───たわけモン道中記24/意思を継ぐ者の村のため───
【ケース58:簾翁みさお・屠神冥月/過去の男どもに落胆するモミアゲ】
───……えーと。
彰衛門「ひどいよぉおおお〜〜〜……みんながボクをいじめるんだよぉお〜〜〜……」
泣いてしまいました。
悠之慎「学ぶんだみさお……あれが人生に負けた男の姿だ」
みさお「痛い景色ですね」
彰衛門「イヤァ見ないでぇええーーーっ!!!学ばないでぇええーーーっ!!!」
悠之慎「よし元気になったな。話進めるか」
みさお「そうですね」
彰衛門「……うわ……マジで涙出てきた」
聖ちゃんに慰められながら体育座りをしている彰衛門さんはひとまずほっときましょう。
どうせすぐに騒ぎ出すに決まってます。
みさお「でも驚きました。悠介さん───あ、今は悠之慎さんですか。
悠之慎さん、結構人をからかうの好きなんですね」
悠之慎「彰利限定に近いものだけどな。
気心が知れたヤツが相手なら多少の無茶は言えるだろ?それと同じ感覚だ」
みさお「なるほど」
何処かスッキリした顔で志京さんに歩み寄る悠之慎さん。
その顔はなにやら『今まで振り回された借りは返した』っていう爽快感に満ちていた。
……やっぱり仕返しだったんですね。
悠之慎「改めて。俺は兇國日輪守悠之慎。この場所に用があって来た」
みさお「あ、わたしは───えっと、屠神冥月といいます」
志京 「先ほども名乗ったが、鳳翼志京という。ここにどのような用で訪れた」
悠之慎「旅」
冥月 「ですね」
間違ってはいない。
これは後悔を消す旅なわけだし。
志京 「旅……?何を馬鹿な。ここはまだ村とも呼べぬような場所だぞ。
旅人が腰を下ろすようなところではないだろう」
悠之慎「一言で言えば『手伝う』。手助けさせてくれ」
志京 「無用だ。私は私の力で村を作ってゆく」
冥月 「あの男の人達にはいい目で見られていないようですけど……」
志京 「今はそれで構わない。精一杯やれば皆解ってくれる時が来る筈だ」
悠之慎「……ふむ。なぁ、そこに数人混ざるくらいいいんじゃないか?
別にこの場に俺達の家も作ってくれとか言うわけじゃない。
ただ旅の証として村の発展を手伝いたいだけなんだ」
志京 「何度言われようと無用だ。
ここは私が空さまに任され、相馬と純之上に託された場所だ。
よそ者を介入させたことで事が起きては、申し訳が立たぬのだ」
悠之慎「……なるほど。ますますいいな」
悠之慎さんは熱心に志京さんの言葉を聞いていた。
返事とするときは返事をしたし、おかしいと思う点にはきちんと言葉を挟んだ。
そこのところは流石というか、
わたしや彰衛門さんと話している時とは違って随分と真剣だ。
冥月 「……え?」
そんなことを考えてると、ふと悠之慎さんの手がわたしの頭を撫でて───
悠之慎(気を許してるんだから、砕けた態度なのは当たり前だろ?)
小声で、けれどこちらは見ずにそう言った。
それで妙に納得してしまった自分が居た。
冥月 (……なんだ)
悠之慎さんは他人のことで真剣にはなるけど、砕けた態度になったりはしない。
信頼があればこそ、
怒ったり笑ったり馬鹿にしたりするっていうことをちゃんと知ってるんだ。
そういうところを考えると、悠之慎さんは人を見る目があるのかもしれない。
信頼するに値する人か、そうでない人を見分ける目というのを持っているのかもしれない。
志京 「……なにが言いたいんだ貴様」
悠之慎「俺はお前を信頼する、って言いたいんだ。俺達はあの男どもとは違う。
女だからって差別するのは間違ってるし、お前には確かな意思がある。
だから信頼する。多少の無茶も受け入れられる」
志京 「……どうだかな。その信頼を証明できるものはあるのか?」
悠之慎「手伝うって言っただろ?気にそぐわなければ遠慮なく斬ってくれていい。
それだけの覚悟はあるぞ」
志京 「………」
悠之慎「………」
ふたりは互いの目を見て何かを思考する。
じっくりと瞳の奥の真相を探るように。
けどそれは思ったより早く終わって、志京が折れるという形で治まった。
志京 「……いいだろう。ただし、不穏な行動に出たと知ったなら即刻切り捨てるぞ」
悠之慎「ああ。その時は喜んで斬られるよ。……彰衛門が」
彰衛門「ちょちょちょちょぉーーーっ!!ちょっと待った何物騒なこと言ってんの!
