───UnlimitedBlackOrder-No.05正義のヒーローとモミアゲとモモンガと───
【ケース01:枢勝/勝35】
枢勝 「はっ……ははははは!!!ついに完成したぞ!究極の自動人形が!!」
地界、エルハイフ・クリーグス社。
その地下3階で、不敵に笑うこの男……名を枢勝。
かつて彰利にパンチ、フック、ボディ、チン、毒霧をされたその少年の成長した姿である。
もちろんこの時間軸においての枢勝は彰利と会ったことは無いわけだが。
エルハイフ・クリーグス社というのは過去から今にかけて、
レイヴナスカンパニーと対立している会社だ。
カンパニーに偵察者(以下略とか)を送っているのもこのエルハイフ社。
ちくちくと集めたデータを素に、
ついに完成させたレプリキュートヒューマンもどきを完成させた。
……もどきなのに完成というのも虚しい結果ではあるが。
枢勝 「こいつのデータをコピーして大量生産して……
そうすればガードマンのひとりやふたり、なんとかなるさ!
今度こそレプリキュートヒューマンの秘密を暴くんだ!
その先に待つのは俺の昇進と明るい未来!……くっ……くははははは!!」
枢勝は高らかに笑った。
流石はイジメッ子だっただけのことはあり、性根が曲がったまま成長したらしい。
枢勝 「さあっ!早速レイヴナスカンパニーに乗り込むぞっ!
行こう、グリポンくんっ!!」
グリポン『……絶対に返り討ちに遭うと思うな』
鳥形の自動人形のグリポンくんは、枢勝の肩に乗りながらそう呟いた。
一応AIも組み込まれていて、なかなか知能も高い方である。
……まあ、それであるが故、結果など見えていたわけで───
ドゴシャベキゴキガンゴシャベキャアアアーーーーッ!!!!!
枢勝 「ヒ、ヒィイイイーーーーッ!!!!」
コピーされ、大量生産されたレプリキュートヒューマンもどきは、
ひとりの長髪の女に瞬殺された。
女は息ひとつ荒げぬ立ち振る舞いで瓦礫の山の頂に立ち、その目を緋く灯らせていた。
葉香 「数さえ作れば敵うと思ったか、たわけ。
いいか、これが最後の警告だ。わたしはお前らのことが反吐が出るほど嫌いだ。
始末せずに生かしているのはエゴにも似た、腐った精神からだ。
過去、貴様らがしたことを理解しようともせずに……
いつまでも他人の心の結晶を盗もうとするカス加減……恥と知れ」
枢勝 「う、うるさーーい!!俺の自動人形はお前なんかには負けやしないんだ!!
目覚めろ!ジャック・オーランタァアアーーンッ!!!」
枢勝が、糸をリングに繋げたようなものを指に付け、勢いよく引いた。
すると枢勝の背後にあった大きな箱から人形が飛び出し、女に向かって走り出す。
葉香 「───馬鹿が。『最後』という真意すら汲み取れないなんてな。
もういい、貴様らエルハイフ・クリーグス社の輩に、存在する価値は無い。
その存在、元素から消してやる。“微動無き時操の理()”」
鎌が出現する前に攻撃を仕掛けてきたカボチャの人形を容赦の無い拳で叩き落し、
その緋く鋭い眼光で男を睨み、鎌を握り締める。
あとは……───いつかと同じだった。
そう、彼女が死神と同化したその時と……同じだった。
葉香 「塵に還れ。その存在、素粒子すらも遺さん」
女が鎌を振り、それがカボチャの形をした機械の肩に刺さった刹那───
その世界にはもう、ジャックオーランタンの人形という存在の歴史は存在していなかった。
つまり……時を元素まで遡らされ、さらにその先へと向かわされた末路。
ソレが存在したという歴史さえも、ソレの存在とともに消したのだ。
葉香 「消えた者に送る手向けの花なんて無い。
たとえそれが罵倒だろうが同情だろうが、だ。───黙って消えろ」
枢勝 「バ、バケモノ……!?」
葉香 「見たことは忘れろ。そして二度と来るな」
女は枢勝の額をトンと指で突くと、次の瞬間バガアァアアアアンッ!!!
