───彰利01:絶交宣言ダットサーン彰利───
───……地界、約束の木の草原。
彰利 「我、今、冥月刀に願い奉る……。仮初の主の契約の下、
この時代の邪なヤツ以外にそれぞれの月操力を返したまえ……。
我が名は……クラース=F=レスター……」
シーン……
彰利 「アレ?あ、そか……クラースさんの真似すると実行してくれないんだっけか。
んでは───冥月さんや、この時代の心やさしき家系の皆様にのみ、
吸収した月操力を返したまえ……」
キキィィイイ……ン……パシュッ!!
彰利 「おおっ!」
冥月刀が輝き、空へ光を放った!
それはまるで、願いを叶えたドラゴンボールが散るかの如し!!
しっかりと各地にばら撒かれるように飛んで行ったし。
彰利 「……よし、と。やっぱ、生まれ持ったものは持ってなけりゃあね。
家系の呪縛なんてものは……まやかしだ。
自分は不幸だとか孤独だとか、そんなことばっか思ってるからそうなるんだ。
そんな簡単なことに気づくのに300年近くもかかっちまった……」
ほとほと自分が馬鹿に思える。
けど、そんな俺だからこそ四苦八苦しながらいろんな人に会って、自分としてここに居る。
そう、俺は帰ってこれたんだ。
彰利 「───……」
ザア、と。
その草原に風が吹いた。
自分が居るべき世界に吹く風は、そんな筈はないのにどこか懐かしくて。
自然と自分の顔が緩んでしまうことが、なんだか照れくさかった。
彰利 「……帰ろうか。そして、粉雪に会おう」
どんな話をしようか。
どんなことを言おうか。
俺はいろいろなことを頭の中に巡らせながら、
粉雪が待っているであろう弦月屋敷へと歩いた。
目と鼻の先にあるその場所へ、ゆっくりと。
彰利 「あ───」
開けっぱなしだった玄関をくぐろうとした時、縁側に座る人の姿が見えた。
意思とは関係なく足が立ち止まって、俺はその人を眺めた。
その人が───粉雪だった。
彰利 「こゆ───……」
話し掛けようとして、やめた。
粉雪は縁側に座りながら風を浴びて、どこか退屈そうに空を眺めている。
そんな粉雪に向かって、ゆっくりと歩を進めた。
───ジャリッ。
粉雪 「……?」
その途中、砂砂利を踏みしめたことで粉雪が俺に気づいた。
俺は───
彰利 「あ……えと……」
何年、何十年、何百年も会ってなかった自分の彼女に対し、
なんて言えばいいのか解らなかった。
情けない、と思いながらも立ち止まって、鼻を掻いた。
彰利 「……その……た、ただいま」
言ってみて、とても恥ずかしくなった。
けど……うん。
粉雪は目を細めてにっこりと笑って言ってくれた。
粉雪 「……おかえり、彰利」
たったそれだけ。
たったそれだけの……軽い会話で、俺はこの時代に帰ってきたんだと……実感した。
彰利 「───……」
ひどく安心した。
だから俺は、また歩を進めて───粉雪の傍に寄り、その体をやさしく抱き締めた。
粉雪 「……ど、どうしたの?」
突然の行為に驚く粉雪の声。
そんな声を全身で受けとめるようにして、
俺は自分の彼女とこうして居られる『今』を喜んだ。
彰利 「永い……とても永い旅をしてきたよ。
一度は未来を夢見た時代で、とても永い旅をした……。
人の死を見たり、友情が終わる瞬間を見たり……
馬鹿ばっかりしてたけど、辛いことばっかりだった……」
粉雪 「彰利……?なに言ってるのか解らないよ……」
彰利 「その世界では粉雪が俺以外の誰かと結婚してて……子供も居て。
俺が死んじまった所為でそんなことになって……。
俺はどんな風にお前に謝ればいいか解らなかった……。
───情けないけどさ、言い出せなかったんだ。
俺は彰利だ、お前の幼馴染だよ、って……」
粉雪 「彰利……そんなこと言うと怒るよ……?
