───FantasticFantasia-Set02/いきなり限界ブッチギリバトル───
【ケース03:晦悠介/まだ動けずにいたらしい丸顔糸目の麦茶ハゲ】
さくさくさくさく……草原を歩く音が二つ。
俺と彰利はスタート地点からやり直すハメとなり、リヴァイアに失笑をくらった。
彰利 「なんかすっげぇ馬鹿馬鹿しいデビュー……」
悠介 「仕方ないだろ、道訊こうにも民達みんなが殺気立っててそれどころじゃなかった」
彰利 「そうだけどさ〜」
結局レファルド皇国から出られなかった俺達は、
彰利の月空力で転移してリヴァイアの工房からやり直した。
そしたらなぁ……リヴァイアがいきなり笑い出すんだもんなぁ。
『仮にもこれからドラゴンと戦おうってヤツが地理に負けてどうする』って。
言い返せなかったのがしこたま悲しかった。
彰利 「まあなにはともあれ外には出れたわけだし。
とにかくモンスターだ、モンスターを探そう」
悠介 「そだな。まずは戦いに慣れないと───お」
言ってる傍からモンスターを発見……デカイ蜂のモンスターだ。
彰利 「ア、アレ、モンスター?」
悠介 「どっからどう見てもそうだろ」
彰利 「よ、よし!デヴュー!」
悠介 「デヴ?」
彰利 「デブじゃありませんよ失礼な!!
よっしゃあ見てろ!華麗に倒してやる!口出しは無用だぜ〜〜〜〜!!」
悠介 「ああ、そりゃいいが……」
彰利 「チョエェエーーーッ!!!」
彰利が奇声を上げながら疾駆する。
やがて蜂が飛んでいる場所に辿り着くと、その羽をムンズと掴んで───
彰利 「カーーーフブランディングーーーッ!!!」
ドゴチャアッ!!!
キラービー「ピギィイイッ!!!」
……よりにもよってテリーマンのフェイバリッドホールドで仕留めた。
しかも手ェ上げて『アーイムナンバーワーン!!』とか叫んでるし……アホゥ。
彰利 「悠介悠介!オイラやったよ!見てた!?」
悠介 「はぁ……“戦闘開始”は?」
彰利 「あ……ゲゲギャアァアアーーーーーーーーッ!!!!!」
こうして彼のデビュー戦は、経験値も戦利品も貰えない状況で幕を閉じたのであった……。
叫び方が相当だ、悲しかったらしい。
彰利 「なんで言ってくれなかったのだ!!よくもぼくのデビュー戦を台無しに!!
どうしてくれるんだい!なぜ、黙ってるんだっ!!」
悠介 「お前が口出し無用って言ったんだろうが」
彰利 「なんだって!そ、それじゃ、悠介知っててわざと教えなかったんだね!?」
悠介 「お前が口出し無用って言ったんだろうが!!」
彰利 「あっ!!や、やる気か!!」
悠介 「いつまでも漂流教室やってないで次の戦いのこと考えればいいだろうが……」
彰利 「それもそうだね」
悠介 「かぁ……っ」
ああくそ頭痛ぇ……。
こういう性格が役立つ時ってのは確かにあるんだが、こう何度もやられると疲れる。
彰利 「よ、よし!次こそは俺、華々しく散ってやる!」
悠介 「死んでるだろうがそれ」
彰利 「や、やかましい!!」
悠介 「あーはいはい、次だな次、さっさと───あ」
彰利 「ウィ?どうしたのかね?」
彰利が首を傾げるその後ろ。
少し離れた景色から飛翔してくる物体に気づいた。
悠介 「よかったなぁ彰利。まだデビュー戦は終わってなかったみたいだ」
彰利 「へ?なにそれ」
ザクシュッ!!
彰利 「オギャワァアーーーーーッ!!!!」
キラービーの攻撃!彰利の頭に噛み付いた!!
彰利 「あいでででで!!い、生きてたのキミ!!」
悠介 「ホレ、早く言っとけ」
彰利 「お、おう!───この世には、悪の栄えたためしなし。
教えてやろう……あ、正義の心でぇっ!!」
悠介 「誰が『キャッ盗忍伝てやんでぃ』の前口上を言えなんて言った!!
“戦闘開始()”だよ“戦闘開始()”!!」
彰利 「キミよく知ってたね!拍手くれてやりましょう!!」
悠介 「拍手はいいからとっととしろ!血ィ出てるぞ血ィ!!」
彰利 「へ?あ、ギャア!!“戦闘開始()”!!」
彰利が戦闘開始を唱える。
次に頭からキラービーを毟り取ると、地面に投げ捨ててシャイニングブレード。
ザフィンッ!!
彰利 「……通った」
キラービー「ピギーーーッ!!」
バシュンッ……───月操力の剣で切られたキラービーは、今度こそ塵と化した。
そうだよな、倒したって確認よりもまず、『塵』になったかどうかを調べるべきだった。
タラララスッタンタ〜ン♪
彰利 「ギャアなに!?なんなのこの音!!敵襲!?」
悠介 「落ち着け。それはランクが上がった音だ」
彰利 「ランク?ああそういやぁ貰ったプレートに文字が上書きされてってるね。
……なんて読むの?これ」
彰利がカード……というかプレートを見せてくる。
そこには───
悠介 「あー……“蜂退治の勇者()”だな」
彰利 「ありゃ?空界文字読めんの?」
悠介 「みさおが持ってた空界の辞書を借りて頭に叩き込んだ。
もっとも知ってるのは読み方とかくらいで、
それがどういうものなのかとかは知らん」
彰利 「几帳面なのか大雑把なのか解らんね」
悠介 「ほっとけ」
彰利 「じゃけんどランクが上がったってことは確かなわけだし……いいねこれ!
