───UnlimitedBlackOrder-No.02殺人鬼と殺戮鬼の境───
───……ザッ……。
軽い音が鳴った。
ふと気づけばそこは草原だった。
悠介 「………」
彰利 「やっぱ草原なわけね……」
彰利がぐるりと辺りを見渡して、うんうんと頷く。
彰利 「ようやく深淵ってわけだ。んあー……でも精神体『ユースケ』が居ないな」
悠介 「そいつを消せば終わるんだ、そう簡単には現れないだろ」
彰利 「む……そりゃ確かに」
消されるって解ってるのに現れる存在はよっぽどの馬鹿かアホのどちらかだろう。
それか───
声 『やあご両人。お久しぶりだね』
……よっぽどの嫌なヤツだ。
悠介 「……逝屠」
彰利 「あー……やっぱ出たよ……」
草原の中央に、そいつは立っていた。
嫌みったらしいその顔を歪ませ、クスクスと笑っている。
逝屠 『さあ、俺と出合った時点で、することって言ったら……これしかないよな?』
微笑を打ち切るように掌に雷を弾かせ、ヤツは疾駆する。
彰利 「ふはっ!今更貴様なんぞに梃子摺る我らか!我が右手に破壊の力よ来たれ!
高圧縮アルファレイドカタストロファーッ!!」
疾駆した逝屠に向け、彰利がアルファレイドを放つ。
だが当然というかのように退魔の絶対防御壁を張り、それを弾く。
彰利 「んなっ───」
逝屠 『意外か?未来の世界で消された【俺】を、お前の記憶の中で見たんだ。
対処法くらい考えてあるさ。退魔壁に創造の理力で強化してやればいい。
確かにお前らの言う通り、この悠介は創造速度も危機感も死に対する意識も、
全てにおいて未来の悠介には劣っているが……忘れたか?
こいつはシェイドに力を引き出してもらうことで、
なんでも創造出来るようになった。
その点に関しては、無駄な存在じゃないんだよ』
悠介 「───」
彰利 「へえ……」
彰利が感心したような声を出す。
それは過去の『晦悠介』に対するものではなく、十六夜逝屠の言葉に対するものだった。
実際、俺も驚いた。
逝屠がまさか、『晦悠介』のことを『無駄な存在じゃない』なんて言うとは。
逝屠 『誤解が無いように言っておこうか。
俺にとって、こいつはただの人形にすぎない。
お前らだって利用価値があるものを無駄な存在とは言わないだろう?』
彰利 「……ま、予想はついてたけど」
悠介 「だな。そんなこったろうと思ってた」
少々呆れた。
こいつ、悟ってそうでなんにも悟ってない。
悠介 「逝屠、悪いことは言わないから創造の理力を過信しすぎるのはやめろ」
逝屠 『うるせぇんだよ人形。俺に───指図すんじゃねぇ!!』
黄昏の濃度が上がる。
より紅蓮に染まる景色の中、目を深紅に染める逝屠が居た。
逝屠 『知ってるぜ……!創造の理力は、
【創造の世界】の中ならどれだけ使おうが構わないんだろう……!?
だったら俺がそれを作っちまえば、負ける要素は何ひとつとして───』
ビキィンッ!!
逝屠 『───ギッ!?』
刹那、逝屠を象っていたものが崩れた。
まるで映像が乱れるかのように、『十六夜逝屠』の姿が虚ろになる。
逝屠 『な、なンだ……!?か、かラだが……』
彰利 「あーあーアホどすなぁ。創造の世界を悠介以外が創れるわけないでしょうが」
逝屠 『な……ニ……!?』
彰利 「……あのなぁ。俺でさえハデスディザスター……つまり、
死神の力を使ってようやく手の平サイズの黄昏作れる程度だぞ?
