───地上最強猫列伝『第七章◆焼却!グッバイメイド服!の巻』───
───……キィンッ!
みさお「到着しました」
月空力を発動させて、とある街へと降り立った。
そこには神の力場が発生していて、家系の体には辛い。
夜華 「ここは?」
みさお「神降という場所ですね。昔からこの地域には神が住まうと言われていて、
今もここには神の子や神が訪れたりしてるって言われてます」
夜華 「そうか……彰衛門と来た場所と同じところなわけだな?」
みさお「はい」
篠瀬さんはキョロキョロと辺りを見渡している。
彰衛門さんが居ないかどうか探しているんだろう。
みさお「ここらへんには居ませんね。
気配を探ってみてもそれらしいものは感じられません」
もっとも、この力場の所為で完全に気配を探れないのは事実だけれど。
夜華 「そうか……だがひとまずは歩かないと始まらない。行くか」
みさお「はい。喋る猫なんて珍しいですから、訊けばきっとすぐですよ」
夜華 「そうだといいが……───おいお前」
篠瀬さん、さっそく通行人に声をかけ───うあ。
ヤクザ「オウコラァ?あんじゃいコナラァ、なにガンつけてんだコラァ。
俺を皇流古流武術のモンと知ってのガンつけかコラァ」
みさお「し、ししし篠瀬さんっ!他のっ───他の人に訊ねましょうよ!」
戦っても負けるとは到底思わないけど、こういう人は本能的に苦手だ。
だっていうのに篠瀬さんはヤクザさんをギロリと睨む。
この人には怖いものとかはないのだろうか……───ありましたね。
高いところとオバケ。
夜華 「ひとつ訊きたい。この辺りで喋る猫を見なかったか」
ヤクザ「オウコラ!?あんだその口の利き方はコラァ!!
それが人にものを訊く態度かコラァ!!『旋落とし』すっぞコラァ!!」
みさお「随分と前のこと言いますね……」
◆皇流古流武術奥義旋落とし───すめらぎりゅうこりゅうぶじゅつおうぎつむじおとし
足を伸ばして両足首で相手の首を掴み、勢いよく頭から地面に叩きつける技。
早く言えばKOFの不知火舞の足投げ。詳しくはバッドボーイメモリーをどうぞ。
*神冥書房刊『不良変貌大全-風使い、霊能探偵、死神-の巻』より
夜華 「知らないなら知らないと言え。それ以上の用はない」
ヤクザ「オウコラ!?てめコラなんだその口の利き方はコラァ!!」
夜華 「……これだから男という生き物は……。
いいか、もう一度言う。わたしは喋る猫を探している。
その猫を知っているかいないのか。それだけを簡潔に答えろ」
ヤクザ「オウコラ!喋る猫なんぞ居るわけねぇだろうがコラ!
あったけぇ頭で俺に話し掛けてくんじゃねぇコラ!!わかったかコラ!!」
みさお「あの……どうして語尾に絶対『コラ』を付けてるんですか?」
ヤクザ「るっせんじゃいコラァ!!その方がハクがつくだろうがコラァ!!」
みさお「やかましいだけです」(きっぱり)
ヤクザ「あんだとコラァ!!」
時間の無駄だ。
こんな人と話していてもなんの実りもない。
みさお「行きましょう篠瀬さん。時間の無駄です」
夜華 「そうだな。時間をとらせた、もう用はない」
ヤクザ「オウコラ!?
てめぇに用がねぇからって『ハイぞーですか』とはいかねンだコラ!
ちょっとそこの路地裏こォ!!」
みさお「はぁ……よいしょ」
しつこいヤクザさんの頭に人差し指をつけて月清力を流し込む。
みさお「瑪・羅・門!!」
ピッキィーーン!!
ヤクザ「はおぉーーーっ!!」
……どさっ。
みさお「……あれ?」
流しすぎてしまったのか、ヤクザさんは倒れてそのまま眠ってしまった。
みさお「うう……この町、どうにも力の加減が出来ません……」
小さく発動させようとしても出ないし、かと言って強くやると強くなりすぎる。
あまりに不安定すぎる。
バガシャアーーーン!!!
猫 「ズイホォーーーーッ!!!!」
ドゴシャッ!ゴロゴロ……ドタ。
オバン「冗談じゃないざますわよ!?
