───決意の先の賑やかソウル───
【ケース19:中井出博光(黒)/ボンバルティア】
光の聖堂へスタムと着地した僕は、輝くナルシストと対面していた。
中井出『ていうかさ、キミさっき名乗ったじゃない』
ウィル『私より目立つやからを私は許さない。故に名乗るのだ』
ハートがちっちゃいヤツだねこいつ……え? なに殊戸瀬……あなたもでしょう?
フハハハハ当然! この博光は自分の小ささを誇りに思っておるわ!
デカいヤツになんてなりたくない! 人生小者の方が面白いし!
中井出『というわけでマナクラサイ』
ウィル『ただで渡すと……思っているのかな?』
中井出『激烈思ってる。じゃあ貰ってくね?』
内側のブラックウィスプさんに声をかけて、ズキューーーンズキューーーンとマナを吸い取るッッ!! すると慌てた様子で止めに入るシャイニングウィスプさん!
中井出『なんだよコノヤロー!
訊いてきたってことは答えりゃくれるんだろコノヤロー!』
ウィル『誰が渡すものか!
ええい面倒くさいヤツめ! これだから下等な生命体は……!』
中井出『いやあの……そんな、いきなり褒められると照れてしまうよ……』
ウィル『いつ褒めた!!』
中井出『え? だ、だって下等な生命体って……褒めてるじゃないのさ』
ウィル『…………私が言うのもなんだが、少しだけでも誇りは持つべきだ』
中井出『フン断る』
下等であることの自由度なぞ、踏ん反り返った貴様には解らんのですよ。
とゆーわけで吸い込み続行。
パゴアパゴア! 内側で黒ウィスプさんがウメーウメー仰ってるぜ〜〜〜っ!
ウィル『き、貴様! 今すぐその美しくない行為をやめろ!』
中井出『馬鹿野郎! 世の中にはなァ……美意識よりも大事なものがあるんだ!!』
ウィル『何故この状況で私が逆に説教される!?
くっ───クチで言って解らぬなら、今すぐ貴様を───』
中井出『愛したい……!』
ウィル『違う!!』
血管ムキムキで怒られた。
フツーここまで怒った精霊なんて見れませんぜ旦那。
しかし言葉通りというか雰囲気通り、俺目掛けて光速で移動を開始するシャイニングキザーラ。
一瞬どころか瞬きもしてないのに見失ってしまったその動きに、僕は焦りを感じ───
中井出『ザ・ワールド! 時よ止まれ!!』
フォアラドゥンクで出したワールドで時を止めて、すぐ近くで笑顔のままに手を振り上げていたシャイン先生を確認。僕はソレをひょいと持ち上げて……結構な量のマナをズキューンと吸い取ると、聖堂から捨てた。
中井出『そして時は動き出す』
あとから響くのは、飛行する力すら奪われたシャイニングさんの、遠ざかる絶叫だけでした。南無。
ククク、この博光、やりたいことに関しての手段なぞ選ばんのよ。
恨みがあれば余計に。
中井出『人殺しさせといて、自分は忘れるなんてひどいよね』
でもこんなことは一回コッキリ。
高いところから落とすだけで十分でしょ。
4000年だもの、時間の感覚が人間とはズレてる精霊にとっても、もう時効でいいや。
恨み抱えて生きてても疲れるだけだしね。僕は僕だ。
中井出 『というわけでブラックシャイン先生を攻撃表示で召喚!
魔法カード“マナ吸収”のコンボにより、この場のマナを吸収し、今!
シャイニングツルピカリ松葉杖精霊への進化を遂げる!!』
黒ウィル『ツルピカリと松葉杖は余計だ!』
中井出 『え? そ、そう? ナイスネーミングだと思ったんだけど』
僕の美的感覚って、きっと周りには理解されないものなんだろうなぁ……。
そんな風にしみじみと思った、とある空の上での出来事でした。
はいそんなことはどうでもよしとして、黒のウィルオウィスプがマナを吸収。そこに運命破壊を混ぜ、フェルダールの光の精霊レムと融合させると、黒かった体が光に包まれてゆき、ついさっき僕が投げ捨てたウィルさんのように光り輝く精霊サマが誕生……! なんの負けるかと光ってみても、なんだか空しいだけでした。
中井出 『名前なにがいいかな。黒だったことも考えて、クロウィル? クロプス?
サッ……サイクロプス! いや……なんか違うな。
ブラックなウィルだったわけだから……ブウィル? ヘンだね。
…………なんかもう“ヴィックス・ヴェポラッブ”でいいや』
ヴェポラップ『なにがどうなってそうなった!?』
え? いや……ど、どうなってだろ……。
中井出 『じゃ、行こうかヴェポラップ。
下に落としたって行為、ちょいとマズイかもしれん。
下っていやぁ、あいつらが待ってるし』
ヴェポラップ『……ま、待て! 貴様まさかずっとそう呼ぶつもりか!?
よ、呼びづらいだろう! 今なら呼び直すことを許可してやっても───』
中井出 『じゃあ戦闘妖精シャザーン』
シャザーン 『よっ……呼び直してその名前っ!!
よく考えるのだ! 美しい私はこれからお前の中の大樹と契約する!
いわばドリアードの核とともにある者だ!
お前はドリアードに、そんな名前の者と契約しろと言うのか!?』
中井出 『え? すげぇいい名前だと思うけど……ち、違うの?』
シャザーン 『……一度医者に見てもらうといい。脳をな』
中井出 『あれぇ!? なんでそこで可哀相なものを見る目!?』
とか言ってる間にさっさと霊章の中に潜り込んでしまったシャザーンは、これまたさっさとユグドラシルと契約。僕はまた、少し寂しい気分で光の聖堂に立っておりました……。
ぬう……次何処に向かおうか。
……つーてもロプロスト砂漠に行って火のマナとフレアブランドを取るか、イーディンジルド氷河に行ってアイスブランドを取るか、なわけですがね?
フレアブランドとアイスブランド取ったら、もうエルフの森しか用無いし。エルフの森行くなら、結局ウェルドゥーンは通るわけだし、この旅は早くも終了ですね。
マナさえ集めてミア助を救えば、あとは地界に戻る方法を考えるのみ!
