───たわけモン道中記29/子供心と親心とシャイニングウィザード───
【ケース69:屠神冥月/幼い子供のように】
───……ふと、目を覚ました。
冥月 「う、ん……?」
見えるのは天井で、見渡して見えるのは……グビグビと泡を吹いている彰衛門さんと、
畳の上に恐ろしいカタチになって転がってる晃さん。
そして……そんな晃さんの傍で阿修羅面(怒り)の顔で仁王立ちする悠之慎さん。
冥月 「……?」
阿修羅面(怒り)の悠之慎さんからは死神の波動をあまり感じない。
どうやら『鎌の骨子』を取り去ったようだけど……
もしかして体が軋んでるからあんな渋い顔してるのかな。
それはそれとしても、どうして彰衛門さんと晃さんは倒れてるんだろうか。
冥月 「えっと……月視力」
月視力を解放。
その場の少し過去を覗いてみることにした。
ビジジッ───バジュンッ!!
彰衛門「ゲハーッ!ガヘハーーッ!!あ、あれ!?キミだけ!?悠之慎は!?」
晃 「……?知らん」
彰衛門「なんと!?も、もしやなにかの手違いで置いてきちまった!?
こりゃいかん───異翔転移!カモン悠之───」
ビギィッ!!
彰衛門「ギョエァアアアーーーーーッ!!!!」
……どさっ。
彰衛門「グビグビ……」
……見える景色の中で、彰衛門さんが月空力を使おうとして限界に衝突。
月操力の使いすぎで畳みに倒れこんだ。
晃さんはそれを全く気にも留めず、
自分の握り拳を見下ろして、どこかくすぐったそうに笑っていた。
……そんな時だった。
虚空にブラックホールが出現した。
声 「はぁ……創造した膜を消すブラックホールとなれ」
その場にあったのはブラックホールだけだったのに、どうしてか聞こえる悠之慎さんの声。
けれどもブラックホールが何かを吸い込むと、その場に悠之慎さんが現れた。
悠之慎「……ん」
悠之慎さんは自分の手を握ったり閉じたりをして頷いた。
そこへ───
晃 「じゃ、始めるか」
拳を構えた晃さんが。
それを見た悠之慎さんは苦笑気味に言う。
悠之慎「いい一日はいい一日のままにしておけよ。別にまた今度でもいいだろ」
晃 「構うかよ、気分がいいんだ。言っただろ、お前の敗北を姉さんに捧げるって」
悠之慎「だから。気分いいままで居ろって言ったんだよ」
晃 「そりゃ俺が負けるってことか?ふっ……今の俺に負けはねぇ。
この拳にあの感触が残ってる限りはな───!」
悠之慎「そうか、おやすみ」
晃 「話くらいまともに聞けモミアゲ!」
悠之慎「だからそのモミアゲってのはやめろ……」
放たれたどんな言葉よりも『モミアゲ』に反応する悠之慎さん。
晃 「怖気づいたか?俺には解るぜ、お前は強い。だから俺と戦うべきだ」
悠之慎「どういう理屈だよ」
まったくでした。
晃 「……どうしてもかかってこないつもりかよ」
悠之慎「疲れてるんだ、後にしないか?」
晃 「だめだ戦え!戦わなければお前は腰抜けだモミアゲ!!」
悠之慎「怒る気にもならんが……」
晃 「なにっ!?だったらクズだ!カスだ!ゴミだ!
言われっぱなしが悔しかったら俺と戦え!
敵前逃亡なんて情けねぇと思わねぇのか!?」
悠之慎「たわけ。逃亡して明日のメシが食えるならそれで十分だ。
それで力つけて戦えばいいだけのことだろ?急ぐなよ」
晃 「急ぐから戦え!」
悠之慎「戦いの殉教者かよお前は……」
晃さんは恐ろしいほどにバトルマニアというか……戦い好きなようだった。
この町ではそう暴れられない所為か、溜まるものがあったんでしょうけど。
悠之慎「言ったことは守るから。あとにしよう」
晃 「俺の用事が終わったら、って言ったのはお前だろうが」
悠之慎「終わったらだろ?終わってすぐとは言ってない」
晃 「案外口が減らねぇんだなモミアゲ……」
悠之慎「だから……。頼むから人をモミアゲって言うのはやめてくれ……。
それより着替えとけよ?ふみさんが見たら驚くぞ。
自分の故郷に帰ってしまうのですか、とか」
晃 「あっ……くそっ!ちょ、ちょっと待ってろすぐ着替えるから!」
悠之慎「おやすみ僕は寝ます」
晃 「寝るんじゃねえっ!!」
晃さんの言葉を無視して、猫になってその場に寝転がる悠之慎さん。
晃さんは驚きはしたけれど、既に強者と戦うことしか頭に無いのか……
人が猫になったという事実を闇の彼方に葬り去った。
晃 「起きろっ!おい起きろてめぇ!寝るなって言っただろ!?」
世界猫「ああもうやかましい……普段冷静なくせに、なんだってんだよ……」
悠之慎さん、あなたがそれを言いますか?
