───人と竜と精霊と───
【ケース58:晦悠介/真世界の精霊、そして───】
───……トン。
悠介 「ン───」
辺りを見渡して、ゆっくりとイメージを羊皮紙に写してゆく。
というのも、地図作りを自分で描くのは自信がなかった故である。
正直地図など作ったことがない。
だから訪れた場所をイメージとして羊皮紙に書き込んでいっている。
これがまた、なかなか面白い。
真・空界の広さは既に地図に当て嵌めてあるから、
あとはその広さ分を探検して書き込んでゆくのみだ。
悠黄奈「大丈夫ですか?」
悠介 「ああ、世界の面積は当て嵌めてある。
あとは景色を見て、調べて、面積に上書きしていくだけだ」
表面上の地図と、洞窟や神殿用の羊皮紙も用意してある。
骨が折れそうだが、面白いのも確かだ。
親友も誘おうと思ったりしたが、修行に熱を上げているのならと誘わなかった。
その代わりに悠黄奈が『行く』と願った。
もちろん断る理由がなかった俺はふたつ返事で了承。現在に至る。
悠介 「……これで良し、と。表面上の地図は大体完成、と。あとは───」
表面の底、海中だとか洞窟の中か。
悠介 「って、ここって───」
キョロリと辺りを見渡し、場所を思い出してみた。
と……やはり見覚えのある場所。
ここらに確か癒し……というかマナの樹があった筈。
悠介 「……ちょっと寄っていくか。樹の調子も気になるし」
悠黄奈「なにか───ああ、マナの樹ですか」
悠介 「ん。そうだけど……最近思考がそっちに流れるのが早くなったな」
悠黄奈「そうですね。それだけ同調が早まってるということでしょうか」
悠介 「……そう、かもな」
同調の早まり……それは、悠黄奈がより霊体に近い状態になっているということ。
つまり寿命が近いことを意味する。
だっていうのに悠黄奈は恐怖や不満のひとつも言わず、穏やかに笑っている。
誰に似たんだか、まったく。
悠介 「よし、行くか」
悠黄奈「はい」
頷く顔はやっぱり穏やかで。
こいつは死への恐怖というものが無いのだろうかと……少しだけ考えた。
───……。
……。
サァッ……───
悠黄奈「わあ……」
悠介 「ん……」
マナの樹───ふたつも癒しの樹があるのは喩えとして妙な故、
狭界の癒しの樹を“マナの樹”と呼ぶことした。
ボロボロだった樹も今では緑を成して、鮮やかな彩()を()見せている。
悠介 「……調子よさそうだな」
悠黄奈「はい。葉が光に透けて綺麗です」
風に撫でられ揺れる緑。
葉の擦れる小さな音が耳に届くと、自然の声が俺の意識に届いてくる。
その声は『ありがとう』と『ようこそ』。
感謝の言葉が幾重にも届くと困りはするが、嫌な気分はしない。
それは、それだけ元気になったってことだから。
悠黄奈「はぁ……風が気持ちいいですね……」
風に運ばれる緑の香りが心に染みる。
まるでこの大樹自体が心を癒してくれるような気分だ。
……癒しの大樹が二本になったことで、この世界にも随分とマナが溢れてきた。
そのお陰で次元に穴を空けたままにするなんていう無茶をした精霊達も、
随分と早い段階で回復した。
守りたいものを守るためとはいえ、随分と無茶をしたものだけど───
その辺りは融合した世界に感謝したい。
悠介 「……俺はその分、精霊たちに諸力や魔力を根こそぎ吸われてるんだがな」
悠黄奈「それは言いっこ無しです」
悠介 「解ってるよ」
それもまたどうでもいいことだ。
自分の力を分け与えることで誰かが救われるなら、それこそ願ったり叶ったりだ。