今キミさらりとヒドイこと言わなかった!?俺が斬られるとかどうとか!」
悠之慎「すごいな、目の前の志京には届かなかったのに」
冥月 「よっ、彰衛門さん地獄耳!」
彰衛門「やかまっしぇぇえーーーっ!!!」
悠之慎「よーし、じゃあ早速どの辺りから発展させていくのか教えてくれ」
冥月 「そうですね、全てはそこからです」
彰衛門さんがさっきからこちらに向けて叫んでるけど無視です。
志京 「あ、ああ……あの男が何やら言っているが、いいのか?」
冥月 「気にしないでください、彼はただのカッパですから」
彰衛門「どうしてそこでカッパって言葉が出てくるのかね!」
悠之慎「おーカッコイイ、お前はカッコイイぞ〜」
彰衛門「せめてこっち見て話を聞いてから言おうよ!それ全然関係ないよ!?」
志京 「まず、ここなのだがな……」
冥月 「ふむふむ……あ、ここをこうすると綺麗にまとまりますね」
志京 「そ、そうか?」
冥月 「はい。志京さん、指導者として申し分ないと思いますよ。ね?悠之慎さん」
悠之慎「ああ。あとは何かにつけて刀に手を掛けないことだな。
暴力じゃあ人は付いてこない」
志京 「う……」
確かに、一連の行動を見る限り……すぐに刀に手をかけてた。
もしあれを男の人達にもやっていたとしたら、人は付いてこないだろう。
彰衛門「無視!?無視ですか!?もういいよ!俺もう聖さんとずっと遊んでやるんだから!
て、手伝ってって言ったって手伝ってやんないんだからなー!?
ホレ聖!キミも何か言って差し上げなさい!」
聖 「パパを傷つける人は許さない……!」
志京 「傷つけるとは……何を言っているんだあの娘は。大体、横の河童はなんだ」
冥月 「気にしないでください、ただの馬鹿です」
悠之慎「あーカッコイイ、彰衛門はカッコイイぞ〜」
彰衛門「だから人の話聞いてよマジで!
そ、そうやって適当に言ってればいいとか思ってるんだろ!
知らないかんなー!?どうなったって知らないかんなー!!」
泣き叫ぶ彰衛門さんはまるで子供のようでした。
わたしはそんな彰衛門さんに向き直って一言。
冥月 「ハイ。聖ちゃんとずっと一緒に居てあげてください。
その方が聖ちゃんは喜びますよ」
彰衛門「!!」
あ。
今……ザグシャアッ!って鋭い音が聞こえたような。
彰衛門「っ……!ヒドイよ……ボクは用無しだっていうんだな……!?
今までみんなのためにいろいろやってたのに、
ボクだけ仲間はずれにしようってんだな……!?
うわぁああーーーーんみんなのバッキャロー!おたんちーーん!!
ボクはボクで聖と夢と希望を栄えさせてやるーーーっ!!!
