───FantasticFantasia-Set48/裏切り者に救いはありますか?───
【110:リヴァイア=ゼロ=フォルグリム/壊れた均衡】
ワァアアアア……!!───人々が咆哮が耳に届く。
苛烈にして怒涛……喩えるならそんなところか。
平たく言えばレファルド皇国に対し、二国精鋭どもが攻撃を仕掛けてきた。
……いや、違うな。
今やレファルドですら敵である。
ルーゼン「まったく……嫌になりますわね。
リヴァイアさん?きちんと説明していただきたいのですけれど?」
リヴァ 「全てあいつらの勘違いだ、としか言いようがないな。
まったく……この大変な時に悠介や検察官は何処に行っているんだ……」
二国がここに向かっているという情報を得た時、すぐに送話の式を送った。
だがなにかの魔導障壁に阻まれているのか、全く繋がりやしない。
バルグ 「先のオーエン城の崩壊が
レファルドの新王の仕業だと吹き流した者がおるらしい。
民たちもその噂を聞いてか、
現在この国に居ない新王に疑惑を覚えているのだろうの」
ルーゼン「んもう!こんな時にダーリンは何処に行ったのよ!」
リヴァ 「そんなこと知るもんか。
ともかく悠介を疑り、二国側に着いた民などは放っておいていい。
今は貧民街のやつらを助けることが先決だろう」
ルーゼン「解っていますわよ!それで?ダイ・ジンとか言ったわね。
貧民街とやらは何処にあるのかしら?」
ルーゼンがわたしたちの後ろに居たジンに声をかける。
こいつも悠介を信じる数少ない者のひとりだ。
───結論から言えば、レファルドは国ごと悠介を裏切った。
平和に暮らしていたというのに他国の城を王ごと破壊した、ということで。
その所為でこんな事態になっているのであれば、民とて怒るだろう。
……いや、細分化してしまえば民たちは城と王を破壊したことに不満は無いのだろう。
問題は───その方法が『黒竜王を使って』ということだ。
誰が吹聴したのかは知らないが、悠介は黒竜王と繋がりがあると言ったやつが居るらしい。
そうなればこの状況は当然だ。
人々にとって恐怖の対象でしかない黒竜王が、もし悠介が操っているものだったら?
それはつまり、今まで自分たちを恐怖させてきたのは他でもない悠介ということになる。
そうなれば新国王だとか喜んでいた自分たちが愚かに思えたのだろう。
民は血相を変えて城に攻め入ってきた。
……その中の意思には、もちろん『死にたくない』という思いもあるのだろう。
だからこそ二国の精鋭に降伏し、今現在はともにレファルドの城の破壊をしている。
そんな中で悠介と検察官を信じているのが貧民街の民たちだった。
あの人がそんな人だったなんて思えないと信じてくれた民たちは、
必死になって謀反した民たちをなだめようとしている。
だがそんなことは無駄だ。
せっかくの祭り騒ぎを壊された怒りも相まって、民たちはもう止まりそうになかった。
こうなってはただの破壊者だ。
リヴァ 「ルーゼン、バルグ、ひとまず貧民街の民たちを連れ、わたしの工房へ行こう。
工房なら空界が今どういう状況にあるのかも解る。
……残酷だが、レファルドはもうダメだ。
民が謀反したいっていうならさせておけばいい。どのみちもう引き返せない」
バルグ 「……そうじゃの。あの若僧はどう思うじゃろうかの」
ルーゼン「だぁいじょうぶですわよ。寂しそうならわたしが慰めて───」
リヴァ 「鬱陶しいから妄想なら余所でやれ」
ルーゼン「……何気に酷い即答ですわね……」
ともかくわたしたちは民を止めようとする貧民街の民の手を取り、次々と転移した。
そして───ようやく全ての民を転移し終えると、
工房前のわたしの屋敷で休むように告げる。
わたしたちはもちろん工房へ入ると、空界の全体図を展開してその様を調べた。
ルーゼン「……そうそう、思い返してみれば大変でしたわ。
もう少し転移が遅ければ、わたしだって黒竜王のレーザーの餌食。
でも逆を言えばせっかく集めた研究素材も全てが台無し。
わたしの工房はもう帰ってきませんのね……」
バルグ 「なに。生きて逃げられただけでももうけじゃろう」
オーエンの国には───いや、詳しく言えば城だが、
城があった場所は黒く塗りつぶされている。
そこにもう城が無いからだ。
バルグ 「ふむ……まずいのう。二国……いや、今となっては三国か。
三国が暴れてる音を聞きつけたモンスターどもが
レファルドに向かっているようじゃ。このままでは危険じゃぞ」
ルーゼン「自業自得。というものですわよ。
ダーリンを裏切るなんて、それ自体が絶命宣言ですわ」
バルグ 「おぬし……相変わらず頭が暖かいのぅ」
ルーゼン「……ちょっとオーツェルン卿?どういう意味ですのそれは」
展開された地図にはモンスターの影の塊がレファルドに向かっているのが見える。
レファルドや、レファルドに攻め入った者の中には魔導術師が何人も居たというのに……
馬鹿者め、突撃に熱くなって気づいていないのか?