枢勝 「ぶふへぇえええっ!!!!」
……思い切り殴っていた。
葉香 「……まったくムシャクシャする……。おい、そこに隠れてる女」
声 「ッ───!!にゃ、にゃ〜、にゃ〜」
葉香 「死にたいのか、姿を見せろ」
以下略「は、はいぃっ!!」
……以下略が現れた。
葉香 「いいか、二度とここに近づくな。
これだけのことをしたんだ、わたしだって怒るぞ」
以下略「レプリキュートヒューマンの情報を横流ししてくれれば───」
葉香 「───言うな。実に殺すぞ」
以下略「───!!ひっ……!!」
女の目が深紅に染まる。
以下略の怯えも当然だ。
何故なら女は『嘘を言っていなかった』のだから。
葉香 「先に殺したのはお前らの方だ。だから私も消した。
それを逆手に取るようなことをして付け上がる気なら、わたしだって憤慨するぞ。
いい加減貴様らのやり方にはうんざりしている。
ああそうだな、会社の歴史ごと潰しても構わないんだ。
だがそんなことをすればお前らのようなクズと同列になる。だからやらない」
以下略「は、ははははい……!!」
葉香 「だが───解ってるな?お前らがやるならこっちもやり返すのみだ。
解ったら消えろ、目障りだ」
以下略「ひ、ひぇえぇええええっ!!!!」
───……以下略、退場。
女は懐から煙草を取り出そうとし───煙草が切れていたことを思い出し、
ただつまらなそうにカンパニーの中へと戻っていった。
【ケース02:未来悠介/或る日、森の中、……モモンガに出合った】
───……空界、ハルンゲリュスの森。
悠介 「で……ここは何処なんだろうな」
渦を通って降り立った場所は、まるで知らない場所だった。
けど───『ああ』って頷けるような場所。
つまり、ファンタジー世界っぽい場所だ。
土や木、空気までもが明らかに地界とは違う。
虫や動物までもが違う存在で、見るものの全てが新鮮だ。
悠介 「聖と紅花を後で送るとは言ってたが……ここに送るつもりか?」
正直、ここはちと危ない気がするんだが……?
見渡す限りの森、森、森。
何処に進めばいいかなんてまるで解らない。
しかしここでこうして燻るわけにもいかず、俺は溜め息を吐いてから歩き出した。
聖と紅花は自分でなんとかするだろ。
というよりも、もうどんな年齢層であろうと『女と行動する』のは御免な気分だ。
女と関わって、禄な目に合ってないからなぁ俺……。
───ガササッ!
悠介 「ん───」
再び溜め息を吐いた瞬間だった。
森の傍の茂みが揺れ、そこから何かが飛び出してきたのだ。
俺は思わず手を伸ばし、飛んできた何かをギュムッ!!と掴んでしまった。
すると、なにやらフカフカとした、なんとも言えない柔らかい感触が……
悠介 「………」
???「クキュ……」
……モモンガだった。
ただし、背中に『JET!』と書いてある。
いや……書かれているわけではなく、毛の色がそうさせているようだ。
地毛で『JET!』と描かれているように見えるとは……なんなんだこいつは。
───ガササッ!!
悠介 「ん───またか?って、うおっ!?」
声 「てぇえええやあぁああっ!!!!」
再び茂みが唸り、そこから───モモンガではなく、人が飛び出してきた。
そいつはがむしゃらに虫取り網のようなものを振るい、
俺の頭をガボシッと捕らえると、ハッとした顔で焦った。
男 「あ、ありゃっ!?ジェットモモンガはっ!?」
……どうやら俺が手に持っている動物に用があるらしい。
悠介 「動物の行方を案ずる前に……
まずこの虫取り網をどかそうって気は起こらないのかお前は」
男 「えっ?……やあ、こりゃまた随分と幸薄そうな顔の人。
こんなところでなにやってんですか?」
悠介 「………」
言われてるぞ俺……。
初対面のヤツに幸薄そうって言われるとは……俺ってそんなに幸薄い顔してるのか……?
