───彰利07:スーパーモスキート彰利───
───……で……どうしてこうなるんだろう。
彰衛門「チョェエエエーーーーーッ!!!!!」
ガカンッ!!ドカバキ!!
彰衛門「ギョァアアアーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!」
ああ、また彰衛門さんがボコボコにされて吹き飛ばされた……。
光莉 「強いね〜……」
冥月 「そうですね〜……」
───時代は数百年前。
篠瀬さんたっての願いは『面白そう』という理由であっさりと受理された。
目の前には紅葉刀閃流初代、八房紅葉さん。
篠瀬さんの願いというのは、『紅葉さんと戦い、それを超えたい』というものだった。
その願いをあっさり受理した彰衛門さんは、条件つきで過去へ転移。
条件というのは『偽名を使うこと』。
わたしは冥月で、聖ちゃんは光莉、篠瀬さんは氷雨()。
光莉というのは『聖』の『聖なる』って部分をもじって『光』から『光莉』。
氷雨というのは……適当らしい。
彰衛門さんはまあ、相変わらずの名前だ。
紅葉 「くどい輩だな。私はそこまで暇じゃない」
彰衛門「なんの!氷雨さんと試合うと言うまで引きませんよあたしゃあ!!
チェリアァーーーッ!!!!」
パァンッ!!
彰衛門「はぶぅいっ!!?」
木刀を手に飛び込んだ彰衛門さんが目にも留まらぬ木刀の一撃で叩き伏せられる。
強い……強すぎる。
彰衛門さんも決して刀術で弱いわけじゃないのに。
───この時代に来てから、氷雨さんは紅葉さんに勝負を挑んだ。
けど、返ってきた言葉は『断る』というもの。
あまりのあっさりとした返答にわたしも彰衛門さんも光莉ちゃんも驚いたけど、
氷雨さんだけは『……変わっていない』と喜んだ。
彰衛門「ちっくしょおおお〜〜〜っ!!!!こうなりゃ全力だ!!
てめえの顔も見飽きたぜ───奥義!!ファイナリティブラストォッ!!」
木刀を突きの姿勢にして構えた彰衛門さんが突貫する。
けれど紅葉さんは『奥義』と聞いた時点で構えを変えていた。
紅葉 「刀覇()-絶翔焔()-」
キュッ───ヒュバァンッ!!
彰衛門「ゴギャアアアーーーーッ!!!!!」
木刀の先端を道場の床に付け、瞬時に振ることで……
信じられないけど『摩擦』で炎を出した。
その炎を纏った斬撃が彰衛門さんを瞬時に叩き伏せた。
彰衛門「お、おのれぇえええっ!!」
紅葉 「……。頑丈さが自慢か。いいだろう、少し相手をしてやる」
強い……ほんとに強すぎる。
あの彰衛門さんが子供扱いされてる。
でも……なんだろう。
紅葉さんの物腰、どこかで見たような……。
彰衛門「こうなりゃ───月然力・風のモード!!
飛翔せよッ!疾空のッ───刃ッ!!」
彰衛門さんの木刀に風が集まってゆく。
本気だ。
彰衛門さんは本気でぶつかるつもりだ。
彰衛門「奥義ッ!!翔王!!絶憐衝ォーーーッ!!!!」
風を巻き込みながら疾駆して、跳躍してから一気に突っ込む!
けど───
紅葉 「刀覇-鳳墜撃()-」
バガァンッ!!
彰衛門「ゴゲッ!!?」
あっさりと撃墜された。
氷雨 「………」
氷雨さんはその様子を見て動揺している。
氷雨さんが言うには、
紅葉さんが使う『刀覇』の型は氷雨さんには教えてくれなかったのだそうだ。
免許皆伝とはいえ、全てを教えるわけじゃない。
自分の力で新たな刀技が使えるようになって初めて、真の免許皆伝になるらしい。
彰衛門「チィイ!!ならば久々に───!交わらざりし命に───!!」
あ……義憐精霊斬……。
でもあれってズパァーーーンッ!!!!
彰衛門「ギャーーーッ!!!!」
やっぱり……。
隙だらけすぎるんだよね、あれ……。
彰衛門「……フ、フフフ……強いな……。感動的なまでの強さだ……」
紅葉 「貴殿が未熟なだけだ」
彰衛門「あらヒドイ!!