つーかランスさんの研究所かウェルドゥーンの赤い魔女さんの研究所襲えばなんとかなるんじゃなかと? なんかもう帰れそうな気が……いや、でもべつに故障してるわけでもないのに晦のラボから帰れなかったんだから、やっぱリヴァちゃんに訊いてみるのが一番か。
くそうほんとセルフサマルトリアだなぁ。
と、ここで契約を済ませたシャザーンがニョキリと霊章から出てきて、名前の変更を願ってきた。おおう、無駄にプライドが高い。
中井出『黒ップさん、下降りん?』
黒ップ『既に私がなんだったのかも解らない名前になったな……』
中井出『えー? いーじゃんかよぉ、別に地獄もんでもないし』
黒ップ『待て。今“減るもんでも”の中に妙な空気を感じたぞ』
中井出『気の所為デショ。つーわけで……』
……OH。
意思が言っている……ここでただ降りるのはつまらんと。
黒ップ『───……』
そんな意思たちの声を黒ップも受け取ったのか、面倒臭そうにだが頷いた。
黒ップ『そんな装備で大丈夫か?』
中井出『大丈夫だ、問題ない』
高い位置にある聖堂。
そこで、創造した中世甲冑っぽい兜をヌボォ……と被り、キリッと表情を引き締めてから走り出した。向かう先は───崖である。
そして一切の躊躇をすることなくダーーーイヴ!!
月奏力で音楽を奏でながら、シュゴォオオオと落ちてドゴォン!!
中井出『ギャオアァアーーーーーーッ!!!』
着地に失敗して潰れた。
【ケース20:弦月彰/立ちあがる時ってのを考えろ。それが覚悟だ】
───人にゃあ立たなきゃいけない時ってのがある。
それは何かを決意した時とかがほぼだと思う。
前を向く時だって逃げる時だって、立たなきゃ前には進めないって誰かが言った。
俺は自分が生きていた環境から逃げたかったんだろう。
親に言われるままにガッコ行って、体裁がどーのを気にする親に反抗してばかり居た。
反抗した先に何を得たと訊かれれば、きっと俺は答えられない。
だって……得られたものなんて退屈な毎日と、反抗していた所為でろくに学業が身に付きもしなかったアホな自分だけなのだから。
従順になっていれば少なくとも勉強は出来たろう。体裁も良く、自分からは見知らぬ誰かでも、見知らぬ誰かからすれば知った俺で居られただろうに。
そんな中途半端な俺が、今さら立って何を決意するんだって話。
精霊『く、ぐっ……! ここにも、侵入者か……それも人間が……!』
彰 「───」
なにを決意する?
そんなもの、足潰されて死ぬ思いして、その時解ったこったろが。
実感沸かないだの危害が加わらなけりゃだの、そんなのはどうだってよかった筈だ。
自分が死ぬかもしれない世界で自分鍛えないでどうする。
やらなきゃいけないことなんてたった1つだけ。
“それが嫌ならそうしろ”
死にたくないなら生きりゃあいい。
負けたくないなら勝ちゃあいい。
んーなもん、ガキだって知ってることで───俺は、そんなガキじゃねぇか。
彰 「あんたは俺の敵か?」
精霊『聖域を穢す者は、誰であろうと私の敵だ───!』
さっきから放たれている殺気に冷や汗が止まらない。
どうやら弱っているらしいが、間違い無く自分より強いということなど空気で解った。
だってのにこういう状況ってのは大体───
彰 「すぐに出て行くって言ったら───」
精霊『無駄だ……既にマナを盗まれ攻撃も受けた……逃がす理由が皆無だ』
───こうなるわけだ。
彰 「……カイ」
カイ『解ってるよ。……もとい、解ってる』
カイが頷いて、光になって俺の体を包むや刀に変異する。
それとは別に俺が着ていた黒衣も、カイが着ていた白衣が混ざり、白黒鮮やかな着衣へと変わる。するとどうだろう。この世界では心許なかった自分の力が、少しではあるが跳ね上がってくれたと感じた。
彰 「お、おおお……? こりゃあ……」
刀 『反発犯動力ってもんだ。今のぼ……俺達は、黒と白で力が反発し合って、
その弾く力が力を生み出し続けてる状態にある』
彰 「……さっきまで効果が無かったのは、着衣まで混ぜてなかったからか。
これでお前が精霊じゃなくて神だったら、相当反発してたんだろうな」
刀 『あーそりゃ残念。もし神だったら、傍に居るだけでも気分悪くなってたろーよ』
彰 「なるほど、精霊万歳だな」
軽口を叩いて刀を振るう。
マナを吸収したってだけあって、鋭さは結構なものだった……んだろうが、それに俺が気づけてなかっただけか。刀じゃなくて剣になったってことも原因の一つだし、そもそもメガレールばっか撃ってたから気づけってのが無茶だった。
精霊『精霊武具……? 貴様、そんな美しい武器を何処で───』
彰 「俺にもよく解んねーけど、創造の精霊に手伝ってもらってる!」
精霊『創造の……?
そうか、スピリットオブノートとドリアードが、二人で妙なことをしていたな……』
彰 「不意打ちスラァーーーッシュ!!」
考え事を始めた精霊さんに不意打ちの一閃!
タンと近付いて一気に振るうが、しかしあっさりと躱された!
精霊『やれやれ、遅い遅い。この美しい私は光の精霊だぞ?
そんな遅さでは不意打ちにもなりはしない』
彰 「こんのっ───」
追って、刀を振るう。
しかしその悉くは軽く避けられ、代わりに腹に一撃を埋められ、動けなくなる始末。
精霊『マナを奪われた私の一撃のみでこのザマ……くだらないな人間。実にくだらない』
彰 「けほっ……くだらない……!?」
精霊『ああそうだ。お前には美意識以前に意思が足りない。
その服装からして地界人……大方、何かの手違いで飛んできた者だろうが……お前。
まさか自分はこの世界では死なない、などと思っていないだろうな』
彰 「……?」
精霊『この世界ではかつて、地界人によって人間のほぼが殺された。
結果、人の文明は栄えず、
未だ過去の遺産に縋って生きる人間が少しばかり居るのみだ。
人間だと思っている者のほとんどが魔女が作ったホムンクルス。
今も数少ない人間は魔物に食われ、その数を減らしている』
彰 「……だから、なんだよ」
精霊『解らないか? その地界人が空界人を殺さなければ、
まだ人間どもは魔物に対抗する力を持てていられた筈だった。
その恨みを空界人は忘れない。
明確にお前が地界人だと解れば、すぐに殺されるだろうさ』
彰 「じゃあ殺し返す」
精霊『躊躇という言葉を知らんのか貴様は!!』
いや、そげなこと言われたかて……アタイだって死にたくねィェー。
なら……殺るっきゃねぇだろ?