リヴァ 「このままじゃマズイな……くそっ、悠介たちは何をしている……!」
バルグ 「これしきの数、ワシらだけでどうとでもなりそうじゃが……まいったのぅ」
ルーゼン「あらダメですわよ。数で見ればなんとかなりそうだけど、
このモンスターの大群、サイクロプスですもの。
魔術はよく通るけど、その分頑丈すぎて一体倒すのに時間がかかりすぎますわ」
バルグ 「うむ……それは流石に解っておるわ。
でなければ『まいったのぅ』などと言いわせんよ」
ルーゼン「……ところで。この先頭の物体が発する神界反応はなんですの?
音声拾ってみたら『メルヘンメルヘン』叫んでましたけれど」
バルグ 「ふむ……リヴァイア、音声変換はできるかの?」
リヴァ 「ああ、勝手にやってくれ」
バルグ 「ふむ、では───」
バルグとルーゼンは拾った声を各世界の言語に宛て、それを標準言語に置き換えた。
するとまずルーゼンが嫌そうな顔をした。
ルーゼン「……ハッキリ言って聞きたくなかったわね」
バルグ 「『サイクロプスと結ばれて幸せだ』、とはのぅ……。
幸せついでに責められてはたまったものではないの、レファルドも」
ルーゼン「結婚祝いがモンスターと結託して国ひとつブッ潰すことって……はぁ」
ルーゼンとバルグが静かに口論をするが、それもすぐに終わる。
わたしはさしてソレを気にすることもなく、
ただ現状における打開策、とやらを探し始めた。
暴動を沈め、妙なことを吹聴した輩を突き止め、モンスターもなんとかする方法。
そんな都合のいいものがあれば苦労はしない、と言いたいところだが───
実際にあるのだから不思議なものだ。
リヴァ(これでさっさと返事でもあれば、真実苦労なんてしないんだけどな)
ボードを細かく叩きながら地図の拡大をする。
画面───ようするに映像だけを転移させた状態でその場を映したものだが、
その映像の中をサイクロプスの群れが闊歩する。
中にはミル・サイクロプスも居て、
王国兵士ごときが勝てる相手ではないことはよく解った。
それなりにランクの高いブレイバーかメイガスじゃなければ太刀打ちなど不可能だ。
ルーゼン「こんなの、リヴァイアさんのエクスカリバーで一撃なんじゃなくて?」
リヴァ 「悠介の黄昏無しにやれば、次こそ回路が焼き切れる。
そうなればもう魔導も式も使えなくなるんだ。
お前が責任とって一生面倒見てくれるなら構わないが?」
ルーゼン「冗談じゃありませんわ!!」
リヴァ 「ああ、わたしもだ」
考えただけで寒気がする。
自分で言っておいてなんだが、当然の如く却下だ。
バルグ「じゃれあうのもそのへんにするんじゃな。今はこの現状をどうするかじゃ。
よもや、見捨てるわけにもゆくまい」
リヴァ「それはそうなんだけどな……やれやれ。
地界に居ても空界に居ても、結局面倒なことは起こるんだな」
愚痴をこぼしながら式を描くと、
わたしは目の前の映像を各王国の王と至高魔導術師のみが開ける空間を開く。
この場では魔導ハックを受けることもなく、完全機密のものは必ずここで語られる。
わたしはその空間でファウエル国の王を呼び出した。
どうせ王は踏ん反り返って国に居るに違いないと踏んでのことだったが───
シルバ「リヴァイアか。何の用だ」
どこまで予想通りなのか、そいつはすぐに通信が開けるそこに居たようだった。
シルバスタ=アスネイル───ファウエルの国を統べる、αー3と呼ばれる男だ。
リヴァ「そこに宮廷魔導術師くらい居るだろう、今すぐレファルドから兵を退かせろ」
シルバ「断る。この世界は私の手に落ちたも同然。それを何故止めなければならない」
リヴァ「……解っているのか。お前の国の兵が居るそのレファルドに、
サイクロプスが向かっているんだぞ……」
シルバ「それがどうした。
我がファウエルの精鋭とオーエンの精鋭が集えば、敵う者など居はしない。
現にレファルドは降伏し、ともに王城を破壊しているそうではないか」
リヴァ「サイクロプスの強さも知らないのか……!