ぬうう……ところでさ、真剣で攻撃しても今みたいに捌けるかね?」
紅葉 「好きにしたらいい。女子供が暴君からの護身のために身に着けるのが『術()』。
ならばそもそも、相手が如何なる武器を持っていようが関係無い」
彰衛門「よっしゃ!ならば応えよう……見事その護身を我が前に示せ!
時を経て我が下へ来たれ───月操剣-ルナカオス-!!」
言って、月空力を発動させる彰衛門さん。
月操剣-ルナカオス-って……あれですよね、月操力が圧縮されている剣。
悠之慎さんが創造した、あの……
キィンッ!!
彰衛門「うっしゃあ!覚悟はよろしおすな!?」
紅葉 「変わった形の武器……面白い、受けて立とう」
紅葉さんはその剣を見ても全く怖気づかない。
その時に思った。
『この人は本物だ』と。
彰衛門「いきますよ!ルナカオスよ!我が魔気を吸い取りて力とせよ!
魔王剣技───魔王三日月剣!!」
ルナカオスの柄の中心にある黒い宝玉に三日月の形の光が灯る。
それとともに───ルナカオスから三日月型の闇の刃が放たれた!!
紅葉 「………」
でも紅葉さんはてんで動揺てんでしてない。
必要最低限の動きだけをして───なんと、それを全て避けてしまった。
彰衛門「バッ……!バケモンですかアータ!!」
ああ……彰衛門さんが心底驚いてる……。
彰衛門「チィイ!ならば───魔王半月剣!!」
彰衛門さんが腰を屈めて重心を落とす。
居合いの構えだ。
彰衛門「シィッ!!」
キュバァッ!!
掛け声とともに振るわれた剣から半月型の闇の光が放たれる!!
横一線のその光は普通に避けられるものじゃない。
それを知ってか、紅葉さんがスッと構えて───木刀を振った。
まるで無駄な動きが無い一閃。
それが───あっさりと半月型の闇の一点のみを掻き消した。
彰衛門「アイヤァアアーーーッ!!!?」
彰衛門さんは信じられないものを見たかのように叫んだ。
わたしだって驚いてる。
でも確かに……下手に動くより、一点のみを削った方が早い。
横に広い分、力が分散していて案外もろいのだ。
けれども今のは、それを一瞬で見抜く洞察力がなければ出来ないことだ。
彰衛門「カ、カカカ……!!こうなったら───!!」
あ、なにか覚悟を決めた顔だ。
こうなった彰衛門さんは本当に後先考えないからなぁ……。
彰衛門「ルナカオスよ!無尽蔵に煌く我が闇を受け取れ!!
魔王剣技奥義───魔王満月剣!!」
柄の宝玉が闇の光に飲まれる。
つまり───闇の満月。
彰衛門「チェェエエリァアアアアアーーーーッ!!!!!!」
ゴゴッッチュゥウウウウウウウウンッ!!!!!!
光莉 「うくっ……!?」
冥月 「うっ……!すごい音っ……!」
耳を劈()く轟音とともに、闇の球体が風を裂く。
紅葉さん目掛けて真っ直ぐ飛ぶそれは、
とてもじゃないけど木刀なんかでは受け止められない。
だっていうのに───
紅葉 「紅葉刀閃流───飛翔刀技の極み……」
紅葉さんは避けようともしないばかりか、構えた。
ヒュオッと音を鳴らして木刀を腰に構えて……道場の床をキュッ……と踏みしめて。
重心を落とし……今までの柔の構えじゃない、剛の構えで。
紅葉 「ッ───あぁああああああああっ!!!!」
身震いするほどの殺気と気迫とともに振るわれる木刀。
それが紅蓮に染まる。
先に見せた炎を纏う刀技に、紅葉さんの刀気が闘気が上乗せされて───
紅葉 「緋凰()!絶翔閃()!!」
ザッ───パァアアアアアンッ!!!!!
彰衛門「ゲゲェエエエーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!」
光莉 「……っ!!」
冥月 「な、ななな……!!」
腰が抜けた。
木刀から放たれた鳳凰のような闘気が満月剣を切り裂いただけじゃあ飽き足らず、
彰衛門さんの胸を横一筋に切り裂いた!!
