれば続けられるのか───と言ったらそうじゃない。それも知っているのだと。 ここで地界に戻ったとして、その先で俺はどんな生き方をするだろう。 漠然と生きて、ただ生きて、そのまま朽ちるイメージしか沸かない。 好きな人も居ない。相手に好かれる自信もない。孤独なままに俺の代で弧月日と弦月は終わって、結局誰からも気味悪がられながら死ぬのか。 彰 「……ボリっさん。俺、納豆好きなんすよ」 それこそ、賞味期限が切れたものみたいに腐るように死んでゆく。 そんな未来を想像してみて、俺はなにを思った? 彰 「あるゲームで納豆好きな吸血鬼が居るんすけど……そいつ、運命を操れるんすよね」 俺は運命って言葉がどうしてか昔っから嫌いだった。 決められた道をひたすらに進んで、その先で干からびる自分を想像するのが嫌だった。 だからか、昔っから何かに反発するような生き方を選んで走った。 心に浮かんだ夢をも逆を選んだ。当然周りからは嫌われたけど、どうしてか俺は笑っていた。満足出来ていたわけでもないのに、それはとてもとても楽しかった。 彰 「もしそんなヤツが実際に居るなら、俺の運命も操って貰えたら……俺、 もっともっと笑って走っていられたのかなーって思いました」 ゲームの世界に憧れた。 憧れたら、そんな自分を笑っていた。 ゲームは一本道で、結局俺は運命を生きる。 運命を操ってもらったところで、結局俺は曲げられた運命を生きる。 運命は破壊出来るものではなく、生きるために必要なものだと知った。 その時点で俺はいろいろ諦めていたんだ。 だって、抗いきれないものと戦うことほど怖いものはない。 彰 「今ならぼやけた過去に一言を届けられます。“そんな人生はくだらない”って」 でも。そう、いつだってどんな時だって纏わりつくのは“でも”と“きっと”。 それがあるから希望と絶望を知ることが出来ることも、俺の魂ってやつは知っていたようだった。 彰 「俺、賞味期限の切れた納豆でも食えますけど、それにだって限度がある。 まずいものを美味いって言うやさしさなんて持ちたくないし、 “でも”、それが楽しいに繋がるなら、そんなやさしさもどきも持ってみたい」 怖いなら逃げればいい。死にたくないならそもそも首を突っ込まなければいい。 そんなことはガキだった頃からとっくに知っていた。 彰 「賞味期限の切れたものも、美味しいって感じる限度がある。 でもそもそも、わざわざ切れるまで待つ必要もなくて─── 鮮度があるうちに食うのが一番なんですよね。 だから、まずは知ることから始めようと思います」 知っていたならあとは簡単だ。 賞味期限が切れる前に、“俺の運命”を食いつくす。 この世界で終わるとしても、それが俺の運命ならそこで完食だ。 彰 「まず最初に理解するべきことは……」 猫のことを思い出してみる。 自由奔放、自分勝手、干渉しないようなそぶりを見せるくせに、そのくせ人のことばっか気にしている妙な猫を。 知り合ってまだ一月も経たない存在だけど、強さだけは十分に。 だって、ポリットイーターに依頼を届けられたってことは、竜にも勝ったってこと。 ベヒーモスのことももちろんだ。 そんなことをいろいろと考えた上での結論を口に出して頭に刻む。 彰 「……平穏で先が簡単に予想出来る賞味期限より、 怖くても楽しいって思える賞味期限を生きたいです、俺。 つーわけで……猫、止めましょう」 目標は地界に帰ること。 けどそれだけじゃなくて、帰って、木を手にして、ボリっさんに預ける。それだけ。 そのあとのことなんざまだまだ知ったこっちゃあない、今を生きるので大変になりそうな俺ではありますが───いいよな、これで。 んじゃあ、今の自分と、自分が精一杯予想出来る範疇の自分を覚悟として刻もう。 