悠介 「よし、と。異常も無いことだし、そろそろ───」
声 『……待たれよ』
悠介 「───へ?」
悠黄奈「……誰ですか?」
呼び止められた。……誰かに。
振り向いても誰も居ないわけだが、ただ───そこにマナの大樹があるのは間違い無い。
悠介 「……呼んだか?」
悠黄奈「いえ、わたしは……」
悠介 「………」
自然に耳を傾けるように語り掛ける。
だがそれとは別に、
聞こえてきたのは大樹の逞しく大きな枝の上に立っていた男の声だった。
声 『……呼んだのは私だ。誤るな』
悠介 「そっか、悪かった。で……なんか用か?」
声 『……お前に礼がしたい。私と契約しろ』
悠黄奈「お礼……この人に何かしたのですか?」
悠介 「いきなり疑う方向で考えるなよ……」
言いたいことがまるで解らなかったのが素直な感想。
だが男……どうやら精霊らしい存在は、
俺を見下ろしながらゆっくりと舞い降り、フワリと服を揺らして真っ直ぐに俺を見た。
声 『……答えを言え。我が名はオリジン。元素を司る“元”の精霊である。
世界の荒廃とマナの枯渇を救ってくれた礼がしたいと言っている』
悠介 「………」
悠黄奈「あ……それではあなたはこの大樹の精霊……?」
声 『……正確には【狭界】の“世界の精霊”だ。
空界の“世界の精霊”がスピリットオブノートであるように、
狭界では私がそういった存在だった。それだけだ』
オリジンと名乗る精霊の声は、なにやら非常にブレていて聞き取りづらかった。
しかし俺の目を真っ直ぐに見る目は嫌いじゃない。
俺は結局、よく考えもしないで頷いていた。
というより───感謝の気持ちを無碍にする気が無かったというべきだ。
悠介 「俺は悠介。晦悠介だ。人間やめちまった存在だけど、こんな俺でよかったら」
オリジン『……人でないからいい。世界を荒廃に導いた思念の大元となど契約するものか』
悠介 「………」
オリジンが輝き、光の玉となって俺の額に消えてゆく。
……そんな時に直感が働いた。
こいつは絶対に人間が嫌いだ、と。
声 『……お前からは精霊に近いものを感じる。
諸力や魔力はもちろんだが、それよりも昂いものだ。
だからこそお前と契約したい。自然の声を聞くことが出来るお前だからこそ』
悠介 「………」
言いたいことだけ言うと、オリジンは声を潜めてしまった。
それと同時に首に輪が出現した。
……これが契約の指輪───じゃなくて証か?
さすがに首輪を指輪と言うわけにはいかないし。
悠黄奈「首輪……」
悠介 「飼い犬か、俺は……」
悠黄奈「ですが家畜につけるような首輪のカタチではないですから、
そう気にすることもないと思います」
悠介 「彰利あたりにブロリーだとか言われそうだけどな……」
金色の、首輪というよりは装飾をチャラ……と撫でたのち、
頭をコリコリと掻くと、マナの樹を見上げてから歩き出した。
思わぬところで精霊と会ったけど、戦うことにならなくてよかった。
さすがに悠黄奈が居るところで戦うわけにはいかない。
……それに、地図の続きを書かないとな。
───……。
……。
そうして洞窟だの山だのを攻略すること数日。
俺は見覚えのある場所へと辿り着くと空を見上げた。
そこにあった次元の渦は既に無く、ただ綺麗な空のみを見上げることが出来た。
が───気になることがひとつ。
ここで数多くの塵と幻獣が消滅したのは確かだが、妙に“死”の気配を感じる。
心をざわつかせ、力の無い者が訪れれば
