───地上最強猫列伝『第三章◆凄絶!人知を超えてそうな猫!の巻』───
───……それから一週間後。
夜華さんはようやく、小川への道のりに辿り着いた。
あとはもうちょっと進めば、村の人々が川の水を汲む場所に辿り着く。
恐らくは楓もそこに来るのでしょう。
───ちなみに冥月さんは、
さっそく夜華さんに刀技を教えてもらうため、道場へ転移しました。
そげなわけで、ただいま拙者はひとりです。
猫 「目標補足!降下します!」
デッテッテ〜テテ〜〜ン!!
空からの降下時の忍者猫音楽を鳴らしつつ、空を飛んでいた俺は小川へ向けて落下した。
猫 「イヤアッハァーーーッ!!───うぉおおおおっ!!
ちぃいーーーびぃいいーーーるぅうーーーーっ!!!」
猫の姿での浮遊は実に恐ろしいものでした。
何故かって……ほんとに何故か、鳥さんたちが寄ってくるんですよ。
飛ぶことより追い払う方に疲れたよあたしゃ。
ゴォオオオオッ───スタッ!!
猫 「フッフフ……」
見事に地面に着地した俺は、二足歩行で夜華さんの後を尾行た。
───しかし次の瞬間!!
追剥ぎ「おーおー!随分とまた可愛い獲物が来たじゃねぇか!!」
……追剥ぎ再び。
この時代ってそんなに追剥ぎに溢れた世界だったのかね?
夜華 「しつこいな……」
追剥ぎ「おーおー!俺っちはお前さんに会うのは初めてだぜぇ!?
それでしつこいとか言われりゃ俺っち傷ついちまうよ!?
まあそんなわけで……───有り金全部置いてきな」
クズですな……。
結局することは追剥ぎですよ……。
夜華 「断る」
追剥ぎ「おーおー!そんな言葉、俺っちには理解できないねえ。
黙って置いていきゃあ傷つけやしないぜ?
だが……まあ、お前さんみたいな可愛い娘なら、襲って───」
猫 「クズが!」
追剥ぎ「あんっ!?誰だ!!」
追剥ぎが振り向く!その先には格好良く腕組をした我輩が───
追剥ぎ「───……誰も居ねぇじゃねぇか」
……立ってませんでした。
いや、立ってますけど足元に居るもんだから気づいてもらえてない。
カッコ、つきませんねぇ……。
猫 「オウコラ、シカトこいちゃってんじゃあねぇぜ!?」
追剥ぎ「あんっ!?誰だっ!!」
猫 「下じゃよ下!声の聞こえる方をまず見ようよ!ね!?」
追剥ぎ「あんっ!?……───猫?」
夜華 「っ───!!」
追剥ぎが首を傾げる中で、夜華さんが大層驚いた。
まあ……聞くところによれば、俺は夜華さんのお肉を食っちゃったらしいし……。
追剥ぎ「……耳でもおかしくなったか……?猫が喋ったような……」
猫 「我輩は猫である」
追剥ぎ「───……」
追剥ぎ、硬直。
夜華さん、全力逃走。
俺、夜華さんを全力追走。
夜華 「うわっ───うわー!うわー!!何故わたしについてくるんだぁあっ!!」
猫 「お待ちになってお侍さん!
僕は噛んじゃった傷口をナメナメしたいだけなのです!」
夜華 「わ、わわわわたしは美味しくないっ!!味見をするまでもないんだぁっ!!」
猫 「ナメナメってそういう意味じゃあありませんよ!いいから止まりなさい!!」
夜華 「嫌だっ!止まったら食うんだろう!騙されないぞ!!」
猫 「な、なんと!最初っから信じる気がないとな!?
こォのタコ助!!ゆでるぞコラァ!!」
夜華 「うるさいうるさい!!ゆでてもわたしは美味しくない!!来るなっ!!」
猫 「嫌でゴワス!!解ける誤解は解かねば気が済まんのですよ俺は!
たった今そう決めた!だからお待ちなさい!
おなごを傷つけたままでは夢見が悪いでしょう!?」
夜華 「傷なら治ったんだ!だから来るな!」
猫 「ウソつけこの野郎!そんな大ボラで騙されるこの猫か!!
貴様に再生能力などないことは知っておるんじゃクラッ!!」
夜華 「修行僧に治してもらったんだ!だから傷なんてないっ!!」
猫 「馬鹿かねキミは!!
そんな都合のいい修行僧なんぞがこの時代に居るわけなかろうモン!!