アレは一介の兵士ごときが勝てる相手じゃない……!」
シルバ「知ったことではないな。それより見ろリヴァイア……三国が私の物になったのだ。
言われた通りに実行しただけだが、
まさかこうも簡単に成功するとは思わなかったぞ」
リヴァ「……!?」
───やっぱりか。
シルバスタは結構な歳だが、これほど思い切ったことの出来る男じゃない。
やはり余計なことを吹聴したヤツが居るんだ。
リヴァ「答えろシルバスタ。誰に、何を言われた」
シルバ「知りたいか?ふふ、いいだろう。
私はこの世界の王になるんだからな、余裕というものを見せてやろう。おい」
映像の先でシルバスタが顎で何かを促す。
するとその映像の中にふたつの影が差し込むと、その顔が明確に映し出された。
男 「クックック……これはこれは。お久しぶりですねぇリヴァイアさま」
リヴァ「───……なんだ、驚いたな。
どんなクサレたヤツが出てくるかと思ったら。久しいな、エリオット」
現れた影の中のひとつは顔見知りだった。
いや───顔見知り、どころじゃないな。
かつてはわたしの工房で助手をやっていた男だ。
リヴァ「元気そうでなによりだ。相変わらず密漁に手を染めてるのか?」
エリオ「クックック……ええ、それはもう。妙な男に二度も邪魔されましたがね、
そのお蔭でこうして簡単に王国から報酬を受け取ることが出来ましたよ。
まさかあの男がレファルドの新国王だとは思いませんでしたがね」
リヴァ「………」
エリオットはわたしの助手だった。
優秀で勉強熱心で───だが貧民街の生まれが災いしたのか、
ともかく金に執着する男だった。
ある日こいつはとある通信で出会った男に騙され、密漁をしてしまう。
しかしその時に口止め料として渡された金額に驚愕し───それ以来、腐っていった。
わたしがこいつを除名したのもそのためだ。
エリオ「これ、なんだか解りますか?───そう、惑わし草です。
これを風に乗せて国中に撒いたら、みんな素直に従ってくれましたよ。
オーエンも、レファルドも……ね。クックックック……」
リヴァ「レファルドの新国王……悠介になんの恨みがある」
エリオ「なに、簡単なことです。密漁を二度も邪魔されているのでね。
それも二度目なんて酷いものだった。
三体の飛竜に囲まれ、逃げ場の無い恐怖を味わったのです。
それで気がつけばよく解らない生命体の居る場所に飛ばされた」
リヴァ「………」
わたしは先ほどから画面の端でチラチラと蠢いている物体に目を傾けた。
あえて見ないようにしていたが、それは間違い無く───棒人間だった。
というか、イクスキィ蒼山で会った棒人間……確かミル・棒人間のジークンだ。
ジークン「ヘロウ」
ジークンは画面の先の存在がわたしだと解ると、
軽く針金のような手を持ち上げて挨拶をする。
そこで確信するのだ。
こいつはまるで状況を理解していないと。
ジークン「聞いてたもれメイガス。
この人ってばあのモミアゲ野郎に恩返しがしたいらしくてね?