しかも頭痛、嘔吐、眩暈、その他もろもろのおまけつきでようやく。
だってのに死神の力も借りずに、それも蝕まれた喰いカスみたいな魂のお前に。
黄昏の創造が出来るわけねぇだろうがボケ」
逝屠 『グ……ギ……』
悠介 「大きな力は使い方を誤れば、その全ての力が術者に返ってくる。
力を手に入れたつもりで、他人の力にすがった時点でお前は負けてるんだよ。
……今までで最悪の散り様だな。過去、こんなヤツに怯えてた自分が情けない」
逝屠 『て、めぇ……!!見下してんじゃあ───ねぇっ!!』
ビギッ……ミキ、キキ……!!
彰利 「うお……お、おいおい……!?」
悠介 「黄昏に亀裂……?」
黄昏の世界に亀裂が走る。
その世界が段々と崩れていき、虚空のみが遺されようとしている。
声 《検察官!悠介!早くそいつを消せ!!》
彰利 「───リヴァっちか!?どうなってんだこれ!!」
声 《最後の足掻きだ!出来損ないの黄昏を使って、
『精神世界を破壊する要素』を創造したんだ!
創造主を消さなければ悠介の精神が崩壊するぞ!!》
彰利 「んなっ───」
崩壊……!?
くそっ!面倒なことしやがって!!
逝屠 『クヒヒハハハハ……!!ホラ、どうした人形……!!
さっきまでの余裕の顔をしてみろ……俺に見せてミロ……!!
俺は貴様ごときに遅れを取るような存在じゃねぇぜ……!!
俺は……オレレハハ……!?ガ、ガハッ……な、なンダ……!?
カ、カラダから何かが……!?』
彰利 「……!?こりゃあ……!!お、おいリヴァっち!?」
声 《ああ!堕醒だ!
完全に堕ちる前に仕留めるんだ!死神化されたら厄介だぞ!》
悠介 「死神化……?おい、彰利……?」
彰利 「堕醒……家系の者が堕ちて、死神になることだよ!
実際に俺がそうなったんだから知ってるだろ!?
死神になられてからじゃあ相手がどんな能力使ってくるか解らないんだ!」
悠介 「───鎌か」
彰利 「そういう───こったぁっ!!」
彰利が再び手を翳し、アルファレイドを放つ。
が───その光は逝屠の手から出現した凶々しい鎌によって……『殺された』。
彰利 「うーわー……ヤな予感……」
悠介 「これってまさか……」
声 《わたしの考えを言わせてもらえば、
月の家系の中に眠る死神は本体の生き様によって能力が成長すると見える。
検察官は運命に逆らうことで成長し、運命破壊せし漆黒の鎌を。
悠介は創造を手にすることで黄昏を抱く創造の世界を。
……そして、逝屠は……》
悠介 「………」
考えてみよう。
逝屠の、その生き様を。
子供の頃に俺の親を殺し、さらに月詠街の家系の存在を殺してきた。
前世で言えば、腐るほど殺してきただろう。
つまり、その生き様……成長した結果を上げるならば……
彰利 「……殺人。つまり……『殺す鎌』、か……」
そういうことだ。
『在るモノ』を殺すという鎌だ。
アルファレイドがいとも簡単に消された意味は、恐らくそこにある。
彰利 「会う度に厄介になりやがって……俺コイツ嫌いだよホント」
彰利の気持ちは十分に解る。
出来ればもう二度と会いたくなかった候補でダントツ一位だからな。
逝屠 『ギ、イギ……ギギギ……!!』
崩れてゆく精神世界に、死神に変貌しながらも体が崩れてゆく逝屠。
どちらが壊れるのが先かを予想している時間なんてない。
今度こそ消さなけりゃならない。
彰利 「殺す鎌って……どうすりゃいいんだよチクショイ!!
全部殺されちまうんだったらなんにも通用しねぇだろうが!!」
その通りだ。
正直、逝屠が堕醒するのが崩れる過程で良かったと安心している。
逝屠 『コロ……コロス……ニンギョオ…………チ、ガウ……!!
