───遠く、幼い頃の夢を見ている。
夢見ては蹴られ、微笑んでは気持ち悪いと罵られ。
いつしか『親』に対して微笑むことも甘えることも無くなった自分は、
時折に見かける親に手を引かれて笑っている子供が虚像のように思えた。
どうして笑っていられるのか。
親というのは自分を一方的に怒鳴り、殴り、殺そうとする存在じゃないのか。
そんな疑問が、いつだって自分の中にあった。
でも───ずっと昔から殴られ続けた自分は『殴られることが当然』と思っていて、
『親を殺して自由を得よう』なんて考えは一度たりとも浮かばなかった。
これが当然なんだって思っていたから。
……たとえ現実が自分の状況と離れていたところにあったとしても、
自分はそういう状況に生まれてきてしまったのだから仕方が無い。
そう思うと『諦める』のは簡単で。
いつしか殴られるだけの人形になった自分は、何も望まなくなった。
……そう、その大きな木の下に、ひとりの少年が訪れるまでは───
───UnlimitedBlackOrder-No.04それぞれの行動、それぞれの意思───
───……。
リヴァ「なぁ、悠介。わたしは……お前らを見ていると頭が痛くなる」
悠介 「………」
精神から出た俺を待っていたのは、そんな言葉だった。
リヴァ「どうして……検察官はお前のために命を投げるようなことが出来るんだ?」
悠介 「………」
……どうして、か。
そんなもの、理由なんてきっと無い。
あるとするなら───
悠介 「……リヴァイア。友達ってのはどんなものだと思う?」
リヴァ「……解らないから訊いてるんだ。訊かれたって知るか……」
悠介 「友達……仲が良ければ友達。気が合えば友達。一緒に喜べるから友達……。
そういう答え、お前は頷けるか?」
リヴァ「解らないって言ってるだろ。けど……そういうものなんじゃないのか?」
悠介 「……違う。友達で居ることに、
仲良しも気が合うかどうかも、一緒に喜べるかどうかも関係無い。
そんなもの、家族でだって出来ることだ。
友達ってのは……俺にとっての『友達』ってのは、そんな安いもんじゃない」
リヴァ「じゃあなんなんだ……友達っていうのは人のために死ぬことの出来る者か?
それが友達なのか?そんなの、家族にだって出来るだろう……」
悠介 「……どうかな。家族だからこそ、命を捨てるなんてことが出来ないもんだ」
リヴァ「───じゃあお前は……それが友達だって言うのか!」
悠介 「……友情ってのは信頼だよ」
リヴァ「信頼……?」
悠介 「……ああ。信頼だ」
そう言うと、リヴァイアは小馬鹿にするように小さく鼻で笑った。
リヴァ「そんなもの、家族でだって出来るだろう」
悠介 「そうかな。裏切られても信じて、死ぬと解っていても守って。
殴られても笑い合って、大事なヤツのために何度も歴史を繰り返す。
……そんなこと、家族のために出来るのかな」
リヴァ「……それは極論だ。検察官じゃない限り、そんなことは───あ……」
悠介 「それが答えだろ。俺達が話してるのは大多数じゃなくて、その彰利の話なんだ。
怒鳴り合っても次の瞬間には笑って、
傷ついたら不器用にその傷口を時間をかけて治していく。
そうして治った傷は、家族の絆なんかよりもよっぽど誇らしくて……。
俺達は……特に彰利は、いろいろな俺と出会って、
何度も何度も傷ついたのに俺を見捨てたことなんて一度も無かった。
俺はそんなこいつの信頼に応えてやりたいし、
辛いからって投げ出すなんてことは出来やしない。
俺はこいつと出会って初めて、『友達』ってのがどんなものかを知ったんだ」
そう……人に殴られ、殺されかけ、人を信じることが出来なくなったであろう瞬間に、
それでも俺を信じ、幾度となく異なる歴史の俺の未来を開いてくれたこいつのお蔭で。
友情ってものは、最初っから裏切っていいものじゃない。
『青臭い』だなんて言って否定するものでもない。
青臭くてもいいんだ。
周りがどう思おうが関係無い。
周囲の目を気にして目を背けたら、いつかその友情は友情じゃなくなってしまうから。
だから『友達はひとり』でいい。
一生を賭けてそのひとりを見つけることが出来れば、退屈なんてきっと無くなるから。
悠介 「解らないかもしれないけどさ。
