───最後の幻想曲へ───
【ケース71:晦悠介(結構再)/癒しの大樹へ】
───ビジュンッ!!
彰利 「あい、到着〜……っていきなり空気濁ってんなオイ……」
花見の景色から一転、俺達は過去の空界へと降り立った。
が……見える景色は現代の空界とは比べ物にならないほどに荒れた世界で、
以前オリハルコンを取りに来た時よりも酷いものだった。
悠介 「……それだけ、巨人たちを召喚したことで争いが緩和されたってことか……?」
相手に強者が現れれば迂闊に戦いなど出来なくなる。
それゆえにここより先の未来は、少しは平和になったのだろうか。
実際にオリハルコンを取りに来た時代はこんなにも酷くなかったのだから。
彰利 「人間側ってやっぱ物凄く追い詰められてんのかな」
悠介 「そらそうだろ。現代と違って、まだ魔術も魔導術も発達してないと思う。
そんな状態でモンスターや竜族と戦って勝てるわけがない」
彰利 「ぬう……で、どうするんだ?やること決めとかんと」
悠介 「……お前の口から計画する方向の言葉が聞ける日が来るなんてな……」
彰利 「あの。キサマ大変失礼ですよ?」
仕方ないと諦めてくれ、今までが今までなんだから本当に仕方ない。
ともあれ、やることを決めておかなければいけないのは確かだ。
悠介 「当初の目的通りにいこう。まずは癒しの大樹を復活させる」
彰利 「そか。グルグリーズが居ると思うけどダイジョブ?」
悠介 「それなんだよな、問題は。
多分サウザーントレント自体、既に迷いの森になってると思うし」
彰利 「……なんかごっちゃになって解らんのだけど。
ブレイバーシステムっていつから始まったもんなの?
少なくとも癒しが潰える前からだよね?
癒しが潰えてからブレイバーの数が減っただのって聞いた気がするし」
悠介 「いつから始まったのかはノートにしか解らないな。
けどそのノートも今はマナを消費しないために引っ込んで眠ってる」
彰利 「むう……今度じっくり訊いてみよ」
悠介 「解決したところで───行くか?」
彰利 「オウヨ〜」
彰利の返事を合図に、覚えて以来試し程度にしか使ってなかった転移魔法を実行。
千年の寿命の泉に降り立とうと思ったが───バチィッ!!
悠介 「うわっ!?」
なにやら弾き出されてしまった。
彰利 「……あら?」
転移した先にあるのはサンザーントレントへの入り口……というか森だった。
もちろん見渡してみたところで、寿命の泉も癒しの大樹も無い。
……もしかして、迷いの森の力に転移が弾かれた?
そういえば迷いの森には式とか魔導術を遮断する力があったんだっけ……
それは魔法も然りってことなのか?
彰利 「どうする?オリハルコン取りに来た時みたいに
月空力でなら転移できると思うけど」
悠介 「んー……久しぶりに迷ってみたいんだが、いいか?」
彰利 「キミが時折に見せるそういう緊迫感を無視した態度、好きよ」
決定した。
以前はグルグリーズに導かれることで攻略した迷いの森……今度は自力で攻略してやる!
───……。
……。
まあその───迷った。
彰利 「早かったね、迷うの……」
悠介 「迷いの森だからな……」
当てもなくてほてほと歩くも、一向に泉は見つからない。
砕いたアンデットモンスターの数も相当であり、それでも尽きることなく沸いて出る。
癒しの無い世界ってこれだから参る。
骨 『ケアァーーーッ!!!!』
彰利 「チェストー」
メゴキャア!!
