───たわけモン道中記16/死神、晦悠介───
【ケース40:兇國日輪守悠之慎/戦国無双】
───……過去に住んでから一年と十月。
悠之慎「……今日も異常無し、かな」
手にした双眼鏡をイメージ分解して取り込む。
空界から戻ってきてからというもの、創ったものは無駄にはしないようにしている。
といっても消すことには変わりはないのだから、
ただ自分のプラスエネルギーになってるってこと以外に大差は無い。
悠之慎「あれから十ヶ月か……」
噂は聞くものの、戦らしき戦は無い。
遠くの方で小さな村がどこぞの誰かのモノになったとか、その程度だ。
その誰かってのが……『成町 根四門』、とかいったか?
何がしたいのかは知らないが、領地なんて拡大したって監視がしづらくなるだけだろうに。
悠之慎「効率ってものを考えるべきだと思うんだけどな」
やっぱり他人の考えなんてよく解らない。
自分の考えだって完全に解らないのが人生ってもんだ、当然かもしれない。
悠之慎「はぁ」
今頃、彰衛門は平八郎を人質に取って遊んでるんだろうな。
ゲームで勝てない腹癒せだ〜、とか言ってたし。
ちなみに平八郎ってのは秋守と珠枝の子供だ。
なんにせよ……首領墓琉癌じゃなくて良かったな、平八郎。
悠之慎「さて───と、そろそろ俺も寝るかな……」
町の方はまだ賑やかだが、明かりを付けている家は多くない。
せいぜい、秋守の家くらいだろう。
俺は木の上でもう一度遠くを眺めてから、ゆっくりと目を閉じた。
町の番人をしながらも鍛錬は欠かさなかったために、少々体が軋んでる。
ゆっくり休まないとシャレにならなそうだ。
悠之慎「……おやすみ」
誰にともなくそう呟くと、息を整え……───!!
悠之慎「っ!?」
物音を聞いた。
死神の異常聴力のためだろうか、極力音を抑えるように努めた足音が、確かに耳に届いた。
そしてそれは───
この木から離れた場所にある、もう一本の木の近くから聞こえたものだった。
悠之慎「───……」
目を深紅に染め、死神の目でその景色を眺める。
すると、そこには妙な鎧に身を纏った侍が立っていた。
まるで町を覗くように、だ。
この暗がりだ、木の上に乗っている俺には気づいていないのだろう。
或いは、この黒衣のために見落としているか。
なんにせよ……
悠之慎(観光に来た───ようには見えないよな)
ゆっくりと体に力を込めた。
それは殺気となって溢れ出し、
だがその侍はそんな殺気に気づかず、小さな笛のようなものを鳴らした。
───それが合図だった。
遠くにある『景色』が一斉に動き、この町を目指して崩れ始めたのだ。
恐らくは、この町を滅ぼすために。
悠之慎「……いい度胸だ」
侍 「!?」
漏らした声に侍が気づいた。
しかし、振り向いたその顔が恐怖に引き攣る。
当然だろう。
振り向いたその場には、闇に浮かぶ深紅に染まる二つの目が存在したのだから。
悠之慎「闇に乗じて襲撃か。戦としては常套手段かもしれないな」
侍 「っ……こ、この町で金が掘れたと聞いた!大人しく渡せ!」
悠之慎「ハッ……なるほど?襲う『理由』はそれか。
とぼけるなよ、本当の目当ては金なんかじゃなくて領地拡大だろう」
侍 「!?貴様……」
軽く跳躍して、侍の前に降り立った。
侍はすぐさまに刀を抜いたが、その隙を見逃す訳がない。
抜く動作にそのまま合わせ、振りぬいた拳が侍を吹き飛ばした。
それは町を目指して動き出した景色へと衝突し、
その先で発生したどよめきが確かに耳に届いた。
悠之慎「───紅蓮に染まれ、我が世界よ。
越せぬ壁など我が身に在らず、我が意思こそが無限の自由。……“月詠の黄昏()”」
そのどよめきは驚愕の声へと変わった。
黒だった夜の景色は黄昏の朱へと変わり、
その世界では視線の先に居る侍どもの姿がくっきりと見えていた。
数にして───300ってところだろうか。
侍 「き、貴様!町の者か!!」
悠之慎「だったらなんだ。殺すか?」
侍 「この町で掘れたという金を渡せ!!
そうすれば命は助けてやる!渡さぬのであれば───」
悠之慎「金なんて掘れてない。……って言ったところで無視して殺すんだろう?