息を吸って、目を閉じて、胸をノックして───…… 彰 「……ありゃ? なんでノックするんだっけか」 …………解らん。 ただ、覚悟を決めるときはなんでかそうしたほうがいいような……ハテ? 泣いた鬼が、もう笑った ……かすれるくらいのずっと昔に、泣いていた誰かが笑った。 そんな景色が、一瞬だけど見えた。 そいつがあんまりにも無理に笑って馬鹿をするものだから、ずっとずっと、それよりもずっと前に心を砕いたそいつを見ていた誰かは、そいつの生き方を真似てみようと思った。 彰 (痛……) 頭が痛んだ。……なのにどうしてか胸を押さえている自分が居る。 痛いのは魂だろうか。よく解らない。 ただ解ることは、そいつを見ていた誰かは、そいつの無理矢理な笑顔と生き方に随分と救われてきたということ。繰り返す時間が辛すぎて、いつしか感謝も忘れたそいつだけど……─── 彰 (前世かなんかかな……よく……解らん) なにせ家系のことだ。 家系には転生の法まであるくらいだし、誰かが俺になった際に失敗して、記憶の継承が上手くいかなかったってだけなのかもしれない。 ただ……覚悟を決めているところを見られた、その泣いた赤鬼の顔だけは、せめて鮮明であってほしかった。 彰 「………」 ノックはやめた。 そいつを思い出せない限り、やってはいけない気がして。 前世のことなんか正直知ったこっちゃないんだが……思い出せないのも癪だ。 だから努力からだ。知る努力。魂ってもんにも意思が宿ってるなら、以前のように脳を動かしてみろ。思い出せるものを思い出してみせろ。 この能力だって、気づいた時にはもう持っていた。つまり、前世が開花させたものだ。 彰 「……うだうだ考えるのはやめよっか」 今突っ走る数秒が、これから生きる平穏で退屈でただ生きているってだけの人生よりも楽しいなら……俺の賞味期限なんてそれだけで十分だ。 死ぬのは怖ぇえけど、まあほら、ホラーものばっか見てれば慣れるみたいに、いつか慣れるさ。 彰 「………」 慣れちゃいけないもの、だな。 つーかそんなことしたら、記憶の中のそいつに殴られるって……そんな予感がした。 ボリス「……で、いつまでお前は独り言を続ける気だ?」 彰 「いや、纏まったから大丈夫っす。俺もまだまだ若いですねぇ」 考えることが出来るだけまだマシだな、うん。 纏まった。ああ纏まったとも。 これからのつまらない生命よりも、無茶出来る場所の数分を大事にしよう。 帰ることはゲームで言えばエンディング部分だ。 木を渡してハッピーエンドな。 それまでは俺の中の冒険の書として、せいぜい死なないように気をつけよう。 彰 「バックパックにはレタス山盛り! これで月操力が尽きても即回復! そんなわけで俺旅に出ます! 我が人生を味わい尽くすために、癪だけど強くならなきゃならない! なので俺はこの未成熟な月操力を完全に使いこなし、 この世界のてっぺんとったるでぇーーーーい!!」 目標が出来ました! いや、べつにこの世界最強を本気で狙うんじゃなくて。 ただ、生きるために頑張るのです。なにをすれば努力になるのかと、とある誰かが言っていた。それはその通りだと思うし、正直俺もよく解らん。けどまあ、人生ってそんなもんなのだ。自分が叶えたいものに何処まで自分の意思で近づけるか……それが果たされた時が勝利なんだ……それでいい、それで……ジョルノ。 ボリス「死ぬからやめておけ」 彰 「……現実ってキビシっすよね」 真顔で言われたら止まらないわけにはいきませんでした。ちくしょう。 ボリス「しかし、目つきだけは妙に明るくなったな。 面倒に巻き込まれたと、 自分のことだというのに他人事のように迷惑がっていたのに」 彰 「えと。なんつーか。