わたしが彰利以外の人を好きになるわけないよ……」
彰利 「……それはお前が俺を覚えてるからなんだ。
その時代では、俺が使った月空力の所為で……
その時代のやつらは俺の記憶を失った。その末路がその未来だったんだ」
粉雪 「そんな……」
彰利 「胸が張り裂けそうだった……。
涙が流れて、立ってられなくなるくらい辛くて……。
その時、俺……本当に、自分でも驚くくらいに粉雪が好きなんだなって思った。
だから……心の中で何度も謝った。
死んじまってごめん、一緒に居てやれなくてごめんって……」
粉雪 「……彰利っ」
ぐいっ!
彰利 「……粉雪?」
粉雪 「わたしの目、見てよ」
彰利 「………」
粉雪が、抱き締めていた俺の腕を払って、俺の顔を掴んで自分の目の前に寄せた。
粉雪 「彰利がどんな時代に行って、どんなものを見たのかは知らないよ。
でも……今この時代に居るわたしは、彰利の恋人なんだよ……?
そんな……悲しいこと言わないでよ……」
彰利 「粉雪……」
粉雪は目に涙を溜めて、顔を俯かせてしまった。
……愛しい。
たまらなく、愛しい。
俺はゆっくりと、もう一度粉雪を抱き締めた。
粉雪 「あきと───っ!?」
抱き締めた粉雪が涙目で俺を見上げて───動きを止めた。
そしてわなわなと震えだし───
粉雪 「……ねぇっ……!『夜華』って人、誰かなぁ……!!
どうしてキスしてるのかなぁ……!!」
彰利 「へ?───……ゲゲェエエーーーーーーーーーッ!!!!!!」
衝撃の告白!
しまった!月操力返せば粉雪も月視力使えるんじゃん!!
やべぇよ!アタイの忘れたい過去を見られた!!
雰囲気ブチ壊し!!や、夜華さんのばかぁーーーっ!!!
粉雪 「それに『おとうさん』ってなに……!?『パパ』ってなに……!?
ふふ……くふふふふ……!!」
彰利 「が、がが……!!」
ウヒョオ怖ェエエエエ!!!
ば、馬鹿な!これがおなごが出す殺気か!?
粉雪 「いつもふざけてばっかりだったけど……
恋愛にだけは綺麗でいてくれるって思ってたのに……ひどいよ……!
彰利の馬鹿ぁっ!!わたし以外の人とキスするなんてぇっ!!
信じられないよ!もう顔も見たくないっ!!」
彰利 「な、なんだってぇーーーっ!!?」
粉雪 「出てってよ!!出てけぇっ!!」
彰利 「いやっ!ちょっと待って!弁解くらいさせてくれ!
あれは違うのよ!夜華さんがいきなりやってきたのよ!
その記憶を視たんなら解るでしょ!?」
粉雪 「視たよ……それからのこともね……。
女の子のスパッツを無理矢理脱がしたり、
わたしにバレなきゃいいとか思ってたことも……。
その後に……!また『夜華』って人とキスしたこともね……!!」
彰利 「ヒィイイイイイッ!!!!?」
やべぇ!大気が震えてる!!
い、いや……違うのだ!震えているのは俺だッッ!!
粉雪 「『娘』扱いしてた女の子の胸を見て鼻血出したんでしょ……?
一緒の布団で寝て、欲情したんでしょ……?
夜華って人の胸や、メイってロボットの胸まで触ったんでしょ……!!」
彰利 「ゲゲェエエエーーーーッ!!!!!」
やべぇ……!全てだ……!全て視られた……!!
絶対絶命っ……!!まさにっ……!復路の鼠っ……!!
非が自分にあることを知っているために、逃げ道がないっ……!!
粉雪 「他のことなら許せるけど……浮気だけは許せないよ……!!」
彰利 「ちがっ!ちがうっ!ノゥッ!!浮気チガウ!!信じて!」
粉雪 「浮気じゃない───!?じゃあ本気だったの!?」
彰利 「アイヤァーーーーーーーーーーッ!!!!!」
ヤバイ!ショックで思考がまともに働いてねぇみたいだ!
これは……やべぇぜ!?
粉雪 「信じられないっ……!わたし……すごく惨めだよぅ……!」
彰利 「やっ───違う!何故目を開こうとしない!!話を聞いてくれ!