だったら堂々と胸張って『領地拡大』って言ったらどうだ。
わざわざ理由を出すなんざ……晃のヤツを見習え、クズども」
侍 「なにっ……!?くっ───殺せ!殺せぇっ!!」
侍ども『オォオオオーーーーーッ!!!!』
悠之慎「……戦闘、開始()」
両手に野太刀並みの長さの鉄刀を創造する。
紙よりも軽く、『斬る』という概念が一切ない刀だ。
ただし、当たれば骨の一本は確実に折れる代物。
悠之慎「殺しはしないけどな、後悔はさせてやるよ。
本来なら町のやつらがするであろうその後悔、その身に刻み込め───!!」
侍の大群に向けて体を跳ねらせた。
300という殺気を前に、恐怖などは存在しない。
ただくだらない思想のために人を殺すというその殺気に対し、
怒りを燃やし続けるのみだった。
珠枝 「秋守さま、なにか……外の方で人の声が……」
秋守 「───!まさか……」
彰衛門「……始まったか。ふむふむ、相手は300ってところじゃね」
秋守 「300!?何故───」
彰衛門「まーま、まーま!キミも乱闘殿様の前世ならドカッと構えててくだされ!
300なんて数、悠之慎ひとりで十分すぎるわ」
秋守 「なに……?」
彰衛門「それより王手」
秋守 「その王将、お前のだぞ」
彰衛門「また変わり身かよ!」
秋守 「やられたらやり返すのは基本だろう」
悠之慎「疾───!!」
ボグッ!バキャアンッ!!パキィンッ!!
侍178「ぎ、ぎやぁああああっ!!!足がぁあああっ!!」
襲い掛かる侍の悉くを捻じ伏せる。
擦れ違いざまや刀ごと、その骨を砕いていた。
その数は既に半数に渡り、
俺の後ろには足の骨を折られて動けなくなった侍どもが倒れていた。
侍179「ば、ばかな……たった一人に……!」
侍180「ひ、怯むな!負け帰ってみろ、根四門さまにどんなことを下されるか!!」
侍181「そうだ!殺されるくらいなら───!!」
侍どもに覇気が戻る。
だが───そこから放たれる緊張感など、空界に比べればゴーレムにも満たない。
悠之慎「誰ひとり逃がす気は無い。お前らはここでくだらない正義を抱いて絶望しろ」
鉄刀二刀を合わせ、イメージを上乗せしてひとつの槍に造り替えた。
そう……誰ひとり逃がす気は無い。
こういうやつらの性格ってものを、俺はよく知っている。
ここでいくら命乞いをしようと、戻ればまた誰かを殺すために立つだろう。
だったら足を砕いて立てなくしてやればいい。
これからの余生を、後悔のみで生きればいい。
それが、他の時間軸で悲しみの内に死んでいったであろう晃達の弔いだ。
悠之慎「……ああ、言い忘れてた。死神になった俺は『慈悲』のタガが外れてる。
お前らがどれだけ叫ぼうが、二度と立てなくしてやるからせいぜい叫んでろ」
視界が紅蓮に染まる。
深紅が真紅に変わる刹那の中、真っ赤な景色に蠢く人間どもが居た。
それに向け、ただ槍を疾()らせる。
その速度はまさに魔人の如く。
一秒に六を穿つ速度はもはや人間ではない。
刹那に膝を砕かれ倒れる六人の仲間を見て、侍どもが息を飲む。
だが止まらない。
こいつらは今まで奪ってきた人々の辛さを背負わなきゃいけない。
他人を殺すことで甘い汁を吸おうなんて輩には相応の罰が降りるべきだ。
悠之慎「悔やむなら人を殺めたその刹那こそを悔やめ。
その時点で、お前らには地獄行きしか約束されてなかった。
───死神、晦悠介の名の下に……お前らに絶望をくれてやる」
侍ども『っ……!!』
隙の一切は見逃さない。
真紅の眼に射抜かれ、体を震わせた侍どもの膝に閃速の一撃を連ねてゆく。
突然支えを無くした侍どもはその場に倒れ、
訳も解らないままにあまりの痛みに絶叫を上げる。
───だが、クズ野郎にかける慈悲など無い。
殺めてきた人達の分の痛みを背負い、せいぜい苦しんで逝け。
侍247「な、なんだこいつは……!バケモノか!」
悠之慎 「随分とのんびりした理解力だな。残り50近くになってようやく気づいたのか」
侍247「なっ……」
悠之慎 「言っても無駄だろうけど言ってやる……。
俺はな……!懸命に生きてる人の命を、
気まぐれみたいに摘み取る馬鹿野郎どもが反吐が出るほど嫌いなんだよ……!」
侍247「ま、待ってくれ!
