───護廷十三隊十二番隊隊長及び技術開発局二代目局長を思う黒───
【ケース03:弦月彰利(超再)/僕らの夢と希望よウェルカム】
ゴォオオオ……
彰利&悠黄奈&みさお『フ〜〜ア〜〜ムア〜〜〜イ!!!』
さて、やってぇんきました空中庭園!!
今回はエメオなんたらの歓迎も無いようで、
オイラたちは早速その高き場所でフーアムアイを叫びました!最強!
彰利 「FUUUUUM!!さすがって言えるほどの眺めだぜ!!
こんな日はぁ〜〜……なぁ!?なんかある気がするよなぁ!?」
みさお「なにを父上みたいなこと言ってるんですか……。
なにかある気がする、じゃなくて『あったからこそ』ここに居るんですよ」
彰利 「うっわ元も子もねぇ!なんつーかキミ最近冷たくなったよ!?
そんなんじゃ将来は悠介になるよ!?」
みさお「べつに構いませんよ?わたし、悠介さんの性格嫌いじゃありませんから。
……モミアゲの逆鱗を除けばですけど」
彰利 「………」
それはそうだな、とか思いつつ……
こげなことを言えるからこそのアレなのかなぁとか思ってしまった。
考えてみりゃあ俺と悠介が初めて会った『冥月』は、
ほんに武士語を巧みに語るおなごだった。
しかもどちらかと言えば悠介に気があるようなご様子。
……前には否定されたが、この小娘め……やはり悠介に惹かれておるのか?
けどまあ……なぁ?相手が悠介ならべつに父さんは文句はありませんよ?
ぶっきらぼうだが、守りたいと思ったヤツは不器用なりに大事にする男だし。
彰利 「……ま、いいさね。そんじゃあ適当に家を決めますか。
汚すと悠介怒るだろうから、出来る限りこのままの状態で住むことを前提に」
みさお「はい」
悠黄奈「………」
テコテコと歩き出す。
が───悠黄奈さんだけは少し俯き、歩こうとはしなかった。
彰利 「んあ……悠黄奈さんどうかしたかね?」
立ち止まっている悠黄奈さんに声をかけてみた。
あんまり声をかけやすいような雰囲気ではなかったが、
雰囲気なんぞ大事にするような俺ではないので無視です。
と───悠黄奈さんは突如顔をバッと上げると、俺の眼を真っ直ぐに見て言った。
悠黄奈「あの───悠介、というのはどなたのことなのですか?」
彰利 「ほ?」
どなたって───
悠黄奈「不思議なんです。
その名前を聞くと、なんだか自分が呼ばれたように反応しそうになって……。
教えてください彰利さん。その悠介さんというのは───」
彰利 「………」
えーと……どう説明したものでしょうか。
などと思いつつもてんで予想外の質問に、ボクの思考はてんてこ舞いです。
助け舟をもらおうとみさおさんに視線を飛ばすも、
みさおさんたらそう来ると読んでいたのか
白々しく水溜りでバシャバシャと遊んでやがります。
彰利 「あ、え、えーと……なんといいますか……」
適当な言い逃れを考えました。
じゃけんどね?悠黄奈さんの眼差しったら物凄く真剣なんですよ。
そげな眼で見られたらさ、ほら……ねぇ?解るよね?
ごめんなさい、たとえ相手が元は男であっても今は完全なおなご。
漢でもない男ってのはおなごの真剣な眼差しには弱いモンなんです……。
彰利 「えっとその……そ、そう!悠黄奈さんともっとも近しい男です!」
悠黄奈「わたしと……もっとも近しい……?」
彰利 「うむっ!その通ォーーり!!」
そう!ウソではないです!
マジで最も近しいのは確かだし!
───な〜んて……平和的思考解決をしていた時でした。
悠黄奈「近しい……もっとも……?ま、まさか夫婦───!ですか……?
あ、いえ……わたしはメイドさんです……!そんな筈は───!
で、ではまさか恋人……?あぁっ……だめです!解りません!」
なにやら悠黄奈さんの頭の中でいろいろな物事が暴走を始めてしまったようです。
やべぇ……なんか物凄く嫌な予感が……。
悠黄奈「あ、あのっ!お写真とかありませんかっ!?」
彰利 「あっちゃあああーーーーーっ!!!!」
そう来たかー、って言葉がズガーンと来た心境でした。
くっ……どうする……!?ここまで来たらこう来ることは何気なく予想出来ていた筈……!
だがしかし写真なぞ……や、あるけどね?
でも見せたりしたら記憶の混乱とかあるのでは……!?
声 『いいや、無いぞ』
彰利 「ハッ!?」
な、なに!?今なにやら悪魔の囁きが耳に届いたような……ッ!!
や、悪魔の囁きっつーか思いっきりノーちゃんの声だったわけだけど。
……どうやら俺だけに聞こえるように声を出したらしい。
声 『既に【悠黄奈】としての人格は確立している。
そうである以上、マスターの記憶が悠黄奈の記憶へ干渉を齎すことはない。
それを知ったところで【こんな人が居るのか】と納得するだけだ。
だが───同一人物であることはくれぐれも教えるな』
彰利 (……なんで?)
声 『マスターは大丈夫だが、悠黄奈は人間だ。
人間は多重の記憶を持つと記憶障害になるケースがあると聞いた。
それを発生させるようなきっかけは無いほうがいい』
彰利 (………)
なるほど、ショックを与えるなっつーことね?
では───
彰利 「よし見せましょう」
悠黄奈「本当ですかっ!?」
みさお「なぁっ!?あ、あああ彰衛門さん!?」
彰利 「黙れ!これは俺の勇者としての決定だ!誰にも文句は言わせん!」
みさお「勇者関係ありません!」
彰利 「えーがらえーがら!今ノーちゃんの許可が下りたから!
あ、でもノーちゃん?