大ボラ吹きたいならもっと夢のあるホラ吹きなさい!ゆでますよ!?」
夜華 「ゆでても美味しくないと言っただろう!!付いてくるなぁっ!!」
むう……強情ですねぇ。
人───じゃないな、猫がせっかく恐怖心を紛らわせてやろうと、
バク転で追いかけてやっているというのに。
ああ、ちなみに何故バク転かというと、
人がバク転とかしてたらさ、ほら、なにやら気になって見たくなるじゃない?
いわばこれは、人の心理を利用した行動なのです。
ほら、その証拠に夜華さんだって……───恐怖に怯える表情で全力疾走してますし。
猫 「───ダメじゃん!!」
思いっきり逃げられてるじゃん!!
チィイ!大道芸のありがたさが解らんヤツめ!
猫 「これ!お止まりなさい!この小川で無防備に行動しては───」
化け物『メシだぁ〜〜っ!!生ぎのいいメシがやっでぎだぁ〜〜〜っ!!!』
猫 「やっぱ出たぁーーーーっ!!!」
ご無沙汰です、妖怪腐れ外道OS搭載の化け物さん。
化け物『だぁ〜〜〜っ!!』
ガッシ!
夜華 「くうっ!?う、わっ……うわっ……!?」
化け物『たまんねぇだ……いだだぎまぁず!!』
夜華さん、あっさり捕まるの図。
それは腐れ外道出現から約6秒もの間の出来事でした。
あの……もうちょい細かく動いてもらえませんか?
こうもあっさり食われそうになる夜華さんって……呆れてものも言えねぇやね……。
猫 「食わせるか!ロシアンブルー流奥義───口から爆裂魔光砲!!」
説明しよう!ロシアンブルー流奥義・口から爆裂魔光砲とは、
口に月醒力を溜めて放つという画期的な奥義である!
コォオオオアァアアア……ドチュゥウンッ!!
化け物『あぁ〜!?』
ボッゴォンッ!!
化け物『ぐえぇっ!?』
イエス!爆裂魔光砲は、見事化け物の腕を吹き飛ばしてくれました!
俺はその隙に、落ちてくる夜華さんを両手で受け止め、腐れ外道から離れた。
夜華 「うわぁあああああああっ!!!!!」
猫 「これ!助けてやるってのに俺に対して悲鳴をあげるとはなにごとかね!!」
しかし気持ちは解らんでもないです。
だってね、両手で人を抱きかかえる子猫って……
想像するだけでも不自然だってのに、俺が実際やってますし。
しかしまあよかったよ。
どうやら筋力に影響は無いらしいです。
まあその所為で、凄まじい不自然空間が出来上がってるわけですがね?
猫 「あの化け物はそうそう死ぬようなヤツじゃないのです!
おなごが戦おうなどと考えるべきじゃない!」
夜華 「た、戦おうなどと考えた覚えはない!」
猫 「嘘おっしゃい!!」
夜華 「嘘ではない!!」
しっかし……くそ!体が子猫の所為で、夜華さんを抱きかかえて走るってのは正直ツラい!
どの道、大人でもなんでも、体が猫なら結果は同じやもしれませんが。
化け物『はらへっだ〜〜!!はらへっだ〜〜〜!!』
夜華 「おいっ……追ってくるぞ!」
猫 「シャラップブタ野郎!ヤツならこの猫がなんとかいたそう!
貴君はこの小川の上流に走りなされ!」
夜華 「なに……?猫、貴様はどうする気だ」
猫 「フッ……知れたこと。貴様も武士ならば我輩の言葉の真意、解るだろう?」
夜華 「いや、さっぱり解らんが……」
猫 「あらそう……」
猫の気持ちってのはまず解らん。
気まぐれですし。
猫 「我輩はここでこの化け物を食い止める故。
貴君はこのまま走りなされ。さ、降ろしましょう」
夜華 「なっ───馬鹿な!食われてしまうぞ!」
夜華さんを降ろしてやると、夜華さんが俺を見下しながら言ってくる。
猫 「オウコラ!なに見下しとんのじゃオルラッ!!」
夜華 「見下してなどいない!貴様は猫だが確かな強さを持っている!
何故わたしを襲った貴様がわたしを助けてくれるのかは解らない!解らないが!