宅の静流ちゃんにメイドになれって言うざますわよ!?
ンなことは天地がひっくり返ったってないざますわよ!?」
猫 「ババァアーーーッ!!
だからって猫であるこの我輩を窓目掛けて全力で投げるか!?
てめぇの血は何色だ!!」
オバン「赤ざますわよ!」
猫 「フハァーーッ!!馬鹿めが!とうとう馬脚を現しおったなタコ!ゆでるぞコラ!
血は元々黄色で、そこに鉄分などが含まれることによって赤になるのだ!
つまり貴様の血は」
オバン「うるせぇざますわよっ!!!」
ドパァン!!
猫 「ゲオラ!!」
……目の前でリュックを背負った猫がボンレスハムを投げつけられていた。
しかも思いっきり顔面に当たった。
あれは痛い。
オバン「もう二度とその汚ェツラ見せるんじゃねぇざますわよ!?」
ガラピシャンッ!!
ガラの悪いオバさんは怒号を放つとさっさと玄関を閉めてしまった。
猫 「こ、このわらしゃあ……後悔させてやる!バァーーッドブレード!!」
シュパァンッ!!
猫───(言うまでもないけど彰衛門さん)は腰に刺した刀を抜刀して、
その家の塀を豆腐でも斬るかのように斬った。
夜華 「なっ……」
みさお「わっ……すごい」
猫 「バァーーッドチューイン!!」
続いて噛んだガムを玄関の鍵穴に付け、グイグイと押し込んだ。
猫 「バァーーッドウォーータァーーーッ!!!」
さらにすぐ傍にあった水撒きなどに使うであろう水道を全開にして水を出しっぱなしに。
猫 「バァーーッドテレフォォーーン!!」
最後に近くの公衆電話に駆け込んで、ピザやお寿司を腐るほど注文。
それが終わるととっとと逃げ出してしまった。
夜華 「あ───待て彰衛門!!」
猫 「っ!?ギャーーーッ!!」
みさお「あれ?」
篠瀬さんが彰衛門さんに声をかけると、
彰衛門さんは体を跳ねさせて本気で逃げ出してしまった。
みさお「あ、彰衛門さんっ!?どうして逃げるんですか!!」
猫 「オラじゃないやい!あのババアが頼んだんだい!!
オイラ悪戯電話なんかしてないやぁーーい!!」
シタタタタタ!!!
みさお「うわ速いっ……!!篠瀬さんっ!掴まってください!」
夜華 「あ、ああっ!」
篠瀬さんを抱えるようにして空を飛ぶ。
うだうだ言ってられない。
光莉ちゃん───じゃなくて、聖ちゃんが一緒に居ないのが気になる。
みさお「飛ばしますよ!」
猫 「ゴニャアアアーーーーッ!!」
キキィイーーーッドゴシャッ!!
みさお「え?あわっ───」
どごしゃぁあああんんっ!!!!
───……。
悟り猫「カ、カカカカカ……!!」
急ぎすぎて周りを見てなかった所為もあり、思いっきり車に撥ねられてしまった。
しかも車は例のごとくとんずら。
禄でもないね、運転手。
未来でもあげなやつらばっかだし……はぁ。
悟り猫「さて……おや、よくよく見ればみさおと夜華さんでねが」
なにやら後ろから物凄い勢いで追ってくる気配があると思ったら……。
しかし大丈夫かね?急停止した車の横に凄まじい勢いで突っ込んでたけど。
みさお「いたっ……いたっ……!!いたたっ……!!」
夜華 「わががががが……!!」
お二方、ご無事そうです。
ただふたりとも頭を盛大にぶつけたらしく、頭を押さえながらピクピクと蠢いております。
悟り猫「お嬢さん方……街中では気をつけて歩かないといけませんよ?」
みさお「彰衛門さんが逃げるからです!!」
夜華 「そうだ!貴様が悪い!」
悟り猫「なんと!猫がせっかく紳士的に話し掛けてやったってのになにかねその態度は!」
みさお「そんなのどうでもいいです!彰衛門さん!聖ちゃんは!?」
悟り猫「死にました」
瞬間、目の前に抜き身にされた刀と拳が───!!