記憶の干渉が無いっつーならなんで悠黄奈さんたら悠介の名前に反応したの?」
声 『悠黄奈がマスターである以上、その疑問は元から存在していたものだからだ』
彰利 「ありゃ……」
なんと単純な……。
まあいいさね、ここはどどんと『晦悠介』という存在のことを教えてさしあげましょう。
もちろん映像で。
悠黄奈さんの記憶に影響を及ぼしそうなところは見せませんけどね。
そんじゃあ始まり始まり〜。
───……。
……。
彰利 「え〜、というわけで。彼が晦悠介その人である。
性格は基本的には温和であり、平凡な暮らしを好み日本の過去文化を愛する。
が、心を許した者以外には興味を出さず、どちらかといえば無視する人。
けどまあ心を許している相手には時たまではあるが笑顔を見せてくれ、
細かいツッコミなども入れてくれる人。子供はちと苦手らしい」
悠黄奈「………」
彰利 「そんな彼だがひとたび怒ると手に負えず、
怒らせた者の自業自得とはいえシャレにならんほどボコられる。
女性というものにあまり興味が無く、ベタベタくっつくおなごはもっと苦手。
かといってホモだというわけでもなく、
ただ平凡に暮らしていければそれでよし、と。ちなみに微・人間嫌いである」
悠黄奈「………」
悠黄奈さんはただ真剣に我輩アポカリプスの言葉を聞いておりました。
一字一句逃すことなかれ、
その目は俺がウソをついていないかを逐一観察しているようにも見えた。
彰利 「逆に言えば人間からもあまり好かれるヤツじゃあなかった。
けどどういうわけか人間以外の存在に好かれやすくてね。
竜に好かれるわ精霊に好かれるわ、死神に好かれるわなんやでもう大変。
そんなことも手伝ってか人間よりは人間以外の存在に心を許してる感もある。
言ってみりゃあ悠介の親友やってる俺も、もう人間っていうよりは黒だし。
そういう意味では俺も人間以外の存在ってわけで」
悠黄奈「………」
彰利 「あー……ここまでで質問は?」
悠黄奈「はい」
彰利 「ウィ、悠黄奈さん」
しおらしく手を上げた悠黄奈さんをズビシと指す。
悠黄奈「あの……それでその悠介さん、という人は今何処へ?」
彰利 「む……今は大賢者さまとして世界を飛び回っておるのです。
で、我らがここに来た理由は悠介が『ここに住もう』と言ってたからでゴワス。
あ、悠介のホントの家ってのがさっき説明した地界って場所にあってだね。
でもそこはいろいろな事情により妹さんに譲ることにしたんだ。
だから今ではここに住もうって意気を膨らましているということでござる」
悠黄奈「ここに……住むのですか?あの、それはわたしも───?」
彰利 「ウムス。悠介と俺とみさおさんとキミとででござる」
悠黄奈「───!!」
あ。
ポムッって音が鳴りそうなくらいに真っ赤になった。
え……?なに?もしかして悠黄奈さんたら───
悠黄奈「こ、こんな凛々しい殿方と同じ場所で……!」
彰利 「あ、あのー……悠黄奈さん〜……?」
悠黄奈「───ハッ!あ、し、失礼しましたっ!
メイドさんともあろう者が動揺なんて……!」
彰利 「あ、いや……いいんだけどね。仕事中じゃなけりゃあ……」
でも確かにメイドさんたる者常に仕事をしていると思えと言ったのは拙者ですが。
しっかし驚いたねこりゃあ……まさか悠黄奈さんが悠介……自分自身に一目惚れとは……。
彰利 「悠黄奈さん、おいさん怒りませんから正直に言いませい。
もしかして悠介のこと……めっさ気になる?」
悠黄奈「ひゃっ……!?あ、え、そ、その……は、はいぃ……」
顔からマシュ〜〜と湯気を出すくらいに真っ赤になった悠黄奈さんは、
俯きながら小さな声で肯定をしてみせました。
よし、ここに悠介のナルシスト説を持ち上げてみようと思います。
あ、でもな……ノーちゃんの話じゃあもう人格として確立されちまってるらしいし……
じゃあこれってナルシストって言わないのかね。
彰利 「えーと、じゃあその……どこらへんに惚れたの?」
悠黄奈「え───あ、あの……そのっ……」
彰利 「言え、言ってしまうんだ。そうすれば楽になれるぞ、娘さん……」
悠黄奈「う、ううう……」
みさお「……どうしていつの間にか尋問のようになってるんですか?」
彰利 「あれ?そういやどうしてだろ」
や、悠黄奈さんたら真っ赤になって困りつつ俯く顔もめんこいよって……
なんつーかね、つい苛めたくなるっつーか。
彰利 「言っておきますが少年が好きなおなごを苛めてしまう法則とは違いますよ?」
みさお「あ……よく言おうとしてたことが解りましたね」
彰利 「マジで言おうとしてたんスカ……」
勘弁してくださいよ……マジヤバイっすよ……。
みさお「とはいえ……」
彰利 「ねぇ……?」
真っ赤になって何かを言おうとしている悠黄奈さんはマジでめんこいです。
なんつーかこう、イジメたくなるのはみさおも同感ではあるらしい。
彰利 「吐けオラーーッ!!吐けーーーッ!!吐くんだジョーーッ!!」
みさお「立ち上がる時は……今なのだァアーーーーーッ!!!」
悠黄奈「あの……もう立ってますけど……」
みさお「うぐっ!?あ、あの……そういう意味じゃなくてですね……?
あぅう、純粋な人ってからかいづらいってホントですね……」
彰利 「それもやり方次第でござる!つーわけで悠黄奈さん!吐───」
その時ボクは見たのだッ……!!
悠黄奈さんの肩口……ソロリとボクを除く竜の顔を。
そしてボクは悟ったッッ……!このままからかえばガンマレイの餌食になるのだとッ……!