彰 「月の家系を甘くみんなよ精霊野郎。
何百年も前の話はさておき、今だってあんま物騒な話、消えてねぇんだからな。
死んだ殺した呪ったなんて話を聞いたのは呆れるくらいだ。
どいつもこいつも体裁気にして、そんなんが何年何十何百年と続けば歪もする」
精霊『ほう? ならばどうする。お前の中に存在する生存方法なぞ僅か───』
彰 「うだうだ言うのは性に合わんのョ。性分ってやつだぁね、性に合わんのだから。
んで、自分が弱いことも自覚した。調子にゃ乗れん状況ってやつだしね。
だったらもう、ここでいろいろ決めて前を向くしかねぇべや」
キッと睨む。
見知らぬ世界に降り立った興奮なんて、もう完全に捨てちまえ。
彰 「あんがとさん。ここであんたに会わなかったら、絶対にどっかで死んでた。
なるほど、そう考えると敵と会ったってのにべらべら喋ってくれるヤツってのは、
これで案外必要なのかもしれねーねぇ」
精霊『絶対にどこかで? お前はここで、私に殺されるのだ!』
光の精霊が襲いかかってきた!
コマンドどうする!?
1:目潰し
2:とにかく避ける!
3:攻撃は最大の防御!
4:助けを求める!
5:逃げるんだよォオオ〜〜ッ!!
結論:───1!
彰 「よっとぉっ!」
精霊『《バサァッ!》フン! そうくることは読めていた!』
彰 「マジか!?」
砂を手に取るや投げつけてみるも、質量のある光の膜にてそれは弾かれ、既に眼前に迫る精霊。思わず喉から悲鳴がこぼれかけたが、カイが咄嗟に動き、自ら(刀)を振るうことで相手を退けてくれた。
刀 『しっかりしてください! 相手は精霊なんですよ!?』
彰 「わ、わかっとらぁな! つーかキミも敬語!」
刀 『言ってる場合です───言ってる場合かっ!』
言うや襲いかかる精霊を、再び刀で離し、状況をしっかりと頭に叩き込む。
大方上で中井出が妙なことしたんザマしょうが、それにしたってそのまま放置はひでぇ。
となればすぐに来ると思うんだが───いや、考えるな。目の前の……生き延びることだけを考えろってやつだ。
彰 「つぇええやぁあああっ!!」
精霊『フフハッ、遅い遅いっ』
防御ばかりではとばかりに攻撃に転じてみるも、やはり軽く躱される。
相手は光の精霊だ。こと、速度においては右に出る者は居ないくらいだろう。
マナが奪われただのと言っていたから、普段はもっと速い筈。
彰 「……やばいぞカイ、勝てる気がまるでしねぇ」
カイ『それも、彰の実力不足が原因で……』
彰 「うぐっ……ワリ、その通りすぎて謝るしかねぇやな……」
カイはマナを吸収しただけでも随分と鋭くなっていた。
放たれた魔法だって斬れるくらいだ。前のナマクラー状態からは考えられない。
問題なのは俺だ。
元からある身体能力だけじゃ嫌だってんで鍛えてたつもりはあった。
けど、なんだいこりゃってくらいに敵わない。
彰 「もう恥がどうとか言ってられねぇ! カイ! なんか生き残る方法ないか!?」
カイ『意識を入れ替えることが出来れば、なんとか!』
彰 「なんと!? お前強いの!? ああもういいからやってくれ!
アタイまだ死にたくねィェーーーーーッ!!」
カイ『正直だなぁもう!! じゃあちょっとごめん!』
彰 「オッ!? オオオッ!?」
目の前がスパーク! 星が……星が見えるスター!
そんな星を追っていたら、ふと視界が真っ暗になり……気づいたら……俺が刀だった!
お、おおお! なんというファンタジー! 浪漫と幻想を合わせるならロマンタジー! そこに百銃のジーノを合わせるとロマンタジーノになる!
カイ『はぁっ……ん、よしっ、動くっ』
感覚だけで感じれば、俺の体をカイが動かしてる〜って感じ。
見事に“意識を入れ替えてる”ってやつだ。
カイ『こんなに簡単に成功するなんて……もしかして魂の相性がいいのかも』
彰 『あんま嬉しくねぇやねそれ……』
カイ『そうかな。僕はなんか嬉しいけどね。他人でここまでなんて、普通は無いよ』
彰 『ぬ。そらぁ確かに』
そんな会話をしながら、どうしてか……意識体になっているからなのか、妙に懐かしくもくすぐったい感情を抱いていることに気づく。
そして───
カイ『ん。そして、だね』
彰 『オウヨ』
前を見て、感謝。
カイ『わざわざ待っていてくれてありがとう』
精霊『……創造の精霊か。なるほど、どうやって具現したかなど、
スピリットオブノートかドリアードに訊いたほうが手っ取り早そうだが……』
カイ『その前に僕を───…………すぅ……はぁ…………───俺を始末する、だろ?
