───FantasticFantasia-Set??/記されていない歴史の夢───
【ケース??:───/───】
───かつて、この世界には聖魔戦争というものがあった。
伝承に曰く、亜人対人間対モンスター対竜族。
四種の全てが互いを認めず、その戦いは空界を滅ぼしかねないところまで発展した。
幾多もの人が死に、幾多もの人を殺し、幾多もの殺戮と死が重ねられた。
しかし罪悪を感じる者など皆無。
殺さねば殺されると信じて疑わぬその戦いは常軌を逸していた。
産まれたばかりの赤子でさえ殺し、モンスターにいたってはソレを食事にさえしていた。
当然そこに罪悪感などないのだ。
殺せば殺され、殺されれば殺し。
涙など忘れた世界がこの世界の過去だった。
───そんな世界の只中に、ひとりの純粋な心を持った少女が居た。
名を、セシル=エクレイル。
泣くことも涙することも、笑うことも喜ぶことも消え失せた世界で、
その少女はただひとり笑うことの出来る者だった。
誰かが傷つけば泣き、嬉しいと思えば確かに微笑んでいた。
一部にすぎないが、そんな笑顔に癒された者も確かに居たのだ。
彼らは臨終の時にその笑顔を思って、幾久しと泣いたのだという。
少女は、まだ魔導術も発展していなかった頃に存在した数少ない魔導術師のひとりだった。
癒しを行使しては人を助け、戦うとあらば強化して。
彼女は確かにそういった意味では人々の役には立っていたし、
周りもそれを認めていた筈だった。
……否、だからこそと言うべきか。
いつまで経っても終わらず、
死者ばかりが連なる絶望の世界において、人々はひとつの賭けに出たのだ。
───それは魔導術による異界との干渉。
力を以って糧とし、異界との境界を開いてなにかを呼び出すという───
そう、今で言う『召喚術』を行使しようとしていたのだ。
転移なんてものではない、それこそ何を呼び出すかも解らない術だった。
今の魔導術師が聞けば誰であろうと『馬鹿げている』と言い下すだけのもの。
しかしそれを望んでやると言ったのがセシル=エクレイルその人だった。
───やがて手探りの召喚術は行使され、それは確かな成功を治めた。
召喚された存在は『巨人』だった。
人の数倍はあると思われるその体躯は強靭であり、
腕や足は一振りすれば風さえも巻き起こすほどの強さを持っていた。
これ幸いと思った人間たちは次々とセシルに召喚を行使させた。
その行為がどれほど彼女の生命を削ってゆくかも知らないで。
確かに召喚獣と違い、巨人は人間に近い存在のために召喚維持には魔力など要らない。
しかし召喚自体に魔力を消費するのであれば、
それを重ね続けるだけでも負担は相当なものだった。
けれど……そんなことは少女こそが一番知っていた。
それでもやめようという意思など微塵にも湧かなかったのだ。
それが誰かのためになるのならと。
いつしか圧倒的な戦力を以って他族を押し退けていった人間たち。
だが、全てを治めるには力が足りなかった。
あと一押し、他族を黙らせられる力があれば───当時の人の長はそう言った。
しかしセシルに召喚を行使させるのはもはや限界だった。
セシルは衰弱し、既に立っていることさえ辛そうだったのだ。
だが長はそれでも力を欲した。
もっと、もっとと。
そして、とうとうひとつの手段に出てしまったのだ。
───『セシルを生贄にし、より強力な存在を呼び起こす』
それが長の言葉だった。
もはや抗う力もなかったセシルは他の魔導術師にされるがままに祭壇へと上げられ、
人身御供の準備が整えられ、召喚は始められた。
───力を、より力をと願う長。
この争いを鎮めることをただただ願った女。
少女の体が貼り付けにされ、槍で貫かれた時───その体は塵となったという。
刹那に虚空に巨大な渦が巻き起こり、その場には確かに『力』が現れた。