───っ……聞いてもらえば解るーーーっ!!!」
粉雪 「無理だよ……辛過ぎるよぅ……」
彰利 「は、はぁあ……!!」
クラースさんの真似をしてみたけどダメでした。
ヤバイ……くる。
あの言葉が出てしまう……!
そんな雰囲気だ……!
彰利 「あ、あのな、俺は───」
粉雪 「……別れよう……?」
カシャン……。
彰利 「………」
───小さいのに、ヤケにハッキリ聞こえた絶交宣言に。
心がまた……割れた気分でした……───
───……。
粉雪の絶交宣言に対し、何も言えなかった俺は……
情けないことに、その時代から逃げてしまった。
ショックのあまりに無我夢中で逃げ出そうとして、月空力を発動させたのだ。
彰利 「………」
そうだ……旅に出ようか。
どこだっていい、どっかの時代でのんびりと歩くんだ。
そして……ほとぼり冷めたあたりで帰ろう。
考えることはいっぱいある。
けど───
彰利 「まさか……帰った途端にフラれるとはなぁ……」
所詮俺には幸せなんてものは不向きなのかな……。
ああ、わかんねぇや……。
彰利 「………?」
ふと、耳を澄ますと───耳に届く竹箒を掃く音。
俺はゆっくりと景色を見渡して───いまさら、そこが晦神社だということに気づいた。
そして───その景色の先に……夜華さんが居た。
彰利 「ていうことは……ここは未来……か?」
……情けない。
本当に情けないな、俺は。
粉雪に嫌われたら、すぐに第二の故郷に帰るなんて……。
でも……
彰利 「……いいよな、自分の意思に甘えても……」
辛い時は辛い時なりに、助かりたいと願うものだ。
そして俺は、癒しを求めてる。
『変わり無い日常』を。
そしてそんな日常は、夜華さんの周りにはたくさんある。
夜華さんは俺を差別したような目では見ないし、いつだって普通に接してくれる。
無意識にそう思ったからだろう、この時代、この場所に飛んだのは───
彰利 「夜華さ───……」
声をかけようとして、思いとどまった。
もし夜華さんにまで嫌われたら、俺───どうするんかな。
彰利 「………」
……だめだ、解んねぇ。
夜華 「誰だ?」
途中まで搾り出した声が届いていたのか、夜華さんが箒を止めてこちらを見た。
そして……絶句。
夜華 「……な、あ───彰衛、門……?」
どう返事をしていいのか解らなかった。
けど、俺らしくいけばいいって、心の中が言ってくれた気がした。
だから。
彰利 「あ、えと───あちょッス!」
片手を少しだけ上げて、そう応えた。
夜華 「馬鹿な……幻覚、か……?彰衛門は確かに元の時代とやらに……」
彰利 「───あら」
夜華さんがそげなことを言うもんだから、アタイの中のからかいハートに火がついた。
彰利 「幻覚ですじゃ。この俺様は、夜華さんが見ているマボロシなのですじゃ」
夜華 「な───……そ、うか……未練だな……。
わたしは幻覚を見てしまうほど、彰衛門が……」
彰利 「へ?」
夜華さんは悲しそうな顔を俯かせた。
そしてなにかを思い出したのか、ふっと笑った。
夜華 「……幻覚でもいい、言わせてくれ。
わたしは……篠瀬夜華は、やはり貴様のことが好きだ。
……過去形になどしない。
今でも───そしてこれからも、貴様のことが好きなんだ」
彰利 「───……今、なんと?」
夜華 「なに?……ふふっ、そういえば、あの時告白した時も……そう言われたな。
つくづく未練だ。初めての思いに破れたことさえも幻覚に見るとは……」
夜華さんはとことんアタイを幻覚だと思っているらしく、
懐かしむような顔で独り言を喋っていた。
……やべぇ、『ウソ』だなんて言えない状況になってきた。
夜華 「幻覚に付き合うのも一興か……いいぞ、何度でも言ってやる。
わたしは貴様が……弓彰衛門のことが好きだ」
彰利 「俺を……マジすか」
夜華 「ああ、本気だぞ」
彰利 「なんとまあ……マジすか」