流されるままのくせに、 人の所為にするのだけ上手くなっていく自分が嫌いになりました。 てか、みんなきっとそうで、それを自覚するのが嫌でぬるま湯で泳いでるんです。 だけどそうっすよね。シレンやったことがあるなら誰でも知ってる。 賞味期限なんて、ぬるま湯につかった時点でくさるんです。 どうせ周囲や環境に握られて個性を固めていく人間であれるなら、 俺はもっと美味いおにぎりになりたい。だから、ぬるま湯はもういいんす」 ボリス「たとえがいちいち解らんが。まあ、そうか。前を向くのはいいことだ」 彰 「面倒ですけどね」 ボリス「そう口にしながらも前を向けるヤツが、とりあえずは一歩を歩ける。 歩けるなら次第に走れるようになる。 走ったら眠たくなり、ならば眠ればいい。俺はそうして生きている」 彰 「あ……」 そか。だからこの人、面倒と眠いを口にしてるのか。 ヘンな人だなって思ってたけど、なんだ。真性のヘンな人じゃないか。 彰 「それ、いっすね。なんか俺も、今までの自分を好きになれそっす」 反発してきたからこそ周りに人が居なくなった。 家系なんだとしても、隠しながらでも生きていく方法なんていくらでもあったろう。 でも今はそんな孤独に感謝しよう。お陰で、自分を思う存分に変えられる。 誰にも迷惑はかけないし、誰にも干渉させない。そんな変え方を実行できる。 彰 「よっしゃ! んじゃあまずはなにしよっかね! アタイなんでもやるYO!?」 ボリス「そうか。ならばまずはそこのアイテム転移装置に飛び込め」 彰 「男ならやってやれ! オォーーーリャーーーーーッ!!」 駆ける! そして飛び込む! 臆するものなぞなにするものぞ! だってこの転移装置?がどんなものかもよく知らん! ならばまず飛び込んでから考えてみましょうホトトギースハワード! そして飛び込んだ先でェエエ……!! ヒュゴォッ───ズシャアッ!! 彰 「オーネリー!!」 転移先の大地へと虚空から降り立った俺は、腕を空に突き上げて脚を広げて立って叫ぶ。 オーネリーの意味? や、なんかマヴカプとかの交代した時の言葉でありそうじゃん。 したら、その先に居た…………ゴ、ゴゴゴゴリファンゴさんが鼻を鳴らして……!! 彰 「ア……アア……アァアーーーーーーーーーーッ!!!!」 そして叫んだ。 真っ青になってからガタガタ震え、ホギャーオーと。 トラウマッ……トラウマっつーか恐怖が蟻の大群となって体を這い上がってくる……! ところで独歩がアライに殴られて蟻の大群に襲われたのって、マホメド=アライ……モハメド=アリと蟻をかけてるんだよね!? 絶対にそうだよね!? 気づいた時、俺笑っちゃったよ! 今の状況全然笑えねーけど! ゴリファンゴさん『ナゴォーーーーーーッ!!』 彰 「わ゙ーーーーーーーーお゙!!!!」 やっぱり絶叫! 俺の体はだらしなくも震え、尻餅をつき、逃げたくても動けない状況に……! 彰 (〜〜〜……くっそ動けっ! なにビビってんだよ! ここで動けなきゃ、また惨たらしいことになるだけ─── っつーかなんでこうゴリファンゴさんばっかなんだよこの世界!) 焦るな。 ただ冷静になれ。 怖いと思った時こそ呼吸を安定させるんだ。 漫画で得た知識だろうが何で得た知識だろうが、自分ひとりの知識で慌てるよりよっぽどいい! 彰 (───) ゆっくりと、静かに、耳にまで届く鼓動の音を数えた。 バクバク鳴っていようと、拍子を遅らせて。 早くなるな、正常に戻れ。 こんなところで自分の時計を早めるな。 静かに腐るおにぎりであれ。 彰 (冷たく静かに───冷静に。心に起伏を見せるな……平静に) 鼓動に合わせての呼吸を繰り返す。 無理矢理押さえた呼吸に肺が苦しがるが、それでも無視して一定を繰り返す。 