───FantasticFantasia-Set65/破壊に揺れる空界。荒竜と皇竜───
【ケース152:晦悠介/狂王ミルハザード】
ルォオオオオオオオオオンッ!!!!!
悠介 「っ───」
ミルハザードが空を見上げる場所へ向かう中、耳に届いたのは巨大な咆哮。
己の喉さえ潰しかねないような声を張り上げ、空界の空や大地を震わせてみせた。
……これだけ離れていてこの音量だ、間近で聞いたら鼓膜が破裂するな。
悠介 「勝てる見込み、か───」
そんなものは、恐らくとして唱えるなら最初から存在してなかった。
それはもちろん今もだ。
だというのにどうして向かってゆくのか───死ににいくようなものだというのに。
……考えるまでもない。
守りたいものを守るためだ───!
悠介 「ゼットォオオオオッ!!!!」
自分でも驚くくらいの速度で空を駆り、
やがてイーグルアイを使うまでもなく視界に映った巨体に向かって声を張り上げた。
黒竜王『……グ……?……ツゴ……モリィイイ……!!?』
空へ向けられていた目が俺に向けられる。
その目は───先ほどと変わらず狂っていた。
黒竜王『ツゴモリィイイイイイイイイッ!!!!
グバァアアシャァアアアアアアアアッ!!!!』
もはやまともな咆哮ともとれない叫びをし、ミルハザードが俺に向かってくる。
姿は竜のままだ───デカいだけ攻撃が当たりやすいのは確か。
だがそれはさっきまでの話だろう。
今のこいつに小細工なんて通用するかどうか……いや、通用させなきゃいけないんだ。
自分の力を小細工だのなんだの言うのはいつだっていい。
今は全力で、出来ることをするだけだ───!!
悠介 「……『神魔』、開放───!!」
今まで恐れ、完全に開放していなかった神魔竜人を開放する。
さらに黄昏に流している反発反動力を背負うように受け止め───
悠介 「疾───!!」
───空を裂いて飛翔した。
ミルハザードはそんな俺を見て歓喜の表情を浮かべ、
竜の状態のまま腕を己の全長ほどはあろうかという長さの無骨な剣へと変化させる。
───一瞬の驚愕。
そんな俺目掛け、ミルハザードは惜しげも無く懇親を込めて剣を落とした。
ゴゴォッ!!キィイインッ!!!
悠介 「っ……!?」
紙一重で避けた───が、剣が描いた軌跡が空間を斬り裂いた。
空間干渉能力……月空力だろう。
悠介 (暴走してるくせにしっかりと能力を上乗せして攻撃してきてやがる……!
本能ってやつか───!?)
ビジュンッ───
悠介 「───!?しまっ───」
『月空力』。
その能力を見た時点でソレを思考に納めておくべきだった。
目の前で剣を振り下ろしていた筈のミルハザードは次の瞬間には俺の背後に存在し、
飛翔していた俺目掛けて剣ではなく巨大な手を振り下ろしてきた。
悠介 「ブラックホールが出ます!」
そっちがその気ならこっちも転移だ───!
その意気とともに瞬間的にブラックホールを創造し、ミルハザードの頭上に転移した。
悠介 「LuminousDestory(───Fill agains Fill. Sword of SupremeRuler(───!!
“支力付加”!!“黄竜()ッ……斬光剣()ァアアアーーーーッ”!!!!」
だが当然転移だけでは終わらない。
すぐさまに屠竜剣にエクスカリバーをエンチャントさせ、
真下に居るミルハザード目掛けて振り切った───!
ヂガァアッ───!!キヒィイイインッ!!!
黒竜王『ギィッ!?ギアァアアアアアッ!!!』
屠竜剣の効果に加え、
ヴィジャヤの紫電を纏った極光の剣閃がミルハザードの体を深く切り裂いた───!
───が。
黒竜王『ルゥウウ……ググ……!!ツゴモリィイ……!!』
悠介 「───!?っ……くそ!!」
その傷はすぐに回復してしまう。
たとえどんな深い傷を受けようとも月癒力で再生させ、月生力で回復してしまうのだ。
……ここに来て家系の力に振り回されるなんて。
これが因果っていうものなのだとしたら根元から断ち切りたい気分だった。
悠介 「何処まで行っても俺達はこの力に翻弄されるっていうのか……?ふざけろ!」
そんなことはうんざりだ。
欲しいのは不幸になるための力じゃない。
俺達はこんな事態に追い込まれるために家系として生まれてきたわけじゃ───ヴンッ!
悠介 「───!」
黒竜王『グォオオオッ!!!!』
ヴオッ───ブギヂィッ!!
悠介 「げはっ!?」
数瞬の戸惑い。
己の思考に意識を取られ、死と隣り合わせである戦いをほんの刹那に忘れた。
だがそれがいけなかった。
再び転移したミルハザードはその強靭な顎で背後から俺を噛み砕き、
四肢を完全に噛み潰したのちに硬い岩肌へと思い切り放り投げた。
───……少しの間ののち、グチャ、という何かが潰れる音が耳に届いた。
嫌味なくらいの速度で岩肌へ落とされた俺は血飛沫を散らして潰れた
その様は見る人が見れば、まるで地面に落ちた生卵のようだっただろう。
四肢は完全に砕け、ところどころが千切れかけ、べっとりと岩肌と染めてゆく俺の体。
意識は朦朧としているのに激痛の所為で消すことさえできない意識。
けど───気絶しなくてよかった。
ここで気絶してたら、それこそ死んでいた。
悠介 「っ……“キュア”……!」
砕けた体に回復魔法を流し、千切れかけた部分をくっつけてゆく。
回復を終えるとすぐに立ち上がり、ミルハザードを見上げて屠竜剣を構えた。
悠介 (……どうすればいい……)
攻撃の威力、行動の速さ、反応速度、回復速度、どれをとってもバケモノだ。
幸いなのは鱗の硬度が上がっていないことのみだろうか。
しかし傷つけたところで即座に回復してしまうなら同じことだ。
どうする───?
