───たわけモン道中記18/ナメタケにムナゲが生えた日───
【ケース45:弓彰衛門(再)/モミアゲスタンピード】
キヒィンッ!!
彰衛門「あい、到着」
悠之慎「お───また過去の時代か」
みさお「ですね……」
見渡す景色はさっきまで居た景色とそう変わらない。
時間軸自体は違うが、多分あの町からそう離れていない場所なんだろう。
彰衛門「なんだろね、ここの後悔」
悠之慎「さあな。とりあえず───」
ドガシャアーーーン!!!
馬 「ヒヒィィーーン!!」
村人B「あ!武流豚さんも轢かれたぞーっ!」
村人C「そしてあ、頭が地面に刺さったぞーっ!」
村人A「馬も気絶したぞーっ!」
…………。
彰衛門「武流豚って……」
悠之慎「なぁ……俺、これと似た景色、お前の記憶の中で見た覚えがあるんだが……」
みさお「はい……わたしも……」
後ろの方で何か悶着があったらしい。
見れば、妙に恰幅のいいおデブさんが地面に頭を突き刺して倒れていて、
その傍らでは馬が倒れたまま気絶していた。
彰衛門「あー……ここってもしかして……」
みさお「あ……思い出しました。確か南無さんが神の子を攫おうとした時代ですよね?
景色もよく似てると思います」
悠之慎「あぁ、そうだそうそう、
確か吹き飛んできた神の子を攫おうとしたら武流豚くんに気を取られて───」
……そうでした。
確かに南無の記憶の中に鮮明に残ってます。
◆武流豚 裂怒露武星───ぶるとん れっどろぶすたー
時を駆けるブタビト。
文献では様々な歴史に登場し、その身を以って人を助けると云われた存在。
言葉を発することはなく、どんなことがあっても死ななかったとさえ云われている。
文献によるところでは、過去と現代と未来における神降で存在が確認されている。
曰く、喋る武流豚くんは武流豚くんではない。恐らく生涯を高校生として過ごす人。
*神冥書房刊『年齢差があろうとも、彼を呼ぶ際は【くん】付けで』より
悠之慎「あー……なんか俺、嫌な予感がしてきた」
彰衛門「あ……お前も?」
みさお「?……どうしたんですか?」
彰衛門「あぁ、えーと……はぁ。
まずは身を落ち着かせることが出来そうな場所を探しませう。
全てはそれからということで」
みさお「……?」
拙者と悠之慎がモシャアと息を吐く中、みさおだけが『?』を振りまいていた。
……つーか聖が起きねぇ。
───……。
───時は!!千九百X年!!
世界は核の炎に包まれた!!エンパオ!!
彰衛門「長い旅だったぜ……まさかこの時代が神と地界人の戦乱の世だったとは……」
悠之慎「はーいはいはい、くだらんこと言ってないで話進めような。
───とりあえずここが前の時代から数年後ってのは解った。
秋守みたいなヤツが居て、桜純之上って名前なのも解ったし、
あの神の子の名前が遊羅ってことも解った。
で、だ。俺達はこの時代で何をすりゃいいんだ?」
『ぶっきらぼうモードの悠之慎の発言!
彰衛門は大変驚いた!』
ボゴシャアッ!!
彰衛門「ヘゴバッ!!」
悠之慎「妙なナレーションやってないでとっとと説明」
彰衛門「ソ、ソーリー」
ナレーションとともに閃く裏拳が俺の頬にクリーンヒット。
すこぶる切ないです。
彰衛門「押忍!!今回の目的はぁあああっ!!!!
えーと、多分この村を守ることです」
悠之慎「またかよ!!どうしてそう規模が大きいんだ!?
誰かひとりを守るとかそういうのは無いのかよ!!」
彰衛門「じいやに言われても知らんですじゃ!!ボク悪くないやい!!
仕方ないじゃない!後悔ってのは大きければ大きいほど規模も大きいんだし!
それでなしてじいやが文句言われなきゃならんのかね!!えぇーーっ!?」
悠之慎「逆ギレすんな!俺はもうあんなクズどもの相手は嫌だって言ってるんだ!
これ以上俺の中の昔のイメージぶち壊すなよ頼むから!」
彰衛門「真実はいつも腐るほど!
だからそのイメージさえもひとつの時間軸に過ぎないのです!