わたしは自分を助けてくれる者がみすみす死ぬのを黙ってはおけないんだ!」
猫 「夜華さん……」
くっ……思わずジ〜ンとくること言ってくれるじゃあねぇか。
だが……
夜華 「貴様……何故わたしの名を?」
猫 「猫はですね、長生きするといろいろなものが出来るようになるのです。
拙者、見た目こそは子猫であるが、齢300を超える猫でござる」
夜華 「そ、そうなのか……?」
猫 「さ、もういいでござろう……行きなされ。
拙者、己が死ぬような戦いはもうしないでござる。
誓いましょう、必ず勝つと。見送ってくだされ、武士殿」
夜華 「猫……貴様……」
屈んで俺を見下ろす夜華さんの目は、既に我輩を恐れる目ではなかった。
まるで同じ武士を見るような、誇りに満ちた目だ。
夜華 「解った……死ぬなよっ!」
猫 「フッ……望むところですじゃ」
俺は爪をギシャンと伸ばし、転がってくる化け物に向き直った。
声 「猫……名を、聞いておく」
ふと、背後から聞こえる声。
その声に俺は、小さく笑うように答えた。
猫 「……戦猫」
声 「……死ぬなよ、戦猫」
やがて遠ざかる足音を耳に、俺は耳をパタパタと動かした。
そして目の前に立つ巨大な化け物を見上げる。
戦猫 「さあ……始めようか。この場所の、最強を決める戦いを───」
化け物『もぉ我慢できねぇなぁああ〜〜〜っ!!!!』
戦猫 「“冥府誘う深淵の災い()”モード・フレイア。“闇薙の斬命鎌()”……」
───……。
化け物『人間だぁ〜!人間だぁ〜!』
化け物『ハラ減っだぁ〜〜〜!ハラ減っだぁ〜〜〜っ!!』
化け物『るぅううううぅうぇえあああぅううぁああぅううぉぁああああぅううう!!!』
化け物『もぉ我慢できねぇなぁ〜〜〜っ!!!』
化け物の追跡は止まない。
次から次へと沸いて出て、わたしを執拗に追ってくる。
夜華 「くっ……!逃げるしかないとは……!」
ふと自分が滑稽に思えた。
戦う術を持っているというのに戦わない自分が。
ああ、そうだな……先ほどの猫は勇ましかった。
最初こそ驚きもしたが、背中合わせに立った時のあの猫の気配……。
あれは紛れも無く、誇り高い武士の気配だった。
人間かどうかなど関係無い。
あの猫は確かに、わたしがどの男と出会った時にも感じなかった力強さを持っていたのだ。
口調こそおちゃらけていたが、あの堂々とした態度はどうだ。
あの猫は……紛れも無く、やる時はやる猫だったに違いない。
夜華 「だが……」
体格差がありすぎた。
あの猫がどれだけの実力があろうと、あの体格差だ……おそらくもう───
化け物『だぁ〜〜っ!!』
夜華 「ハッ───!?」
───迂闊。
なんて馬鹿な。
思考に夢中になり、化け物の気配に気づかぬなどと……!
化け物『でゃぉよぇぁっ!!!』
腕が振るわれる。
骨が突き出ているような鋭い腕が。
おそらくあの腕に穿たれ、わたしは───シュピィンッ!!!
化け物『……だ?』
振るわれた。
腕は……振るわれた。
だが……肘から先が、その腕には存在しなかった。
化け物『うぇ?うぇええ?』
化け物も首を傾げる。
だが、その化け物の後ろにそいつは存在していた。
鋭く、さらに鈍く光る鎌を手にして。
戦猫 「せっかくだし、キミら災狩してあげます。
災いって部分は間違っちゃいないだろうしね。
“冥府誘う深淵の災い()”モード・メルティア。“不浄を滅する災狩の大鎌()”……」
猫……いや、戦猫がそう唱えると、鎌が形を変えた。
巨大な、だがどこか綺麗な気配を感じさせる鎌へと。
戦猫 「どこからでもかかってきなさい……」
そんな巨大鎌を構える子猫が凄まじく滑稽に見えたが、
どういう原理か……きちんと持っている。
化け物『だぁ〜〜っ!!』
戦猫 「ショラッ!!」
ゾフィンッ!!
化け物『だ……?だぎゃああああああっ!!!!』
ブシュッ……バシュウウウ……
戦猫が閃かせた鎌の軌道が化け物を薙ぎ払う。
驚くことに、軽く切っただけだというのに化け物は腐り果てたかのように崩れてしまった。
戦猫 「フ……どうやらビンゴらしいぜ?
───てめぇらの災い、全て狩ってやるから覚悟しやがれ」
化け物『オメ……なに?オデたちの邪魔、ずるぎ?』
戦猫 「鈴は無いが鈴に慄()け!!我こそは時を駆ける猫───戦猫ぞ!!」
ガコォンッ!!
