───FantasticFantasia-Set31/剣舞、無銘───
【ケース70:晦悠介/Awakening】
ヒュィンッ!!───風を斬る音がする。
それはすぐ近くから聞こえ、俺はその音を避けるようにして身を捻る。
武具や身体には一切の枷は無く、己の自然と真・屠竜剣のみを武器とする。
だがそれもすぐに余裕が無くなり、俺は力を解放すると神魔状態に変異した。
ガカァンッ!!ヂギィッ!バキィンッ!!
───交差するふたつの剣。
長剣と大剣、それぞれの武具が互いの命を消そうと弧を描く。
必要となる油断も無ければ、かける情けさえもない。
互いが互いに体では無く命を狙い、武具に必殺の意思を込めて振るう。
弾いた数は幾重に渡り、放った数さえとうに百。
その全てが弾き、避けられ、逸らされている。
どれもが一撃必殺の意思で放たれているものならば、
それを弾く意思さえも生を望むならばこそ放たれる避けの一撃だった。
襲い掛かる弧が突風ならば弾く弧は疾風。
放たれる線が一瞬ならば避ける動作は刹那に。
それぞれ互いの思考を凌駕する動きで攻撃しては捌き、この瞬間を生き足掻く。
悠介 「オォオオオオオオッ!!!!」
リビングアーマー『オォオオオオオオンッ!!!!』
バガァンッ!!───空気さえ破壊するほどの衝撃と、激突する剣と剣。
圧倒的な破壊力を前に、しかし一歩も退かずに弾き、捌き、打ち崩してゆく。
振るわれる大剣はまさに削岩機をそのままに剣にしたような代物だ。
だがそれを正面から受け、吹き飛ばされることもなく立ち向かう。
リビングアーマー『ルォオオオオオオオッ!!!!』
普通ならば驚きこそするその様。
普通の人の体躯でしかない相手に、己の必殺の一撃を悉く捌かれる事実は度し難い筈だ。
だがリビングアーマーはまるで、強敵に出会えたことを歓喜するかのように吼えた。
その咆哮は草原を震動させ、大気さえも震わせた。
ヒュッ───ヂギィンッ!!
フォンッ───ガギィンッ!!!
振るわれる連撃を捌き続ける。
しかしどれもが隙を作るには至らず、攻め手に欠ける状況が続いている。
ここは強引にでも攻め込んで、一撃に賭けるか───!?
悠介 「シッ───!!」
小さな掛け声とともに振るわれた大剣を弾き、さらに地面を蹴り弾く。
一気に間合いを詰めようと奔らせた体は、
しかし振り戻された下から襲い掛かる大剣によって上空へと弾き飛ばされた。
悠介 「ぐっ……!かはっ……!」
剣越しに衝撃を受け止めても骨が軋むくらいの激痛を受けた。
そんな俺の都合など気にも留めず、リビングアーマーは尚も攻撃の手を緩めない。
宙に舞った俺目掛け、振り上げた剣を一気に降ろす───!!
悠介 「“氷狼砕く魔法の具足”!!」
ヒュオ───ガギィンッ!!
瞬時に創造した具足にて振り下ろされた剣を蹴ることで、軌道と落下位置を修正する。
さらには“伎装弓術()”を唱え───
悠介 「イメージ、超越にて解放!“七刃統べる古の至宝剣()”!!」
黄昏に強化された光の武具を屠竜の弓にて弾き放つ───!!
リビングアーマー『オォオオオオオオオッ!!!!』
ヂガガガガガガガガガガガンッ!!!!
リビングアーマーは己に降りかかる六十一の光を次々と弾き落とし、
だが七つの極光に鎧を穿たれて怯んでゆく。
そこへ着地と同時に疾駆し、“伎装剣術()”を唱えた屠竜剣に光を込めて───!!