光の精霊、ウィルオウィスプ』
精霊『ああ、その通りだ』
…………。
うーお……なんだか武器に宿るのって妙な感覚。
なんつーの? カイと……あなたと、合体したい……ってそんな感じ? ちと違うか。
カイの中に放り込まれて、その中を見ている感覚だ。
目の前の状況はきちんと視覚化できてるのに、いろんな景色が頭の中に流れてくる。
それは……カイの記憶だろうか。
カイ『マナのお陰でかつての自分を取り戻せそうではある。
丁寧語なんて似合わない自分だったのを覚えているが、それだけだ。
自分の持ち主のことなんてハッキリと解らない上に、
取り戻せたところでだからどーしたってことになるんだろうさ。
その全てはマナを全て揃えた時に解るんだろう』
精霊『自分を取り戻す、か。私もなにか大切なことを忘れているようで癪だ。
地界人が空界人を滅ぼした際、いったいなにが起きたのか。私はそれを知らない。
知っているのは僅かな人間どもと、スピリットオブノートとドリアードくらいだ』
カイ『それを知りたいとは?』
精霊『どうでもいいことだ。私は私が美しければそれでいい』
いや、それってどーなんよ。
じゃけんどもなんデショね、とろける。意識が。
まるで自分がカイになったみたいにドロドロに解けて……──シンクロ率が高いんかネ?
……なんかどうでもよくなってきた……のに、頭の中に流れ込んでくるイメージが俺をどうでもいい状態にさせてくれない。
彰 (これ……カイの記憶……だよな?)
やがて見えてくるのは精霊とカイが話をする景色ではなく、おかしなじいさんにハンマーで殴られる景色。もちろん痛くもないし、それが鍛冶をしている場面なんだって、じいさんの後ろの景色で理解できた。
鍛たれて打たれて剣となって、モミアゲが美麗なお方に渡された。
……この人、知ってる。ご先祖さまだ。
名前は晦悠介……朧月に産まれて、十六夜に引き取られ、晦に引き取られた人。
その親友の名前が弦月彰利で、彼らは魂レベルでの親友だった。
彰 (………)
剣となって、ご先祖様の戦い方、鍛錬法を見る。
無茶苦茶な行動ばかりが目立つのに、その方法は家系の体によく馴染むのか、ご先祖様たちはどんどんと強くなった。鍛錬してたのはほぼモミアゲさんばかりで、ツンツン頭のほうは能力アップを図るばかりで鍛錬らしい鍛錬なんてすっ飛ばしてた。
俺、どっちかっつーとどころか絶対にこっちのトンガリさんに似てるんだろうな。
カイは……間違い無くモミアゲさん。なにせ持ち主なんだから。
彰 (…………ワー)
見る景色はバトルに溢れていた。
そりゃそうだ、剣なんて日常じゃあまず使わない。
それでもバトりすぎだろってくらいバトってた。
竜王と戦ったりベヒーモスと戦ったり精霊と戦ったり、やることがハンパじゃない。
これもう家系がどうとか抜きで異常だ。
なるほど、物事考えずに“守ってばかり”になるとこんなことになるのか。
それでもそこまでしてきたことが、のちに誰かを助けることになるなんて、俺はこの時はまだ思っていなかった。
それをそうだと思えるようになったのは、中井出……ただの凡人だったそいつが人生でもゲームでも冒険をするようになってからだった。
彰 (うわー、ほんとにフツーの人間だ)
空界が住み易い場になっていなければ、そもそも中井出は野垂れ死んでいた。
それ以前にモミアゲさんと知り合いでなければその時点で。
そう考えると、いろんなものに救われながら生きてたんだなぁこの人。
あ……だからなのか? 自分を犠牲にしてまで仲間の未来を、なんて思ったのって。
彰 (?)
仲間の未来を───……なんだっけ?
あらやだ、なに考えてたんだっけ。
ああそう、中井出だ。
彰 (………)
剣はラグナロクと呼ばれた。まさに剣としてのあいつの名前の通り。
ゲーム内での冒険が始まると、景色はずぅっとって言っていいほど同じ景色を映していた。光の塔って場所らしい。
その遥か高みで、剣は抜かれる時を待っていた。
……待っていたんだが、やってきた中井出は剣を抜く条件を満たしておらず、主人であるモミアゲさんもまだ来ないとくる。本来なら後回しにして条件を満たしてから訪れるべきところを、中井出はなんと剣を抜くのではなく剣が刺してある台座を破壊。抜く条件ではなく破壊して手に入れる条件を選び、剣を盗んだ。
滅茶苦茶だこの人。常識破壊好きにも程度ってものを織り交ぜるべきだろ。
しかも直後に守護竜ってのと戦ってる。
この頃にはもう随分と強くなっていて、けれどその様子も途中でカット。
剣が小さな精霊……ナギーって呼ばれた精霊に預けられて、そのまま飛ばされたのだ。
そうなると時間は飛び飛びになって、モミアゲさんの手に渡り、それからのことを見た。
中井出がほんとに空界人を殺したこと、たった独りになっても魔王を演じ、自分のためと言いながら仲間の未来のために命懸けで頑張ったこと。モミアゲさんが最終決戦で死亡してしまったことや、その剣がツンツンさんに拾われ、その剣と記憶からカイが創られたこと。
どうして中井出が無事だったのかは……よくは解らん。
でも無事でよかったって心から思えた。
理解なんつーもんは、そんなんでええんだと思いマッスル。
彰 (………)
そんな景色の果てで見た。
カイの意識がカイになる前、まだ晦悠介として存在している頃の景色。
奇跡の魔法の果ての、思念の塊のような状態の晦悠介は、ツンツン頭と対峙していた。
そこで殴り合いの喧嘩をして、やがて消える。
それだけのこと。
それだけのことだけど、自分が産まれた理由ってのを……少しだけ理解できた。
───弦月彰。
弦月彰利が月癒力にて転生し、カイを目覚めさせるために創造の種を開花させて産まれた弦月彰利の来世。
親友と呼べる存在は二人だけ。
晦悠介と───中井出博光。
感謝してもしきれず、返そうにも返しきれない恩がある二人だ。
そしてそれは、晦悠介にとっても中井出博光にとっても同じなんだろう。
死神、神、人間。
不思議な関係で成り立っていた三人は、ただ一人だけが当時の自分のままに生きていた。
姿カタチこそは猫だが、心は呆れるくらいに変わらず。
だからこそ思うことがある。
そいつの心や感情は、とっくの昔に壊れきっているんじゃないかと。
彰 (───、あっ…………と)
意識がカイの記憶から目の前に戻される。
戦いは……続いていた。
驚くくらいに善戦をしてみせているカイと、舌打ちをする光の精霊。
彰 「………」
創造の理力は、こいつのもとに送られるべく開花した。
凄まじい能力だったけど、俺が使うのはなんか違うって思ってたから、それはそれでいいと思う。こいつとおかしなことで笑うことも、中井出って存在が懐かしく思う理由も解った。
だからって漫画やアニメみたいにスイッチが切り替わるみたいに、俺が弦月彰利として動く、なんてことはない。俺は俺だった。
それはきっと弦月彰利も望んでいたことで……親友がもう、晦悠介ではなくなっていると予想した時点で、そうするつもりがあったのだろう。
次代のことなど次代に任せればいい。
だって俺達はちゃんとこうして出会って、ぎくしゃくながらも馬鹿やっているのだ。
それってもう……友達だろ?