悠介 「チャイルドエデンって場所を探してる。知らないか?」
男 「チャイルドエデン?こりゃまた随分と大変な場所を探してるんですね。
どんな用なんですか?」
悠介 「エデンの中に用がある。どうしても行かなきゃいけない用なんだ。
どこにあるか知らないか?
知らなかったらこの森を出るための道を教えてくれるだけでいい」
男 「こりゃまた随分と熱い志を持ってそうな顔をしますね。
でもエデンは干渉禁止区域でもありますよ?
王国の許可が無ければ近くに寄ることも出来ませんし」
悠介 「王国のことなんて俺には関係ない。
王国の仕来りなんてものは、その国の者が従うべきものだろ?
この世界の者じゃない俺がそれに従う道理なんて無い」
男 「……こりゃまた随分と驚きました。もしかして別の世界の人?」
悠介 「……あのな。話を本題から離そうとしてやいないか?
俺が訊いてるのはチャイルドエデンの場所と、それがダメなら森を抜ける道だぞ」
男 「こりゃまた随分と意思の強いお方。
先にお願いしたいんですが、そのモモンガ……私に譲ってくれませんかね」
悠介 「………」
男は屈託の無い笑顔でそう言ってきた。
こんな人の良さそうな顔をされれば大抵のヤツは騙されるだろう。
が───俺からみれば、こんなのは薄っぺらな仮面にすぎない。
黒い人間性を見ながら生きてきた俺にとって、こいつの仮面は下の下にすぎなかった。
悠介 「───密漁」
男 「ぎっ……な、なんのことで?わ、私はただ、保護をしようと……」
悠介 「そうか?俺はただ独り言を言っただけなんだけどな。
お前の保護だのなんだのの論なんて、最初から聞くつもりはない」
男 「───……エージェントどもの回し者か」
悠介 「知るか、そんなの。言っただろ、俺はこの世界とは関係無い人物だ。
お前が俺の知らない場所で何をしようが知ったことじゃない。
ああ、けどな、目に見える場所のことは別だ」
男 「……こりゃまた随分と達者な理想論。ですが私にゃあ関係の無いことです。
だから───あんたにはここで死んでもらいます!」
男が腰に備えていた長剣を抜き、思い切り振り上げる。
悠介 「それに───お前のその目、腐りきっててまともに話をするのも馬鹿らしい」
ゴバッ───
男 「ぐぎゅっ!?」
剣を振り上げた状態の隙だらけのアホゥの顔面を殴る。
だがそれだけで済ますつもりもない。
俺はそのまま顔面を拳に引っ掛けるようにして、地面目掛けて───ッシャアァンッ!!
男 「げひゃっ!!」
渾身の勢いを込め、叩きつけた。
男はバウンドし、泡を吹いて動かなくなってしまった。
悠介 「腐り事は寝てから言え。それが寝言と同位のものなら聞いてやるさ」
動かない男から興味を無くしたかのように踵を返し、適当に歩くことにした。
掴んでから掴みっぱなしのモモンガはさっきから動こうともしないが、
生きてはいるし傷を負っているわけでもない。
悠介 「ジェットモモンガねぇ……」
その背中の『JET!』の体毛を見て呟いた。
……そのまんまじゃねぇか……。
【ケース03:リヴァイア/迷走】
……ドシャッ。
彰利猫「グビグビ……」
リヴァ「はっ……はぁ、はぁあ……!!」
ようやく黙った検察官を見下ろして、長い長い息を吐いた。
まったく冗談じゃない……。
リヴァ「くそっ、予定が大幅にズレた……!
早いとこ聖と───みさお、か。そいつを連れ出さないとな」
思うように操れない式を編み、ゲートを開く。
あとは説得して連れてくればいいんだけど……ああもうまだるっこしい!
リヴァ「強制転移!」
バチュンッ!!
式をゲートごと弾かせ、聖とみさおを転移させる。
聖 「きゃっ……!?」
みさお「わっ……!」
───どしゃしゃっ!!
強制転移させたふたりはものの見事に顔面から落下した。
だがそんなことはどうでもいい。
こいつらなら、検察官を助けるためだと言えば頷くだろう。
リヴァ「ふたりとも、よく聞け」
聖 「あ、あれ……?リヴァイアさん」
ズビシッ!!