たったひとりの友達のために何か出来るのって、案外すごく嬉しいんだ」
だから自然に、俺は笑ってそう言っていた。
その顔がどれだけ自然な笑顔だったのかどうかなんて、
驚くリヴァイアの顔を見れば伺い知れた。
悠介 「俺はまだまだこいつに借りを返してやれてないんだ。
だから逆に……まあ、酷い話だけどさ。
こいつがこうなったことを喜んでる馬鹿な俺が居るんだ。
この馬鹿のために苦労出来るのが嬉しいっていうのかな。
はは、ほんとガラじゃない」
苦笑しながら鼻をカリッと掻いた。
滲み出るように自分の奥底から湧き上がる痒さを受け止めて、リヴァイアに向き直る。
悠介 「だから……言ってくれ。どんなことだってやってみせる」
リヴァ「悠介───気づいてたのか」
悠介 「こういう訳の解らないことには鋭いんだ。笑ってくれていい。
でも、その前にこいつを救う方法、教えてくれ」
リヴァ「まったくお前らは……。どこまで不器用な生き方をすれば気が済むんだ……。
双方に意識のある時はふざけ合うだけで、
片方に意識が無ければ全力で心配して……。
わたしから言わせてもらえばな、そんなことは意識のある時に───」
悠介 「笑ってる馬鹿を心配して、せっかく楽しめる時間を潰すのは愚考。……違うか?」
リヴァ「……〜〜〜〜っ……!」
俺の言葉に、リヴァイアにしては珍しく頭を掻きむしるようにして溜め息を吐いた。
そして言う。
『それが友達か』って。
俺はそれに満足そうに頷いて、『これが俺にとっての友達ってものだ』と答えた。
悠介 「大事ななにかを心配してる時、生きてるって感じがするんだ。
そいつのために自分の出来うる限りのことをしてやりたいって思うこと……
ほら、それって何物にも代えがたい目的だろ?
きっとこいつも、俺を守るのは目的としてやったことだと思う。
でもそこには確かな友情があった。……俺はそれで十分だ。
だからこそこいつが困ってるなら助けてやりたいって思う。
……なぁ、リヴァイア。俺は間違ってるか?」
リヴァ「……そんなもの。わたしに訊くまでもなくお前が一番良く解ってるだろ?
お前がそれを友情だって言うなら、それは間違いなくお前にとっての友情だ。
わたしがそれを否定したところでお前の答えは変わらないだろ?
わざわざ訊くな、ばか」
どこか拗ねたような声で、ささやかな文句を飛ばすリヴァイア。
その後姿に苦笑する。
リヴァ「……これはわたしの予想と期待にすぎない。
だが、自信が無いわけじゃない。上手くすれば検察官は目を覚ますだろう」
悠介 「覚ましてもらわなきゃ困る。で?どうすればいい」
リヴァ「急くな、順を追う。……悠介、お前は空界に飛べ」
悠介 「空界に……?」
リヴァ「そうだ。空界にある、とあるものを検察官に埋め込めば……
検察官は目を覚ますだろう。
体質に合わないか否かはわたしが書き換えでも行って無理矢理埋め込めよう」
悠介 「それはいいが……何を持ってくればいいんだ?」
リヴァ「………」
悠介 「リヴァイア?」
考えるように黙るリヴァイアを見て、少し嫌な予感がする。
だがリヴァイアは気を取り直すように小さく咳払いをして、俺の目を真っ直ぐに見た。
リヴァ「……いいか。空界にある『千年の寿命』を手に入れろ。
それを検察官に埋め込めば、検察官の中の『千年のツケ』は相殺されるだろう」
悠介 「千年の寿命?それは……」
リヴァ「空界に存在する『魔導魔術師』や『魔導錬金術師』が自らに埋め込むものだ。
空界の一定の場所で自然精製され、それを求めて旅をする冒険者も少なくない。
今空界に行って必死になって探したところで、先を越されるだけだろう」
悠介 「じゃあどうしようもないってことか?冗談じゃないぞ」
リヴァ「話は最後まで聞け、お前らしくもない。
いいか、とある場所に千年の寿命が大量に精製されている場所がある。
そこへ行ってそれを手に入れろ。それだけでいい」
悠介 「なんだ……そんなツテがあるなら先に───」
リヴァ「出来れば関わりあいたくない場所なんだ。ああいや、違うな。
干渉することで傷つけたくない場所なんだ、そこは」
悠介 「…………?」
言ってことの意味がよく解らない。
どこかの天然記念名所みたいな場所なのか?