悠介 「オォオオオァアッ!!!」
ゾフィィインッ!!!───振り切った一閃がリビングアーマーの足を切断する。
さらに、バランスを失い、
倒れてきたリビングアーマーに向かって意識を構え、イメージを解放する。
悠介 「解放───“無限を紡ぐ剣槍の瞬き()”!!」
瞬時に纏めたイメージが弾かれ、虚空に次々と光の武具が出現する。
俺はそれを確認してから倒れてくるリビングアーマーの背を直視し、
静かに『弾けろ』と唱えた。
刹那───轟音を掻き鳴らし飛翔する空へ向かう武具の雨。
倒れる筈だったリビングアーマーは次々と襲い掛かる剣槍の雨にその身を穿たれ、
カケラとなって消えてゆく。
黄昏の強化によって創造された相手が強くなるのなら、俺が創造する武具も強くなる。
リビングアーマーはそれに耐えられなかったのだ。
悠介 「───終いだ」
最後に放ったグングニルが最後のパーツを破壊するとともに、その場に静寂が訪れる。
だが───この戦いはこれで終わるわけじゃない。
悠介 「っ……」
気づかない内に息を飲む自分が居た。
リビングアーマーが掻き消えたその場に、ゆっくりと人影が出来てゆくのだ。
それはそうなるように俺が創造したからだが、だからこそ緊張する。
リビングアーマーには勝てた。
だが果たして───
イルザ『…………』
俺はこの英雄に勝てるだろうか。
いや、勝たなければいけないのだ。
そうじゃなければ覚悟なんて決まらない。
悠介 「───……ドラゴンマスター、晦悠介」
イルザ『巨人族騎士団十一番隊隊長、ゼプシオン=イルザーグ……。いざ───』
悠介 「いざ、誇りある戦いを───!!」
バガァンッ!!───黄昏の草原が爆発する。
否───爆発したように見えたのだ、その疾駆が。
瞬時に間合いを詰めてくるゼプシオンを前に、
その速度に虚を突かれた俺は刹那の間、反応が遅れた。
目の前の英雄にとってはその反応の遅れだけで十分だ。
剣を落とすわけでもなく、無造作に振り切られた具足が俺の体を蹴り上げた。
さらに次の瞬間には盾で弾き落とされた。
倒れた途端に振り落とされた剣を避けたが、避けたその動作すら見逃さず、
間髪入れずに振られる巨大な足がいつかのように俺を弾丸へと変えた。
悠介 「ぐはぁっ……!?」
飛ばされ、草原を滑るように転がる俺の体。
それを追撃する白銀の旋風と、それを迎え撃つ三十矢の地槍。
体勢を立て直すとともに放ったものだ───が。
───ジャガガギガギガゴガガゴガギィンッ!!!!!
その全てが、盾と剣によって弾かれた。
だがこれで終りではない。
驚愕は誰のものか。
既に“伎装弓術()”にて発射された草薙の叢雲がゼプシオンの額を狙う───!!
イルザ『ぬるい───!!』
バガァンッ!!
放たれた剣は確かに相手のものを貫いた。
だがそれは兜のみであり、
ゼプシオンは依然、捻った体を爆発させるように突撃を続けていた。
悠介 「っ……!!避けるかよあれを!!」
驚愕すら満足に唱えている暇も無い。
閃速にて振るわれた大剣を、同じく閃速にて振るう剣で弾く。
だがそれはいつかと同じ状況だ。
“伎装剣術()”を唱えなければならなかったために満足に剣に体重を乗せることが出来ず、
俺の体は容易く吹き飛ばされ、再び草原を滑ることとなった。
悠介 「ぐっ……!!“五股輝く光の戦槍()”!!」
今度は弓を使わずに虚空より槍を創造して弾く。
五つに分かれた閃光は、
尚も突進してくる英雄へと放たれ───バガァッッキィンッ!!!
……たった一振りで、五つ全てを破壊し尽くされた。
軽い眩暈は当然のこと。
中途半端な創造などしていないというのに、
たった一振りで破壊される非常識に驚愕を覚えるのは当然だ。
だが惚けてなどいられない。
俺は今度こそ体重を込め、目前に迫る大剣目掛けて屠竜剣を振るう───!!
───ビタァッ!!