俺は根四門さま───い、いや!根四門に言われて仕方なく……!」
悠之慎 「誰に命令されようと関係ないね。
全てを決めるのはこの槍と、貴様らが生きていた道だ───!」
槍が閃く。
一瞬にして空気ごと膝を穿った槍はその場に侍の絶叫を齎し、
倒れ蠢く人の塊をまたひとつ増やした。
悠之慎 「……いいこと教えてやろうか。俺が使ってる武具は、
『私利私欲のために人を殺したことがあるヤツ』にしか通用しない。
お前らがどれだけ『生』のために雑言を並べようと、
お前らの人生がお前らを立てなくする。心に深く学んで逝け。
どんなに偉いやつだって、『自業自得』って言葉の前では平等だ」
侍248「や、やめ───」
ベキャッ!!
侍248「あ、ひ、ひあぁあああああっ!!!!?」
悠之慎 「───寝言は寝て言え。
お前らが殺したやつらはどれだけの『やめて』を叫んだ。
お前らはそんなやつらをどうした上で、この場所に立っている」
侍249「ひっ……こ、殺さないで殺さないで……!!」
悠之慎 「ああ。当然そう言ったヤツも居たんだろうな。
けどお前は手柄のためになんの感情も載せずに刀を振るった。違うか?」
パギャッ!!
侍249「あがぁああああああっ!!!!」
悠之慎 「……こうして膝を砕かれることよりも残酷だ。
お前らは未来を残せるやつらの明日と可能性の全てを奪った上で、
こうしてまだ殺戮を繰り返そうとしながらのうのう生きてやがるんだ……!
なんて酷い冗談だ……!ただ殺すだけのお前らがなんで生きてやがる!!」
侍250「ひっ───!に、逃げろ……逃げろぉおっ!!!」
侍どもが一斉に悲鳴を上げ、身を翻す。
だがその足は瞬時に機能を無くし、逃げる筈だった侍どもは皆、地べたに這いつくばった。
侍300「あ、あぐぅううあぁああ……!!!足が……!俺の足がぁああ……!!」
悠之慎 「足がなんだっていうんだ。
『全て』を奪っちまった男が、今さら足の一本くらいでなに泣き言謳ってる」
侍300「ち、ちがっ……俺達は本当に根四門に───!!」
悠之慎 「───この槍に貫けない戯言は無い。
己の命のために虚言を重ねることは罪と知れ」
ベキャアッ!!
侍300「アギッ!?ギィイイアァアアアアアゥウウウ!!!」
悠之慎 「そらみろ。自分の言葉すら偽るから両脚を砕かれる破目に陥る。
……まったく、死の恐怖を目前にした存在が『真の人間』だって?
ははっ、ロディエル───それこそ酷い冗談だ。
俺はこんなものが人間だなんて認めない」
真紅の瞳で、蠢く侍どもを見下ろした。
気は大分落ち着いてきていて、このまま放置するつもりだったけどその気も変わった。
そもそもこんな所に倒れられたんじゃあ町の人達の眼の毒だ。
悠之慎「───こいつらが帰りたい場所に転移させるブラックホールが出ます」
だから飛ばすことにした。
当然───
悠之慎「忠告するぞ。次にここに訪れた時の代償は足の自由じゃ済まないぞ」
侍ども『ひぃいいいっ!!!!』
───釘を刺すことも忘れない。
真紅眼で睨み、次々とブラックホールに吸い込んでいくと、
侍どもは情けない声をあげながら闇の円に消えていった。
悠之慎「───はぁ」
やがて全てを吸い込み終えると、黄昏ごとブラックホールを消して息を吐いた。
彰衛門「8分か……あっけなかったなぁ」
珠枝 「……声が消えました」
秋守 「………」
彰衛門「……あ。後悔反応が300ほど……」
……。
悠之慎「しまった……根四門ってやつの居場所を訊いときゃよかった」
ちと後悔。
こういうのは根源から断ち切らないと終わらないんだよな……。
悠之慎「よーしゃあ、秋守に訊いてブッ潰しに行こう。
過去の世界を侮辱する野郎どもに相応の人誅を食らわしてやるわぁああっ!!」
声 「……相変わらず浪漫が絡むと人が変わるんですね」
悠之慎「何奴!?」
聞こえた声に、江戸時代さながらに返して振り向いた───ら、その先には見知った顔。
悠之慎「みさおに聖……どうしたんだお前ら」
みさお「はあ……あの。わたしは来るつもりなんかなかったんですよ?