何かの末に死んでしまうんじゃないかと思ってしまうような気配を。
そして……
悠黄奈「悠介さん、ここ……」
悠介 「解ってる。ニンフ、悠黄奈を清い空気で包んで、離れててくれ」
ニンフ『かしこまりました、マスター』
辛そうな顔をしていた悠黄奈を召喚したニンフに任せると、俺は一歩前に出て構えた。
悠介 「……出てこい。居るのは解ってる」
───言葉を放つと同時、空間が数瞬だけ蠢いた。
だが感じるのは時空の歪とかの類ではなく、ただ“死”を感じさせる気配だ。
?? 『……何の用だ。俺を呼び出したからには相応の覚悟があってのことだろう』
悠介 「覚悟なんて知らない。
ただ“死の気配”を撒き散らすのをやめろって言いたいんだ。
この場所は確かにそんなことを連想させる場所だが、訪れる人に罪は無い。
弱いヤツが来たら引き寄せられて自殺しちまう……そんな気配がする」
?? 『当然だ。この場は俺、死の精霊イドの聖域だ。
万人は“死”を聖域などと唱えるなと謳うが、死より深い解放など有り得ない。
そう思わないか?晦悠介』
悠介 「……なんで俺の名前を」
イド 『知っているさ。
これでも死を司る精霊だ、死した者や思念の思考を読むことなど容易い。
つまり───十六夜逝屠や時の番人、櫂埜上喜兵衛の思考さえここにある』
トントンと頭を突付く赤色の精霊。
イドと名乗ったそいつからはやはり死の気配しか感じられない。
……そして直感が働く。
こいつを野放しにしておくのは危険だと。
イド 『気づいたな。ならばやることはひとつだろう』
悠介 「……ひとつ聞かせてくれ。
あんたは“俺が”あんたを呼び出したような言い方をした。
それはどういうことだ。確かに俺はあんたに出て来いって言った。
けどあんたの言う“呼び出した”っていうのは意味が違う気がする」
イド 『簡単だ。お前がここで数々の思念や幻獣を殺してくれたお陰で、
死と諸力を糧とする俺がこうやって蘇った。
そら、これならばお前が俺を呼び出したも同然だ。
そして俺はお前の言うとおりにしてここを退くつもりは無い。
……精霊を従わせるんだ、やることなどひとつ───解ってるだろ?』
悠介 「ああ、そうだな」
イド 『俺の実力では今さらお前には勝てやしない。
だが、精霊が戦うことにはそれなりの意味がある。解るな?』
悠介 「解るさ───男だからな」
イド 『いい目だ……壊したくなるくらい気色悪い。
もっと憎しみに満ちた目を見せてみろ!!』
悠介 「おーこーとーわーりーだっ!!」
ヒュゴドバォオンッッ!!!
イド 『ゲハッ───!!』
瞬時に疾駆し、神魔竜人と化すとともに腹への一撃を見舞う。
ゴッ!パァンッ!!───ドッ!バスッ!ガッ!ガツゥッ!!
───ッギガァアアアア……バガァッシャァアアアアアンッ!!!!
さらに体を折るイドの顔面に膝蹴りをし、仰け反る顔面に上段回し蹴り。
続いて中段蹴り、下段蹴り、水面蹴り、
立ち上がりとともに突き上げるような上段蹴りを繋げ、
トドメに雷光を込めた踵落としを脳天にキメ、大地に叩きつける。(超武技・光勁)
そのどれもが加減無しでやったためか……イドはピクリとも動かなくなってしまった。
悠介 『……雷光はやりすぎたか?』
ヴィジャヤほどじゃないにしろ、かなりの威力のものだった。
俺は少々心配になって、揺すってみようと近づいた───途端!
イド 『甘い───!!』
すぐさまに起き上がったイドが俺の顔面へと血を纏った拳を振るい───!!
バゴチャアッ!!