重要文化財に任命されている、とか。
リヴァ「名を『チャイルドエデン』。
子供たちのみが住むっていう、空界では有名な子供達の楽園だ」
悠介 「チャイルドエデン……変わった名前だな」
リヴァ「……悪かったな。名付けたのはわたしだ」
悠介 「ぬお……」
正直似合わん。
リヴァ「どうせ似合わないとか思ってるんだろ。
好きに思えばいいさ、知ったことじゃない」
悠介 「あー……まあその、続きを頼む」
リヴァ「……ふん」
どこか拗ねたようにそっぽを向きながら、それでも話を続けるリヴァイア。
リヴァ「……チャイルドエデンは千年の寿命が自然精製される場所を城にしたものなんだ。
わたしと、ゼロ=クロフィックスの力で」
悠介 「ゼロ=クロフィックス?」
リヴァ「天界人と空界人のハーフだ。わたしの盟友でもある。
今は何処に居るのか知らないが、まあ歳を取らないヤツだからな。
今もどこかで団子を食べてるんだろう」
悠介 「団子、ねぇ……」
想像が出来ん。
リヴァ「そのチャイルドエデンは名の通り子供達の楽園。
ゼロが空界で孤児になった子供を集めたことから始まった。
千年の寿命がある場所をその住処にしたのは、聖域として保つためだ。
千年の寿命が精製される場所では、不思議と害虫も現れないし災害も起こらない。
理由は解らないけど、ずっと昔からそうらしいんだ」
悠介 「そりゃ便利だな。子供が住みやすそうだ」
リヴァ「ああ。作物もよく育つし、怪我をしても軽いものなら早い内に治る」
……けど待て。
そうだとしたら……
リヴァ「お前のことだ、察しはついてると思う。
もちろんそういう場所を自分の領土にしようって輩は少なくない。
いや……むしろ多いくらいだ。だから注意してほしい。
チャイルドエデンに向かうって行為だけで、
馬鹿な王族どもには『盗賊』だとか言われて狙われる」
悠介 「……それは、随分と立派な王族さまで」
リヴァ「ああ。自分のことを棚にあげるのが仕事のようなものだからな。
だが深い誤解はするな。
王族達も自国の民に楽をさせたいからこそ、より良い土地を求めている。
それを頭から否定することが出来ないから、わたしもあまり干渉しないんだ」
悠介 「………」
どこか悲しげに言うリヴァイアを、ポカンとした表情でじ〜〜っと見てしまった。
リヴァ「……な、なんだ?わたしの顔になにかついてるのか?」
スリスリと自分の顔を擦るリヴァイア。
もちろんその顔になにがついているわけでもない。
ないけど……
悠介 「……お前ってさ、空界じゃお人良しだって言われてるだろ」
リヴァ「なに?いや、どちらかを選べと言われたら冷酷な方だって言われたくらいだ。
正直お前のその見解は意外だった」
悠介 「そうなのか?だったら……」
こいつもきっと、彰利に会うことで変わったんだろうと。
そう思って、俺は少し笑った。
リヴァ「な、なんだいきなり笑ったりして。気持ち悪いな」
悠介 「なんでもない。で……俺は空界に行けばいいんだな?」
リヴァ「ああ。検察官は葉香に頼んで時間氷結してもらうとしよう。
それから───ロディエルはこっちの悠介になんとかしてもらう。
ああ悠介、念のため子供を何人か連れていけ」
悠介 「子供を?」
リヴァ「ああそうだ。そうだな……聖と検察官側の紅花がいいな。
もしお前がチャイルドエデンに入れなくても、そのふたりなら入れるだろ」
悠介 「なるほど……」
ってちょっと待て。
悠介 「そのチャイルドエデンってのはなんだ?シールドでも張られてるのか?」
リヴァ「いや、そんなことは全くないが」
悠介 「だったら……べつに俺が入れないってことは無いんじゃないか?」
リヴァ「……いや。チャイルドエデンには番人が居るんだ。
自分から志願するヤツも入れば、番人自身が選ぶヤツも居る。