だったらさ〜ほら、その腐るほどにある真実のひとつを自分で作りゃあいいのよ。
や、作るのとはちと違うか。手伝うのですよ。
理想論でメシが食えるか!!」
悠之慎「イタイ正論も言うな。理想論の何処が悪い」
彰衛門「理想だけ大いに語って実行に移せないところ」
悠之慎「だから……イタイ正論を言うなっての……。
じゃあ訊くけどな、お前の未来の理想論ってなんだよ」
彰衛門「フランケンシュタインの怪物」
悠之慎「ジャック・ハンマーかよ!!ああもうお前いい加減にしろ!
つーかそれ理想論じゃなくて理想像じゃねぇか!!」
彰衛門「押忍!細かいツッコミサンキュベリマー!!
というわけで友よ!いやさ親友よ!!
俺とともに『旅のなんでも屋』を営まないかね!?
各地を旅しながら困ってる人を助けるんですよ!これが俺の夢っつーか理想論!」
悠之慎「日常にはならなくても誰かのためになることはするんだな」
彰衛門「そこまで細かいツッコミは要らんとです。で!どうなのかね!?」
悠之慎「前にも言っただろ?俺はお前にとことんまで付き合うよ。
もちろん嫌々だってことはないし、嫌なことには付き合わない。
誰かのために何かをすることなんて、ずっと昔っから滅多にしなかったことだ。
案外新鮮でいいんじゃないか?」
軽い笑みを浮かべるように悠之慎は言う。
むう、流石は我が親友……嫌なことは嫌という部分はほんに流石でござる。
……おなごに言い寄られるのには弱いけどね。
彰衛門「しっかしアレだよね。
俺とキミってもう随分長い付き合いになるけどさ、似てる部分って無いよね。
幼馴染って案外似通った部分が出来るっていうけど、
俺とキミってそんなことはあまりない」
悠之慎「あのな……それはお前が昔っから常識無視の常連だったからだろうが。
小学の頃から教師の弁当盗むヤツなんてお前くらいなもんだぞ?」
彰衛門「任せろ」
悠之慎「威張るなっ!!」
彰衛門「ハッハッハァ。死神化してからというもの、悠之慎も感情が高いねぇ。
普通死神化したら精神が枯渇していかないかねぇ」
みさお「あ、それはわたしも疑問に思ってました。どうしてでしょう」
俺の豪腕の中に抱かれたままのみさおが俺の腕に捕まりながら言う。
なんとなくめんこさを感じたので、その頭を撫でてあげた。
みさお「わぷっ……あ、彰衛門さん?」
彰衛門「娘を可愛がるのは親の務めです───いや、そりゃ義務っぽくて嫌だな。
権利───とも違うし……おお!ハート!心!ハートビートモーターズ!!
そう!これが親心!心を満たし体を満たしても尚溢れるこの心!まさに親心!
いつしか体内から溢れ出さんとする親心が俺の毛根という毛根からエレエレと」
みさお「そんな親心欲しくないです……」
彰衛門「そうだよね……」
とんでもなく沈んだ言葉で否定されてしまった……。
彰衛門「で、なして?」
悠之慎「前後の会話に間を空けすぎだ馬鹿者。
───死神と同化したのに気が高まるのは何故か、だったよな。
そんなこと俺が訊きたいくらいだ……って言いたいところだけど、
そこはあれじゃないか?俺が同化したのがルドラだからとか」
彰衛門「よし!なにひとつ解らない!詳しくお言い!」
悠之慎「焦るなって……。あのさ、俺の中に元々居た死神ってのはルドラじゃないんだよ。
創造の理力と一緒に流れてきたルドラがその死神を吸収、
死神として確立したんだ。だからほら、ルドラって元創造神だろ?
それの影響で、高揚感とかが膨れ上がってくるんじゃないか?」
彰衛門「よし!なにひとつ解らない!
ルドラが元神なのと高揚感と、どんな関係があるのかね!」
悠之慎「……お前、ただ単に俺を困らせたいだけじゃないだろうな」
彰衛門「とんでもない!ただの好奇心でござる!」
悠之慎「………」
モシャアと溜め息が漏れた。
多分俺の知っている中で溜め息吐いたのが一番多いのって悠之慎だと思う。
苦労人ってのも考え物ですねィェ〜。
悠之慎「あー……死神ってのは『感情』が無いだろ?