【ケース153:弦月彰利/最大の悪夢の具現】
彰利 「みさお……っ!おいみさおっ!」
気絶していたみさおを連れ、転移した先で黒を展開してから数分───
みさおはようやくゆっくりと目を開け、俺を見た。
みさお「……あきえ……?」
彰利 「───」
ひとまずは安堵した。
だがずっと安堵できる余裕なんて何処にも無い。
みさお「───!そうだ彰衛門さん!ゼットは!?」
彰利 「………」
みさおの質問に、ゆっくりと遠く離れた視界の先を見た。
釣られるようにみさおが見る景色の先では───
バカデカい黒竜と、ひとりの竜人が戦っていた。
みさお「え……?そんな……気配がまるで違う……」
彰利 「……あいつはもうお前の知ってるゼット=ミルハザードじゃない。
お前と融合して月操力を吸収して、今俺達が立ってる時間軸……
俺達の歴史に転移して、この時代のミルハザードと融合しちまったバケモノだ」
みさお「───!そんな……!」
『そんな』もなにもない。
これは確かに今現在目の前に存在している現実で、けれど悪夢よりも酷い現実なのだ。
みさお「止めないと───!悠介さんが殺されてしまいます!!」
彰利 「無駄だ───!解ってるだろ!?
やめろって言って止まってくれるくらいならこんなことにはならなかった!
あいつはもう完全に狂っちまってるんだよ!
今お前が行ったところで悠介の戦いの邪魔になるだけだ!」
みさお「っ……で、でも……じゃあどうしろっていうんですか!?」
彰利 「………」
そんなことは知らない。
知ってるなら教えてもらいたいくらいだ。
なまじっか力を得たからこそ解る現実───アレには誰も勝てない。
ただでさえバケモノな強さを持ってるっていうのに、その上月操力だ。
こんな風に見るだけしか出来ない俺達なんかより、
戦ってる悠介の方がよっぽど驚愕しているに違いない。
彰利 「……お前はここに居ろ。
この黒に紛れてればミルハザードに感知されることは無い」
みさお「え……?お前は、って……彰衛門さんは───?」
彰利 「決まってるだろ、悠介の加勢をしに行く。
コピーした鎌を全部三段階まで昇華出来れば少しは役に立てると思う」
みさお「そんなっ……!やめてください彰衛門さん!
ノートさんの修行の中でも鎌の昇華はアンリミテッドブラックオーダー以外、
全部二段階までしか昇華出来なかったじゃないですか!
それにノートさんに言われたじゃないですか!
鎌の昇華は『世界』の中でやらないと危険だって!」
彰利 「だったらここで見てろってのか!?親友が少しずつ殺されてゆく様を!
そんなのは御免だ!親友が死ぬ場面なんて見ていたくなんかねぇ!!」
みさお「っ……だけど……!」
彰利 「無茶でもやらなきゃいけない時ってのはあるんだよ……!
そんな場面を俺は何度だって見てきた……!」
危険がなんだ。
痛みがなんだ。
そんなもの、今悠介が感じている気分に比べたら、
きっと軽すぎて笑っちまうくらいのものだ。
だったら───!
声 『───やめておけ』
彰利 「───!?誰───……ノート……」
止める声に無意識に反応した高い声が一気に冷めた。
ノートは他の精霊達とディルを連れ、振り向いた先に立っていたからだ。
彰利 「……なんだよ。どういうことだよこれ……!
なんで悠介と『ともに在ること』を契約したお前らがここに居るんだよ……!!」
ノート『……マスターの意思だ。ひとりで戦わせてくれと言った』
彰利 「っ───ふざけんな!!
そんなの、あんたに言わせれば無謀の極みだって解りきったことだろ!?
なんで止めなかった!なんで無理にでも一緒に戦わなかったんだよ!!」
みさお「あ、彰衛門さんやめてくださいっ!仲間割れなんてしてる場合じゃないですよ!」
気づけば頭の中をチラつく怒りの衝動に流されるまま、ノートの胸倉を掴んでいた。
だがノートは酷く冷静な目で俺の目を睨み返すと、静かに言った。
ノート『解らないか。既に誰がどう戦えば、などという次元など超えているのだ。
私が力を使いきればなるほど、確かにミルハザードは滅ぼせるだろう。
だがそれは同時にマスターも死に絶えるということだ』
彰利 「───!?なんだよそれ!どういう───」
ノート『頭を冷やせ、馬鹿者。私は既にマスターと契約を果たした精霊だ。
マスターの裡に存在するオドや大気中に存在するマナによって力を行使する。
つまり【マスターの力の許容】を大きく超えた力は行使は出来ない。
それを理解させた上で訊くが。
私が力を行使した際、マスターはどうなっていた?』
彰利 「どうって───あ……」
……酷く力を消費したみたいに疲れていた。
ってことは───
ノート『そういうことだ。小さな存在の分離などならまだいい。
だがあの黒竜を破壊する力ともなれば、分離などの消費は豆粒のようなものだ。
そんな力を行使すればマスターが疲れ果て、死に至ることが何故解らない』
彰利 「っ……」
じゃあ……!じゃあどうしろっていうんだよ!
このまま見てるしかないってのか───!?
彰利 「───!そうだよ!なぁノート!俺の鎌のリミットを外せるか!?