悠介 「え───?」
だがその剣が虚空を裂く。
突如止められた英雄の剣を迎えることは無く、俺の屠竜剣は真に虚空を裂くだけだった。
───その行為が瞬時に恐怖へと変わった。
剣ばかりに気を取られていた俺は、横から迫る左手の盾に殴られ、
宙に飛ばされた───刹那にゼプシオンは身を捻り、
体重を乗せた回し蹴りを俺の体にブチ当てた。
悠介 「ゲハァッ!!?がっ……うぐぁあああああああっ!!!!」
それこそまさに弾丸。
ゼプシオンの巨足に弾かれた俺の体は物凄い速度で草原に叩きつけられ、
バウンドしてなお跳ね転がった。
悠介 「あ、ア───……げ、ふ……」
口から血がこぼれる。
意識は混濁し、立とうと思っているのに体が立ち上がってくれない。
地面がどの方向にあるのかさえ断定できない感覚───
そんな沼の中のような世界でさえ、『そいつ』が地面を蹴り砕いた音だけは聞こえた。
悠介 「ぐ、づ……!!くそ……!!」
『このまま』じゃ勝てない。
もうそれは確実だった。
ならば越せ、そして超えてゆけ。
我が身と意思が、無限の自由に至るまで。
悠介 「神魔、竜人、解放───!!」
己の中に埋没すると同時、意思のスイッチを切り替えるように唱えた。
───視界が回復する。
振るわれる剣は既に目前。
俺はそれに屠竜剣を振り、力を込めた。
ヒュフォンッ───ヂギィンッ!!
必殺の一撃を受け止める。
だが俺の体は反動に持っていかれ、たたらを踏む。
それに追い討ちをかけるような、さらなる一撃。
それを───ギバァンッ!!
イルザ『……!?』
……それを。
今度こそ、受け止めた。
我が身体に起こりし変動は人を超越せしもの。
両側頭部に突き出た角に、背より生えた翼がその証。
イルザ『オォオオオオオオオッ!!!!』
が。
巨剣を受け止められてなお、巨人は止まらない。
連続して振られる大剣を、俺は幾度と無く受け止める。
咆哮を放ち、大剣が振るわれるたびに草原が薙ぎ払われ、
描かれる弧の軌道以上の範囲の草が薙ぎ払われてゆく。
それはまるで上手く出来た鎌鼬の集団襲撃のようだった。
防戦一方である俺の頬や腕を衝撃のみで切り裂いてゆく悪魔。
だがこちらもやられっぱなしな訳じゃない。布石は既に───!!
悠介 「───!そこっ!!」
布石───黄昏の地中に埋めておいたロンギヌスにイメージを流し、
その上に居るゼプシオン目掛けて解放する!!
悠介 「はぁあっ!!」
さらに俺も疾駆し、同時攻撃を仕掛ける!
俺に気を取られればロンギヌスに穿たれ、ロンギヌスに気を取られれば俺に斬られる。
どの道発生する隙を逃す手は無い───!!
───だが。
目の前の相手はどこに至ろうとも、
真実英雄なのだということを思考の片隅にでも残して戦うべきだった。
イルザ『オォオオオッ!!』
ザシャアッ───ヂギィンッ!!
悠介 「っ!?───イメージ解放!“鏡面にて弾く石眼の盾()”!!」
キュババシャァアンッ!!
悠介 「くあぁああああっ!!!!」
急造した盾はイメージも満足に纏まっていなかったためか一撃で砕けた。
いや、そんなことより……
イルザ『ルォオオオオオッ!!!』
再び疾駆する存在に素直に愕然とした。
何故ならゼプシオンは、俺が予想した全ての外に居たのだ。
地中より放たれたロンギヌスをまるで知っていたかのように避けると、
その槍の軌道が俺に向かうように弾き飛ばしたのだ。
もう少し反応が遅ければ、俺が串刺しになっていたところだ───!!
悠介 「つっ───アァアアアッ!!!」
パギィンッ!!───散々と襲い掛かる連撃を弾く。
黄昏に響き渡る剣戟などこれで幾度か。
烈風に彷彿を重ねる速度に、鋼に剣を落としたものを数倍化させたような衝撃。
暴風雨に酷似した剣の嵐は、やはり鬼気を込めた剣の嵐によって弾かれる。
そうして弾き続けてみて唯一───
ただひとつだというのに、嫌なくらいに気にかかることがある。
ヂギッ!ギャリィンッ!