というよりは暴走した悠介さんに関わるのが嫌だったわけですが。でも……」
聖 「……パパ、何処ですか?」
みさお「まあその、こういうわけでして……」
悠之慎「お前ってお人好しだよな……」
みさお「『人が良い』って言ってください。馬鹿みたいに聞こえるじゃないですか」
悠之慎「なに言ってんだ、既に『友達馬鹿』だろお前」
みさお「それ、『究極友達馬鹿』の悠介さんと彰衛門さんにだけは言われたくないです」
悠之慎「究極言うな。俺達以上の友達馬鹿なんていくらでも居るだろ」
みさお「あの……悠介さん?それって絶対に無茶な注文ですよ?」
悠之慎「ん……そうか?」
そうは思えないんだが。
みさお「何処の世界に友達のために何度も命捨てる人や、
ドラゴンと戦う人が居るんですか」
悠之慎「探せば居るんじゃないか?みさお、可能性を否定するのはよくないぞ」
みさお「……だはぁ……もういいです」
盛大に溜め息を吐かれた……なんだってんだ?
みさお「それで───なにをしようとしてるんですか?
過去の侮辱がどうとか言ってましたけど」
悠之慎「ん……ちょいとヤボ用ってところだ。この時代に気に入ったヤツが留まった。
そいつが居る町を滅ぼそうっていう『たわけ』が居るから、
そいつにお仕置きをしてやろうってな」
みさお「お仕置きって……死神状態でやるお仕置きってなんですか?」
む。
悠之慎「なんだ、俺が死神になったって気づいてたのか?」
みさお「それだけ強い死神の波動を出してれば嫌でも解りますよ。
服装も悠介さんらしからぬ黒衣です。
悠介さんの知り合いでそれに気づけなかったヘンですよ」
悠之慎「ン───」
言われてみて、改めて自分の着衣を見下ろす。
黒衣───ああ確かに黒い着衣であることは曲がらない。
しかしそれはあまりにも『死神』という雰囲気から離れたものではないだろうか。
悠之慎「お前さ、この服の何処を見て死神だって思える?」
みさお「別にその黒衣を見て死神だって断定したわけじゃあありませんけど」
悠之慎「む……」
そりゃそうだ、みさおは一言だってそんなことは言ってない。
悠之慎「けどまあその言葉から断定できることなんてひとつだな。
黒衣だからって死神だとは限らない。
だから『俺らしからぬ黒衣』ってのは取り消してくれ。
俺は俺でこの服装を気に入ってる」
みさお「えぇっ!?なんの冗談ですかそれ!
和服魔王の悠介さんの言葉じゃあありませんよ!?」
悠之慎「………」
喧嘩売っとんのだろうかこいつは。
悠之慎「あのな……俺だって基本は黒が好きな人間だ。
それを和服魔王だの冗談だの……お前はなにか?俺に喧嘩売ってんのか?」
みさお「うわ、なんだかすっごく好戦的ですね悠介さん。
ダメですよ?死神の気配に飲まれたりしたら。
ただでさえ悠介さんは感心のあるものに対して心のタガが外れやすいんですから」
悠之慎「今俺の心のタガを外すようなことをするのはお前の言動以外に有り得ないんだが」
みさお「わっ、責任転嫁です。悠介さん、とうとう堕ちましたね」
ボゴォッ!!
みさお「へきゅうっ!!?」
手刀がみさおの脳天に落ちた。
おお、手刀らしからぬ効果音だ。
悠之慎「だから……っ!今の俺の心のタガを外す原因はお前の言動のみだ……!!
喧嘩屋を開きたいならダースで買ってやるからさっさと開店しろ……!!」
みさお「わわわ……!!ちょっと待ってください!ちょっとした冗談じゃないですか!!
巻き込まれた身としてはこれくらいは許されてもいいんじゃないでしょうか!