聖 「はにゅっ!!」
リヴァ「『さん』付けで呼ぶなって言っただろっ!」
聖 「ご、ごめんなさい……」
みさお「や、綺麗なデコピンでした……」
リヴァ「欲しいのは感想じゃないんだが……ああそんなことはどうでもいい。
お前ら、検察官の命を救うために助力を頼む」
聖 「え───や、やりますっ!!」
みさお「ちょ!ちょちょちょちょーーっと待って!待って聖ちゃん!!
その前にまずどうしてそんなことになったのかを訊こうよ!」
聖 「パパの命を救うんだよ!?戸惑ってたら間に合うものも間に合わないよっ!!」
みさお「うう……聖ちゃんって眩しすぎるよ……。時々自分が酷く醜く思えてくる……」
…………少々呆れが入る。
だが拒む様子も無い。
それは素直にありがたいことだった。
リヴァ「検察官が命の危機にあるのは千年間生きたツケからだ。
魂と入れ物が既にボロボロなんだ。
だから今、悠介が空界に『千年の寿命』を取りに行っている」
みさお「あ……やっぱり。
わたしも少し不安だったんです……彰衛門さん、無駄に長生きしてますから」
リヴァ「気づいてたのか?」
みさお「少しだけ、ですけど。
でも彰衛門さんって、人のことばっかりで自分のこと鑑みようとしないから……
きっと忠告しても無駄なんじゃないかって思って、黙ってました」
リヴァ「……そうか」
みさお「それに……わたし、彰衛門さんと誓いましたから。お互いを信じるって。
彰衛門さんのこと『バケモノ扱い』しちゃったことは今でも辛いです。
でも、彰衛門さんはそれでもわたしのこと信じていてくれました。
だから───今度はわたしが、その思いに答える番ですから。
言ってくださいリヴァイア……え、えと、ゼロさん。
わたしたちをここに転移させた理由はなんですか?」
聖 「みさおちゃん……───そ、そうですっ、教えてくださいっ!
今のわたしたちに出来ることはなんですかっ!?
パパのために、わたしたちには何が出来ますかっ!?」
リヴァ「………」
ふたりの目はどこまでも真っ直ぐだった。
……ああ、そうだな。
検察官と関わったヤツは、大体にしてこう……進んでお節介を焼きたがる。
わたしを含めて、な。
リヴァ「みさお、時間凍結は出来るか?」
みさお「え……はい。神魔融合法術でならなんとか……」
リヴァ「そうか。ならそこで痙攣してる検察官にかけてくれ。───聖」
聖 「は、はいっ」
リヴァ「お前は準備していろ。検察官の凍結が終わったら、すぐに空界に飛んでもらう」
聖 「わ、解りました、頑張ります」
リヴァ「…………」
聖 「……?」
リヴァ「どうして、とは訊かないのか?」
聖 「え……?パパを救うために飛ぶんですよね……?」
リヴァ「あ、ああ、そうだが」
聖 「……はい、頑張りますから」
リヴァ「………」
聖 「…………?」
みさお「……ゼロさん。聖ちゃん、人を疑うことを知らない子だから……。
だから『なにかのために』とか言ったら、
その間にある過程なんてどうでもいいんですよ……気をつけてください」
リヴァ「……今思い知った。検察官の娘とは思えないほど真っ直ぐだ」
みさお「言われてますよ、彰衛門さん……」
聖 「?、?」
聖だけが首を傾げる中、みさおが検察官に時間凍結をかけた。
みさお「……はい、これで大丈夫です」
リヴァ「ああ助かる───さて。
これからお前らには、空界のチャイルドエデンに向かってもらう」
聖 「チャイルド……」
みさお「エデン……?」
リヴァ「そうだ。子供達の楽園と言われている、子供しか住んでいない場所だ」
みさお「そこにさっき言ってた『千年の寿命』ってものが?」
リヴァ「ああ。わたしが知る限り、今精製されてるのはあそこくらいなものだろう。
さっきも言った通り、既に悠介が行っている。
お前らにはその手伝いを頼みたい」
聖 「え……悠介さんて……」
チラリと、寝台で眠っている過去悠介を見る聖。
だがわたしはそれを否定して、そいつがこの時代の悠介じゃないことを教えた。
みさお「ちょっとややこしいですね……。
つまりこの悠介さんはわたしたちの居る時代の悠介さんで、
空界に行っている悠介さんはこの時代の悠介さん、ってことですか?」
リヴァ「そうだ。別にややこしくはないだろう」