でも今さら退けません!もしそれでボクが吹き飛ばされることになろうとも───
───それが私の天命!!
彰利 「タケルさん!僕に力をォオオーーーッ!!!つーわけで悠黄奈さ」
バガァッ!!チュゥウウウウウンッ!!!!!
彰利 「キャアアアアアアアアアアーーーーーッ!!!!!」
問答無用でした……。
こうして僕は目の前に放たれた極光に飲まれ、空界の空に散りました……。
───……。
……。
彰利 「キミね!今のは俺じゃあなけりゃあ滅んでましたよ!?
つーかね!悠黄奈さん相手だからって過保護になるのやめようよ!
からかう度に死に掛けてちゃやってらんないよ!アンタらの方がビックリだよ!」
ディル『からかわなければいいだろう』
彰利 「馬鹿野郎!!人生にはスパイスなくして刺激は有り得ん!!
そう!その摂理はアレに良く似ているのです!」
ババッ!と体を振り、さらに身振り手振りで演説を始めた。
彰利 「パーティーは人生ッ!パーティーは世界やッ!!
人と人との協力なくして成功は有り得んねやぁあっ!!」
ディル『私は飛竜だから人と人との協力など知らん』
彰利 「むごっ!?」
そう言われてみりゃあそうでした……。
ってそういう問題じゃねぇよ!
彰利 「そうじゃないでしょう!
ボカァね!キミに過保護になるなって言ってるんですよ!」
ディル『そもそもお前がからかうことをやめればいい』
彰利 「せっ……正論なんて嫌いだァーーッ!!
つまらん生活にスパイスを加えてなにが悪い!!」
ディル『そうか。ならば皇女以外にするんだな』
彰利 「嫌でゴワス!!」
ドゴォオオオオオオオオンッ!!!!
彰利 「ギャアアアアアアアアーーーーーーーーーッ!!!!!」
問答無用パート2……合図も無しに放たれたレーザーが僕を空へと散らしました。
───……。
……。
彰利 「なにすんだてめぇ!!いくらなんでも問答無用すぎるだろオイ!!
いくら温厚な僕でも怒るぞ!?バックスバニーじゃなくても怒るぞ!?」
ディル『静まれ。お前は少し黙るべきだ』
彰利 「あ〜〜ん?あんだコラこの野郎〜、てめぇが無駄にレーザー放ちまくらなけりゃ
こんなことにはならなかっただろうがよォ〜〜〜ッ」
ディル『………』
彰利 「お?なんだ?やンのかコラ!」
ガォオオオオオオオンッ!!!!
彰利 「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーッ!!!!!!」
問答無用再び……。
俺はまた空へと散るのでした……。
───……。
……。
彰利 「あの……すんません……贅沢は言わないから『話し合い』をしましょう……。
こんなに連続で撃たれてたら死んでしまうがよ……」
ディル『それ以前に……どうしてお前は生きていられるんだ?』
彰利 「殺す気だったのかよ!喰うぞこの野郎!」
ディル『……やるか?私はべつに構わないが』
彰利 「おー!?上等だこの野郎!双方合意の下なら悠介だって文句は言えまい!!
貴様の能力……この俺が頂いてくれる!!」
こうして僕らの全力を出した究極の戦いが始まりました。
ディル『ブチ殺してくれるわァアアーーーーーーッ!!!』
彰利 「やかましぃいいいいいいーーーーーーーーっ!!!!」
巨大化したりレーザー吐いたり、殴ったり殴られたり噛んだり噛まれたり。
やがてお互いに疲労が見え始めた時───
悠黄奈「いい加減にぃいいっ……!!してくださぁああああーーーーーーいぃっ!!!!」
……その場が眩い輝きに包まれました。
悠黄奈さんの体から精霊どもが一斉にあふれ出し、俺とディル殿に捌きを齎したのでした。
彰利&ディル『お、おわぁああああああーーーーーーーーっ!!!!!』
ガゴォッ!ゴロロガバッシャァアアンッ!!!
彰利&ディル『ほぎゃああああああーーーーーーーーーっ!!!!』
喧嘩するということもそうだが、
この庭園で暴れたことに対する怒りが80%を占めていたのだそうな……。
───……。
……。
悠黄奈「───いいですか?自然破壊というのはどの種族にも言える大罪であって、
言葉通りとても罪深いものなのです。つまり───」
彰利 「悠黄奈さーん、話長いぞー」
悠黄奈「……黙って聞いてください」
彰利 「ぎょ、御意……」
うおぉ……今戦慄が走りましたよ……!?
目が合っただけで殺されるかと思ってしまった……!!
悠黄奈「つまりどの種族にも言えることは、
『争いはみっともない』ということでして───」
彰利 「ゆ、悠黄奈さーん?
ディル殿が厠に行ってジャイアントなビッグをひり出したいって」
ズパァンッ!!
彰利 「メキャアイ!!」
隣で一緒に説教くらってたディル殿の尾撃がオイラの顔面を強打しました……。
彰利 「おががががが……!!な、なにすんねん……!!」
ディル『人をダシにして逃れようとするな……!』
彰利 「人じゃねぇんだからいいだろうがこの野郎!」
ディル『喩えだ!それくらい理解しろ!』
彰利 「COOLに?ブフゥッ!!」
ディル『───……弦月彰利。貴様とは一度白黒つけた方が良さそうだ……』
彰利 「フッ……いいのかねそげなことを言って……。
今度という今度は手加減は出来んぞ……?」
ディル『ブチ殺してくれるわァアアーーーーーーッ!!!』
彰利 「やかましぃいいいいいいーーーーーーーーっ!!!!」
やがて始まる抗争───ドゴッシャァアアアアアアアアンッ!!!