驚く俺を見て、夜華さんは可笑しそうに笑った。
俺がこの時代に居た頃のことを思い出しているんだろう。
……ロクな思い出がねぇと思うんですがねぇ……。
夜華 「───彰衛門、貴様に礼が言いたい。
楓さまのもとに現れた貴様は、ただの愚か者にしか見えなかったが……ふふっ。
不思議なものだな、惚れてしまった者の弱みか。
相手がどんな馬鹿者でも許せてしまう」
彰利 「馬鹿とはなんだコノヤロウ!!」
夜華 「ははっ……言うことまで同じか。……まいったな、本当に……未練だ」
そう言った夜華さんは、俺を見たまま……涙を流した。
夜華 「ありがとう……。本当に、ありがとう。
わたしは……貴様に会えなかったら、
無念を抱いたまま死んでいたところだっただろう……。
楓さまが亡くなられて、ただひとり嗄葉が残されたあのお堂で……
わたしはその娘がどのようにしてその場に居たのかが解らなかった。
しかし、横たわる楓さまを『母』と呼んだその娘を、
見捨てられるわけもなかった……」
彰利 「……回想入るんですか?」
夜華 「わたしはその娘を楓さまの忘れ形見と信じ、懸命に育てようとした。
が……わたしは貴様の言う通り、刀が無ければ何も出来ない『女』だった……。
正直、それまで女を捨てていた自分には重過ぎた現実だった。
……女に戻ったところで、尊い命を育てる手立てがあるわけではない。
やがて無念の内に病に倒れたわたしは、嗄葉のことが不安だった。
しかし……彰衛門。お前が嗄葉を強くしてくれた。
悠介殿から聞いたぞ、嫌われるようなことを自ら選んだと。
嗄葉には嫌われたのかもしれないが……わたしは貴様に感謝したい。
あの娘は……人に頼りすぎる傾向にあった。
あのままでは……楓さまのようにお強くは成長出来なかった」
彰利 「確かにアタイを嫌うようになってからの嗄葉の気の強さは、
感心するものがあったかもしれんね……」
実際、嫌味とか悪口とか罵声を浴びさせられる度に辛かったんですけどね……。
夜華 「散々な目に会わされてばかりだったが……わたしは貴様を好きなってよかった。
わたしは貴様でなければ嫌だ。
だから……この一生を武士として生きるつもりだ」
彰利 「……浅っちの意思は?」
夜華 「楓さまのことならもう心配はいらない。鮠鷹が守ってゆくだろう。
そして……わたしが武士を気取っていたとしても、この時代は平和だ。
不届き者は居るかもしれんが、
貴様の言う通り……この時代のわたしは殺人者と同列なのかもしれない。
だから、武士道は貫く。だが……この刀は石塚に封印しようと思う。
───母……紅葉が言っていたこと、今なら解る。
この世界に必要なのは無闇な力ではない。
人は『話し合い』が出来るのだから……刀は飾りに過ぎないんだ。
母は、よく話もしないで力を振るうわたしを……悲しんでくれたのだ」
彰利 「やっぱ無視スカ……俺の言葉とともに、浅っちの意思まで……」
夜華 「彰衛門、わたしは母、紅葉のような武士になってみせるぞ。
もしこの刀をまた握る時が来るのなら、
それは……貴様がこの時代に現れてくれた時にしよう」
斬る気満々ッスね……。
夜華 「わたしは……こんなやつだからな……。刀が無ければ強気にもなれない……。
情けないだろう……?刀が無ければ、貴様とまともに話す勇気もないのだ……。
刀を持っていなければ……いつか自分が『女』になってしまいそうで……」
彰利 「もともと女だろうがカスが」
夜華 「……思えば、貴様はいつもそうして……暗い空気を払拭してくれていたな。
羨ましい限りだ……貴様に想われている『こゆき』という女が……」
彰利 「別れてくれって言われて、問答無用で絶交させられたけどね……」
夜華 「───なにっ!?」
彰利 「へ?あ、ギャア!」
しもうた!こげなこと言ったら、もう既に現代に戻ったアタイだと思われるじゃない!
