───FantasticFantasia-Set15/馬鹿者どもが夢のあと(DBDエディション)───
【ケース34:リヴァイア=ゼロ=フォルグリム】
工房内虚空が歪む瞬間、わたしはその場にあったものをどかした。
直後、その場に転移してくる影はふたつ───悠介と……?
リヴァ「なんだこれは……ああいや、ここに転移されてきたということは、
こんな格好をしてはいるが検察官ということか」
───転移してきたふたりは呼吸こそするものの、
意識はまったくと言っていいほど無かった。
やられた……精神干渉だ。
リヴァ「くそっ……あの暇人め、なんだってこんな面倒なことを……!」
悠介と検察官の意識が精神の奥の方へ引っ込んでしまっている。
魔導回路を強引にこじ開けられている状態───このままだと魔導ハッカーのいいカモだ。
リヴァ「チッ……仕方ない……!」
舌打ちをし、工房を地界に繋げる。
さらに次元干渉を行使して虚空に歪みを作ると、
過去の───悠介たちからしてみれば現代へと飛んだ。
───過去へと辿り着くと、悠介と検察官を式で軽くした状態で運ぶ。
場所は晦神社の境内。
そこから母屋へ向けて走った。
手遅れになる前になんとかしなければいけない。
こいつらが完全に精神の中に埋没してしまう前に───!!
ドガシャァアンッ!!
リヴァ「邪魔するぞっ!!家に居るヤツは今すぐ集まれ!悠介と検察官が危ない!!」
玄関を蹴破り、手近な部屋に入るとふたりを寝かせた。
すぐに虚空に歪みを作ると必要な魔具を引きずり出して準備する。
そうする間に死神から始まる数人がこの場に駆けつけた。
ルナ 「ちょっと!悠介が危ないってどういう───」
リヴァ「騒ぐな!騒げばそれだけ作業が遅れる!
植物人間にしたくなければ指示通りにしろ!!」
ルナ 「───……わ、解ったわ。どうすればいい?」
未来に居た彼女からは考えられないくらい、
ルナ=フラットゼファーは真剣な目でわたしを見た。
わたしはそれに頷くと、魔具を設置してこの場に居る数人を見渡す。
データからするとこの場に居るのは───
ルナ=フラットゼファー、晦春菜、篠瀬夜華、
弦月聖、簾翁みさお、ゼノ=グランスルェイヴ、日余粉雪の七名だ。
リヴァ「今からお前らに悠介と検察官の精神の中に入ってもらう。
その中で囚われている悠介と検察官を救うのが目的だ」
春菜 「いったいなにがあってこんなことに……?」
リヴァ「説明してやってもいい。けど、その分精神が埋没するだけだ。それでも聞くか?」
春菜 「……いい。精神に入るにはどうすればいいの?」
リヴァ「簡単だ。そこらへんに寝転がってくれ、あとはわたしが飛ばす。
ただし入れるのはひとりにつき三人まで。
悠介の精神に入る三人と、検察官の精神に入る三人を選んでくれ」
粉雪 「精神って……はぁ。手紙見に来ただけなのにどうしてこんなことに……」
夜華 「わたしは彰衛門の精神に行く。初めてじゃないからどうにかなるだろう」
春菜 「わたしもアッくんの精神の中かな。日余さんは?」
粉雪 「……解った、行くよ」
聖 「わ、わたしも……」
リヴァ「聖、お前は悠介と検察官の精神を落ち着かせるために残ってもらう。