悠介 『あ』
……条件反射で動いた体が、
イドの顔面に“紫電”を込めたカウンターパンチをキメていた。
そして有無も言わさず吹き飛ぶイドの体。
大地を転がり、岩に激突した彼は───今度こそ動かなかった。
───……。
……。
イド 『……今のは俺じゃなかったら死んでたぞ』
悠介 「良かったな、死を司ってるお陰で不死身で」
イド 『そういう問題じゃない。
手加減されるのは冗談じゃないが、こうも一方的にやられるのも癪だ』
悠介 「……どうしろっていうんだよ」
イドをブチノメし、竜人化を解いた俺は、
しばらくして起き上がったイドと話し合っていた。
話し合い、というよりは一方的に罵倒を浴びせられてばかりだが。
イド 『この際だ。お前、俺と契約しやがれ。
お前とともに存在し、力を付けた時───その時に仕返しをしてやる』
悠介 「よし解った。俺としてもお前を野放しにしておくよりはいいと思うし」
イド 『交渉成立だ。お前の右腕に住まわせてもらうぞ』
悠介 「へ?」
言うや否やイドは光となり、俺の額へと消えていった。
と同時に俺の右腕に現れる契約の……まあその、輪。
腕輪って言ったほうがいいかもしれないが、今までが指輪だった分、妙な感じだ。
悠介 「………」
悠黄奈「終わったのですか?」
悠介 「……一応」
俺はもう一度頭をコリコリと掻きながら、ゆっくりと立ち上がって次の場所を目指した。
もちろん、この場所はしっかりと羊皮紙に転写してからだが。
───……。
……。
そうして訪れたのは海の上。
悠黄奈を抱きかかえながら飛翼をはためかせ、綺麗すぎる海の底を眺めているわけだが……
悠介 「海の上の広さはこれでよし、と。あとは───」
悠黄奈「海の中、ですか」
そう、あとは海の中なわけだ。
悠介 「ここで例をあげるなら───ファンタジーで海底と言えば、海底神殿だ」
悠黄奈「よく解りませんけど」
悠介 「いや、女は解らなくていい。男の浪漫は男だけのものだ」
当然、未知の部分への期待が無いわけじゃない。
むしろありすぎて困ってる。
海底神殿……それは、ファンタジーを知る者にとっては浪漫の一端である。
トキメかない筈がない。
悠介 「早速行こう。悠黄奈、ウンディーネを召喚してくれ」
悠黄奈「はい。……ウンディーネさん、お願いします」
悠黄奈が俺から諸力を引き出し、ウンディーネを召喚する。
空界と狭界を繋いでいたゲートを開きっぱなしにしておくために
随分と消費してしまったため、
精霊たちは自分の好きな時に出てくるようなことが出来ないでいた。
以前は自分勝手に悠黄奈の中から出てきていた精霊も、今は本当に元気が無い。
ディー『……あ……悠介さま……ごきげ……くぅ』
寝てしまった。
しかもここは海上なわけでバッシャァーーーン!!
ディー『ぷあっ!?ひゃああっ!!』
一瞬溺れたな、うん。
悠介 「なぁウンディーネ……
水の精霊が水に驚いたり溺れたりするのってどうかと思うんだが」
ディー『う、うー、うー、うー……!!』
海から顔半分を出して真っ赤になってるウンディーネは、なんだか可愛かった。
それが可笑しくてつい笑ってしまうと、
ウンディーネは余計に真っ赤になってよく解らない言葉をギャースカと言い出した。
悠介 「わ、解った解った、悪かったって。もう笑ったりしなから」
ディー『わ、わたしだって力が満ちていればこんな風じゃないんですからねっ!?』
悠介 「解ってる。今のは完全に俺が悪かった。機嫌直して水の膜作ってくれないか?」
ディー『いやですっ!!』
シュパァンッ!!
悠介 「あ───あー……」
明らかな怒り顔を見せると、ウンディーネは悠黄奈の中に引っ込んだ。
……しょうがないな、これは。
悠介 「水を通さない膜と酸素が出ます」
仕方なしに自分で創造。
元からこうすればよかった、とかは無しだ。
とにかく進もう。
───……。
……。
悠介 「……ふむ。特にこれといって目を引くものは無いな」
悠黄奈「そうですか?先ほどから視点が一箇所に定まっていませんけど」
悠介 「ぐっ……し、仕方ないだろっ!?海の中を歩くなんて初めての経験なんだから!」
悠黄奈「それって目を引くものが無いというより、
歩くこと自体が目を引くものだからじゃないですか?」
悠介 「………」
海底を歩くことしばらく。
あらかたの部分を調べ、光の届かない底も調べた俺達は、
空から調べた海の面積を攻略し終えようしていた。
望んだものは特になく、
だけど海中という景色をのんびりと歩くのは、かなり新鮮なものだった。
そうして、そろそろ地上に戻るか、と悠黄奈に言おうとした時だ。
悠介 「あ」
悠黄奈「あ」
俺と悠黄奈は発見してしまったのだ。
海底のさらに底の方にあった、妙な建築物を。
しかもカタチが思いっきり神殿……神殿!!