こういう力が認められるのって、なんていうかすっげぇ嬉しいよ俺!!」
悠介 「………」
そうかもしれない。
俺も彰利の今の気持ちがよく解る。
子供の頃から異端視され、そんな状況の中で生きてきた俺達月の家系の子供は、
ここに来てようやく誰かに認められることが出来た。
別に誰に認められたかったわけでもない。
そう願ってたわけでもなかったのに、それが認められるようになると途端に嬉しくなる。
でも……俺達は地界に産まれたことを嘆いたりはしないだろう。
辛くもあったし悲しくもあったけど、
あの世界で出会った様々な人達との絆を後悔なんかにするつもりはない。
地界で育った過程があるからこそ、今の俺達がここに居るのだから。
彰利 「……ん、頑張ろう」
悠介 「そうだな」
彰利はただ独り言で言ったんだろう。
けど、俺はそれに合わせるように口を開いた。
考えていたことは多分同じ。
だからこそ、なんでもない独り言に言葉を合わせることが出来たんだと思う。
彰利 「じゃ、いろんな敵と戦って経験を積みますかぁ」
悠介 「だな。俺もそうしよう」
ハッキリ言ってもうバカデカいモンスターは勘弁だ。
……だってのに。
彰利 「……む!?キミ確かドラゴンさえも倒したとかぬかしておらんかったかね!?
そげな輩に今さらザコの経験なんぞ必要なのかね!」
何も知らん彰利はそんなことを問い詰めてきやがった。
悟ってくれ友よ、俺ゃもう普通のサイズの敵と戦いたいんだ。
悠介 「必要だ……物凄く必要だぞ……。
そりゃ確かに小さな敵とも戦ったけどさ……
それだって一瞬で殲滅したから経験なんかにならなかったし、
それ以外は全部バカデカいモンスターとばっかりだったんだよ……」
彰利 「デカいモンスターって?」
悠介 「ミル・ミノタウロスから始まって、
シュバルドラインってドラゴンにグリフォン。
次にフェンリルにガーゴイルとミル・ガーゴイル。
正直な、俺普通のモンスターと戦いたい」
彰利 「なるほど……戦った大半がボスクラスのヤツだったってわけね……」
悠介 「この世界絶対俺のこと嫌いなんだよ……。
ディルゼイルもどうしてか俺にデカいモンスターと戦わせたがるし……」
リザードマンと戦ってた時は楽しかったなぁ。
今だからこそ思う。人型の敵って貴重だ。
悠介 「普通サイズの敵との戦いは面白い……っていうか戦い応えがある。
巨大なヤツとの戦いは……なんていうのかな、誇りに思えるものがある。
どっちもいいものだけど、……あー……なんて言えばいいんかな」
彰利 「悠介?」
悠介 「すまん、喩えられる言葉が見つからん。
いろいろ辛いけど、嬉しいのは俺も同じだ。
力が認められるってのは本当に嬉しい。
嬉しいんだが……いい加減、普通サイズのヤツとじっくり戦いたい。解るだろ?」
彰利 「押忍!さっぱり解りません!」
悠介 「なんだと親友この野郎……」
彰利 「ままま、だって俺っちまだデカいモンスターと戦ってないんだぜ?
これで頷いたらおめぇ……アレだ、それこそウソってもんだぜ?」
む……そりゃそうだが。
悠介 「とりあえずその『だぜ』ってのは無理に使わんでよろしい」
彰利 「出鼻挫かれましたねちくしょい……」
悠介 「どんな出鼻だよ……っと、よし。
だったら離れた場所に行くか。いい相手が居る」
彰利 「誰()?」
悠介 「ミノタウロス」
彰利 「いきなりそれかよ!!なに考えてんのキミ!!」
悠介 「いや、俺もリザードマンの次がミル・ミノタウロスだったから。
きっとお前も俺の気持ちが解るぞ。うん解る」
彰利 「あ、あの……無難にゴブリンとかでいきません?
なんだったらオイラもリザードマンと戦ってから……」
悠介 「すまん、リザードマンは見つけるのが難しいんだ」
彰利 「だ、だったらオークとか……」
悠介 「すまん、オークも見つけるのは難しいんだ」
彰利 「ミノタウロスより見つけにくいザコ敵ってなによ!!」
悠介 「仕方ないだろ、地図に存在するくらいにミノタウロスは有名なんだから」
地図を広げてみれば、
そこにはしっかりと『ミノタウロスの縄張り』と書かれた部分がある。
その横には……小さいが、『ベヒーモス出現の可能性あり。要注意』と書かれていた。
悠介 「ベヒーモスねぇ……」
彰利 「なんと!?この世界ってばベヒーモスまでおるのかね!?」
悠介 「みたいだな。こりゃ驚きだ……」
彰利 「あ、じゃあさじゃあさ、ディルに乗って上から見るだけでもしません!?
俺ちょほいと見てみたいよ!!」
興奮気味の彰利がぴょんぴょこ跳ねながら俺の腕を引っ張る。
どこぞの小娘かよお前は……。
なんて思った俺だったが、見てみたいっていう好奇心には勝てやしなかった。
悠介 「よし、行ってみるか。ディル、頼む」
黄竜珠をココンと突付く。
途端、珠から出現する紫色の飛竜───ディルゼイル。
ディル『……ようやく空界か。やはりここの空気は落ち着くな、王よ』
悠介 「それは同意見だな。モンスターばっかりなのに空気が綺麗だ」
彰利 「そらそうでしょ、ここって余計な建物とかないもの」
見渡す限りの草原と、遠くに見える山々。
それ以外といったら真っ青な空と真っ白な雲。
見ているだけでも心が安らぎ、空気だけとってもどれだけ心に染みるものか。
どれも、地界には無いようなものだ。
彰利 「で、行かんの?」
悠介 「行くよ。ディル、ミノタウロスの縄張り付近まで頼めるか?」
ディル『承知』
放たれた『承知』って言葉に身構えた俺は、けれど観念してディルの背に乗った。
彰利はその後ろに乗り、やがてディルが翼を上から下へ勢いよく下ろす。
ブワァッ、と風が巻き起こり、
俺と彰利を乗せた大きなワイバーンはあっさりと空へと舞った。
そのスピードたるや……相変わらず肌が痛いくらいの速度だった。
彰利 「ウワァ〜、速い速い〜!いけ〜、マッスルドラゴ〜ン!」
ズパァンッッ!!!!