それが黒竜王とモミアゲ野郎が顔見知りだってことを言い触らせってことで」
リヴァ 「………」
呆れてものも言えない。
思いっきり騙されているぞこいつ。
というか今までの話を聞いてなかったのか?
リヴァ 「ジークン、っていったな。お前な、その男に騙されているぞ。
その男……エリオットはな、お前を利用して悠介に復讐したいだけだ」
ジークン「……ウィ?そうなん?」
ジークンがエリオットを見上げて言う。
するとエリオットは見たこともないくらいに邪悪な笑みを浮かべ、頷いてみせた。
ジークン「……アンリミテッドストリーム!」
ツピシュボッガァアアアアアアアンッ!!!!!
エリオ「ギャアアアアーーーーーッ!!!!」
……瞬間、エリオットは吹き飛んだ。
ジークンはその糸のような目から次々と光線を放ち、その場を破壊してゆく。
シルバ 「な……なにをする貴様!!ここが何処か解っているのか!!」
ジークン「ウィ?……なんだコラこのボケ、この我に喧嘩売るっつぅんザマスか?
知ってるぜよ?王様ってのは兵士が居なけりゃなにもできねぇんザマスよね?」
シルバ 「……はっ……!!」
ジークン「今兵士達はみんなモミアゲ王国に向かってるザマス。
つまり貴様は何も出来ないわけであり……はァ〜ンア、ボケザマス〜〜……」
ジークンはジリジリとシルバに近づきながらモシャアと息を吐いた。
やがてその目に光を灯し、いざ放たんとして───
(TPが足りません!!)
ジークン「……ウィ!?」
心底驚いていた。
ジークン「…………それではごきげんよう!!」
そして驚き終えると画面の先のわたしに手を振り、笑顔のままに……逃げ出した。
バルグ 「……何がやりたかったのかさっぱりじゃな」
ルーゼン「所詮棒人間ですわね……
あれだけの攻撃が出来る棒人間なら、って期待したわたしが馬鹿でしたわ」
研究素体にでもするつもりだったのか、ルーゼンはひどく疲れた顔で溜め息を吐いた。
けどその素体を研究するための工房が無くなったことを、もう忘れたんだろうか。
ああいや、ルーゼンなら自分の工房くらいすぐに再構築できるか。
創造じゃない分、長引くとは思うが。
つくづく悠介の能力の規格の違いを思い知らされる。
リヴァ「で、シルバスタ?兵を退かせる気にはならないのか。
全滅するぞ、お前の自慢の精鋭が」
シルバ「馬鹿な。あの数だぞ?王を失った兵士を唆し味方に引き入れ、
さらにレファルドの兵も手に入れた。今さら何を恐れることがある」
リヴァ「………」
恐れること、か。
リヴァ「シルバ。お前は確かに相当数の兵士と魔導術師と民を手に入れた。
が───お前はもう誰にも勝てやしない」
シルバ「当然だ。戦う必要が無い。三国が合わさった私の力に誰が挑むという」
リヴァ「そんなもの、飛竜の一頭でも居れば十分だがな。
どちらにしろお前は王の器じゃない。いいや、誰も器になんて至れない」
シルバ「何を馬鹿な、私は王だ。
今さらお前がどんな戯言を言ったところでそれは変わらない」
リヴァ「……これでも親切で言ってやったんだけどな。解った、勝手にしろ。
わたしはもうレファルドの宮廷魔導術師じゃない。
あの国がどうなろうと、それは留守にしていた悠介に責任がある。
それに、ある意味ではいい機会だったのかもしれない。
悠介を信じきれる者が居るか否かが解ったんだからな」
シルバ「……?なにが言いたい」
リヴァ「ようやく、レファルドの新───いや。元国王と送話が繋がった。
どういう行動を取るかなんて知らないが、
もしレファルド皇国を真に手に入れたいなら挑んでみたらどうだ?」
シルバ「……ふはっ!今頃戻ってきたのか!?
何処だ、我が新皇国の精鋭の力でどんな相手だろうと捻じ伏せてやる!!