夜華 「き、ききき貴様……まさか───!!」
彰利 「………」
アタイは狼狽する夜華さんを余所に、
こんなこともあろうかと持っていた剣道の面具と竹刀を装備した。
夜華 「ほ、本物の彰衛門……か、かかか……!?」
彰利 「いや。俺は南葉高校が誇る期待の超新星、剣道部のタナカだ」
言って『めーん!』と、面のポーズを取ってみせた。
フッ……我ながら美しすぎるタナカっぷり……。
夜華 「ごがっ……!ごががががが……!!!」
タナカ「ややっ!?」
何故だか刀を構える夜華さん。
タナカ「ま、待たれよ!刀、封印するんじゃ───」
夜華 「こっ───この痴れ者がぁああああーーーーっ!!!!!」
タナカ「なんで痴れ者ォオオーーーーッ!!!!??」
ザクザクドシュザクザグシュドグシュズバゾシュズシャアアアアアアッ!!!!
タナカ「ギャアアアアアアアアア!!!!!!」
───……。
彰利 「いやまあ……そりゃね?マボロシの真似して夜華さんを騙したのは謝るよ?
けどさ、過去を暴露したのは夜華さんだし、
俺を無視して話を進めたのも夜華さんですよ?」
夜華 「だ、黙れ!」
彰利 「さてはおめぇ〜〜あれか?
アタイに自分の本音を聞かれるのが恥ずかしかったんか?えぇ〜〜〜?」
夜華 「当たり前だッ!!!」
彰利 「そ、そうですね」
凄まじい剣幕だ……思わず引いてしもうたよ。
夜華 「この時代になんの用なんだ……!ことと次第によっては斬るぞ!」
彰利 「あの……さっき散々斬ったでしょ?」
夜華 「黙れ!」
彰利 「あらら……」
相当怒って……いや、恥ずかしさのあまり、話がまともに成立しない。
しかし怒らせたのはアタイ。
なんとかせねば。
彰利 「いやですね?元の時代に帰ったはいいんだけどさ、
夜華さんに接吻されたことが粉雪にバレましてね?
そんで───別れてくれって……ウ、ウウーーッ!!」
夜華 「な、泣くな鬱陶しい!!」
彰利 「だってよぉおお〜〜〜〜っ!!
散々苦労していろいろなことやってよォ〜〜〜ッ!!
そんで故郷に帰ったら絶交宣言なんてよォォオオオ〜〜〜〜ッ!!!
こりゃあ家族のために働きまくって、
ある日帰ってみたら妻が不倫してたサラリーマンの気分だよォオ〜〜ッ!!!」
夜華 「さ、さらり……?」
彰利 「こりゃあ家族思いっつゥか馬鹿だぜスッパァーーッ!!」
夜華 「……つまり、何が言いたいんだ?」
彰利 「イモラ病の薬を買うためにィ〜〜ッ!?スパァーッ!
そィで逆に半殺しかよ!スパッ!
そりゃあ根性あるっつゥか馬鹿だぜスッパァーーッ!!!」
ゾグシュッ。
彰利 「ヘキャアーーッ!!?刺さってる刺さってる!!な、なにすんの!!」
タバコを吸う真似をしながら熱く語っていたら、アタイの脇腹に切なさが炸裂した。
夜華 「焦らすな……!用件を言え……!
わたしは、何故貴様がこの時代の、
わたしの前に現れたのかを知りたいんだ……!」
彰利 「いえね?この時代で慣れ親しんだ人って夜華さんくらいなもんじゃないですか。
小僧と椛は新婚アツアツカップリャアだろうし、
リヴァっちは研究で忙しいだろうし。
まぁでも、そげなこと考えるより先に、
何故だかここに来てしまったわけですが」
神社の境内をザッと見渡して、最後に大樹を見る。
相変わらず緑を見せているその木は、季節なんぞお構いなしの緑の木だ。
夜華 「か、考えるより先に、わたしのもとへ来てくれたのか……?」
彰利 「ウィ?えーと……まあ、そんなとこ」
夜華 「そ、そうか……そうかぁ……」
なにやら嬉しそうな顔をして、顔を赤くする夜華さん。
オイオイ、熱でもあるんじゃああるまいね?
風邪は引き始めが肝心。
これはいけませんよ?