ニクイ……ニクイゾ……キサマ……ユミノ……アキエモン……!!』
彰利 「───!」
アキエモン。
逝屠はそう言った。
そう確認した瞬間だった。
逝屠 『“殺戮を蝕す狂気の大鎌()”』
逝屠が、鎌の名を呼んだ。
それに呼応するかのように鎌は蠢き、
その赤く気味の悪い鎌から真っ赤な液体を垂れ流した。
『月を喰らう殺戮()』か……家系限定の殺人鬼らしい鎌の名前じゃないか。
悠介 「なぁ彰利。どう思う?」
彰利 「どうって……なにがさ」
悠介 「黄昏も壊せると思うか?あいつ」
彰利 「……あんまり確信を挙げたくない質問だなぁ……。
ああでも、予想を挙げろっていうなら頷けるよ。あれは絶対に『殺してくる』」
悠介 「……お前もそう思うか……」
まいった。
総てを殺す存在が在るなんて、こんな馬鹿馬鹿しい冗談があるか?
逝屠 『シネ……死ねシネ氏ねシネ氏ねシネ視ししし死』
フィンッ───パガッシャアンッ!!
彰利 「───うおゎっ!!」
振るわれた鎌が世界を殺す。
刹那に地震。
まるで、岩盤を砕かれたような大きな衝撃とともに、その世界が崩れてゆく。
彰利 「お、おいおいおいおいどうするよ!このままじゃ俺達もヤバイぞ!?」
悠介 「んー……なぁ彰利」
彰利 「お、おお!なにかね!?起死回生の案でも!?」
悠介 「……ああ、いや、違う。むしろそんなものは俺が訊いたいな。何か無いか?」
彰利 「───…………キャーーーーッ!!!」
彰利が叫んだ。
要するに余裕が無いのだ。
彰利 「はああ……!早くせねばユースケが精神崩壊して、
でも目の前のバカヤロウは全てを殺すバケモノさん!
ど、どうすりゃいいのさヘルプミーッ!!」
悠介 「………」
視線の先には蠢く黒。
色を殺してゆくソレは、怒りと歓喜を織り交ぜたような奇妙を感じさせる表情。
まるで、熱と冷気が融合しているような矛盾を思わせる。
正直気味が悪い。
俺としてでなく、人として。
見た者全てを不快にさせるであろうソレは、目的を忘れたかのように世界を殺してゆく。
ああいや、もし世界を殺すことこそが目的なのだとしたら、
あいつは正常に自分の目的を遂行しているのだろう。
晦悠介を殺す、という最悪の目的を。
それで俺達をも精神ごと殺せるんだ、これほど効率のいい目的は無い。
だが、それを黙って見過ごすほど大雑把でも無いし。
だからといって『必ず止めてみせる』って断言出来るほど自信家でもない。
だったら自分に出来るであろう精一杯のことをやってみせればいい。
それが───足掻くってことだから。
俺と、俺の親友が子供の頃からやってきた、ただひとつの確固たる意思なのだから。
悠介 「覚醒せよ黄昏。───“黄昏を抱く創造の世界()”」
意識を緋い黄昏の陽の海に投じる。
自分の意識が暖かな水の中に沈んでゆくような錯覚を覚え、その景色が俯瞰に変わる。
キチ、という音が聞こえ、あたかもそれがスイッチになったかのように、
見下ろす自分の姿が変わり、闇を纏ったような黒い服を広げるルドラが現れる。
……絶対の自信があるなんて感じは無い。
ただ、その元神である死神から流れる感情は、いつでもやさしいものだった。
逝屠 『───!!』
死神の波動を感じ取ったからだろう。
狂乱していた逝屠が、初めて敵を見つけたような顔でこちらに向き直る。
その姿は既に風穴だらけで、カタチとして残っているのがおかしいとさえ思うものだった。
『存在』としてそこにあればそれは存在だというのに、残っていることがおかしいのだ。
既にそれはヒトと呼べるものではなく、飽くまで『矛盾』。
全てを殺すという矛盾の鎌を手にした、矛盾の塊だ。
ルドラ「……いいや。その見解は正しく無いな」
小さく微笑を漏らし、ルドラが制する。
ルドラ「万物とは存在の時点で既に矛盾だ。
そこに在るという意義を確定出来る者が存在しないのだからな。
神とは何か。『存在』を創った者とは何か。
その根源を知ることが出来ない存在に、矛盾を否定出来る価値は無い」
……だとしたら、それは。
ルドラ「ああ、そういうことだ。存在とは即ち矛盾。
矛盾を背負っているからこそ先を望むことが出来、
何が起ころうともいつしか順応出来る。矛盾は矛盾を食して成長する。
それはヒトが物事を覚えて成長するのと同じだろう」
───逝屠が鎌を振り上げる。
ルドラはそれを黙って見つめ、ただイメージを働かせた。
ルドラ「矛盾に固定概念が揃い、初めて個々と成る。
それを個性と唱えるのならば、目の前の闇またひとつの存在。
壊すには儚いひとつの意思だろう」
───もっとも、それは。
ルドラ「……その人物を、壊す側が儚いと思えればの喩えだが、な」
……つまり。
逝屠 『コワスコロスハカイセヨチギレロクヤメコワレロスベテニオイテ!!!