全部の鎌を三段階まで引き上げられりゃあ少しは───」
ノート『無駄だ。やったところで汝の精神が力に飲まれ、
第二のミルハザードが誕生するだけのことだ。
解らないか?ダークマターの限界を超えた時でさえ
精神崩壊を起こしそうになった汝が、
どういった根拠のもとにそんなことを言う』
彰利 「親友を思えばこそだ……!!俺にとっての根拠なんてそれで十分なんだよ!!」
ノート『……どの道無駄だ。
よしんば成功したところでミルハザードに血の一滴でも飲まれれば、
より一層マスターが危機に陥ることになる』
彰利 「なんで!!」
ノート『考えてから物事を唱えろ。そして頭を冷やせ。
汝は既に闇であり影であり黒の真。そこまで至ったのなら解っている筈だ。
汝は黒であり、血の一滴から全身に至るまでが汝だ。
飛び散った【血液】は【血液】ではなく【汝】そのもの。
故に破壊されても生きることが出来、全てを消滅させられない限りは死なない。
ミルハザードが汝の血の一滴とでも融合すれば、
奴は汝の【黒】でさえ行使するようになるんだ。何故それが解らない』
彰利 「あ───」
待ってくれ。
じゃあ俺は……黒の真に至った所為で───親友を助けられないってのか……?
親友の支えになればと思って身に着けた能力がその実、
ここに来てまったく逆の意味に裏返った……?
よりにもよって、こんな救いの無い状況の中で───
彰利 「じゃあ……どうしたらいいんだよ……っ!
このまま悠介が死んでゆくのを見てろっていうのか……!?」
ノート『冗談じゃないな。私はマスターの死に様など見たくもなければ、
マスターとの契約が破られることも良しとしない。
マスターの傍らは退屈しないからな、死んでもらっては困るし───
元より死ぬなどとは考えていない』
彰利 「へ───?死ぬなんて考えてないって……じゃ、じゃあ何か策があるのか!?」
ノート『無い』
彰利 「んなっ───!!」
期待させんな!───と本気で叫びそうになったが、それをなんとか押さえた。
勝手に期待したのは俺だ、そんな風に叫ぶのは間違ってる。
けど───ノートならきっと何か出来るんじゃないかって思ったのも事実だった。
ノート『だが、傷ついたマスターを癒すことくらいは出来るだろう。
マスターが取る行動の中から【回復】の概念を除外するのだ』
彰利 「除外って……遠隔で悠介を回復しまくるってことか?」
ノート『その通りだ。見ての通りマスターは本気で戦ってはいるが、
あれが全力というわけでもない。
汝が黒の真に至ったように、マスターも黄昏の真に辿り着けばまだ違うんだが』
彰利 「───……?そういや……黄昏の真ってなんなんだ?
あれはあれでバケモノみたいな力だろ。あれ以上強化するなんて想像がつかない。
いや、そもそも教えちまえば強くなれるんじゃ───」
ノート『……今は余計なことは考えるな。
黄昏の真はマスター自身が気づかなければ意味を為さないのだ。
誰かに教わっているようでは、永遠に真には辿り着けない。
マスターの【世界】の真とはそういうものなんだ。
……好き好んでその意味をマスターに黙っていると思ったか?
言った筈だぞ、マスターが死ぬことは私は良しとは思わないと』
彰利 「………」
そっか。
本当はノートだって教えてやりたくて仕方無いんだ。
けどそれをしてしまったら悠介は真には至れなくなる。
それが解っているからこそ、今まで突き放すように───
彰利 「……あんた、随分不器用なんだな」
ノート『黙れ、小童が』
ソッポ向いてぶっきらぼうに言うノート。
その仕種があんまりにも似合ってなかった所為か、
こんな状況だっていうのに笑みがこぼれた。
ノート『……いいか汝ら。
回復の魔法や能力が使えない者はマスターに諸力を送り、力の枯渇を防げ。
反発反動力を使っている今ならそんな心配は無いのかもしれないが、
竜人の力の暴走を抑制することくらいは出来る筈だ。
回復が出来る者はマスターに回復の力を送れ。
だがあまり力を込めるな。こちらが力尽きてしまっては元も子も無い』
彰利 「ノートは?どうするんだ」
ノート『私は諸力を送るとしよう。
回復の力を行使し、マスターに送ったところでマスターが疲れるだけだ。
私の力の行使自体がマスターの力を消費するものなのだから、
それではまるで意味がないだろう』
彰利 「そっか……」
何も言えなかった。
さっきまでの俺なら怒りに任せて『役立たず』とでも罵ったかもしれない。
けど、ノートの今の状況は俺に似すぎていた。
『力があるからこそ力になれない』
本当ならノートも癒しに回りたかったのかもしれない。
一瞬だけだけど、少しだけ辛そうな顔をしていた。
自分の力が大きすぎなければ悠介の負担になることなんて無かったのに。
───力の規模が違いすぎるんだ。
恐らく、悠介の中にあるっていう『無の諸力』だけじゃあ、
ノートの力を行使しきれないんだろう。
だからこそ自然的に悠介の中に存在する力が失われ、疲れてしまう。
それが解ってるからこそ何も出来ない辛さ───
それを、この場に居るやつらの中で俺だけが解ってやれた気がした。
【ケース154:晦悠介/限界超越の先へ】
───ヴン……
悠介 「え───?」
ふと感じたやさしい違和感。
斬られ、叩きつけられ、踏み潰され、
消されかけてなお立ち上がった俺の体がやさしい気配に包まれた。
すると体の至るところに点在していた『癒しきれていなかった傷』が消えてゆく。
悠介 「これは……───いや」
余計なことは考えるな。
今は目の前の馬鹿野郎を潰すことだけを考えろ───!
悠介 (でも───サンキュ。
もし生きてこの戦いを終わらせられたら───嫌ってくらい礼を言わせてくれ)
それだけを小さく思考して、飛翼を広げて飛翔した。
黒竜王『ギアァアアアアアアォオオオオンッ!!!!』
ヴオッ───ヂギィンッ!!
