───たわけモン道中記14/猫が歩むはレタス道───
【ケース35:晦悠介/寝言は寝てから言ってほしいと願う創造者。むしろモミアゲ】
───バジッ、バジジッ……!!
悠介 「………」
融合が完了した。
俺はひとりの『晦悠介』となり、どっちかの意識が優先されるってことは特に無い。
ただ……
彰衛門「…………あいやー、融合したんですか。でもさ、それって……」
……ただ。
彰衛門「……思いっきりルドラも巻き込んでません?」
……この体を纏うものは、誰がどう見たって『死神の黒衣』だった。
やべぇ、巻き込んじまった。
声 《……馬鹿者。巻き込まれるなどという無様、するわけがないだろう》
悠介 「お───ルドラ?」
彰衛門「えぇっ!?どこどこイカ子さん!!……居ないじゃない!!」
悠介 「いきなり怒るなっ!!……で、どうなってんだこれ」
頭の中に響いてくる声に耳を傾ける。
すると……
声 《なにな、汝が真に弦月彰利との友情を優先させるのならば、
同じ『死神』であった方がいいだろう。私はただ、その助力をしただけだ》
悠介 「……するってーと……俺と同化したのか?」
声 《そういうことだ。大体、汝のラグナロクは不安定すぎて見ていられぬ。
私と同化した今ならば苦は無く発動できる筈だ、精進しろ》
……それっきり、声は響かなくなった。
悠介 「……はぁ」
彰衛門「ルドラさん、なんじゃって?」
悠介 「……俺、死神になっちまった」
彰衛門「……ウィ?」
悠介 「だから……ルドラが俺と同化したみたいだ。だから俺、今死神……」
彰衛門「あらら……で、でもさ、
俺みたいに『鎌』を骨子に使ってるわけじゃないんだから、セーフでは?」
悠介 「……ラグナロクがどういう鎌か忘れたのか……?」
彰衛門「どうって、カタチの無い鎌───って、あ……もしかして」
悠介 「そういうこと。カタチが無いんじゃなくて、既に骨子に使われてるんだよ。
それで自分の『思考』を世界にするだけの力を出せるってわけだ……」
自分の深淵に、確かに鎌を感じる。
それは『俺の鎌』であり、名前はまだ無い。
悠介 「───ンッ!」
パキィンッ!
その鎌を深淵から引き出して、手に出現させる……っていうか出現した。
……おお、実に死神チックだ……まさか手に出現するとは思わなかった。
彰衛門「それ、悠介の?」
悠介 「一応。名前は無いんだが……うん。
どうせ体の中に埋め込んだままになるんだろうし、
ラグナロクのままでいいと思う」
彰衛門「そうなん?折角だから名付けりゃいいじゃん。黄昏のなんたら鎌とか」
悠介 「鎌として機能しないのに『鎌』って付けるのってヘンだろ」
彰衛門「む。そりゃそうだ───ってそうナリ!
ちょいとその鎌よく見せて?え〜〜〜〜と…………よし!」
なにやら解らんが、彰利が俺の鎌を見て頷いた。
で、次の瞬間には両手を構えて念じていた───が。
がっしゃぁあああんっ!!!!
彰衛門「ギャーーーーーーーッ!!!!!」
……なにやら砕ける音とともに、彼は叫んだ。
悠介 「……なにやってんだよお前は……」
彰衛門「い、いえね……?
鎌として存在してる今ならコピーできるかな、って思ったんですよ……。
したっけね……?ハデスディザスターモードでもコピー不可能……。
カタチ作られた途端にガラス片になって砕けちゃった……。
あ、いやもちろんアタイの鎌は無事ですから安心おし?」
悠介 「そりゃいいけど。お前、まだ諦めてなかったのな」
彰衛門「当たり前じゃないですか!創造ですよ!?欲さない人なんておりません!!」
悠介 「………」
気持ちは解らんでもないが。
悠介 「ま、とりあえずだ。鎌の名前は『“月詠の黄昏”』にしておく」
彰衛門「む……月詠の黄昏と書いてラグナロク?」
悠介 「そ。神々の黄昏でもいいかなって思ったけど、
俺達ゃ死神ではあっても神々じゃないからな。
結局月操力も戻ったし、って……持ってたのに戻ったっていうのもヘンだな。
融合ってのもなかなかどうして、ヘンな気分だ」
彰衛門「……なにやら大変みたいじゃけんど……よかったんかい?