パルテノンを彷彿とさせるその造形は、否応無しに俺の心に火をつけた!!
悠介 「行くぞ悠黄奈!!」
悠黄奈「は、はいっ」
気づけば悠黄奈の手を引き全力ダッシュ。
空気の膜も慌てて俺の速度に合わせて流れ、跳躍や落下を繰り返して───やがて到着。
悠介 「お……おおぉぉおお……」
そうして見上げるに至り、寒気ともとれる震えが体にジ〜ンと広がっていった。
これが感動というものか。
俺は歓喜と期待に胸を膨らませ、その巨大建築物の中へと入っていった。
悠黄奈「勝手に入って大丈夫なのでしょうか」
悠介 「俺が許す!!」
悠黄奈「……興味の対象が現れるとタガが外れる人って居ますよね。
なんだかわたし、みさおさんとは凄く仲良く出来る気がします……」
空気の膜に触れると同時に水気が退く神殿の床を踏みしめ、カツコツと歩く。
そうしてみて気づく。
ここにはダンジョン特有の罠のようなものは一切ないのだ。
どうやらここは、真実神殿だったのだろうと感じた。
悠介 「結構広いな……悠黄奈、疲れてないか?」
悠黄奈「はい、大丈夫です。日頃から彰利さんにメイドさんとして鍛えられてますから」
悠介 「それはそれでどうかと思うが」
あいつ、合間合間にそんなことやってたのか。
べつに注意することなんて無いんだが、人の分身とも言えるヤツになにやらせてんだ……。
などと考えている間に景色は開け、
目の前には広間……というよりは大聖堂のような場所が広がっていた。
見上げてみればとんでもなく高い位置にある天井と、
あまりの広さに呆れるくらいの壁から壁への距離。
巨人が住んでも苦労は無いくらいの広い空間がそこにあった。
そして……その先。
大聖堂の奥にある段差の中心に、ひとつの石像があった。
悠介 「なぁ。あれって」
悠黄奈「はい。ただの石像ではありませんね」
やっぱりか。
ただの神殿じゃないと思ったが、まさかこんな場所でこんな気配を感じるなんてな。
悠介 「とにかく行こう。害はまるで無いみたいだけど、
自分を石化したことには事情がありそうだ」
予想はついてる。
ついてるけど───でも、だったらもう石化してる意味が無い。
だったら解放するべきだろう。
悠介 「………」
悠黄奈と一緒に歩き、聖堂の段差をゆっくりと上ってゆく。
そうして石像の目の前に立つに至り……コンコンと石像の額にノックする。
悠介 「ノックしてもしも〜し」
石像 『……………』
返事が無い。
ただのしかばね……というか石像……
いや、石像には変わりないが、“ただの”ではないようだ。
悠介 「はぁ……分析、開始」
賢者の石に変換しておいたラグを握り締め、意識を万象に溶け込ませる。
そうしてじっくりと石像を分析するに至り───…………ああ間違い無い、精霊だ。
しかもどうやら“時”を司る精霊らしく、
自ら己を時間軸から切り離して石化したようだった。
その理由は……予想通り、マナの枯渇による自らの滅びを避けるためだ。
だがそれでも力は無くなっていってしまうのだろう。
だからこそ己を完全に時間から乖離し、石化に至った。
悠介 「……分析終了。石化、解除」
“石化”の事柄を書き換え、石像を精霊へと戻した。
すると───
悠介 「ダッ───」
金色の髪がサラリと流れ……黒の服と、
茶色と橙色と赤色を混ぜたマントが揺れた。
その姿はまさに……ダ、ダオス!!