───……。
悟り猫「ぱぺっ!ぺぶふっ!げっほ!グググ……!」
ひどいやふたりとも……!
なにもここまでボコボコのザクザクにせんでも……!
みさお「……彰衛門さん。次に冗談でも『死んだ』なんて言ったら本気で怒るよ……」
悟り猫「天寿を全うしました」
刹那!月壊力により光り輝く拳がこの猫の目前にゴワシャアッ!!!
───……。
悟り猫「うげっぴうげっぴ……」
鼻から盛大に血が溢れる。
つーかなんで皆さん絶対に鼻を折るんでしょう……。
夜華 「彰衛門。貴様は人に『死』を簡単に唱えるなと言いながら……!」
悟り猫「いや……オイラはただ、場を和ませようと……」
夜華 「必要ない。聖は何処だ」
悟り猫「………」
夜華 「答えろ、彰衛門」
悟り猫「………」
俺は黙って、器用に一本の指だけを立てるようにしてお二方の後ろを指差した。
みさお「え?」
夜華 「後ろ?」
お二方が後ろを向く───が、当然そげな場所に聖は居ない。
悟り猫「答えは───『馬鹿め』だ!!」
俺は一目散に逃走を謀った!!
みさお「あ、あぁぁーーーっ!!!」
夜華 「彰衛門!貴様!」
悟り猫「フハハッ!馬鹿め!この俺が貴様らごときに掴まるものか!」
既に当初の目的を忘れた俺は、今はただメイド服を売るしかないのです!
正直聖が何処に行ったのか、俺にも解りません!
だから俺は俺に出来ることをするしかないのですよ!
みさお「動かないでください!
動くと───そのリュックの中身が爆発することになりますよ!!」
悟り猫「───!!」
ピタッ。
ギ、ギギギギ……
悟り猫「い、いま……なんと?」
静止した状態でゆ〜〜〜っくりとみさおに向き直る。
すると……一匹の蚊を手にしたみさおさんが。
みさお「知ってますよ〜?さっき月視力で見させてもらいましたから。
そのリュックに先死爆の法を埋め込ませてもらいました。
そしてわたしの手元には一匹の蚊。……この意味、解りますよね?」
悟り猫「ギ、ギィイイイイーーーーーーーーッ!!!!!」
ひどい!なんてひどい!
俺の渾身の究極メイド服を盾に取るとは!!
みさお「さ、話してください。聖ちゃんは何処ですか?」
悟り猫「ワタァシ、ニポンゴワッカリマセェーーーン!!」
みさお「じゃあ話し合っても無駄ですね、爆発させます」
悟り猫「イヤァ!やめてぇーーーーっ!!!」
みさお「……じゃあ、教えてくださいね」
悟り猫「………」
椛……小僧……貴様らの娘はこげにたくましく成長しとっちょおよ……。
おいはちと悲しいばい……。
まさか人の弱みに付け込んでくるとは……まさしく俺が椛に教えたかったことじゃねぇか。
戦いとは相手の弱点をついてでも勝つこと。
みさおさんたら、それを忠実に実行してやがるよ……。
───だァが!まだまだ詰めが甘いわ!
みさお「彰衛門さん?」
悟り猫「よいでしょう、しかと耳に留めなさい」
夜華 「人の居る場所を教えるだけだというのに偉そうだな……」
悟り猫「お黙り夜華さん!!横槍入れないでよもう!」
みさお「彰衛門さんがそれを言いますか……」
悟り猫「言いますよ!?なにかね!なにが悪いのかね!」
みさお「悪くないから教えてください」
悟り猫「………」
ノってきてくれませんでした。
せっかく盛大に話を逸らそうと思ったのに。
まあいいさね、準備は万端だ。
悟り猫「……答えは───『馬鹿め』だ!!」
俺はもう一度地を蹴り、逃走を謀った!!
声 「なっ───もうどうなっても知りませんからねっ!?」
その言葉とともにリュックに光がこもる!
だが甘いわ!!
悟り猫「フハハハハ!!リュックに先死爆を埋め込んだのは間違いだったな!!
奥義!退魔の絶対防御壁!!」
みさお「え?───あぁっ!!」
そう!月鳴力の退魔壁ならば家系の力は通しません!!
所詮先死爆の法は家系の力!
メイド服には傷ひとつ付かんわぁっ!!