ホレ、ルナっちとか。俺のためにこげな無茶してくれるのは、
そりゃあ面白くてグッドって言えばグッドですけどね?」
悠介 「ルナならもうとっくに過去のルナと融合してると思うぞ?
元々そのつもりで過去には連れて行ってた」
彰衛門「あらまっ!!……つーことはなんですか?悠介ったらこの時代でもルナっちと?」
悠介 「可能性は高いんじゃないか?というよりルナが引き下がらないだろ。
記憶はそのまま残ってるから、俺とは夫婦って思ってるわけだし」
彰衛門「……うおう。ってお待ちなさい!
するってぇと悠介もルナっちのこと妻だって思ってるってことじゃないのかね!?
えぇーーっ!?どうなんだい!
そこんところを私にも解るよう平明に答えてもらいたいものだね!!」
悠介 「思ってるぞ?」
彰衛門「……解りやすすぎますな……」
……お前が解りやすく言えと言ったんだが。
彰衛門「で!質問!悠介ってばなんだって融合なんてしようと思ったのかね!?
つーか未来!未来どうすんの!!ここと次第によっちゃあ怒りますわよ!?
すみませんじゃすみませんことよ!?」
悠介 「未来のことなら凍弥と椛に任せてきたよ。
別に俺だって考えなしでやったわけじゃない。
今日までいろいろと計画立ててたし、それを実行したのが今日になっただけだ」
彰衛門「ぬうう……融合計画なんて異様でしかありませんよ?
寝言は寝て言え魔人のキミが、なにを寝言言っとるんですか」
悠介 「ばか。未来の方はもう、
トラブルっぽいトラブルなんて起こりそうにないくらいに落ち着いたんだ。
凍弥はもう自分の仕事を持ったし、椛との間だって安定してる。
晦神社なんて誰が訪れるわけでもなし、
ハッキリ言えば神主だって案外必要でもない。
ただあそこにはいろいろな思い出があるから、
あそこを維持するだけが俺の仕事だった。
ほら、そうなると楽しみなんて余程に無いだろう」
彰衛門「む……静かに生きるのってキミの憧れじゃなかったっけ?」
悠介 「お前が居なけりゃつまらんってのがよく解った。それだけだ」
彰衛門「ぬお……」
ぶっきらぼうに放った言葉に彰利が固まる。
どうやら予想外の答えだったらしい。……けど、その気持ちにウソはない。
恩を感じていたのは確かだし、それが未来に居たままじゃあ返し辛いのも確かだった。
だから実行に移した───本当にただそれだけの事柄なのだ。
だが、ただそれをこいつに教えるのは悔しいから……一生言ってやらないつもりだ。
恩を返したかったとか一緒に馬鹿をやりたかったとか、そんなことは言ってやらない。
悠介 「だからさ、ヘンに気ィ使ったりなんかするなよ?
俺はお前とだからこそこういう馬鹿な行動が出来たんだ。
それを他でもない、お前っていう親友が否定するなら俺だって怒る」
彰衛門「いや……ツッコミどころなんて腐るほどあるんだけどね……。
ああもう、まともに頭が働かないなんてどれくらいぶりですかね……」
悠介 「ん?ほら、遠慮なくからかってみろ。いつものお前なら出来るだろ?」
彰衛門「グ、グムーーーッ!!!!