彰利&ディル『オギャアアアアアアアーーーーーーーッ!!!!』
……いや、始まりませんでした。
叫んだ途端に雷が落ち、俺とディル殿はその場に崩れ落ちたのでした……。
───……。
……。
悠黄奈「いいですか、喧嘩というものはですね。
互いの醜い部分をさらけだす、という意味があってですね……」
彰利 「───……」
悠黄奈「殴り合うより口で喧嘩しろというのはあくまで多少の違いであって、
喧嘩をすること自体に変わりなんてありません。
……あの、彰利さん、聞いていますか?」
彰利 「………」
悠黄奈「彰利さん?」
ツンッ……シュパァンッ!
悠黄奈「ひゃっ……!?」
ディル『こ、これは……擬態!?おのれあいつめ!ひとりだけ逃げたのか!!』
悠黄奈「っ……いいでしょう……!こうなったら徹底抗戦です!
彰利さんとディルゼイルさんを公正させるまで、わたしは諦めません!」
ディル『あ、いや……私のことは是非諦めてほしいのだが』
悠黄奈「ディルゼイルさんっ!?」
ディル『…………泥沼だ』
───……。
……。
彰利 「ンマー、みさおよ。それでは探検にでかけるとしようか」
みさお「いいんですか?悠黄奈さんとディルゼイルさん、あのままで」
彰利 「ンマー、気にしていてもしょうがない。
さっさと行こう。というか出来るだけ離れるとしよう」
みさお「……ようするに逃げたいだけだったんですね」
彰利 「押忍。この『原中のエナジーダッシャ』と呼ばれた俺の逃走術は最強だ。
何度田辺をダシに教師の説教から逃げ出したことか」
みさお「威張れるほどのことですか」
擬態を使って逃走した僕は、
アイコンタクトで全てを知らせていたみさおさんとともに当てもなく歩いておりました。
どこに逃げるべきかはよぅ解りませんが、
悠黄奈さんに見つかればまた空に散るのは確かかと思います。
彰利 「ンマー、これはこのままほとぼり冷めるまで適当に逃げていた方が面白いっしょ」
みさお「ひねくれてますねぇ……」
彰利 「おだまり」
こういう時は逃げ出そうがなにしようがからいかいきった方の勝ち!
捕まったら捕まったで、また逃げりゃあいいんだし。
彰利 「ム───!みさおさんこっち!」
みさお「え?わっ」
みさおさんの手を引いて、建物の影に隠れた。
みさお(あ、彰衛門さん……どうしたんですか?)
状況的になにかを察したのか、小声で話してくるみさおさんにアイコンタクト。
それを受け取ったみさおさんがゆっくりと上空を見上げると───
そこに、空を飛んで俺達を探す精霊たちが。
悠黄奈さんたらマジだぜ……?気配消しといてよかったぜ……。
彰利 (いいかみさおさん……これは戦いっ……!そうっ……!
生きるか死ぬかの戦いなんだっ……!!)
みさお(どうして顔がカイジになってるんですか?)
彰利 (……なってるん?)
みさお(なってます)
そうだったんか……無意識でした。
でもまあよいでしょ。
ともかく悠黄奈さんをこの空中庭園でメイドさんの皇女にするのは間違いなしとして、と。
なんだかんだでこの庭園には主と呼べる存在が居ないわけだし、
そげなことをしてみるのも一興。
ほとぼり冷めたら魚人とか水竜とかと会うのもいいと思うし。
ふーむ、考えてみればなかなかやれることも見つかってきそうな───
シルフ『………』
彰利 「が、がが……!!」
ハタ、と気づけばシルフさんが我等の前に浮いておりました。
しかも次の瞬間には自分の諸力を解放し、他の精霊に発見の合図を送ろうと───
彰利 「バッスー・ピンコオ拳!!」
バスゥッ!!
シルフ『かはっ!?───、あ、かは……!!き、貴様……!!』
彰利 「フフフ……この状況はまさにサヴァイヴァル……。
敵を目前にし、隙を見せるなど馬鹿のすることなり」
シルフの鳩尾にキメた掌底をゆるりと納め、合唱した後に首に手刀を落とした。
トスンッ───
シルフ『あ───』
落ちた……精霊とはいえどやはり人間体。
急所というのはなかなか酷似しているらしいことに安心を覚えましたよ。
彰利 「ではシルフさんは見つからんように木の影に隠しておくとして、と。
よしみさおさん、この調子で全ての精霊を黙らせるぞ。
そうすりゃあ悠黄奈さんと対等に語らえます」
みさお「あの……なんだか物凄く情けない気がしませんか?」
彰利 「ノゥ!そげなことはない!
精霊のみなさんを連れた悠黄奈さんと対等に話せるわけないでしょう!
だが考えてもみよ!精霊を全て気絶させれば悠黄奈さんはただのおなご!
そうすりゃあこちらの意見も言い放題……クォックォックォッ」
みさお「……意見がどうのよりも、まずどちらが悪役なのかは解った気がしました……」
彰利 「当然悠黄奈さんだよね?」
みさお「………」
彰利 「なんで目ェ逸らすのかね!」
ともあれなにがなんでも逃げ出さなければなりません。
相手が本気ならこちらも本気!
気配を消しながら精霊一体一体を闇討ちして気絶させてゆくのです!
彰利 「……っと、ノームくん発見ンン……!!」
地面から顔を出しながら、キョロキョロと辺りを見渡してるちっこい少年を発見。
早速俺は闇に溶け込むと、ノームくん自身の影からゾバァッ!と出現し───!!
ノーム『あ!?う、わ───、んぐぅっ!?』
騒がれる前に瞬時に口を塞ぐと、その首をメゴキャアと捻った。
ノーム『うきっ!?』
彰利 「ぐっへっへっへ、ナメック星人の誇りとやらを見せる暇もなかったな……」
我が腕にはぐったりと動かなくなったノームさん。
それを担いで闇から抜け出ると、
シルフさんと同じ場所にノームさんの遺体(ではない)を安置した。
彰利 「とまあ、この調子で行きましょう」
みさお「前途多難ですね……というか、わたしもう逃げ出していいですか?