バッガァアアアアンッ!!!
悟り猫「ギャアアアアーーーーッ!!!」
でも俺は無事では済みませんでした。
背中で爆発したリュックに吹き飛ばされ、
メイド服はなんとか死守したがゴロゴロと転がってしまった。
悟り猫「カカカ……!!く、くそう!!
覚えてろよお前ら!ママに言いつけてやるからな!」
みさお「ガトリングブラストォオオオオッ!!!!」
悟り猫「ヒャアアアアアアアアッ!!!!!」
よっぽど俺を逃がしたくないのか、マジになってガトリングを放ってくるみさおさん。
横に居る夜華さんもどう止めていいものかと戸惑っているらしく、
さっきから困った顔をするだけだ。
悟り猫「くそっ!両手が塞がってちゃあ分が悪い!覚えてろくそっ!
このメイド服を安全な場所に安置した時こそ貴様らの最後だ!」
みさお「逃がしませんっ!月聖力───標的固定!!」
唱えたみさおの足元から光の領域が伸びてくる。
だが甘し!伊達に宿命背負って生きてきたわけではありません!!
俺は綺麗に折りたたんだメイド服を頭の上に乗せて、地面に肉球を付いた。
悟り猫「“排撃ォッ”!!!」
バッガァアアアンッ!!!
みさお「うあっ……」
夜華 「くうっ!?」
地面に月壊力を流して破壊!
そのため、流れてくる聖域を破壊することに成功した。
こと破壊において、月壊力に勝るもの無し!!
さらに発生した砂煙がお二方の目潰しにもなりました!
悟り猫「さらばだ人の子らよ!我は行く!」
その隙を逃さず、黒衣を羽ばたかせて空へ逃走!
月空力の補助もあるからスイスイ簡単!クイックルワイパー!!
声 「───逃がさないっ!!」
悟り猫「ややっ!?」
聞こえた声に下界を見下ろすと、なにやら見覚えのある物騒な光が輝いていた。
みさお「ホーミング・レイ!!」
悟り猫「ゲェエエエーーーッ!!」
間も無いままに放たれる光。
それは───思いっきり俺ではなくメイド服を狙っておりました。
メイド服になにか恨みでもあるのかねあの娘は!!
悟り猫「児戯なりィ!!退魔の防御壁!!」
飛翔し、途中で幾筋もの線になって襲い掛かる光を、その壁が防ぐ!
が、安心するのも束の間。
みさお「神屠るゥ……!!」
悟り猫「アイヤァアアーーーッ!!?」
な、なんてこと!ヤツはこれを狙ってたのだ!!
ホーミングレイで俺の動きを止め、逃げられない状況を作ってからの神屠る閃光の矢!!
か、考えおったわ!!
みさお「閃光の矢ァアーーーッ!!!」
ピシュンッ───ゴッチュゥウウウウウウン!!!!
悟り猫「う、うわぁあーーーっ!!フリーザさまぁああーーーっ!!!」
未だに降り止まないホーミングレイの雨に涙しながら、俺は叫んだ。
だが無情。
光り輝く閃光は俺の眼前まで迫り───ハッ!!
悟り猫「そうだ!わたしにはあれがあった!!」
すぐに集中を開始し、神屠る閃光の矢が退魔の防御壁にぶつかった刹那に発動!!
悟り猫「トラップカード発動!!『空狭転移』!!」
みさお「あ───あぁっ!!ズルイですよ彰衛門さんっ!それは反則です!!」
悟り猫「シャラップ!!
メイド服さまにこげな物騒なもん放つアータに言われたくありません!!
さあ飛べ神屠りの光よ!エロマンガ島へ飛べ!!」
キィイイ───ン!!バシュンッ!!
時空の狭間に閉じ込めた神屠る閃光の矢とホーミグレイを、エロマンガ島へ強制転移!
ふはぁ……危なかったがなんとか成功……。
悟り猫「フッ……残念じゃったな小娘よ。月操のキャリアならば誰にも負けんぞ俺は」
みさお「う、うぐぐぐぐ……!!」
夜華 「はぁ……」
宙に浮く俺を悔しそうな顔で睨むみさおさん。
それとは対象的に心底呆れたように溜め息を吐く夜華さん。
悟り猫「ゴニャアアアアァ〜〜〜ォ」
そげなお二方にウェイターアイルーのお辞儀をしてから飛んでゆく。
ふう、まったく。
少しは自分で探そうとは思わないのですかね、みさおさんたら。
バジンッ!!