おのれ悠介この野郎……!アタイで遊ぼうってハラか……!」
悠介 「や、そんなつもりは毛頭無い」
彰衛門「じゃあなんなのかね!」
悠介 「落ち着け」
彰衛門「ハルルルルル……!!」
何故かバキの犬の真似をしている彰利を宥め、言いたいことを言うことにした。
悠介 「あのさ。お前はさっきまでの通りのお前でいいと思うぞ?
融合なんて大袈裟なことをしたけど、結局俺は『晦悠介』なんだ。
大部分は変わらないし、
むしろ『親友と馬鹿をやろう』って気分は増したくらいなんだから」
彰衛門「そうなん?」
悠介 「ああ。だからさ、気楽にのんびり行けばいい。
俺はお前にとことんまでに付き合うし、お前も俺にとことんまで付き合う。
結局のところ俺達の関係ってそういうやつだろ」
彰衛門「……違いない。度が過ぎてるとは思うけど」
悠介 「───まぁ、目の前に『死んでも親友のため』を願う馬鹿が居るしな。
そりゃあ度合いなんてものじゃあ測れない」
彰衛門「俺の目の前にも『死ぬ間際でも友情を否定しなかった』激烈馬鹿が居るけどね。
まあ嬉しかったからそれは本気でサンク・ユーなんだけど」
思えば、随分と奇妙なバランスで存在している俺達の友情。
辛いことだらけだったのに、そのどれかひとつでも欠けてしまえば、
その友情は無かったことになるんじゃないかってくらいに危うい。
でも多分、そんなものはただのつまらない思考にすぎないんだろう。
現にこいつは何度死んでも俺を親友って呼んで、
俺はそんなこいつのために未来を捨ててでも何かをしてやりたいって思った。
……ちょっと普通の人からじゃ考えられないような友情だけど、そんなのきっと仕方ない。
だってこれが、俺達の『親友』としての友情なのだから。
悠介 「……ん。体もきちんと馴染んだ。
これからどうする?───って、寝てたんだったな」
彰衛門「オウ、そうじゃったそうじゃった。フッ……道理で頭が働かねぇわけだ……。
こんな巧妙な作戦練られちゃ対応出来ねぇぜ……」
悠介 「フッ、負け惜しみか」
彰衛門「ち、違うやいっ!オイラ負けてなんかないやいっ!!
負けたって言うヤツが負けてんだい!」
悠介 「そりゃそうだろ」
彰衛門「え?あ、ギャアそうか!負けたって言えば負けてるじゃん!」
悠介 「……ははっ、安心した。やっぱお前はお前だ。
感情受け入れてからちょっと心配だったけど、本質は変わらないみたいだ」
彰衛門「あったりめぇよぅ!
俺はおめぇ……アレだぁ!空手を終わらせちまった人間なんだぜぇ!?」
悠介 「よし関係ないな。とっとと寝よう」
彰衛門「早ッ!?アータ冷たいよ!もっと語らいましょうよ!てめぇそれでも親友か!?」
悠介 「む───今のは聞き捨てならん。いいぞ、どこまでだって話し合ってやる」
彰衛門「オッケーブラザー!そうこなくちゃ!つーわけでオセロだ!」
ドカッ!とどこからともなくオセロ板を出す彰利。
……毎度思うんだが、こいつはどこからこんなもんを出してるんだ?
悠介 「お前さ、弱いくせにオセロ好きだよな……」
彰衛門「弱いとか言うな!」
悠介 「でも弱いだろ」
彰衛門「うるさいやい!そんなこと言ってられるのも今の内だかんな!
昨日レタスに食われながら、ついに必勝法を思いついたちゃったわけですよ!