骨 『ギャーーーーーッ!!!!』
彰利、ボーンナイトの頭を引っこ抜くの図。
さらにそれを地面に埋めてやると、歩きだした。
残されるのは視界を失った骨の体のみ。
どういう理屈かは知らないが、目は無くとも目があった部分で見ているらしい。
それに気づいた彰利は、出てくる骨全員に今のような処置をしている。
さっきはゴールキーパーがキャッチしたボールを蹴るようにして頭骨を星にしていたが、
浮遊して戻ってきてからは埋めるよう心がけているんだそうな。
……もちろん埋めるからには、土が硬質化するほどに硬く埋めるわけだが。
じゃなきゃ出てきてしまうからだ。
悠介 「んー……よし、今度はこっちに行ってみよう」
彰利 「待った、そっちにゃ目印があるでよ。こっちだぎゃ」
悠介 「目印?何処に」
彰利 「ホレ、そこの木に付いとる黒だがや」
見ると確かに、木に黒が付着していた。
目印というよりは鬱葱とした木の景色と一体化し、
言われなければ気づかないほどのものだ。
悠介 「いつの間に」
彰利 「おみゃーがアレコレ悩んでる間によぉ。おみゃーさん、案外方向音痴かや?」
悠介 「そうかもしれないって、自分でも思い始めてた」
自然の声に耳を傾けてみたが、この森にある自然は皆嘘つきだった。
お陰でどれだけ迷ったことか。
彰利 「こっち……は目印があるからこっち、と。こっちも違うから───よしこっちだ」
そんな、少し自信を無くす俺の心境を知ってか知らずか、ずんずんと進んでゆく彰利。
その後姿を追ってゆくに至り……まあその、嬉しくもあった。
彰利 「……あの。なんすかその
『レベルアップですぜ旦那、あんたも成長したもんだ』って顔は」
悠介 「どうしてそこで聖剣伝説が出てくるのかは解らんが、似たようなことは思ってた」
振り向いた彰利が俺の顔を見るなり言う言葉に適当を返す。
そうして何気なく伸びをしながら歩く道は、
迷いの森という大変奇妙な場所ではあるわけだがピクニックのようなものを思い出させた。
人間(や、どうせ人間じゃないが)、
気にするべきことを気にしなければ気楽に物事を捉えられるものなのだろう。
もっともモンスターだらけで、
しかも迷いやすい森で平然としていられる人間などそうそう居ないだろうけど。
そんな時に思い出したのは、
未来の地界で数えるほどしか会っては居ないが一応知人ではある南条菜苗。
彼女ならば案外、平然とこういう場所を歩けるのではないかと、そんなことを考えた。
天然っていうのはそれだけで特技だと思うのは俺だけだろうか。
彰利 「おっ、悠介」
悠介 「んあ?っと」
彰利に促されて視線を木々の天井から水平に戻す。
そうした時にようやく、景色が開けたことに気づいた。
そしてその先には探し求めていた癒しの大樹が。
悠介 「まだそんなにボロボロじゃない。これならすぐに回復してやれそうだ」
彰利 「そか、そらよかった。んだば───」
まず、この刺すような視線の主をどうにかしないと。
悠介 「そのまま見てくれてるだけなら助かるけど。
グルグリーズ、心配しなくても大樹をこれ以上枯れさせるなんてことはしないよ」
視線のみで、姿は現さないグルグリーズに対して語りかける。
が、刺すような視線に殺気が込められたこと以外はなにも変わっちゃくれなかった。
悠介 「あのな、俺はただ大樹を癒しに来ただけだ。
人間どもの馬鹿な行為を根元から癒そうって考えなんだが、
とりあえず殺気は引っ込めてくれないか?」
彰利 「あ、殺気が増した」
ああもう、解らず屋のたわけめ。
悠介 「わぁったよ、そっちがその気ならこっちも武力行使させてもらうからな。
というわけでグルグリーズの相手は任せたぞ」
彰利 「え?俺?」
悠介 「自然に意識繋ぐことがお前に出来るなら、こっちを任せるけど」
彰利 「ごめん。俺、黒関連にしか意識繋げられないから」
大変正直なヤツだった。
俺はそんな親友に『じゃあ』と言って視線を交差させると、
癒しの大樹目指して歩き出した。
その途端───ガォオンッ!!───轟音を掻き鳴らし、空を裂くレーザー。
彰利 『“獅子王三日月丸()”』
それを、既に黒化していた彰利が打ち落とす。
その先に居た者は……
悠介 「ヴァルトゥドゥスか」
予想通り、緑竜王に仕える飛竜だった。
さらにその後ろには巨大な緑竜、グルグリーズが居て、俺達を睨みつけている。