覚えてろチクショーーーーイッ!!」
それだけ言うと、彰衛門さんは聖ちゃんを抱きかかえて全力疾走。
けれど前方不注意か、地面に突き立ててあった支柱のようなものにゴシャアと衝突。
恥ずかしそうにしながらバタバタと逃走していった。
悠之慎「……どうしてあいつはこう、捨て台詞が三流なんだろうな……」
冥月 「彰衛門さんだからとしか言いようがありませんね」
悠之慎「……違いない」
あっさりと首肯する悠之慎さん。
ほんと容赦ないです。
悠之慎「じゃ、早速作業に取り掛かっていいのかな?」
志京 「ああ。念のため監視はさせてもらうぞ。悪く思うな」
悠之慎「いいって。俺達がそれで納得したんだ、
そっちこそ『悪く思うな』とか言う必要はない。
それより───材木の類は足りてるのか?」
志京 「それは問題無い。根四門が蓄えていた金がある。資金面の心配は要らない」
悠之慎「根四門って……」
冥月 「……あの、志京さん?もしかしてここ、根四門の村?」
志京 「なにを馬鹿な。根四門の蓄えとは言ったが、既に根四門はこの世に居ない。
金は奴が犯した報いに使わせてもらうだけだ」
悠之慎「ってことは……」
冥月 「ということは……」
……この時代にはもう根四門が居ないっていうこと?
悠之慎「よっしゃあ俄然やる気が出てきた!やるぞ、みさ───冥月!
この時代じゃあもう人が死ぬような戦は無い!と思う!そう願う!」
冥月 「はいっ!これで悠之慎さんが暴走することもないんだと思うと心底安心です!」
悠之慎「よし志京!まずは何をすればいい!?」
志京 「あ、ああ……まずは───」
こうして彰衛門さんと聖ちゃんを抜かした、わたしたちの生活が始まりました。
───……。
復興に手を貸してから一日目。
冥月 「コンセプトは村とは思えない外装!!」
悠之慎「大丈夫だ!城や屋敷の設計云々は頭の中に記憶済みだ!
だが創造はしない!俺達の手で完成に導くんだ!」
冥月 「あ、でも木材等を使いすぎると、
村が出来上がっても生きていくための資金が……」
悠之慎「問題ない!そこんところは創造でなんとかする!
足りない資材があったら遠慮無く言え!」
冥月 「は、はいっ!」
───……。
復興に手を貸してから三日目。
悠之慎「見ろ冥月!!見事な屋敷が完成したぞ!
怖いくらいに完璧だ……!うぉおおおっ!!日本万歳!昔万歳ーーーッ!!」
冥月 「ひとりなのにたった三日で屋敷作らないでください!!
ていうかこんな大きな屋敷、誰に住ませる気ですか!」
悠之慎「え?……いや……誰?」
冥月 「……趣味に夢中になるなとは言いませんけどね……。
少しは考えて行動してください……」
───……。
復興に手を貸してから十日目。
冥月 「あぁあもう!!だから悠之慎さん何度も言ってるじゃないですか!!
家の大きさがバラバラだと住む人が劣等感とか感じるかもしれないでしょう!?
今すぐ均等に戻してください!!」
悠之慎「なにぃいい!?キサマそれでも過去の人か!?この件並びの美が解らぬか!!」
冥月 「悠之慎さんの美意識と住む人の感覚は明らかに違うんですから直してください!」
悠之慎「ええい組織の犬め!」
冥月 「誰がですか!」
───……。
復興に手を貸してから十五日目。
男1 「何言ってやがんだ!ここには俺が住むんだよ!」
男3 「ふざけんじゃねぇ!ここは俺の家にするって決めたんだよ!」
志京 「やめろ貴様ら!武器は捨てた筈だろう!」
男4 「やかましいんだよ!女は引っ込んでろ!」
男5 「そうだそうだ!
それに───人にどうこう言おうがてめぇは刀持ってるじゃねぇか!」
志京 「なっ……いや、これは……!」
男25「ハハン?そうか、俺達が油断したところでその刀で殺して、
自分だけの村にしようって魂胆だな?」
志京 「馬鹿なことを!私はそのようなことは考えておらぬ!!」
男30「どうだがな。よそ者を引き入れたのがそもそもじゃないか。
俺達の意思は無視してよそ者の言うことなら聞くんだろ?大した村長さんだよ」
志京 「違うっ!わたしは───」
男7 「うるせぇんだよ女っ!!」
ヒュバッ!