スベテコントンニキスガイイ!!オレイガイノスベテガシネ!!』
……いや。
元より俺は、目の前のこいつを許そうなんて気は微塵にも無い。
それはきっと、自分の中で成長した彼も同じなわけで。
だとしたら、目の前で吼えている存在にかける言葉なんてものはひとつだけなのだ。
手向けの花には遠い、たったひとつの贈り物。
ルドラ&悠介『───寝言は寝て言え』
振り上げた鎌に光が突き刺さる。
刹那に散開するように光が溢れ、雨のように逝屠に降り注ぐ。
ルドラ「……“三十矢の地槍()”」
逝屠 『ギ、イイイイイッ!!!』
逝屠が吼える。
光が突き刺さり、勢いに持っていかれそうになった鎌を思い切り握り締め、
降り注ぐ光の矢を殺してゆく。
大した意思だ。
ルドラはその隙に壊れてゆく精神世界を新たに創造する。
本当になんでもありだ。
逝屠 『ココココワレロ!!コワレロコワレロ!!グギイキィイイーーッ!!!』
彰利 「や、既にアータが壊れてるから」
ズビシと虚空にツッコミを入れる彰利。
そんな彰利は、ルドラの創造の範疇を目の当たりにして呆然とする一方だ。
精神世界を再生させる要素を創造するなんてこと、流石に思いつかなかった。
ルドラ「学べ。想像とは唯一絶対の『自由』だ。
それを形にし、創ることは汝にとっての自由。
その力は汝の思考において一にも二にもなるだろう。
だが、思考を閉ざせば成長は無い。生涯を一のままで閉ざすだろう。
だからこそ学べ。想像に枷は無い。あるとするならば、それは己こそ最大の枷。
己の思考に限界を創るも創らぬもその者次第。
即ちそれが、枷に成るか否かの境界。
だが敢えて言おう。燻るな。思う様、全ての枷を外せ。
唯一の自由に枷を付けることを愚と唱え、そして弾かせよ。
刹那と言えど、汝が強く描いた像を」
それは誰に放った言葉なのか。
俺に言っているようにも聞こえたし、この精神の世界そのものに言ったようにも聞こえた。
……ああ、それならば。
きっとその言葉は、『晦悠介』に放った言葉だったのだろう。
ルドラ「レオのようには外してくれてやらん。出来るのなら汝の意思で避けてみろ」
意識を逝屠に向けたルドラが目を変異させる。
次の瞬間には黒いマントから光の槍が放たれる。
それはやがて、風に光を殺()がれてゆくように、槍本来の姿を見せた。
ルドラ「“不避死を齎す破生の竜槍()”」
一瞬。
まさに刹那だっただろう。
光という名の殻を破り、その姿を見せた槍が蠢く逝屠を貫いた時、
既にその命は形もろとも死滅していた。
『レオのようには外してくれてやらん』。
その言葉の意味は、つまり……『当たれば確実に生を破壊する』という意味があったのだ。
断末魔を挙げる暇も無く死滅。
その、信じられないくらいにあっさりとした殺し様に、彰利は何度も目を擦っていた。
彰利 「……はは、こりゃ勝てねぇわ……」
やがてそう呟くと、頭をカリカリと掻くのだった。
彰利 「勝てよカカロット……お前がナンバーワンだ」
……もう終わってるが。
そもそも誰がカカロットだ。
ルドラ「宿主よ。私はまたしばらく眠るとしよう。
後は汝と汝の信頼する者の力とで終着へ向かえ。
しばらくは満足な創造が出来なくなるだろうが、
馴れればより高みを目指せるだろう」
……了解。
ヒィン───パキィンッ!!