名付けて!『アーチェスペシャル〜♪』って、どっかで聞いたことある名前だな」
悠介 「御託はいいからさっさとやるぞ。“時操反転()”」
額に手を添えて、小さく唱えると体が猫になる。
未来の俺からしてみれば不思議なものだが、
過去の俺からしてみれば普通なのがまた面白い。
彰衛門「おっ?猫でやりますか。確かに面白そうじゃねぇの……“時操反転()”」
続いて彰利も猫に変わる。
それを待ってから、お互いに座って鏡合わせのように一礼した。
世界猫&悟り猫『お願いします』
これからのことも、という意味を合わせた開始の合図。
俺達は顔を見合わせて笑いながら、穏やかなままにオセロを落としていった。
【ケース36:悟り猫/暮らしてみよう】
───……過去に住んでから一週間。
悟り猫「キャアア!!レタスYO!!ついにレタスが出来たわYO!!」
豊作です!最強です!レタスです!
ああ……ああもう……!
悟り猫「俺、今とっても輝いてる!!」
ギシャアアアアア!!!
世界猫「だぁっ!やめろ鬱陶しい!」
悟り猫「あらヒドイ!!」
せっかく喜びを露にしたフェイスフラッシュを進呈したのに、アータそりゃヒドイよ。
でも許すね!だってレタスだし!(意味不明)
悟り猫「大地の神様、今こそ貴様に感謝します。
このレタスは水洗いをしてそのままいただきとうございます。
だってドレッシングなんて邪道だし」
キャア最強!俺の心が喜び猛る!
この時をどれだけ待ったことか!
悟り猫「苦節一週間……ついに……ついに俺は大地の恵みを手に入れました……!」
思えば長い道のりだった……。
月空力で植物の成長を促しての試み……何度成長しなかったことか。
その度に試行錯誤し、その度に叫んでました。
しかし……ああジョジョ、しかし!ついにッ()!!ついに完成したのだッ()!!
悟り猫「よっしゃあ早速月視力の過去視で成長過程と肥料配合を見てメモだ!
これを無視するわけにはいくまいよ!」
畑の過去を見て肥料などや水の割合など、作成工程をメモしてゆく。
畑ってのはなかなか難しく、楓の時代での神様大作戦で野菜を作ることが出来たのも、
ひとえに爺さんの畑の質の良さの賜物だということを思い知らされた。
全てに畑の知識なんぞ無いアタイにとって、畑仕事は手探りです。
だってね、肥料の割合も解りませんし。
あげすぎてもダメだし少なすぎてもダメ。
それを見極めるのがなかなかどうして、難しいザマス。
悟り猫「だがっ!俺は賭けに勝ったのだ!レタスは完成したっ!
何を怯えることがある!誇ろうロミオ!」
言って、月然力・水でレタスをごしゃーーー!と洗ってゆく。
そうしてすぐさまに一枚ベリリと剥がして口へ含む───が。
悟り猫「ゴヘェッ!!ゴヘッ!!五平!!」
……なんつーか凄まじくマズかった。
悟り猫「だ、ダメだ!土かなんかの味がする!とても食べられない!」
気分はまるで漂流教室でした。
土の味ってのは冗談だが、これはなんか違います。
レタス……なんだろうけど、改良の余地ありといった感じだ。
悟り猫「まだぞ……まだ美味く出来る筈だ」
SO……その時こそレタスマスターとして胸を張れる筈!!
悟り猫「フッ……見切ったぜアロマタクト……ってそれはどうでもいいんだが」
肥料の工程から見直してみましょう。
なぁに、じっくりとやれば解ることだってきっとあるさね。
───……。
イギリスレタスフランスレタスドイツレタスはあれど、日本のレタス、ジャタスは無い!
ならば!これから作るしかない!
───この物語は熱き血潮が宿る太陽の顔を持つ猫───悟り猫が、
世界に誇れる日本人の日本人による日本人のためのレタス!
『ジャタス』を作ってゆく……一大抒情詩である。
悟り猫「ジャタス56号じゃ〜〜!!」
バ〜ン!!
悟り猫「さあ!食ってみてくれ河内()!」
◆河内───かわうち
『焼きたて!ジャぱん』に登場する河内恭介は、
初期の頃に『かわち』ではなく『かわうち』という振り仮名を振られていたことがある。
それと同様に……というわけでもないが、諏訪原が『すわわばら』だったことも。
*神冥書房刊『週間少年サンデー本誌にあった華麗なる出来事!』より
世界猫「誰が河内だ!ていうかレタス作る度に俺に試食させるのやめろ!」
悟り猫「いいから食えって!絶対美味いんじゃよ!