彰利 「うべっ!!」
ディルゼイルの尾撃が彰利を襲った。
彰利 「おががががが……!!く、首が折れた……!!」
悠介 「首折れてるのに平然と話し掛けてこないでくれ……」
彰利 「フフフ、俺ゃ死神だ。首が折れた程度では死なん」
そらよかった。
彰利 「あ、そうそう。ところで訊きたかったことがあるんじゃけんど。
悠介さぁ、空界の文字のこと覚えたんだよな。
だったらさっき、どうして復興都市ユウ───」
悠介 「レブロウドだ」
彰利 「レ、レブロウドの名前、どうしてリヴァイアに聞いたん?」
小さな疑問を彰利がぶつけてきた。
確かにおかしく思っても当然かもしれない。
悠介 「俺が見た時は、都市の名前が変わっていってるところだったんだ。
最初はそれがその都市の名前なのかと思ってたんだけどな、
変化中だったから読めなかった。で、リヴァイアに訊いたはいいが……」
彰利 「訊いた途端に文字の変化が終わって絶叫、と」
悠介 「そんなとこだ」
自分の目を疑ったっていうのが最大の原因なわけだが。
ディル 『王……王よ』
悠介 「あ───なんだ?ディル」
ディル 『もう着いたのだが?』
悠介&彰利『うぅわ速ッッ!!!』
見れば、下方に見える景色には俺達を見上げるミノタウロスども。
うーわー、ありがたみがねぇ。
彰利 「えーと……どう降りる?」
悠介 「降りるまでもないと思うぞ?」
彰利 「へ?なんで」
悠介 「彰利の後ろがその理由」
彰利 「む?後ろ───って!!」
ゴォッ───ォオオオゥウ……!!
彰利 「オギャーーーッ!!!」
そこには凄まじい跳躍で、空に居る俺達の場所まで跳んできたミノさんが居た。
俺はそれを創造した槍の石突きで弾き落とした。
……といっても、ミノタウロスはそれを武器で弾いたために落ちたのだ。
悠介 「よし行け彰利!戦闘開始!」
彰利 「お、おおおおう!!“戦闘開始()”!!」
悠介 「じゃあ落ちろ。俺が行くと逃げると思うから俺は行かん」
彰利 「鬼かキサマ!一緒に来てよ!
俺だけで勝てるわけねぇじゃん!」
悠介 「大丈夫!お前なら一刀両断だ!」
彰利 「それって俺が両断されるって意味でしょ絶対!!
いや違う!?違うよね!?違うって言って!!」
悠介 「………」
彰利 「どうしてそこで目ェ逸らすのキミ!!ちょっと俺の目見ろ!!」
騒ぐ彰利を余所に、俺は地上を見下ろした。
ミノタウロスがうろうろしていてかなりの絶景だが……
悠介 「───うん?」
ミノタウロスの誰もが、とある草原を境界線にするかのように避けていた。
その先には───
悠介 「───!!、はッ……」
思わず息を飲んだ。
それから跳び上がってこようとするミノタウロスを
ブラストで落としまくってる彰利を引っ張る。
彰利 「ややっ!?なにをなさる!」
悠介 「ばかっ!あっち見ろあっち!!」
彰利 「馬鹿とはなんだコノヤロウ!!」
悠介 「ンなことたどうでもいい!!あそこ見ろって言ってんだよ!」
彰利 「あ〜〜〜───はっ……!!」
彰利も体を震わせた。
視線の先───つまり、草原の境界線の先に存在するバカデカい存在を見ての驚愕。
その場には……地図に書かれていた通りのモンスター、ベヒーモスが存在していたのだ。
彰利 「……!?」
悠介 「……!!」
彰利 「───!?……!!……!!」
声の出ない状態で問答を繰り返す。
訳してみれば、
彰利『あ、あれがベヒーモス!?』
悠介『あ、ああ……間違い無い……!!よし行け彰利!!』
彰利『うわマジかてめぇ!!無茶だろアレ!勝てねぇって!!』
……となる。
まいった……ほんとに果ての見えない世界だ。
どうなるかは解らないけど、パッと見ての意見を出せっていうなら『戦いたくない』。
ディル『戦うのか?ヤツは強いぞ』
悠介 「戦わんっ!無茶言うな!」
彰利 「お、恐ろしいっ……!ああジョジョ……私は今恐れて───あら?」
悠介 「───どした?」
ふと、彰利が不可思議なものを見たといった声をあげた。
その視線を辿ってみると……眠っているベヒーモスが居るだけだ。
彰利 「なぁ悠介?ベヘモスの傍、なにかおらんかね?」
悠介 「なにか……?悪いディル、もうちょっと近づいてみてくれ」
ディル『心得た』
バサァッ!!