悠介 「……っとと、うお……眩暈が……」
意識が自分に戻った瞬間、もう眩暈がした。
死神の力と月の家系の力の差のためか、これは結構辛かったりする。
……と、俺がフラついている中で、彰利はどこかほくほくとした顔で鎌を出現させていた。
彰利 「悠介悠介、ほら見てよ!“殺戮を蝕す狂気の大鎌()”!」
ジャキィンッ!!
悠介 「………」
しっかりと逝屠の鎌をコピーしたらしい彰利が、元気にハシャいでいた。
悠介 「それはそれである意味便利だよな……どんな鎌が使えるんだ?」
彰利 「ウィ?あーあー、えーとですね……まず元として冥府誘う深淵の災い()でしょ?
そんでもって闇薙の斬命鎌()、運命破壊せし漆黒の鎌()、異端の三日月鎌()、
不浄を滅する災狩の大鎌()に比類無き深闇の漆黒鎌()に……
死すらも覆う深緋の鎌()と形無き混沌の深緋鎌()と滅亡を謳う死神王の深緋鎌()。
それと微動無き時操の理()と黄昏を抱く創造の世界()と、
今コピーしたばっかりの殺戮を蝕す狂気の大鎌()。トドメに“線路は続くよ()”」
悠介 「……山手線?」
彰利 「骨死神、出ュ浮=東郷の鎌ザマス。いや、これがまたなんの役にも立ちませんで」
悠介 「………」
呆れが入った。
およそ、鎌とは思えない名前だったからだ。
彰利 「まあ大半がボーン=ナムがコピーしたものですな。
ラグナロクコピーは『一応出来る』ってだけで、正直完全コピーは無理です。
しかも使う度に体への負担が大きくなってる気がしてねィェ〜」
声 《ああ検察官、それについて言っておきたいことがある》
彰利 「むむっ!?なんぞね!」
声 《ラグナロクをコピーするのはもうやめておけ。おそらく、お前の身がもたない》
彰利 「……?どういうことですかね?」
声 《状態異常を探知するためにお前と悠介の身体調査をしていたんだけどな、
検察官……お前の『冥府誘う深淵の災い』は、人の手に余る力を持っている。
いつか、お前が南無のことを話していただろう。
その鎌はシェイドが、
本来死神の力として南無に埋め込むべきものの大半を移して創ったものだと。
南無が脆すぎるのはその所為で、鎌のみが強いのはそのためだと。
つまりその鎌は月の家系といえども『人』である以上、手に余る代物だ。
だっていうのにコピーしきれないものを発動させ続ければ、
その分の負荷は当然検察官自身に降りる》
彰利 「……んじゃあ、頭痛がしたり吐き気がしたりしたのは……
ラグナロクコピーだけが原因じゃあなかったと?」
声 《そういうことだ。いいか、鎌を使う時は必ず南無の力を引き出してからにしろ。
じゃないと近い内に、千年生きたツケが一気に襲い掛かるぞ》
彰利 「千年のツケって?」
声 《……あのな。お前の体は既に限界なんてものを超えてしまっているんだ。
月の家系が普通の地界人より基本能力が高いとはいえ、
寿命が変わるなんてことは有り得ない。
お前は確かに南無と融合することでバランスは保てているが、
お前と南無を合わせ、千年生きたことになんら変わりは無い。
つまり、何かのきっかけで検察官と南無のバランスが崩れでもすれば……》
……その、千年生きた分のツケが体に襲い掛かるかもしれない、と。
彰利 「……まあ、通常の寿命の10倍は生きてるわけだから……ねぇ」
声 《体自体は千年生きているわけじゃない。けど、魂は別だ。
何度死んだのかは知らないけど、もうズタズタだ。
そんな状態で無理な死神の力の発動をしていれば、当然バランスも崩れる》
彰利 「ぬおお……」
声 《月操力などは『月の家系』としての力だからまだ大丈夫だ。
よほどの酷使をしない限り、バランスが崩れることはないだろう。
そもそも月操力とは神と死神と人のバランスが必要なんだろ?