彰衛門「ッ……!カッ……───!!」
……ドタァッ!!
結果……彰衛門さんは倒れた。
光莉 「パパッ!?」
冥月 「彰衛門さんっ!!」
慌てて近づく。
今の切れ方は危ない。
かなり深いように見えた……!
彰衛門「こ、これ!まだぞ!まだ……終わっちゃいねぇ!!」
光莉 「───!」
冥月 「なっ……無理です!その傷では!」
彰衛門「なんのなんの……!フンッ!!」
ビッタァッ!!
冥月 「うわっ!?」
光莉 「わ……」
彰衛門さん……気合だけで傷を塞いだ。
筋肉の凝縮っていうやつだろうか。
彰衛門「本当に……本当にお強いな……。
一介の人間でも極めればここまで高まるか……。
久しぶりにこの彰衛門も猛っておるわ……!」
紅葉 「妙な闘術を使うようだな……───だが。
だからこそ、わたしは負けるわけにはいかない」
彰衛門「その目だ。ヨウカンとは違う、生き生きとした目。
その目が俺を楽しませてくれるんじゃい……。
まだ……まだ終わらせるには───惜しすぎる!!くらえ!魔神剣!!」
バシュッ!
懲りず、彰衛門さんがルナカオスから剣圧を飛ばす。
それは床を滑るように紅葉さんへと向かい……あっさりと消された。
彰衛門「───魔人闇……」
けどそれは時間稼ぎだったのか、彰衛門さんは既にルナカオスに闇を集中させていた。
彰衛門「ハァッ!!」
ルナカオスの刀身が闇の光に変わるのと同時に、彰衛門さんが滑走しながら突きをする!
紅葉 「飛燕龍───」
でも、それを回転するように綺麗に避けた紅葉さんは木刀を構えて───
紅葉 「……-極輪-」
ガゴゴガガゴガゴドカカカカァッ!!!!!!
彰衛門「ウギャアアアーーーーーーッ!!!!!!!」
その回転を利用した、目にも留まらぬ連ね斬りを重ねてゆく。
さらに連打を受けてフラつく彰衛門さんから間合いを取って構える。
───居合いの構え。
紅葉 「飛燕龍-刀閃-」
静かな声だった。
けれど、その木刀から放たれた刀圧は本物。
ゾパァンッ!!
彰衛門「───!っ……は」
風を斬るような紅の闘気が彰衛門さんの体を斬りつけた。
彰衛門「もうアカン……」
どちゃっ……
彰衛門さん、とうとうダウン。
そうしてみて、改めて理解した。
紅葉さんは本当に『本物なんだ』と。
常人ならば辿り着きようが無い場所に辿り着いてしまった人なんだと。
紅葉さんからは家系の気配は全くしない。
だから……つまり、そういうことだ。
紅葉 「そこのお前。氷雨……といったか?これでもまだ私とやるか」
氷雨 「っ……」
だめだ。
氷雨さん、すっかり呆然としてる。
それはそうだ。
もし、さっきのように彰衛門さんが氷雨さんと戦っていたら、負けていたのは氷雨さん。
つまり……彰衛門さんが勝てない相手に、氷雨さんが敵う筈もない。
目指す目標が高すぎた。
それは確かだと思う。
氷雨 「───やります!」
でも氷雨さんは立った。
刀を手にして、恩ある人へと向き合った。
そこにはもう、呆然とした雰囲気はない。
紅葉 「……いい、気迫だ」
そんな氷雨さんから何かを感じたからだろうか。
紅葉さんは壁に立てかけてあった刀を手にして構えた。
氷雨 「……!」
紅葉 「感じる。お前が望んでいるのは木刀での打ち合いなんかではない。
真剣勝負……たった一本のみだ」
氷雨 「………」
紅葉 「その構え……その刀技をどう身に付けたのかは訊かないことにしよう。
全力でこい。わたしも───全力でぶつかろう」
氷雨 「───!はいっ!!」
返事の刹那、ふたりが床を蹴っていた。
瞬時に間合いをつめ、相手の速度を思考に閃かせながら。
やがて───
氷雨&紅葉『紅葉刀閃流───!!』
ふたりが同時に刀に手を当てて叫んだ。
氷雨 「最終奥義!四聖刀覇-乱れ紅葉-!!」
紅葉 「刀技の極み!神威───紅蓮絶翔翼!!」
ガカッ───バギィイインッッ!!!!