以前のゼノにしろ、文化祭の日に襲ってきた死神達にしろ。
そういうヤツと融合すれば『感情』が抑えられるのは当然のことで、
間違っても高揚感なんて得られるわけが無い。
そこんところは解るな?いや、ややこしいから解っとけ」
彰衛門「御意」
悠之慎「けど神は違う。感情が無いなんてことは無い───
ああ、これはルドラの知識からのものだけどな、神側には普通に感情がある。
で、死神になったとはいえ神側の波動の強いヤツと同化したんだ、
感情が二重───ああいや、『俺』との融合もあるから三重だな。
感情が三重になれば、嫌でも溢れるくらいになるだろ」
みさお「あ……それじゃあ悠介さん───じゃなかった、
悠之慎さんはその所為で強い高揚感を?」
悠之慎「だと思う。特に───槍を手にした時の高揚感はちょっと危険だ。
槍はルドラの得意武器だったらしいんだけど……まあそれはいいんだ。
けど、別の点で問題がな……いやそれ以前に“俺”に感情があるかは怪しいが」
コリコリと頭を掻く悠之慎。
どうやら相当にまいっておるようです。
つーか珍しいよね?こういう悠之慎って。
悠之慎「その……な。ルドラって『武器』を持つと人格が変わるヤツみたいでな……」
彰衛門「ぬお……凄まじい神様だなオイ……ってもしかして」
みさお「あっ……だから」
ピンと来るモノがありました。
もしやと思ったが、多分というか確実に正解だと思いマッスル。
彰衛門&みさお『ラグナロクで槍を【持たず】に放つのってそれが理由!?』
拙者とみさおの声が重なる。
肝心の悠之慎はというと、だはぁ……と溜め息を吐いて頷きをひとつ。
うおう、マジですか……不器用な神様も居たもんだ。
悠之慎「はいはい、わぁったらとっとと後悔狩りだ。
この村を守ればいいんだな?お安い御用……とは言えないよなぁ」
ごもっとも!
大体、村を守るにしてもどのようにして何から守ればいいのかまるっきり解らんとです。
彰衛門「こうなりゃ……」
悠之慎「あれだな?」
みさお「……?あれってなんですか?」
悠之慎「情報収集だ!」
彰衛門「怪しそうなヤツを皆コロがしだ!」
悠之慎「………」
彰衛門「………」
見事なまでに意見がバラバラだった。
彰衛門 「ほ……ほっほっほ、情報収集などと……
そげな回りくどいことをしてて村が滅びたらどうするのかね?」
悠之慎 「怪しそうなヤツなら誰でも襲っていいわきゃねぇだろうが……」
彰衛門 「………」
悠之慎 「………」
彰衛門&悠之慎『みさおっ!どっちに付くっ!!』
みさお 「えああっ!?ど、どどどどうしてわたしに訊くんですかっ!?」
みさおの疑問が飛ぶ───が、当然の如く無視です。
彰衛門 「えーがら答えるだ!」
悠之慎 「情報収集か!怪しいヤツのブチノメーションか!」
みさお 「やっ……えと……それは、情報収集が先だと思いますけど……」
彰衛門 「アモゲェエーーーッ!!!突然の裏切り!
サブタイトルに『驚愕!愛娘の裏切り!』とか書いていいですか!?」
悠之慎 「知るかっ!そんなことはいいから情報収拾始めるぞ!」
彰衛門 「ちくしょう!俺ゃ負けたわけじゃあねぇからな!」
みさお 「……仲が良いのか悪いのかハッキリしてください」
悠之慎&彰衛門『たわけ!!いいに決まってるだろうが!!』
みさお 「なんでわたしに怒るんですかっ!」
まあそげなわけで、ひとまずは情報収集開始。
各自バラバラに分かれ、村人達の言葉に耳を傾けることにしたのでした。
───……。
…………───さて。
しばらくしてから拙者達はとある神社の近くで落ち合った。
彰衛門「おーいボクのキミ達ー!見てくれよコレ!辺境の川で人面魚が取れたんだ!!」
人面魚「うおおおーーーっ!!!!うおーーーーーーっ!!!」
我が右手にオヤジ顔の人面魚!おおベラボー!最強です!!
悠之慎「珍遊記の人面魚かよ……っと、こっちは秋守似のあいつ───純之上だっけか?
あいつの具合がかなりよろしくないってことくらいだ」
彰衛門「………」
悠之慎「……ロクな情報じゃないな、両方とも」
ええまさに。
彰衛門 「みさおはどうだった?」
みさお 「あ、えと……その。珠枝さんとお善さんに……会いました」
悠之慎&彰衛門『な、なんだってぇえーーーっ!!?』
MMR発動。
いや、そりゃあね?
