───UnlimitedBlackOrder-No.15黄昏と超越者───
【ケース44:未来悠介(再)/嗚呼、苦労人】
───……で、西の小屋への道。
悠介 「……な?イベントなんて嫌になるだろ……」
みさお「そうですね……」
目の前には確かにモンスターが居た。
それも、ガーゴイルみたいなヤツがわらわらと。
上空を飛んで行こうにも、あいつらが邪魔で通れそうにない。
みさお「あの……戦うしかないんですよね?」
悠介 「ディル……あいつら、どう思う?」
ディル『ガーゴイルは敵の強弱など考えずに襲い掛かってくる厄介なモンスターだ。
王のランクが上だろうと襲い掛かってくるぞ』
悠介 「……あぁ……」
どうしてこうなるかね……。
しかもきっちりとデカいヤツまで居るし……。
ディル『ミル・ガーゴイルが縄張りを作ろうとしているのだろう。
ここらは雲が多く、ガーゴイルが好む空気がある』
悠介 「はぁ……迂回するわけにはいかないか?」
ディル『無理だな。小屋の周りの山自体がガーゴイルの群れに囲まれている』
悠介 「……頑張ってみるか」
みさお「えぇっ!?やる気なんですか!?」
悠介 「俺だってやりたかないわっ!空界に来て初日でいきなり
ドラゴンとグリフォンとフェンリルと戦った俺の身にもなれ!!」
みさお「うわ……普通に人を超越してますね、悠介さん……」
悠介 「言うな……否定できない自分が悲しい……」
だがやらなきゃ帰れないのは確かなわけで……。
今は人間を超越していた方が確かにいい。
悠介 「じゃ、いくぞ?みさお、月操力は?」
みさお「大分回復してますが……やっぱり月が無いと上手く回復してくれません」
悠介 「そか。じゃあ───染まれ染まれ染まれ染まれ、赤く紅く朱く緋く……」
イメージを展開し、ルドラと意識をリンクさせる。
電線を繋げるようなイメージの果てにある黄昏を掴み、
それを目に見える景色と融合、具現化させる───!!
悠介 「“黄昏を抱く創造の世界───”!!」
フィィイイ───キュバァアンッ!!
みさお「わっ……!」
見える景色は全て黄昏に変わり、その先にある約束の木が心の中を満たしてゆく。
悠介 「ぐ、いつっ……!」
だが、急に頭痛に襲われた。
悠介 「な、なんだ……!?」
痛みが増していく。
心当たりは───まるで無いわけじゃない。
彰利がそうだったように、俺もまた死神の鎌を使っている『人』に過ぎない。
ならば……内に存在する死神がどうであれ、行き着く末路は同じなのでは……?
ルドラ『馬鹿者め、まだ至らぬか』
悠介 「って……ルドラ?」
黄昏の中、その姿を見た。
なにやら怒っているようにも見えるが……
みさお「こ、これがラグナロクですか……凄いですね……。
あ、ガーゴイルさん達も驚いてます」
悠介 「……?」
みさおには見えてない……?
こんな、すぐ目の前に居る存在に……?
ルドラ『私が見えているのは汝のみだ。ガーゴイルどもにも幻惑を見せている』
悠介 「え……」
ルドラ『汝に言っておくことがある。努めて聞け』
悠介 「な、なんだよ」
その真面目な顔と口調に、思わず息が詰まる。
だってこいつ、どう見たって怒ってる。
ルドラ『汝はいつまで補助輪で前に進む気だ』
悠介 「へ?補助……輪?」
ますます解らん。
なんのことだ?
ルドラ『学べ、と言ったろう。汝は汝の言()を唱えろ。汝にはその力がある』
悠介 「俺の言?なんだよそれ」
ルドラ『私のラグナロクなど、きっかけに過ぎない。
創造の理力はとうに汝のものだ。私はその力自体に付いてきた意思にすぎない。
たとえ私が消えたところで、汝には創造の理力が残るだろう』
悠介 「消えるのか?」
ルドラ『喩え話だ……いいか。思考、想像とは自由なものだ。
汝の言は汝の中に確かに存在する。無理に私の黄昏に染まる必要はない』
悠介 「『言』って……あれか?『染まれ染まれ染まれ染まれ』って」
ルドラ『そうだ。引き金のことを言と呼ぶ。汝は己の深淵を引き出した時に聞いただろう。
汝自身が唱えるべき、汝自身の言を。汝はそれを詠えばいい。
元より汝の中にあった言だ、私の言を真似るよりイメージが増加するだろう』
悠介 「俺の……言、か……」
確かに。
俺はシュバルドラインとの戦いの中で、誰かの声……いや、詩を聞いた。
思考を紡げとか、意識を繋げとか……生きた軌跡は至福に遠く、とか。
でもそれだけだ。
それは部分的に聞こえたもので、全ての詩は俺の意識に届かなかったんだ。
何かが足りない。
自分には、その詩を聞くための何かが半分足りないんだ。
漠然としている筈なのに、それだけは解る。
今の状態の俺がどれだけ深淵を引き出したところで、その詩には辿り着けない。
よくて五分止まり。
詩の完成には至らない。
ルドラ『いいか、汝の内にある【枷】を外すことが、私のラグナロクの役目だ。
ラグナロクの超越を可能にすれば、
汝は黄昏など創らずとも光の武具の創造を可能とするだろう。
【条件】とはその時点で枷なのだ……己の自由を解放しろ。
黄昏はきっかけに過ぎぬ。
私のラグナロクを超えてこそ、汝は汝として確立できるだろう」
悠介 「俺の確立?なんだよそれ」
ルドラ「それは汝が考えろ。私の黄昏を使って私の黄昏を超越する道理は存在しない。
故に汝自身の黄昏を以って超越しろ。汝の言が、それを可能とするだろう』
悠介 「………」
さっぱり解らん。
俺を縛ってる他の枷ってなにさ。
枷があるとするなら、シュバルドラインとの戦いであらかた消えたと思う。
ルドラ『汝はなんであろうと真に受け止めすぎるのだ。
いいか、私は枷を外せと言った。黄昏の創造を経て手に入るものはなんだ?』
悠介 「───体力の消耗無しで創造が出来ること、か?」
ルドラ『その通りだ。だが、体力の消耗が枷だと感じたことは?』
悠介 「……ない、な。ルナに言われてからずっと、それはそういうものだと思ってた。
いや、違うか。『なんでも創れる』とかいう期待が大きかった分、
俺の中で『代償が必要だ』って思い込んじまったんだな……って、え?」
ルドラ『解っているではないか。
汝が思い、ルナに教わった【代償の概念】こそが最大の枷だ。
汝は【代償が必要だ】と想像し、ルナは【体力を消耗する】と言った。
そら、その時点で汝の中には【代償の既定】が創造されてしまったのだ』
悠介 「ちょ、ちょっと待て……じゃあなにか?