彰利 「───あ、そういや小僧と椛で思い出したけど。
この神社や母家は誰が受け継ぐことになったんだ?
アタイさ、悠介に元の時代に戻る半年の間に、
『さっさと誰かに神社を任せて隠居生活でも送るかねぇ』とか言われたんだけど」
夜華 「………」(ぽわぁ〜〜〜……)
彰利 「……夜華さん?」
夜華さんはなにやら幸せそうな顔で真っ赤になったまま、
どこでもない虚空を眺めていた。
これは……なにかをやらねばなるまい!
彰利 「発動せよシステムナム!“冥府誘う深淵の災い”!!」
ナム思考を引き出し、鎌を出現させる!───ってほんとに出た。
彰利 「出たらいいなって程度だったのに……」
……もしかしてアタイ、粉雪にフラレたことで相当孤独感じてる?
オイオイ……勘弁してくださいよ〜〜〜っ、マジヤバイッスよォ〜〜〜ッ。
彰利 「でも出た鎌に罪はないよね」
アタイは試しにラグナロクコピーを最小で発動させてみた。
すると、強烈な頭痛と引き換えに手のひらサイズの黄昏が出現した。
彰利 「ミギャアアアアアアア!!!!いででいででいででででぇええええっ!!!」
だが思考致したように、強烈な頭痛のためにイメージが上手くまとまりゃしません。
だがしかし!この程度でヘコタレていては漢にはなれんのだ!
彰利 「我が手に創造の力よ来たれ!」
なんて、カッコつけてても……創るのはモンゴルマスクと肉襦袢(。
アタイは夜華さんに気づかれないように、ゆっくりと近づき───
彰利 「………」
つーかこれだけ人が騒いだってのに、まだポヤ〜っとしてる夜華さんも相当だな。
まあいいコテ。
射程距離内に入ったところで、電光石火の速度でモンゴルマスクを被せた!!
夜華 「むぐっ!?」
しまった気づかれた!
でもモンゴルマスクはスッポリと被るカタチのマスク!
被るのは楽でも、取り外しは困難!!
夜華 「うぐぐ!!うぐーーっ!!」
夜華さんが怒りつつも、モンゴルマスクと格闘する。
彰利 「さあ夜華さん!この肉襦袢もどうぞ!!」
夜華 「───……」
ドサッ。
彰利 「ややっ!?夜華さん!?───って、しまったぁーーーーーっ!!!!!」
やべぇ!空気口作るの忘れてた!!
モンゴルマスクって空気口が無いようにしか見えないから、精巧に作ればそうなる!
ていうか夜華さんが窒息した!
彰利 「夜華さん!?しっかりするんだ!夜華さぁーーーん!!!」
───……。
ザックザクでした……。
それはもう、感心するくらいにボロボロだ……。
彰利 「グビグビ……」
モンゴルマスクで窒息させられた恨みか、回復させた途端にザクザクに斬られた……。
夜華 「まったく……人がいい気分になっていれば……!
何故貴様はそう、人の喜びの面を崩すのが好きなんだ……」
彰利 「お、俺はよかれと思って……」
夜華 「もしそれがよい行いだとしたら、斬られると思うのか?」
彰利 「きっと夜華さんの感性がヘンなんじゃ……」
夜華 「飛燕龍-散葉-ォオオオオオオッ!!!!!」
ザクザクザクザク!!
彰利 「ウオオォオーーーッ!!!」
問答無用の連ね斬りがアタイを襲う!
ば、馬鹿な……刀筋が見えない!
夜華 「いきなり人を変人呼ばわりするな!!」
彰利 「そっちこそいきなり斬らんでくれません!?
そんなんだから殺人者としての自覚が現れるのが遅いのよ!」
夜華 「ぐっ───き、貴様がわたしに無礼を働いたからだろう!!
貴様だ!貴様が悪いんだ!」
彰利 「な、なんですと!?人の所為にしようってぇハラかてめぇ!!」
夜華 「なにを言うか貴様!もともと貴様が悪い!!」
彰利 「グゥウ〜〜〜ッ!!」
夜華 「〜〜〜っ……!!」
眼光が入り乱れる。
殺気と殺気のぶつかり合い……こりゃあ蛇(だぜ?