この時代が前の時代に近いなら珠枝さんもお善さんも居るのは当然なのですが。
彰衛門「んで?どげな感じだった?秋守とか平八郎とかも一緒だったんか?」
みさお「………」
彰衛門「……む?これみさお?」
悠之慎「───そっ……か。彰衛門、知りたがりは長生きしないぞ」
彰衛門「馬鹿野郎!俺ゃもう十分に長生きしたからいいんじゃい!」
悠之慎「なんて理屈だよ……」
彰衛門「というわけでプリーズテルミー!」
悠之慎「電話欲してどうする」
彰衛門「え?逆探知して愛を伝える旅に出る」
悠之慎「無駄話拡張させるんじゃない。ほら、とっとと昼餉の準備するぞ」
彰衛門「ややっ!?」
なんと!悠之慎が会話も半端に拙者の腕を掴んだ!!
───その時だった!
俺の中の思考ルーチンが渋川剛気の気迫をかもし出したのは!!
彰衛門「そりゃぁああーーーっ!!」
腕を極めての合気!!
悠之慎は関節情報に逆らえず、見事なまでに大地に───ゴキゴキンッ!!
彰衛門「───あら?」
大地に……
悠之慎「……で。お前は人の腕を捻ってなにやりたかったんだ?」
彰衛門「ア……アゥワワワ……!」
バッド!信じらんねぇ!!
悠之慎たら肘の関節平然と外して合気の極意を無視しやがった!!私は大変驚きました!
あんまりに大変驚いたので思わずみさおを見て叫んでしまいました!
彰衛門「ちょっと聞いてくれよトム!信じられるかい!?」
みさお「誰がトムですか!」
ギャア!いきなり怒られた!
すげぇ出鼻の挫かれ方だぜトニー!グゥウッレィトゥ!!
彰衛門「いいから聞けトムこの野郎!トニーのヤツ関節外して投げを回避しやがったぜ!?
信じられるかいトム!バッドだねヨシオくん!バッドメェーーン!!
つーかね!キミ痛くないの!?ゴキゴキンってスゴイ音鳴ったよ!?」
悠之慎「ん?ああ、お前が投げようとした瞬間に痛覚麻痺の霧を創造したから痛さは皆無」
彰衛門「イメージ纏めんの速すぎ!!キミ速すぎ!!
いくらルドラと同化したからってアータそりゃ」
ボゴシャア!!
彰衛門「はぶぅぃっ!!」
閃光のような右ストレートが顔面を襲いました。
悠之慎「あのなあ……いきなり人を投げようとした挙句に逆ギレ一歩手前で騒ぐなよ。
そんなことよりも、俺達にはやらなきゃならないことがあるだろ?」
彰衛門「ハッ!そ、そうだった!」
なんたることっ……!
俺達にはやるべき使命があったじゃないかッツ!!
彰衛門「では早速、桜純之上を月清力で眠らせて殿様衣装を」
ボゴッ!
彰衛門「おべっぷ!!」
閃光のような右ストレートが鼻っ柱を襲いました。
当然───というのも悲しいものですが、例の如く鼻がゴキュリと折れました。
───……。
……。
デンデゲデンデンデゲンデゲデデンデンデゲデンデンデーーーン!!!!
彰衛門「ランラカラカライランラカラーーーイ!!!」
えーと、ハイ。
夜が訪れましたぜボス。
皆が寝静まった今、起きてるのはきっとミーだけさトニー。
彰衛門「解説しよう!
何故拙者だけ起きているのかというと、俺が今日の見張り番だからさ!
だからこうして神社の頂点を極めて屋根の傍でポージングしてるわけです!」
愛が溢れるくらいの思いとともに言葉を発した。
目の前には謎の幽霊さん。
フワフワと浮いていて、じゃけんどどうやら自分が死んだことに気づいてない様子。
彰衛門「して、おばけさん?こぎゃんところでなにしとっとよ」
霊は子供でした。
まだ小さな、あどけないおなごです。
アタイはそげなおなごを月清力展開ハンドでそっと抱きしめてやり、頭を撫でた。
子供霊『……おじちゃん、だれ……?』
彰衛門「おじっ───ほ、ほっほっほ、じいやは伝説の霊媒師……その名も───」
名乗る準備として、今日この日───というか、
こげな瞬間のために作成してきた素晴らしくステキなお友達、
ナメムナゲ星人の着ぐるみを瞬時に装着!!
このヌメヌメした肌に、モシャリと生い茂った胸毛で泣く子も黙らせてみせよう!
ムナゲ「超変身ッ!!ナメムナゲ星人ンンーーーーッ!!!!」
───解説しよう!