戦猫の持つ鎌の石突きが小川前に転がっていた石を砕いた。
戦猫 「さあ……この猫に屠られたい者から前に出て来い。
だがしかし、前に出るということは死に順ずることと知れ」
化け物『オメ……オデたちの邪魔、ずんな!!』
化け物『ぐっぢゃえ!』
戦猫 「言っておくがこの猫は……強ぇぜ?」
化け物『だぁ〜〜〜っ!!』
ガブリ。
戦猫 「ギャッ!?」
夜華 「あ……」
戦猫が背後から襲い掛かってきた化け物に食われた。
化け物『ごいづ、神力と魔力が溢れでる!美味ェエエエ!!踊り食いだぁ〜〜っ!!』
戦猫 「なっ───ちょっ……ちょっと待てーーっ!!お、俺は独眼鉄!!
き、貴様ごときに負け───アイヤァアアーーーッ!!!」
ゴクリ。
夜華 「あ……あああ……」
丸飲みされてしまった。
化け物『はらへっだ〜〜!!はらへっだ〜〜〜!おでにもぐわぜろ〜〜っ!!』
化け物『だぁあ〜〜〜っ!!』
がぶしゅっ!!ざく、ざくざく……ぞぶしゅっ……!
化け物は、戦猫を食べた化け物を囲み、皆で食い始めた。
共食い、というものだろうが……化け物の共食いほど気持ち悪いものはない。
夜華 「……っ……うぶっ……」
腕が食われ、肉が削げ、骨が露出して内臓が破れ。
そんな恐ろしい光景を目の当たりにしたわたしは、思わず吐いてしまいそうになる。
───だが、そこで変調は起きた。
化け物『あで……?』
ドチャッ。
化け物を喰らっていた化け物の腕が落ちたのだ。
何故?と目を凝らす。
すると、食われていた化け物の内臓から飛び出ている刃物があった。
───まさか。
バリッ!メキメキ……ジュボッ、ゾボボ……!!
戦猫 「オエエッ!!ゴエッ!!
くっさぁああーーーっ!!!ギャオォオオーーーッ!!!」
……猫だ。
戦猫が、内臓を鎌で切り破って出てきたのだ。
戦猫の体にはいたるところに胃液のようなべとべとしたものが付着していた。
離れていても届く悪臭……あの猫自身、そうとう臭いに参っているだろう。
戦猫 「あーくせ!うおおくせぇっ!!ぜ、絶対に許さんぞ虫ケラども!!
ジワジワとなぶり殺しに───あ、あれ?」
だが怒りを露にするのも束の間───
化け物『メシだぁ〜〜〜っ!!』
化け物『はらへっだ〜〜〜!!はらへっだ〜〜〜!!』
戦猫は化け物どもに囲まれていた。
なんとかしてやりたいが、この数だ……どうすることも出来ない。
戦猫 「どこまでメシに拘れば気が済むんですかアータら!!
あのですね!?あたしゃ一刻も早く体洗いたいの!解るかね!?
解ったらお退きなされ!私はキミ達がなにを言いたいのかさっぱり解らんよ!!」
化け物『ぐわぜろ!』
戦猫 「いやですじゃ!───これ!そこなお嬢さん!さっさと行きなさい!
ここから上流に上がれば、まだ人も居ませう!」
夜華 「だ、だがそれでは貴様が……」
戦猫 「こォのタコ助!ゆでるぞコラァ!貴様は戦わないと決めたのでしょう!?
だったらここに居てなんの役に立ちますか!
解る!?解るならとっとと行きなされ!!」
夜華 「っ……」
戦猫の言う通りだ。
わたしは戦わないと決めたのだ……こんな場所に居ても邪魔になるだけ。
ならば戦猫の言う上流に行き、人が居るならば助けを呼んだ方がいい。
戦猫 「振り返るなよ!目一杯飛ばせェエーーーッ!!」
夜華 「許せ……!死んでくれるなよ、戦猫!!」
戦猫 「フッ……最強に生きるんだぜ……?ここは我輩が預かった!行けェエーーッ!!」
言われた通りに走った。
決して振り向かずに。
やがて聞こえる騒音と、化け物の叫ぶ声。
息を切らしながらもその騒音から逃げるように走った。
駆けるための力が尽きても歩き、歩く力が尽きても這い。
そして……いつしか気を失っていたことに気づくと、
目を開けた先にやさしそうな女が居た。
名を簾翁楓。
のちに、わたしがその人のために刀を振るうと誓うことになる人が、
視線の先で穏やかに笑っていた。
けど───耳を澄ましてみても、もう騒音は聞こえず……───
わたしはその時代で病に倒れるまで、もう二度とその猫と会うことは無かった。
───……。
ガタタタタタタ……!!