ふふふはははは……はぁっはははははははは!!!!」
シルバスタは狂ったように笑った。
その笑いがどれだけ続くか、ある意味見物だ。
さて───あの馬鹿者どもは今まで一体なにをしていたのか───
【ケース111:晦悠介/バトルフィールド】
耳に感じた違和感の正体───それは、リヴァイアからの送話によるものだった。
俺と彰利はすぐにアクセスを唱え、送話を繋げた。
声 《悠介!検察官!今まで何処で何をしていたんだ!》
悠介 「なにって……いろいろ。どうしたんだよ、血相変えてますって声出して」
リヴァイアの声はかなり焦りを混ぜたものだった。
しかしそれも最初の間だけで、送話の向こうで深呼吸の音が聞こえると───
次の瞬間には落ち着いた声で、とんでもないことを言ってみせた。
声 《率直に言うぞ。レファルドとオーエンの国がフェウエルの国の傘下に落ちた》
悠介 「───……」
彰利 「………」
マテ。今なんて言った?
声 《今の空界全域では悠介、お前が黒竜王の味方だということになっている。
お前が黒竜王を操ってオーエンの城を破壊した、ということにな》
悠介 「それ、本当なのか?レファルドのみんなは俺が黒竜王の味方だって───」
声 《慰めなんてなににもならないからハッキリ言ってやる。
レファルドはダイ・ジンと貧民街の者以外全員がお前の敵になった》
悠介 「───」
頭の中に直接届く声が、俺に確信を持たせた。
そうなれば決断なんて早いもので、
元々人をあまり信用してなかった俺は酷く冷静に『ああそうか』と頷いてしまった。
悠介 (……当たり前だ、俺は空界人でもなければ、王の器なんかじゃなかったんだ)
だったらそれでいい。
今こそ『王』なんてものを忘れ、俺はひとりの冒険者へと戻ろう。
相手が俺をどう思おうが関係無い。
声 《それだけならどうでもいいことなんだがな。
今現在民たちや攻め入った者たちはレファルドの城を破壊している。
だがその騒ぎを聞きつけたサイクロプスが群れで動き出したんだ。
このままでは民や兵は全滅だ》
彰利 「……薄情、って言ってもいいやな。悠介、お前はどうしたい?
俺はお前に付き合うぞ。信じる以前にあっさりと王であるお前を裏切ったヤツを、
俺は許せないって思ってる」
悠介 「……どうでもいいさ。要するに俺は王の器なんかじゃなかったってことだ。
裏切られることに恐怖なんて覚えやしないし今さらだ」
実の親に『死ね』って言われた。
仮の親に『死ね』って言われた。
裏切りなんて怖くないし、考えてみればこれは裏切りなんかじゃないだろう。
俺が王だなんていったって、民たちと親しかったわけじゃない。
突然責められれば命を優先させるのは当然だし、
裏切ることで命が助かるならそうするべきだ。
俺は───逆に民たちが俺なんかを裏切ることで命を永らえたことを喜んでいる。
だったらすることなんてひとつだ。
悠介 「───よしっ!彰利、サイクロプス退治に行くぞ!」
彰利 「なんと!?どうしたというんだい親友!
ここはモンスターと結託して人間どもを後悔の渦に巻き込むべきでしょう!
さぁ後悔させてあげましょう!立ち上がる時は今ですよ!」
悠介 「んなことやっても意味ないだろ。
ブレイバーがすることってのは人間を倒すことか?違うだろ」
彰利 「グ、グウム……しかし、悔しくないのかねキミ!ぼくは悔しいぞ!
だから後悔させてあげましょう!羽薄()きなさい『劈鳥』()!!」
彰利が自分の影から鎌を引き出すと、それを完全に闇に変えて無数の刃へと変えた。
それはよく出来た手裏剣のようであり、
数にして百はありそうなソレは彰利の周りで高速に回転しながら浮いていた。
彰利 「どうです、さあ後悔なさい。
この劈鳥を見て生き延びた者などただひとりとして無し!」
悠介 「……じゃあノートにも後悔させてみせてくれるのか」
彰利 「え?あ、いやその……そ、それはちょっと……」
ノート『ほう。単体で私に挑むか。存分に後悔させてみろ弦月彰利。
新たに手に入れた汝の力、その全てを駆使して抗え』
彰利 「ゲッ……ゲ、ゲゲゲゲェエーーーーーーーーーッ!!!!!」
のちに彼は語る。
『こんな筈じゃなかった』と……。
ヂガァンッ!!ズガガガガガォンッ!!!