……まあそれはそれとして、
和装に着替えた晃さんは洋服を畳んだ葛篭を箪笥の上に置いて、猫に怒声を浴びせました。
準備は万端らしいです。
世界猫「俺は知らん。そこで泡吹いてる馬鹿者と遊んでてくれ」
晃 「いいやダメだ。お前との決着もつかないままに他のやつと戦えるかよ」
世界猫「………」
晃 「おいっ……寝るなって!くそっ!起きろこのっ!
なんなんだこの!猫のくせに和服なんか着やがって!」
───あ。
世界猫「……“時操回帰”」
立ち上がり、人の姿に戻る悠之慎さん。
心なし、コメカミのあたりがヒクついてます。
『猫のくせに』という言葉より『和服なんか』という部分にアレが来たらしいです。
思いつく限りの挑発をしようとしただけなんでしょうけどねぇ……。
バギッ!ブギッ……ブギチチチ……!!
悠之慎「はぁあああああ…………!!!」
悠之慎さん、自分の体から『鎌』を外してます。
何処でどんな無茶をしたのかは知りませんけど、
外した途端に体のいろいろなところで何かが切れる音がしてます。
とくに酷いのは目です。
ブヂッていう音と同時に血が吹き出ました。
それでも……うわわ……!怒ってます怒ってます!!
晃 「……?やっとやる気になったか?よし来いっ!」
拳を構える晃さん。
その構えは我流なのかどうかは解らないけれど、あまり隙はなかった。
でも……アレです。
今の悠之慎さんには相手の隙がどうとかは関係ないと思います。
なんだかんだで……痛みで少し冷静になったみたいです。
息を落ち着けて、傷を治すなにかを創造しようとしたんでしょう。
少し手を上げかけたその時───
晃 「ン……くそっ、和服ってのは案外腕の動きを邪魔するな……よっ」
びりびりびりぃっ!!
悠之慎「───……」
晃 「よし来いっ!」
あろうことか、晃さんは和服の腕の部分を両方とも千切り投げてしまったのです。
ワタシモウシリマセン。
多分悠之慎さんの頭の中はこうです。
その破った服、誰が縫うと思ってんだ、ですよ。
そんなもの、当然ふみさんに決まってます。
決まってますけど……わざわざ破り捨てる必要はなかったと思うんですよ。
少し脱げば自由に動けたわけですし。
それが……ああ、もう何を思っても無駄ですね。
だってもう、一瞬にして間合いを詰めた悠之慎さんが晃さんの頭に手を乗せてます。
悠之慎「バカだぜアンタ……」
晃 「!」
謝謝、楊海王……。
───バグシャベキゴキベキンッ!!