戦猫 「怖ェエ……!!怖ェよ……!!勘弁してくれよぉ……!!」
化け物全てを災狩してから数分。
俺は───恐怖していた。
『何に』って……俺の姿を映す、その水面に。
戦猫 「馬鹿な……!お、俺は戦猫だぞ!?水が……水が怖いなどと!!」
ピチョン。
戦猫 「おぉひゃぁああああああああっ!!!!」
軽く触ってみても怖い。
飲む分には平気だというのに、どうしたことか……!!
戦猫 「勘弁してくださいよぉ〜〜〜っ!!マジヤバイッスよぉ〜〜〜っ!!」
体に纏わりついた化け物の胃液が乾いてきました。
そうなるとより一層臭くもなるし落としづらくもなる。
だがしかし……はああ……!!
怖い……水が怖くて仕方がないのですよ!!
かつて、これほどまでの恐怖を感じたことがあったでしょうか!?
戦猫 「否ァ!!断じて否ァ!!」
本能から恐怖が溢れ出るこの感覚……!こりゃあ蛇()だぜ!?
だがしかし水に入って体を洗わなけりゃ臭いし……ああもう!!
戦猫 「南無三!!」
アタイは覚悟を決めて流れる水面にダイヴ!!
ゆっくり入ろうとするから怖いんだッッ!!
一気に入ってしまえばどうとでもなるぜ〜〜〜っ!!!
───ばっしゃああああああんっ!!
戦猫 「ゴギャアアーーーーーーッ!!!ヴニャニャニャニャニャーーーーッ!!!!」
……ダメでした。
恐怖が本能を支配し、人の言葉すらも喋ってられない事態が俺を襲いました。
さっさと飛び出たいところだが、恐怖に体が硬直しちゃってます。
な、流されるだけですか……?勘弁したれや……。
い、否……!クレバーになれ!
こうして思考が動かせる内はまだ余裕がある証拠……!!
戦猫 「ヴニャーーーッ!!」
でもダメです。
思考は動くけど、体が猫の本能に持っていかれてる。
フフフ、どうやらここまでみてぇだ……。
ドドドドドド……
……む?
なにやら聞こえたような……気の所為?
ドドドドドドドド……
や、聞こえるって。
なにやら物凄く嫌な予感を彷彿とさせる何かが。
ドザザザザザザザ……!!
え……?
こ、これってもしかして……
ザアアアアアアアア……!!!!
た、滝!!?
ぬおお!逃げねば!死ぬ!マジで死ぬってこの姿じゃあ!!!
戦猫 「ゴニャーーーーッ!!!!!」
ザパリッ───……
……落ちました。
それはもう、岩場から海に落ちるチャトランの如く。
だが!そこにこそ勝機はあったのだ!!
戦猫 「カァーーーーッ!!!」
体が水から離れた刹那、感覚が自分のもとへと戻ってきた!!
これを逃す手はねぇぜ〜〜〜っ!!
戦猫 「煌けシステムナム!出でよ黒衣!!」
───バサァッ!!
まずはシステムナムを起動させて黒衣を出現ッ!!
それをジャストフィットさせたのち、黒衣のマントを翼のように変形させ、空を飛ぶ!!
バサッ……バサッ……!!
戦猫 「───おお!意外だけどちゃんと浮けるぜよ!!」
月空力無しで飛べるたぁ……さすがだぜ子猫!
伊達に軽くない!!
戦猫 「ほっほっほ……これは面白くなってきましたよ?」
この姿で居るのも悪くない気がしますな。
深層意識の中では『弦月彰利』では居たくなかった俺ですし、
案外このまま戦猫として生きるのもよいかもしれません。
なにより月光力も使えるし、人語も話せるし鎌も出せる!!
人の中では夢破れた『最強の道』……この猫の姿なら、或いは……!!
『猫の中の猫』……キャットオブキャッツを目指せるのかもしれません!!
戦猫 「……生きてるって感じがするよ……。
強制されたものではない、自分の奥底から湧き出した生きる目的……。
それを手に入れた今なら、俺にも『夢』ってもんが見られる気がしますな……」
こうして俺は夢を手に入れたのでした。
いや……よく解らんが、目的は出来ました。
噂では遙か過去から現代において、
神降のある場所の付近に『桜』と呼ばれる最強猫人が居ると聞いた。
まずはそやつを猫神様として、探しに行きましょう。
そこから始まるのだ……猫がもっと自由になれる時代が!!