ディルゼイルが飛翼をはためかせ、ベヒーモスへと近づいてゆく。
それにより、俺達───というより彰利を狙っていたミノタウロスは、
下方の景色で立ち止まった。
悠介 「どこらへんだ?」
彰利 「ホレ、ベヘモスさんの傍の……ああ、あそこだ。なんかおるでしょ?」
悠介 「ン───」
鎌を体に埋め込み、体を死神化させる。
その視力でベヒーモスの傍らを見た。
すると……ああ、確かに何か居る……しかもあの姿には見覚えがある。
そして俺は、そいつを見た途端になんとなく合点がいった。
あの中に一人だけ存在しなかった物体───ジークン。
あいつはきっとソレだ。
ジークン「誰かぁあ〜〜〜〜……助けてぇええ〜〜〜〜……」
死神の聴力を以って聞こえる声はそんな情けない声だった。
丸顔にマジックで横線を二本書いたような目から、とめどなく涙が溢れてる。
どうやら何かの偶然でベヒーモスの傍に行ってしまい、
足が震えて動けなくなっているらしい。
いつからその場に居るのかは解らないが、相当悲しそうだった。
悠介 「どうする?」
彰利 「やー、なんつーか泣き顔が情けなくて面白いから、
あのままでいいんじゃないか?」
ジークン「なんだと貴様!聞こえたぞこのボケ!ちょっと降りて来いボケ!」
悠介 「………」
彰利 「………」
かなりの地獄耳らしかった。
悠介 「今からお前を助けるから、そこ動くなよ!」
ジークン「ヒ、ヒイ!あまり騒ぐんじゃねぇボケ!起きたら死ぬだろうがこのボケ!!」
悠介 「ボケボケ言うなたわけが!!」
ジークン「な、なんだとてめぇ!!ちょっと降りてこいコラボケ!!
高みの見物しててさぞ満足かボケ!こちとら怖くてしかたねぇんザマスよ!!」
悠介 「くぁああっ!!助かる気あるのかてめぇ!!」
ジークン「助ける気あるのかボケ!!あるなら降りて来いボケ!!
助けて!助けてぇええーーーっ!!!」
悠介 「…………」
前略晦神社の皆様……あいつの性格、物凄く誰かさんに似ていて頭が痛いです。
もう嫌です俺……これ以上頭痛のタネが増えるのは嫌です……。
彰利 「して、どうするん?」
悠介 「あそこまで大号泣して助け求められたら助けないわけにはいかないだろ……」
彰利 「そか。んじゃあハゲー、今から助けっから待っときんさーい」
ジークン「誰がハゲぞッッ!?」
声 『グルルルル……』
ジークン「……アレ?」
聞こえた声に、ジークンがゆっくりと後ろを振り向く。
俺達は上空から見てたから当然、その状況を既に把握してるわけだが……
ベヒーモス「ルオォオオオオオオッ!!!!!」
ジークン 「ギョォオオオオオーーーーーーーーッ!!!!!」
ジークン絶叫。
そりゃなあ、傍であそこまで大きな声出されたら起きもするだろ。
ジークン「ギョーーッ!!ギョォオオーーーッ!!ギョォォオオオッ!!!」
ジークンは既にいっぱいいっぱいだ。
ベヒーモスと俺達を交互に見まくりながらガタガタと震えまくって涙を流しまくって、
やがてそれが無駄な行為だと悟ると、
俺達を見上げながら両手を上げてブンブン振りまくった。
彰利はそれにやさしく手を振り返し、微笑んだ。
ジークン「ギョォオオオオーーーーーーーーッ!!!!!」
そういう意味じゃない、と叫びたかったんだろうが……既に悲鳴しか出ないようだった。
さすがに不憫に感じた俺はすぐに黄昏を創造。
もしもの時のためのものだ。
悠介 「彰利、異翔転移頼む!」
彰利 「え?助けんの?オイラなんかあいつとはソリが合わなそうなんだけど」
悠介 「いいからっ!」
彰利 「まったくもう……では───異翔転移!!」
ビジュンッ───フィキンッ!!
彰利が月空力を発動さえてジークンをここに転移させた。
ジークン「ギョーーッ!!ギョッ……ギョ?」
彰利 「ギョじゃねぇって……」
彰利に呆れられる存在がそこに居た。
すげぇ、こりゃ珍しいぞ。
ディル 『───ぬぅ!』
ベヒーモス「ルゥウウォオオオオオンッ!!!」
彰利 「ギャーーッ!!耳痛ェエーーーーーッ!!!!」
悠介 「うわやべっ───来るぞ彰利!“戦闘開始()”!!」
彰利 「えぇっ!?やるの!?ああもうどうとでもなれ!“戦闘開始()”!!」
ベヒーモスが跳躍する。
その速さと高さたるや、ミノタウロスなど比ではない。
素早くそれを察知したディルゼイルが避けてくれなけりゃ、そのまま体当たりされていた。
悠介 「全力で行くぞ!逃げられそうな隙があったら全力逃走だ!」
彰利 「ええっ!?逃げるのか戦うのかどっちよ!」
悠介 「どっちもだ!!それから彰利!この黄昏は『あの』黄昏と同じだ!
多少の無茶は出来るからそれこそ全力で抗え!!」
彰利 「『あの黄昏』って───あ、ああ!」
合点がいったという表情の彰利。───だったが、その顔が一瞬にして驚愕に変わった。
すぐさまに振り向くと、
一度地面に落ちたベヒーモスが今度は俺達と同じ高さのところまでの跳躍をして、
角に淡い紫の雷撃のようなものを溜めているじゃないか。
完璧に不意打ちだった───いや、
戦闘開始を唱えておきながら話に気を取られるなんていう俺が愚かだったのだ。
悠介 「くそっ───!」
威力くらい解る。
ロンギヌスでもゲイボルグでも抗えない。
抗えるとしたらグングニル───けど、そのイメージをこの瞬時に出すのは不可能───
彰利 「悠介!イメージ続行しとけ!少しくらいなら押さえられる!」
悠介 「彰利───よし!『信頼』したからな!!」
彰利 「任せとけ!!」
刹那、グングニルのイメージ展開を始める。
黄昏をより濃くし、目を真紅に変えてなお深淵へ。
悠介 「我は誘う。神の名、死神の名、果てに見える主の御名を」
ベヒーモス「ォオオオオオオオッ!!!!!」
雷撃が放たれる。
それは、俺達どころがワイバーンであるディルゼイルでさえ
黒コゲにしても足りないくらいの熱量に違いない。
それを───
彰利 「───I am the bone of my sword(!!“熾天覆う七つの円環”()!!」
フィィイイーーン───キュバァアンッ!!!!