彰 (前世。転生してくれてサンキュ。ちと戸惑うこともあるけど、
今まで友人が出来なかった……違うか。作ろうともしなかったのは、
もう“一人でいい友達”ってのが居たからなんだな)
神の……いや、もう精霊になってるから精霊の友達と、かつては人間であった友達。
一人どころか二人も居るが、なんつーか中井出は……友達や親友を越えた何かっぽかった。それを一言で表すならきっと───“提督”。
それを意識するだけで、顔がどうしようもなく笑ってしまうのを感じる。
彰 (んじゃあ……いっちょ頑張ってみっかねぇ)
心が満たされていくのを感じる。
自分自身で覚えていられなかったのが歯がゆくて、前世にもちっとマシな月操力でやれと言いたくもなったが───それをすれば、俺って意思はきっと成長することすらなかったんだろう。
そういうのを知っているからこそ、なのかな。
彰 (うだうだ考えるのはヤメだ。心に……ハートに火がついてるうちに立ち上がる!)
戦闘中のカイに無断で、無理矢理意識を乗っ取った。
すると見ていた視界が自分の体のものへと戻り、逆にカイが刀に戻る。
刀 『あ、あれっ!? 彰!? ちょっと!』
彰 「ホホホ、ちぃとお邪魔するぜカイ。さァァァてェエエエ……!
やいシャイニングコノヤロー!
よォも今まで好き勝手にやってくれたな! それは褒めてやる!」
刀 『褒めるの!?』
彰 「うーさい! ともかく今のアタイは輝いてる! 基本が黒だけど輝いてる!
カイ、アタイこれからちょほいと無茶すっカンヨ! ヨルロシク!」
刀 『それ言うなら夜露死苦だろ! って、お、うあぁああーーーーっ!!?』
刀を構え、イメージを流す。
大丈夫だ、理は我が内に在り。
マナが揃ってなくて危なっかしいが、それでも出来ると無理矢理信じる。
出来ないならその既存を破壊する! それが我が前世の在り方!
悠介が創造原理を、俺が運命を、そして中井出が常識を破壊する。
そんなおかしな3人だった俺達が、体も心も変わっても、こうして同じ世界に居る喜び。
おかしな心配をする必要もなく、俺達はまた……ここから“楽しい”を探せるのだ。
彰 「影鎌繰り殺ぐ───ってしもうた! オーダーなんて使えやしねぇーーーっ!!」
いやーん! 早くも意識がおかしい!
でも大丈夫! こげなことはよっぽど高揚しなけりゃ間違わねー!
カイ『……大丈夫か?』
彰 「大丈夫YO!」
精霊さんがぽかーんとこちらを見てらっしゃる。
随分余裕でいらっしゃること……いやむしろ───なんだ、意外といいやつじゃないか。
……俺の中の死神ってなんだろ。鎌解放出来るかね。
そう意識して、弦月彰利が死神を解放する要領で───鎌を解放!!
すると───
ダニエル『ハーイ! 久しぶりネーボーイ!!』
───……何故か、ムキムキマッチョの外国人男性(上半身裸)が出た。
ダニエル『実はズゥットボーイに憑いていたんダガネー?
転生スルとか言いダスから、ワタシも一緒に魂に混ざったノダヨー!
そしたらナント! 死神ヨー!!』
彰 「ぐあぁあああああああああああいっそ殺せえぇえええええええっ!!!」
途端に俺の中に自殺願望がモシャアと溢れ出してギャアーーーーーッ!!
何故ェエ!? 何故なのグレート!
ゴッド! 貴様アタイになんの恨みがあってこげなことを!
ダニエル『チナミニ鎌の名前、“鋼筋男爵”()サ! HAHAHAHAHA!!』
彰 「アレックスさんに謝れェェエエエ!!」
そりゃ姿は似てるよ! 似てるけどさぁ!
彰 「ち、ちなみに能力は……?」
ダニエル『ワタシがスタンドとなって敵をホロボスヨ! ハッソマッソォ!《ムキーン》』
運命破壊どころか自分に混ざった死神の魂を破壊したい心境に陥った。
ダニエル『というのはマア冗談ダ、ボーイ。普通の鎌の状態ではワタシはコウ。
次の解放状態でさらに筋肉は発達シ、最終段階ではサラニ!』
彰 「冗談じゃねぇじゃねぇかよ!!」
ダニエル『安心スルンダボーイ。ようするにボーイの鎌の能力は能力上昇ナノダ。
己を強化するモ良し、ワタシを強化するモ良し。
創造ダノ運命破壊ダノといった超常現象系のものではないが、
だからこそ強いノダヨ』
彰 「…………んじゃあ」
イメージを解放。
刀を鎌に見立て、解放!
すると俺の力はおろか、カイの能力までダニエルに流れ込み───!
ダニエル『サア……オ仕置きの時間だゼ《ムキーン》』
筋肉が一層ゴリモリになったダニエルが、フワリと浮きながら光の精霊さんを見る。
元々幽霊だったんだもんなぁこいつ……悪霊って言ってもいいくらいの。
なにせコックリさんを真似たゲームで出現した物体で、超絶ミラクルダンディー・コックリーニョさんの名を欲しいままにしていたそうなんだから。
精霊『ま……待て。待て待て待て! なんだこいつは!』
彰 「なにって……アレだよお前、コックリーニョさんに決まってんだろ」
精霊『コックリーニョ!?』
彰 「つーかなにキミ、なして顔赤らめてるの? え? …………え?」
精霊『く、くぅうっ……! 人間、人間ごとき……! 人間ごときを逃がすわけには……!