振るわれる無骨な巨剣を、虚空に創造して放ったグングニルにて逸らし、
屠竜剣に紫電と極光を込めて振るう───!
悠介 「“輝剣、一閃ニテ滅竜()───”!!」
ゾフィィンッ!!!
黒竜王『ギアァアアアォオオオオオンッ!!!!』
ミルハザードの長い喉が大きく裂ける。
だが裂き切れなかった部分からどんどんとくっついてゆき───
悠介 「させるかっ!!“黄竜斬光剣()ァアアアーーーーッ”!!!!」
ガカァッキィイインッ!!ゾブシャアアッ!!
黒竜王『グギャアアアォオオオオォォォッ!!!!』
悠介 「───!よしっ!」
放った屠竜剣から放った紫電を込めたエクスカリバーが、
くっついていた喉部分を完全に切り裂いた。
結果、ミルハザードの首から上は虚空に舞い───……消えた。
悠介 「え……?はっ───!!」
見下ろす地面に影が差した。
俺はすぐさまブックホールを創造し、転移をし───ベギチャアッ!!
悠介 「ギアッ───、アアァアアアアアアアッ!!!」
……否。
空間移動をしている者にさえ干渉する月空力と、
断ち切る力の月切力を複合した剣の一撃に、空間ごと体を引き裂かれた。
そして悟る。
先ほど切り裂いたミルハザードは『見せられていた幻覚だったのだ』と。
月奏力・幻惑の調べか……!けど、いつの間に───?音色なんて全然───
黒竜王『ギアァアアアアアアォオオオオンッ!!!!!』
悠介 「───……、……っ……そういうことかよ……!」
やってられない。
つまり───この耳を劈く咆哮こそが『調べ』だったのだ。
おかしいと思ったんだ、さっきから断続的にこの声質の咆哮ばかりを放っていた。
月奏力ってのは音を使うものだと彰利は言った。
だったらつまり、音色でなくても音であればなんでもいいんだろう。
悠介 「くそ───!」
厄介すぎて眩暈がする。
力の規模が違いすぎる───同じ月操力でも、こうまで効果が歴然としているものか。
それでも神魔竜人の力で傷つけた部位は
完全には癒されきっていないことに少なからずの安堵はある。
完治させるには傷が深すぎるのか、屠竜の力故なのか。
それとも織り交ぜている各精霊達の諸力が属性そのものを捻じ曲げているために、
回復の基準自体が滅茶苦茶になっているためなのか。
……どうだっていい。
攻撃が無駄じゃないことさえ解ればまだ頑張れる───!
悠介 「疾───!!」
今一度飛翼をはためかせて飛翔した。
───裂かれた傷は何をするまでもなく回復していた。
俺はもう一度彰利やみさお、精霊達に感謝をすると屠竜剣を握り締めた。
悠介 「はぁっ!!」
───スフィンッ!!
振るった剣が虚空を裂く。
その場に居た筈のミルハザードは消え、やはり後ろから現れた。
悠介 「何度もやられりゃ見切れる!弾けろイメージ!“無限を紡ぐ剣槍の瞬き()”!!」
自分の背後に張っておいた想像の蓄積にスイッチを入れる。
その瞬間、俺に攻撃をしようと大口を開けて極光を溜めていたミルハザードに
幾多もの“架空・雷迅槍”が襲い掛かる。
無茶な創造だったがこうでもしなければ仕留められない───!
悠介 「捻り穿て雷槍!“紫電が拠代たる雷帝の雷()”!!」
ビヂィッ……!ガガガォン!!ガォンガォンガォオンッ!!!
紫電に包まれた景色が一斉に飛翔する。
標的は巨大。
極光を溜めていたためか狂っていたためか、
避けようともしないで悪夢のような雷迅槍の雨に穿たれてゆく。
槍が鱗を焦がし、砕き、肉を削いでなお焦がし、貫く前に爆裂する。
外側も内側も破壊される中、やはりミルハザードはあの咆哮を吐き出していた。
……まさかまた幻惑───?
そんな不安に駆られたが、破壊の音も肉が紫電に焦がされる匂いも全てが真実。
だとしたらこれで屠れるだなんて思うな。
───穿たれ続けているミルハザードから離れる。
さらに上空に飛翔した俺は屠竜剣を雷神槍に変え、
悠介 「おまけだ───受け取れ!!」
ミルハザード目掛けて懇親の力で投擲した───!
黒竜王『───!?ルォオオオオオオオッ!!!!』
それこそ本能だったのだろうか。
ミルハザードは己の体を穿ち続ける雷迅槍よりも、
より高い虚空から落とされた雷神槍こそを見上げ、溜めていた極光を放った。
バガァッ!!ヂヂッ……ヂギィィイイイインッ!!!!
雷神槍とミルハザードのレーザーが衝突する。
双方ともに進退譲らず───否。
僅かであるが雷神槍の方が押し戻されてきている。
悠介 「っ……この───!」
飛翔している雷神槍にイメージを繋げ、後押ししてやるように力を注ぐ。
飛翔しているだけのものに対し、
常に放たれ続けている極光では───単純に考えれば押し負けるのは当然だ。
だからそうした。
雷神槍に俺のありったけを込め、体を穿たれてなお俺を睨むその双眼めがけて───!!
悠介 「づっ……!!ぐ、……っ……いっけぇえええーーーーーーっ!!!!」
ヂガァンッ!!