緑竜王『失せろ、人間。ここは罪を犯した者が来ていい場所ではない』
緑竜王の目から感じられるものは殺気のみ。
未来の空界で見せてくれたような慈悲は欠片も在りはしなかった。
それはそうだ、俺がグルグリーズに迎えられた理由は、
俺が竜族───ディルゼイルのために命を張ったからだ。
あの時と今この時は、明らかに状況が違う。
最初から敵視されていて当然だ。
でも俺は一度振り返ってからはもう振り返らなかった。
あいつは既に黒化して、食い止めることを受け入れていたのだから。
俺がそれを信じないわけにはいかない。
俺はゆっくりと歩き、泉の傍まで行くと目を閉じて意識を癒しの大樹に傾けた。
悠介 (───うん)
大丈夫だ。
奥の方に沈んではいるけど、まだ未来の大樹ほどマナは弱ってない。
俺は確信を以って、奥底でマナの枯渇に怯えている精霊に語りかけた。
すると───以前がそうだったように、
泉と大樹のある孤島までの距離に、木の幹で作られた橋が出来る。
悠介 「………」
ありがとう、と大樹に語りかけ、ゆっくりと橋を渡ってゆく。
そうすることで後ろの方で響く音が轟音へと変わったが、気にせず進んだ。
声 『何故だ……!何故放つレーザーが消えてしまう!!』
声 『既にこの質量ならば平気で変換し、吸収出来る。残念だったな、緑竜。
お前の攻撃ではもはや俺は傷つけられない』
声 『おのれ……そこを退け!これ以上大樹を汚されてたまるか!!』
声 『武力行使を仕掛けて来た者の言葉とは思えないな。
そちらこそ黙って見ていてほしいものだ。
汚しに来たわけじゃない。癒しに来たのだ』
声 『人間の言うことを聞くとでも思ったか───!?』
声 『そうだろうな、愚問もいいところだ』
轟音が高鳴る。
そうした喧噪の中で俺は大樹に手を当て、ゆっくりと意識を繋いでいった。
彼女たちに手を差し伸べるのはこれで二回目。
けど二度目の今は、前みたいに未熟じゃないからやさしく手を取ってやれた。
そして力を分け与えてやる。
然の諸力と魔力、そして───自分の体の中に押し込めてきたマナを。
すると繋いだ手が輝き、彼女たちに力が溢れてゆく。
それを確認するとゆっくりと彼女たちを立たせてあげて、意識を戻した。
やがてゆっくりと目を開け、見上げれば───
そこにあるのは陽に当てられたように輝く、美しい癒しの大樹だった。
声 『───!?』
声 『……、……?……』
後ろで聞こえた声の内容も頭に入ってこないくらいの綺麗な景色。
目の前の緑はサワ……と葉を揺らすと、
やがてこの場に広く生い茂った迷いの森の邪気を払ってゆく。
大樹を中心に、まるで円が広がるように縮んでゆく淀んだ緑と、満ちてゆく癒しとマナ。
それが力強く感じられた時、大樹の前に彼女が舞い降りた。
ドリアード『……───感謝します。
あなたのお陰で再び、この世界に癒しが齎されました』
悠介 「礼ならいいよ、ドリアード。俺がやりたいって思ったからやったことなんだ」
ドリアード『……?何故、わたしの名を……?』
悠介 「───出てきてくれ、ニンフ」
指輪に諸力を込めて、俺達の時代のニンフを召喚する。
すると、目の前のドリアードは唖然とした───けれど、次の瞬間には笑んでいた。
ドリアード『ふふっ、なるほど。
わたしと契約しているのでしたら、自然の声も聞けますね。
……あなたもこの方に救われたのですか?未来のわたし』
ドリアード『ええ。この方の傍はとても居心地がいいですよ。
この頃より三千年余り、誰とも契約しなかったというのに。
自らともに在りたいと思ったのは初めてでした』
ドリアード『そうですか。顔を見れば解りますよ、幸せそうで安心しました』
ふたりのドリアードは微笑みながら会話を進める。
そうした間にも、空界の荒んだ空気は浄化されてゆき、
さらに現代の彼女らと過去の彼女らが手を取り、歌を歌い始めると───
その癒しと浄化は二倍にも三倍にもなった。
緑竜王『……癒しが……満ちてゆく……?』
そうして、ようやく振り返った景色には、
驚愕を隠せない竜族と黒化を解く親友の姿があった。
彰利 「まずは第一ミッション終了、だな」
悠介 「ああ」
癒しの歌を耳にしながら、晴れ渡ってゆく蒼空を見上げた。
大きく息を吸い込むと、体に染み渡ってゆく心地良い空気と新緑の香り。
邪気なんてものは最初から無かったんじゃないかって思うくらい、