ダイヤモンドがヘシ曲がってやがる……
冥月 「って死んじゃいますって!!」
過去視を終えたわたしはすぐさまに転がってる晃さんに月生力を流した。
まるでビスケット・オリバに潰された金剛拳の楊海王のように、
見るも無残にグシャグシャになっている晃さん。
私利私欲のために妻の仕事を増やすのは頂けないことですけど、
さすがにこれはやりすぎじゃないでしょうか。
冥月 「悠之慎さん?同属嫌悪って知ってますか?」
悠之慎「言うなよ……晃に八つ当たりしちまったみたいで、自己嫌悪してるんだから……」
冥月 「解ってましたか……」
何かに夢中になると周りが見えなくなるのは悠之慎さんも同じなのだ。
だから晃さんばっかりが責められるべきじゃない。
冥月 「……でもさすが悠之慎さん、というか……。
あの、どうやったらここまでゴキゴキなのに、
内臓壊さずにいられるんですか?」
悠之慎「晃の内臓を守る膜が出ます……とな」
冥月 「相変わらず便利ですね……」
悠之慎「晃の『構造』は読み取ったからな……何処にどう創造すればいいかは完璧だった」
冥月 「自慢にもなりませんよそれ」
悠之慎「自慢はしてない。で───どうだ?治りそうか?」
冥月 「はい。一気にいったのがよかったのか、案外骨が綺麗に折れてるんですよ。
折れてるというよりは外れてるというか。すぐに治ります」
悠之慎「そか。じゃあ俺は寝る───って、そういやどうなんだろうか」
冥月 「え……なにがです?」
訊ねてみる……と、悠之慎さんは彰衛門さんの額に手を当てて───
悠之慎「“時操反転()”」
そう唱えた───途端。
ポムッて音と一緒に彰衛門さんが猫に変わった。
悠之慎「一応……俺がやっても猫にはなるんだな。
誰がやってもってわけじゃないだろうけど。
───じゃ、俺達は外で月が出るのを待ってるから晃のことよろしくな」
冥月 「寝るんじゃないかったんですか?」
悠之慎「ああ。外で寝る」
冥月 「え……あ、じゃあちょっと待ってくださいよ。
晃さんの回復もすぐ終わりますから、わたしも行きます」
悠之慎「先行ってる。いつもの畑の傍だから急がなくていいぞ」
冥月 「あ、はい」
スサッ……トスン。
悠之慎さんは猫になった彰衛門さんを片手に、部屋を出ていった。
それを確認する頃には晃さんの体もピンと伸びて、体の何処にも異常は感じられなかった。
冥月 「よいしょ、っと」
うんと頷いて、少し慌てた風に悠之慎さんを追った。
なんだかこうしてひとり残されたら、
本当に置いていかれるんじゃないかって思えてしまったから。
それは仕方の無い感情だ。
だってわたしは一度、彰衛門さんに置いていかれてしまったのだから。
10歳の頃に彰衛門さんと出会って、4年間を一緒に過ごした。
でも───その4年間以降、彰衛門さんはわたしの下には訪れなかった。
未来に戻ってしまったんだ、当然だ。
当然だけど……あの頃のわたしにとって、
彰衛門さんは父上以上に父上らしい存在だった。
そんな人が自分を置いてどこかへ行ってしまった。
……とても悲しかった。
毎日会えていた人に突然会えなくなる寂しさは、
それこそ喩えようがないってくらいに寂しくて。
その頃のわたしはただ、精神的に弱ってゆく嗄葉母さまを見ていることしか出来なかった。
冥月 「……〜〜っ」
思い出したらもうダメだった。
ふたりが歩き、自分だけが置いていかれたっていう状況が、
わたしの思考をどうしようもないくらいに不安にさせた。
だからわたしは外へと続く引き戸を開け放って、一生懸命に駆けた。
駆けて駆けて……見つけることが出来たその背中に、
そのままの勢いで抱きついたのだった。
ドゴオォッ!!
悠之慎「ほぐあぁっ!!」
悟り猫「ギニャッ!?」
……全速力だった所為か、悠之慎さんとわたしは少しだけ浮きました。
浮いたら浮いたで今度は地面を転がって、トドメにずしゃああ〜〜……と滑って終わり。
でも……その背中がこんなにも温かい。
本音を言えば彰衛門さんに抱きつきたかったけれど、猫なんだから仕方が無い。
悠之慎「お、おのれは……!なにか俺に恨みでもあるのか……!?」
冥月 「無い、とでも……あぅ」
声を出した途端、自分の声が嗚咽に呑まれている事実に今さら気づく。
だからすぐに声を出すのをやめたけど……悠之慎さんは解ってしまったらしい。
悠之慎「……まったく」
悠之慎さんはそうぼやくと、わたしの背中に張り付くわたしを脚で持ち上げて空に放った。
それを倒れたまま向き直って、抱きとめてくれる。
悠之慎「お前も案外子供なんだなぁ」
冥月 「う……ほっといてください」
正面から泣き顔を見られたことがかなり恥ずかしかった。
悠之慎さんは苦笑気味に笑いながら目を細めて、わたしの涙を拭ってくれる。
悠之慎「安心していいと思うぞ?俺はどうかは解らんが、
彰衛門……彰利はお前のことを捨てたりなんかしない。
あいつは一度『娘』って呼んだやつは、ずっと娘だと思うヤツだから」
冥月 「解ってますよぅ……解ってますけど……」
悠之慎「家族を傷つけるヤツは最低だって思ってるヤツが、
娘であるお前を捨てるわけないだろ?」
冥月 「でも……ですけど……」
悠之慎「うん?」
冥月 「だって……だってわたし……!
わたし……聖ちゃんみたいに彰衛門さんとの関係が深いわけじゃないし……!