彰利 「ギヤァッ!!アギギギャアアアアアーーーーーーーーっ!!!!」
杖へと変えた装飾品をノートが翳すと、
彰利は今一度ディバインパウアのようなものを喰らう破目になった。
もちろん彰利はあっさりと動かなくなり、
俺もまたノートが行使した行動だけで精神力を根こそぎ消費し、動けなくなる。
……覚悟はしてたが、消費量が多すぎだ。
たった一度の魔力行使でこうも動けなくなるなんて……
俺もまだまだ修行が足りないらしかった。
【ケース112:インタールード/───】
最初にソレの存在に気づいた理由は誰かの絶叫だった。
『わあ』という、短いけど大きな声が耳に届くと同時、
兵士たちは自分たちの後ろを見た。
兵士 「な、あ……サ、サイクロプス……!?」
そこに居たのは一つ目の巨大な人型のモンスターと……空飛ぶ謎の物体。
己の体躯に見合った棍棒を手にし、それを振り回すことで兵士たちを吹き飛ばしてゆく。
一振りで薙ぐその数は十に至り、返すスイングが逃げ出そうとする兵士を吹き飛ばす。
そのあまりの猛攻に逃げ出す人々は大勢。
だがその大勢は、目の前の地面に放たれたレーザーを見ると脚が竦んだ。
そう、サイクロプスはその一つ目から強力なレーザーを放ってみせたのだ。
逃げればレーザーで殺され、だからといって戦っても勝ち目は無い。
それを身に染みて感じた時の兵士や民、
魔導術師の心中はとても言い表せるものではなかっただろう。
───サイクロプスはひとまず全員を動けなくしてから殺してゆくつもりなのだろう。
一撃目は加減しているようで、
吹き飛んだ相手には見向きもせず逃げ惑う者から吹き飛ばしてゆく。
兵士 「ひっ───」
巨大な棍棒が振り上げられる。
それを見たら、他の者とは違い自分は死ぬんじゃないかと彼は思った。
頭の中に流れるのは走馬灯───といえばいいのだろうか。
親不孝に生きてきた自分ばかりが思い返された時、
彼は死への恐怖より親への申し訳なさに涙した。
……そんな時。
ツ───ボチュゥンッ!!!
サイクロプス「アギィイイイイイイイッ!!!!」
謎の物体 「メルヘンッ!?」
兵士 「っ───!?」
彼の目の前で棍棒を振り上げていたサイクロプスの腕が吹き飛んだ。
弧を描いて塵となってゆく腕を見て叫ぶサイクロプスに、仲間のサイクロプスも振り向く。
が、そのどれもが何かに攻撃されて吹き飛ぶ。
兵士 「え……?え……?」
もちろん辺りを見渡してもなにも見つからない。
が、驚きと恐怖の中でふと気づいたことがある。
それは───サイクロプス体の一部などが吹き飛ぶ方向が一定であること。
つまりそれは吹き飛ぶ方向とは反対側から何者かが攻撃しているということ。
そう感じた時、彼の傍に居た魔導術師が式を展開、遠くの方を見つめた。
恐らくは彼と同じことを考えたのだろう。
比較的難しいものではないとされる望遠の式で、魔導術師は遠くを見て───愕然とした。
魔導術師「……王───い、いや、元国王だ……」
兵士 「な、なんだって!?」
聞こえた声に兵士は驚きの声を上げた。
まさか、と思うのが普通だ。
彼らにとってモンスターと竜族は変わらない。
ここにモンスターが現れたということは、
この謀反を知った国王が差し向けたのではないかと大半の者が思ったくらいだ。
それが、何故自分たちを助けるのか。
魔導術師の声を聞いたすべての者がそう思ったことだろう。
そうしている間にも次々とサイクロプスは滅ぼされてゆく。
しかし相手だって馬鹿ではない。
滅ぼされてゆく仲間が崩れる方向から敵の居場所を察知し、そちらへ向けて走り出した。
その速さは相当なもので、ドスンドスンと地面を揺らしながら駆けてゆく。
が───相手にしてみればそれはいい的なのだろう。
先を走る者から次々と滅ぼされ、数が見る間に少なくなってゆく。
兵士 「すごい……!お、おい!