瞬時に出した巨大な七枚の花びらの盾で防ぐ彰利が居た。
それはいつだったか、彰利の精神の中で彰利がやってみせた何かの真似だった。
……そう。
この黄昏が『あの黄昏と同じ』と言ったのはそこにある。
この黄昏は『俺達』の黄昏と『月永と朋燐』の黄昏が融合したものだ。
かつて、月永と朋燐と戦った時のように、この黄昏の中でのみ彰利にも創造が可能になる。
悠介 「剣は全てを切り裂き、槍はその剣さえも折り砕く。
故にその槍は全てを破壊し、抗える者を世には創世すまい───」
彰利 「いぎぎぐぐぐ……!!は、早くしてくれ……!長くは保たねぇ……!!」
ああ、解ってる。
超越せよ───我が身とこの意思は既に既存にあらず。
越せぬ壁など我が身に在らず、我が意思こそが無限の自由───!!
悠介 「砕け。抗う風をも捻り穿ち、汝は全てを切り裂く神槍たれ!!
我が名は晦悠介!神の槍よ!その総力を我が前に示せ!!!!
超越せよ汝───“神槍、是総てを無限と穿つ()”!!!」
轟音が響いた。
文字の連なりが大気を震わせる極光なる槍を放ち、
既に一枚となった花びらの盾の横から一気に飛び出した。
彰利 「ぐはあっ!はっ、はぁ……!!」
途端に彰利がディルゼイルの背に倒れ、焼き焦げた手の回復にかかった。
盾を使ってあの有様だ、あの雷撃は相当の威力なのだろう。
やっぱり隙があるなら逃げるべきだ……今回ばっかりは相手が悪すぎる。
……何故なら。
雷撃を弾いてみせたグングニルの直撃を喰らってなお、
ベヒーモスはてんで怯んでいないのだ。
フェンリルの時のような相性の問題じゃない……
こいつは普通にグングニルの直撃に耐えてやがる。
彰利 「くはっ……ま、マジか……!?あんな極光、俺くらったら塵も残らんぞ……!?」
悠介 「彰利!鎌使っていけ!全力でも足りない!」
彰利 「わ、解ってる!来た途端に死んでたまるかよ!!“無形なる黒闇()”!!」
表情が完全に真剣になっている彰利が“無形なる黒闇()”を発動させる。
黄昏の景色に闇の空間が溢れ、そこから幾つもの鎌が出現する。
彰利 「“無制限なり我が漆黒の刃()”!!ベヒーモスの規格外の耐久力を切り殺せ!」
それは以前のようなやり方ではなかった。
彰利は幾つもの鎌を一つに融合し、それを構えた。
そのカタチ、漆黒の色の鎌は───“運命破壊せし漆黒の鎌()”。
刹那に鎌が閃き、黒き光がベヒーモスを照らした瞬間───ギジィイイインッ!!!!
ベヒーモス「グォオオオオオンッ!!!?」
ベヒーモスの胸辺りを穿つに至らず、
その巨体を浮かせたままにしていた極光がベヒーモスの皮膚を突き破った!!
が───それだけだ。
全てを穿つには至れず、破壊した運命はまた元に戻り───
目の色を紫から金色に変えたベヒーモスは、極光を……バガァッ!!ジュバァアンッ!!!
悠介 「───……!!!」
彰利 「かっ……───あ……!?」
極光を……噛み砕きやがった()。
拍子、ベヒーモスは浮力を無くして地面に降りていった。
彰利 「く、くっそ……!
憧れと期待なんかでこの世界に来たバチが当たったのか……!?」
あの彰利の声に絶望と驚愕が含まれる。
そんなもの、俺だって言った言葉だった。
彰利 「鎌の力を圧縮したデスティニーブレイカーでも、
一瞬だけしか運命の破壊が出来なかった……!なんなんだよあいつ……!」
彰利もここに来て、初めて理解したんだろう。
この世界は理屈じゃあ唱えきれない。
いくら自分が強いつもりでも、上なんてものは腐るほど居る。
全力を出したところで勝てない相手が腐るほど居る。
彰利 「まいったな……!みさおも連れてくればよかったかも……!」
それは『冥月刀』のことを言っているんだろう。
力を増幅すれば、少しは抗えたかもしれないと。
だがその考えをすぐに捨てるように頭を振ると、彰利は顔をバンバンと叩いた。
彰利 「アホかっ!あいつは道具じゃねぇ!!俺の───俺の大事な娘だ!!」
キッとベヒーモスを見下ろすその顔は、
既にこの世界に来たばかりのおどけた顔なんかじゃなかった。
彰利 「でもそれとこれとは別だ、こりゃ勝てん。逃げよう」
悠介 「………」
前言撤回。
やっぱ彰利は彰利だわ。
ディル『退くか?私は構わんが』
悠介 「まだだ。まだ最全力じゃない」
彰利 「なにっ!?マジかてめぇ!ここまで来て出し惜しみか!?」
悠介 「やかましい!お前だってまだ完全に全力じゃねぇだろうが!」
彰利 「グ、グムーーーーッ!!!!」
図星か……そりゃそうだ。
まだこいつはデスティニーブレイカーしか使ってない。
悠介 「こうなりゃヤケだ!潰しにかかるぞ!」
彰利 「オッケェーーーイ!!やっぱそうこなくちゃな!!」
悠介 「逃げようって言ってたのは誰だよ!!」
彰利 「キミとボクとで半分こ!」
悠介 「やかましい!!充満せし魔力の下、我が前に現れよ!