と、わたしは意義を立てたいのであります!」
悠之慎「……お前も随分、状況に応じた対応が好きそうに見えるが?」
みさお「場のノリと雰囲気は人類の至宝だと思います。で、落ち着いてくれましたか?」
悠之慎「───」
言われてみてハタと気づく。
さっきまで自分の中にあった高揚感に混ざった殺気は、驚くくらいに掻き消えていたのだ。
……まいったな、死神に飲まれるってのはああいうことか。
別にルドラが悪いってわけじゃない。
『力を得る』っていうのはつまり、プラスだけじゃないってことだ。
悠之慎「……ああ、眼が覚めた。ありがとう、礼を言わせてくれ」
みさお「…………悠介さん、雰囲気随分変わりましたか?」
悠之慎「んー……正直変わったかもしれない。
困ったことに死神の状態だと俺の意識と口調と、
ルドラの意識と口調が混ぜ合わさったような状態になるんだ。
ああつまり、その中間の性格みたいなものになってるんだと思う。
正直疲れる。『自分が定まらない』って状況は中々どうして、存外に肩が凝る」
みさお「あー、確かに口調に物凄い違和感を感じますね……。
今の状態で趣味に走ったら多分、凄いことになりますよ?」
悠之慎「うん?どうしてだ?」
みさお「だってほら、彰衛門さんの記憶の中にあったじゃないですか。
ルドラさんも『寝言は寝て言え』って気に入ってるみたいですし、
そうなったらその中間である今の悠介さんは、
それこそ『寝言は寝て言え魔人』に───」
悠之慎「はっはっはぁ、面白いなぁ小娘」
ザァアアア……ッ!!
みさお「ってどうして満面の笑みで黄昏発動させてるんですか!!
そもそも悠介さんに真紅眼って凄く似合いませんよ!?
こ、怖いからやめてください!」
悠之慎「はぁ……だったらお前も人に妙なあだ名をつけるのはやめろ。
正直、馬鹿野郎どもの始末の影響で神経が高ぶってる。
落ち着いてくれてはいるけど、こんなものは一時的だ。
何かの拍子に膨れ上がったら、それこそ死神に近づくことになる」
みさお「……ご、ごめんなさい」
悠之慎「いや……いいさ。
お前も俺を落ち着かせるために、慣れてない彰衛門の真似したんだろ?
だったらお前が謝る理由なんてそもそも無い」
みさお「あの……だったら怒らないでください」
悠之慎「まったくだ」
言葉を発するのと同時に溜め息を吐いて、イメージを展開する。
自分の中の骨子になっている鎌を取り外し、死神の状態から人に戻るために。
以前、この手に出現させたのとは訳が違う。
死神である体を人に戻すのだ───当然、先ほどの戦闘の疲労も一気に押し寄せる。
悠之慎「くっ……ぐ、がはっ……!!」
息が漏れる。
『人体』を超越した『死神』の動きに付いてこれなかったのであろう五体が軋む。
だがそれでも、その苦しみが明日の可能性になるのなら───
俺は喜んでこの苦痛をも受け入れよう。
もう誰にも……血も、涙も流させないように……。
悠之慎「───あ、はっ……はぁ、はぁっ……」
体にあった高揚の一切が死んでゆく。
それは死神の鎌とともに俺の手の中に現れ、
この鎌を受け入れれば再び俺は高揚するのだろう。
ああ、まったく……ルドラも嫌なプレゼントを寄越してくれたもんだ。
みさお「悠介……さん?」
悠之慎「……はぁ。そんな怯えた顔するなよ。
体を人間に戻しただけだ、どうってことない」
みさお「でも……辛そうですよ?」
そりゃそうだ、これで辛くないっていったら嘘だ。
ああもう、どこまで半端を許さないんだ、死神の身体能力ってやつは。
鍛えた体が軋んでる……これじゃあ筋肉痛は免れやしない。
……けどまあ、人体っていうのはこれで中々優秀だ。
辛さは記憶して、次の辛さに耐えられるように体を作り変える。
だったらこの体の軋みも甘んじて受ける必要は確かにあるのだ。
悠之慎「……落ち着けよ、俺」
それだけ呟いて、首の下の胸に手を当てた。
深呼吸するわけでもない。
ただ何気なく、その行動を取った。
悠之慎「……ん。悪い、随分落ち着いた」
みさお「そうですか。それは良かったです。さっきから聖ちゃんが怯えちゃってまして」
聖 「………」
俺から漏れる死神の気配をどう感じたのか。
聖はみさおの後ろに隠れるようにして俺を見ていた。
別に震えているとか恐怖しているとか、そんなことは無さそうだが、ただ見ていた。
悠之慎「………」
俺は頭をひと掻きすると、ふたりに『彰衛門の所に戻るか』と告げた。
ふたりはあっさりと頷き、みさおの影に隠れるようにしていた聖は率先して歩き出す。
悠之慎「……よく解らん」
そしてまた呆れる。
これは癖なんかじゃないってことがよく解った瞬間だった。
一言で言えばこうだ。
『俺が呆れるのは周りの所為だ』。
Next
Menu
back