今は平気でも、いつかは……いつかはわたし……
彰衛門さんに捨てられるんじゃ、って……」
悠之慎「はぁ……たわけ」
ぴしゃんっ。
冥月 「あぅ……」
額をぴしゃりと叩かれた。
痛さはないけど、どうしてか心が暖かい。
悠之慎「彰利は絶対に人を捨てるなんて非道なことはしないヤツだ。
それは、刀としてずっと一緒に居たお前がよく知ってることだろ?」
冥月 「……でも……でも……」
悠之慎「でもは無しだ。……大丈夫。お前はちゃんと愛されてるよ。
だから安心していいんだ。お前は……ひとりぼっちなんかじゃない」
冥月 「悠之慎さ……うぐっ……くっ……ふ───うぁああああああああん……!!」
悠之慎「え゙───って、お、おい?なんだ!?ど、どどどうして泣くんだよっ!
あぁあ悪い!俺、傷つけるようなこと言ったか!?」
……暖かかった。
ただ……暖かかった。
普段見せないやさしい微笑みも、抱きとめてくれた腕や胸も。
みんなみんな、暖かかった。
親の愛を知らず、きっと同じような境遇に生きてきたわたしたち。
満足に幸せも掴めずに、無限の地獄に泣いた彰衛門さんや、
自分の存在のために『親』を死なせてしまった悠之慎さん。
ただの人として生きることさえ叶わず、刀の楔としての道を選んだわたし。
幸せの意味も知らず、けれど……きっと知っていた人の暖かさを、
今こんなにも感じることが出来ている。
目の前で困惑する人は、それでもわたしを抱きしめながら頭を撫でてくれた。
その手の平が、とても暖かかった。
───ああ……この人達の周りは、なんて暖かいんだろう。
自分を偽る必要も無く、彼らの傍はいつだって楽しかった。
……こんなこと、刀で居た頃は一度も感じたことがなかった感情なのに。
なんて……本当に、なんて暖かいんだろう……。
悟り猫「………」
冥月 「あ……」
彰衛門さん……悟り猫さんが、新たに流れたわたしの涙をテシテシと拭ってくれた。
回復してなくてヨロヨロなのに、
それでもわたしの顔を見て穏やかに目を細めて笑ってくれたのだ。
……もし。
もし……幸せっていう感情が、今……胸の中にある気持ちのことを言うのであれば……
わたしはきっと、とても幸せだった。
拭ってくれる猫さんの手がびしょ濡れになってしまうくらいに、嬉しくてたまらなかった。
手が濡れきってしまった猫さんは困ったような顔をしてから、
わたしの頬に伝う涙を舐めてくれた。
くすぐったかったけど、猫なのに顔を真っ赤にする悟り猫さんの様子がおかしくて。
涙ばっかりだったわたしはここにきて笑い始めた。
それでも……困ったことに涙は止まらなかった。
やっぱり嬉しい。
いつまでもこうして、この人達と一緒に居たい。
そう願う気持ちは、心の中からとめどなく溢れてくるばかりだった。
【ケース70:弓彰衛門/シャイニングランデヴー】
……とある夜。
ようやく本調子まで回復した拙者と悠之慎と冥月さんは、
畑の傍に引いた茣蓙の上に寝転がっていた。
……んにゃ、一名だけ『茣蓙の上』に寝てない者が居ます。
冥月 「くぅ……すぅ……」
彰衛門「りぃ!あげますからね〜!?くぅ!すぅ!りぃ!!」
冥月さんです。
なにやら知りませんが、
泣き出したあの日以来めちゃくちゃ甘えんヴォウになってるんです。
早く言えば、冥月さんたらアタイの腹と胸の上にうつ伏せ状態で寝ています。
悠之慎「いきなり叫ぶなよ」
彰衛門「いえだってね?冥月さんが『くぅすぅ』と言うものですからね?
薬でも欲しいのかと先読み致しまして」
悠之慎「……その見解は間違い無く間違ってるぞ」
彰衛門「間違い無く間違ってるってヘンな言葉だよね」
悠之慎「まったくだ」
苦笑が漏れる。───悠之慎の癖だ。
大きく笑っちまえばいいのに、どうしてか困った風に笑う。
それについてツッコミを入れようとした時、俺より先に悠之慎が言葉を放った。
悠之慎「……なんだかんだ言って、寂しかったのかな」
彰衛門「そうなん?だったら最初から言えばよかったのに」
悠之慎「そうもいかないだろ。この旅でも、その前でもいろいろあったんだ」
彰衛門「グムウ……じゃけんど今は問題ないでしょ?」
悠之慎「ん……そりゃそうだけどな」
彰衛門「OK!じゃあ───飛び込んでこ〜い!!」
寝かせていた体を少し起こして、悠之慎に向けて両腕を広げメゴスッ!!