戦猫 「ムン───……よし、夜華さんの気配も感じる。
その傍にあるのは神の子の波動……これは楓のものじゃな。
夜華さんは辿り着けたということじゃ……」
俺の体の臭いも一応取れたみたいだし……ああ、これで我が目的も果たされた。
思えばメシに困ってばかりの旅じゃったね……。
さあ、帰ろうか。
紅葉刀閃流道場へ……。
戦猫 「せっかくだからお空を飛んで帰るとしますか。
こう……腕を組んで、立っているような状態で……」
ゼノギアスのグラーフのように空を飛ぶ。
やっぱねぇ?空飛ぶなら腕組みしたいよね?
戦猫 「さ、参りましょうか……」
今頃、光莉さんも冥月さんも夜華さんも首を長くして待っておるよね。
───…………。
お空を飛んで、早三日。
戦猫 「……道に迷った」
やべぇ……やべぇよこれ。
俺、どっから来たんだっけ……?
戦猫 「くっそ……」
棒状の鰹節をガリョガリョと噛みながら飛ぶ。
さすがにまた暴走するわけにもいかんので、未来から転移させたものです。
いや……美味いねこれ。
猫になって初めて、鰹節の真の味を知った気分ですよ。
でもさすがにペディグリー系は食べません。
あれは飼い猫が食うものであって、我輩は野良猫である。
だから食いません。
戦猫 「まあなんにしても……こりゃあひと雨きそうじゃわい。
どこか雨宿り出来るところを探さんとね」
ちなみに雨に打たれそうになった時、雲の上に行きましたが……寒すぎ。
空気も薄いし、やってられませんでしたよ。
戦猫 「そげなわけで、なんとしても雨宿り出来る場所は探さんとね……むむっ!?」
なんと……あれに見えるは神社じゃあございませんか!!
戦猫 「ヒャッホウ!!雨宿り出来る場所見ぃいーーーっけ!!!」
俺はマントをはためかせつつ、神社目掛けて急・降・下!!
シケそうなお空はちと寒いよって、さっさと雨宿り出来る場所に辿り着きたかったのです。
だが───その時でした。
───のちに俺は語る。
『ええ……まるで悪夢のような出来事だったゎぁん』と。
───そう!その神社とは『神の子が作る神社』だったのです!!
ようするに神力満載!!我ら月の家系や死神の天敵力場!!
慌てて体勢を立て直そうとしましたが、既にアクシデントは始まっていたのです!!
───のちに俺は語る。
『マントがね……動かなくなっていたんですよ。マントも死神の黒衣の一部でしたから』
戦猫 「ゲゲッ!?マントが動かぁーーん!!おわぁーーーっ!!!」
絶体絶命!
グラーフの登場シーンのように地面スレスレで腕を組みつつ止まりたかったんだが、
もはやそげなこと思ってる場合じゃなくなっていた。
───一方、どこかの風景。
小僧 「あっ、母上っ!流れ星っ!」
母親 「ん……そうかい。よかったねぇ……」
小僧 「母上母上っ、ほらっ」
母親 「ん……そうかい?よかったねぇ……」
小僧 「見てったら!綺麗な流れ星だよ!」
母親 「ん……そうかい。よかったねぇ……」
ドッゴォオオオオオオオオオンッ!!!!!!
戦猫 「ギョエェエエエエーーーーーーーッ!!!!!!」
止まる術を失ったアタイは見事に顔面から着地。
まるでメテオのように大地に降り注いだ俺は、それはもう大激痛だった。
戦猫 「痛やあぁあああーーーーっ!!!!
ギャオォオーーッ!!いたやぁあーーーーっ!!!!」
さっそく月生力を発動させるも、傷の治りが遅い。
グウ……さすがは神の場。
月生力自体が神側の力だったとしても、
俺の体が死神側じゃあそうそう上手くはいかねぇですかい……。
戦猫 「だ、だがしかし……雨に濡れるよりかはマシだ。
ひとまず雨が降って、さらに止むまではここで我慢だ……」
さて……そうは思ったところで、ここって誰か居るんかな。
居るなら鰹節を分けてもらいたいんだが……。
ヒタヒタと二足歩行し、神社周りを偵察することにした。
戦猫 「───ムムッ!神の子の気配!近いわよゴメス!!」
体に緊張が走る。
俺は極力、自分の中の月操力を神側に傾けることで、死神の気配を殺した。
さあ……どのようなツラか拝んでみましょうか……?