その森は瑞々しい景色へと姿を変えた。
いや、元に戻ったのだ。本来がそうであったように。
彰利 「こう言うのって変だけどさ。あれだけ荒れてた場所がこんなに綺麗になると……
なんつーのかな、ははっ……嬉しいっていうか……やってやれたって思うよな」
悠介 「ああ」
先ほどと同じ返事をしながら、俺の前に立って空を見上げる親友を見た。
その顔は嬉しそうで、見てるこっちまで笑みが伝染してしまいそうだった。
彰利 「さて。歌が第二番に突入したな」
悠介 「ああ。一番、結構長かったよな」
癒しが世界に満ちてゆく。
満ちてゆく。
満ちて……
悠介 「なあ、ふと思ったんだが。あの歌って何番まであるんだ?」
彰利 「契約者が解らないのに俺が解るわけないだろが」
悠介 「……ああもうヤケクソだ!俺も歌ってくる!!」
彰利 「なに!?俺はどうなる!!つーか歌詞解んのか!?」
悠介 「自然に耳を傾けてたら教えてくれた!自然はもう嘘つきじゃない!」
彰利 「わけわからんて!俺にも歌詞教えろ!」
悠介 「んー……彰利の思考の中に俺の頭の中にある歌詞を流す飴玉が出ます、弾けろ!」
それを飲み込め、と飴玉を渡し、ニンフたちが集って歌う大樹の下へと駆け出す。
そうすると嫌がることもなく俺たちを迎えてくれたニンフたちは、
さらに心を込めて歌を空へと奏でていった。
俺と彰利も心を込めて歌い───やがて癒しの歌の全てを歌い終えるまで、それは続いた。
……ちなみに、癒しの歌は然のラインゲートの数……つまり、八番まであった。
楽章って言った方がいいのかもしれないが、そこのところは俺はよく解らない。
ともかく歌い終えた俺は、以前より自然と近しい存在になれた気がした。
【ケース72:晦悠介(それとなく再)/少年と少女、ブラックロータスと赤面魔人】
世界に癒しが戻った。
その事実に驚いてる人も居れば、気づいていない人も居るのだろう。
そんなことを考えながら飛翼をはためかせていた俺は、
ふと遠くの景色を見てやっぱり頭を掻いた。
悠介 「……迷いの森、ではなくなったんだけどな」
べつの意味で迷いそうだった。
というのも、遠くに見えるサウザーントレントは
自然の精霊たちの大合唱に誘われるように芽吹き、
一度は引いていった緑たちも再び羽を広げるように生い茂っていった。
入り口として考えられていた範囲以上に広がった森林と、草原に生い茂った草花。
森の中は既に木漏れ日しか差さないくらいに木々が傘を作ってしまっていて、
けれど逆に、それが景色を美しく見せていた。
自然がそうありたいと願った姿になったサウザーントレントは、
人が下手に手を加えるよりもずっと美しい。
でも……さすがに
規模が二、三倍ほどになってしまったサウザーントレントは圧巻というかなんというか。
ともかく呪いがどうとかではなく、そういった意味で迷いの森でありそうなわけだ。
彰利 「まあいいんじゃねぇの?
俺、あんなに気持ちよく静かな歌を歌えたのって初めてだ」
悠介 「俺もだ。自然が一緒に歌ってくれてる気がして、凄く心地良かった」
理解してもらえるだろうか。
自然に抱かれ、木々や草花のざわめきが風とともに歌う癒しの歌を。
彰利はあまりの感動に涙を流しながら歌っていて、
俺はそんな景色に自然な笑みを浮かべながら空に歌を届けた。
なにに感動した、なんて訊かれたってきっと答えられない。
あれは、そういう感動だったのだから。
彰利 「あ、あのさ。俺が泣いたこと、みんなには内緒ね?」
悠介 「解ってるって。お前が間違えて映像で見せない限りは秘密になる」
彰利 「さすがにそこまで愚かなことはせんよ。
けど───うん、ほんと心に染みる歌だった。またあんな風に歌いたいよな」
悠介 「そうだな」
ふたりで空を裂くように飛翔する。
この時代では何処にどんな建物があるのかも解らないため、迂闊に転移が出来ないからだ。
ここまで過去だと、
俺達が皇国と呼んでいるレファルドもあるかどうか解らなくなってくる。
歴史書に拠るところでは、恐らくはまだ───
彰利 「おっ、村発見!降りる?」
悠介 「ここは丁度、キリシマがあったところか……」
彰利 「キリシマ?人みてぇな名前だねぇ」
悠介 「なんか知らんがモミアゲの使途がどうとか言う村人が居た。
全力でやめるように言っておいたから大丈夫だとは思うが……」
彰利 「言われるような心当たりは?