黒竜王『ギ───!?』
上乗せした力はほぼ全力。
雷神槍から溢れた力の余波が数瞬だけミルハザードのレーザーを弾き───
本当に刹那的であったその瞬間。
金色に輝いた雷神槍は飛翔を再開し───もう二度と止まることは無かった。
黒竜王『ギッ───ギィイイアァアアアアアアッ!!!!』
目前に迫る破壊の象徴を見て、ミルハザードは叫んだ。
先ほどまでの妙な咆哮とは違う。
己の魂を狩りにきた死神にでもあったかのように、絶叫してみせたのだ。
放っていたレーザーにありったけの月操力や竜の力を上乗せしようとしたのか、
その場にそういった波動が溢れたが───行動を開始するには遅すぎた。
ゾバァンッ!!ヂガガギバッシャァアアアアアンッ!!!!
黒竜王『ギギィイイアァアアアアアアッ!!!!』
開いていた口から尾にかけて貫通され、
さらに極光と紫電と屠竜に内側から破壊されたミルハザードは、
それまで一度も上げなかった痛々しい咆哮を放った。
鱗は屠竜に破壊され、肉は極光に滅ぼされ、それら全てが紫電に焼かれてゆく。
───最後に青白い雷を帯びた爆発を起こし、雷神槍が手元に戻ってきた。
役目を果たした故だろうか。
ともかく俺はようやく一息を吐いて、爆煙の舞う大地を見下ろした。
───やがて煙は風に散らされてゆく。
晴れてゆく景色の中に、あの巨体は存在しなかった。
見下ろす大地にはただ血溜まりが存在していて、
今戦っていたミルハザードが幻覚などではなかったことを証明する。
……なんとか終わらせられた。
そう思うと、なんだか疲れが一気に体を支配した。
大きな溜め息をとともに俺は大地へと降りてゆき───
───そして。その大地に立っている人影に初めて気がついた。
頭部には角を生やし、尾を浮かせて大地を叩くその様は竜人。
つまり───槍が手元に戻ってきた意味とは、気を抜くなという警告でしかなかったのだ。
ゼット「ツゴモリ……ツゴモリィイイ……!!」
───ゼット=ミルハザードは生きていた。
あれだけの攻撃をくらってなお俺を憎々しげに睨み、生きていた。
何故、と考えると簡単に答えは出た。
体を滅ぼされてゆくのは標的が大きかった故。それはさっき自分で納得したことだ。
あの状況、体が大きければ大きいほど穿たれやすく、
回復の規模だって大きい所為で集中的に治癒はきかない。
悠介 「…………」
ここまで来ると完全に本能だとしか言えない。
狂ったソイツはあの状況の中で自分が生き残るための手段を理解し、
欠損した体でも自分を象っていられる状態を選んだのだ。
───ただ俺を殺すためという本能のみで、だ。
ゼット「ギリィイイイイイイイイイァアアッ!!!!!」
バガァンッ!!
大地を踏み砕き、クレーターさえ作るほどの勢いでゼットが飛翔する。
飛翔する先にあるのは───当然俺の存在だ。
俺はすぐさま槍を強く握り、紫電と極光、屠竜と戦斧石の力を全力で解放した。
神魔竜人は既に臨界を超越し、
体中に走る天地空間中の回路が焼けるような感覚に襲われている。
だがそれでも開放をやめない。
やめればその瞬間に殺されるだけだ───そんなことは解りきっている。
ああして力の限りを放った今でも反発半動力から流れる力は溢れ返り、
俺を内側から破裂でもさせたいのだとでも言うように焼いてゆく。
───それでも止まるわけにはいかなかった。
雷神槍を屠竜剣に変え、俺もまた構える。
ゼット「ツゴモリィイイイイイイッ!!!!」
悠介 「っ……ゼットォオオオオオオオッ!!!」
今だ再生過程にあるゼットが剣を滅茶苦茶に振るう。
無骨であるその剣の振り方は同じく無骨。
だが確実に構えていた剣を弾き、その度に俺を吹き飛ばす。
俺も負けじと剣を振るうが、
それを逆に弾き返すほどの目の前の存在の強さは馬鹿げていた。
悠介 「づ、う───!!はぁっ……!!」
見る間に俺の息は上がってゆく。
当然だ、反発半動力の力が有り余っているとはいえ、
それは『俺の力』として受け入れていないものだ。
そんなものが無尽蔵に俺の中を巡っていけば、力の配分が上手く出来ずにすぐに疲れる。
一撃一撃を振るうのがとんでもなく重くなってゆき───ザゴォンッ!!
悠介 「ぶっ───ぐ……!!」
やがて。
ゼットが狂ったように振るう剣の一撃が俺の肩と鎖骨を砕き裂いた。
ミルハザードはそれを確認すると顎を上下させて笑い、
鋸()で木でも削り斬るように強引に剣を引き抜いた。
悠介 「───、……!!」
痛みで意識が飛びかける。
ヤバイ部分でも斬られたのか血が噴水のように舞い上がり、
それを浴びたミルハザードは狂気の眼で第二撃を繰り出した。
───その形相は悪鬼のごとく。
まるでさらに血を浴びさせろと吼えるように俺を切り刻んでゆく。
イージスを創造して受け止めようとしたが、肩を裂かれたために左腕は上がらない。
すぐに意識を切り替えて右手に持つ屠竜剣で受け止めた───が。
ギ───バガッシャァアアアアアアン!!!
悠介 「──────!!!」
手にしていた屠竜剣は無骨な剣の懇親によって───無残に砕け散った。
まさか───そう思った瞬間には全てが空界の虚空に舞い散った。
破片はまるで桜吹雪のように大地へと舞い落ちて……
俺はヒビの入った刀身と柄のみ残された屠竜剣をただ呆然と見つめていた。
───当然、こんな無様な隙を逃す敵など居るまい。
狂い、戦いにのみ執着した戦の具現は再び剣を振るった。
屠竜剣を破壊しただけあって、同じくヒビだらけであり、触れれば砕けそうな無骨な剣。
だがそれは容易く俺の心臓を貫通し───
悠介 「───あ……」
全てを悟った時には、その全てが終わりを迎えていた。
ニヤリと笑うゼットが剣に刺さった俺を一瞥し、
汚れでも振り払うかのように砕けた刀身ごと俺を空界の大地へと捨てた。
───死ぬ。
今度こそだめだと思った。
意識は急激に凍てついていき、何も考えられなくなる。
───死ぬ。
血が流れる。
溢れて、流れて───けど、まだ少しだけ生きている心臓が体中に一生懸命血を送る。
……やめてくれ、その血は俺には冷たすぎる。
───死ぬ。
……どうして冷たいんだっけ?