氷雨&紅葉『ッ!?』
合わさった刀と刀。
そして凄まじい剣圧は、片方の刀を砕いた。
そう……紅葉さんの刀を……。
───……。
───……。
彰衛門「勝負ありっ!!」
氷雨 「はっ───……」
紅葉 「………」
刀が折れた時点で、アタイは声を張り上げた。
コレが護身ならば最後まで見届けるものだが、真剣一本勝負に二本目の武器は無い。
つまり……砕けた時点で、紅葉殿の負けは確定していた。
氷雨 「……勝っ……た……?わたしが………………?」
夜華さん……いや、氷雨さんたら呆然自失。
アタイはそげな氷雨さんは無視して紅葉殿にインタヴュー。
彰衛門「やー紅葉殿。負けた感想はどうですか?」
紅葉 「どうもこうもない。おめでとう、というとことだろう」
彰衛門「あらら……サッパリしてやがりますのね」
紅葉 「ときに貴様」
彰衛門「オウ?ああ、あっしは彰衛門てぇ名前でゲス。彰衛門とお呼びくだせぇでゲス」
紅葉 「『貴様』で十分だ」
彰衛門「………」
この親にしてあの娘ありですな……。
この人、夜華さんにそっくりだわ……。
紅葉 「あの氷雨という女が所持している刀。あれは……」
彰衛門「ウィ?なんでも炎紅諡とかいってたけど」
紅葉 「………」
彰衛門「なにか?」
紅葉 「『夜華』は貴様のなんだ?」
彰衛門「夜華さんはアタイの最強のツッコミファクターYO!!」
紅葉 「………やはり、か」
彰衛門「へ?なにが?」
紅葉 「…………私は貴様ほど鈍い男を初めて見たぞ。あの女は夜華なのだろう?」
彰衛門「そでゲスよ?それがなにか?」
紅葉 「……隠す気もないのか……」
はて?
隠すって………………ややっ!?
彰衛門「アイヤァアアアーーーーーーーーーッ!!!!!?」
紅葉 「五月蝿いぞ」
彰衛門「あ、あの人は氷雨さんですよ!?はっはっは、なにをいきなり!」
紅葉 「隠すな。『じくういどう』とやらのことならわたしも知っている」
彰衛門「え───なんで!?」
紅葉 「わたしの来世とやらがわたしに会いに来た。それでな」
彰衛門「来世って……」
………………ギャア。
強くて偉そうで時空移動出来る人っていったらひとりしか居ねぇじゃない……。
そうか……道理で口調とか物腰とか似てると思ったら……。
彰衛門「あのさぁ」
紅葉 「断っておくが。わたしは『たばこ』とやらは吸わないぞ」
彰衛門「あ……やっぱり」
ヨウカンだ。
間違いねぇ。
紅葉 「とんでもない落胆だったんだぞ……私の来世があのような女など……。
これが悪夢ではないとしたら、いったいなにが悪夢だ……」
あらら、落ち込みまくってますね。
でもね、きっちり戦闘技術と経験は継承されてるから安心おしよ。
あの人強すぎだから。
彰衛門「でさ、夜華さんのことも訊いたん?」
紅葉 「ああ。まだここに夜華が居た頃に来たからな。
夜華の名を聞いて、思うところがあったんだろう。
面倒くさがりながらも全て話していった」
彰衛門「ははあ……」
何処に居ても自由奔放なやっちゃね。
他人のことをべらべら喋るとは……
彰衛門「んじゃあせっかくだ。何故に夜華さんを破門にしたのか聞かせなされ」
紅葉 「私は来世とは違う。
聞きたがりが長生きしないように、口の軽い者ほど長生きしない」
彰衛門「あらら……」
まさにその通り。
しかし……流石だぜ白虎さま。
こげな過去で『知りたがりは長生きしない』という名言が聞けるとは……。
◆白虎さま───びゃっこさま
魔界闘士SaGaに登場していた二足歩行の虎。
その名言といえば『知りたがりは長生きせんぞ』。
それだけ。
*神冥書房刊『猿でも出来る!神をチェーンソーで斬殺する方法』より
彰衛門「でさ、これでいいん?」
紅葉 「?なにがだ」
彰衛門「夜華さん、おんしに勝っちゃったけど。
これでこの時代に用は無くなったから帰ることになるんですが」
紅葉 「破門をしたところで信念を曲げずに刀を振っているんだろう?