互いの剣が渾身によって弾かれ合い、僅かだが間合いが開く。
その剣舞の幕間()、俺と英雄は互いに不可解を表情に表した。
同時に発した言葉は『解せぬ』の一言。
どうもこうもない。
この剣は既に枷から外れ、武器破壊にも長けているものの筈なのに。
何故、巨大な剣だからといって、英雄の剣を破壊するに至らないのか。
そう改めて考えた時だ。
そんなものの答えは簡単に導き出され、英雄の疑問も同じものだったのだと理解に至る。
ジャッ───ガギィンッ!!
あとは幕間など必要じゃあなかった。
間も無いままに放たれる連撃は己の武具を信じてのもの。
つまり───俺とゼプシオンの武器は同じ材質で構成されており、
材料の幾らかが違うにせよ、根本の『オリハルコン』という『芯』に違いは無いのだ。
先ほどのリビングアーマーにせよこのゼプシオンにせよ、
俺ではなくソードが複製したものだ。
故に細部に至るまでが精巧であり、違いなどは億の一にも満たない。
力が同じなら、武具ですら同一。
生半可なことで勝てないのは既に熟知している。
悠介 「疾ッ!!」
ヒュオッ!ガギィンッ!!
ヴオッ───ビギィンッ!!!
ヂギィッ───ギヒャァアアアンッ!!!
弧を描く大剣を受け止めず、さらに加速させるように弾く。
右から来れば左へ流し、下から来れば上へと流す。
響く剣と剣の交わりはまるで、引き絞られた悲鳴のようだ。
悠介 「ッ……!!」
イルザ『───!!』
衝撃は双方に剛圧。
緩いことなど一度と無く、しかしそれだけの剣戟を繰り返して尚、
武具が欠けることなど有り得ない。
ゴッ───!バギャァンッ!!
ヒュッ───バギィインッ!!
飛び散る火花に高鳴る双剣。
双方一歩も退かず、必殺の一撃を繰り出し続ける。
だが言われるまでもなく自分が不利であることなど理解に至っている。
圧倒的な体躯の差に歴戦の経験、そのどれもが俺には無いものだろう。
所詮俺の修行は己の思考との戦い。
さらに言えば、今この戦いとて例外ではないのだ。
『己の思考』という条件が『ソードの思考』という条件に変わっただけ。
だがそれでもこの有様なのだ。
ブォゥッ───ガギィンッ!!バギィンッ!!ギシャアンッ!!
悠介 「づっ───、……!!」
徐々に押されていっているのが解る。
ゼプシオンの振るう大剣はまるで、それ自身がバケモノだ。
続く連撃に足が地面にめり込んでゆく。
このままだとまずい。
悠介 「っ───だぁっ!!」
ヒュォッ!ジャギィッ───ドッガァアアアアンッ!!!
悠介 「───!!」
まるで天から降り落ちてきたような剛剣を、
その勢いのままに逸らすことで地面に叩き込んだ。
それを確認した時には俺の体は地を駆けており、
渾身の一撃をゼプシオンの左足目掛け───ゴォッ!!パガァンッ!!
悠介 「がはっ───!!?」
───否。
振り被った剣は何を傷つけることも無く届かず、
俺の体は再び盾による一撃に吹き飛ばされていた。
一筋縄ではいかない、どころじゃない。
身にある全てを利用して戦うその様は、真に歴戦の勇者のようだった。
そして。
吹き飛び、無防備になった存在へ『戦人』がする行為といえばひとつしかない。
───バガァンッ!!
大地を踏み砕く音がした。
体を捻る要領で地に足をつけた俺が見たものは、
地と草原を散らしながら弾丸の如き速度で疾駆する英雄の姿だった。
イルザ『オォオオオオオオオオオオオオッ!!!!』
悠介 「っ……、くあっ!!」
ヂギドッパァアアアアアアアンッ!!!!