契約は完了せり!出でよ───グリフォン!フェンリルッ!!」」
ジュパァンッ!!
体の中にリヴァイアの魔力を送り、グリフォンとフェンリルを呼び起こす。
それを確認すると二体に全力ブッコロ指令を伝え、俺もまたイメージの解放を開始した。
彰利 「しょ、召喚獣ってキミ……」
悠介 「ホウケるのは後にしろ!死にたくないだろうが!」
彰利 「当たり前じゃあ!!“無形なる黒闇()───モード闇殺しの斬命鎌()”!!」
唱えとともに、力を圧縮された漆黒の鎌が真闇の鎌へと変化する。
振るえば地面を両断できるくらいの威力のダークイーターの圧縮。
それは大抵のものを切り殺せるものだろう。
まして、今のベヒーモスには胸の傷がある。
そこを狙えば可能性はゼロじゃない。
ベヒーモス「ゴォオオオオッ!!!!」
地上ではグリフォンとフェンリルがベヒーモスと戦っている。
魔力の泉の中での全力の二体だ、そうそう負けてはいない。
俺はそれを見下ろしながらもさらにイメージを磐石たるものへと変えてゆく。
彰利 「すまんグリフォン!背中借りるぞ!」
そんな中、彰利はグリフォンの背に飛び移るとダークイーターを構えた。
グリフォンもそれを受け入れ、ベヒーモスの攻撃を避けながら攻撃を続ける。
彰利 「我が一閃、岩をも貫()す」
ビジュンッ!!バガッ───ジュガガガガァアアアアアアンッ!!!!
ベヒーモス「グォオオオオオゥウウッ!!!!」
ベヒーモスが胸を見せた刹那に振るった圧縮ダークイーターが、その傷口を広げる。
だが切り刻むには至らない───防御力が半端じゃない証拠だ。
それに一番驚いたのは持ち主である彰利だった。
見るからに驚愕の色が伺える。
悠介 「馬鹿っ!ホウケるな!!」
彰利 「ッ───!!」
一声が気付けになったのか、彰利が肩を跳ねらせてから構えた。
散々エドガーに言われた言葉は確かに正しい。
『一撃で倒せると思う者に次の機会など要らない』。
ならば一撃よりも連撃。
連撃よりも弾幕。
しかし威力を殺すことなく、最高の威力を以って連撃とする。
───超越しろ、既定など作るな。
既定などは壁でしかない。邪魔なものでしかない。
しかしそれが壁だからなんだというのか。
それが壁だというのなら越えてゆけばいいのだ。
彰利 「“滅亡を謳う死神王の深緋鎌()”!!」
彰利の鎌が再び色とカタチを変える。
凶々しい緋に、視覚のみで滅亡をイメージさせるそれはまさに死神の鎌。
彰利はそれを振るい、一閃させる。
彰利 「意は対象滅殺!消えて無くなれベヒーモス───!!!」
空気さえ裂き殺したそれがベヒーモスの胸を裂く。
だが───またもや絶命には至らない。
彰利 「くは……信じられねぇ……!!お、おいそこのハゲ!お前もなんかやれ!!」
悠介 「諦めろ!恐怖で気絶してる!!」
彰利 「ぐああああ役に立たん!!」
悠介 「起きてたところで棒人間じゃ底が知れてる!!それより前!」
彰利 「へっ!?あ、うわぁああああっ!!!!」
彰利の口から確かな恐怖が漏れた。
彼の目の前には大口を開けたベヒーモス。
その口に、直視したくないくらいの高圧縮の紫色の光が輝いているのだ。
グリフォンがどの方向に逃げたところで、顔だけ動かしてそれを追う。
フェンリルはベヒーモスの尾で締め上げられ、暴れもがいていた。
……冗談じゃない!なんだあのバケモンみたいな強さは!!
彰利 「くそっ!逃げらんねぇ!!
I am the bone of my sword(───“熾天覆う七つの円環”()!!」
キュバァンッ───と、鋭い音とともに再びその場に七枚の花びらの盾が創造された。
だが解ってる筈だ。
あの紫の光は先ほどの雷撃の比じゃない。
あんな盾は、それこそ三秒と保たないに違いない。
それが解らないあいつじゃ───……!?
彰利が今、俺の方を見て頷いた───ってそうか!!
ベヒーモス「ルォオオオオオゥウゥゥッ!!!!」
ガゴォッ───
やがて放たれる紫色の極光。
当たればそれこそ、塵も灰も魂も残らないと確信出来るものだ。
彰利はそれが放たれる刹那に転移し、ベヒーモスの顎の下へと出現。
俺はブラックホールでグリフォンを転移させ、
その場に残された七枚の盾のみが紫の極光を受ける。
ようするにあれはただの目眩ましで、彰利の狙いは───
彰利 「最大出力だ!!受け取れえぇえええええええっ!!!!!」
バガッ───バァッゴォオオーーーーーーンッッ!!!!
ベヒーモス「グォオオオオオゥウッ!!?」
自分の力の一切を込めた鎌による、顎への強烈な一撃。
開かれた口から放たれていた光が、瞬時に閉じられた口で一気に爆発を起こす。
ベヒーモスの口部分からは血が飛び散り、だがそれでも死になど至らない───!
彰利は力を使い果たしたのか、重力に誘われるように落下してゆく。
俺はそれをブラックホールで転移させ、休ませた。
悠介 「すまないグリフォン……もう一度行ってくれ」
グリフォン『了解した、王よ』
グリフォンが空を飛翔する。
先ほどの衝撃で尾から逃れられたフェンリルも一緒だ。
悠介 「彰利……おい彰利!!」
この黄昏には既に、前にこの空界に来た時に死法力と神法力、
月操力を回復させる力が同化されてる。
回復しない筈がないんだが───
悠介 「───いくぞディル。全力だ」
ディル『承知───!!』
ブワァッ!!