戦猫 「どれ……」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
俺は神社の支柱の影から顔だけを覗かせるようにして、
神の子の気配のする場所を盗み見た。
これぞ覗き奥義『ローリングストーン(ズ)』!!
戦猫 「……おや?」
覗き見た縁側。
そこには……ひとりのおなごが座っておがったとしぇ。
しかもあやつ、確か南無の記憶の中にある神の子のひとりじゃないですか。
確か、ぶっちゅした神の子じゃない方の……なにしてはるんかな。
戦猫 「たそがれとりますなぁ……」
おなごは縁側に座りながらボ〜〜〜ッとしていた。
いかんぜよいかんぜよ、若い者があんな状態じゃあいかんぜよ。
ここはこの猫が元気づけて……やりたいところだが、
神側の者にそうそう関わるわけには……。
もし抱かれでもしたら俺……神力に押しつぶされちゃいますよ?
そうなれば死神側の力を引き出して全力で抗う他ないわけで。
そうなったらあっという間に俺が戦猫だとバレてしまうわけで。
……グウウ。
戦猫 「まあいいや。隣に座って一緒にたそがれるくらいなら大丈夫でしょう」
俺はなるべく普通の猫を装うように、ヒタヒタと神の子に近寄った。
神の子「………」
戦猫 「………」
目が合った。
ここは……うむ!!
戦猫 「んにゃ〜〜〜〜〜〜ん」
やはり人と目が合った猫ならば、こう鳴かねば。
神の子「………」
しかし無視された。
……ひでぇ。
戦猫 (ま、いいコテ)
なにか思うところでもあるのでしょう。
しからば俺は、このおなごの傍で時でも待つとしましょうぞ……。
戦猫 (ジャガー目潰し!!)
体育座りで。
フフフ……未だかつて、体育座りをした猫などおるまいて。
確かに猫の座り方は体育座りに近いものはあるが、
地面に前足を付けていては体育座りとは言えないという定義に基づき、
猫の座り方は体育座りに足り得ない!!
戦猫 (見よ!この膝に乗せた前足!!これでこそ体育座り!!
かなりバランス保つのがキツいが、これでこのおなごも驚いて元気に───)
神の子「………」
……見てねぇし。
もういいです……俺、キミが見てくれるまでずっとこうしてますよ……。
───……二時間後。
戦猫 (………ッ!!)
雨が降る景色の中、俺は体の痺れに必死に耐えていた。
ひとまずは一緒に住んでおるらしいおなご……確か『那波』と申したか?
そやつとの会話で、このおなごが『空』という名の神の子だということが発覚。
だからどうだというわけでもなく、いい加減に俺のことを見てほしかった。
那波とやらもチラリと俺を見てはくれたものの、どこか興味がなさそげに去っていった。
まあ……なんつーんでしょうね、あの顔はおめぇ……あれだ。
悪霊かなんかに取り憑かれてる顔だぜ?
だがまあ、この神社の中ならそうそう悪いことも出来ないでしょう。
だから放置ネ。
俺も猫であるが故、大っぴらな事はできないし。
───……三時間後。
戦猫 「寝やがった……」
通り雨だったソレはさっさと過ぎ、今ではポカポカと陽光が差している。
隣にお座りになっていた空さんはというと、
その陽光に当てられて無邪気な顔で眠っておられた……。
まあしゃあないやね、こう気持ちよい日差しに当てられちゃあ眠りたくもなるさね。
戦猫 「むむっ!?」
ふと、刺すような視線を感じた俺は、ババッと振り向いた。
するとそこには、こちらをじ〜〜っと睨みつける那波さんの姿が。
やべぇ……今思いっきり人の言葉出してたよね、俺。
もしかしてバレた?だからこげに睨まれてんの……?
戦猫 「オ、オウ!?なんじゃコラ!猫が喋るのがそんなにおかしいかね!!」
…………すげぇ、無視です。
完全にシカトしてくれちゃってます。
だったら睨むのも勘弁してほしいんですがね……。
戦猫 「フ、フフフ……そりゃね、俺だってこんな格好だ。
気づかれないなんて思っちゃいないね」
黒衣を摘み上げてみせる。
だが無視……ひどすぎません?
戦猫 「我輩は『黒衣を身に着けた猫』。長靴を履いた猫に似てるが、気にしないでくれ」
自己紹介してみる。
……でも無視。
戦猫 「………」
那波 「………」
もういいです……この人ヒドイ人。
悪霊の所為かもしれんけど、何か話してくれたっていいじゃない……。
───……。
しばらくすると那波殿は去っていった。
俺はというと空神様()の腹の上に乗り、ジャガー目潰しをしていた。
戦猫 「フッ……これで起きた時には嫌でも気づくだろう。
その時こそ貴様のたそがれが終わる時……」
俺はその時を待つことにした。
───……二時間後。
戦猫 「やべぇ……眠くなってきたよ俺……」
だがしかし、寝るわけにはいかない。
俺は空神様に『猫でも体育座りが出来ること』を知らしめなければならんのだっ……!!