だったら私が言うことは何もない」
むっ!
ピーンと来てしまいましたよ!?
彰衛門「……フッ、それが答えか」
紅葉 「だから……なにがだ」
彰衛門「アタイの考えはこうだ。おんしは夜華さんが人を傷つけるのが嫌で破門した。
それは破門すれば人を傷つけるようなことはないだろうという思い。
しかし夜華さんは刀を捨てなかった。
で、だ。おんしはこうも考えた筈だ。
もし夜華さんが刀を捨てず、その技を高めた先が歪んだものならば、
いつか自分の手で刀を持てぬようにしようと。
だけど自分の手で娘として育てた子を打つのは心苦しい。
だから、いつかそうならないように心を鬼にして夜華さんを追い出した。
違うかね?ほっほっほ、言っておくがかなりの自信があるぜ?」
紅葉 「………」
彰衛門「えぇーーーっ!!?どうなんだい!!」
紅葉 「違う」
彰衛門「ゲゲェエーーーーーーッ!!!!!」
な、なんてこったい……!自信あったのに……!
ダメなの……?所詮、アタイじゃあ物事を捉えることは出来ないの……?
紅葉 「はぁ……いいか。私の父は八房朱士といった。
どうしようもないくらいに情けない存在だ」
彰衛門「いきなり昔話っすか……」
紅葉 「或る日、朱士は金銭欲しさに……はした金で私を売った。
私は誰とも知らぬ輩に連れていかれ、そこで地獄を見た。
およそ、子供がこなすようなものとは思えない仕事を任され、
失敗すれば殴られ、休めば叩き起こされ。
泣いたところで誰も助けにこなければ、薄汚い子だと汚がられたものだ」
彰衛門「それって……」
紅葉 「ああ、そうだな。私はただ、夜華に自分を重ねたのかもしれない。
ただな、その時の夜華にあって、私に無いものがあった。なんだか解るか?」
彰衛門「誇り」
紅葉 「……そうか。やはり貴様には話していたんだな、夜華は」
彰衛門「……あのさ、『貴様』はやめません?これから、きっといい話になるんだよね?
だったらさ、貴様なんて言わない方がいい話に聞こえると思うんだよね、ボク」
紅葉 「そう、誇りだ。私は生きるためならばなんでもやった。
脱走、盗み、騙し……そう、なんでもやった」
彰衛門「無視ですか……とことん似てるなちくしょう……」
何気に悲しかった。
紅葉 「だが、夜華は違った。自分の誇りのために生きることを放棄しようとしていた。
私は……きっと嫉妬していたんだろうな。
目の前の薄汚れた服を着た子供が眩しすぎたんだ」
彰衛門「お眼々()の医者、紹介しましょうか?」
ベキャア!!
彰衛門「ホギャア!!」
紅葉 「だから最初は拒絶したりもした。だが……どうしてだろうな。
信念を曲げないその子供を育ててみたいと思った」
彰衛門「あの……何も言わずに話続けるなら、どうしてボクを殴ったの……?」
飛燕龍-凪-の構えで殴られた頬がズキズキと痛む。
すげぇ……細部に至るまで、夜華さんの比じゃねぇや……。
うう、痛いよぅ……。
紅葉 「……嬉しかった。夜華は本当に私の期待に応えてくれる娘だった。
教えたものはすぐに覚えてみせ、日を追うごとに強くなっていった」
彰衛門「フッ、そうか。ようするに自分を超えてしまうのが怖かったんだなこのカスめ」
ペキャッ!!