悟り猫「あでっ!?……あ、あれ?」
ゆっくりと飛行してると、なにかに衝突。
……目の前には薄い黄色の光の膜。
これってば……聖域?
声 「ここら辺一帯に聖域を張りました……。もう逃げられませんよ……」
悟り猫「───!」
後ろから聞こえる声。
ゆっくりと振り向けば、そこに浮いているみさおさん。
どうやら夜華さんは置いてきたらしい。
みさお「さあ……聖ちゃんの居場所を教えてください。さもないと……」
悟り猫「俺はなにも喋らねぇぜ……!?フフフハハハハハハハッ……!!
見た目はこんなにプリティだけど……中は───筋金入りさぁっ!!」
みさお「そうですか……それなら───異翔転移」
パシュンッ。
悟り猫「……あれ?」
軽く挙げたみさおさんの手の内に、いつの間にかある見覚えありまくりの服。
それは───俺が持っていた筈のメイド服でした。
みさお「確かに彰衛門さんは月操の経験はすごいです。
刀の中で学べることもいっぱいありました。……こんなふうにね」
悟り猫「は、はああ……!!」
なんてこと!メイド服が……俺の渾身のメイド服が!!
メイド服の良さを微塵にも解らん小娘なんぞに!
悟り猫「よ、よせっ!直接触れるんじゃない!!手の脂が付くでしょう!?」
みさお「彰衛門さんだって直接触ってたじゃないですか!」
悟り猫「馬鹿野郎!俺ゃ手に月聖力でエーテルコーティング施してあるんだよ!
触ってもなんの影響もありませんよ!」
みさお「わたし馬鹿じゃありません!!馬鹿って言う方が馬鹿なんです!」
悟り猫「バカとはなんだコノヤロウ!!それを返しなされ!」
みさお「聖ちゃんの居場所を言うのが先です!」
悟り猫「シュテンドルフ!!(訳:言わん!!)」
みさお「なんですかそれ!燃やしますよ!?」
悟り猫「なんと!?させるかぁっ!太陽拳!!」
ギシャアアン!!
みさお「あっ───くあぅっ……目が……!」
月醒光を放ち、怯んだみさおへの距離を瞬時に詰め、メイド服を奪還!!
悟り猫「とんずらぁあーーーっ!!」
バジンッ!!
悟り猫「アウチ!!───ややっ!?」
とんずら飛行ならず。
何故かって、みさおさんたら聖域を狭めて、
俺を逃げられないようにしてやがったんですもの。
事実、俺とみさおさんは空中に浮きながら対面するようなカタチになった。
お目々は月生力でさっさと治したらしい。
悟り猫「マジでいかなきゃヤバイぜ……!」
みさお「キミの力は見切ったよ……」
などとサイキックフォースやってる場合ではなく。
ノリがいいのは素晴らしいことですが、俺にはこのメイド服を売るという大業があるのだ。
悟り猫「あのですね……こうやって俺にちょっかい出してる暇あるなら、
自分で探した方がいいんでないかい?」
みさお「自分だけでなんとかしようとするなって言ったのは彰衛門さんじゃないですか」
悟り猫「……そうでした」
思いっきり忘れてました。
でもね、なにも俺だけに頼らなくても……。
悟り猫「しかし俺にはこのメイド服を売るという大業が……」
みさお「過去視で見ましたけど、猫神様がどうとか言ってたじゃないですか。
それはどうなったんですか」
悟り猫「え?…………あ」
猫神様……そうでした。
確か当初の目的がそれだった気が……
みさお「彰衛門さん……まさか聖ちゃんにだけ任せて、自分は遊んでたなんてことは……」
悟り猫「な、なにを言うのかねこの小娘は!!
俺ゃ営業許可証偽造して商売してたんですよ!!」
みさお「遊んでたんじゃないですか……」
悟り猫「なんと!?ならばこの『メイド服』を見よ!一世一代の業物ですよ!?