さすがに巻き込まれる覚えが無いんですけど……」
彰利 「あ、みさおさん!肩に巨大なムカデが!」
みさお「えっ───!?ひゃああっ!!」
ムカデ、という言葉にひどく反応したみさおさんは、
咄嗟に月然力・水を高圧縮で放った───!!
すると───バッシャアァッ!!
サラマ『ぐあぁっ!?』
みさお「え?あ───!」
気配を殺しつつ近づいてきていたサラマンダーさんにそれがかかった。
もちろんその一瞬の怯みを見逃したりしません!!
彰利 「ポセイドンウェーーーーィイッ!!」
ボゴッシャァアアアアンッ!!!
サラマ『ぐあはぁっ!!!』
一瞬だけ火が消えたサラマンダーさんに超高速ラリアットをぶちかました。
その勢いとともにゴンゴロゴンゴロと転がるサラマンダーさん。
だがしかしこれだけでは終わるまい!
彰利 「始解───!“悠久たる幻想の理”!!」
体勢を素早く立て直した俺はすぐに“微動無き時操の理()”を解放。
始解として発動させた鎌の力をサラマンダーさんに働きかけ、その動きを封じた。
彰利 「封印完了……。このエターナリィフォースフリーザーは対象の時を止め、
しかし相手の思考の中だけは動かし、幻想を見せることで全ての矛盾を破壊……。
時折、時を止められたことに気づけるヤツという者が居るが、これは違うヨ。
即ち止められた相手は時を止められたことにさえ気づけず、
思考の中で永遠と相手を追い続けるんだヨ。
これは相手の思考を利用した能力だからネ、
よほどの精神力を持っているヤツでなければそれほど力の強弱は必要ないんだヨ。
ああいや、時が止まっているキミにこんなことを言っても無駄だったネ。
行くぞネム。さっさと来い鈍間……」
みさお「誰がネムでのろまですか……」
サラマンダーさんの遺体(ではない)を木の陰に隠し、やがて歩きだす。
うむ、いい調子だ。
このままなんとか悠黄奈さんの勢力を削っていくとしましょうぞ。
───……。
……。
ディー『……?おかしい……ノームとシルフとサラマンダーの気配が消えた……?
一体何が起こって……───はっ!?』
彰利 「これは面白いネ!!
精霊というのはここまで近づいた相手にようやく気づくほどノロマなのかネ!!」
ディー『い、いつの間に───!?ウォーターバレッ───』
彰利 「遅いネ!遅すぎるヨ!凍てつき堅めろ!アイストーネード!!」
ディー「───!?」
月然力・氷を発動───さらに月然力・風を巻き起こし、
ウンディー姉さんの周りに氷の竜巻を発生させる───!
中心の温度は一気に下がり、あっという間にマイナスなど下回る!
結果───勝負は一瞬でつきました。
彰利 「クックック……こうも上手くいくと怖いものだネ。
もしやキミ、仕える対象が悠介ではなく
悠黄奈になったことにショックを受けていたのではないかネ?
……まあいい、今となっては喋れもしないだろうからネ。
さあ次へ行くよネム。さっさと来い鈍間……」
みさお「だから……。誰がのろまでネムですか」
次の相手は誰だろうネ。
わくわくするヨ、研究の対象が増えるというものだヨ。
───……。
……。
ム───シェイド発見。
これはさっきと同じように気配を消した状態で接近して───
シェイド『…………以前の主。来ているな?』
む……。
彰利 「流石だネ、シェイド。やっぱり闇であるキミには私の気配は解ってしまうかネ」
振り向きもせずに気配を殺していた私に気づいたシェイド……やはり只者ではないネ。
彰利 「それで……どうするのかネ?
私としては女とゆっくり話すためにキミたちの存在が邪魔なんだヨ。
抗うというのなら私も存分に抗わせてもらうがネ」
シェイド『ほう……我に勝てる気か。確かに黒としてならば貴様の方が上だ。
だが───闇としてならば別だ。
我は闇そのもの。今でも貴様ごときには負けん』
彰利 「ホウ……それは豪気なことだネ。嬉しいことを言ってくれる。
嬉しくて嬉しくて……頭が蕩けてしまいそうだヨ」
シェイド『───行くぞ』
彰利 「クク……いつでも来ると良い。ただし、こちらとしても少々急いでいるのでネ。
折角気絶させた精霊たちに目覚められるわけにはいかんのだヨ。
だから早急に片付けさせてもらうヨ」
シェイド『出来るか───!?』
彰利 「嘗めてもらっちゃ困るヨ……出来るさ、それくらい」
振り向き、向かってくる闇。
それをゆったりと見て、さらにゆっくりと鎌を影から抜いた。
彰利 「掻き毟れ───『疋殺地蔵()』」
ズルリ、と引き抜いたダークイーターがゴボリと形を変える。
始解を唱えた途端に躍動を開始した鎌を見て一瞬戸惑ったシェイドだったが、
しかし再び勢いをつけて突っ込んできた。
……馬鹿だネ、退いていればいいものを───。
彰利 「残念だけど手加減は無しだヨ。
これでも急いでいるのでネ、忙しいんだヨ。キミと違ってネ。
だからここはひとつ、一番手間のかからない方法で……キミを黙らせるとするヨ」
シェイドが闇雲に突っ込んでくる。
こっちの手がどうだろうとなんとかなるという意思の下だろうがネ。
残念だヨ。キミはなかなか賢い者だと思っていたから余計に残念だ。
彰利 「“闇蝕せし栄黒の歪鎌()”」
疋殺地蔵の名前はもちろんデマだが、こちらの名前はホンモノだ。
『闇』全てを食らい、瞬時に我が力と為すダークイーターの昇華。
即ち相手が闇ならば勝てる可能性など皆無だヨ。
なにせ闇であれば瞬時に力を食らい、黒へと変換するのだからネ。
相手が強い闇であればあるほど、私は強くなれるというわけだヨ。
シェイド『───!?この黒は───』