そういうヤツらは決まって、なかなかの実力者ばかりが選ばれる」
悠介 「今の番人ってのは?」
リヴァ「カルナ=ナナクサ。元地界人の炎使いだ」
悠介 「地界人って……俺たちと同じ世界に住んでたってことか?」
リヴァ「『元』はな。空界で番人として認められて以降、たった一度の敗北も無い男だ。
まあ千年の寿命を狙う輩なんて、大体が力を求める馬鹿どもだ。
既に力のあるヤツがそうそう負けたりするわけがない」
悠介 「気をつけろってことか?」
リヴァ「気をつけて損することなんて何もないだろう?せいぜいが時間の浪費くらいだ」
……だな。
リヴァ「わたしが一番心配していることは、
エデン側と王国側との戦いにお前が巻き込まれるかどうかだ。
王国側は加減ってものを知らない。
特に新たに即位した馬鹿王子は手のつけようが無いからな」
悠介 「馬鹿王子か……」
素直に『いい響きだ』と思った。
まあそれはそれとして。
悠介 「なぁリヴァイア。式は使えるよな?」
リヴァ「軽いものならな。弱齢の時期が過ぎるまでは強いものは使えない」
悠介 「だったらさ、過去の俺の手助けをしてくれないか。
もしロディエルを追い払ったとして、
元の時代に戻ればまたロディエルとの戦いが待ってる。
あいつが現れたのは同窓会やってた頃の筈だから。
もしその時が近かったら、それを助けてやってほしい」
リヴァ「同窓会?それは人が大勢集まる催し物か?」
悠介 「ん?んー……まあ、そんなところだと思うが」
リヴァ「……だったら、既にやっていたぞ。人が集まって、騒いでいた。
ああ、それに……ある男が言っていた。『同窓会はどうなるんだよ』と」
悠介 「ぐお……」
嫌なことっていうのは重なるもの。
それはどうやら、今も昔も変わらないらしい。
悠介 「じゃあなおさらだ、手伝ってやってほしい。
その時代で起こることが俺の時と同じものなら、
多分相当に苦労する出来事が待ってる」
リヴァ「……そうか。解った、いいぞ。やってやる」
悠介 「ああ頼む。んじゃあ───……どうすればいい?」
リヴァ「うん?……ああ、すぐに空界に向かうならゲートを開く。
聖ともうひとりはわたしが連れて行こう。なにか質問はあるか?」
悠介 「ある。空界ってのはどんなところだ?」
リヴァ「……うん、当然の質問だな。空界は───そうだな。
この世界のマンガとかで言う『ふぁんたじぃ』って喩えるのが一番似合う場所だ。
当然、地界で言う『モンスター』や『魔法』もある」
悠介 「……それは男として憧れる世界だな」
リヴァ「理想と現実は一致しないものだけどな。他に質問は?」
悠介 「見つけた『千年の寿命』はどうすればいい?」
リヴァ「ああそうだな。肌で触れると瞬時に体に取り込まれてしまうんだ。
だからこれを持っていけ」
ヒョイと、まるでお手玉でも扱うように手袋を投げるリヴァイア。
見た目は軽そうでも、手袋とは思えない重力を感じた。
リヴァ「干渉払いの式を編みこんだ手袋だ。
それをつけて触れれば、千年の寿命に侵入されることはない」
悠介 「つまり、手に持って帰ってこいと?」
リヴァ「順を追うって言ったし、急くなとも言っただろ。
検察官が心配なのはわたしも同じだ、少し落ち着け」
悠介 「うぐ……」
自覚が無かったが、考えてみれば少しばかり焦っていたかもしれない。
リヴァ「手袋の甲にスイッチがあるだろ。
物を持った状態でそれを押せば、手の平の穴に収納できるようになってる。
あとは収納した状態で戻ってくればそれでいい」
悠介 「そっか。じゃあそのエデンってところに強引に侵入して、
千年の寿命を収納して逃げるのもありか?」
リヴァ「やろうとも思わないことを言うもんじゃない」
悠介 「………」
悟られてる。
俺ってそんなに善人に見られてるのか?