彰衛門「エベッシア!!」
途端、我が顔面を的確に捉えてやまない悠之慎の拳。
悠之慎「誰が俺の話をしたっ!冥月の話だよ!」
彰衛門「えぇっ!?そうなんですか!?私は大変───」
悠之慎「思考を紡げ。意識を繋げ。異端の思考よ例外を創造れ()」
彰衛門「ってギャアなにする気!?なに言唱えてんの今すぐやめなさい!!
軽い冗談ですから!ね!?ヤバイって!
真面目に聞きますからコメカミをヒクつかせながら黄昏創らないで!ね!?」
悠之慎「大変驚くのはもういい。
大体お前が冥月のことをぞんざいに扱うからあんなことになるんだ」
彰衛門「……ぜんざい?」
悠之慎「想像は留まりを知らず、想像は無限に換わり、創造すらも無限に換える()……!!」
彰衛門「いやぁああああ冗談ですマジでもうごめんなさい!!
つーか『言』略さないで!怖いよキミ!落ち着こ!?ね!?」
マジですよこの人!今確かに瞳が真紅に染まりました!
悠之慎「……はぁ。どうしてお前ってヤツはそう……」
彰衛門「マァマァ、イイジャアリマセンカ。
けどさ、ぜんざいで思い出したけど……
高校卒業した今だと文化祭とかが恋しいよね」
悠之慎「あー……そういやお前、二年の頃の文化祭で白玉ぜんざい頼んで断られてたっけ」
彰衛門「よく覚えてるねキミ……」
一度は食べてみたかったから頼んだんですけどね、いやはやほんに悲しかった。
悠之慎「とにかく。お前は冥月の親になるって自分で言ったんだ。
物事を教えるばっかりじゃなくて、甘えさせてやらなきゃダメだろうが」
彰衛門「ぬう……じゃけんど冥月さんも結構な年頃ですよ?甘えさせろと言われましても」
悠之慎「刀の中で過ごした時間なんてこの際、度外視しろよ。
刀が人に甘えられるか?違うだろうが」
彰衛門「いや。ムーバーに憧れたどこぞの小僧のように、
根性幽体離脱を使えばなんとかなったかもしれん」
悠之慎「グングニルとバルムンク、どっちがいい?」
彰衛門「え?」
ハタ、と気づけば、ブワァアア……!!と景色を覆ってゆく黄昏。
しかも拙者の目の前には一本の槍と一本の剣が……!!
彰衛門「ノ、ノゥッ!!ノゥノゥノゥ!!クライスト!
勘弁してください!ボク真面目になる!なるからやめて!?
この物騒な物体消してお願い!!」
悠之慎「消さない。このまま話続けるぞ」
彰衛門「えぇっ!?そげな!ちょっと待ってよねぇ!これ緊張感がハンパじゃねぇよ!?
ゆっくりと額に毒針刺されそうになる状況ってきっとコレと似てるよ!?
じょ、冗談じゃあねぇ〜〜!!とんず───」
悠之慎「逃げたら撃つ」
彰衛門「それでこの私に話とはなにかね?」
悠之慎「いきなり紳士的に応対するなよ……」
彰衛門「どうしろっていうのキミ!!」
悠之慎「お前には中間ってものはないのか!!」
彰衛門「中間!?テストがどうしたというのかね!!」
悠之慎「よし待ってろ、
今からロンギヌスでお前の肉体から弦月彰利の魂を弾き出してやる」
彰衛門「そりゃ殺人って言うんですよ!!」
ちくしょう!横目で睨まれちゃあ動けねぇじゃないですか!
ていうかね!これマジで神経磨り減らされますよ!?
大きな棘付きの天井が降りてくるのを待つしかない状態ってきっとこんな感じぞ!?
彰衛門「そ、そそそそれで話ってなんだっけ!?」
悠之慎「冥月に甘えさせてやれって話だろ。
刀として存在してた時間は度外視しろ、ってところまで話した」
彰衛門「お、おーおーそうでしたそうでした!ウン!ボク冥月さんを愛でるよ!?
もう狂おしいほど甘えさせてやるよ!?だからこれ引っ込めて!?ね!?」
悠之慎「だめだ」
彰衛門「てめえにゃあ情ってモンがねぇのか!!」
悠之慎「そんな『さっさと終わらせようとする』返事で納得出来るわけないだろ」
彰衛門「イヤァ無茶言わんといてぇええーーーーっ!!!