検察官は最初からそのバランスが取れているし、南無にしたって元は検察官だ。
そこにバランス云々を考える余地なんて必要じゃない》
悠介 「今必要なのは、ハデスディザスターの使用で彰利に降りかかるダメージのことか」
声 《そういうことだ。いいか、あまり鎌を使うんじゃないぞ。
よっぽどの事態に陥らない限りは、『またいつか』と考えるようにしろ》
彰利 「いつか、か。なるほど、そりゃいいかもしれんね」
声 《……解ってくれたか。それならいい》
悠介 「………」
なんだかんだで、彰利って誰かに心配されてるよな。
ボコられる時はとことん容赦無くボコボコだが。
まあ、その方がいい。
今までが辛かった分、それのしっぺ返し……じゃないな。
お返しがあってもいいと思う。
そんなことはもう何度も思ってきたが、思わずにはいられないものは仕方が無い。
元より親友として、こいつにはいろいろと幸が訪れてもいいと思うんだ。
必ず幸せになれ、だなんてことは言わない。
ただ、こいつが普通の人よりも楽しい時間の中に居られるなら、俺はきっと満足だ。
悠介 「じゃ、行くか」
彰利 「押忍」
自分の危機を告げられたというのに、気にした様子も見せずに歩いてゆく。
そんな彰利を横目に、ゆっくりと歩いてゆく。
既にここは草原であり、精神の中心だろう。
もう慌てる必要もないのだから。
悠介 「ロディエルのことは俺だけでもなんとか出来るけど……
お前はこの精神介入が終われば帰るのか?」
彰利 「そうね。まぁ小僧の性格改善してからやね。
子供に構いっきりで妻を蔑ろにするの、よくないこと。
前々世からの恋愛の末の結婚だってのに、あれはダメだ」
悠介 「そうか?そんなのあいつらに任せておけばいいだろ。
離婚するならするで、あいつらの勝手だ。
結婚して見えてくる相手の像ってのもあるんだからな、
一方的に罵倒するのも性格改善とか言うのもおかしなものだろ」
彰利 「ホッホォ〜、やっぱ悠介は言うことが違うね。そうなっても許す気かね?」
悠介 「いや。殴るぞ?まあ……空は飛んでもらうつもりだ。
人の孫をたぶらかしたってことでな。結婚して離婚するヤツは基本的に嫌いだ」
彰利 「おお、それでこそ悠介だ」
悠介 「……その見解に同意を示していいものかどうかは解らんが……」
微妙だな。
でもまあ真実、離婚した時はふたりとも殴るつもりだ。
その刹那に男女差別なんてものを持ち出すつもりはない。
たとえ一方的に凍弥に問題があったとしてもだ。
離婚における罪は、結婚した時点で双方にあるものだと俺は思っているからだ。
悠介 「信じる者が必ず救われる訳が無い。───けど」
彰利 「ウィ?」
呟いた俺に振り向いた彰利の額にデコピンをした。
彰利はキョトンとした顔をしたけれど、軽くペチンと自分の額を叩くと笑ってみせた。
彰利 「自分が信じるのは、自分が信じようって心の底から思えた相手だけで十分だな」
悠介 「なんだ、聞こえてたのか」
彰利 「耳は良いんで。ま、アレだ。あいつらが離婚した時はそれ相応の制裁を頼むわ。
あいつらが離婚したら、その歴史に振り回された俺はホントにピエロだ」
悠介 「ああ、任せとけ。あいつらに大空の広さを教えてやるさ」
確かにあいつらが離婚するとしたら、一番怒るべきなのは彰利なのだ。
前々世からの付き合いで、しかもその邂逅は飛鳥によって仕向けられたもの。
それから見たくもない『人の死』を見せ付けられたこいつは、
それこそ親以上にその離婚を怒るべきで……
彰利 「ま、もしもの話で深刻になってても仕方ないだろ。ポジティブに行こう」
悠介 「……なんつーかさ、お前って精神体の方が話が解る気がするんだが」
彰利 「実は自分が一番驚いております。……ずっと昔のこと思い出したからかね。
ああほら、さっきルドラが精神を創造しただろ?