精神っていうのは不安定なものだ。
そこに三つも他の精神が入るんだ、落ち着かせる役が必要だ。
お前はそういう事柄が得意だったな?」
聖 「…………はい」
頷く聖が、寂しげに検察官を見下ろしながらわたしの隣へ来る。
リヴァ「それじゃあ決まりだ。あとの三人───
ルナ=フラットゼファー、ゼノ=グランスルェイヴ、簾翁みさおは、
悠介の精神に入ってくれ」
みさお「えぇっ!?わ、わたしも彰衛門さんの精神がいいんですけど……」
リヴァ「却下だ。再度選んでいる時間なんてない。さっさとその場に寝転がってくれ」
ルナ 「待ってて悠介……絶対に助けてあげるから……!」
ゼノ 「精神か。珍妙だが、また一興か」
みさお「……あの。一興なんて言ってられるの、絶対に今の内ですよ……?」
ゼノ 「ぬ……?」
リヴァ「各々目を閉じてくれ。すぐに飛ばす。
いいか、何が出てこようと自分で対処しようなんて考えるな。
最速、最善の方法で悠介と検察官を解放することだけを考えろ。
それさえ出来ればすぐに済む。
それだけ早くふたりを救えるんだ。余計なことは考えるな」
ルナ 「解ってるから早くっ!時間無いんでしょ!?」
リヴァ「───では、始めるぞ。魔導、解放───」
自分の中の魔導を解放し、その場に居る全員の精神を引き上げる。
それらを悠介、検察官のそれぞれの精神へと送り、ひとまずは息を吐いた。
あとは───
リヴァ「精神の干渉を防ぐために魔導ハッカーの方をなんとかしないとな……。
くそっ、またランスの手を借りることになるのか……」
何度目かの舌打ちをして、わたしは虚空を歪ませてランスに送話を送った。
【ケース35:晦春菜/彰利サイド-暗い世界】
ふと気づくと、わたしは見覚えのある場所に立っていた。
見覚えのある……そう、嫌な思い出しかないその場所に立っている。
目の前では血塗れの子供が泣いていて、その周りにあるのは人の肉、肉、肉───
春菜 「……アッくん……」
泣いている子供にかける言葉なんてなかった。
今さらわたしが何を言えるというのだろう。
───過去は過去だ。
今必要なのはアッくんの過去の慰めることなんかじゃなくて、
アッくんの精神を解放すること。
だからわたしは歯を喰いしばって駆け出した。
情なんかに流されちゃいけない。
でも……正直に言えば、いきなりこんなものを見せないでほしかった。
……情けない。
胸の中が罪悪感でいっぱいになって、走りながら嗚咽に苦しむ自分が居た。
結局わたしは立ち止まって、子供のアッくんに向き直っていた。
───けれどその場に居るのはもうアッくんじゃなくて。
血と肉の海から這い上がるように起き上がる───かつての月の家系の大人たちだった。
春菜 「ッ……あなたたちみたいな大人が居たからアッくんが───!!」
激昂。
今までずっと文句が言いたかった。
どうして殺そうだなんて思ったのか。
弦月の子が暴走しやすい体質だったのなら、
それを押さえてでも生かしてあげればよかったのに。
それを最初から諦めていたこの人達こそ裁かれるべきだったのに───!!
どうして、どうしてアッくんだけが泣かなければいけなかったんだ!!