───ああ、そっか。
心臓に穴空けられたから、空気に触れた所為で血が冷たいんだ。
だから流れてくる血まで冷たくて───
───死ぬ。
ドクン、ドクンという音が小さくなってゆく。
小さくなってゆくけど───傷は塞がってゆく。
ああ……まだあいつらは俺のことを信じて回復してくれてる。
けどダメなんだ。
心臓に刺さったままの剣が冷たいんだ。
心臓が熱を奪われてゆく。
砕けた刀身が刺さってとても痛い。
───死ぬ。
ドクンドクンと鳴っていた音がトク、トク、と小さなものになってゆく。
死ぬって言葉が間近に迫ってきた気分だった。
───死ぬ。
……死───
…………?
……変だ。
自分の鼓動はもう止まっている。
心臓は動いてないし、俺はもう死んでいる筈だった。
それなのに体は力に溢れ、心臓に刺さっていた剣が粉々に砕けて消滅した。
けれど心臓は止まったままだ。
意識だってハッキリしないし、体はミシミシと悲鳴を上げている。
どうして───
───どうして?そんなことは簡単だろ。
心臓が冷たい。
けれど体の悲鳴とともにゆっくりと温かくなってゆくと、
別の鼓動に共振するようにゆっくりと動いた。
でもこの体を支配しているのは別の鼓動。
止まっていたのは『人』の鼓動であり、このとてつもなく大きな鼓動の正体は───
【ケース155:弦月彰利/驚愕に染まる世界】
ギシャァアアアアアォオオオオオンッ!!!!!
彰利 「っ……!!!」
みさお「ひぅ……っ!!!」
耳を劈く轟音。
それは竜が放つ咆哮であり、俺はこの咆哮を知っていた。
さっきまで鳴り響いていたミルハザードの咆哮が霞むほどの強烈な存在感。
聞いただけで心の奥底から震えてしまうそれは、間違い無く───皇竜王のものだった。
ノート『っ……とうとう竜と化してしまったか……!!』
遥か遠くの景色に黒紫色の巨大竜が体を金色に輝かせている。
黄昏は既に消え、晦悠介としての反応はいつの間にか酷く微弱なものに変わっていた。
みさおは咆哮と気配を感じただけで屈んで震えだしてしまい、
涙さえ浮かべて立てなくなっていた。
俺だって脚が竦んで動けない。
これが臨界を超えた竜人が竜と化した波動……竜人の時の波動とは比べ物にならない。
こんなヤツがレーザーなんて撃ったら……どうなっちまうんだ……!?
彰利 「ノ……!……っ……───!」
放とうとした声が震えた。
だが意思をしっかりもってもう一度声を発すると、それはちゃんとした言葉になった。
彰利 「ノート!っ……ど、どうすれば───!」
けどその質問は要領を得ない。
言った自分でさえ訳が解らず、
言いたかった言葉さえ忘れてしまうほどの恐怖がこの場を支配していた。
ノート『どうにかしてマスターの意識を戻してやる必要がある。
思い切り暴れれば抗体は出来るが、引き換えに空界は荒野と化すだろう。
アレは様々な飛竜の力と泉の原水により覚醒した竜だ。
そこいらの竜王など足元にも及ばん。当然……あのミルハザードでさえだ』
彰利 「いっ───!?」
冗談だろ、なんて言えなかった。
離れていてこの存在感、離れていてこの力の波動。
それを以ってすれば、確かにここは荒野と化すだろう。
悠介だったら絶対にやらないことだが、今感じる異様な殺気を考えれば解る。
今のアレは『竜』であり、『悠介』じゃない。
ある意味でミルハザードより性質の悪い、生まれたての最強の赤子のようなものだ。
彰利 「どうすれば戻るんだ!?さすがに崩壊なんてさせられねぇよ!!」
ノート『今のマスター……【皇竜】と呼ぼうか。
皇竜の意識の奥底に引っ込んでいるマスターの精神に干渉できれば、
或いはなんとかなるかもしれない』
彰利 「そ、そっか!じゃあすぐやってくれ!パパーーッと!
もうあんな姿になってるんだからノートとか力使い放題だろ!?」
ノート『無茶を言うな。先ほども言ったが私は【マスターと】契約した。
それは即ちあの皇竜とではないということにイコールする』
彰利 「え……じゃあ」
ノート『無理だ。どの道マスターの力を使うことになるのだから、
今使えば弱っているマスターの精神が潰れ、死に至るだけだ』
彰利 「───〜〜〜〜っ……!!」
どうすりゃあいい……!
今のうちはミルハザードが攻撃してくれてるからミルハザードの方に注意がいってる。
けど───いくら俺でも解る。
今の悠介にこそ誰も勝てない。
それはあのミルハザードでさえ例外じゃない。
強者が強敵と出会って喜んでいられるほど差が狭いわけでもない。
あんなの、規格外にも程がある。
現に───あれほど神魔竜人状態の悠介を圧倒的に追い詰めていたミルハザードが、
可哀想に思えるくらいにボロボロにやられていっている。
体を再生させ、同じく竜化して向かってみるも───レーザー一撃で全ては覆る。
いや、最初から覆せるほどの何かがあったわけじゃないんだ。
ミルハザードにとって、悠介を竜化させたことこそが最大の悪夢。
解るだろうか───狂った思考でも。
後悔という言葉の意味は、具現として汝の目前に君臨しているという事実を。
みるみる弱ってゆくミルハザードは、再び竜人と化して大地に倒れた。
だが皇竜は攻撃を止めない。
その巨大な足でミルハザードを踏み潰し、口に青紫色の極光を込めていた。
例えるのならば雷竜。
紫電を込めたその一撃の威力は、エクスカリバーのおよそ何倍なのか。
竜化したミルハザードでさえ一撃で屠りかねないソレは、
二倍三倍では喩えられそうもなかった。
ノート『───!まずい、皇竜を止めろ!