などとバッドガイの真似してる場合ではなく。
彰利 「そう!質問!質問の答えがまだですぞ!」
夜華 「なに……?」
彰利 「今、この神社と母家は誰のものなのか!それを訊いとるのだよ私はッッ!!」
夜華 「いちいち叫ぶな!普通に会話できないのか貴様は!」
彰利 「そういう夜華さんこそ───って、ンマー、いいさ。とにかく聞かせとくれ?」
夜華 「……あ、ああ。この土地の所有権は全て楓さまへと移った。
というよりも、戻ったというべきだろう。
元々あの神社を作ろうと言い出したのは楓さまらしいからな」
彰利 「……あれ?そうなん?」
夜華 「ああ。わたしが小川に辿り着き、楓さまに助けられた時には既に完成していた。
楓さまは神の社がどうとか言っていたが、よく理解できなかった」
彰利 「グゥムッ……それはあれですかな?
神は地界に自分の神社を作るっていう……」
夜華 「……それはわたしには解らん。
わたしは楓さまが神の子だなんてことを知らなかった。
だが……とにかく、この神社は楓さまのものだ」
彰利 「……でも、当の椛は嫁いでもうたからここにはおらんでしょう?」
夜華 「………」
彰利 「悠介は?」
夜華 「悠介殿は『しばらく旅に出る』と言って、それから戻ってきていない」
彰利 「そか……あいつも案外いい加減なんかな……」
夜華 「………」
困り顔の夜華さん。
やっぱり、主の居ない場所を守ってゆくのは悲しいことなんでしょう。
こりゃあ話題を変えなければ重いねぇ。
彰利 「……なぁ夜華さんや?」
夜華 「なんだ……」
彰利 「むう、元気がありませんな。
えーとさ、俺、これから旅に出ようと思うのですがね」
夜華 「旅、か」
彰利 「そう、自分を見つめ直す旅さね。そんなわけだから、アタイはこれから」
夜華 「───!」
ガバァッ!
彰利 「おわっ!?」
突然、夜華さんが俺の襟首を掴んだ。
こ、これはもしや……喧嘩腰!?
彰利 「あ〜ん!?なんじゃいオルラッ!やンのか?オ?」
夜華 「わたしも連れていけ!」
彰利 「へ?……な、なにかねいきなり!」
襟首掴んでなにをするのかと思えば───衝撃的な告白ですよこれは!
しかも喧嘩じゃなかった……。
不良の真似した俺が馬鹿みたいじゃないですか。
夜華 「『自分を見つめ直す旅』だと言ったな!
わ、わたしも自分を見つめ直したいのだ!
頼む!わたしも連れていってくれ!」
彰利 「いや……そげなこと言われてもね?
俺、夜華さんに接吻された所為で別れを告げられたわけでありまして……」
夜華 「気に食わないことがあるなら直す!だから───頼む!」
彰利 「まいったのぅ……」
旅は旅でも、時空放浪の旅をしようと思ってたところだ。
それに夜華さんを巻き込むなんて、正直……───面白いかもしれん。
彰利 「よし、行きましょう!」
夜華 「え……い、いいのか!?」
彰利 「うむですじゃ!夜華さんが居れば百人力ぞ!」
夜華 「そ、そうかぁ……!」
彰利 「ささ、夜華さん行きますぞ!輝け冥月刀!
アタイと夜華さんをどっか適当な時代へ飛ばしたまへ〜〜っ!!」
夜華 「なっ───ななななにぃっ!?
ちょっと待て彰衛門!旅とは───この時代でではないのか!?」
彰利 「住み馴れた時代ではなにをやっても無駄無駄無駄!!
というわけでランダム!レッツゴーーゥ!!」
二振りの冥月刀を構え、銀色に輝かせる!
向かう先の時代が何処なのかはまるっきり謎!!
場所もまるで謎!!クハァ緊張するばい!!
夜華 「ま、待てぇーーっ!!わたしにも準備というものが───」
彰利 「アタイがどうとでもしちゃるけん!!今はGOヨーーッ!!」
フィィイイ───……キィイインッ!!
やがて真っ白に輝く光に飲まれ、アタイと夜華さんはどこかへワープしたのでした。
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