元国王はどんな攻撃でサイクロプスを殺してるんだ!?」
魔導術師「そ、それが……弓で……」
兵士 「弓───弓だって!?」
そんなことは有り得ない。
見る限りでは、人の影など全く見えない。
そんな距離からこれほど的確に敵を射抜くなど、どれだけの達人だろうと無茶だ。
だというのに、弓……?
兵士2「な、なぁ……ひとつ確認したいんだが……。
誰が黒竜王と国王が仲間だなんて言ったんだ?」
兵士 「え……そりゃ、ファウエルの兵士どもだろ……声大きくして叫んでただろ」
兵士2「……それ、誰かが確認したのか?
国王が黒竜王と一緒に居た場面でもなんでもいいけど。それにどうして俺達、
自国の王じゃなくて敵国の兵士の言うことなんて信じてるんだ?
……なんかおかしくないか?」
兵士 「言われてみれば……」
確かにおかしいと彼は感じた。
自分たちは国王のことはよく知らなかったが、
時折見かけた時はダイ・ジン殿とこの国のことについて熱心に話していた。
その表情に偽りなどなく、一介の兵である彼にも普通の態度で接してきたのだ。
思い返してみれば、親しみやすい苦笑とともに出された
『あまり畏まらないでくれ』という言葉はひどく暖かいものだった。
それは、なによりも他人を心配する目───前々国王と同じものだったのだ。
魔導術師「……草が茶に変色して……壁に妙な粉が……そうか───そういうことか!」
兵士 「どうした!?」
魔導術師「考えてみよう。
普通に考えれば他国の兵が敵である俺達を野放しにしたままでいるわけがない。
降伏すれば普通は捕虜のように捕まるだろう」
ざわ……その場に居た大多数がざわめいた。
それはそうだ。
いくら降伏したとはいえ、相手は自分たちを見ても武器を振ろうともしなかった。
それは何故か。
その場に居た全員がそう思ったことだろう。
魔導術師「そこでひとつ解ったことがある。最近研究が進められていたんだが、
この壁とこの草、この反応はとある魔導の粉が使われた時に起こる反応なんだ。
そしてそれが最近研究しているものの正体───『惑わし草』だ」
兵士 「惑わし草……?」
魔導術師「『言った言葉を信じさせる』という研究段階の魔導錬金術の粉だ。
惑わし草を粉にして、それに他の幻惑系のものを混ぜてゆく。
いつかこの国の国王が毒殺された時にも使われた反応が出てる」
兵士 「なんだって!?それじゃあ───」
魔導術師「間違いない……俺達は惑わされていた、ということだ」
今度こそ、その場に居た兵や魔導術師、民たちは吼えた。
誰にでもない、他国の者に対して。
彼ら自身、元───いや、現在の国王のことは知らなかったが、
彼が王になったことでこの国が良くなっていったことくらい知っていた。
それはもちろん、何処かに不満もあったかもしれない。
事実としてその不満の心を利用されたのだろうが、
相当数の者が住むこの国で不満が無くなるなんてことは有り得ないし、
人が居る限り不満は出るものだ。
それよりなにより、
彼らは草の所為とはいえ国王を裏切ってしまったことに酷く苛立ちを覚えた。
そして顔を見合わせて言うのだ。
『もう迷わない』と、口を揃えて。
───そうして立場は逆転した。
レファルドの兵や魔導術師、
民たちの言葉を聞いてようやく我にかえったオーエンの兵たちは
自分たちがされたことに苛立ちを覚え、
レファルドの民たちと結託してファウエルの兵たちを追い詰めていった。
逆転という言葉が確かなのであれば、もちろん相手の反応は『降伏』。
自分たちの勢力の二倍はあろうかという数と、
たったひとりでサイクロプスを次々と殺してゆくレファルドの王に恐怖した故だった。
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