志京 「っ!」
ギィンッ!!
男7 「へっ、そらみろ……刀を抜いたぜ?」
志京 「これはっ……貴様が攻撃を仕掛けてきたからっ……」
男10「どうでもいいんだよそんなことはよぉっ!俺は前々から気に入らなかったんだ!
……そりゃあよ、根四門を殺してくれたのはありがてぇさ。
ありがてぇけど、だからって女が村長になるなんて俺は認めねぇ」
志京 「なっ……」
男1 「そうだそうだ!」
男2 「こうして住む場所も出来たんだ、
もうあんたが村長を名乗らなくてもいいじゃねぇか。
あとは───誰がどこに住むかだ!」
ヒュッ!ガギンッ!
男4 「不意打ちかよ!てめぇ……死にてぇのか!」
男2 「へっ、根四門の下に居た時からお前のことは気に食わなかったんだ……!
丁度いい、まずはお前から───」
志京 「やめろっ!やめぬかっ!このようなことをしてなにになる!」
男8 「うるせぇって言ってるだろう───がっ!!」
シュバッ!
志京 「くぅっ!?」
男9 「女は黙って男の言うこと聞いてりゃいいんだよ!口出しすんじゃねぇ!」
志京 「っ……わたしは……!」
───……。
復興に手を貸してから十六日目。
志京 「……悠之慎、冥月……」
悠之慎「うん?どうした志京……って、なんか顔色悪くないか?」
冥月 「そういえば昨日からなんだか落ち込んでましたね。どうかしたんですか?」
志京 「わたしは……」
悠之慎「……?」
志京 「……っ……い、いや……なんでもない。作業を続けてくれ……」
悠之慎「ん……解った。けどさ、悩み事があったら言ってくれよ。
言いたくなったらの時で構わないから」
志京 「ああ……すまない……」
───……。
復興に手を貸してから二十七日目。
志京 「な……に……?」
男12「だからぁ、何度も言わせんでくださいよ『元』村長。
あんたに付いていこうって輩はもう、ここには居ないんですわ。
だから───とっととこの村から出ていってくれませんかねぇ」
志京 「ふざけるな!この村は───あの寺は!
私が空さまや相馬や純之上に託された場所なのだぞ!!
それをどうして捨てることが出来る!!」
男12「おやおや困った女狐さんだ。村長に逆らう気か。……おい」
男ども『───』
ジャキッ……。
志京 「なっ……き、貴様ら……!!」
男10「器じゃなかったってことだよ、あんたは」
男9 「さっさとこの村から出て行け」
男12「それとも……この人数相手に抵抗してみるか?」
志京 「っ……く、そ……!」
男12「……そうそう、それでいいんだ。さ、とっとと出ていきな。
この村にお前の居場所なんざねぇんだよ」
───……。
……。
悠之慎「……はぁ。あの馬鹿何処でなにやってんだ……」
冥月 「見つかりませんねぇ……」
───それは、村の発展がかなり進んだことで出来た余裕の中、
彰衛門さんを探しに悠之慎さんと村を離れていて、丁度戻ってきた時のこと。
村に戻ると、
村の復興を何ひとつ手伝おうとしなかった男の人達が集まって話をしていた。
悠之慎「……?」
冥月 「なんでしょうね」
わたしと悠之慎さんは耳を澄まして、その話を聞いた。
……聞けば、志京さんをここから追放したことや、
村長交代がどうとかいう話が───バゴッシャァッ!!!
男20「ぎぴっ───」
冥月 「……!」
……話が、脳内に『意味』として広がった時。
既に悠之慎さんは男の中のひとりを殴り倒していた。
男12「だ、誰───ひっ!?」
振り向いた男性は驚愕した。
それはそうだ……わたしも今の悠之慎さんは直視したくない。
怖いくらいの殺気が、離れていても流れてくる。
悠之慎「とことんまでクズだな……この時代の男どもが心底嫌いになりそうだ……」
男1 「な、なんで……!?あんた、出かけてた筈じゃ……!」
悠之慎「村を作る時、お前らが何をした……?