ナメムナゲ星人とは、超次元生物ザクロトトボソに出現するナメタケ人に、
胸毛が生えたような正直気持ち悪い存在だ!
現代にてクイズの問題にも出したが、成長過程で足の数が変わるダンディメンさ!
ムナゲ「やべぇ……美しいよ……決まりすぎたよ今のポーズ……!」
子供の反応が怖いです。
きっと美しすぎて惚れちまったかもしれません。
アタイは恐る恐る子供の様子を伺ってみた。
子供霊『……ヘンなの』
ザグシャアッ!!(心を貫く効果音)
ムナゲ「ッ……!!」
子供の純粋な言葉がナメムナゲ星人の着ぐるみごとアタイを刺し貫きました。
ひでぇ……ひでぇよベイビー……。
俺ゃこれのためにわざわざ臭い思いして、
人面魚の粘膜使ってこの着ぐるみを完成させたのに……。
ムナゲ「ま、まあよいでしょう。
やはり子供相手だからと小細工に走ったのが間違いだったのだ」
これは脱いでしまいましょう。
はい、フンッと………………あら?
ムナゲ「フンッ!ハイッ!!……あら?」
…………えーと……。
ムナゲ「いやーーーん!!!」
旅に明け暮れてた所為かな……忘れてたよ、俺が着ぐるみに呪われてるってこと。
そう……例のごとく脱げません。
もう勘弁してください、せっかく忘れてたのに……。
ムナゲ「フッ……フフフ……クハハハハ……」
もういいです、泣いて過ごしましょう。
じゃけんどその前に、この子供の霊を成仏させてあげねばなりません。
ムナゲ「さ、小娘や?このムナゲが成仏させてあげましょうね。
ゆっくりと目を閉じてリラックスをしなされ、すぐに天国に送ってあげます故」
子供霊『……天国に、父上も母上も居るかな……』
ムナゲ「無責任なことは言えませんがね、きっと居るよ。
貴様が父と母を素晴らしい人だったと信じれるなら、
キミの信じる両親はそこに居るんじゃないかな」
子供霊『……そっかぁ……』
ふわりと、目の前の少女は笑った。
そしてそれ以上は何も言わず、俺に体を預けてきた。
厳密に言えばナメムナゲ星人のヌメヌメボディにだが。
ムナゲ「……達者で暮らしなさい。ぬくくしてろな」
その小さな体に月清力と月聖力を流してゆく。
魂の浄化と、せめてその心が安らかに昇れるようにと。
……俺の手から放たれる光が小娘を包んでゆく。
小娘はこれが最後だと解っていたかのように俺を見上げて微笑み、
やがて……この腕の中で光になって消えた。
ムナゲ「さよならだ小娘……死んでるのに元気って言うのもアレだけど、元気でな」
既に居ない小娘に届けるように呟いた。
小さな溜め息とともに俺はもう一度屋根の上に座り込むと、星が綺麗な空を見上げた。
ムナゲ「フッ……このムナゲにも救える存在があったのか……」
で、見上げながらそんな馬鹿なことを呟いてみたら、なんだか笑えて……
俺はしばらく、そうして笑っていた。
【ケース46:兇國日輪守悠之慎/時間軸との差】
───……翌朝。
目を開けると、目の前に奇妙な物体が
悠之慎「おわぁあああああああっ!!!!!」
ベゴチャアッ!!
X物体「へぎゅうっ!!」
悠之慎「───って……なんだ?」
思わず殴ってしまった物体Xを見る。
殴った時の声がその、なんというか彰衛門そっくりなのだ。
悠之慎「お前……彰衛門?」
恐る恐る訊ねてみた。
X物体「イ、イエス……これ取れなくて困ってマス……ヘルプ頼みマス」
ビンゴだった。
悠之慎「お前……少し見ない内に立派になって……」
彰衛門「いきなり何を言いやがりますかキミ!
俺だって好きでこんな格好続けてるわけじゃないんですよ!?」
悠之慎「もちろん冗談だが」
彰衛門「キミって冗談すっげぇ似合わねぇ!!キミこそ寝言は寝てから言ってよもう!
とにかくヘルプ!ヘルプヨ!!ヘルプミー!!!」
悠之慎「バードンミー!バードンミー!!」
彰衛門「そのネタはもう俺が中井出にやったからいいでしょ!?
なにがやりたいのさ悠之慎さん!ていうか……あれ?なんで鼻摘んでるの?