誰か!誰かぁっ!タスケテー!タスケテー!!」
悠之慎「やかましいっ!冥月が起きるだろうが!」
彰衛門「なんだよー!さっきから冥月冥月って!ボクの意思はどうなるの!?
ボクだって冥月さんのことは大事だって思ってるだぞ!?」
悠之慎「だったらそれでいいだろうが」
彰衛門「そうですね」
解決した。
彰衛門「あー……しゃあけど……甘えさせるゆゥンはどないなことしたらええねん……。
自慢やないけどワイ〜……そないな方法知らんねや……」
悠之慎「そんなの俺だって知らん」
彰衛門「キミ……自分が知らんモンを人に任せたんかい……」
悠之慎「あぁ違う違う、俺はお前がどう甘えさせてやるのかが解らんって言ったんだ。
甘えさせるってのは簡単だろ?本人がやりたいことをやらせてやったり、
またはしてほしいことをしてやるんだ」
彰衛門「ム……そこまで解ってるならキミの方が適任じゃない?」
悠之慎「たわけでアホゥ。冥月が甘えたいのは他の誰でもなくお前なんだよ。
それを適任がどうとかで突き放そうとするなよ」
彰衛門「た、たわけでアホゥって……」
なんだかかなりヒドイことを言われた気がします。
まあそれはそれとして。
実際、拙者は冥月のことをぞんざいに扱った覚えなどありませんですじゃ。
ええそうですとも、この拙者が冥月さんを蔑ろにするようなことなど有り得ません!
……多分。
彰衛門「よし!これからは嫌ってくらいに甘やかしてみましょう。
歩く時は背負って、メシの時は好きなものばかりを!
嫌なことがあれば相談にのり、その悉くを解消して───」
悠之慎「あー……悪い、やっぱお前そのままでいい」
彰衛門「なんですかそりゃあ!!キミ俺をナメとんのかね!?」
悠之慎「いつもよりもう少し気にかける程度でいいんだよ。
お前の場合、それこそ相手が逃げ出しても甘やかそうとするだろうから。
なんでもかんでも両極端すぎるんだよお前は」
彰衛門「グ、グウムッ……!!」
見破られてた。
それはそれで、いい刺激になると思ったのに。
メシ食べる時は箸を預かって、食べさせてやろうとまで思ってたのに。
ええ、もちろんからかいの意を込めて。
彰衛門「ま、いいさね。冥月さんが甘えてきた時は全力で迎えてあげるようにしましょう。
娘と呼んだ気持ちに偽りはねぇでゴワスから」
悠之慎「そりゃあなによりだ」
彰衛門「うむうむ。これからは歯磨きの時は膝枕してアタイがやってあげましょうぞ。
上の歯下の歯♪前歯っ♪奥歯っ♪って」
悠之慎「嫌がらせ以外のなにものでもないからやめとけ」
彰衛門「そうですね……」
でも昔、そげなヤツを教育テレビで見た気がします。
昔といっても拙者が子供の頃って意味じゃあありませんよ?
俺が子供の頃っていったらおめぇ……アレだ。
ろくにテレビも見れなかったからねぇ、宗次の所為で。
彰衛門「ヌームム……時を過ぎると、
子供を可愛がってた自分に戻るのはなかなかどうして難しいでござる」
悠之慎「へぇ……お前でもそういうのってあるのか」
彰衛門「そりゃそうですよ。俺ゃあおめぇ、アレだぜ?
今はちゃんと感情が成長していってるんですから。
俺がどげな風な性格になるかなど、現時点でも解らんよ。
そうなれば以前の自分に戻るってのも難しいもんでしょ?」
悠之慎「や……どうしてかお前の場合だけ、難しいって感覚が無さそうに思える」
彰衛門「いきなり差別しますかてめぇ」
悠之慎「差別というより限定だが」
彰衛門「似たようなものじゃん……」
しかし実際、楓巫女を愛でていた頃のような自分はあまり実行出来ない。
やはりアレは……初めての娘候補だったからでしょうか。
本気でめんこくてめんこくて仕方が無かったでござるからなぁ。
……や、もちろん冥月さんもめんこいですよ?