俺って自分で自分の首を絞めてたってことか?」
ルドラ『そういうことになる。
汝はハト以外にも創れるという期待に、必要以上に喜びすぎたのだ。
それも、汝は死神と遭遇するという事態を経て日が浅かった。
そのような混乱の中、異端者が語ることを真に受けてしまうのは仕方無い』
悠介 「……そう言ってもらえると、少し救われるよ……」
うぅわ馬鹿だ俺……。
穴があったら入りたいぞ……?
悠介 「あ、でもそれだと矛盾が出来るぞ?ルナの持ってた理力に関する本と、
シェイドが俺に言った体力の消耗の話はなんだったんだ?」
ルドラ『簡単な話だ。あの本を作ったのはシェイドで、
シェイドは汝に自信を持たせたかっただけだ。実際、逝屠との対面を経て、
汝は【なんでも創造できる】という概念を手に入れただろう?』
悠介 「あ……」
そういえば……。
くそ、なにからなにまで振り回されてたってことか……!?
ルドラ『だが、汝の身に創造の理力が融合していなかったことは事実だ。
不安定な状態で創造を繰り返していれば、いずれは廃人になっていた』
悠介 「………」
キツイことをあっさりと言わないでもらいたい。
悠介 「でもさ、俺はあの本が無ければ体力の概念がどうとか思わなかったわけで……」
ルドラ『ならば精神でも糧にしていたか?それとも自我を糧にしたか?
言っただろう、不安定な状態で創造を繰り返せば廃人になる。
ならば体力が減ると思わせておけば、疲れれば使用しなくなるだろう。
シェイドにしては妥当な消費条件だったと思うぞ』
悠介 「…………」
あいつ、そんな頃から人のこと見てたのか?
ルドラ『子供の頃の汝の記憶を封印したのはシェイドだろう?
その時既にルナと契約していたのならば、
汝の中にはその時点で創造の理力が存在していた。
つまり、その時に既に本を作成し、先のことも視ていたのだろうよ』
悠介 「くはっ……!!」
あンの野郎……!どこまで暇人を演出すりゃ気が済むんだ……!!
ルドラ『知っているだろう、創造の理力はウィルヴスが私から奪いシェイドに渡し、
シェイドがフレイアに渡し、フレイアがルナへと変わった際に流れたものだ。
それがお前に譲られたのだ、行く末が気になることもあるだろう』
悠介 「そういう問題か?」
プライバシーの侵害ってやつではなかろうか。
ルドラ『とにかくだ。私の教えられることは教えたつもりだ。
あとは汝が超越の果てを目指せ』
悠介 「ちょっと待て!訳解らんことばっかだぞ!?」
ルドラ『……そうか?ならばアドバイスというものをしよう。
【人の詩】を詠うのならば、【人】であれ。
全ての邪魔な概念は捨て、ただ【人】としてあれ。
イメージするものはそれで十分だ。あとは言を唱え、それを具現化すればいい』
悠介 「人……?」
ルドラ『汝の創造には無駄なものが多い。
イメージの展開をする時くらい、自分が【月の家系】であることを捨てろ。
全ての概念を捨て、空いたスペースをフルに使用して創造しろ。
【人の詩】を詠うのに神の力も死神の力も月操力も必要無い。
ただ、ひとりの創造者であれ。ただ、ひとりの超越者であれ。
確かに今の汝では詩の完成は望めぬだろう。
だが、その詩は半分だとしても汝のイメージを増幅させるだろう』
悠介 「あ───待ってくれ!詩の完成の条件はなんなんだ!?」
ルドラ『……それは、汝の前世に関係がある。
その真意に気づいた時、汝は詩を完成させるだろう。
己を知り、そして親友の思いの全てを知ることだ。
その果てに汝の言と黄昏の超越があることを信じている』
それだけ言うと、ルドラは奥に引っ込んでいってしまった。
悠介 「………」
なにがなんだかさっぱりだった。
親友の思いって……彰利のことか?
なんで黄昏と彰利に関係が───
みさお「あっ───ガーゴイルさんがわたし達に気づきましたよ!?」
悠介 「くはっ!」
ルドラの野郎!しっかりと幻惑を解いていきやがったな!?
悠介 「ああもうやってやる!
───我紡ぐは希望の光。月の波動を糧とする我らに、更なる希望を齎さん」
イメージを展開、弾けさせると、出現した光を黄昏と同化させて準備完了!
みさお「う、わ……凄いです!月操力が簡単に補充されて……!」
悠介 「みさお!少しの間でいいからガーゴイルどもを近づけさせないでくれ!」
みさお「───やってみます!」
悠介 「───ディル!召喚獣との契約はどうすればいい!?」
ディル『オーブに自らの血を落とせ。
さらに魔力を流し込み、自らの名を唱えれば契約は完了だ』
悠介 「オーライッ!アンテッ!ロンギヌスッ!!」
パキィンッ!!
創造した槍で指を突き、血を流す。
すぐさまにバックパックからオーブふたつを取り出して、その輝く球体にかけた。
さて───契約時の言葉といったら、やっぱりファタジーとかそれっぽくしなければ。
悠介 「我が名は晦悠介……!輝石の加護の下、この儀式を司りし者───!!
契約は完了せり!出でよ───グリフォン!フェンリルゥッ!!」
リヴァイアの魔力パターンを創造し、オーブに浴びせつつ掲げた。
すると……ヒィイ───ガッシャァアアアアアンッ!!!!