ディルが旋回し、フェンリルとグリフォンと戦っているベヒーモス目掛けて急速飛行する。
それに気づいたベヒーモスが俺に向かって疾駆しようとするが───
悠介 「フェンリル!!」
フェンリル『解っている王よ!』
フェンリルが白銀の息を吐き、ベヒーモスの足と大地を繋げるように氷付けにする。
ベヒーモス「ルググゥッ!!?ガァアアアッ!!!!」
ビキッ───バッシャァアンッ!!!
だがそれも数瞬。
あっという間に氷結を砕いたベヒーモスは、俺目掛けて疾駆する。
が───その目にグリフォンの羽が突き刺さる!
ベヒーモス「グォオァアアアアアッ!!!!」
不意打ちだったのだろう、ベヒーモスは突然塞がれた視界に再び数瞬怯んだ。
───だが。俺にとってはその数瞬さえあれば十分だった。
ベヒーモスを見上げられる場所まで急降下し、その巨大な体目掛けて───!!
悠介 「イメージ解放!“無限を紡ぐ剣槍の瞬き()”!!」
『言』を連ねた刹那、俺の周りの虚空に幾つもの光の武具が出現する。
溜めたイメージを相当数に分けて解放するなんて芸当、無茶の極みだが───
無茶をしなければ勝てない……いや、傷さえつけられない相手なら、
それこそ出し惜しみなんてしてられない!!
悠介 「───いぃっけぇええええーーーーーーーっ!!!!!」
ガガォンッ!!ガォガォンッッ!!!
最後に弾かせたイメージとともに、光の武具───槍と剣が閃速にて飛翔する。
四肢で立つベヒーモスの胸から顔面にかけての一線を裂き、穿ち、刺し、貫き、
だがそれでもイメージの展開をやめない。
飛翔する武具を『分析』してその数を一気に複製し、さらに放ってゆく。
だが───そこまでしてもなお、目の前の巨体が塵になることはない。
悠介 「───……!!」
体が震えた。
恐怖……そう、恐怖だ。
これだけのダメージを負いながら、それでも生きている生命に……俺は確かに恐怖した。
弱っている筈なんだ。
生き物だ、死なない筈は無い。
だってのに……どうして───!!
ディル『飲まれるな!王!!』
悠介 「───っ!」
一喝が入った。
足元から響くその声は、確かに俺を支えてくれた。
───迷うな。
迷えば迷うほど、イメージが弱くなる……!
だったら───もう覚悟を決めちまえ!!
生きるだの死ぬだのと……生死を賭けた戦いの中でなにをぐだぐだと考えてやがる!!
生きるだの死ぬだの、そんなことは『生死を賭けた時点』で忘れちまえ!!
この世界に居る存在がこれほどのものだってことくらい想像がついた筈だ!
だったら───だったらこの世界に来た時点で、生死なんて賭けてなけりゃならないんだ!
悠介 「───イメージ、超越にて解放」
超越じゃ足りない。
もっと、さらに越えろ。
総てを越え───そして───
悠介 「言───“凌駕する月蝕()”」
凌駕しろ、超越を。
エクリプス───『月蝕』と『凌駕』の意を持つその血の名の下に。
悠介 「既存、複製、超越の総てを我が手に“凌駕する”!!“架空・雷迅槍()”!!」
虚空から放たれていた剣槍の全てが一つの槍となった。
雷を帯びたその槍に『原型』のイメージなどなく。
ただ破壊のみを望まれた形こそが、この槍の存在理由。
ベヒーモス「ルォオオオオオオオゥウッ!!!!」
大気を震わせる咆哮。
思わず誰もが耳を庇いたくなるような音だった。
だが俺は真っ直ぐにベヒーモスだけを見据え、一気に槍を投擲した───!!
キィ───バジュゥウウウンッ!!!
槍は俺の手から離れた刹那に轟音を掻き鳴らし、ベヒーモスへと向かってゆく。
狙うは第一の傷である胸の傷。
閃速を越えるであろう速度で胸の傷に突き刺さった槍は、しかし未だ穿つに至らない。
なんてバケモノ……!あまりの強大さに眩暈がしてくる───!!
ベヒーモス「ルルルルゥウウ……!!!」
悠介 「───!!」
ベヒーモスは再び、グングニルをそうしたように極光の槍を噛み砕かんと動いた。
しかし───ゾバァンッ!!
ベヒーモス「ルガァッ!?ガゴォオオオッ!!!」
悠介 「っ……!?」
瞬時にその場に現れた影によって、黄金の目が横薙ぎの一閃にて潰された。
その影とは───
彰利 「ヘヘッ……油断大敵ぃっ!!」
───彰利だ。
いつの間に目覚めていたのか、彰利がダークイーターでベヒーモスの目を切り裂いていた。
そんなことが起きれば当然、動物としての本能が潰れた目の方へ力の配分を促す。
彰利 「今だ悠介!!やっちまえぇえええーーーーーーっ!!!!」
悠介 「貫けぇええええーーーーーーーーッ!!!!!」
当然その隙を逃すほど馬鹿じゃない。
体の強張りが消えたのはほんの数瞬。
だがその数瞬さえあれば、イメージを爆発させるなんてことは容易かった。
コァッ───ゾバァアォオオオオンッッ!!!!!
ベヒーモス「グォオオオオゥゥッ!!!?」
胸を捻り穿ち、体内を雷撃で壊し、さらには背中を突き破る雷神の槍。
だが───
彰利 「よっしゃあぁっ!!」
悠介 「馬鹿っ!!油断するなっ!!」
彰利 「へ───?」
ベヒーモス「ゥウウウ……ルゥォオォオオッ!!!」
ガカァッ!!バガガガァォオオオーーーーンンッッ!!!!