彰衛門「……だったらいろいろ考えることもないか」
悠之慎「んあ?なにがだ?」
彰衛門「んーん?なんでもねぇよ?ボカァ少し悟ったのです。ただそれだけ」
悠之慎「……?」
そうじゃよ、構える必要などなかったのです。
人を恋人とかとして愛することを放棄した俺なのだから、
せめて娘とは自然にぶつかり合いたいものです。
それってホラ、最強じゃないですか。
彰衛門「おっほっほ、冥月はめんこいのぅぉ〜〜〜!!」
感極まった拙者は、胸で眠る冥月さんを少し抱き上げてから抱きしめ直し、
溢れる父性愛とともに頬擦りというか顎擦りをした。
彰衛門「タワッシワッシワッシワッシワッシワッシ……」
ゴリゴリゴリゴリ……
冥月 「ん……んぐぅ……う……?」
彰衛門「ワッシワッシワッシワッシワッシワッシワッシ……」
ゴリリゴリゴリゴリリリリ……
冥月 「ん───んぁっ!?やっ、ちょ……なにやってるんですか彰衛門さん!」
彰衛門「タワ?」
冥月 「タワ?じゃなくて!」
なんと、冥月さんが起きてしまった。
折角タワッシやってたのに……。
◆タワッシ
相手の頭を掴んで、その頭にヒゲが生えた顎をゴリゴリと擦る技。
何であったのかはもう忘れたが、昔の漫画であったのは間違いなかった筈。
……バカボンだったっけなぁ?
とにかく少し生えたヒゲが『たわし』の役割を果たすわけです。
誰かに嫌がらせとして使用する時は、
『タワッシワッシワッシワッシ』という掛け声を忘れずに。
ちなみに『たわし』というのは『田圃』に飛んだ『和紙』が稲に当たり、
サクッという音を鳴らしたことに語源がある。(訳解らん上にデマ)
*神冥書房刊『ハンバーガーを食う時は【ハン・ガバーッ!】と食うこと』より
彰衛門「というわけでね?じいやは冥月を愛でたいあまりにタワッシをしてしまったのだ」
冥月 「全然嬉しくありませんよそれ……」
擦りすぎたからだろうか、冥月が痛そうに頭のタワッシポイントをさする。
冥月 「それで……愛でるってなんのことですか?」
彰衛門「む?いや、普通ひとつの意味合いしか受け取れんと思うのですが……。
よいかね冥月や。キミはじいやに、甘えたい時に甘えなされ。
全力を以って応えてあげましょう」
冥月 「………」
彰衛門「……おろ?なにかコメントは?」
冥月 「べつにいいです」
彰衛門「なんと!?何故かね!!」
まさかの拒絶!家政婦は見た!?
冥月 「わたし、甘えるのは本当に時々にするって決めましたから。
甘えすぎて弱くなっちゃうのは嫌です」
彰衛門「な、なんとまあ……」
し、信じられん……!
冥月さんは……冥月さんは俺が思っていたよりもずっと、強かおなごじゃったぁ……!
悠之慎「それでいいのか?この間みたいに爆発するまで溜めることはないんだぞ?」
冥月 「平気ですよ。寂しさには慣れてるつもりです」
悠之慎「けどな……」
冥月 「本当に、平気ですから。ただ……」
彰衛門「ただ?」
俯きがちに漏れた冥月の言葉。
それを続く言葉を聞き逃さないためにも、拙者は冥月を抱きしめた。
冥月 「……もう……置いていかないで……」
悠之慎「───……」
彰衛門「あー……」
冥月さんはその言葉を発した途端、小さく震えて泣いてしまわれた。
なんてことでしょう……寂しいのには慣れていても、
ただ『置いていかれる』という状況に恐怖していたとは。
冥月さんは拙者の黒衣をきつくきつく掴んだ。
自分が泣いている内に拙者が何処かに行ってしまわないようにと……そげなところだ。
『置いていかないでください』ではなく、『置いていかないで』と呟いた冥月さん。
それは刀の楔としての冥月さんではなく、
ひとりの子供としての冥月さんの我が儘にも似た言葉でした。
彰衛門「…………まいったね、ほんと」
不覚にも我が心になまら暖かいものが走りました。
そのなまら暖かいものに流されるままに、拙者は冥月さんの頭を静かに撫でた。
彰衛門「解りましたじゃ……我らは孤独な貴様ひとりを残して逝かん……」
悠之慎「それは意味が違うだろ」
彰衛門「感動の場面にツッコミ入れんでつかぁさい……」
悠之慎「台無しにしたのはお前だと思うが」
そうでしょうか。
彰衛門「とにかく、キミをひとりには絶対しませんよ。
我らがおらん時は必ず隣に誰か居るように手配をいたそう」
悠之慎「どうしてかなぁ……お前のその言い回しって物凄く有り難味が無いんだが」
彰衛門「なんで!?すげぇあるじゃん!!」
悠之慎「ンー……あぁアレだ、今のお前の言い方。仕事が忙しいからって、
子供の面倒をベビーシッターに任せるヤツみたいな言い回しだ」
彰衛門「うーわー、中途半端に長ったらしい喩えのくせになにやら屈辱。
でもしょうがなかろうもん?四六時中一緒ってわけにもいかないでしょう。
キミはなにかね?風呂に入る時まで一緒に居ろって言うのかね」
悠之慎「あのなぁ……どうして真っ先に想定するものが風呂なんだよお前は……。
そんなこったからロリコンだの変態オカマホモコンだの言われるんだよ」
彰衛門「今言われるまで変態オカマホモコンのことなんか忘れてましたよあたしゃあ!!」
ていうかね!もう本気で変態オカマホモコンとか呼ばれる必要ないと思うんですよ!?