悠介 「おわぁあっ!!?」
掲げ、割れたオーブの中から二体の影が飛び出した。
その姿は忘れるわけがない、グリフォンとフェンリルだった。
悠介 「っし!少しばかり不安だったが……
リヴァイアの魔力パターンを覚えておいてよかった」
これも、精神に飛ばされまくったお蔭だ。
……あんまり素直に喜べんが。
フェンリル『我が主よ……命を下せ。我、契約の名の下に、主の命に従おう』
グリフォン『さあ、主よ……』
悠介 「標的はあのガーゴイルだ。戦い方は……好きなように思いっきり暴れてこい」
フェンリル『───喜ばしい命だ!』
グリフォン『魔力に底が無い。存分に暴れよう───!』
フェンリルとグリフォンが一気に突っ込んでゆく。
不安だったフェンリルも、空中でもしっかりと駆けるように疾駆している。
さすがは召喚獣……常識なんてブチ壊してやがる。
悠介 「よし───!俺達も行くぞ!みさお、ディル!」
みさお「は、はいっ!」
ディル『応ッ!!』
聖 「おう……?───!!」
みさお「あ。聖ちゃん起きました」
悠介 「よっしゃあ!頑張れ聖!」
聖 「え?え……?えぇ……?」
困惑する聖さん……って当然か。
目を覚ましたら飛竜に乗ってて、
視界の先ではグリフォンとフェンリルがガーゴイルどもと戦っている。
しかも景色は黄昏……訳解らんだろう。
悠介 「みさお!もろもろの説明頼む!
ディル、こっち側はグリフォン達に任せて、俺達は反対側から行くぞ!」
ディル『平気なのか、王よ。召喚獣は存在しているだけで魔力を蝕む。
それを二体も召喚し、全力で戦わせるなど……』
悠介 「平気だ。あいつらに食わせる魔力は、もう黄昏と一体化させた。
ああもちろんガーゴイルどもにはなんの作用も無いし、
この黄昏の中なら月操力も使い放題だ」
ディル『……つくづく王だな、お前は』
悠介 「信頼してくれてるんだろ?だったらそれに応えなくちゃな」
ディル『いいぞ、それでこそ我が王だ───!!』
ディルが飛翔する。
だが迂回して飛ぶその姿に気づいたガーゴイルは、次々と襲い掛かってくる。
悠介 「みさお!気にせず全力でブッ放せ!!神法力も死法力も月操力も使い放題だ!」
みさお「え───は、はいっ!!聖ちゃん、ほらっ!」
聖 「う、うん……」
悠介 「聖〜?この戦いを早く済ませないと彰利が助からないかもしれないぞ〜」
聖 「!?や、やだっ!!」
聖が目覚めた。
みさお「あ〜……確かに今の言葉は一番、起こすのには手っ取り早いですね……」
悠介 「気が進まなかったけど、こればっかりは仕方が無いだろ……」
聖 「───“戦闘、開始()”……“不浄を滅する災狩の大鎌()───”!!」
ジャキィンッ!と出現する聖の鎌。
聖の小さな身体にはまるで不釣合いに見えるその大鎌を、
当の聖はガーゴイルに向かって思いっきり投げた。
ガーゴイル『ケアッ!?』
バガガガガガガァンッ!!!
ガーゴイル『ギャアアアアッ!!!』
止まろうと思った時にはもう遅い。
横薙ぎに回転するその凶器を前に、ガーゴイルどもは次々と破壊されてゆく。
みさお「やっぱりガーゴイルも災いなんですか……」
悠介 「カタチから見てもそんな感じだろ……」
ファファファファファフォンッ───ガシィンッ!!
聖 「パパを手遅れになんかさせない……!!」
戻ってきた大鎌を見事キャッチした聖は、
近づいてくるガーゴイルをも一刀両断で破壊する。
や、さすがは彰利と篠瀬の子。
力と刀剣武具技術がハンパじゃない。
タラララスッタンタ〜ン♪
みさお「あ、聖ちゃんランクアップ。
よっし、聖ちゃんのブレイバーランクを変えるためにも!ホーミングレイ!!」
ドガチュチュチュチュゥウウウンッ!!!
一方のみさおは月醒力・ホーミングレイを放ち、次々とガーゴイルを破壊する。
……ふたりとも強いな。
ディル『王よ。我らも行くとしよう』
悠介 「解ってる。遠慮せずレーザー撃ちまくってくれ」
ディル『心得た───!グォオオオウゥッッ!!!!』
バガァッ!!チュゥウウウウンッ!!!
みさお「ひやぁっ!?」
聖 「っ……!!」
放たれるレーザーはみさおと聖の攻撃の比じゃない。
横薙ぎに放たれた光は実に、横一閃を薙ぎ払い───大半のガーゴイルを殲滅した。
みさお 「うわ、わわわわ……!!」
聖 「…………!」
悠介 「驚く気持ちは解るけど、前だっ!」
ガーゴイル『ヘァアッ!!』
みさお 「え?や、ひゃぁあっ!!」
聖 「みさおちゃんっ!」
ゾフィィンッ!!
ガーゴイル『ゲキャアッ!!』
隙をついて襲い掛かってきたガーゴイルも、聖の鎌によってあっさりと消された。
みさお「あ、ありがと、聖ちゃん……」
聖 「うんっ」
仲睦まじい、というか……まあ、友情万歳。
悠介 「しっかし……」
迂回したはいいけど、反対側の方が凄いことになってる。
山のくぼみの中央にはミル・ガーゴイルが居るんだが、
そいつが口からどんどんとガーゴイルを吐き出してきてるわけだ。
しかしそれを、グリフォンとフェンリルが次々と破壊しまくっていっている。
いや……強ぇわぁ……。
悠介 「あいつら、あんなに強かったっけ……?」
ディル『解らぬか?魔力の泉というのは召喚獣の活力源だ。
王がどのような方法で魔力を用意したのかは知らぬが、
魔力を存分に喰らい、全力で戦うことは召喚された存在の最大の喜びだ』
悠介 「そうなのか?」
ディル『呼び出されて参上し───主の魔力不足のために、
本来の力の10分の1も出せない状況を喜ぶ馬鹿が居るか?』
悠介 「……そりゃそうだ」
ディル『そして王よ、お前が出した命令が良かった。
召喚獣を呼び出した存在の大半は、ただ召喚の消費に己を慣らすことしか考えぬ。
だが王よ、お前は違う。
初めて召喚したにも関わらず、全力で暴れまわってこいと命じた。
あの二体にとっては、この上無い喜びだったろうよ』
悠介 「……そっか、そりゃよかった」
なるほど。
だからあんなに全力で暴れ回ってるのか。
悠介 「けどさ、あれって相手側がちょっと可哀相だよな」
ディル『……それは私も同意見だ』
離れれば白銀の息吹を当てられ、次の瞬間にはグリフォンの羽の雨に砕かれて、
かといって突進すれば、ダイヤモンドダストカーテンに凍らされて噛み砕かれてる。
……どうしようもない。
悠介 「すごいな……ダイヤモンドダストカーテンと攻撃を同時に出来てる」
ディル『先のアレはルーゼンの魔力不足だったのだろう。
あのような強力な獣を召喚したのだ、魔力の消費も尋常ではない。
しかも契約していたわけではないのだ。
フェンリル自身、10分の1の力も出し切れていなかっただろう』
悠介 「…………全力で来られた時のこと考えると辛いから、そういう話は勘弁だ」
ディル『安心するのだ王よ。この時点でフェンリルは完全に王を気に入ったことだろう。
獣が召喚され、全力で暴れることが出来るなど、王の力の中でだけだ』
悠介 「……そんなに消費が凄いのか?」
ディル『全力を出されれば5秒と保つまい。人が許容する力などその程度だ』
悠介 「……ディル。何気にお前、俺のことバケモノ扱いしてないか?」
ディル『ミル・ミノタウロス、黄竜王、フェンリルを打倒し、
召喚獣二体と同時に契約し、
その二体を全力のまま保てている者のどこがバケモノでない』
悠介 「……それを言うなよ……」
何気に気にしていることを……。
ディル『さあ行くぞ、王よ。我らの敵はミル・ガーゴイルだ』
悠介 「───……」
マテ。
また俺、デカイのと戦うのか?