え?臭い?あ───そういやあの人面魚の粘膜って異様に臭かったから───
って待て!待って!!なんで拳固めるの!?目を閉じてなにイメージしてるの!?
待ってよ!俺別に悪いことしてないでしょ!?どちらかというと被害者だよ!?
え?なっ───そんな!自業自得なんて!ボクたちトモダチだろ!?
お互い支えあっていこうって誓ったじゃないか!!
え?俺の知り合いにそんなヌメヌメしたX物体は居ない……?
ま、ままま待って!待って待って!だからこれ着ぐるみなんだってば!!
ちょっと待って!なに一撃で虎をも屠れそうなデカいハンマー出してるの!?
そんなので殴られたら死んじゃ───イヤァッ!!イヤァアアーーーッ!!!!」
ドゴチャアァ……ッ!!
───……。
悠之慎「そういうわけで。馬鹿野郎が沈黙したところでちと話すか」
みさお「はぁ……」
神社周りの林の一角で血に塗れたままピクリとも動かない彰衛門を無視って話を進める。
話ってのは他でもない、珠枝さんとお善さんのことだ。
みさお「悠之慎さんは……予想がついていたんですよね?」
悠之慎「まあ……仕方ないだろ。
実際この時間軸は俺達があの町に降り立たなかった時間軸なんだろうし。
そうなったら侍どもに襲われるのは当然で、
秋守も丁さんも殺されてることになる」
みさお「はい……。珠枝さんとお善さんはなんとか逃げおおせたみたいでして……。
でも……子供を殺されてしまったみたいで、
一種の現実逃避状態になってるんです」
悠之慎「……辛いな」
みさお「……はい。珠枝さんとお善さんは、
顔立ちがそっくりな純之上さんを夫や兄だと思っているみたいで……
一緒に居る遊羅ちゃんを自分の子供だと思っているみたいです」
悠之慎「…………」
現実逃避もそこまでいくと異常に変わるな。
けど、そんなものは仕方がない。
辛くなれば逃げ出したくなるのは当たり前だ。
それが記憶であっても、様々な出来事であっても。
大多数の人間は、それに立ち向かえる人ばっかりじゃないんだから。
悠之慎「現実逃避してるヤツに真実話すことほど残酷なことはないだろうな……。
けど───今のところ彰衛門が反応しないってことは、
その後悔は既に終わったものなんだろうな」
みさお「それはそうですよ。
ふたりの辛さと後悔の念があの町の崩壊と消失なんだとしたら、
その後悔は悠之慎さんとわたしで解決させたんですから。
多分ですけど、
彰衛門さんの後悔を探知する力は同じ後悔には反応しないんだと思います」
悠之慎「……ん。そりゃなんとなく解ってるんだけどな。
そうじゃないとずっと同じ場所で後悔の修正しなけりゃいけない。
酷い自己満足じみたものかもしれないけど、
それこそ彰衛門の言うとおりなんだ。
そこに辛さがあるなら、せめて別の時間軸の中だけでも幸せになってもらいたい。
そう思うのはやっぱり───」
やっぱり、自分たちが酷い人生を送ってきたからなんだろう。
『辛さ』ってのが解っている分、辛さを味わわなくて済むのならそうしてやりたい。
俺達からしてみれば……そう思うのは当然のことなんだ。
悠之慎「……よし、後悔探しするか。この時代の後悔の根源がなんなのかは知らないけど、
人を後悔させるものに容赦は必要ないだろ」
みさお「容赦云々を唱えるなら相手が物体じゃなくちゃいけませんけどね」
悠之慎「当たり前だ。自然現象にケンカ売るつもりかお前は」
みさお「そんな馬鹿なことしませんよ。注意したんじゃないですか、もう」
悠之慎「そか。そんじゃあ───」
みさお「はい」
顔を見合わせたから、ゆっくりと視線をずらす。
そこには、未だピクリとも動かないひとりのムナゲの姿が。
悠之慎「あれ、どうしようか」
みさお「無視でいいんじゃないですか?
わたし、あんな物体に料理とか教わりたくないです」
悠之慎「まったく同感だ」
みさお「………」
悠之慎「………」
みさお「いいお天気ですねー」
悠之慎「こんな日は畳み干しと骨董品の整理と蔵の整理と刀の手入れをしたくなるなー」
みさお「いえ、多分それをしたくなるのは悠之慎さんだけです」
悠之慎「はっはっはぁ、そんなことないぞーぅ?」
現実逃避発動。
見上げた空がどこまでも青かった。まる。
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