春菜 「許さないから……!急ぎたいけど……それよりもわたしは、
あなたたちをアッくんの中から消し去りたい!」
血塗れの肉が襲い掛かってくる。
既に人じゃないソレはわたしに棒や刀を振り降ろしてくる。
わたしはそれを避けると同時に月醒力を発動させ、その悉くを滅ぼしていった。
───罪悪感なんてものはなかった。
だって……消しても消しても、血と肉の海からは次々と肉が這い上がってくる。
こんなものは人間なんかじゃないって、完全に頭が理解しちゃったから。
だから……全然罪悪感なんてものは出なかった。
【ケース36:篠瀬夜華/彰利サイド-無空】
風も吹かない景色に立っていた。
場所は廃墟であり、しかし見覚えのある場所ではあった。
そう、ここは検察官の家だろう。
ただし崩れ、見る影も無い。
それ以外になにがあるわけでもなく、人も居なければ暖かみもない場所。
わたしはそれを一瞥してから駆け出し───
夜華 「くあっ!?」
すぐさまに立ち止まった。
足元の先が急に海に変わったからだ。
夜華 「相変わらず変則的に世界が変わる場所だ……好ましくない」
クンッと鍔を持ち上げ、刀を一閃させる。
すると海の景色が引き裂かれ、その場が草原へと化す。
よくは解らないが、精神世界とは精神と精神との戦いなのだそうだ。
だから集中して掻き消そうと思えば掻き消すことも出来るらしい。
夜華 「急がなければいけなかったな。待っていろ、彰衛門───」
刀を鞘に収めてから走った。
何処に行けばいいかなんて解らないが、この精神の中ではとにかく深淵を探す以外ない。
彰衛門の精神には悠介殿と散々潜ったとはいえ、
やはりいつまで経っても訳の解らない場所だ。
現に───
彰利1『彰利!』
彰利2『彰利の!!』
彰利 『モルゲンムジーク!!』
夜華 「───……」
こうして目の前の景色が急に変わって、
彰衛門の偽者が出てくるなんてしょっちゅうだ。
急いでいたわたしは問答無用で刀を閃かせ、彰衛門の偽者を追い払った。
彰衛門は『キャインキャイン』と叫びながらわたしと距離を取り、何かを叫んだ。
するとどうだろう、いたるところから彰衛門が現れ、
その場はあっという間に彰衛門の姿で埋め尽くされた。
夜華 「っ……邪魔をするな!貴様を救いに来たんだ、通せ!!」
彰利1『おや?そんなことを言っていいのかね?』
彰利2『我らは弦月彰利の精神体だよ?貴様の知らんことを知りまくってる』
彰利3『本体が誰のことを好きなのか、気にならん?』
夜華 「なっ……わ、わたしは───」
彰利4『ゆっくりしちぇけ!いいこと教えちゃるけん!』
彰利5『というわけで!第九十九回お料理バトル!アーレッキュイジィーーヌッ!!
今日の相手は───ご存知、微食倶楽部の海原雄山だぁっ!!』
夜華 「また貴様か!いい!わたしは行く!離せ!!」
彰利6『あやつに勝ったら、本体が誰を好きなのか教えてあげるのに?』
夜華 「───……」
彰利7『想い続けるのって辛くない?しかも相手はクズ野郎だ。
いい加減決着つけたくないかい?』
夜華 「……わたしは……」
彰利8『そのまま行くならどうぞ、止めはしないよ?
ただし……本体は永久にハッキリしないぞ。
あいつは本気で自分の気持ちに気づいてない。
ただひたすら女との交流を拒絶している。
知り合い仲でいられるならそれでいいってくらいだ』
彰利9『いい加減さぁ、あんなクズを想うのはやめたら?
あいつはね、逃げてるだけなんだよ。ほんとは怖くて仕方が無い。
女と一緒に居るのを極端に恐れてる』
彰利1『それがなんだ、せっかく一線を踏み切らせてやろうと思ったら抵抗しやがる』
夜華 「───以前の女に見境がなくなった彰衛門は貴様らの仕業か」
彰利2『凄んだって無駄無駄。夜華さん、押し倒された時に期待してたっしょ。
わたしを選んでくれるのか〜って』
夜華 「ふざけるなっ!わたしは───」
彰利3『わたしは?彰衛門のことなどどうでもいい?だったらどうして先に進まない。
どうして精神の世界に来た。どうでもいいならほうっておけばよかったのに』
夜華 「黙れ……黙れ黙れ黙れぇええっ!!!」
刀を振り切る。
一閃は彰衛門の悉くを切り裂き、その場に道を開いた。
わたしは無我夢中で駆け出し、背後から聞こえ続ける声から逃げるように走った。
【ケース37:日余粉雪/彰利サイド-アホウ】
マキュリィ〜〜〜ン♪
彰利 『ハートに届け、プラクティス♪』
マゴシャアッ!!