みさお「あ、そうじゃなくて。同じ時代に同じ人が居るのがややこしいって意味で」
リヴァ「ん───まあ、そうだな」
まだ少し説明しようと思ったが、空界の悠介との距離が離れると厄介だ。
そう思ったわたしはゲートを開き、ふたりを促した。
みさお「この先がもう空界ですか?便利ですね」
聖 「うん……」
リヴァ「いいから早く行け。───っと、そうだ。
お前達に頼むのはチャイルドエデンへの入城だ。
あそこは子供しか入れないから、悠介だけじゃ無理なんだ」
みさお「あ……なるほど。解りました」
聖 「パパのこと、お願いします」
リヴァ「ああ、言われるまでもない」
みさお「行こっか、聖ちゃん」
聖 「うんっ」
───やがて。
ふたりは手を繋いで空界へのゲートへと飛び込んでいった。
リヴァ「───よし。さて次は……」
式を編み、この時代の悠介の精神データを取り出す。
それをどうするかというと、ここで寝ている過去悠介に埋め込むのだ。
あまり精神だの記憶だのに干渉はしたくないのが本音だが、こればっかりは仕方が無い。
過去の時代の悠介は些か心細い。
だがそれも、知識と経験さえあればなんとかなるだろう。
リヴァ「干渉、開始」
引き出した知識と経験の全てを、眠っている悠介に流してゆく。
ああもちろん、この時代の悠介の深いプライベートの部分は流していない。
これが原因で、この悠介がルナ=フラットゼファーとは夫婦なのだと認識してしまったら、
それは取り返しがつかなすぎる上に検察官に合わせる顔が無い。
リヴァ「……よし。あとは目覚めるまで待てばいい」
知識と経験を流し終えたわたしは、一息ついて寝台に寄りかかった。
……まいったな、小さな式だけでもこんなに疲れるなんて。
こんな調子でこいつの手助けが出来るのか───?
───バタンッ!!
リヴァ「……?」
葉香 「………」
突然開いたドアの前。
そこに、閏璃葉香が立っていた。
その様子は苛立っているようで、珍しく煙草を吸ってない……いや、切れたな?
リヴァ「……どうした?ここに来るなんて珍しいな」
葉香 「悪いな、苛立ってるんだ。気を紛らわす何かを用意してくれないか」
リヴァ「……あのな。お前、わたしをなんでも屋かなんかと勘違いして───」
……いや、待て。
リヴァ「……なら、打って付けの相手が居る。乗るか?」
葉香 「───?……ああ、あいつか。確かに丁度いいかもしれない」
言わずとも、っていうのか……葉香はニヤリと笑うと、そのまま部屋を出て行った。
……あそこまで理解力があると逆に怖いな。
なにがあったのかは知らないけど、これでこの時代のロディエルはどうにかなるだろう。
【ケース04:閏璃葉香/微動無き時操の理】
───……。
男 「……ここに、晦悠介が居る筈だ。寄越せ」
実に丁度良かった。
蒼空院邸まで行こうと思った矢先、目的の男はわざわざカンパニーに赴いてくれたのだ。
ああしかし、ここまで苛立ったのはどれくらいぶりなのか。
……上手く感情がコントロール出来ない。
男 「……?なにをしている、早く出せ」
葉香 「お前の要求を受け入れる理由がわたしには無い。
逆に、鬱憤を晴らすために喧嘩を売りたいくらいだ」
男 「───……月の家系。それも、闇を背負った存在か。堕醒したか?無様な」
葉香 「必要だったから受け入れただけだ。お前に無様だとか言われる筋合いはない」
男 「フン───晦悠介を出さないなら、痛めつけてでも通るだけだ───!!」
男が懐から銀色の装飾銃を取り出す。
それを一気に数発放つ───が。
銀色の弾丸は目の前で止まり、その景色の全てさえも凍りついた。
葉香 「……“微動無き時操の理()”」
男が銃を構えた時点で、既に行動は終わっていたのだ。
あとは───ああ、確かリヴァイアの話じゃあ月操力関係は無効化されるんだったな。
葉香 「───だったら」
小さくクスリと笑い、男の首根っこを掴んで弾丸の前に立たせた。
致命傷を受ける場所は避けている。
これでまだ向かってくるようなら───それなりの覚悟は決めてもらうつもりだ。
葉香 「“───時の理は世に還る()”」
パチンと指を鳴らした───瞬間、弾丸が男の体を貫いた。
男 「ぶぐっ───!?が、はっ……!!」
葉香 「フン───」
ヴオッ───パゴッシャァアアアーーーーーンッ!!!!