あんな威力の極光を大地に向かって放てば、空界そのものが───!!』
彰利 「なっ───!くっそぉおおおっ!!!」
震える体を、舌を噛むことで奮い立たせた。
すぐさま皇竜の頭上へ転移し、ダークマターを昇華させて骨子にする。
影鎌繰り殺ぐ闇黒の秩序()……巨大化に移行する鎌の力を限界まで圧縮させ、
姿や大きさは普段のままに皇竜を見下ろした。
彰利 「悠介ぇえええええええっ!!!!」
皇竜王『───……』
ありったけの声で『悠介』と叫んだ。
皇竜王はそれに反応したのか、それともただ雑音に反応しただけなのか。
……判断材料はひとつだけだった。
皇竜王『ルゥォオオオオオオオッ!!!!』
ヴゥウウウウ……───ン……!!!!
皇竜王は俺を見上げながら巨大な飛翼を広げ、大気中から何かを吸収していった。
やがて先ほど遠めに見たように、黒紫だった体が金色に染まり───
ようやく、吸収しているものがマナであることに俺は気づいた。
───避けろ!死ぬぞ!!
彰利 「───!!」
全身と全神経がそう叫んだ。
俺はそれに促されるままに転移をし、浮いていた虚空から逃げ出した。
だが転移した先で見たものは、
俺の方向をしっかりと捉えて再びマナを吸収している皇竜の姿だ。
訳が解らない───どうして───そう思った瞬間、
中井出達に見せた映像の中のことを思い出した。
───イーグルアイ。
相手の一手先を見る眼、なんていうものを悠介は持っていた。
あの皇竜の体が悠介自身から為るものなのであれば、当然その眼は───!!
彰利 「う、あ───うあぁああああああああっ!!!!」
知らず、口から恐怖への声が漏れた。
とった行動は逃走。
この竜を前に、勇敢に戦うなんて選択肢はあっちゃならない───そう確信した。
だから俺はすぐさまに地面に転移して自分の影に潜り込むことで、
その場からべつの場所の影へと逃れることが出来た。
……よく、暴走した誰かが、誰かの血や涙によって正気に戻るなんて物語があるが。
あんなものは現実には起こりえないのだ。
当然だ。
いくらこの世界がファンタジーに溢れていようとも、
目の前にあるものは空想でも幻想でも無い現実なのだから。
それを教訓にし、ノートの影から出現したあたりで……
俺は大きく息を吐いてから震えだし、しばらく動けなくなってしまっていた。
ノート『無事でなによりだが、あまり無茶をするな』
彰利 「と、止めろって言ったのはっ……ノ、ノート……だろ……!!」
震える体で出せるのは震える声のみ。
恐怖が体を支配する中、俺は安堵の一息さえ吐けずに座り込んでいた。
それでも己に強く言い聞かせるように深呼吸をし───
彰利 「っ……はぁ、すぅ……はぁ……───んぐっ───。
……う、うし……。それで───これからどうする?」
ようやく恐怖を押し込めることに成功した俺は、改めてノートに次の行動を訊ねた。
だがノートは顎に手を当てたまま小さく頷いた。
って、そういや───
彰利 「なぁノート。今さら気になったんだけど───
さっきからずっとニンフ達が居ないような気がするんだけど……」
ノート『ああ。信頼の脈というのはなかなかどうして、
作っておくに越したことは無いということだ。なんとかなるかもしれない』
彰利 「───」
ノートの言葉に、思わず遠くの皇竜に向き直った。
───が。
彰利 「───!!」
死神の視力で眺めた遠くの景色───
たった今向き直った先に居る皇竜と『目が合った』。
『ヤバイ』。
ただその言葉だけが脳内を支配する。
彰利 「っ───逃げろぉおおおおおおっ!!!!」
俺が叫ぶのとバカデカい破壊の光が放たれたのはほぼ同時。
俺はその場に居た精霊全員とディルとみさおを影で包み込むと、
すぐさま遠くの影へと転移した。
だがその転移でさえ予測されていて、
まるで重ねるように放たれた極光を何度も紙一重で逃げ回った。
思考を支配する物事は、
『これが夢だったら、次に目を開けた先がホームレス時代でも構わない』という───
滅茶苦茶だけど切実な願いだけだった。
【ケース156:晦悠介/意思を持つこと、夢見ること】
───コーーーン……コーーーーン……
断続的に何かが聞こえる。
ずっと気になってはいたけれど、
いざこうして精神世界に降り立つと、その音の発生源を確かめたいと思えなかった。
ソード『……何を腐っている、我が宿主よ』
広い世界に、ポツンとソードが降り立った。
いつ現れたのかは解らないけど、その存在は確かに目の前に居た。
───見える景色は黄昏。
一面の草原に約束の木があり、
その場にソードが立っていると修行した日々ばかりを思い出す。
けど───思い出すばかりで、体は死んだように動いてくれない。
ソード『違うな。動けないのではなく動くことを諦めているだけだ』
……そんなこと言われたって解らない。
ただ体が酷くダルい。
重くて、指一本動かすのでさえ難儀する。
呼吸さえ重く、心臓の鼓動がやけに小さく聞こえる。
……それはそうか、一度停止したんだから。
悠介 『……なぁ。そういえばなんでソードは───』
ソード『こんなところに居るのか、か?それは私の台詞だぞ宿主よ。
汝こそここで何をしている』
悠介 『なにって……』
ソード『休憩か?それとも敵わぬと知って逃げ出してきたか?