あいつが……志京が頑張って村長らしくあろうとしてる時、
お前らはいったい何をしてた……?
どいつもこいつも手伝おうともしないで、完成したら家に住む……?
───寝言は寝て言え……!
責任感、孤独感と戦いながら村の発展を願ったあいつの気持ちも考えないで……
よくも……!よくもあいつの努力を踏みにじってくれたなぁあっ……!!」
男12「ま、待て!待ってくれ!だっておかしいだろ!?男が女の言いなりになるなんて!
女が村長なんて冗談じゃねぇ!お前だってそう思うだろ!?
お、おいそこの女!こいつを止めろ!」
冥月 「………」
男12「こっ……このガキ!俺の言うことが聞けねぇのか!!俺は村長だぞ!?」
悠之慎「妄想の中のな」
男12「なっ───」
バギュッ!
男12「びぎっ!?ぎ、ぎやぁあああああああっ!!!!」
鼻を掴まれ、捻るように折られた男は絶叫をあげる。
それで逃げていればいいのに、男は周りの男達に攻撃を命じた。
他の人達も、それこそこんな男はほうっておいて逃げればよかったのに、
武器を手に駆け出した。
悠之慎「“───戦闘、開始()”」
───それで。
その場に居た人の辿る道なんて決まっていた。
───……。
……戦いは、それこそ十秒もかからなかった。
いや、戦いと呼べたのかすら怪しい。
向かっていった人々は『速いだけの石突き』で気絶に迎えられ、数瞬で全滅。
意識があるのは、鼻を折られた男だけ。
自称・村長のその人だって、あまりの光景に失禁しているほどだった。
悠之慎「……志京は何処へ行った」
男12「ひっ……ひ、ひひ……ひぃい……!!」
悠之慎「三度目は無い。志京は、何処へ行った」
男12「あ、あっ……あっちの、ああぁあ……あっちの、方へ……!!」
男が震える体で腕を動かし、ある方向を指差した。
悠之慎「……そうか。冥月、行くぞ」
冥月 「え?でも……いいんですか?この村をこのままにして」
悠之慎「村長が変わってようがいまいが、ここは志京の思考の下に作られた村だ。
それを壊していいのは志京であって俺じゃない。そうだろ?」
冥月 「……こういうところは素直に感心の域なんですけどねぇ」
悠之慎「どういう意味だよそれ」
冥月 「趣味に走ると見境無くなるところは感心できないって意味です」
悠之慎「………」
悠之慎さんは頭をカリカリと掻いて、ぶっきらぼうで適当な返事を返してきた。
そうしながら指差された方向へと歩き、わたしはそれを追う。
……本当に、趣味に走って暴走さえしなければ付き合いやすい人なんですけどね……。
【ケース59:弓彰衛門/愛】
くたくたくたくた……。
彰衛門「うむうむ……今日も良い昼餉が味わえそうじゃわい……。
さ、光莉や……器を用意してくれんかね」
光莉 「うん」
サバイバル生活二十七日目。
じいやこと弓彰衛門と、聖こと光莉さんは山奥の山道近くでメシを炊いてました。
親友のもとを離れてから事実二十七日。
そろそろ悠之慎とみさおさんの存在が恋しくなりつつ……ありません。
じいやはこうして、光莉さんとともに仙人の在り方を探求するだけで十分なのですから。
光莉 「でもパパ、仙人さんって『霞』を食べて生きるんじゃあ……」
彰衛門「ほっほっほ、光莉や?じいや達はまだ仙人には至っておらぬのじゃ……。
じゃからの?別に霞を食わんでもいいのじゃよ」
光莉 「そうなんだ……でも霞ってどんな味なのかな」
彰衛門「さあのう……それしか食べないほどなんじゃ、
仙人にとってはどんなものよりも美味いに違いあるまいて」
光莉 「食べてみたいね」
彰衛門「そうじゃのう……」
サバイバルしてみて再確認したことは、
やはり光莉さんはじいやと二人きりの時じゃないとあまり喋らない。
喋ったとしてもたどたどしいというか、今のように元気っぽさが無い。
懐かれることは嬉しいことですけどね?このままでいいんかなぁとか思うわけですよ。
……いやいやいかんいかん、子を信ずるは親の務めナリ。
じいやが光莉を信じんでなんとする。
彰衛門「さ、いただきましょうか」