男 「ッ───!!」
弾丸の勢いに持っていかれる体を容赦なく殴り飛ばす。
男の体は遠くにある壁まで吹き飛び、鈍い音を立てるとズリ落ちていった。
葉香 「……まだやるか?やるなら相手になる。やらないなら永劫に失せろ」
男 「くっ……図に───」
男が背に手を回す。
それを反撃の行動と理解して、わたしは頭の中のスイッチを切り替えた。
葉香 「“───時空は捻れ、全てを飲み込む()”」
───ズッ───パキィンッ!!
男 「あ、───なっ!?」
男の驚愕は当然。
手を回した筈の背が、時空の渦に飲まれてゆくのだから。
鋭い音を出して開いた空間を見て、さらにその空間が自分を飲み込もうとしてるんだ。
驚かない方がどうかしている。
葉香 「未来永劫迷ってろ。引き際を知らないしつこい男はそんな未来がお似合いだ」
男 「あ───あぁあああああああっ!!!!」
空間が蠢く。
やがて───まるで意思があるかのように大きく口を開け、男を一気に覆い飲みつくした。
葉香 「…………」
わたしはつまらなそうに溜め息をつくと、ゆっくりとカンパニーに向けて歩き出した。
……つまらないな。
あのやかましい男……弦月彰利とか言ったか?
あいつが居れば、鬱憤晴らしは楽なんだがな……。
今思えば差別せずに全力で殴りに来た男はあいつくらいなものだ。
だからわたしはそれに全力で向かえる。
……まいったな、このわたしが無いものねだりか……?
少し頭を冷やすか……。
【ケース05:簾翁みさお/蠢く彼はモミアゲモモンガ】
───トンッ。
みさお「……わ〜〜〜ぅぁ……」
聖 「………」
辿り着いた途端に感想。
目の前で泡を噴いて気絶してる人が居ます。
みさお「見たところ……強力な力で一撃、だね……」
聖 「地面がヘコんでる……」
悠介さん、かな。
多分、バウンドナックルで一撃。
どんなことをして悠介さんの神経逆撫でさせたのかは知らないけど、
いっそ相手が悪かったと諦めてください。
聖 「どうしよう……悠介さん、居ないよ……?」
みさお「うん……あ、ちょっと待って。月視力でこの場所の過去を覗いてみるから」
聖 「うん」
頷く聖ちゃんを見てから月視力発動。
過去視でこの場所の過去を覗いてみる───と。
悠介さんに殴られて、可哀相なくらいにバウンドしている男の人が居た。
みさお「うわ痛っ……!!」
痛い。
あれは絶対に痛すぎる。
そりゃあ泡も噴きますって……。
聖 「……みさおちゃん?」
みさお「え?あ、えと……うん、悠介さん、こっちに行ったみたい」
聖 「こっち?」
みさお「うん。急ごう?」
聖 「うん……でもこの人……」
心配そうな顔で、倒れている可哀相な人を見下ろす聖ちゃん。
ああ、こんな心の汚い人にまで気遣いを配る聖ちゃん……なんて綺麗なんだろうか。
いつか聖ちゃんが世の中の汚さを知る時が来るのかと思うと、とても悲しいよわたし。
みさお「この人はモモンガを密漁して売ろうとしてた悪い人なの。
反省も合わせて、このままにしておいた方が世の中のためだよ」
聖 「でも───」
みさお「いいからっ、悠介さんに追いつけなくなっちゃうよっ?」
聖 「あっ……」
きゅっと聖ちゃんの手を握って駆け出した。
聖ちゃんは心配そうな顔で何度も倒れた男に振り向いて、
何度目かに振り向いた時に手に光を込めて、それを放っていた。
……月生力の塊だ。
まいったなぁ、聖ちゃんってば人が良すぎるよ……。
裏切られたりした時、きっといっぱい傷ついてしまう方の人種。
みさお「………」
わたしはそんな聖ちゃんが、とても心配になってきた。
───パグシャアッ!!