誰も敵わぬほどの力……漆黒の色と巨大な体を持ったそれは竜族のカタチをしていた。
長はその存在に驚愕し、だが召喚された力のほどには喜びもした。
刹那に食い殺されたが、
喜びのままに死ねたのだから少女よりは幸せだったと言えるだろう。
この世界に呼び出されたふたつの存在は、
それぞれ『狭界』と呼ばれる世界で争っていた存在だった。
巨人の名は『ゼプシオン』。
竜の名は『ミルハザード』。
同じ召喚師によって呼ばれ、この世界に降り立ち───
しかし確かに当時の世を血も涙も無い世界から救ったふたつの存在がそれだった。
ゼプシオンは人間と結託し、ミルハザードは竜族と結託し。
敵わぬと思った亜人は戦から降り、森や洞窟の奥に結界を張ってそこで暮らし始めた。
亜人───この世界で言ういわゆるドワーフやエルフやフェアリーなどといった存在は、
そうして人や竜族やモンスターから遠ざかっていった。
やがてそれがきっかけとなり、
人間やモンスターや竜族はそれぞれがそれぞれの住む場所を決め、
血生臭い戦いはひとりの少女の命によって救われた。
が───伝承に曰く。
ゼプシオンは呪いの鎧を身に付けることで自我を無くし、ジハードとの戦いに敗れる。
ゼプシオンより強い巨人が居ないこともあり、その時点で巨人族の滅亡は決まっていた。
竜族との敵対関係は空界に降りた頃から始まったわけではない。
今を唱えるよりずっと前───彼らが狭界に居る頃から始まり、
巨人の全てが滅ぶまでいつまでも続いていたのだから。
───巨人族は滅亡した。
ミルハザードはその以前より既に空界の竜族の王として君臨していたが、
巨人の滅亡をきっかけに世界を滅ぼすという行為などしようともしなかった。
何故なら、それが少女が願った絶対条件だったから。
狭界の覇王であった誇り高き黒竜王は、
人間たちに利用されるだけされた少女の願いの果てに召喚されたのだ。
しかしいったいどういった気まぐれだったのだろう。
竜族の王ともあろうものが、人間の───それも小娘の願いを守るなんて馬鹿げている。
それでも……死ぬ間際、そして死んだ瞬間でさえ後悔の念を出さなかった少女の願いは
こんなにも熱いものだったのだと……誰かに伝えたかったのかもしれない。
───その時代より役三千年。
黒竜王ミルハザードは空界にて生き続ける。
その最強の存在は皮肉にも世界の均衡となりて、空界を見守っている。
他の竜族から見れば笑ってしまうような行動だろう。
人間の女が願ったことを守る竜族の王など、いくらなんでもおかしすぎる。
だがそれでもミルハザードは空界で生きた。
黒竜王にしてみればそれはただの統率であって、
少女の願いを聞いているわけではないのかもしれない。
王として世界を束ねているだけなのかもしれない。
だが───もし少女がその場に居たのなら感謝していたのだろう。
少数だとしても、人々が笑っていられる時代をありがとう、と。
───時は巡る。
増えては死に、発展し、その度に破壊されてなお巡る。
何故争いが起こったのかなどというものは既に過去の歴史に消え、
また……その命を以って、
空界に『感情』を齎したひとりの少女の名前を覚えている者などどこにも居ないのだ。
……時は巡り続ける。
今だ終わらぬ人とモンスターと竜族の争いは、飽きることもなく続けられている。
子を残そうとしては子をモンスターに食われる竜族や、
モンスターに襲われて増えては減る人間。
人間にしてみれば竜族もモンスターと変わらず、
竜族にしてみれば人間もモンスターも周りをうろつく蝿にすぎない。
三竦みに終りが来る日があるのかは誰も知らないが、
終りが来るように願っている人はきっと大勢居るのだと。
───そんなことが有り得るのなら……
少女の死も、その時にこそ報われるのかもしれない───
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