ディル『雑魚どもは他に任せておけばいい。
相手は腐ってもミルだ。後ろのふたりは降ろしておいた方がいいだろう』
悠介 「………」
どうやらディルゼイルの中では、
俺がミル・ガーゴイルと戦うという結論は固定されてしまっているらしい。
……イベント戦闘なんか嫌いだチクショウ。
悠介 「みさお、聖、お前ら空飛べるか?」
みさお「任せてくださいっ、伊達に彰衛門さんとの付き合いは長くないですよっ」
聖 「平気ですっ」
悠介 「よし!俺はこれから───………………うっうっ……」
みさお「あの……なんで落ち込んでるんですか?」
悠介 「い、いや……この世界って俺を苦しめるの好きなんかなぁって……」
ミノタウロス合わせれば4回目だぞ……?
なんだってこう、デカいモンスターと縁があるかね俺は……。
悠介 「えっとだな、俺はこれからあのバカデカいガーゴイルをコロがしてくるから。
お前らはここで待機するか、ガーゴイルを抑えておいてくれ」
みさお「お安い御用です!ね、聖ちゃん!」
聖 「パパのために頑張りますっ!」
悠介 「そか。無茶はするなよ?
重症負わせたり死なせたりなんかしたら、彰利に会わせる顔が無い」
みさお「大丈夫ですよ。月操力が無限に使えるなら、月癒力も無限ですから……ね?」
悠介 「───あ、そっか」
死んでも再生も蘇生も思いのままってわけか……。
そんな世界を創ってる俺って……
悠介 「はぁ……ディル。お前、多分正しいよ」
ディル『む?』
みさお「それではご武運を!」
聖 「が、頑張ってくださいっ」
ディルが返事をしたすぐ後に、みさおと聖がディルゼイルの背から飛び降りた。
少し不安だったが、ふたりとも上手く月空力で空に浮いて、
元気にガーゴイル退治に向かっていった。
ああもう……無茶はするなよって言った矢先にこれだよ……。
悠介 「出来るだけ早く終わらせよう!あいつら絶対に無茶しそうだ!」
ディル『早く、か。大きく出たな。慢心は身を滅ぼすぞ』
悠介 「慢心なんかするかっ!そう努めたいだけだ!」
ディル『……ふふっ、実に我が王らしい』
悠介 「ほっとけっ!!」
飛翔する。
向かう先にはバカデカいガーゴイル。
その大きさといったら、大きさだけならフェンリルもシュバルドラインも軽く超えている。
そりゃそうだ、中々デカいガーゴイルを口から吐くくらいの大きさだ。
悠介 「なぁ……この世界ってモンスターの大きさに加減ってもんがないのか?」
ディル『ヤツは見かけだけだ。そう力をもっているわけではない。
厄介なのは無制限に吐き出すガーゴイルだろう。
300を従えるのがミル・ガーゴイルだ。
その数が揃わぬ限り、ああして吐き出し続ける』
悠介 「……妙な拘りがあるわけだ」
少々呆れが入る習性だ……。
ディル『黄竜王やフェンリルに比べれば、身体が大きいだけの見掛け倒しだろう。
なに、その二体を打倒してみせた王だ、どうとでもなるだろう?』
悠介 「軽く言うなよな……」
でも……丁度いいかもしれない。
ここで一度復習をしよう。
ルドラの言った言葉の意味……『俺の言』。
人としてあれ、という言葉と、その意味を……。
悠介 「………」
思考と心を同化させる。
深淵を引き出し、さらにイメージを深く遠い場所へ。
悠介 「……、ぐ……」
途端に鋭い激痛。
だがそれを無視して『言』を探した。
───思考を紡げ。意識を繋げ。異端の思考よ例外を創造()れ。
ドクンッ……!
悠介 「く、あ……!!」
一行。
たった一行を見つけ、イメージに変換させただけで身体が熱くなった。
だが『違う』。
この詩の詠み方はこうじゃない。
『詩』はふたつあるのだ。
それを、口と思考で詠い、イメージへと変える。
それだけは、この深淵が教えてくれている。
だが───……
悠介 「が、あああ……!!」
頭が割れる。
なんだ、この痛みは……!!
───思考を紡げ。意識を繋げ。異端の思考よ例外を創造れ。()
思考と言葉が同化する。
刹那に身体の熱は灼熱と化し、視界にある約束の木が、姿を薄める。
───生きた軌跡は至福に遠く、その思い出は黄昏へと集約せん。()
頭が割れそうになる。
いや……ただ何度も訴えられる。
『その詩はそうじゃない』と。
───想像は留まりを知らず、想像は無限に換わり、創造すらも無限に換える。()
でもそこまで。
ここまでが五分……半分であり、今の俺の限界。
残りの半分はモヤがかかったかのように読み取れない。
自分には何かが足りないのだ。
それを詠むための、何かが。
───だっていうのに。
ギバァアアアアンッ!!!!