キミは米が腐るほど出来て鼻高々でしょうけどね!
あたしゃ完璧なるレタスを作り上げるまで戦いから降りる気はねェのよ!!」
世界猫「……あのさ。今までの54回、全てに『絶対美味いんじゃよ』とか言われて。
このレタスに説得力があると思ってるのか?つーか無い」
悟り猫「うわ、断言した……なぁなぁ河内ィ〜、食えって〜、絶対美味いんじゃよ?
食っていつもみたいにリアクションしてくれよ〜」
世界猫「54回も吐かせたのはお前だろうが!!ちったぁまともなの作れよお前!」
悟り猫「あと少しなんじゃ!あと少しで何かが掴めそうなんじゃよ!」
世界猫「勝手に掴めたわけ!俺ゃもう食わん!これ以上食ったら胃が壊死するわ!!」
悟り猫「うお……すげぇ言われようじゃ……!」
世界猫「それとその喋り方で近づくな。
不味いもの食わされた感覚が蘇って気持ち悪ィ。それ以前にむかつく」
悟り猫「うわヒッデェ!!そこまで言いますか!?」
世界猫「そこまで言わせるようなモン作ったお前が悪い!!さっさと作業しろたわけ!!
料理は神懸り的に上手いってのに畑仕事がてんでだめなんてどんな冗談だ!」
悟り猫「うう、面目ない……。
あ、どうでもいいけどさ、面目ないと面白くないって似てるよね」
世界猫「ほんとにどうでもいいからさっさと作業しろ」
悟り猫「御意」
返事とともにレタスをひと千切りして噛む……が、やっぱり不味かった。
何故……?何故なのグレース……こんなのおかしいじゃない……。
世界猫の米は立派に出来てるのに、なんだって俺のレタスだけ上手くいかないんだ……?
悟り猫「フッ……ゴッドよ。俺はこれを貴様の挑戦状として受け取ったぜ?
この悟り猫に喧嘩を売ったこと───後悔させてくれるわぁーーーっ!!!」
総力を結集してレタス作ってやる!
こうなりゃ未来から畑仕事に関する本をかっぱらってきて、
その上で最強のレタスを作ってやるんだ!もうヤケだヤケ!!
───……。
……で、二週間後。
悟り猫「これは……色ツヤもいい。
色も良く味も悪くない……だが───いっかぁああーーーん!!」
ゴワシャッ!!
投げたレタスが砕ける。
あれから何度も作成して、全ては標準に辿り着いた。
だが───作るからには最強を目指したい!普通のレタスじゃもう愛せない!!
悟り猫「ボクは作物を作る喜びを知ってしまったのだ!
風来のシレンのガイバラ先生が投げるツボのごとく割ってしまったレタスは、
のちのち美味しく頂きます!だって食材は無駄に出来ませんし!」
世界猫「そもそもさ、お前……畑を全部レタスに使うのやめてくれないか?
食事のバランスが取れない」
悟り猫「うっせうっせ!俺ゃ絶対に最高のレタス作るんだ!
これは俺の勇者としての決定だ!誰にも文句は言わせん!!」
世界猫「本当の勇者ならそんな唯我独尊的思考は持たないと思うけどな」
まったくで。
世界猫「んじゃ、俺は町のやつらに米渡してくるよ」
悟り猫「オウ行ってらっしゃい!?よいですねぇキミは!毎日豊作で!」
世界猫「俺に当たるなよ。お前のレタス、十分美味く出来てるぞ?」
悟り猫「えっ……そ、そう?ほんとに?」
世界猫「ああ。大体、素人は市販品の味に近づくこと自体が大変なんだぞ?