剛剣に備えた長剣はしかし、
これ以上無いという速度と構えから放たれた剛剣によって容易く弾き飛ばされた。
刹那に世界が回転する。
自分は今どういう体勢なのかも解らぬまま、ただ殺気のみを当てられながら吹き飛んだ。
その感覚に恐怖する。
回転する景色に、定まらない感覚。
ぶつけられるのは殺意のみで、
まるで視覚を失った状態で剣の束を肌全体に突きつけられているような気分だった。
悠介 「づ───!!」
ごん、という音がした瞬間、自分が草原に落ちたのだと確信した。
即座に意識に喝を入れ、己の居る場所を中心に敵の存在を探す。
が───
悠介 「居ない───!?」
否、それは明らかな判断ミス。
今ここに決着の方法があるとするならば、それはどちらかが動けなくなった時のみ。
───……ォオオオ……
悠介 「ッ───!!」
ゾクリという感覚が体を切り刻んだ。
ほぼ直感のみで俺はその場を蹴り弾き、弾丸の如き疾駆にて危機の正体から逃げ出した。
刹那───ドォッグォオオオオオッ!!!!
悠介 「〜〜〜っ……!!」
───喩えるならば『爆撃が如く』。
舞い降りた巨体は容易く地面を破壊し、
己の着地点を中心にバカデカいクレーターを作った。
悠介 「はっ……は、は───あ、……っ」
ゆらりと立ち上がるその姿に、ただ震えた。
恐怖は───不思議と無い。
感じるものは歓喜だ。
英雄が、俺を惜しげもなく敵と見做して全力で向かってきてくれることに喜びを感じる。
それはシュバルドラインと対面し、感じることの出来た感覚と酷似していた。
───行こう。
この高揚感が無くならない内に、全力を以って───この大英雄を打倒する。
一度負けてしまったからこそ目指せる高みと、その高さを測れる強み。
その全てを意思に変えて……!
悠介&イルザ『オォオオオオオオオオオッ!!!!!!』
疾駆と咆哮は同時。
疾風と突風は即座にぶつかり合い、だがどちらも一歩も譲らずに剣戟を開始する。
弾ける火花は後を絶たず、俺が染めるまでもなく景色を紅蓮に染めてゆく。
弾いては弾かれる在り方は既に何合目か。
飽きることもなく火花を生み出し続けてもなお砕けぬ意思と剣を以って、
ふたつの暴風は鬩ぎ合いを辞めない。
この戦、見る者が見れば『小柄を生かして潜り込め』と叱咤するところだろう。
だがそんなことをすれば返す刃が確実に我が身を両断すると確信できる。
踏み込まないんじゃない、踏み込めないのだ。
かといって光の武具を放ったところで、
ロンギヌスの二の舞になるという思念がこびりついたまま取れやしない。
だがこうして剣戟を繰り返し続けているわけにもいかない。
実力は五分と言えば聞こえはいいが、体躯の差が圧倒的に出ているのは確かだ。
俺が切り上げるという動作に対して、ゼプシオンは振り下ろすという行為。
十分に体重を乗せられるし、
加えて俺は、それこそゼプシオンから見れば地面すれすれの場所に居るのだ。
言ってみれば剣を降ろすにあたり、最も重力が乗る場所に居ると言っていい。
この戦いは開始から同条件ではないのだ。
ヒュォッ───ガギィンッ!!
だがそれがどうした。
そんなことは開始する以前から知っていたことで、
こうして立っている今でもそれをハンデだなんて思わない。
戦いが始まった時点で負い目などは忘れればいい。
戦いの意思を見せたらな、それだけが互いを示すものになるのだから。
身体的特徴を求めていたって敵には会えやしない。
そもそも敵がそれを選ばせてくれない。
だったら勝ってみせればいい。
ハンデなど最初から存在しなかったのだと証明するためにも───!!
悠介 「はぁああああああっ!!!!」
ヴオッ!!───ガギャァアアアアアアンッ!!!!
イルザ『グ───!?』
英雄の表情が歪む。
ここに来て、緋く染まる剣を見下ろした時───
今まで戦ってきた存在のことを思い出した。
そして小さく呟く。
ああ、一緒に強くなろう、と。
悠介 「イメージ、超越にて解放!“絶氷なる氷狼の盾()”!!」
体の周りにフェンリルが得意としていたダイヤモンドダストカーテンを張る。
さらに視覚にイメージを流し込み、
自分の目にグリフォンのイーグルアイのイメージを重ね合わせる。
そして───剣には既に、ミル・ミノタウロスの戦斧石の輝きが。
悠介 「いくぞ、英雄ゼプシオン。俺は───あんたを超えてゆく」
イルザ『───オォオオオオオオッ!!!!』
それ以上の言葉は要らないと断ずるが如く。
咆哮し、烈火の怒涛とともに大地を砕き疾駆する様は巨大な流星。
俺は正面からそれと向き合い、飛翼をはためかせて一気に飛翔する───!!