悠介 「くあぁあああああっ!!!!」
その、たった半分。
たった半分が、ここまでイメージを増加させた。
黄昏はより鮮明になり、
グリフォンとフェンリルは吐き出さなければどうしようもないといった風に、
全力以上の力を放ち、次々とガーゴイルを破壊してゆく。
それは───みさおと聖も同じようだった。
……想像は。創造は無限の自由。
既存が存在するならばそれを超越するべき『汝の言』を解き放ち、
黄昏の超越を完了させろ。
悠介 「ルドラ……?」
耳に届いた声に頭を振った。
ルドラの言葉が真実で、ラグナロクが超越することの出来る『既存』だというのなら。
この溢れるくらいの力の波は、それを超越した証なのだろうか。
……馬鹿な。
これはただの力の暴走だ。
唱えるべき『言』を完全に唱えられず、不完全なままに暴走しただけのこと。
けど。
それでも───目の前のデカブツを破壊するには十分な力が我が手に在る。
悠介 「“戦闘開始()”」
小さく唱えた。
手にしたロンギヌスを創り変え、
溢れる自分のイメージをとにかく上乗せしたものに変貌させる。
魔力、月操力、神法力、死法力、創造の理力。
その全てを槍に託し、イメージを弾かせた。
槍に『意』は在らず。
ただ雷光を纏い、輝くそれに合う名前など……きっとそれしかなかった。
だから唱え、そして放った。
かつての自分が、ずっと真似てきたその雷の戒めとともに。
悠介 「“架空・雷迅槍()”!!!!」
形など知らず、ただ己のイメージのみで創造した、名前だけの雷槍。
だがその威力に疑いなど不要。
吐き出されていたガーゴイルごと破壊していき、
速度を落とすどころか速めていき、やがて───
ミル・ガーゴイル『ジアァアアアアアアッ!!!!』
ジュガァッ!!バッッガァアアアアアアンッ!!!
その巨体を。
たった一撃の下に破壊しつくした。
ディル『なっ……』
みさお「え……」
聖 「わ……」
悠介 「へ……?」
その破壊力は尋常ではなかった。
放った本人でさえ呆れるほどだ。
しかし現にガーゴイルどもは消滅し、その場からはモンスターの姿が消え去っていた。
悠介 「………」
えーと……怖いな、これは。
力の暴走ってこんな感じなのか……。
まあ、そりゃあ天地空間全ての力の要素を盛り込んだような槍だ、
モンスターくらい破壊できるだろうけど……
悠介 「あの大きさのモンスターを一撃かよ……」
力の反発も融合も、モノによってはあそこまでの破壊を生むのか。
『言』ね……使い方を誤ると自滅しかねないな。
悠介 「……あー……えっと。小屋に降りるか」
ディル『あ、ああ……そうだな、王よ』
ゆっくりと降りてゆく。
その過程でグリフォンとフェンリルが戻ってきて───
フェンリル『堪能させてもらったぞ。全力を出すなど、これが初めてかもしれん』
グリフォン『まったくだ。主、お前の魔力は底無しか?』
悠介 「……まあその、条件付きで」
フェンリル『主の強さも確認出来た。
あの巨体を一撃で破壊しつくすなど、見事と言う他あるまい。
さらに気に入ったぞ、主。私は汝とともに戦うことを嬉しく思う』
グリフォン『同意見だ。私も汝とともに戦うことを誇りに思うぞ』
悠介 「……あのさ、疑問があるんだが……どうして俺、お前らの声が聞けるんだ?」
ディル 『それはオーブの力だろう、王よ。
認められた者が認めた者の声を聞けぬ道理は無い』
先生、あると思います。
フェンリル『なに?主よ、汝は【王】なのか?』
悠介 「へ?……あ、ああ、一応そういうことになってる」
ディル 『東の王だ。黄竜王をひとりで倒してみせた』
グリフォン『弱っていたとはいえ、あの黄竜王を……』
フェンリル『ますます気に入ったぞ、主。やはり強者に相応しいのは【王】の称号か』
グリフォン『ならば我らも【王】と呼ばせてもらおう。汝の傍は、居心地がいい』
フェンリル『これからもよろしく頼むぞ、王よ』
悠介 「………」
ますますエライことになってきた……。
───……。
……。
ガチャッ……。
悠介 「失礼」
召喚獣を身体の中に戻し、黄昏を消した俺は、小屋の中に侵入した。
それというのも、ノックしても返事はなく、鍵が開いてた所為でもある。
悠介 「………」
みさお「誰も居ませんね」
聖 「……?」
中には誰も居なかった。
まさかとは思うが……ガーゴイルに喰われた……?
聖 「みさおちゃん、あれ……」
みさお「え?あ……」
ああちなみに、召喚獣は役目が終わると主の中に消えるのだそうだ。
消えている間は魔力の必要は無く、必要な時に魔力を満たしてやれば出てくる、と。
そういう仕組みらしい。
みさお「悠介さん、あそこ。解りにくいですけど、階段があります」
悠介 「うん?───お」
小屋の中のタンスの下。
よく見ると、空洞のような隙間があった。
恐らくはみさおが言うように階段になっているんだろう。
悠介 「もしもの時のための地下室ってやつか」
みさお「いろいろ大変だったんでしょうね」
悠介 「ははっ、案外下の方では魔導技師ってヤツが漂流教室状態になってたりして」
みさお「やめてくださいよ、冗談に聞こえません」
聖 「………」(こくこく)
そんな冗談を言いながらタンスをどかしたのが数分前。
で───階段を下りて、その状況を見たのが……現在であった。
技師 「あーーっ!!お腹空いた!ご飯が食べたい!」
悠介 「………」
聖 「………」
みさお「だから言ったじゃないですか……」
目の前でげっそりと飢えて叫んでいる魔導技師が居た。
腰にいろいろと工具付けてるから間違い無い。
悠介 「……お粥が出ます」
ポムッ。
お粥を皿ごと創造して、床に置いて少し離れた。
みさお「どうしてお粥なんですか?」
悠介 「究極の空腹時に重いもの食ったら胃がびっくりするんだよ。
そのショックで死ぬこともあるって聞いた」
みさお「うわ……」
やがてお粥に気づいた技師が、それを狂ったように貪り尽くす。
だが足りないようで、『もっとください!もっと!』とか叫んでる。
……まるで仲田くんだ。
悠介 「よし、あいつの名前は仲田くんにしよう」
みさお「容赦ないですね……」
そうでもない。
現に、皿には次々とお粥を創造していってるし、
技師の体調が良くなる成分を一緒に創造して混ぜている。
仲田くん「───……ハッ!?僕はなにをっ……!?」
その証拠に、もう正気に戻った。
悠介 「仲田くん、ちょっといいか?」