もしかしてミルハザードを倒したことで信者が現れたとか」
悠介 「そういうのは嫌いだ」
彰利 「そか。モミアゲといえば……レブロウドは残念だったなぁ。
せっかくの石像だったのに、あっさり破壊されちゃってまあ……」
悠介 「あんな長いモミアゲが許されるわけないだろうが!!
石像にかかった費用もちゃんと払ってきたから文句言われる筋合い無いっ!!」
以前の話になるが、地図製作のために世界を回った俺は、
たまたま立ち寄ったレブロウドでトンデモナイものを発見することとなった。
それはどうやら俺の石像だったらしく、中々精巧に出来ていた。
……唯一、異様に長いモミアゲを除いて。
しかも世界を救った英雄だとか言って一目見ようと訪れる人々を横目に、
見物料を取るひとりのジジイ。
もちろん石像はコナゴナよりもなお塵と化し、空界の空へと消滅した。
当然それで儲けていたジジイは俺に文句をつけてきたが、
逆に言い返そうとしたら例の如く『ヒイィ退却じゃーーーっ!!』と言って転移。
俺は空界における老人の在り方というものを暫く考えることとなった。
彰利 「まあなにはともあれ降りてみようや。えーと、キリシマ村、だったっけ?」
悠介 「ああ」
彰利 「……なんか村の名前の前に『ミスター』とかつけたくなるな。なんでだろ」
悠介 「さっぱり解らんが、確かにそんな感じだな」
彰利 「キリサキ村だったら間違い無くマイスターって呼んでたね、俺」
村の名前にいろいろな意見を出しながら降下してゆく。
さすがに村の中心に降り立つことはなく、少し離れた場所に降り立ってから歩いていった。
もちろん、竜人状態は解いてだ。
───……。
……。
村はそう大きいものじゃなかった。
どちらかと言えば寂れていて、一日の食にすら事欠くような雰囲気。
そんなものを、訪れて見渡した程度で理解できるほどだ、内情はもっと深刻に違いない。
───がしぃっ!!
彰利 「オワッ!?」
やせた男「おめぐみをぉ〜…………おめぐみをぉおお〜〜〜……」
彰利、足にしがみつかれて驚くの図。
彰利 「……なんか遥か昔の懐かしきなにかを思い出しそうな状況だね」
よくは解らなかったが、確かにそんな感じがした。
彰利 「えーと……お恵みっつったって……」
彰利は焦った様子で自分の懐を探る。
そして───
彰利 「………」
悠介 「………」
出てきたのはロビンマスク愛飲のプロテインだった。
彰利 「えと……いる?」
彰利、プロテインを痩せた男に渡すの図。
男はまるで漂流教室の女番長のようにプロテインをがぶ飲みし───ゲボハァ!!