彰利 『ヘジョンッ!!』
横を走る彰利を殴りつけた。
困ったことにさっきからこの調子だ。
再現無く起き上がる彰利にずぅ〜〜〜っと尾行られてる。
彰利 『何処行くの粉雪。ね、ね』
粉雪 「あなたには関係ないっ」
もう解ってる。
この彰利は本当の彰利じゃない。
だから相手をしている時間なんてない。
ないのに───
彰利 『粉雪』
粉雪 「なによっ!あ───」
突然、足が空を掻いた。
地面が近づいた時に初めて倒れたと気づいて、わたしはその場に転がった。
すぐに立とうとするけど、それを彰利が押さえる。
粉雪 「ちょっ……なにを」
彰利 『粉雪……オイラとひとつになりたくなぁい?心も体もひとつになりたい?
それはとても気持ちのいいことなのよ?』
粉雪 「……冗談。これで本当にハッキリした。
彰利はね、考えは滅茶苦茶だけど女の人にそんなこと言ったりしない。
人に課せられた『責任』っていうものの重さを知ってる人だから。
だから……結婚もしてない人とひとつになりたいなんて言ったりしない───!」
彰利 『気が変わった。だってオイラたち恋人じゃん。拒む必要ないっしょ』
粉雪 「はぁ……消えてくれる?彰利の格好でそんなこと言われると、心底腹立つわ」
彰利 『なに言ってんの、俺は弦月彰利の精神体だ。
あいつの考えてることの一部でもあるし、
現に俺はあいつの深淵に根付く思考のひとつだ』
粉雪 「そんな筈ない。彰利は───」
彰利 『ひとつ訊くけどさ、粉雪。お前って俺の何を知ってんの?』
粉雪 「え……?」
なに、って……
彰利 『幼馴染……ああ、それは間違いないな。けどそれだけ。
記憶を見せたからってそれが全てだと思ったら大間違いだ。
本体はね、いつだって苦しんでるんだ。お前らの所為だぜ?
弦月宗次の血を嫌ってたあいつは意外に強い意志で
女に手を出そうとする自分を殺していた。
生まれてくるたびに何度だって殺した。
それが千年近くだぞ?さすがに狂うかと思った』
粉雪 「狂う、って……じゃあ」
彰利 『そう。ようこそ深淵へ。俺が深淵の───まあ、番人だな』
クックッと笑う彰利。
その先には確かに磔にされた彰利が居て、ピクリとも動かない。
粉雪 「彰利っ!」
彰利 『おっと、ラスボスも倒さないで目的を達成するなんて卑怯だろ。
忌々しいものだけどな、弦月宗次の血は確かに理性を狂わせる。
目の前のお前を無理矢理食いたくなってくるよ』
粉雪 「言ったでしょ……!?その顔でそんなこと言わないでくれない!?」
彰利 『それは困ったな。これでも俺は弦月彰利の一部だ。この顔が嫌なら───』
ニタリと笑った彰利の顔が音を立てて変貌する。
それは───彰利が一番嫌っていた人物のものだった。
宗次 『こうすれば……いいのかな?』
粉雪 「ッ……!!」
弦月宗次。
彰利と彰利の母親……浄子さんを役立たずと断じて、浄子さんを殺した人物。
女にだらしなくて、そのくせプライドは高いつもりだった正真正銘のクズだ。
宗次 『さて───』
粉雪 「っ!?さ、触らないで!!」
伸びてきた手を払う。
けど、払うために振るった手が掴まれて、わたしはまた押し倒された。
宗次 『なにを暴れる。好いていた男とひとつになれるんだぞ?』
粉雪 「そんなの、冗談じゃない……!!わたしが好きなのは彰利だけだもん!