仲田くん「へっ───ギャーーーーーーーッ!!!!」
悠介 「うおっ!?」
仲田くん「ギャーーーーッ!!!ギャーーーーーッ!!!!」
悠介 「お、落ち着け!!俺は───」
ドタッ。
悠介 「……へ?」
みさお「…………し、死んでます!」
悠介 「な、なんだってぇーーーーーーっ!!!?」
……どこまでも漂流教室な男だった。
【ケース45:簾翁みさお/ストーム溜め息】
───……。
みさお「はぁ……持ち直しました」
悠介 「悪い、みさお……」
出る溜め息は凄まじい。
ほんとに死んだ技師さんを月癒力で蘇生させて、持ち直させたのだ。
まったく、人の顔を見てショック死するなんて、どういう神経してるんでしょうか。
だからわたしも、目の前の技師さんを仲田くんと呼ぶことにした。
仲田くん「いやぁ〜、すまなかったすまなかった。
まさかガーゴイルを倒してくれる人が居るなんて思いもしなかったから」
悠介 「それで助けられた瞬間にショック死してたらシャレにもならんぞ仲田くん」
みさお 「まったくですよ仲田くん」
仲田くん「面目ない……ていうかさ、その『ナカタクン』ってのはなんなんだい?」
悠介 「貴様の名前だ仲田くん。
人に迷惑をかけた罪において、貴様は仲田くんと命名された」
仲田くん「えぇっ!?ぼ、僕の名前はヒベイン=ハンダットなんだけど……!」
悠介 「ダメ。認めない。お前、仲田くん、間違い無い」
みさお 「そう、あなた、仲田くん。これ、覆らない、事実」
仲田くん「どうしてカタコトなんだ……?」
悠介 「どうしても直してほしかったら、リヴァイアの工房のドアを直してくれ」
仲田くん「え───ああ、キミたちリヴァイアさんの工房の人か。
以前頼まれたんだけどね、ガーゴイルが居る所為で行けなかったんだ」
あははまいったね、と続ける仲田くん。
……まいったのはこっちです。
悠介 「じゃあすぐに用意してくれ。案内する」
仲田くん「うん、解ったよ。……て言っても、技師たる者、常に道具は身に着けよってね。
準備はこれで十分だ、行こうか」
悠介 「そっか。じゃ、みさお」
みさお 「はい。聖ちゃん、いい?」
聖 「え?あ、うん」
メラメラと燃える松明()を見ていた聖ちゃんが、てこてこと歩いてくる。
どうやら松明が珍しかったらしい。
……確かに、そうそう見れるものじゃないかも。
みさお「じゃあ───飛翔転移!」
キィイイ───パキィンッ!!
【ケース46:未来悠介/準備万端】
───キヒィンッ!!
みさお 「到着です」
仲田くん「え……あ、え……?」
仲田くんが驚く中、俺達はさっさと工房の中を目指した。
というかさっさと帰って、彰利を元気にしてやりたかったのだ。
何度も忘れたからな、この時くらいは急がないと面目が立たない。
悠介 「仲田くん何やってんだ、こっちだよ」
仲田くん「あ……ああ、転移の式かな?でも式を編んでなかったし……」
ぶつぶつ言う仲田くんを促し、一同は工房の奥へ。
しばらく歩くとランスが待っていて、そろそろ来る頃だと思ってましたとか言った。
……多分デマだろう。
仲田くん「それで、壊れた魔導ドアは何処で?」
ランス 「あそこのドアです。修理にはどれくらいかかりますか?」
仲田くん「そうですね……この壊れ方だと3時間といったところですか」
悠介 「なにぃ、3分で済ませろ」
仲田くん「無茶言わないでくださいよ!!」
悠介 「馬鹿野郎!こちとら親友の命がかかってんだ!
さっさとしねぇとブチコロがすぞ!!」
仲田くん「ヒィイ!!」
みさお 「ゆ、悠介さん!抑えて抑えて!!聖ちゃん!聖ちゃんも止めて!」
聖 「パパが危ないんです……!急いでください……!!」
みさお 「ひっ……聖ちゃぁあーーーんっ!!!!」
悠介 「全力でバックアップする。
ていうか完成までの製造工程が頭の中にイメージされてるなら、
俺が具現化させるから手を貸せ仲田くん」
仲田くん「あの……僕、ヒバイン……」
悠介 「早くしろ仲田くん!!」
聖 「早く!!仲田くん!!」
仲田くん「うっうっ……」
みさお 「………」
俺と聖が仲田くんを急かす中、みさおが心底哀れむような目で仲田くんを見つめていた。
悠介 「いいか仲田くん。頭の中に完成した魔導ドアを鮮明にイメージしろ。
それが出来たら俺の手を強く握れ」
仲田くん「あ、あの……これになんの意味が……」
悠介 「いいから言われた通りにするっ!雑念混ぜるなボケ者!!」
仲田くん「ひぃっ!」
みさお 「可哀相に……」
ランス 「ふふ、賑やかですねぇ」
………………。
…………。
悠介 「まだかいっ!!」
仲田くん「ひぃっ!!」
悠介 「ひぃじゃない!さっさとイメージを纏めろ!!」
仲田くん「ヒィイ!!」
みさお 「悠介さん……そりゃあ無理ってもんですよ……」
聖 「───。あ……じゃあわたしが……」
みさお 「聖ちゃん?」
聖が一歩前に出て、仲田くんの頭の上に手を掲げた。
やがて目を閉じ───って、そうか。
仲田くん「あ、あれ……?なんだか心が落ち着いてきた……」
みさお 「あ……なるほど。月清力か……」
聖 「イメージ、してください」
仲田くん「う、うん、やってみるよ」
仲田くんが目を閉じる。
ゆっくりと息を吸い、そして吐き。
やがて───その手が、キュッと握られた。
悠介 「───!“創造の理力”()!!」
───キュバァンッ!!
仲田くん「うわっ!?」
悠介 「よしっ!───って、成功なのか?」
一応ドアは創造された。
だがしかし、これは本当に地界の工房に繋がるのだろうか。
仲田くん「……驚いた。貴方は“創造者()”だったんですね。
実際の人物を見るのは初めてです……」
悠介 「や、それよりもドアの様子を調べて欲しいんだが」
仲田くん「あ、はい。えっと……」
仲田くんがドアの様子を調べる。
様々な角度から、様々な魔力の按配まで。
───で。
仲田くん「───はい。
これはもう、ここにはめるだけで魔導ドアとしての機能を果たしますよ」
悠介 「よっしゃあ!!」
みさお 「やっと……やっと帰れますね……」
聖 「パパ……やっと……パパに会える……」
悠介 「で、その取り付け作業はどれくらいかかるんだ?」
どうせすぐに終わるだろうけど……
仲田くん「5時間ですね」
三人 『5分でやれっ!!』
仲田くん「無茶言わないでくださいってば!!」
悠介 「おんどりゃドア付けるのになんで5時間かかるんだ馬鹿!!