いい仕事してるでしょうが!これほどまでのメイド服、他では見れませんよ!?」
みさお「月然力……」
ボワッ。
悟り猫「───へ?」
メラメラメラ……!!
悟り猫「はっ───あ、あぁああああああああっ!!!!!!
お、オイラのメイド服がぁああああああーーーーーーーっ!!!!」
みさお「聖ちゃんとメイド服と!どっちが大切なんですか!」
悟り猫「な、なにすんだよ!メイド服に罪はないだろ!?」
みさお「っ───ブラストッ!!」
パシュンッ───ボッチュウゥウン!!!
悟り猫「あ───あぁあああああああっ!!!!!」
消し炭になってゆく……。
我が一世一代……我が渾身の業物が……。
月癒力を使えば再生は出来るが……それは所詮一度破壊されたものにすぎず……
悟り猫「───……」
俺の目の前はただ真っ白になるのみだった。
───……。
夜華 「みさお?」
みさお「………えーと、動かなくなっちゃいまして……」
みさおの手の中で、ぐったりとしている猫……彰衛門を見る。
覇気も気力も感じられず、完全にどこにも力を込めていないような状態で動かない。
夜華 「彰衛門?」
猫 「───」
夜華 「………」
みさお「………」
遠くの空でなにが起きたのかは解らないが、
彰衛門は物言わぬ人形のようにぐったりしたままだった。
みさお「あの……すいません。彰衛門さんを預かっておいてもらえますか?」
夜華 「なに?何故だ」
みさお「わたし、ちょっと空から聖ちゃんを探してみます。
神社を探しに行ったっていうことだけは、
彰衛門さんの過去から読み取れましたから」
夜華 「そうか……解った、彰衛門はわたしが預かろう」
みさお「お願いします」
みさおは手の内にある彰衛門を……何故かわたしの頭の上に置くと、
にっこりと笑って飛び立っていった。
夜華 「………」
猫 「………」
わたしは彰衛門を頭から下ろし、その目を見た。
……ちっとも生気がこもってない……まるで死人だな。
黒衣を纏い、黒い帽子と黒い履物、黒い刀を身に付けた蒼色の猫……不気味だ。
夜華 「……やれやれ」
大袈裟な溜め息を吐いて、彰衛門を頭の上に乗せ直した。
頭の上に腹をべったりと乗せるような形で。
やがて歩く。
目的地もなにも無いが、歩けば何処かには辿り着くだろう。
その過程で彰衛門が気力を取り戻せばいいがな……。
夜華 「しかしもう夜になる頃だ……休める場所を探さなければな……」
頭がぽかぽかと暖かい状況の中で、
賃金の無いわたしは野宿が出来る場所を探そうと彷徨った。
が、ふと彰衛門と行った神社を思い出し、そこを目指して歩き始めた。
───……。
夜華 「こ、これは……」
一度来た神社。
『塚本神社』と書かれたその場所は、無残にもボロボロだった。
少しの間に、一体なにが起きたのか……。
だが、かえって好都合だった。
これなら人は寄り付かないだろうし、気兼ねなく休める。
わたしは出来るだけ目立たない場所に腰を下ろし、彰衛門を腕に抱いた。
夜華 「………」
相変わらず動かないが、暖かい。
じ〜っと目を見つめてみてもなんの反応もない。
夜華 「………」
額の上辺りの毛が癖毛のようで、ピンと跳ねた先が下に下りている。
それをさわさわと触ってみても反応はない。
夜華 「………」
猫 「………」
……───な、なにをやってるんだわたしは……。
いくらこの猫が彰衛門とはいえ、今は猫であって……!
くああああっ!!なにを猫などと見詰め合っているんだわたしはぁあああっ!!
夜華 「……だ、だが……」
猫 「………」
彰衛門の前髪のように部分的に跳ねて下りている癖毛を見ると、
どこか愛しさが込み上げてくる。
……彰衛門、なのだよな?
彰衛門……
夜華 「彰衛門、わたしは……」
……まちゅっ。
猫 「………………──────!!ゴギャアアアーーーーーーーッ!!!!!」
夜華 「うわっ!?うわわぁああーーーーっ!!!!」
突如、彰衛門が叫んでわたしの腕の中から逃げ出した───い、いいいいいやっ!!
わ、わたしは今なにをした!?
じ、じっと見つめて、それで……!?