その瞬間さ、えーと……なんて言やぁいいのか。
……ああそうそう、アレだ。『子供の頃の俺』の記憶が流れ込んできた。
違うな。蘇ったって言えばいいのかな?」
悠介 「子供の頃の、って……けどお前、確かお前の子供の頃の記憶って確か……」
彰利 「……そうなんだよな。確かに俺の中の子供の頃の記憶なんて、
弦月のハハオヤと一緒に消えた筈なんだけど。
……もしかしてアレか?精神創造の波動に当てられて、
カラに閉じこもってた子供の記憶が再生された、とか?」
悠介 「お前じゃないからそういうことはよく解らないが、心当たりとかはあるのか?」
彰利 「まあ、あるような無いような。
つまりさ、子供の『彰利』は俺の深淵に閉じこもってたワケだろ?
それは無限地獄の開始から始まって、
弦月のハハオヤがその子供の『彰利』を連れていくその時までずっとだ。
だったらさ、その意識のカケラが付着しててもおかしくないだろ?
そこに精神回復の理力が流れれば……なんとなく可能性はあるだろ?」
悠介 「……なるほど。じゃあつまり、お前は完全な『弦月彰利』になったわけか?」
彰利 「……あまりその名前で呼ばれるのは好きじゃないけどね。
そういうことになるのかな」
悠介 「そっか」
特に驚くようなことはしない。
誰がなんと言おうが、俺にとってのこいつは親友であり、それ以上でもそれ以下でもない。
それこそ名前なんてどうでもいいわけで、こいつが改名したいって言っても頷ける。
元よりそれを咎める権利を持つ者はとっくの昔に死んでしまっているのだがら、
そういった意味では……ああ、そうだな、こいつは自由なのだ。
彰利 「……でさ。一体どこまで歩けばいいんだ?」
悠介 「知るか。精神体の持ち主に訊け」
彰利 「それが出来りゃあやってるって。まいったなぁちくしょう」
悠介 「『木』を探してみたらどうだ?約束の木を」
確信はないが、それを見つけられればそいつもそこに居るような気がした。
彰利 「……ああそっか。目的決めて行動した方がいいかもしれないな。
んじゃ、悠介はそっちで俺はこっちね」
彰利がそれぞれ対極の方向を指差して、軽いガッツポーズを取る。
……手分けしてさっさと探そうってことらしい。
悠介 「そうだな。手分けした方がいいか」
彰利 「おお。あ、いきなりだけどさ。『先攻後攻ジーロッピ』ってどういう意味?」
悠介 「知るかっ!」
いつでもいきなりに訳の解らんヤツだ。
でもそれが『らしい』から不思議だ。
……ハンケチーフを振って『愛してるわ〜!』とか言いながら離れてゆく彰利を見て、
俺は毎度のように溜め息を吐くのだった。
悠介 「……毎度、か」
彰利が自分の時代に帰ってからは、こんなにも心地のいい溜め息は吐かなかったな……。
悠介 「俺もまだまだ子供だな。友達が居ないだけで寂しいって思えちまう」
けど、それは仕方が無いんだろう……あいつは普通の友達じゃないのだから。
俺にとって、唯一無二の『たった一人の親友』なのだから。
悠介 「居なくなればよく解るもんだな……友達ってのはやっぱりいいもんだ」
小さく苦笑しながら頭を掻いた。
その拍子に見つめた遠くの景色には、
ただ……いつかそいつと出合った頃の、あの真っ赤な夕焼けが存在していた。
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