こんなもんすぐに終わらせられるだろうが!!」
仲田くん「普通のドアはそうでしょうけど魔導ドアは違うんですよ!
ドアに宿る魔力を工房の持ち主の魔力と同調させなきゃいけないんです!
けれどこの工房には魔力の痕跡が少ししかない!
それを繋げるには5時間でも削った方ですよ!?」
悠介 「リヴァイアの魔力だろ!?
そんなもん俺が創造するからさっさと繋げ!!クリエイション!!」
ゴワシャアアアァァーーーッ!!!!
仲田くん「う、うわぁーーーっ!!物凄い魔力だ!!僕の10倍はありそうだ!」
悠介 「遊んでないでさっさとやれ!!」
仲田くん「は、はい!!」
みさお 「……つくづく人間離れした能力だよね、創造の理力って……」
聖 「うん……」
───……。
……。
仲田くん「お、終わりました……」
悠介 「よしっ!よくやった仲田くん!」
魔力を創造してから10分、魔導ドアはついに完成した。
ランス 「お疲れさまです。ああ、これ代金です。納めてください」
仲田くん 「え……こんなに?」
ランス 「モンスターに囲まれて、いろいろと削ったものもあるでしょう。
それで補っていってください」
仲田くん 「……助かります」
悠介 「よっしゃあ帰るぞ!彰利を救うために!」
みさお&聖『救うために!』
意気揚々。
完成したドアを開けた俺達は、ついに地界へと戻るのだった。
【ケース47:過去悠介/違和感】
───それは違和感だった。
なにがどうかと訊かれたら、きっと俺にも解らない。
でもその違和感は確かに存在していて、
自分の中から何かが無くなってしまったと思えるものだった。
悠介 「…………?」
リヴァイアが作ったゲートをくぐり、俺は元の時代に戻ってきた。
だけどその景色にも違和感を感じた。
空は濁り、その世界に溢れる死の気配はひとつやふたつじゃあなかった。
悠介 「………」
目の前には旅館。
死の気配はここからも滲み出ていた。
悠介 「ッ……!」
嫌な予感がする。
そう感じた時には既に走っていた。
旅館の玄関を乱暴に開け放って、驚く旅館の主たちも無視して走った。
───そして……。
悠介 「───っ!?姉さん!?」
ひとつの部屋を開け放った先に、苦しそうに息をする姉さんが居た。
その隣には日余と篠瀬とかいう女も居て、彼女らも苦しがっている。
中井出「あ───晦!大変なんだ!よく解らねぇけど三人ともいきなり……!」
その傍ら、付き添っていたらしい中井出が慌てて俺の傍まで駆け寄ってきた。
その様子からするに、本当に突然だったんだろう。
悠介 「姉さん……?篠瀬……?」
近寄る。
嫌な予感はてんで消えない。
それでもふたりを放っておけないと思った。
だから俺は手を伸ばし───
春菜 「───っ!だ、だ……め……!!逃げ、て……悠介……くん……!」
悠介 「え……?」
ゾフィィインッ!!!
中井出「うわぁああああああっ!!!!」
悠介 「ッ!?中井出!?」
中井出の悲鳴を聞いた。
振り向くと───その場にひとりの死神が。
だが……だが、その気配は───
死神 「………」
悠介 「……日余……!?」
そう……それは……日余粉雪の気配、だったのではなかったか───
夜華 「っ……に、逃げろ……!!で、なければ……わたしは貴様らを……───」
篠瀬が何かを言った。
でもその言葉の意味が飲み込めない。
え……なんて言った?
……『テ、シマウ』……?
いや……現実を受け止めろ。
この景色を見たのは初めてじゃない。
未来の俺の記憶の中に、それは確かに存在している。
でもそれは、こんなにも酷いものではなかったのでは───?
『……テ、シマウ……!』
悠介 「姉さんっ……いったいどうなって───!?」
春菜 「かっ、は……!!だめ……だめ……!!に、逃ゲッ……が、はっ!!」
……変わってゆく。
多分、目の前のソレはもう『姉さん』ではない。
それは───ああ、それは……!!
『コロシテ、シマウ……!』
春菜 「あぁああぁああっ!!や、やだ……!!いやぁああああああっ!!!!
堕ちたく……!やだぁああっ……!!変わりたくなんか……あ、あぁああ……!」
それはもう……変化してゆくその先の存在は……───死神でしかない……。
春菜 「あ、……か、は……!た、たすけて……!たすけてよぅ……アッくん……」
姉さんだったものが手を伸ばす。
けど……その手が掴んだものは誰かの手なんかじゃなく……
そこに出現した死神の鎌だった。
悠介 「な……なんだよ……これ……」
どうして死神化……堕醒が……?
死神 「───」
悠介 「あっ───」
死神と化した姉さんは俺と中井出に興味を示すようなことはせず、
壁を通り抜けて───消えていった。
見れば他の死神もそうしたらしく、もうその部屋には姉さんも篠瀬も日余も居ない。
悠介 「………」
違和感が増す。
確信には至らないものだけど、それは確かな違和感だった。
中井出「ど、どうなってんだよ……なんだよあれ……」
……その部屋には、ただ中井出の戸惑いの声だけが響いていた。
悠介 「───……」
気配を探る。
が───探れば探るほど解らない。
死神の気配はひとつやふたつではなく、
その気配が次々にひとつの場所に集まっていっている気さえする。
それは───
悠介 「……月詠街」
そう。
元よりその場所に、死神が固まっている。
それはつまり───
悠介 「今見たものが全てか……」
時ってのが来たのだ。
かつての『晦悠介』も、
ロディエル=D=シュトロヴァイツが放った『魔の覚醒』を味わった。
『魔の覚醒』とは、半端な魔である存在を完全な魔に覚醒させ、
魔払いをより確かに、遣り易くするというものだった。
半端な魔よりも確かな魔の方が『払う場合に限り』遣り易い。
悠介 「………」
違和感が増した。
未来の俺はこの時、確かに小さく死神化をした。
すぐに消えたがそれは確かにあったのだ。
だが───俺にはそれが無い。
どういうことだと思うより先に違和感があった。
その死神化はきっと、ルドラとのリンクに必要なものだった筈なのに。
悠介 「………」
もしも、と考える。
悠介 「───晦神社に続くブラックホールが出ます」
キュバァンッ!