猫 「………!」
彰衛門が信じられないものを見る目でわたしを見る。
そう……そうだ。
わたしは……込み上げてくる愛しさを抑えきれず、
相手は猫だというのに……接吻をしてしまったのだ。
夜華 「やっ……ぃゃっ……ち、違う!今のはっ……!!わたしはそんなっ……!!」
顔が灼熱するのを感じる。
こんなつもりはなかった。
相手が動かないのをいいことに、
それに付け入ろうとするなんてことはしたくなかったというのに。
わたしは……わたしは母上に会うことが出来て、
また気を引き締めることが出来たと思っていたというのに……!
夜華 「違っ……わた、しはっ……!こんなっ……!」
涙が溢れた。
ただ母上に申し訳がなくて。
わたしがわたしだと気づいていながらも、
一度は破門したわたしと打ち合ってくれた母上に申し訳がなくて。
───変われていない。
わたしはまるで気を引き締められてなどいなかった……。
猫 「………」
こしこし……。
夜華 「っく……あ、彰衛門……?」
彰衛門がわたしの目の前に浮き、涙を拭ってくれた。
その手が柔らかく、暖かい。
夜華 「どうして……どうして貴様は……!
どうして貴様は……こんな時にばかりっ……!
わたしに……やさしくするんだぁっ……!!」
辛いのは嫌だ。
苦しいのは嫌だ。
そんな時にやさしくされたら甘えたくなってしまう。
人の気も知らないで、いつだって飄々としているこの男に……。
だがそれはきっと逃げだから。
わたしはまだ刀を捨てることは出来ないから……。
『女』に逃げることなど……出来ないから。
だからこんなにも辛くて、悲しくて……。
……フワッ。
夜華 「……彰衛門?」
猫 「……コロロロロ……」
彰衛門は喉を鳴らしながら、わたしの頭の上に四肢を伸ばして乗っかった。
甘えさせてくれるわけでもなく、かといって何かを言ってくれるわけでもない。
……ただ、傍に居てくれた。
夜華 「………」
ああ、そうか。
わたしは……貴様がそういう男だからこそ、こうして……遠慮などせずに───
夜華 「……はっ……っく……!うぅっ……」
思えばこの男の前で……わたしは一体、何度涙を流したのだろう。
ふと気づけば傍に居てくれると落ち着ける存在になり、
目が合えばからかわれて、仕返しをして。
そんな、普通ならば人を殺める結果にしかならないことが常になる頃……
わたしはもう、いつの間にか自然に笑むことの出来る者になっていた。
母上に捨てられ、ひとりで生き、生死を彷徨い……
森の神や地の神に助けられ、猫に助けられ。
出会う人は少なかったが、それでもわたしは誓えるべき存在に出会えて、
楓さまのために生き……しかし。
わたしはきっと笑むことが出来ないで死ぬのだろうと思っていた。
そんなわたしが彰衛門と出会い、気づけば心を許していたこと。
おかしなものだが、この男の傍は暖かく……
楓さまがこの男の傍に居たがる理由が、わたしにはきっと解っていたんだと思う。
ああそうだ……この男の傍はこんなにも暖かい。
安心に満ちていて、それだけで心が暖かくなる。
きっとわたしは……自分が思っている以上に、この男に助けられたんだと……そう思う。
夜華 「……なぁ……彰衛門……」
猫 「………」
夜華 「あの時、小川でわたしを助けてくれた猫……あれは……」
猫 「………」(てしてし)
夜華 「………」
彰衛門が、黙ってわたしの頭を軽く叩いた。
夜華 「……そうだな」
そんな質問はきっと不粋。
ただあれが彰衛門だとして、どうするのかと言えば……きっとどうにもならない。
わたしがあの猫に助けられ、あの猫が彰衛門だとしても、
それはただ『自分が思っている以上に助けられた回数』が増えただけなのだ。
わたしはそれを恥とは思わないし、
今思えば森の神の雰囲気も彰衛門のものだったと苦笑するだけだった。
助けられることが恥なのではなく───
助けられても、それを恥と受け取ることこそが恥なのだ。
夜華 「貴様は暖かいな、彰衛門……」
猫 「………」
彰衛門はなにも言わなかった。
だが……その暖かさが、今はただ心地よかった……。
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