それを思えばお前の作ったレタスは無農薬だし虫食いも無い。
ほら、これの何処が失敗なんだ。
お前はさ、もうとっくに市販品なんて越えてるんだよ」
悟り猫「!!」
ガァ〜〜ン!!という音が鳴る瞬間ってこういう時だと思います。
だって……言われるまでそげなことに気づけなかった自分が実に馬鹿らしいんですもの。
これまで幾度と無く割ってしまったレタス達が、途端に恋しくなってきた。
悟り猫「す、すまんレタス達……!
俺は……俺は上を求めるあまりになんていうことを……!」
世界猫「“時操回帰()”」
キィンッ。
悠之慎「……ふう。別にそれはお前の所為じゃないだろ。
上を目指すのはいいことだし、現に畑仕事が上手くなった。
それって誇っていいことだと思うぞ」
悟り猫「うう……は、悠之慎……」
悠之慎「……けどまあ、味を求めるあまりに人に当たるようなヤツにだけはなるなよ。
それやっちまったら、いつか海原雄山になるぞ」
悟り猫「───ハッ!」
そ、そうかッツ!!なにか自分の生き様が引っかかると思ったら……!
そーだそう、そうだよ……雄山は味と陶芸の真を追い求めるあまり、
奥様を亡くしてしまったんでしたよね……。
あげに悲しき味の修羅になってしまってはいけません。
俺はせいぜいで海原雄山()でいい。
悟り猫「サンキュネー!!俺目が覚めたよ!
あ、ちょいと待ってくれ、今別の野菜も作るから一緒に持ってくべ!
コツはもう掴みました!!果実の種もあるから、どうせなら作ンべ!!」
悠之慎「……まったく、元気になるのだけは早いんだよな、お前は」
悟り猫「あ〜〜ん?」
悠之慎「なんでもない。早くしてくれ」
悟り猫「オッケイねィェーーーッ!!」
畑のレタスを全て刈り取り、根っ子の全てを土から出す。
大して待たずにミミズ様が畑を育み、地ならしは即座に終了。
ナスやキュウリ、スイカに白菜を育て、それも刈り取って準備万端。
悠之慎「相変わらず月空力があると便利だな」
悟り猫「“時操回帰()”」
キィン───
彰衛門「オウヨォ〜、モノの成長早めるならあっという間だしねィェ〜。
んだば果実も用意しましょうか」
準備万端とか思いながらもこういうことやるのはヘンな気分ではありますね。
彰衛門「この土ならいいサイバイマンが出来そうだぜ」
悠之慎「お前のそれって癖か?確か隆正の時も言ってただろ」
彰衛門「え?えー……と」
全然無意識だったんですけど……?
いかん、もしかして俺の頭の中がナッパに?
彰衛門「ギャア!やばいよそれ!俺……俺ハゲちまう!!」
悠之慎「落ち着け……ってもう何度言ったか忘れたけど落ち着け。
そもそも『ナッパ=ハゲ』っていう方程式をどうにかしろ」
彰衛門「う、うーぬ……ナチュラルに心ン中読まれても困るんだけどね」
何はともあれ地面に穴を開けて種を埋め、一気に成長させた。
……こうして見ると、果実って逞しいね。
彰衛門「ではこの梨を幾つかもぎ取っていってと……
ぬおお、なかなかの量になってしまった」
これは両手では抱え切れません。
彰衛門「えーと……どうしよう」
悠之慎「俺の両手はもう米俵でギッシリだが」
彰衛門「……あのさ、それってひとつ3〜40キロくらいだよね?
なんでまたそれを3コ抱えて平気な顔してんの?」
悠之慎「ン?実際平気だからだが。
鍛錬で片手に50キロの脇差持って修行してたからな。
それに慣れたら次は70キロ、ってどんどん増やして。だからもう慣れた」
彰衛門「ぬお……」
ああ、解らん……!アタイがレタス作りに没頭してる間に、彼になにが……?