勘弁してよ水穂ちゃん!オイラの人生、もしかしてずっとこのあだ名に付き纏われるの!?
悠之慎「……っと、静かに」
彰衛門「何故かね!……っと、ぬおお」
首を動かしてみれば瞼を閉じてる冥月さん。
冥月さんたらまたオイラの胸の中で眠ってしまったがよ……。
彰衛門「……動けなくなってしまいました」
悠之慎「さすがのお前も、二度も子供を起こすのは気が引けるんだな」
彰衛門「なんだと!?そんなことないぞ!
ぼくになら出来るのだ!それはぼくに対する挑戦だな高松くん!」
悠之慎を指差した状態で、腕ごとぐるぐると回す。
そうした後に冥月さんに手をかけて───
悠之慎「なっ───馬鹿やめろ……!無理に起こすことないだろ……!」
彰衛門「馬鹿とはなんだコノヤロウ!!」
悠之慎「静かにしろって……!!」
彰衛門「む……」
そうでした。
確かに悠之慎の言う通り、寝入ったお子を何度も起こすのは気が引ける。
……しっかし安心しきった顔で寝おってからに。
もしこれで目が覚めた時、周りに俺と悠之慎が居なかったらどうなるんでしょうかね。
彰衛門「そこんとこどう思います?」
悠之慎「……なんとなく予想はつくけどな。ハッキリ言ってやめておけ」
彰衛門「じゃーじょーぶじゃって。泣くようだったら思い切り抱きしめてあげるから。
理由はそうじゃのぅ……厠に行ってたってことにすれば文句は言えまい」
悠之慎「腐ってんなぁ〜……お前」
彰衛門「腐ってるって……」
親友に真顔で腐ってるとか言わんでくれません……?
ともあれ、決行は確定しました。(俺の中で)
うっふっふ、明日の朝が楽しみじゃて……。
───……。
翌日の朝。
冥月の目が覚めた時には既に俺と悠之慎の姿は無く、
本気で置いていかれたと思った彼女は目の端に涙を溜めながら町の中を駆け回ります。
その様は家族で遠出をした時に親とはぐれた子供のようでした。
思わず常備用彰利カメラでカシュンカシュンと撮ってしまうほどに可愛かったのです。
しかしその音がいけなかったのでしょう。
今思えば効果音からして『しまった見つかった!』とか叫びたくなるような音でしたし。
あっさり見つかった拙者はどうしようかと思案に暮れます。
しかし涙目の幼子にいきなり『ふ〜、なかなかしぶといビッグであった』とか言うのは、
さすがに危険というか人としてヤバイです。
ですから拙者はまず、彼女の涙をぬぐってやろうと思ったのです。
涙がこぼれそうになるのに耐えながら駆けてくる少女を見て、
拙者の中に再びなまら暖かいものが走りました。
そのためかどうかは解りません。
拙者はそげな冥月さんに応えるかのように片膝を大地に着けて両手を広げました。
そう、彼女はきっとぼくに甘えたかったのでしょう。
だからぼくは叫びました。
彰衛門「飛び込んでこ〜〜い!」
そしたらいきなりシャイニングウィザードです。
立てた片膝を踏み台にして見事に俺の顔面に膝をキメてくれた冥月さんに、
拙者はこれでもかっていうくらいにボコボコにされたのです。
『うそつきぃいーーっ!!』とか『馬鹿ぁあああーーっ!!』とか、
とにかく思いつく限りの罵倒を叫ばれたと思います。
しかも罵倒の度に『刀』で強化された月操力をいろいろと放たれたんです。
ありゃ正直、死神モード入ってなけりゃ死んでました……いやマジで。
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