ああだが、今はその素晴らしい筋肉に目がくらんで何も見えません……!
今の内に、どうぞお逃げください……!』
…………え?
え、なに? この精霊さん、美しけりゃなんでもいいの?
つーか誰この外井さん! いやでも今がチャンス!?
ダニエル『ハッハッハッハッハ、ボーイ、随分と従順ジャアないカ』
彰 「いいから今の内に逃げる! 決意はしたけど避けられるなら逃げる!
決意と自ら傷つくのとは違うんだっ!」
ダニエルに戻ってもらい、刀を持ったまま回れ右!
先に妙な都市が見える下り階段方面へと走り、そこを全速力で何段も飛ばしながら降りていった。
彰 「ああもうこんがらがるっ! 死神出せたのにダニエルで、光の精霊が外井雪之丞で、
前世が黒で死神王でギャアヤヤァアーーーーーーッ!!」
刀 『前世って───じゃあ思い出したのか!?』
彰 『キミの記憶の中から受け取ったもんばっかだから、
俺の記憶としては思いだしたとは言えんけどね!』
階段を下りる。
真っ白な階段だ。
少し視線をずらせば、空界の広い大地がそこにある。
マナの吸いすぎで茶色の自然ばかりが目立つそこを、時折竜族が飛んでいく。
しかしこの大陸は外側からは見えないのか、竜たちは気づかずに飛んでゆく。
彰 「お互い凄まじい前世と持ち主持っとるね! だがアタイらはアタイらだ!
いちいち気負うのもめんどっちぃし、それが一番YO!」
カイ『同感! そういうのを気にするのは記憶が全部戻ってからで十分だ!』
彰 「オウヨ!」
白い景色と、そこに絡まるように存在する緑のコケや植物。
そんな場所を駆け、やがて都市に下りると、俺は───ひとまず、前世に代わって最愛の人にでも謝ろうと……そんなことを、うすぼんやりと考えた。
【ケース21:中井出博光(黒)/落下生(再)】
落下する人生と書いて落下生と書く。
中井出『フウ……危うく内部にまで大激痛が通るところだったぜ』
自分の体を象ってるから、高いところから落ちてもいつかのように足を折って“ア〜ウハハ〜ハ〜ウ”と奇妙な痛がり声を出すこともなかった。
黒ップも霊章に潜り込んだし、これでいつでも召喚可能! きちんと元の色で!
しかも聞いてくださいよ奥さん、闇と光の表裏精霊のマナを手に入れたことで、なんとフェルダールとアルマデル、どっちの精霊としてでも召喚することが可能なんですよ!
だからドリアードを召喚する場合、ローラだろうとナギーだろうと召喚出来るってわけです。なんか嬉しい。
こうなると、きちんと他のマナも揃えたくなるってもんです。
中井出『そのためにはきちんとやることやらんとね』
心はとっても弱い僕。それでも覚悟を決めたならば前に進むと誓ってます。
足も固め直してしっかり踏みしめてと。
中井出「えーと、彰やカイは…………あれ?」
ぐるぅりと見渡した、エメオ地域。
その、塔がある以外は平坦でしかない場所の……僕が見た視線の先に、うねうねと悶える光の精霊が居た。
中井出『あの……なにやってんスか』
ウィル『はう!? き、貴様は!』
振り向いたフレッツ光は真っ赤な顔だった。
マア恋!? あなた恋をしているのね!?
中井出『サミング!』
ウィル『《ゾブシャア!!》みげーーーる!!』
でもあとは逃げるだけだったんで、構わず目潰しして逃げ出した。
さて、彰とカイは何処に……お、おらん! おのれ彼奴らめ何処へ行きおった!
エレベーターで下に下りたとは考えにくいし……となると、都市のほう?
中井出『……無駄に状況に流されている自分が嫌だ……』
無視してロプロスト砂漠とエルフの森に行きゃあいいんだろうけど、そうするとカイに必要なマナが揃わないのだ。
しかし都市に行けば、かつての仲間だったやつらが居て……俺のことなぞ覚えているはずもなくて………………よし行こう。
中井出『そうだよな、知らないんだもの。俺がなにをどうしたって、俺は見知らぬ誰かだ。
こんなの、ようは俺だけが知ってて、俺だけが孤独を噛み締めりゃあいいことだ』
そうだね。
呪いが消えたのは俺だけ。
自分のことだから思い出せたってだけで、まだ記憶消去は俺自身に根付いている。
いずれ彰もカイも俺のことを忘れるんだろうし、そんなものは俺だけが噛み締めりゃあいいのですね。
中井出『よっしゃ、やること増えてきたかも。
目的も無しにブラブラするのも悪くないけど、コレと決まってるほうが面白い』
まずはエターナルソードを作って……いやまあ、ほんとに出来るのがエターナルソードである確信なんざないわけだが、やっぱファンタジーが好きならファンタジアな未来を望みたいじゃない? 氷の剣の炎の剣にマナを込めて融合させればきっと出来ると勝手に信じる! それが漢だ任侠だ!
中井出『GO!』
浮遊都市、サーフティールを目指して走った。
さあ覚悟を決めろ俺! 忘れられているのは確実! その所為で傷つかない自分を今、ここで心の中に構築しろ!
中井出『非常識よ! 俺に今を受け止める勇気をください!
マラサンガ・スクリット・ブラックウィドォオーーーーズ!!!』
謎の言葉を叫びつつ、苦しむ光の精霊サマを無視して駆け出した。
都市の方まで追ってくるやもだが、来た時は来た時だ。
都市のやつらを人質に、無事に逃げきってやるぜ〜〜〜〜〜っ!!
───……。
……ジュザァーーッ!
中井出『OH霊!』
そんなわけで、意味もなくスライディングで訪れた浮遊都市サーフティールデース!
おお、懐かしい雰囲気! 木々や草花が増えた以外、ちぃとも変わってない!
な、懐かしいね! あそこが僕が住んでた場所で……はうあ! そういや鋼鉄アイアンリーガーの漫画はどうなってるだろ!