これでも昔は不良で通ってたんだが……まあ今はそんなことどうでもいい。
リヴァ「じゃあゲートを開くぞ。
子供どもはわたしが届けるから、お前は先に行って空気に馴れていろ」
悠介 「空気に?なんでまた」
リヴァ「景色に馴れろってことだ、行ってみれば解るよ」
キュバァンッ!!
悠介 「おわっ……」
リヴァイアがパチンと指を鳴らすと、
まるでヘコんだゴムボールが瞬時に戻るように、空中に大きな穴が現れた。
リヴァ「ほら行け。こっちのことはわたしとこいつに任せろ」
リヴァイアが過去の俺の額をコツコツとノックする。
俺はそんな景色に微妙な何かを感じながらも、
頬をひと掻きするだけで特になにを言うわけでもなく、その穴をくぐった。
その時に呟いた『行ってくる』って言葉は、
きっとその傍らで動かない猫に言ったんだろうと、自分でも笑ってしまった。
───……。
リヴァ「行ったか……よし」
頷きをひとつ。
それから、寝転がった状態でピクリとも動かない検察官をジッと見る。
べつに時間氷結させてもいいんだが、
どうせなら自然に動かしていた方が身体的に具合がいい。
リヴァ「……そうだ。確かレイルとレインを精製する時に造った偽造魂があったな」
◆偽造魂───ぎぞうこん
魔導錬金術と魔導魔術の結晶。
空界の中でもこれを精製することの出来る人物は少なく、
知られている限りではせいぜいで三人だと言われている。
その人物の体に染み付いた行動パターン、思考パターンを読み取り、
あたかもその人物そのものかと見紛うほどに行動する。
ただ、やはり少々の問題があり、どんな性格部分を強調するかがまるで解らない。
*神冥書房刊『空界蔵書:魔導のススメ第二十八巻』
虚空に式を描き、偽造魂を収納している虚空を開く。
そこから偽造魂を取り出し、虚空を閉じてから検察官を見下ろした。
リヴァ「……あまり、ヘンな性格パターンを強調しないでもらいたいが……」
偽造魂の欠点は、必ずどこかしらの性格を強調してしまうところにある。
それは避けられないもので、以前使用した時は『変態』が強調され、
ひとりの男が空界警備のものに捕まった。
だが逆に、いい部分が強調されればこれほど効率のいい方法は無い。
わたしはそれに賭け、偽造魂を猫の姿である検察官の頭の部分にゆっくりと沈めていった。
リヴァ「……頼むぞ」
小さく呟いて、その先を案じた。
───間も無く、検察官がシュパァンッと跳ね起き、
クルクルと回転しながらその場に立った。
……その起き上がり方にかなりの不安を覚えた。
リヴァ 「け、検察官?」
悟り猫?「ほねほねほねほねほね!!天知る地知る骨々知る!!
溟界の愉快な骨死神、天空×字=南無───再!降!臨!!」
ジャジャーーーン!!!
リヴァ「………」
よりにもよってこいつの性格が強調されたのか……。
わたしは、なんだか自分が『偽造魂精製に向いてないんじゃないか』という思考に囚われ、
少し頭を抱えて悩んだ。
───……。
南無猫「ほねほねほね……いやはやどうしたことか。
再びこの骨が体の主導権を握れる日が来ようとはほね。最高だね!愛してるね!
嗚呼この喜びを誰に手紙で届けましょうほね」
気づけば俺は俺だった。
手をワキワキと動かしてみる……が、骨じゃない。
南無猫「骨じゃねぇのがしこたま残念ほねね……。
まあいいほね。死法力発動!出でよ鎌さん!」
バキィンッ!!
南無猫「ほねぇえええーーーーーっ!!!!!」
なにごとでしょうほね。
死神の力を発動させた途端、我が頭に凄まじい痛みが走ったほねよ。
南無猫「ほねね……こ、これはなにごとか……!?」
リヴァ「検察官……」
南無猫「これほね!俺を検察官と呼ぶなほね!
俺は高貴で気高い骨死神───ボーン=ナムほねよ!?