あなたみたいなクズじゃない!!」
宗次 『クズ……クズか。ははははははははっ!!最高だ、加減をする気が失せた。
どれ、今すぐ俺のものにしてやる。せいぜいもがけ』
粉雪 「っ───!?やめっ……」
ザクシュッ。
宗次 『ぐあぁああああああっ!!!?』
粉雪 「えっ……?」
夜華 「なにをやっている貴様……!!」
血塗れの篠瀬さんが立っていた。
振るわれた刀は紅蓮に染まり、それが返り血なのだと理解すると体が震えた。
宗次 『貴様ッ……!?邪魔を───』
春菜 「はいはい、邪魔してるのはあなたでしょ?」
粉雪 「春菜先輩……」
その横に現れたのは春菜先輩。
彼女も既に血塗れだ……いったいどうなっているんだろう。
宗次 『ふ……ふひひひひひ!!女……女だ!貴様ら全員、俺のものに───』
夜華 「寄るな痴れ者」
ズパァアンッ!!
宗次 『げひゃっ───!?』
男の首が飛ぶ。
回転し、草原にドスという音を立てて。
春菜先輩が『大丈夫?』と言いながら手を差し伸べる。
わたしはわけが解らないままにそれを掴んで───ズプンッ!!
粉雪 「えっ……!?」
体を沈められた。
地面はまるで最初から泥沼だったかのように崩れ、
わたしは沈みゆく体に困惑しながら春菜先輩を見た───けど、
その場に居たふたりの顔は弦月宗次と弦月浄子のものだった。
粉雪 「なっ……なんで!?」
浄子 『カワイイカワイイ粉雪ちゃん……わたしたちと一緒に死んで……?
刺された場所が痛いの……一緒に苦しんで……』
宗次 『死ね……シネシネ死ね……俺以外のやつらはみんな死ねばいい……』
粉雪 「そんなっ……だって……」
目の前の人は殺された筈だ。
首が弧を描いて、草原に落ちて───
粉雪 「……!?」
疑問に動かされるままに、反射的に首が落ちた場所を見た。
けど、そこにあるのは───
粉雪 「いっ……いやぁあああああああっ!!!!」
……無残に斬られた、彰利の首だった。
わたしは目の前の血塗れの存在の手を振り払って泥沼から出ようとした。
けど、そうすればそうするほどわたしの体は沈んでゆく。
そうして恐怖が高まってゆく中、わたしの近くで爆発が起きた。
粉雪 「え……?」
怖くて閉じていた目を開くと、
さっきまでその場に居た筈の弦月宗次と弦月浄子が消滅していた。
泥沼も元の草原へと変わり、
最初から沈んでなんかいなかったかのようにその場に座っているわたしの体。
粉雪 「なんで……」
疑問が浮かぶ。
けど───その疑問は簡単に砕けた。
粉雪 「彰利っ!」
磔にされていた彰利が微かだけど動いたように見えた。
そう感じた途端にわたしは起き上がり、彰利が磔にされている場所まで駆けた。
粉雪 「彰利……」
彰利 「あいやー……ここ何処?」
粉雪 「彰利……だよね?本物の」
彰利 「すまん、実は俺はフェイカーだったんだ。だからこの縄ほどいてたもれ?」
粉雪 「メイドが好き?」
彰利 「メイド違う。メイドさん言う」
粉雪 「よかった、本物だ……」
彰利 「…………あの。俺ってその程度の存在?」
そんなことはどうでもいい。
彰利がわたしを助けてくれた……それだけでひどく嬉しい。
彰利 「あー……よぅ解らん。確かベリーさんに手ェ向けられて、
少し眠くなった途端に転移させられて……そっからの記憶が皆無です。
ところでここどこ?なんつーか見覚えがあるようなないような」
粉雪 「ここ、彰利の精神の中らしいけど」
彰利 「へー、ってそうなん!?