彰衛門「ちなみに今のところの片手の限界積載量は?」
悠之慎「そりゃちと解らん。ああでも、片手で100キロはなんとか出来たぞ」
よしバケモンだ。
しかも今は死神になったわけだから、もっとハイパーストレングスだろうし。
じゃけんど……何故にそこまで力を付けるのか?そこんとこを訊いてみましょう。
彰衛門「というわけで、えー……解説の悠之慎さん。何故にそげに力をつけるのですか?」
悠之慎「そんなの決まってるだろ。守りたいものをいざって時に守れるようにだ。
もうロディエルの時みたいな惨めな思いは十分だ。
それに───モンスターとの戦いの時にも役に立つ」
彰衛門「───むっ!?」
モンスター!?モンスターと言いましたかね今!!
彰衛門「キミ!モンスターとはなにかね!
私にも解るように平明に答えてもらいたいものだね!!」
悠之慎「なにって───ああそっか、お前は寝てたんだもんな。
えっとな、空界には俺達が憧れて已まなかったモンスターが腐るほど居るぞ」
彰衛門「なんと!?……はは〜ん?俺を謀ろうって気だなてめぇ〜〜〜っ」
悠之慎「どうしてこういう時に限って疑り深いかね、お前は……。
あのな、ちゃんとオークだって居るしゴブリンだって居る。
果てはとんでもなくバカデカいドラゴンだって居る。信じろ」
彰衛門「ヘンッ!そんなこと言って俺っちを騙そうって気っす!
俺っちはそんなデマは信じないっす!」
悠之慎「ゼノギアスのハマーやってないで……ああもう面倒臭い。彰衛門、これ付けろ」
ポムッ。
悠之慎がなんぞかを創造して、アタイに渡す。
それは……小さな補聴器みたいにも見えた。
彰衛門「まあ……イヤリング!?イヤリングね!?キャア!なんてステキなプレゼント!」
悠之慎「いーから黙ってつけろ」
彰衛門「すいま千円……」
悠之慎に言われた通り、補聴器のようなものを耳に付ける。
驚いたことにジャストフィット……さすが悠之慎、半端なものは滅多に創造しませんね。
……あのバケモノレタスがその『滅多』だったんだろうけど。
彰衛門「ほっほっほ、付けましたぞ?これでいいんじゃろ、えぇーーーっ!?」
悠之慎「いちいち叫ぶな、まったく……ディル、出てきてくれ」
言うや否や、悠之慎が首にぶら下げてあった黄金色の珠をココンと突付く。
すると───!!
ヒィン───ヴァッサァアッ!!!!
彰衛門「キャーーーーーーーッ!!!!」
な、ななななんとまあ……!でっかいドラゴン……あ、い、いや、飛竜でしょうかね……?
とにかく竜族が出ましたよ……。
飛竜 『王よ、どうしたのだ』
悠之慎「いや……また出しただけなんだ。悪い」
飛竜 『……地界では私たちの存在を疑る者が多いのだな』
悠之慎「まったくだよ。憧れてるくせに信じないなんて、まったくどうかしてる」
……エート、ドウシヨウ。
ワァ、頭ノ中ガ真ッ白ダYO……。
悠之慎「おー、固まってる固まってる。お前が固まるなんて珍しいなー。
あ、紹介しておく。こいつはディルゼイル。空界で知り合ったワイバーンだ」
ディル『人間、ディルと呼ぶことを許可しよう。
……王よ、疑問に思ったが───この人間に私の声は届いているのか?』
悠之慎「届いてるぞ。さっき補聴器渡しておいたから聞こえないってことは無い筈だ」
ディル『……王よ、お前は真実創造者だな。
よもや我ら竜族の言葉を解す機械を瞬時に創造するとは』
悠之慎「イメージは創造の宝庫ってな。
声帯パターンをイメージに叩き込んで、
あとは黄竜珠のイメージを引き出せば十分だろ」
ディル『引き出す?』
悠之慎「いや、実を言うとな?長年の夢が死神になったことで叶った。
物体の構造を知る能力が欲しいってずっと思ってたんだけどな?