ちょ、ちょっと見てみていいかな……ア。表札が田辺になってる。
中井出『………』
いや……うん、まあ当然っちゃあ当然。
麻衣香は紀裡や七草と一緒にチャイルドエデンに降りたんだろうし、都市を使う権利なんて誰にでもあるだろう。俺の家じゃなくなってるなんて当たり前じゃないか。
平気だ。覚悟は決めてきたから。
中井出『えーと……鍵はかかってないね』
ならば無遠慮にガチャリ。
知らない誰かな俺だから、もうここに来るのは一度きりと踏んでいろいろやろう。
不法侵入でもいいのです。下で決めたのだ。俺の痕跡なんぞは消してしまおうと。
だから鋼鉄アイアンリーガーもあってはならない。あれは俺が勝手に家宝にしたものだから。もし残ってるなら回収しないと。
田辺 「へ?」
中井出『ややっ!?』
ともかく開けた。すると、その先に扉に手を伸ばそうとしていた田辺くん。
わあ、こんな状況想定してなかった。
どどどどうするどうする!?
中井出『ボディ!』
田辺 「《ドボォッ!》五平!!」
とりあえずボディブローで夢の旅に導く! ゴヘェと叫び、ズルリと倒れる田辺! 五平って言った気もするけど気にしない!
気にしないが……その倒れた先で、俺を見て慌てている水島美空二等! さらにやべぇ!
水島 「き───」
中井出『釣りは要らねェ! 取っときなァア!!』
ならばとマイトグローブを思い切り振り切り、Dマグナムを発射!
離れた位置に立つ水島二等をドッパァンと吹き飛ばし、気絶に誘った!
おおおやばいなんとヤバイ! これで見つかって騒がれては地球じゃなくて俺が危ない!
中井出『……勢い付きすぎて壁に激突してぐしゃりと倒れたが……ダイジョブだよね?』
お邪魔しま〜すと一応ひと声、うつ伏せに倒れる水島の脈を調べる。
……ん、ダイジョブだ。
さてそれが確認できれば次。
額縁に飾っておいたアイアンは………………ゲェッ! ねぇ!
中井出『燃やされた!?
いや、それならそれで……よくはないけどいいってことに出来るけど』
見渡してみて解った。
もう、ここに俺の家だったっていう痕跡なんて微塵も残っちゃいない。
そらそーだ、百年以上も前のことだ。
中井出『………』
念には念を。
この部屋の過去を調べて、アイアンがどうなったかを見る。
すると……何故かチャイルドエデンに持っていこうと話し合っている三人家族の姿が。
中井出『うぉおおい!? なにがどうなればそれを持っていこうって思える!?』
清水 「ややっ!? 田辺の家から知らない声! 誰だテメー!」
中井出『やべェェェ!! デケェ声出しすぎたァァァ!!』
そしてあっさり見つかる俺! ああもうほんと俺アホだね!
中井出『つーかそう叫ぶ声がデケェよ! あ、この声もデケェ!』
清水 「この浮遊都市に侵入するとはいい度胸だ!
轟け都市への警報! アンローフルインヴェイジョン!!」
俺の叫びなぞ無視して、清水二等が取り出した小さな笛をピィーと鳴らす!
すると来るわ来るわ、外見全く変わらぬかつての仲間たち!
藍田「インヴェイジョン!」
岡田「アンローフルインヴェイジョン!!」
囲まれる前に外に飛び出した───のが悪かったのか、すっかり囲まれてらっしゃる!
しかも囲んだまま、俺を中心にぐるぐると回りだして、
藍田「円の動き」
岡田「円の動き」
なんか棒人間たちの真似をする始末だ。
しかしそんな輪から一歩前に出て、俺に質問を投げる者が一人───藍田くんだった。
藍田 「ようあんた。ここに何の用があってきたんだ?」
中井出『あ、ハイ。実は私、ここに来た頭が少々ツンツンした少年を探している者で、
名前をアントニオ=フェデリコ=ノゲイラといいます』
藍田 「どこのブラジリアン柔術家だてめぇ!」
清水 「むしろ何気にゴッドイーター混ざってたぞオイ」
岡田 「俺、ノゲイラ一族ではホドリゴさんの名前が一番好きだな」
話が容赦無く脱線してゆく。
こんなところは相変わらずらしい。
懐かしさを感じながらも、優先させるべきを優先させる。
中井出『それで、頭がツンツンした男を見ませんでした?』
藍田 「それなら見たけど、その前にだ。仲間を気絶させたことに対して言うことは?」
中井出『訊ねようと近くの家を開けてみたら、なんと人が!
急なことにびっくりしてしまってつい手が出たら、
なんとその奥に叫ぼうとする人が! ……やるっきゃァ……ねぇだろ?』
藍田 「だな」
岡田 「俺もそうするわ」
いやお前らそれでいいのか?
やった俺が言うのもなんだけど、なんか違うっしょが。
でもそれはそれでグッジョブと言わざるをえない。
中井出『ところでいい加減、円の動きをやめてもらいたいのですが』
藍田 「仲間をやられたというのにやり返さないで何が原中!
地界に行ったっきり戻ってこない将軍を思えばこそ、
恐らくはなにかがあったに違いない!
寿命は1000年以上とくれば、恐らくはなにか別のことを実行に移した!
調べに行った篠瀬さんががっくり落ち込んでいたことを思えば、
恐らくなにかしらが起こったと我らは見る!」
中井出『将軍って誰?』
藍田 「弦月彰利というトンガリ頭だ」
中井出『なんですって!』
わざとらしくではなく、出来るだけびっくりしているようにびっくりした。
言い回しがヘン? 気にしない気にしない。
中井出『実はさっきここに来た筈のツンツン頭の少年は、弦月彰と申しまして。
弦月彰利という人物は、彼の先祖にあたる筈です』
藍田 「なに!? それは誠か!」
中井出『いいえ、それはケフィアです』
岡田 「真実だそうだ!」
清水 「小僧を探せ! 生け捕りにせよ!」
飯田 「先ほどのガキャアを将軍の忘れ形見らしき人物と断定! 捕獲準備に入る!」
丘野 「縛り上げていろいろ訊き出してやるでござる!」
殊戸瀬「拷問準備なら任せて」
あれよと言う間に行動し、ギャアと叫ぶ間に連れてこられた彰。
迅速すぎて何も言えん。
カイはどうやら刀になりきっているようで、彰の傍で微動だにしなかった。
彰 「ア、アーアアアアアイヤー!? いったいナニゴトヨー!?」
藍田 「貴様の名は弦月彰で間違いないか!」
彰 「なんで知ってんの!?