光莉 「うん。いただきます」
ぱんっと手を合わせて膳を取る。
ちなみに米はこの場で耕したものです。
種籾なら秋守の時代から持ってきたものがありましたしね。
彰衛門「おっほっほ、やはり米は釜で炊くに限るのぅ。おこげが実に美味そうじゃわい」
光莉 「あ、パパ?わたしがよそるよ」
彰衛門「おおそうかい、すまないねぇ」
光莉 「わっ……えへへ……」
頭を撫でると、光莉さんはなんとも嬉しいような恥ずかしいような顔で真っ赤になった。
おお、光莉や……?いつまでもそうやって初々しいままで居ておくれ。
じゃけんど、巣立ちたい時になったら容赦なく巣立ってしまってもじいやは怒らん。
むしろ喜んで見送りましょう……それがじいやに出来る最後のことじゃろうて。
彰衛門「さ、これを食したらマナ基礎力学の復習じゃ」
光莉 「うん、頑張る」
ニコリと笑う光莉とともに、箸を手にしていざ食を───む?
彰衛門「おや……これは珍客じゃあ……。このような山奥に、一体誰ぞ……?」
光莉 「え?あ……」
光莉も気配を感じたのか、山の林の先を見る。と───
彰衛門「……おや?あれは確か───」
歩いてくるお方には見覚えがあった。
確か鳳翼志京とかいうおなごだった筈。
彰衛門「志京殿ではござらんか……斯様な山奥に何用で……」
疑問が沸き上がりましてござい。
しかもなにやら絶望感を漂わせております。
後悔は───あるにはあるけど本命ってくらいの後悔ではないです。
彰衛門「どれ……光莉や、ちとここで待っておりなさい。
じいやは志京殿を食に招いてくるでの……」
光莉 「え……?」
彰衛門「むお?」
光莉さんの顔が途端に曇る。
それはまるで、何かを邪魔されたような悲しそうな顔でした。
彰衛門「む……どうかしたのかね?」
光莉 「……う、ううん……なんでも……ないよ……」
彰衛門「……?」
解らん。
しかしここでボゥとしていても始まりません。
せめて食に招きましょう。
彰衛門「もし、そこの御方……」
拙者は立ち上がり、フラフラと歩く志京さんに近寄って小さく語りかけた。
志京 「………」
しかし返事は無い。
どこか虚ろな目で拙者を見るだけでござった。
彰衛門「見たところお疲れのご様子……よろしければ食をともに囲みませぬか。
じいと娘とでは、ちと量が多いんじゃ……」
志京 「……すまない……放っておいてくれないか……」
口を利いた───が、それは拒絶の言葉でした。
しかしじいやはこれしきのことで引きはしません。
彰衛門「何があったのかは訊きはしません。
ですが、落ち着いてみれば見えるものもあるものですじゃ……。
こう見えて調理の腕は胸を張れるじいです……どうぞ、招かれてやってくだされ」
志京 「………」
彰衛門「体が温まりますぞ。……少し、ゆっくりと休んでみてはどうか」
志京 「…………すまない」
志京殿は再びすまないと口にした。
しかし今度のは拒絶の言葉ではなく、頂くという意味でのすまないだった。
───……。
パチパチ……パキ、パキ、ンッ……
焚火が燃えていた。
その上にある鍋がくたくたと煮え、それを囲むようにしてじいやと光莉と志京殿が座る。
彰衛門「さ、お食べなさい。大した持て成しも出来んが……温まっていってくだされ」
志京 「ああ……」
光莉 「………」
志京殿の分の膳をよそり、渡してやる。
それを受け取り、『すまない、いただく』と言った志京殿がそれを口にしてゆく。
じいやと光莉は既に食を始めていたため、毒入りとかの心配をされることもなかった。
もしくは───毒入りでも構わないという思考もあったのかもしれない。
それほど志京殿は思いつめていた。
志京 「……っ……く、ふ……」
彰衛門「……?おや……どうされた……」
しかしその志京殿が突然嗚咽を漏らし始めた。
鍋の汁を口にし、飲み下してからだ。
彰衛門「す、すまんのぅ……口に合わなんだか……?」
志京 「ち、がう……違うのだ……!っ……ただ……」
彰衛門「……む……?」
志京 「……暖かい……っ……暖かいんだ……この食事が……!