ブラックホールを創造して、すぐにその中に身を投じた。
一瞬にして先に広がる世界は、見慣れたはずなのに見慣れない場所だった。
【ケース48:晦水穂/変わる世界】
───……。
死神 「クァアアアアッ!!!」
死神 「カォオオオオオッ!!!!」
それはどういう変貌だったのか。
姉だった筈のふたりが、目の前で……黒に染まっていった。
水穂 「あ、ああ……あ……?」
即座に握られる鎌。
そのまま一気に振るわれた二つの鎌は、きっとわたしを両断以上に切り刻むものだった。
───けど。
ガキキィンッ!!
その鎌は、流れてきた漆黒に弾かれた。
ゼノ 「堕ちたか……情け無いことだな」
水穂 「あ───ゼノさん!」
漆黒から現れたその姿は見慣れた死神さん。
その姿に酷く安心した。
水穂 「あ、あの……ゼノさん、ゼノさんはゼノさんですよね……?」
ゼノ 「疑いたくなる気持ちは解らぬでもない。
案ずるな、我は既に漆黒であり、魔の干渉など通用せん」
水穂 「魔の……干渉?」
ゼノ 「目の前に居る双子は呑まれたらしいがな。覚えておけ水穂。
あれがその身に死神を宿すという『月の家系』というものだ。
魔を増幅させられれば死神に堕ち、神力が増幅させられれば神にもなる。
あまりに未完成な、人でも神でも死神でもない半端な存在だ」
水穂 「っ……」
ゼノ 「水穂、我に掴まっていろ」
水穂 「え……?ど、どうするんですか……?」
ゼノ 「不安など無意味だ。『家族』を殺したりする者はたわけだろう」
そう言うとゼノさんはわたしが掴まるまでもなく、わたしを抱えて壁抜けをした。
水穂 「え───?」
てっきり戦うんだと思ってた。
でもゼノさんは死神化した若葉姉さんと木葉姉さんを『家族』と言って、
きっと一度もしたことがないと思う『逃走』をした。
水穂 「……ごめんなさい」
ゼノ 「なにを謝る。理由も無しに謝るとは感心せんな」
水穂 「だって……わたしが居なければ、ゼノさんが逃げる必要なんて……」
ゼノ 「気にするな。弦月彰利に敗れ、
晦悠介に創造された時点で我は既に変わっていた。
だがな、水穂。我は今までここでの生活のようなものを体験したことがなかった。
……ここはいい。穏やかだが、時に争いをして時に談笑をする。
我は笑むことはせんがな、お前との会話や将棋は中々に悪くない」
水穂 「ゼノさん……」
ゼノ 「姉を斬られれば妹は悲しむものだろう?そのような姿は我の望むところではない」
水穂 「………」
……どうしよう。
きっと今、わたしの顔は赤いだろう。
かつては悠介さんとルナさんと彰利さんの未来を脅かしたっていう死神さんが、
こんなにも穏やかに語っている。
それはもちろん『恋』とかっていう感情じゃないだろう。
でも、わたしもゼノさんとのんびりと会話をするのは楽しい。
最初はトゲトゲしていたのに、いつからか……彼は笑うようになった。
彼自身気づいてないのがまた面白いけど、
彼は目を細めて小さく口の端を持ち上げて笑うのだ。
とても不器用な笑みだけど、それがとても似合っていて面白かった。
将棋をして、囲碁もやって、トランプもやったしゲームもやった。
あの家で出来ることは、きっと全部一緒にやったのだ。
この人のクセとかは、もういろいろと知っている。
座る時は必ず左膝から曲げて、お茶を飲む時は息を吐いてから飲む。
ご飯を食べる時はお味噌汁を少し飲んでからで、沢庵は必ず最後。
和装が好きで、日本文化が好きな悠介さんとは結構話が合うことがあった。
機嫌がいい時はぶっきらぼうな表情をしていて、
逆に怒っている時の方が冷静そうな顔をしている。
水穂 (今は……)
今は───ああ、ぶっきらぼうだ。
大丈夫、怒ってない。
───トンッ。
ゼノさんがわたしを抱えたまま地面を蹴った。
その跳躍力はかなり高くて、びっくりして言葉を失った。
でも───その後ろから飛んできた闇の光を見て、わたしは声を放っていた。
水穂 「ゼノさんっ!後ろっ!」
ゼノ 「ああ、解っている」
ゼノさんはそれをなんなく避けた。
そして……わたしは見たのだ。
今の黒い光が飛んできた方向……その先に居る死神を。
水穂 「───……!あれ……!あれって……!」
ゼノ 「……あいつも堕ちたか」
面影があった。
なにより『彼女』が手にしている武器は、彼女にとても似合っていたものだから。
鎌が変形したような形のそれについているのは弦。
闇を鎌の先と石突きに繋げたような不恰好な弓を、彼女は持っていた。
水穂 「そんなっ……春菜お姉さん……!」
そう。
きっとそれが、あの死神の正体だ。
ゼノ 「宿主が存在する『死神』は、宿主の生き方を糧に成長する。
ともなれば生前───いや、
人であった頃の生き方がそのまま鎌になることも有り得る」
水穂 「……それじゃあ春菜姉さんの鎌は……」
ゼノ 「間違いないな。ヤツが手にしている変形した弓が、ヤツの鎌だ。だが───」
死神 「クァアアアッ!!!!」
ゼノ 「理性が完全に断たれていては宝の持ち腐れというものだ。
誰の仕業か知らぬが、愚かしいことだ」
水穂 「えっ……?首謀者が居るんですか?」
ゼノ 「ああ。少し前から感じていた。既にこの神社に向かっている」
水穂 「そんな……」
ゼノ 「この神社には強い闇が揃っているからだろう。物好きな者も居たものだ」
水穂 「そんな、暢気なこと言ってる場合じゃないですよ……」
ゼノさんはクッ……と笑って、ご神木の頂上に下りた。
そこで景色をざっと見て、『ここが一番安全だろう』って言った。
ゼノ 「いいか水穂、お前はここから動くな。
木の陰に身を隠し、ことが済むまでこの場に居ろ。いいな」
水穂 「え……ゼノさんは?」
ゼノ 「案ずることはない、すぐ戻る」
それだけ言うとゼノさんは再び跳躍して、何処かへ消えていってしまった。
わたしは───言われた通りにするしかなさそうだった。
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