……あっ! 中井出てめぇ! チクリやがったなこのクズが!」
中井出『なんだか切り返しがとても懐かしいものに!? 貴様の身に何が起きた!』
藍田 「我らの質問が先だ! 客人よ、少し黙っていてくれたまえ!
えーと、なんか無かった? 客人をテブラデスキーさんで待たせるのもな」
夏子 「今朝焼いたあんぱんくらいしかないけど」
中井出『わあい』
差し出されたあんぱんにあっさりオトされる僕が居た。
それを頬張り、感激する!
す、すげぇ! あんぱんすげぇ! あんぱんすげぇうめぇ! うめぇ!
夏子 「うあ……あんぱんだけでこんなに目ぇ輝かせる人、初めて見た……」
中井出『フッ……何を勘違いしているのか知らんが、
この博光はあんぱん四天王になれたのが不思議なくらいの小者。
俺よりあんぱんを愛する者なぞあと三人も居るのだ───!!』
夏子 「なんか随分とスケールの小さい四天王ね……」
中井出『な、なんだとてめぇ! あんぱん馬鹿にすんなら許さねぇぞ!?
購買で売れ筋のやきそばパンなんか目じゃねぇんだ!
俺は一番に購買に辿り着いて一番にあんぱん頼んで、
一番に“あとにしろ”って蹴り出された歴史を持つ男だぞ!?
それだけあんぱんが好きなんだ! 愛してるんだ!
引かねーぞ俺は! 譲れねぇ!』
夏子 「あ、う、うん、解った、解ったから」
中井出『わ、解ってくれた! そうだよねいいよねあんぱん! でもあんぱんもいいけどう
どんもいいと思うんだ俺! あのコシあのツヤそしてあのコク! 一度食べたら病
みつきになるよね! あれはいいものだよ! 美味しいツユと合わさって完成する
あの味ときたらもう最高だよね! ところでたまに耳にするけど、お蕎麦屋さんが
儲かりそうって話、あれってまったくのデマだからね!? ラーメン屋とかよりも
値段が高いとか言われて儲けばっかだと思ってる人は要注意さ! だってそれはう
どんを知れば知るほど理解出来る事だから! まず出汁! 鰹節から出汁を取るた
めにカツオブシを結構な量買うんだよ! 業務用だとかそう考えた方が手っ取り早
いだろうけど! でもその量が問題で、一日に使うカツオブシの量といったらラー
メン用の拳骨の値段とは比べものにならないのだ! ブシをブレンドして使うなら
余計に個数を買わなきゃいけないからもっとかかって、しかも蕎麦粉だってこだわ
るなら安いものを買ったりはできないわけで! 蕎麦粉はただその一種類だけを使
うんじゃなくて、これもやっぱりこだわるなら他の蕎麦粉同士を混ぜて使ったりす
るんだ! だから結構な値段になるし、当然売れなきゃ超大損! もちろんツユも
ブシだけで作るんじゃなく、醤油も仕入れなきゃいけないから金かかるし! 化
学調味料で十分だと思うならそれでいいやもだけど、拘らなきゃ愛じゃない! だ
から俺はあんぱんが好きでうどんが好きなのだ!』
夏子 「わ、解ったから落ち着いて……」
中井出『───はうあ!?』
あ、あらやだ……つい興奮してとんでもない暴走をッ……!
なんて暴走している内に彰が吊るされていた。
そんな彼の前に立つのは、おや懐かしい。刀を構えた篠瀬さんだった。
夜華「ほほう……!?
ならば貴様は、彰衛門が転生して産まれた存在だと、そう言うのか」
彰 「イ、イエースイエース!! だから放して夜華さん!
アタイこうして転生したけど、でも記憶は別人の地界人なの!
一般人デスヨ!? だから───キ、キザムヨクナイ! ノーキザム! ノー!」
チキリ、と刀を抜く篠瀬さんを前に、彰が花丸森写歩郎くんチックに叫ぶ。
だがこれからのことが予想できた俺は、周りに居た同じ思いを抱いた者たちと一緒に合掌した。
彰 「《ザクザクザシュドシュ!!》ギャアーーーーーーーーーッ!!!」
……問答無用で斬られた。
でもなんでなんだろうなぁ、懐かしいって思うだけで、止めようとは思わないのは。
夜華「貴様はっ……!
千年などという時間を人に架させておいて、自分だけ転生するなどっ……!
いったい何を考えている! そんなに以前の自分が嫌だったのか!」
彰 「なにを言っとるんだこのカスは……《パゴォン!》あわば!」
綺麗な“飛燕龍-凪-”だった。
彰 「ほがががが……い、痛い……!」
夜華「痛くない!」
彰 「痛ぇから痛ぇってゆーとるんですよ! なんばしよっとかこのカスは!
つーかアタイだって完全に前世のこと思い出せてるわけじゃねぇんだから、
そげに怒られたって困りますよ失礼な!」
夜華「ならば今すぐ思い出せ!」
彰 「むっ!? いいでしょう夜華さん……ならばアタイの真の力、見せてやる!」
おお!? 彰が顔を輝かせて不敵に笑った!
いやむしろこの場合に輝かせるのは目あたりにしよう!?
なんて俺が思ってるうちに、彰は目を閉じて息を整えた。
恐らく自分の魂が持つ記憶ってのを探っているのだろう。
やがて彼はニヤリと笑い───
彰 「知らないや《ザグゾシュズババシュ!!》ギョギョキヒエェエエーーーッ!!!」
華麗なる刀捌きの前に、奇妙な悲鳴を上げて切り刻まれた。
どうして彰がこんな感じになっているのかは解らんが、なんつーか……今はまだ、このどこか懐かしい光景を傍観しようと思った。
ギャアと本気で叫んでいるが、まあその、無視して。
Next
Menu
Back