どうやらルドラにはそれがあったらしいんだ。だから───“複製せよ汝()”」
キュバァンッ!!
彰衛門「───オワッ!?」
悠之慎が梨の木をジッと見た後、すぐ横に同じ物を創造する。
それはまるっきり同じな、どこもかしこも枝ぶりも同じ、完全なる『複製品』だった。
ディル『……極めた、ということか』
悠之慎「多分、創造者としては随分上に行けたとは思う。
ただ───困ったことに『構造を知る能力』は完全に『ルドラの能力』なんだ。
だから当然『消費』もあるし、複雑なものになればなるほど消費が高い。
そういう意味ではそうそう気軽に『複製』は行使できない」
ディル『ふむ……そうか。無理をしないのならば私は文句などないが』
悠之慎(……なんていうか、軽いお目付け役でも出来た気分だ……)
……ああ、今なら悠之慎が何考えてるのか解る気がする。
あのディルゼイルってワイヴァーン、やけに悠之慎に入れ込んでるみたいだし。
しかしそっか、ファンタジーは実在して、モンスターも実在するのか……。そうか……。
彰衛門「フッ……フ、フクククク……はぁーーーはっははっははっはは!!」
悠之慎「凄まじくヘンな笑い方だな」
彰衛門「お黙り!ほっといてよもう!
しかしOKだ悠之慎!世にモンスターが居ると理解できただけで十分ぞ!
しかもドラゴンも居る!ドラゴン───ドラゴン!おおお俄然燃えてきた!!
うっしゃあこの後悔の旅終わったら早速空界行こう!俺、やっちゃうよ!?」
悠之慎「意気込むのは勝手だが……多分ゴブリンには追いつけないと思うぞ」
彰衛門「へ?なにそれ」
悠之慎「おそらく、地上で言えば最速かもしれないモンスターだ」
彰衛門「……ゴブリンなのに?」
悠之慎「馬鹿おまえ、空界のゴブリンをナメるなよ?
俺なんかじゃ足元にも及ばない速さだぞ」
彰衛門「ぬお!?マジか!?そんなに早いのかよ!」
悠之慎「ああ……あれはちょっと半端じゃない。
俺もこの目で見るまでは完全にナメてたが……」
『あれは人型では最速に違いない』と続ける悠之慎。
……想像してみるが、てんでイメージできやしない。
悠之慎「あぁ、ちなみにゴブリンの格好は『ガーディアンヒーローズ風』だ」
彰衛門「あれか!……あの、悠之慎?全然速そうなイメージが沸かないんですけど」
悠之慎「だから……俺も驚いたんだよ。
言っておくがアレは俺達が考えるようなゴブリンの速さじゃない。
メタルスライムくらい平気で追い抜けるぞ」
彰衛門「基準がよう解らんね。メタルスライムは確かに速いんだろうけど、
俺達から見れば『画面から消える』だけだしねぇ。
おお、ゴブリン見たくなってきた。行く時が楽しみじゃて」
悠之慎「御眼鏡に適うといいな。確かに俺もファンタジーにはときめいたが、
あそこはいろんな意味で大変だぞ」
彰衛門「かまへんかまへん!楽しけりゃオールオッケーYO!!」
悠之慎「ほんとにそうだといいけどな」
言って、悠之慎がディルゼイルとやらを珠に戻す。
あんなちっこい珠にあげなデカい竜が入るとは……空界って謎が多そうやね。
や、こりゃほんとに楽しみだ。
悠之慎「じゃ、そろそろ行くか」
彰衛門「オウヨ。あ、風呂敷創造してくれんかね?さすがにこれは持ちきれねぇや」
悠之慎「っと、そっか」
そうして悠之慎に巨大な風呂敷を創造してもらい、野菜と果物を包んで歩き始めた。
ご近所付き合いの一歩は地道な関係からでゴザルマス。
ありがとうゴザルマス。
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