やせた男「ぶえぇえっ!!」
吐いた。
やはり不味かったらしい。
悠介 「だ、大丈夫かっ?ほら、これ、口直し───」
すかさず、創造した和菓子を差し出した───途端、
引っ手繰るように取られ、和菓子は男の口の中へ。
男はそれを少しでも長く味わうように咀嚼し、ようやく喉を鳴らした。
やせた男「もっとだ……もっと寄越せ!!まだ持ってンだろテメー!!」
彰利 「あの。なんかいきなり空腹にキレたヤザワクンみたいになってんだけど」
悠介 「なんなんだこいつは……」
腹を空かせてるのは解るが、いきなりテメー呼ばわりはどうかと思う。
しかしその男の声を聞いたのか、村の至るところからやせた人々が現れ、
あれよという間に俺達を囲んだ。
……こうなってしまっては仕方が無い。
俺は溜め息ひとつ、食事を創造してみんなに賄ったのだった。
やせた人々『おぉお……モミアゲ様のお恵みじゃあ〜〜〜っ!!!』
……雷付きで。
───……。
悠介 「彰利〜、そっちはどうだ〜?」
彰利 「オウヨ〜、血行も良くなって来てるし、もう大丈夫じゃぜ〜」
雷で気絶に導かれた彼ら彼女らを適当に寝かせ、病気になっていた人を治していた俺達。
それが済むと村の隅に巨大な畑と田圃を作り、例の如く物凄い量の食料を栽培した。
それが済むとやはり調理。
しばらくは食っていけるものを作り、匂いに釣られて起きてきた人々に賄った。
そうしているのが今であり、
人々の様子を見るに……うん、確かに血行も顔色も大分良くなってる。
俺達はひとまず安堵すると、
空気を良くしようと月然力と然の力で村に緑を振り撒いていった。
純水ピュアウォーター(無限)の水道も作ったし、
台地を育むミミズさまも創造して大地に逃がした。
さらには手の届く範囲に果実の生る木を植え、すぐにでも食べられるようにし───
トドメに恒例の料理教室を開き、彰利が地界の料理を教えていった。
畑や田圃の手入れの仕方も教えたし、
生きるためならと必死で覚えた彼らの手つきは素人とは思えないものだった。
そんな中───一組の少年と少女を発見するに至り、
俺は軽い頭痛に襲われるのを感じた。
……間違い無い、ゼットとセシルだ。
貧しい村の出身ってのは知ってたけど、まさかここだったとは───
悠介 「………」
ゼット「な、なんだよ。馴れ馴れしくセシルに近づくなよ」
まだまだ子供のふたり。
そんなふたりが、どうしてあんな未来を辿ることになると気づけるだろう。
そう思うと悲しくなって、俺はその気持ちを誤魔化すように口を開いていた。
悠介 「……ゼット、ミルハザード」
ゼット「うぇっ……!?な、なんで俺の名前知ってんだっ!?」
悠介 「夢は剣士になることで、守りたいものは───」
ゼット「わぁあっ!!わぁっ!!言うなよ!!なんなんだよお前!!」
悠介 「んー……魔法使いだ。正真正銘の」
間違いではない。
事実、魔法は使えるし、それ以外のことも大抵は出来る。
ゼット「ま、魔法……?馬鹿にしてんのかおまえ……」
悠介 「……セシル=エクレイル。夢は魔法使いになって、ゼ───」
セシル「わぁあっ!!い、言っちゃだめぇっ!!」
悠介 「夢を持つ人の隣で、夢を馬鹿にしちゃだめだろ?」
ゼット「う……」
ゼットはしゅんとなるが、それでも俺を睨むのをやめない。
なぜなら、セシルが俺の言った魔法使いって言葉に興味を持ってしまった故だ。
セシル「ねぇねぇ、お兄さんは何が出来る魔法使いなの?」
悠介 「あー……多分なんでも出来るぞ?」
セシル「うそだー。じゃあゼトペックおじさんのお鼻、治せるの?
蜂のモンスターに刺されちゃってから、お鼻が長くなっちゃったの」
悠介 「出来るぞ?あの人だな?ん……」
分析をし、鼻が伸びてしまっている要因を削除。
羅列を切り離すと、ゼトペック氏の鼻は普通の人のソレと化していた。
ゼット「うわっ……す、すっげぇ!!」
セシル「わぁああ……!!じゃ、じゃあねじゃあね!!次はね!」
ゼット「あっ!ずるいぞセシル!次は俺が言うんだ!!」
セシル「やーーっ!ゼットくん嫌いになるよ!?」
ゼット「お前に譲るよ」
悠介 「……、っ……くくく……!!」
ゼット「あっ……な、なに笑ってんだよっ!!」
悠介 「いやっ……ははははっ……!!」
あのミルハザードからは考えられないくらい穏やかな時間。
俺はそれを眺めて、思わず笑ってしまった。
横で彰利が調理演説をする中で、俺は……やっぱり来て良かったと思ったのだった。
───……。
そうして、ゼットとセシルに魔法使いっぷりを何度も要求され、
気づけば寂れた村が豊かな村へと変貌していたその日。
俺達は他の村とかも見てみようと頷き合い、各地へと素っ飛んでいった。
寂れた場所があれば豊かにし、困っている人が居れば救い。
やがて───そんなことを何日か続けていたら、俺達は空界で指名手配にされていた。
相変わらずモンスターどもには劣勢である人間のオエライサンどもが、
俺達の力を利用しようと企んでのことだろう。
彰利 「ああもう……これだからお偉いさんってのは嫌なんだよ……。
村人も村人で、手柄を手に入れようと俺達のこと睨み始めたし」
人々に好まれていた俺達は一転、賞金目当ての指名手配。
空界中の人間どもに目をつけられる存在となっていた。
だが幸いなことにキリシマ村にはその伝達は無く、
今俺達はそこで密かにゼットたちを見守っている。
彰利 「つーかさ、モンスターどもを成敗しちまえばいいのでは?」
悠介 「その騒ぎに乗じて竜族まで来たら厄介だろ。
俺は出来れば竜族とは戦いたくないぞ」
彰利 「同種族だからねぇ。俺はもう修行相手になるならなんでもこいだけど」
そうして平凡に暮らす毎日。
話題なんてモンスターがどうとかというもので、
この村に襲い掛かってくるモンスターは俺達が蹴散らしていた。
村人たちもそれに安心してか、初めて会った時のような恐怖の顔などてんでなかった。
───……。
……。
ゼット「俺は勇者になるんだ!」
彰利 「俺は!海賊王になる!」
ゼット「勇者の方がカッコイイ!」
彰利 「バカヤロコノヤロォ!海賊王は腕を伸ばせるんだぞ!?