悠介&イルザ『オォオオオオオオオオッ!!!!!』
───渾身。
互いに究極の一撃を振るうが如く、全力の意を咆哮として吐くと同時、剣を振るう。
振るわれる英雄の剣が全てを砕く破壊の剣ならば、
それを破壊するべく振るわれた剣は世界さえ砕かんとする一撃。
気迫が頂を抜かんとする刹那、俺の剣が紫色の雷に包まれる。
それこそはベヒーモスが放った雷撃の光であり、
かつて雷を真似ることで生きていたひとりの出来損ないの象徴でもあった。
悠介 「貫けぇええええええええええっ!!!!!」
その叫び、裂帛が如し。
衣を裂くような声が黄昏の虚空に響くと同時、英雄が放った渾身が氷狼()の意思を砕く。
が。
その剣が俺へと届くほんの少し───まさに刹那と呼べる間に、
振るわれた紫電の剣は古の鉱石で編まれた最硬の剣を砕いていた。
イルザ『───、な……』
驚愕は当然だ。
恐らく俺も目の前の英雄も、それ以上に硬いものなど知らない。
だというのに俺の剣はそれを砕き、
それだけでは留まらず、その剣閃が英雄の鎧を切り裂いていた。
イルザ『がはっ……!?ぐあぁあああああっ!!!!』
バシャア、という音と、飛び散る鮮血。
英雄の膝が崩れかけるが、英雄は血に足をつくことを恥として俺を睨む。
そして───バガァンッ!!
イルザ『オォオオオオオオオッ!!!!』
変わらぬ速度、変わらぬ力強さで拳を振るってきた。
砕けた剣などとうに捨て、ただ一心に目の前の敵に向かって邁進する。
その在り方は英雄としてではない。
ひとりの『戦人』として、強敵と戦いたいという意思を込めた者の姿だった。
それを見た俺が取る行動は唯一つ。
剣を鞘に納め、“光獣宿す閃光の篭手()”を創造する。
もう騎士だとか竜人だとかの肩書きなんて要らない。
ただ強敵と、同じ条件で、心ゆくまで───!!
ゴォッ───バッガァアアアアアアアンッ!!!!
『っ───!!』
悲鳴はどちらのものか。
激突する拳と拳は軋み、
恐らくどちらが悲鳴を上げてもいい程の衝撃が体の中に直接貫()った。
それでも互いに譲らない。
激突の度に距離が開けばその距離を助走と力を込める距離と断じて連撃を連ねる。
ヒュゴォッ───バギャアッ!!
幾度目かの激突で左手が砕けた。
骨が皮を破り、だがそれでも激突は止まらない。
ゼプシオンの盾も既に砕け、その盾とともに手首の骨が折れ曲がっていた。
それでも連撃の雨は止まない。
既に痛みさえ凌駕してしまったかのように、
俺もセプシオンも磐石たる意思の塊となり、
ただ目の前の強敵に打ち勝つことのみを望んだ。
しかしそうした刹那、俺の背中から───いや、皇竜珠から声が聞こえた。
『それは違う』と。
何が違うというのか。
そんなことを一瞬でも考えたことが命取りだったのか、
俺は振るわれた渾身の右拳によって吹き飛ばされていた。
悠介 「げはぁっ───!!?」
血を撒き散らしながら体勢を整え、滑るように草原に降り立つ。
───……異変に気づいたのはその時。
呼吸が上手く出来ず、乱れた息を整えようとしたところでそれも上手くいかない。
悠介 (っ……気管か肺でも潰れたか……!?)
どちらでも同じだ、回復する暇などないのなら、せめて動ける間だけでも───!!
そうしてフラつきながら、目前まで疾駆してきた巨人を見据える。
悠介 (───……?───!)