声 「ぺきゅっ!?」
みさお「えっ?」
聖 「……今の……?」
ふと、森の奥の方から聞こえた声に耳を澄ました……けど、もう聞こえない。
みさお「悠介さんかも……急ごう?」
聖 「うんっ」
ふたりで手を繋ぎながら走る。
奥の方から人の声は聞こえない。
聞こえないけど……なんだろ、何かが聞こえる。
聖 「……動物の鳴き声」
みさお「動物?」
隣を走る聖ちゃんが呟く。
動物……こんなファンタジックな場所の動物って……どんなものだろう。
みさお「───あ、ほんとだ」
自分の耳にも動物の声が届いた。
とても小さな可愛い声だ……けど。
こんな世界だ、もしかして声だけは可愛い筋肉ゴリモリの動物かもしれない。
聖 「行こ、早く」
みさお「えっ?う、うんっ」
……なんだろ。
動物の声を聞いた途端、聖ちゃんの目が輝いてきたような……。
───ガサッ───
……やがて、ひとつの茂みを越えた先でそれを見た。
聖 「───!!」
みさお「わっ───わぁあああっ!!?」
それはゴワゴワしたもの。
時折蠢いて、ドス、ドス、と歩いている。
形は人型なのに、明らかに異常な形だった。
体の至るところに『JET!』と書かれたそれは───って、あれ?
何か 「…………だぁああああああっ!!!!暑ッちぃいいわぁあああっ!!!!」
ブワッ───バササササッ!!
蠢く何かが両手を挙げた途端、何かから無数の飛行物体が……ってあれ、モモンガ?
しかもその下に居たのは……
聖 「悠介さん……」
みさお「………」
……だった。
悠介 「お前らなっ!俺は便利屋じゃないんだぞっ!?自分の身は自分で守れ!」
モモンガ「ギチュウ!!」
悠介 「ギチュウじゃねぇ!!
密猟者から守ってやったからって、なんだって俺に纏わりつくんだ!!」
モモンガ「ギチュッ!!」
バッ───ビタタタタタタ!!!!!
悠介 「うおっ───こ、こらやめろっ!!
纏わりつくなっ!暑いって言ってるだろうが!!」
……悠介さん、再び無数のモモンガに纏わりつかれ、不気味な何かに大変身。
何か 「……はぁ」
……何か諦めにも似た溜め息が聞こえた。
悠介さん、相変わらず周りに振り回されてるっていうか……。
彰衛門さんと一緒の時は、一緒になって騒ぐ側なんですけどねぇ……。
【ケース06:未来悠介/超変身!ゆけゆけ僕らのジェットモモンガー!!】
───……。
悠介 「……あぁ……あっづぃい……」
それは二人目の密漁者を成敗した頃だった。
最初に助けたモモンガに何故か懐かれていた俺は、
のんびりと森の出口を探して歩いていた。
……で、その途中で密漁者の二人目の登場だ。
またくだらない思想を語ってくれたので、家系全力パンチで数メートル飛んでもらった。
するとどうだ……何を勘違いしたのかモモンガが『キュー!』と叫び、
次の瞬間には至るところからジェットモモンガが凄まじい速さで登場。
次から次へと俺の体にくっつき、ギチュギチュと鳴いていた。
勘弁してくれ、泣きたいのはこっちの方だ……。
悠介 「はぁあ〜〜あああああ……」
別に動物に懐かれることが嫌なわけじゃない。
だが迷惑なことに、このジェットモモンガの体毛って驚くくらいに保温性が高い。
それが体を軽く覆うほどにくっついてるんだ、解るだろ?