彰衛門「ペイッ!!」
紅葉 「私は嬉しくて、自分の得意とする技以外の全てを教えた。
夜華はやはり応えてくれ、その全てを覚えた。だが……」
彰衛門「ごへっ!ごへへっ!!は、はだが……!!」
鼻っ柱を折られました。
目にも留まらぬ早業です。
投げる手裏剣もストライクになりそうな早業でした。
つーか鼻血が止まりません……。
紅葉 「……だが。或る日、夜華は人を傷つけてしまった。
自分の誇りを守るための力が欲しいと言っていた夜華が、だ」
彰衛門「というのは出任せで、要領のいい夜華さんが妬ましかっただけの紅葉だった」
ベゴキャアッ!!
彰衛門「ギャア!!」
冥月 「妙な横槍はやめてください」
彰衛門「め、冥月さんたらなんてひどい……」
落ちていた刀の刀身で弁慶を峰打ちられました。
これは痛い。
彰衛門「……?」
冥月がここに居るってことは……氷雨さんたちは一体?
ふと気になって見てみると、
呆然としたままの氷雨さんと、その近くで『大丈夫です』のゼスチャーをする光莉が。
冥月 「続きをお聞かせください、紅葉さん」
紅葉 「……ああ。誇りを守る以外に力を振るった夜華を見た瞬間、
私の中に喩えようの無い感情が渦巻いた」
彰衛門「便意?」
サクッ。
彰衛門「いぃっでぇえええええええええっ!!!!!!!!」
大激痛!!
冥月が折れた刀身をアタイの爪先に刺しおった!!
彰衛門「キャーーーッ!!!!」
ゴロゴロゴロ……!!
アタイにしては珍しく、本気でその場で転がりまわってしまった。
それほど痛いですコレ!!
冥月 「……彰衛門さんが失礼なことを言いましたら、わたしが黙らせますから。
紅葉さんはお話を続けてください」
紅葉 「解った。……いい娘だな、お前は」
冥月 「恐縮です♪」
アナタの家では、人の爪先に刀刺す人、いい娘、イイマスか……。
うう、痛いよう痛いよう……。
紅葉 「もしかしたら私は、
自分が思っていた以上に夜華を娘として見ていたのかもしれない。
だからこそ、あんなにまでに輝いていた信念を曲げて、
理由があれど……人を傷つけてしまった夜華が悲しかった」
彰衛門「俺は無視されながら刺されてる現状が悲しいですが……」
ベキャッ!!
彰衛門「ほんごぉおおおおおおおっ!!!!!!」
無言で振るわれた木刀が、我が右足の小指を強打!!
こりゃっ……こりゃちょっ……シャレにならん……!!
彰衛門「キャーーーーッ!!!!」
ゴロゴロゴロ……!!
アタイは再び、痛みを和らげるために転がり回った。
冥月 「転がっている彰衛門さんは無視していいです」
紅葉 「そうだな」
鬼ですねアータら!!
紅葉 「その時になって思った。
もしかしたら私は、輝いていたものに影をかけてしまったんじゃないだろうかと。
それからだ。夜華が愛しかった分だけ、反動がきてしまったんだ」
彰衛門「キャア女色!?」
ゴコチャア!!!
彰衛門「ウチュチューーーッ!!!!!」
なんと!木刀で鼻を強打された!
彰衛門「キャーーーッ!!!!」
ゴロゴロゴロ……!!
さっきから転がりっぱなしだが、痛いものは仕方ありません!
ああもう涙も鼻血も止まらねぇ!!
冥月 「彰衛門さん……お願いだから静かにしてて……」
彰衛門「叫ぶのはアータが殴るからでしょ!!」
冥月 「だったら余計なこと言わずに黙って聞いててくださいっ!」
彰衛門「なにを失礼な!俺の言葉に『余計』というものは皆無ぞ!?
ナメとんのかこの小娘が!!喧嘩なら別のヤツに売れや!?
その若さで墓石入りとゥなかろうがオォ!!?」
ベゴキュッ!!
彰衛門「ギャオオォォォォーーーーーーーッ!!!!!!」
なんと!冥月さんたら折れた刀身をアタイの膝に突き刺しおった!!
彰衛門「お皿がァーーーーッ!!!!」
ゴロゴロゴロ……!!