───それを迎え撃とうと構えた時だ。
先ほどから気になっていた『間違い』が、俺の中で弾けた。
途端に俺の全身に『意思』が通る。
悠介 「……、───!!」
声にならない声で拳を固め、振り落とされた巨大な拳に向けて振り上げた。
負けやしない、負ける訳にはいかないという磐石の意思の下に───!!
ガヅッ───グシャアッ!!
イルザ『ッ……!?な───』
巨人の拳が砕ける。
ただ俺に勝とうとする意思と、
彼に勝ち、守りたいものを守るために生きようとする俺の意思がぶつかり合った結果。
そう……忘れちゃいけなかった。
勝つために強くなったんじゃない、守りたかったから強くなった。
悠介 「───、……、……」
息が気管を通り抜ける。
許されたのは一呼吸のみだったけど、それで十分だった。
鋭い痛みとともに許された酸素が、体中に流れてゆく。
あとは意思の持ちようだ。
『英雄』と立ち会った時点で曲っていた意思を凜と立たせ、前を見る。
英雄は産まれた時から英雄じゃない。
その意味に至らず、鎧に覆われてはいるが英雄とて生身であることを無意識に忘れていた。
そうだ、英雄だって個の存在であり、同じ意思を持つ者。
俺が人であり、相手が巨人であることには変わりはないけれど、
それを言うなら双方生身であることにも変わりは無い。
悠介 (………)
拳を握り絞める。
そうだ───腕もまだ動くし、体だって……軋むけれど、動けないわけじゃない。
希望を持って前へ進もう。
その意思を、どんな意志にも負けないくらいの意思にするために───!!
悠介 「───、……!!」
声にならない咆哮を吐く。
背中から突き出した飛翼をはためかせ、一気にゼプシオンとの距離をゼロにする。
それに向け、ゼプシオンが砕けた拳を俺目掛けて落とす。
既に防御という言葉の意味さえ度外視した剛拳が俺に向かって放たれるが、
それこそ俺も防御なんてものを完全に無視して拳を突き出した。
喉は完全に砕け、ただでさえ荒かった息のためか意識が混濁する。
酸素が圧倒的に足りない。
今なによりも体が望んでいるのは酸素だというのに、俺はそれを良しとしなかった。
泣き言なら後でいくらでも聞いてやる。
だから───今は戦いに集中しやがれ───!!
───ゴバァッ!!
双方が繰り出した拳が重なると、拳は腕ごと砕け、肉塊と化した。
それでも消えぬ気迫はまるで鬼気が如し。
目は紅蓮に血走り、痛みを掻き消さんと放たれる烈火の怒号が草原の草を虚空へと散らす。
合わさる拳一発ごとに大気が震え、
俺の芯に激痛という衝撃が貫る度に黄昏の景色が変色する。
それは即ち、俺の意識が何度か途切れていることに繋がる。
それでも双方は目前の敵を砕くことを意思とし、五体を繰り出し続ける。
だが───今再び、その意志に差が出た。
今を考える者と明日の人々の未来を願うものとの差。
繰り出された拳は度重なる酷使の末に肘の部分から折れ曲がり、
俺を殴る筈だった拳がダラリと垂れ下がる。
その、ほんの僅かが全てだった。
磐石の意思を込めた具足に今一度紫電を込め、
己が出せる最高の速度とともに打ち出す───!!
イルザ『……、───!!』
具足ごと繰り出した体が英雄の顔面を捉えた時、一切の音が消えた。
それは、あまりにも轟音だったためか、それとも既に耳という機能がコワレていたのか。
だが俺の『意思』は確かに英雄の顔面に突き刺した。
止まらぬ勢いのままに英雄は、轟音とともに黄昏の草原へと沈み───
形振り構わず突貫した俺もまた、その勢いのままに黄昏の草原を転がった。
悠介 (っ……!!)
既に満身創痍。
されど起き上がり、追撃に備えて構えた。
が───そこにあったのは追撃などではなく───
イルザ『───、……』
満足いく戦いが出来た、と小声を漏らし、消えてゆく巨人の英雄だけだった。
それはまるで、いつかの笑みを思い出させるもので───
イルザ『いい、戦いだった。私の負けだ、少年───』
英雄は、今度こそ英雄のままで……あの時と同じ笑みを浮かべ、消えていった。
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