あんな腐れ地界市民と一緒にされては困るほね!!」
リヴァ「はあ……やっぱりお前なのか……」
リヴァイアが俺を見て盛大に溜め息を吐きおったほね……なんですかねほね。
南無猫「しかしどうしたことほね?気づけば体が猫で、死神の力が使えねぇほねよ。
オイコラテメェ、俺の体になにしやがったほね」
リヴァ「口が悪いぞお前……」
南無猫「人を検察官呼ばわりした罰ほね。二度と間違えるなほね。
俺はナム。ボーン=ナムほね。
あの時弦月彰利を助けはしたが、それは夜華さんを悲しませないためが故ほね。
本来ならば弦月彰利と同じ姿をしているだけでも吐き気がするほね」
リヴァ「………」
南無猫「で、これはどういう状況ほね?こと細かに説明してもらいたいほね」
リヴァ「……解った。その代わり茶化すなよ」
南無猫「ラーサーほね!」
こうして俺は、リヴァイアにことの経緯を説明してもらうことになった。
───……。
南無猫「つまり俺はいつの間にか猫として転生していて、
目を覚ませば地の底の底の獄、強制労働施設に居たと?」
ああっ……それにしても金が欲しいっ……!
リヴァ「ヘンな顔をするな気持ち悪い」
南無猫「ひでっ!?ほね!」
『しかも見当違いもいいところだ』と続けるリヴァイアに、さすがの骨も悲しみを抱いた。
南無猫「しかしまぁ、弦月彰利も愚かよのぅほね。
我が骨の力、ニンゲンごときが簡単に扱える力じゃねぇほねのに」
リヴァ「今現在、自分の力も使用出来ないお前が言うな」
南無猫「……それキツイッスよほね……」
そうなのだ。
弦月彰利が無茶な死神力の使用をした所為で、現在この骨は何も出来ない状態。
言うなれば、黒衣を身に纏い、刀と帽子とブーツを装備した喋れる猫……それだけ。
南無猫「キツイほねなぁ〜……自分の力勝手に使われた挙句がこれほねか?」
すこぶる悲しいほね……満開虚しいほね……。
リヴァ「ナム、ひとつ頼みたいことがあるんだが」
南無猫「いきなりほねな……なにほね?」
リヴァ「ロディエル=D=シュトロヴァイツという人物を退けることに助力を願いたい」
南無猫「ほね……それは契約ほね?残念だがデスノートなら夜華さんに渡したままほね。
夜華さんがそれを放棄しないかぎり、
誰かにその力が移ることなど有り得ねぇほねよ」
リヴァ「違う。ただ普通に頼んでいるだけだ。『頼みたいことがある』って言ったろ」
南無猫「おっとこれは早合点ほね。
いいだろうほね、貴様には意識を呼び起こしてもらった恩があるほね。
骨死神、受けた恩は忘れねぇほね。だから助力するほねよ」
リヴァ「そうか。助かる」
南無猫「そこでひとつお願いがあるのだがほね……」
リヴァ「なんだ?」
南無猫「……この体、骨に出来ねぇほね?肉があるとどうにも落ち着かねぇほね」
リヴァ「気色の悪いことを言うな、ばか」
南無猫「………」
気色が悪いって言われちまったほね……。
しかも骨の存在を完全否定された気分ほねよ……。
南無猫「んー……現状把握するために、
ちと弦月彰利の記憶を探るほね。構わないほねね?」
リヴァ「いいんじゃないか?検察官もそういうことはやっていたらしい」
リヴァイアはなにやら虚空に浮かぶデータを見てそう言っている。
南無猫「なにほね?」
リヴァ「うん?ああ、検察官の精神データだ。
精神に潜る時には詳細を取っておいて困ることはない」
南無猫「なるほどほね」
ようするに、実際に弦月彰利の野郎は俺の思考を覗いてたってことほねね?
まったく失礼なヤツほね。プライバシーの侵害ほねよ?