???『……私はどれだけ眠っていたのだ』
悠介 「ダッ───!!」
しかも声が塩沢兼人氏に酷似してる。
喋り方、声質はまるでダオスだ。
外見と声の全てが合っている上に、しかも時空干渉が出来る……まいった、ダオスだ。
悠介 「あんたが眠ってから、少なくとも三千年以上経ってる。
お前は……っと、名前が解らないのは不便だな。俺は晦悠介。あんたは?」
分析で調べてみても名前は解らなかった。
だから訊いてみたんだが───
???『名……名か。私にそんなものは存在しない。好きに呼ぶがいい』
悠介 「名前が無い……なるほど、道理で」
悠黄奈「あの。ダオスって誰ですか?」
悠介 「お前は知らなくていい」
悠黄奈「心から読み取りますよ?」
悠介 「それはべつにいいが、口には出すなよ」
悠黄奈「───………………ああ、なるほど」
俺の思考を読み込んだらしい悠黄奈は、目の前の精霊を見て妙に納得したようだった。
悠介 「じゃあ……そうだな」
時……時か。時……次元……ディメンション……DIMENSIONか。
捻りがないが、これを逆に読んで……ノイス、……いや、ノイズか。
ノイズネミド……ネーミッド……いや、ニーミッドの方がいいか?
……よし、とりあえずの名前としては十分だろう。
悠介 「じゃあとりあえずノイズ=ニーミッドって呼ばせてもらうよ。それでいいか?」
ノイズ『好きにするがいい。私にとって、名という概念などどうでもいいことだ』
悠介 「……ゴンザレスでもいいと?」
ノイズ『───……ノイズでいい』
悠介 「今、物凄く微妙な顔しなかったか?」
ノイズ『していない』
ダオス似の精霊は静かに目を閉じて、それだけを言った。
そして勝手に光の玉になると俺の額に───ってオイッ!!
悠介 「ちょ、ちょっと待て!!話も無しに契約かっ!!?」
声 『私の石化結界を解けるのなら文句など無い。貴様に力を貸してやろう』
最後に聞こえたのはそんなもの。
すぐに額に違和感を感じ、触れてみれば……輪があった。
悠黄奈「あ……ブロ───あ、えと」
悠介 「マテ。今なに言いかけたコラ……ブロリーって言いかけたんじゃないのか?」
悠黄奈「さ、さあ……」
あからさまに目を逸らす悠黄奈。
その態度が全てを物語っているってどうして解らないんだろうな。
悠黄奈「あ、でも……これで欠点だった次元干渉が出来るようになりますね」
悠介 「へ?───あ、そっか。時の精霊と契約したってことは、
次元干渉系の魔法が生成可能になるってことだよな……」
あまりに突然の出来事だったから深く考えてなかったが……確かにその通りだ。
どうにも俺は次元干渉との相性が良くないらしく、
魔導や式では次元関連は滅法苦手だったりする。
それ故に結構ヘコんでたこともあったくらいなんだが───そっか。
その悩みもこれで解決するのか。
……まあどちらにせよ、魔導や式で次元干渉を編み出すって目標を捨てる気は無いが。
悠介 「……戻るか」
悠黄奈「はい」
今現在の自分が置かれてる状況を考えると少し頭が痛くなった。
ラインゲートは全部で13、今の俺が契約している精霊が12。
あと氷の精霊と契約するだけで本当のエレメンタルマスターになっちまう……。
べつに契約するのが嫌だってわけじゃないんだが、
また周りから奇異の目で見られるのはちょっとなぁ。
ま、まぁそんな、
自分で出向くわけでもないのにポンポンと精霊と会うことが出来るわけ無いよな、うん。
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