戦猫 「俺はそれを知らしめるためにこの世界に降り立ったっ……!!」
などと無頼伝涯をしてる場合ではなくて。
耐えろ……耐えるんだ……!
俺はこのおなごに猫の素晴らしさを教えねばならんのだ……!
戦猫 「……あれ?なんか目的変わってるような……」
ブオッ───
戦猫 「ややっ!?キャーーーーーーッ!!!!」
それは突然のことでした。
眠っていた空神様が寝返りをうった途端、
その拳が鋭く風を裂くように振られ───ドバァンッ!!!!
戦猫 「ブベェエーーーイ!!!!!」
見事、俺の顔面を打ち抜きました。
お陰で俺はお空を飛ぶハメになり、本日の記録は36メートルだった。
どういうパンチ力しとんのですか……?
神の子って攻撃的じゃないって楓が言ってたのに……。
強いじゃない……強すぎるじゃない……。
戦猫 「ぐふっ……げほっ……!!ね、猫でも鼻は折れるんだ……」
知らなかった。
でもお陰で鼻血も出てる。
猫の鼻血なんて初めて見るが、自分が出しても珍しくもない。
戦猫 「強いな……感動的な強さだ……」
バサリ……
戦猫 「この勝負、次まで預けておきましょうぞ……。
今度会ったその時こそ、貴様が猫の素晴らしさを知る時……!
せいぜいその時まで、その無邪気な心を忘れずにいることだな……フハハハハ!」
マントを広げて、その場をあとにした。
でも……なんでしょうね?
何故かあの空神様、清い心のままではいられないような気が……気の所為ですかね。
戦猫 「では拙者は帰りますゆえ。夜は冷えるからぬくくしてろな」
そう言って空を飛んだ。
……うむ、マントの力と月空力を合わせれば、コントロールは可能ですな。
浮遊も安定してます。
あとは……
戦猫 「……フッフッフ……だがな、小娘よ……。
俺はやられたらやり返さねば気が済まぬのだよ……。
先ほどの熱き拳、骨身に染みました。マジで。だからですね……」
倒れた時に拾っておいた小石をチャッチャッと弄ぶ。
やがてそれを握り締め───
戦猫 「くらぇえっ!!ヘアァッ!!」
ヒョヒョイッ。
ソフトボールを投げるようなアンダースローで小石を投げる!!
それが小娘の頭にポコッ!ポコッと当たった。
空神様「……?」
戦猫 「おお〜〜!空神様のお目覚めじゃ〜〜〜!!」
空神様がお目覚めになられた!……何故か凄く不機嫌そうな顔で。
おお、どうやら寝ているのを邪魔されたのが怒りの原因らしいです。
そんな空神様が空を飛ぶ俺を見るに至り───
空神様「このっ……」
戦猫 「ややっ!?」
俺の中の死神の力を感じ取って、いきなり戦闘体勢を取ってくれちゃいました。
その途端に唱えられる詠唱がヤケに耳に残ります。
い、いかん!ヤツの神力が膨れあがってゆく!!
戦猫 「40000……45000……50000……ば、馬鹿な!まだ上がってゆく!」
ま、待て!こんな神力ぶつけられたら、
神の力場で弱ってる俺なんて一溜まりもありませんよ!?
ともなれば───逃げるが勝ち!!
戦猫 「う、うわぁあーーーっ!!!フリーザさまーーーーーーっ!!!!」
俺はベジータから逃げるドドリアさんの如く空に逃げ出した!!
しかし───神様は無情でした。
俺を追うように放たれた圧縮された光と、神の力場の所為で思うように飛べない俺……。
しかも逃げる時に出したのは、『結局死ぬことになったドドリアさん』の悲鳴……。
こんな条件が揃えばどうなるか解りもしようもので……。
戦猫 「ああああああああーーーーーーーーっ!!!!!!!」
ドッゴォオオオオオオオオオン!!!!!
戦猫 「あ……ああ、あ……!!
カ……カ……ロッ……───ギョェエエエエエーーーーーーッ!!!」
あっさりと高圧縮の光に飲まれた俺はフザケることも出来ないままに、
その神社の遙か彼方まで吹き飛ばされるハメになったのでした……。
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