というわけで俺が弦月彰利の記憶を除いてもフィフティフィフティ。
これでおーけーほね。
………………。
南無猫「ほね……なるほど。この姿は前々世ってわけほねね?」
なんとも奇妙な前々世ほね……どうかしてるぜまったくほね。
でもまあ弦月彰利の姿で居るよかマシほね。
これぞ世に言う結果オーライほね。
南無猫「リヴァイア、ひとつ質問があるほね」
リヴァ「ん……なんだ?」
南無猫「晦悠介の中の『逝屠』は、悠介の中の創造の理力を固定する時に、
完全に消滅させた筈ほね。(DestinyBreaker三十一話:『逝屠』参照)
それがどうしてまた精神内に出てきたほね?」
リヴァ「ちょっと待て……───ああ、これだな。
どうやらあれは『悠介に自信を持たせるため』にシェイドがやらせたもので、
基本的に悠介の中の逝屠が消滅したわけじゃないらしい」
南無猫「……つまり、あれほね?
悠介は自分が手に入れた自信で、今まで逝屠を抑えてた……ってことほね?」
リヴァ「そういうことになるな」
南無猫「………」
自信って凄いほねね……。
南無猫「うむほね。質問が解決するとスカッとするほねねぇ〜。
で、これからキミはどうするほねね?」
リヴァ「検察官の時代に飛んで、聖と……みさお、か。そいつらを連れてくる」
南無猫「俺も行くぜ〜〜〜っ!!ほね!」
リヴァ「いやいい来るな」
南無猫「すっげぇ即答ほねねっ!?だがまあ落ち着けほね。よく考えるのだほね」
リヴァ「ほねほね言うな、鬱陶しい」
南無猫「……自分で性格解放しといてからに、随分と酷い言い草ほねね……」
リヴァ「検察官を否定するお前はあまり好きじゃない」
南無猫「しょうがなかろうモンほね。
誰にでも好き嫌いがあるように、骨にも好き嫌いはあるほねよ」
そこんとこ、よろしくほね。
南無猫「とにかくほね。どうやらその聖とみさおは弦月彰利に懐いてる様子ほね。
だったらそれを最大限に利用してからかわねぇ手はねぇほねよ?」
リヴァ「からかってどうするんだ……」
南無猫「もちろん楽しむほね。他になにがあるほね?」
リヴァ「……目的、解ってて言ってるのか?」
南無猫「ほねっ!?これからのことは何も聞かされてねぇんだから知るわきゃねぇほね!
だから教えるほね!コンビーフの缶はどうしてあんな形ほね!?」
リヴァ「無関係のことを謳うな。いいから聞け」
南無猫「……あんた冷てぇほね……」
───……。
南無猫「めんどくせぇほね!!
どうして俺が弦月彰利復活の儀式を手伝わねばならんほね!!」
説明をした途端、猫はそう叫んだ。
やかましいことこの上ない。
シェイドには『骨死神は比較的に喋らないほうだ』と聞いていたのにこれだ。
……そりゃあ、例外として『究極の死神はよく喋る』ということを聞いてはいたけれど。
南無猫「不愉快ほね!弦月彰利を救うくらいなら眠ってた方がマシほねよ!?
チェェエーーーーンジッ!!コマンドーーッ!!」
リヴァ「なにっ!?」
猫が懐から眼鏡のようなものを取り出し、目に掛けた。
すると光のようなものが空から降り注ぎ───……
猫 「……ウィ?」
ハタ、と自分に意識があることに気づいた人のように、
目をパチクリさせる猫がそこに居た。
猫 「ありゃ?ありゃりゃ?なんか景色がとっても高い……。
ま、まさか───もしかしてアタイ、小人になっちゃった!?
キャア!ファンタスティックYO!!なんてステキ体験!
“黄金体験”()も敵じゃないわYO!?」
リヴァ「…………あー……」
なんだ?随分と態度が変わって見えるが……
猫 「……あら?誰アナタ」
リヴァ「落ち着こうか……」
訊ねてくる猫を無視し、式を使って現在の猫のパーソナルデータを読み取る。
……現れたものは、『特に何も知らない弦月彰利』の性格パターン。
つまり、自分の能力の出生のルーツや、月の家系が誕生した訳も知らない検察官だ。
彰利猫「ハッ……まさかアナタ、
アタイを生贄にして五つ星モンスターを召喚しようってハラじゃ……!!」
リヴァ「待て。何を言っているのか解らないぞ……」
……いや、それこそ待て。
データによれば、この頃の検察官は『意味不明』を謳う人物だったらしい。
常識が通じないのは今もだが、この頃の検察官は本当に常識無視人のようだ。
リヴァ「おい検察───かん?」
少し考えを凝らした隙に、そこに居た筈の猫が居なくなっていた。
すぐさまに辺りを見渡してみれば、寝転がっている悠介を見つめる猫がそこに。
彰利猫「さっ……さささささぁ眠り姫!っつーかダーリン、
アタイのとろけるような灼熱キッスでどこぞの王子のように目を覚ますのよ……。
そして目が覚めたらボクらは恋仲!