だとしたら汝の意思とは。目的とは。その程度のものだったのか?』
悠介 『……違う。まだ終わりだなんて思ってない。
けど心臓を貫かれたんだ。お前も俺の中に居たなら知ってるだろ?
俺がこんなところに居るのは、俺があいつに殺されたからで───』
ソード『殺された?だが汝の心の臓は今だ脈打っているぞ。
汝はそれに対し、何を以って死と唱える。
汝は一度心音が停止した者は、
例え奇跡的に意識を復活させても死人と唱えるか』
悠介 『そうじゃない……そうじゃないけど───』
頭が上手く働いてくれない。
なんて言えばいいのかも出てこなくて、自分が虚ろに思えてしまう。
ソード『答えられぬか……では質問を変えよう。汝には何が出来る』
悠介 『え……?』
なにって───質問が漠然としすぎてて……
ソード『なんでもいい。歩けるか、走れるか。叫べるか、歌えるか。
壊せるか、癒せるか───そして、創れるか、超えられるか』
悠介 『───……』
ソード『今一度問う。汝には何が出来る。今の汝には何が出来る』
悠介 『今の……俺……?』
解らない。
解らないけど───何もしないのはいけないと思った。
動けるなら動いて、叫べるなら叫ぼう───そうじゃないと俺が今ここに居る意味が無い。
そう思えた。
けれど───立ち上がろうとしても体は動いてくれず、
叫ぼうとしても声は嗄れたように動かない。
……解らなくなってきた。
俺には何が───
悠介 『何が……?そんなの───』
そんなの、ずっと昔から解っていることだろう?
俺は───俺には───
悠介 『───弾けろ』
知らず、口が動いていた。
大きな声でも小さな声でもない、『俺自身』の声が漏れる。
すると目の前に立っていた存在が姿を変え、俺に笑みを見せた。
悠介 『……ソード……!?お前……!』
ソード『そう。汝は創造することが出来る。体が動かなくとも創造は可能だ。
たとえその力が枯渇しようとも、汝の裡にはその根元があることを知れ。
……今こそ、“三つの戒め”を汝に送ろう。条件はミルハザードの破壊だ。
それが終わった時こそ───もう一度会うとしよう』
悠介 『ま、待ってくれ!なんだってお前───!』
ソードが背中を向けて歩いてゆく。
俺はそれを追おうとして───初めて自分の体が動くようになっていることに気づいた。
悠介 『え……?これって……』
ソード『この世界は汝の精神そのものだ。故に───この世界に活力を必要とするならば、
世界の中心である汝自身が【何かが出来る】と思うこと自体が重要。
精神を動かすのは心だ。そして、心を動かすものとは意思。それを忘れるな』
悠介 『ちょ───待て!待てって言ってるだろが!』
ソード『私よりも目の前で起こっている出来事を潰せ。
潰すまでは例え汝が死に至ろうとも私は現れん。
汝自身が超え、汝自身が潰せ。アレは汝の敵だ』
ソードが消えてゆく。
追おうとした足は既に止まっていて、俺は消えてゆく背中を見送るしかなかった。
声 『……言い忘れた。汝に客が来ているぞ。
汝の力を消費させるわけにはいかなかったのでな、
特別に私の力を消費して招いておいた』
悠介 『へ……?客……?』
聞き返す声が虚空に消える。
気づけばソードは完全に消えていて、どれだけ呼ぼうとも現れやしなかった。
なんだってんだ……?
と、そんなことを考えていた時───俺の目の前に、六つの人影が現れた。
……ニンフだ。
悠介 『……お前ら……どうして……』
ドリアード『マスターの暴走を止めるため、です』
悠介 『暴走……?俺はべつに暴れてないが……』
オレアード『はい。確かにこの世界の貴方は酷く落ち着いています。
ですが、もうひとりの貴方───皇竜はそうではありません』
悠介 『皇竜……?って、まさか───』
ナイアード『そうです。貴方は竜と化し、空界を滅ぼしかねない力を以って暴れています。
今はマスターの親友やスピリットオブノートが引き付けていますが、
それももはや時間の問題です』
悠介 『…………』
ナパイア 『目覚めてください。
貴方が言葉や態度以上に親友のことを大事にしていることは知っています。
けれどその親友が、貴方自身の手で滅んでしまうかもしれないのです。
もしそんなことになってしまったら、貴方は一生ここから出られない』
ネレイド 『思い出してください。
貴方が守りたいものを守れるものにするために、
旅をするきっかけとはなんだったのかを。
そして自分自身の力で立ち上がってください。
貴方の意思を受け止めるのはやはり、
貴方自身を置いて他に存在しないのだから』
悠介 「俺自身の意思……力───……?」
アルセイド『……今度はちゃんと、自分の力の意味に気づけるといいね……?』
悠介 「アルセイド……」
ニンフ 『───思い出してください。貴方の意思は、あの時───
私たちの手を意識の手で掴んだ時より既に【自然】と繋がっている。
思い出してください。わたしたちと契約した時に感じた世界の息吹を。
そして───感じてください。貴方はひとりではないということを───!』
悠介 「───!」
カシャァン……
意識の片隅で、何かが砕ける音がした。
何を言われたってまだ何も解らないけど、それでも理解できることは沢山あった筈だった。
……自然に耳を傾けよう。
俺の『裡』は世界であり、世界とは自然そのもの。
だったらきっと、『俺自身』の声が何処かに存在している筈だ。
そして歩いていこう。
一緒に、信頼するみんなと───!
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