比較的涼しい森の中に居るってのにこの暑さだ……サウナにでも居る気分だ。
悠介 「彰利ならこんな状況を逆に利用して、
『超変身!ジェットモモンガー!』とか叫ぶんだろうけどな」
はあ……でも、やってみるか?
ヤケクソにならなきゃやってられないぞ、この状況。
……ああ、案外叫べば寄ってこなくなるかもしれないし。
よし、俺も変態オカマホモコンを親友に持つ男だ、やってやろうじゃないか。
悠介 「フッ───!!」
ビシッ!!
まずは小さな構え。
ゆっくりと呼吸し、左腕を大きく回してゆき、
腰の辺りで正拳前の姿勢のようにビッと構える。
次に右手を空に掲げ、自分の体を横にぐるぅりと回転させ、右手をギュッと握る。
そして最後。
横一回転した姿勢から正拳を放つように手を広げ、叫ぶ!!
悠介 「超変身ッ!!
ジェェエーーーットモモンガァアアーーーッ!!!!」
ビッシィイイイイイイインッ!!!!
───決まった……!!
完全無欠、これ以上ないってくらい完璧に決まった……!
ああもうこの余韻を消してしまうのが惜しいくらいに───!
俺はゆっくりと閉じていた目を開けた。
するとそこに───
聖 「……!!」
みさお「あ、ああああああの……あのあのあの……!?ゆ、ゆゆゆ悠介さん……!?」
悠介 「ぐわぁあああああああああっ!!!!!!」
……みさおと、聖が居た……。
しかもバッチリと見られてしまったらしかった……。
この時俺は、心の底から彰利を尊敬した。
よくもまあこんな状況を逆に利用して騒げるものだと。
恥ずかしいなんてもんじゃない。
逃げ出したくなるくらいに思考が働かない。
だからきっと───
悠介 「ゆ、ゆゆゆ悠介!?誰のことを言っているのか解らんな!!
お、俺は正義の味方、ジェットモモンガーだ!」
聖 「……!」
みさお「………」
悠介 「ぐあ……!!」
だからきっと、そんな訳の解らんことを叫んでしまったのだろう。
見れば、みさおがどこまでもやさしい顔で俺を見上げ、
聖は変身ヒーローに憧れる純粋無垢な子供の目を向けていた。
や、やめろっ!俺をそんな目で見るなっ!(特にみさお!)
みさお「間が……差したんですよね?大丈夫です、解ってますから……。
彰衛門さんと一緒に居れば、そうなりますから……」
悠介 「頼む……頼むから可哀相な人を見る目で俺を見ないでくれ……」
夢にも思わなかった現実の到来。
彰利、お前凄いよほんと。
敵視や疎外視に馴れてる俺でも、こんな視線には耐えられないぞ……?
やばい……虚しさのあまり泣きそうになってきた。
みさお「えっと……気を取り直しましょう。今のは見なかったことにしますから。
それで、あの……ッ……ぶくふっ!!」
悠介 「……耐えなくていいぞ」
みさお「い、いえそのっ……!くぶぶっ……!!ぷくっ……あははははははははっ!!!」
悠介 「はぁあ〜〜〜……」
手で顔を覆って長い長い溜め息を吐いた。
手で、といっても手の平にもモモンガがくっついているため、
なんとも言えない肌触りが目頭を熱くさせる。
そんな中、みさおは耐え切れなくなって地面を転がりながら笑い始める。
聖は……なにを期待してるのか、わくわくした目で俺を見上げている。
……光線でも撃って欲しいんだろうか。
みさお「くひゃひゃひゃひゃひゃ!!!ゆ、悠介さんがっ……あの悠介さんがっ……!!
ぷくははははは!!ばふっ!!あははははははは!!!
モ、モモンッ……モモンガーって!!ポーズまでとって……あはははははは!!」
聖 「あ、あのあの、武器とか、無いんですかっ?」
悠介 「………」
なんかもうマジで泣きたかった。
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