つーことはさっきの宗次も?ムカツクからブッコロがしたけど」
粉雪 「浄子さんまで爆発してたみたいだけど?」
彰利 「いーのいーの、どうせ俺にゃあ家族なんぞおらん。
理解に至ったとしても、必ずしもそれが和解に至るとは限らんのです。
つーわけでこれほどいて?」
粉雪 「………」
彰利 「あの……粉雪サン?」
粉雪 「ね、彰利。わたしと春菜先輩と篠瀬さん、誰が好き?」
彰利 「誰も?そこんところはハッキリさせたつもりだったけど」
粉雪 「本当に?わたしのことなんとも思ってなかったのに恋人になったの?」
彰利 「む、そうなるね。あたしゃ逃げも隠れもせんよ。
そうなっちまったのは俺の責任だ、申し訳ないとは思ってる」
粉雪 「本当に……本当になんとも思ってないの?」
彰利 「幼馴染……だな、うん。第一さ、俺……『好き』って気持ちが解らんのだってば。
そんな俺に誰が好きなのかを判断しろってのがそもそも無茶だ」
粉雪 「………」
そう、なんだろうか。
いや、これは逆にチャンスなのかもしれない。
ここは彰利の精神で、彰利ももう目覚めたし───彰利は救えたと思っていい筈だ。
だったらここで……
粉雪 「解った。じゃあ彰利の『好き』って気持ち、探そう?」
彰利 「今……なんと……?」
粉雪 「ここ、彰利の精神でしょ?だったら『好き』って気持ちがどこかにあるよ。
だからそれを探しに行こう?」
彰利 「なんとまあ……マジすか」
粉雪 「マジ。じゃあ縄ほどくよ?」
シュルリと縄をほどく。
思ったより軽く結んであった……彰利なら力を込めれば千切れたんじゃないだろうか。
彰利 「いやほら、囚われのヒロインの気分って味わってみたいじゃん?」
粉雪 「心読んでないで行こ?何処にあるかなんて知らないけど」
彰利 「うわはははは、
実はワシは囚われのヒロインとみせかけてチュー魔人だったんじゃ〜!!」
粉雪 「あっそ。じゃ、行こ?」
彰利 「……そうですね」
悲しそうな声を出す彰利と一緒に歩きだす。
───と、その場に駆けつけるふたつの影があった。
夜華 「彰衛門!?」
春菜 「アッくん!───あ、ついでに日余さん」
粉雪 「ついでって……」
喧嘩売られてるんだろうか。
夜華 「貴様、本物か?」
春菜 「散々偽者に捕まったからね……わたしもう疲れたよ……」
粉雪 「じゃあもう帰っててください。
わたしと彰利はこの世界で彰利の『好き』って気持ちを探しますから」
夜華 「待て、わたしも同行する。その彰衛門が本物だとは限らないだろう」
粉雪 「そんなこと言って、
ただ誰よりも先に彰利の『好き』って気持ちを手に入れたいだけじゃないですか」
夜華 「なっ……ち、違う!わたしは警戒するに越したことは無いと言ってるんだ!」
春菜 「ああ、このどもりよう……本物の篠瀬さんだね。日余さんは本物?」
粉雪 「そんなのわたしの方こそ訊きたいですよ。さっき騙されたばっかりです」
彰利 「こらこら喧嘩はいけないよハニーたち、ボクのために争わないでおくれ?
大体偽者がどうとか疑ってばっかりで───恥ずかしくないのかい!?」
粉雪 「………」
春菜 「とりあえず……」
夜華 「貴様にだけは……」
粉雪 「言われたくないなぁ……」
彰利 「へ?あ、あれ?なんでみんな拳握ってオイラに近づいてくるのかなぁ。
オイラ正論言ったよね?怒られることなにも言ってないよね?
え?散々偽者として登場した俺が何を言っても無駄?や!ちょ、ちょっと待って!
なにそれなんのこと!?オイラ知らんよ!?暴力ヨクナイ!!
殴るダメネ!!ノー殴る!!ノーッ!!ノぎゃあああああああっ!!!!」
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