このような食……っ……空さまと食を囲んで以来なのだ……っ!」
彰衛門「………」
やはりどうやら寺の方でなにかあったのかもしれません。
悠之慎が居ながら何故おなごが泣くような事態が……。
彰衛門「こんなものでよかったらいくらでも食していってくだされ……。
遠慮はいりませんですじゃ……」
志京 「……すまない……すまない……」
光莉 「………」
志京殿が泣きながら食を進める中、
何故か光莉さんだけが頬を膨らませてイジケておりました。
……なんで?
───……。
彰衛門「……もう、ゆかれるのですかな?」
志京 「……ああ。貴様の言う通り少し落ち着くことが出来た。
少しひとりで考えてみようと思うのだ。
空さまや相馬や純之上……そして寺や村のことを」
彰衛門「そうですか……」
食が終わってしばらく。
誘ってはみたけど、志京殿はじいや達と共には行動しないと言ってきた。
こげに傷ついたおなごをひとりで行かせるのは心配なのですが……
本人たっての希望ならば仕方ありません。
彰衛門「……それでしたらこれを持っておゆきなさい」
言って、竹の葉で包んだものと竹筒を渡す。
志京 「これは……?」
彰衛門「握り飯と水ですじゃ。
道中、何があるかは解らんじゃろう……せめてこれだけでも持っておゆきなさい」
志京 「し、しかし……食に招かれ、こんなものまで貰っては……」
彰衛門「これからのじいやと光莉の食が心配。……ですかな?」
志京 「……そうだ。だからこれを貰うわけには……」
彰衛門「……おぬしはやさしいおなごじゃの。
安心めされい、じいやと光莉にはまだ蓄えがあるでの、
これしきのことで参ったりはせんよ」
志京 「しかし……」
彰衛門「大丈夫じゃ。おぬしがひとりで行動しようと思うように、
じいやと光莉もそういった覚悟のもとに旅をしておるのです。
もしおぬしの覚悟がそれほどのものならば、何も言ってくださるな」
志京 「……すまない」
志京殿はまたすまないと言った。
しかしそれは、どこかにやさしさを含んだものだった。
じいやはそれにゆっくりと頷いて微笑むと、去ってゆく志京殿をゆったりと見送った。
…………さて。
彰衛門「これ、光莉や……さっきから何を拗ねておるのじゃ……」
光莉 「……パパ、楽しそうだった」
彰衛門「む?そうかね?」
光莉 「うん……わたしと居る時は、あんなにやさしい顔してくれなかったのに……」
彰衛門「やさしい顔って……」
してたんでしょうか……解りません。
彰衛門「ほっほっほ……光莉や?じいやは光莉と一緒に居るのは楽しいぞえ……?