彰利 「踏み込んでしまってはもう遅いヨ。キミの闇は私の黒の栄養とさせてもらう。
キミがどれだけ頑張ろうと、力を込めれば込めるほどそれが私の力となる」
シェイド『───そうか……!ならば───!!』
シェイドの力が増大する。
……馬鹿だネ、私の話を聞いていなかったのかネ。
彰利 「残念だが力を一気に送ることで、
私の力を破裂させようとしているのであればそれは間違いだヨ……。
キミの闇は食わせてはもらっているがネ、私の中に黒が流れ込んできた瞬間、
その『力』という栄養は影にも闇にも流れ込んでいるんだヨ。
つまり、キミが力を放出すればするほど、私と影と闇が強くなるだけのこと。
漫画などでよくある力の吸収のしすぎで爆発、なんてことは無い……。
言わなかったかネ?私は“無限の黒い秩序”()。
闇、影というそもそも黒に近しいものの全ては無限に許容出来るのだヨ」
シェイド『なっ……!!』
彰利 「残念だったネ、キミの力の大半は食らい尽くさせてもらったヨ。
せいぜい動ける程度の余力しか残っていないだろう。
殺しはしない。私はやさしいからネ。だからそこで休んでいると良い」
シェイド『ぐ……くぅ……!おのれ貴様……!!』
彰利 「さあ次へ行くとしようか……行くぞネム。モタモタするな、薄鈍」
みさお 「う、うすのろっ……!?彰衛門さぁん……なりきるなとは言いませんけど、
謂れの無いことを言うのはやめてくださいよぅ……」
ノーです。だってそれがマユリ様魂だから。
───……。
……。
彰利 「サテ……残るは雷と光と然……無はまず無理として考えようじゃないかネ」
みさお「雷……ニーディアさんに勝てる算段はあるんですか?」
彰利 「雷とは水に弾けるものだヨ。だから月然力・水の力でなんとかやりすごすんだ」
みさお「はあ……じゃあ光……ウィルオウィスプさんは?」
彰利 「シェイドの力を手に入れた私にしてみれば相手じゃないヨ」
みさお「うわ、言い切りましたね……じゃあ自然……ニンフさんたちは?」
彰利 「………」
それが一番の問題なのだヨ……。
些細なことから始まってしまったこの戦い、負けるわけにはいかんとはいえ───
ニンフたちには弱点らしい弱点が思い浮かばないのだヨ。
彰利 「……いや待ちたまえヨ?
考えてみれば今、女は精霊たちに私の捜索をさせているわけだヨネ?
だったら女を先に捕らえてしまえば精霊たちは何も出来ないのではないかネ?」
みさお「あ───言われてみれば」
彰利 「ククク……これは滑稽だヨ。まさかこんな落とし穴を作るとはネ。
メイドさんとしての志は高そうだけど、戦場に立つにはまだ早かったようだネ。
さあ行くよネム……さっさとしろ鈍間」
みさお「……もういいですけどね」
目的地は決まりました。
さ、存分に後悔させて差し上げましょうかネ……。
───……。
……。
ドドドドドドドドドド…………!!
彰利 「………」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!!
みさお「………」
さて……目的地、というよりは元の場所へと戻ってきた私たちだったが───
予想通り女は元の場所で精霊達の帰りを待っているヨ。
みさお「あの……彰衛門さん?わざわざローリングストーン(ズ)の真似をする意味は……」
彰利 「うるさいネム!またバラバラにされたいか!?」
みさお「わぁあ彰衛門さん!そんな大声出したら───!!」
悠黄奈「───!?どなたですか!?」
ゲェエーーーーッ!!あっさり気づかれてしまったヨ!!
なんてことだ!これじゃあ他の精霊たちはすぐに集まってしまうではないかネ!!
彰利 「なにをやっているんだネム!薄鈍!!
お前の所為で見つかってしまったではないかネ!!」
みさお「ひ、人の所為にする気ですか!?
元々彰衛門さんがあんなふうに大声出したりしなければ───!!」
彰利 「さっきから聞いていれば彰衛門彰衛門と!私はマユリ!!
十二番隊隊長及び技術開発局二代目局長涅マユリだヨ!!
製造者の名も忘れたのかネこの出来損ないが!!」
ネム 「作ってもらった覚えもバラバラにされた覚えもありませんよ!!」
悠黄奈「……!!」
女が私の形相を見て数歩引き、やがて精霊が集うまでの間を逃げるかのように駆け出した。
もちろん私はそれを見て剥き歯のままに、女に向かって───
マユリ「逃げて良しと言ったかネ?」
ゴパァンッ!!
腕の関節ごとを悉く切り裂き、骨と神経だけを繋げた状態で黒とともに伸ばした!
つーか
マユリ「いたやぁああああああああーーーーーーーーっ!!!!」
とんでもなく痛かったのだヨ!!
これは痛い!痛すぎるヨ!!
黒で繋げてるとは言え腕を輪切りにして飛ばすのは無理がありました!
痛いです!ものめっさ痛いです!!
でも今さら止められないのだヨ!そんなことをすればこの痛みが無駄になるからネ!
なんて思ってた時だった───ズゴァアアアンッ!!!
マユリ「ギィイイイイイイーーーーーーーーッ!!!!?」
忌々しいことに、伸ばした腕に光の矢が突き刺さったのだヨ……!!
もちろん私の腕には凄まじい痛みが走ったヨ……!
ウィル『……追っても良いと───言ったか?』
で、声のした方向を見てみれば、光の弓を構えているウィル野郎が。
マユリ「や、やれやれ……キミには興味が無いんだがネ……!!」
ネム 「痛そうな顔してますねぇ……」
マユリ「うるさいネム!」
ネム 「喋るくらいいいじゃないですか!!」
マユリ「……やれやれ……。これを一回仕込むのは意外と手間がかかってるんだがネ……」
グッ───バチュンッ!!