冥月 「……もう知りません。話を続けてください」
紅葉 「あ、ああ……どこまで話したかな……」
彰衛門「フ、フフフ……その歳でボケたか……」
冥月 「………」
彰衛門「あら……」
冥月さんが恐ろしく冷たい目で、倒れたアタイを睨みました。
やがてゆったりとアタイに近寄ると、刀身をベキュッと抜き去り───
彰衛門「ギャア!!」
ひとまず痛かったので叫んだ。
───で、抜き去って血が満載なアタイの膝に、なにやら光を埋め込んだ。
さらにそこらへんに飛んでた蚊をそっと捕まえると、その蚊にも光を埋め込む。
な、なにやらとんでもなく嫌な予感が……
冥月 「彰衛門さん。今、彰衛門さんの膝に『先死爆の法』を埋め込みました。
トリガーはこの蚊の死亡です」
彰衛門「え……」
先死爆って……なんかどっかで聞いたような……。
彰衛門「あ」
思い出しましたよ?
確か先死爆の法っていやあ……かつて先輩殿が悠介の頭に埋め込んだ月醒力じゃん。
何かを条件に爆発するっていう光を───
彰衛門「……え?」
どっと汗が出ました。
え……じゃ、なに?
アタイの膝の命運が、あげな蚊ごときに握られてるってことですか……?
彰衛門「………」
こうしてアタイの、蚊を守る旅が始まった……。
───……。
紅葉 「やってきた反動は、夜華への落胆へと変わった。
私はその日を境に、夜華の目を見れなくなっていたんだ」
冥月 「自分が間違っていたのでは、と思ったから……ですか?」
紅葉 「そうだ。私には……刀しかなかったんだ。
だから、自分が信じた道が間違っているのではないかという想像が、
いつだって怖かったんだろう」
冥月 「………」
紅葉さんは苦しそうに語ってゆく。
それは本当に懺悔のようなお話で……
今にしてようやく、紅葉さんが篠瀬さんを破門したことを悔いていたことに気づいた。
紅葉 「私は……自分がまた、あの惨めな自分に戻ることを拒絶した。その結果が……」
冥月 「篠瀬さんを追い出すこと……」
紅葉 「……そう、だ」
ようやく解った。
それは幼い頃から人並みから外れた生き方を強いられた人の行動だった。
誰もが最初から強いわけじゃなくて。
誰もが戻りたくない過去の自分を持っている。
紅葉さんの場合、つまり……子供の頃の自分が、まさにそれだったんだ。
紅葉 「だが、心の何処かで夜華が悪いわけじゃないという心もあったんだろう。
私が渡したその全てを奪って追い出すつもりが……
もっとも大事にしていた『宝刀・炎紅諡』を持たせたままに追い出した」
冥月 「……そうですね。もしその時に炎紅諡を渡していなかったら、
ここで折られていたのは篠瀬さんの刀だった。
……いえ。そもそもこんな邂逅すら有り得なかった。
篠瀬さんは何処かで心を砕いて、亡くなっていたでしょう」
紅葉 「……そうだな。世の中……どれが善行に転ぶのかが全く解らない」
冥月 「でも……それでいいんだと思います。
篠瀬さんは楽しそうに刀技を振るう日々に身を置いていますし、
好きな人も出来ました。それはきっと……
この場所に留まっていたら手に入れることが出来なかった歴史です」
紅葉 「……ああ、そうだな」
どこか寂しそうに……だけど、それでも嬉しそうに……紅葉さんは小さく微笑んだ。
紅葉 「ひとつ訊きたい。……夜華は、今……幸せだろうか」
冥月 「あ……」
その問いをする紅葉さんの顔が……険が剥がれた『母親』の顔だったから。
わたしは自然に、微笑みながら自信を持って答えた。
冥月 「ええ……もちろんです」
紅葉 「………」
紅葉さんはその答えに返事をせず、ただ……わたしの目を見ながら微笑んだ。
わたしは『親の心』っていうのを少しだけ感じることが出来たような気がして……
どこかくすぐったい気持ちのままに、彰衛門さんへと振り向いた。
光莉 「あ、ママ!蚊が……」
彰衛門「アイヤァアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!」
ぱんっ───ボッゴォオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!
彰衛門「ウギャアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーッ!!!!!!!」
光莉 「ひうっ!?パ、パパァアーーーーーーッ!!!!!」
…………くすぐったい気持ちは、蚊の命と彰衛門さんの膝とともに消し飛んだ。
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