光莉はじいやの自慢の娘じゃて、いじけることなどないのじゃよ」
光莉 「でも……」
彰衛門「志京殿に対してそういう顔になったのは、
恐らく夜華さんに似たなにかを感じたからじゃろうて。
己が弱いことを認めたくない何かを、志京殿も持っていたんじゃ。
……どれ、それじゃあそろそろ行くかの」
光莉 「え……?行くって、何処に……?」
彰衛門「志京殿を追うんじゃ。あのままでは食が無くていつかは餓死してしまう。
かつて夜華さんにやったように、今度は山の神となって彼女を生かすのじゃよ」
光莉 「………」
彰衛門「……光莉や。じいやは光莉にやさしいだけの存在になれだなんて言わないよ。
けれどね、光莉……人と人とが助け合うことで何かが生まれること。
そして、その生まれる何かを共有することで感じられる気持ちを、
決して忘れてほしくはないのじゃ……」
光莉 「パパ……」
彰衛門「じいやは『絵の具』じゃ。
じいやだけではない、世界中のみんなが絵の具なのじゃ。
『人生』という絵画を懸命に描いてゆく、一色のみの絵の具じゃ。
じゃからこそ、ひとりでは生きられぬし、ひとりでは絵は描けぬ。
光莉……じいやはな、光莉には『ただの一色』になってほしくはないのじゃよ。
じいやのように『黒』にだけはなってはならん」
光莉 「なんで……?わたし、パパと一緒がいいよ……他の色なんて要らない……」
彰衛門「光莉……」
光莉の言葉に愕然とする。
娘が……娘が間違った道を進もうとしているのだ、当たり前だ。
彰衛門(時が……来たのやもしれんな……)
覚悟を決めよう。
それがきっと、光莉のためになると信じて。
彰衛門「光莉……今すぐ悠之慎のところへ行って謝ってきなさい」
光莉 「えっ───どうして!?」
その驚きようは、こっちが驚いてしまうくらいだった。
およそ光莉の声とは思えないくらいの声が、その小さな口から放たれたのだ。
光莉 「あっ……」
けれどその事実に一番驚いていたのは光莉だった。
じいやはそんな光莉の頭にそっと手を乗せて口を開いた。
彰衛門「よいか光莉。じいやは光莉が間違った道を通ろうとすればそれを止める。
自慢の娘なんじゃ、当然じゃろう」
光莉 「なんで……?どうして……?わたし、わたし……間違ってないよ……?」
彰衛門「よく聞くんじゃ光莉。人はひとりでは生きてゆけないとはいえ、
だからといってひとりだけに頼れば生きていけるわけではないのじゃ。
確かにそれがじいやなら『生きていく』ことだけは出来るじゃろう」
光莉 「だったら……」
彰衛門「しかしな、光莉……それはただ『生きているだけ』じゃ。
なんの目的も持たず、流されるままの浮き草のような人生じゃ。
『弦月聖』としてではなく、他の誰が代わっても支障もないような人生なんじゃ。
ならばそれは……既に『弦月聖』の人生ではない、ただの『ヒト』の人生……。
わしはな、光莉。自慢の娘である光莉にはそんな道に至ってほしくはない……」
光莉 「で、でも……だって……!」
彰衛門「言いたいことは解る……。
じゃがの、それは所詮『言いたいこと』に過ぎないんじゃよ……。
どれだけ光莉が叫ぼうと、それはもう『中身の無い義説』じゃ。
じいやと一緒ならばそれでいい、という考えでは……
もう光莉は人生という絵画を描けなくなってしまう……。
それがじいやは悲しいんじゃよ……」
光莉 「……なんで……?なんでそんなこと言うの……?
パパだけは……パパだけは笑ってくれるって思ってたのに……!
パパ……わたしのこと邪魔になったの……?いらなくなったの……!?」
彰衛門「光莉、じいやは……」
光莉 「もういいっ!パパなんて嫌い!わたしは───わたしも黒でいいんだもん!!」
キィンッ───
彰衛門「ひ、光莉!これ!……光莉……」
光莉は転移をして、その場から消えてしまった。
光莉なら……光莉ならば解ってくれると思ったのに……。
彰衛門「……黒はじいやだけでよいというのに……馬鹿者め……」
誰も居ない虚空に呟いた。
先ほどまでその場にあった穏やかな空気などは夢現だったかのように既に無く。
じいやはただ───見上げた木々の先に見える空を見上げて息を吐くのだった。
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