王道!それこそ夢見る者達の永遠のロマンス!!」
やがて猫の身体情報を完全に無視して、口をムニュウウウと伸ばす猫。
ドゴシャズバァンッ!!
彰利猫「ハボブッ!?」
リヴァ「あ」
つい条件反射、というか……気持ち悪かったので攻撃系の式を発動させてしまった。
式に吹き飛ばされた猫が壁に激突するが……すぐさまに立ち直った。
彰利猫「フッ……なかなかいいパンチ持ってるじゃないか……響いたぜ?
だがこんなことではいけないわマイコー!世界は広くてよ!?
もっと練習して明日の夜空に輝く星になりなさい!プリマドンナは近い!」
リヴァ「………」
困った。
どう対処していいか解らない。
大体、恐らく月操力も満足に使えない状態で、
どうして式をくらって平然としていられるんだ?
……いや待て。
もしかして鎌や死神の力が使えないだけで、月操力は使えるのか?
彰利猫「アータがどげな理由で眠り姫状態のダーリンと個室に居るのかは知らん!
でも貴様ごときにダーリンは渡さなくてよ!?
どうしても欲しければ───アタイの屍を匍匐前進で超えて行け!!
そうすればアナタの豊かなボディ〜がアタイの屍の上を……キャア!
もう愛してる!結婚して!」
リヴァ「すまん悠介起きてくれ……。ギブアップだ……もう耐えられない……」
悟った。
今の検察官には何を言っても無駄だ。
話を聞いても無理矢理捻じ曲げる気満々に見える。
というかそうとしか見えない。
彰利猫「ハァハァ……ダ、ダーリンの寝顔ってば最強……!!
さ、誘ってるのよね?いいのよね?」
リヴァ「落ち着け……」
バヂィッ!!
彰利猫「ビワァーーーッ!!」
式・光雷を発動。
猫は全身の毛を静電気で立てたかのような姿になりつつ、その場からステップして逃げた。
彰利猫「なんだよー!なんで邪魔すんだよこのヒス女!野菊!山菜!草!
人の恋路を邪魔するとUMAに攫われて人体改造されるんだぞーっ!?」
リヴァ「ユーマじゃなくて馬だろう……しかも蹴られて死ぬ筈だ」
彰利猫「博識ぶって誤魔化そうったってそうはいかねェわよ!?」
リヴァ「頼む悠介起きてくれ……頭が痛くなってきた……」
彰利猫「頭痛にバファリン」
リヴァ「いるかっ!!そもそも頭痛の原因は貴様だろう!!」
彰利猫「ヒ、ヒドイ……大人っていっつもそう……!
都合が悪くなるといつもそうやって人の所為に……!!」
リヴァ「事実を述べたまでだっ!!」
彰利猫「ボカァキミの意見に賛成出来ないな。
事実だのルールだの……そんなものに縛られた生き方って虚しくないかな。
だからキミには友達が出来ないんだよ」
リヴァ「大きなお世話だっ!!
お前っ、わたしのこと知りもしないでよくもそんなことが言えるな!」
彰利猫「覚えてるぜ!?フハハッ!この俺が人を忘れるとでも!?」
リヴァ「なっ───じゃあ……」
わたしのことを知っていると───!?
だがそれではこのデータには当てはまらない……どういうことだ?
彰利猫「有島横丁に住んでた孫六さんだろ!文部省認定!」
バグシャア!!
彰利猫「ギャアヤヤ!!」
リヴァ「あ」
問答無用で、式も使わずに拳が動いたのはそれが初めての出来事だった。
こうして見るとよく解る……検察官の性格は絶対に『変わっている』。
口々に『変わってない』とか言う輩が多いが、これは確実に変わってるだろ……。
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