ウィル『───!?腕を自分で……!?』
黒に染め上げた腕を千切れかけた部分から切除し、地面に落とした。
それを確認してから自分の影で腕を食らってゆき───
マユリ「フウ……痛い……痛いネ……痛くて痛くて……」
ボゴッ……!ボゴボゴボゴォ!!
ネム 「う、うえぇええぃやぁああああっ!!!?」
ウィル『ち、千切れた腕を生やすだと……!?』
ジュルルッ……メキュリ……。
マユリ「頭が蕩けてしまいそうだヨ……」
黒である腕を飲み込み、再び腕として形成した。
体の全てが黒だからこそ出来る芸当だ……良い子のみんなは真似するんじゃないヨ。
マユリ「やれやれ……安心したヨ。ここに居るのはキミだけのようだネ。
過信かどうかは知らないがネ、他の精霊を呼び戻さなかったのは感謝するヨ」
ウィル『勘違いしてもらっては困るな。貴様ごとき私だけで十分だと踏んだ故だ。
醜い者はいつだって美しい者に消されるというのがセオリーだからな』
マユリ「ホウ……いつからナルシストになったのかは知らんがネ。
キミが私に勝てるというのはやはり過信が過ぎるようだヨ。
修正してあげなければいけないネ」
私は再び影からズチャリと鎌を取り出すと、今度こそ殺意を込めて唱えた。
マユリ「掻き毟れ───『疋殺地蔵』」
引き抜いた鎌が唱えとともに躍動する。
蠢き、歪み、やがて───涅マユリ様ご用達の『疋殺地蔵』の形へと変わる。
これぞ本名……そのまま『疋殺地蔵』。
クソ馬鹿逝屠の鎌、“殺戮を蝕す狂気の大鎌()”を昇華させたものである。
効果はもちろん殺す能力。
だがこれはより細かく殺すことが出来、ただ対象を殺すだけだった昇華前とは訳が違う。
“斬った対象物の四肢の動きを殺す”。
それがこの『疋殺地蔵』の能力だヨ。
もちろん他の様々な機能も殺すことだって出来るがネ。
マユリ「さ、ネム。命を張ってウィルオウィスプを捕まえるんだヨ。
そうしたらお前ごとこの『疋殺地蔵』であいつを切ってあげよう」
ネム 「自分でやってくださいよ!」
マユリ「うるさいネム!またバラバラにされたいか!」
ネム 「どうしろっていうんですか!!」
もっともだネ。
仕方ないネ、ここは私自ら行くしかなさそうだヨ。
マユリ「仕方ないネ、ではひとつキミにご教授するとしようかネ」
ウィル『教授……?なんのことだ』
マユリ「私の能力、鎌を駆る力にはいろいろあってネ。
まず始解。ようするに鎌を強化するわけだがネ、
これは具現した持ち主の力を鎌に流し込み、
さらに他の鎌の力を流し込むことで完了する。
今見せたように、この『疋殺地蔵』も
持ち主である逝屠の力を流し込むことで具現したものだヨ」
ウィル『……?』
マユリ「そして卍解。これはネ、鎌に宿った持ち主と鎌の力を、
現在の持ち主が屈服させることで覚醒する力だヨ。
私が現在使用出来る卍解は私の鎌のみ。
ようするに自分の力で自分の意思に勝ったということだヨ。
それで何が言いたいかというとだネ……
私は先ほど、シェイドの力を根こそぎ吸い取ってきたんだヨ。
それはもう満腹に近くなるほどネ。
ようするに黒も闇も影も力が充実してるということだヨ」
ウィル『ほう……?それなら勝てる。そう言いたいのか?』
マユリ「やれやれせっかちなヤツだ……。ようするにだネ、私が言いたいのは───
今のこの力があれば、鎌の一本くらいは卍解に至れるということだヨ───!!」
ウィル『───!?』
マユリ「卍、解」
ブギィッ!!
マユリ「グゲェッ!!?」
卍解を唱えた途端、私の頭から血が噴き出してきた。
だがこれがなんだというのかネ。逝屠ごときに今さら時間などかけていられないんだヨ!!
今すぐ屈服させてやるヨ逝屠……!
私はキミごときに手間どっているわけにはいかないんだヨ!
こう見えて忙しいからネ!キミと違ってネ!
キィン───ゾボォンッ!!
マユリ「グギィイイイイイッ!!!?」
ウィル『……フン?隙だらけだぞ。何かをするんじゃなかったのか?』
マユリ「グ、グググゥウ……!!」
おのれ小僧が……!
人がしつこさだけが取り得のクソヤロウを屈服させようという時に……!
マユリ「図に乗るなヨ小僧!!!!」
ウィル『なに……?』
マユリ「光使い風情がふざけてくれる……!!
良かろう……ならばこちらも相応の力で応えてやろうじゃないかネ……!」
やはり手加減などしてやらないヨ……!
お前も!いつまで粘ってるのかネ!!いい加減に屈服するんだヨ!!
ギヂ……ヂ、ヂィイイヂヂヂ、ヂギギィイイッ!!!ガギィンッ!!
ネム 「───!」
ウィル『……こ、これは……!』
マユリ「───待たせたネ。これが卍解……『金色疋殺地蔵()』」
ネム 「って───そのまんま金色疋殺地蔵じゃないですか!!