今此処で順応しろ、俺の体。 今体を支配する恐怖に抗体を生んで、倒せなくても冷静に直視出来る自分であれ。 彰 「すぅううううううう……………………はぁあああああああああああ………………!」 息を吸い、そして吐く。 ゴリファンゴさんはもはや目前。 それでも、汗は流しても呼吸は乱さぬ己を……確立する。 途端、頭の中に妙な音と音楽が流れた。 ドシュシュッ! バオバオッ! ビッ! ブバッ! デゲデデゲデデゲデデ〜〜〜ン♪ 思わず気が抜ける音。 けれどお陰で無駄な力は入らず、振りかぶり、振り下ろされた拳を前に、俺は小さく体をずらし、踏み込んでいた。 意識がやけにおぼろげになる。 彰 「轟天弦月流───空気投げ!」 なのに何を唱えるべきか、どう動くべきかは体が知っていたようだった。 拳を振り下ろしたはずのゴリファンゴさんはその勢いのままに俺の後方へと吹き飛び、俺はそれを確認するよりも早くそうなることを知っていたのか、もう駆け出していた。 頭から地面に落下したソイツの顔面にスライディングキック。 勢いのままに擦れ違うと、巨体の割りに素早く起き上がったそいつの首を脚で挟むようにして飛び乗り、フランケンシュタイナーで地面に叩きつける。 自分の体重がそのまま首にかかるのは中々効いたのか、よろよろと起き上がろうとするそいつを無理矢理掴み、これまた月空力と腕力で無理矢理持ち上げてぇえええええええっ!! 彰 「くっ、おっ……おぉおおおらぁあああああああっ!!!」 巨体を持ち上げ、ツームストンパイルドライバー。 ソイツの体重だけで地面にクレーターが出来るほどの重さをたたきつけ、再び首にダメージを。そして次弾。───唸り、起き上がろうともしないそいつの脚を掴み、月空力で持ち上げ、ジャイアントスウィング!! 遠心力に乗ってきてからはやはり勢いそのままに頭上へと放り投げ、思ったよりも飛ばなかったそいつへと向かい跳躍。 その首を空中で掴み、スイング式DDTで一気に落とす!! 彰 「受けてみさらせ! これが肉弾戦最終奥義“DSC”!! デンジャラススープレックスコンボじゃぁああああああああっ!!!」 月然力・重で場に重力場を発生。 落ちる速度なんて変わりはしないが、落下のダメージは倍増どころの話ではない。 事実、轟音の直後に地面は砕け、首どころか頭蓋骨まで砕けたそいつは行動を停止。 トラウマは……以外とあっさりと決着を迎えた。 彰 「…………」 あまり素直に喜べないのは、相手の死を確認した途端に汗が吹き出て呼吸が乱れたからだろう。自分で向かって自分で殺した。正当防衛を謳う気なんて沸いてこなくて、自分はそれをきっちりと……“殺し”として受け取った。 受け取ったら急になにかに謝りたくなって、謝るのと一緒に泣いて、吐いた。 ───……。 俺が降り立った場所は、どうやら妙な場所のようだった。 空界文字は読めないが……便利な翻訳機能によると、地図的にはロジアーテ鍾乳洞の前だとか。 ロジアーテっていうと、あそこだ。えーと……闇の精霊シェイドが居る聖域の前。 これって転移は成功したって言うべきなのか? それとも失敗? 彰 「うぷっ……」 どちらにしろ、しばらく肉は食いたくない。 殺したなら糧にしようと無理矢理食ったけど、煮ても焼いてもあの食感には慣れない。 俺……必要に迫られないなら、もう永久にベジタリアンでいい。 いや、違うか。殺したら食うんだ。……あれ? なんで食うんだっけ。 トリコ? 違う。俺、殺したら食ってたじゃん。あれ? それっていつのこと? 彰 「………」 わけわかんねぇ。 いいや、こんなふうにこんがらがるなら、それは前世の所為ってことで。 今はここで、猫が来るのを待とうか。 Next Menu Back