空気さえも爆発させて消し殺すほどの極光が放たれた。
その先には彰利。
彰利はすぐに盾を創造したが、それは一秒も耐え切れずに消滅し───
彰利 「う、あ……うあぁああああああああっ!!!!」
悠介 「彰利ぃいいいいっ!!!」
彰利は、その光に飲まれて消え去った……!
悠介 「───っ……!!てめぇええええええっ!!!!!」
頭の中で撃鉄が落ちる。
ベヒーモスの背中を破り空へと飛翔したヴィジャヤにイメージを繋げ、
それを───シュバルドラインの時のようにベヒーモスの頭へと落とした!!
ゾバァッ───バァッガァアアアアアアアアアアンッ!!!!
ベヒーモス「グガァアッ!!!」
空より舞い降りる雷光の一撃。
頭を貫かれ、完全に破壊されたベヒーモスは……その場で塵と化して消えた。
悠介 「───……っ……!!」
それを確認するとフェンリルとグリフォンは俺の中に戻り、やがて黄昏も消える。
だが───……何処を見渡しても、彰利の姿は……!!
悠介 「くそっ……くそぉっ!!」
ディル『……王よ。何を悔やむ』
悠介 「なにを……?何をだって!?そんなもの、親友を失ったことに決まって───」
ディル『その親友とやらならば、私の尾の上に居るが』
悠介 「───へっ!?」
自分でも感心するくらいの速度でディルゼイルの尾を見た。
すると……下半身を完全に消されてはいるが、瀕死の状態で生きている彰利が。
悠介 「あっ……あき……ははっ!彰利ぃっ!!」
俺は喜びのあまりにそこが空だということさえ忘れて彰利に駆け寄った。
下半身が無く、上半身男になってはいるが……ああ、生きてる……確かに生きてる……!
悠介 「よかった……!俺、俺……お前が死んじまったもんかと……!」
彰利 「グッ……か、感動のところ悪いが……ぶっ……
か、下半身……創造してくれないかね…………マジで……死にそう……ヴ……」
悠介 「あ、ああっ、悪い!───分析開始───彰利の下半身が、生えるように出ます」
彰利 「ゲベッ!?」
『彰利』を分析して、その身体構造を把握。
下半身の在り方をイメージから弾き出し、それを創造した。
するとどうだろう、彰利の足りない部分が上半身からゾロゾロと生えてくるじゃないか。
彰利 「ウギャア気持ち悪ィイーーーーッ!!!!」
彰利は大層暴れたが、すぐに黒衣とともに元通りになった。
彰利 「……か、はぁああ……!!いや、まいった……瞬間的に転移したはいいけど、
あいつの波動砲、次元の歪みまで破壊してきやがった……。
お蔭で下半身が……はは、マジで死ぬかと思った……」
悠介 「ああ……はは、俺もだ……」
彰利の手を引いて、尾から背中へと移る。
その途端、腰が抜けたみたいにヘタリこんでしまった。
悠介 「はぁ……ったく、結局最後の最後まで気絶しやがって……」
ジークンの頭を小突く。
しかしまったく反応がなかった……まあ棒人間だから死んではいないと思うが───
タラララスッタンタ〜ン♪
悠介 「うあ……」
彰利 「……緊張感のカケラもねぇなコレ……」
悠介 「やっぱそう思うよな……」
珍しく同意見。
それでもプレートを見てみれば、『“天地を切り裂く勇者()”』の文字が。
天地を切り裂く……ってのはようするに───
空……ドラゴンと、地……ベヒーモスを倒した証ってことか?
彰利 「あ、俺のプレートの文字変わってるみたいじゃよ。なんて書いてある?」
悠介 「ああ、えーと……ブレイバーランクは『“変則武装の勇者()”』だな。
ランクネームは『死からの生還者』だ」
彰利 「うあ……なんすかそりゃ……」
ディル『特殊ランクだ。モンスターを倒す際、
その過程でどれだけ戦いに貢献したかで決まるものは多々ある。
その中でも特殊ランクというものがあって、
貢献したが自分は倒せなかった、という時に稀に手に入るランクだ』
彰利 「そ、そうなん?稀ってことは喜んでいいってことよね?」
ディル『ああ。ある意味ではありがたいランクだぞ。
どれだけ強くとも、そのランクならばたとえスライムでも襲ってくる』
悠介 「お……そりゃいいな」
彰利 「いいの?それって……」
彰利は複雑な顔をしている。
だがな、彰利よ。
戦いたいヤツに逃げられまくれば、そのランクがどれだけありがたいかがよく解るぞ。
彰利 「まあいいや……悠介のはなんだったん?」
悠介 「俺のはブレイバーランクが“天地を切り裂く勇者()”。
ランクネームが『ドラゴンビーストキラー』……だな」
彰利 「……カッチョエエなぁ……俺なんて死からの生還者だぞ……?
多分あそこでベヘモスの波動砲受けてなけりゃあもっとマシだったと思う……」
悠介 「そう言うなよ。俺はお前が生きててくれただけで嬉しいよ」
彰利 「……う、うむう……普段なら喜びハシャイでるような言葉だが、
なんだか複雑でござる……あ、でも複雑ではあるけど、
今回のバトルでよ〜〜っく解ったことがあるよ?」
悠介 「予想はつくけど───なんだ?」
訊き返すと、彰利はコホリと咳払いをして言った。
彰利 「俺……戦うなら普通サイズのモンスターと戦いたい……」
悠介 「………」
俺はただ黙って彰利の肩をポンポンと叩いた。
───ここに。親友であり同志であるブレイバーが誕生した……。
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