どうすればこんなカタチが出来るんですか!」
マユリ「やれやれそんなことも知らんのかネ?鎌の卍解はネ、そこに至るのが難しい分、
達成すれば自分の思い描いた通りの鎌として形状を決められるんだヨ。
そしてこれがクソ馬鹿逝屠への私の嫌がらせの結果だヨ。
ジェノサイドエクリプスなど、そんな名前など許さんヨ。
『金色疋殺地蔵』の方が語呂も良いし形も素晴らしいだろう?」
ネム 「……ひねくれてますね」
マユリ「うるさいネム!またバラバラにされたいか!」
ネム 「彰衛門さんの方がうるさいですよ!!」
マユリ「マユリだと言っているだろう!!……まあいいサ、見ての通りだ光使い。
この『金色疋殺地蔵』は私の闇を霧状にして撒き散らし、
それを吸い込んだ者を内側から蝕んでゆくんだヨ。
蝕むといっても喰うのは力だがネ。光であろうがなんだろうが関係ない。
蝕む対象の力の全てを黒に変換させ、喰ってしまう能力だ。
もちろん皮膚からも浸透してゆくから呼吸を止めても無駄だヨ。
そして……一度侵入を許せばもう相手は立っていられない……」
ウィル『っ……ぐぅ……!?』
マユリ「おやおや……その様子だと既に手遅れだったようだネ?
だが安心していいヨ、キミの力は他の鎌の卍解のエサにさせてもらおう。
精霊の力というのは闇や影たちも好物のようでネ。
だからキミの光の力もせいぜいシェイドのように食わせてもらうヨ」
ネム 「あ、あの……彰衛門さ───マユリ様……?
なんだかわたしまで物凄く動けなくなってきたんですけど……」
マユリ「………」
私は倒れ込んでいるネムを見下ろすと、つまらない顔をしながら歩み寄った。
そして蹴り上げる───ようなことはせず、黒が回るように振り回してあげた。
マユリ「お前は!私を!馬鹿にしてるのかネ!エ!?お前は!!」
ネム 「うわやややや……!!ふ、ふふふ振り回さないでください……!
体の重苦しさが一層……!!」
マユリ「お前の!体が!!その程度で!!ダメになると言うのかネ!!」
ネム 「ななななるに決まってるじゃないですかぁっ!!
やめてください力が無くなっていきます!」
マユリ「おやそうだったネ……だが安心していいヨ。蝕んでいるのは月操力だ。
月操力ならお前の中ですぐに回復するものだからネ、なんの問題もないヨ」
ネム 「この気だるさは問題です!早く治してくださいよぅ!」
マユリ「………」
仕方なくネムの口に手を当てると、黒に戻ってくるように指示を出した。
と───ネムはすぐに元気になり、倒れていた体を起き上がらせてみせた。
が、光使いはそうはいかない。
ウィル『ぐっ……うぅう……!!こんな筈では……!』
マユリ「それでは失礼するヨ。私はこれから女と話をしなければならないんでネ。
というか……何故普通に話したかっただけなのにこんなことになったのだろうネ」
ネム 「きっと全部マユリ様が悪いんですよ……」
マユリ「うるさいネム!さあ早く次へ行くんだよ!さっさとしろ薄鈍!!」
ネム 「はぁ……」
───……。
……。
……ややあって、逃げ出した女との邂逅を果たしたヨ。
悠黄奈「彰利さん……っ!」
マユリ「違うネ。私は護廷十三隊十二番隊隊長及び技術開発局二代目局長涅マユリだヨ」
悠黄奈「くろつち……?その涅さんがなんの用ですか……!」
マユリ「何の用とはまいったネ……
キミが話をするのにわざわざ精霊を出したりするから、
それを分散させようとこうして手間を取ったんじゃないかネ」
悠黄奈「……やっぱり彰利さんじゃないですか!」
マユリ「マユリだこの野郎!!……ああいや、そう、マユリだ。
私は彰利などというナイスガイではないヨ」
ネム 「自分でナイスガイとか言って悲しくないですか?」
マユリ「う、うるさいネム!」
平静を装おうと思ったが、どうにも動揺が口に出てしまったヨ……。
すると一斉に悲しそうな目で私を見るふたり。
ネム (……悲しかったんだ)
悠黄奈(悲しかったんだ……)
その目がそう語っていた。
マユリ「ええい!可哀想な人を見る目で私を見るんじゃないヨ!!
……では、話の続きと行こうじゃないかネ?
キミが説教したかったことは確か───……なんだったかナ……いかんネ。
どうも私は研究を終えた物に対する興味が───」
ネム 「研究なんてしてないでしょう」
マユリ「いちいち突っかかるネ……私はお前をそんな風に作った覚えは無いんだがネ」
ネム 「作られてませんから」
悠黄奈「わたしはそもそも、
庭園で暴れようとした彰利さんやディルゼイルさんを止めようとしただけです。
それが喧嘩なのでしたら止めるのはメイドさんとして当然でしょう」
マユリ「ホウ……確かにそれは理想的な見解だネ。私もそう思うヨ。
だがネ……───いや待ち給え?
そもそもで言うなら私とキミが話し合う必要など無かったんじゃないのかネ?」
ネム 「それはそうですよ……元々言い争っていた相手はディルゼイルさんなんですから」
マユリ「なっ……なんということだネ……!!この私としたことが……!!」
しかしそのお陰で『金色疋殺地蔵』という卍解にも辿り着けたわけだヨ……。
損をしたということは無いネ。
これでパクった卍解はふたつ……黒縄天譴明王と金色疋殺地蔵だヨ。
元となる13本の鎌はあるんだ、護廷十三隊の卍解全てをパクるのも夢じゃないヨ。
しかし……残念ながら全ての卍解は私にも解らんのだよネ。
だから知ってるところから慣らしていこうではないかネ。
マユリ「というわけだヨ。なんだかよく解らんうちに事態は解決したんでネ。
早速どこに住むかを決めていこうと思う」
ネム 「……はぁあああああ〜〜〜〜〜〜〜ぁぁぁあああ……」
悠黄奈「………」
女に冷めた目で見られ、ネムにとてつもなく雄大な溜め息を吐かれる中……
私はもう少し考えて行動しようと心に誓ったのであったのだヨ……。
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