ホレ!ジョナサンズームパンチ!!《ゴキッ!ベキン!!》ギャアアアアア!!」
ゼット「うわっ!腕が伸びた!───けどヘンな音が」
悠介 「関節外して皮と筋を伸ばしただけだ。波紋なんて使えないから痛いの当然」
セシル「わたし、海賊王にだけはなりたくない……」
悠介 「言われてるぞ彰利」
彰利 「グ、グゥウウ……!!」
───さて、過去に来てから数週間。
すっかり俺達に慣れたこの村の人々とは、なんだかんだで上手くやっている。
といってもそこらへんの“付き合い”ってのは俺なんかより彰利の方が上手いもんで、
特に子供との相手はお手の物だった。
現に彰利はなんだかんだでゼットとセシルに気に入られていて、
日々遊びに付き合わされている。
そんな中の俺はというと……モンスターが来ないか、とか国の兵士が来ないか、とか。
そんなことばかりを気に掛けて、村の外の様子をイーグルアイで見ている日々。
時折ゼットにせがまれて剣術を見せてやったり、
どうやった方が隙が無くなるか等を教えている。
───生活は極めて平凡。
特になんの問題も無く、俺達は楽しんでいた。
時折大きい戦いが起きればこの村を彰利に任せ、
俺はモンスターどもを蹴散らしに行っている。
ただそれだけであり、竜族も自分から人間どもに襲い掛かるようなことはなさそうだった。
……マグナスとシュバルドラインを除いて、だが。
マグナスは持ち前の気性の高さから、常日頃から偉ぶっている人間が気に入らず、
シュバルドラインは持ち前の知性の高さから、人が高慢な態度で居るのを良しとしない。
そうなれば、話の解らない人間どもが黙っている筈も無く、
無謀だと解りきっている戦いに挑んでは沢山の血を流している。
そういったことを解らせるためにも傍観しているわけだが、
所詮人間ではブルードラゴン一体にも勝てやしない。
一度蹴散らされれば皆が怯え、逃走するわけだ。
で、俺がその蹴散らされたやつらを復活させるわけだが……キリが無いのは事実だ。
人を駒のようにしか考えてない利己主義な王と、
王の命令は絶対だと考えている馬鹿な兵士ども。
確かに、こんなんじゃあ戦争はいつまで経っても終わりやしない。
そう思えば、ゼプシオンとミルハザードは確かに聖魔戦争に終止符を打ったのだ。
セシル「……お兄さん?お兄さん」
悠介 「ん───っと、セシル?どした?」
セシル「どしたじゃないよ、わたしの話全然聞いてなかったでしょ」
悠介 「話……って、魔法使い?」
セシル「違うよぅ。その首飾り見せて、って言ったの」
悠介 「あ、ああ……これか。これはな。賢者の石って言って、俺の大事なものなんだ」
セシル「大事……パパとママの形見とかなの?」
悠介 「───……魔法使いに親は居ないんだ。
だから形見ってわけじゃない……けど、大事なものだ」
セシル「そうなんだ。もしかしたら魔法の石なのかと思ったのに」
悠介 「………」
近いぞセシル。
というかむしろ魔法よりも凄いと思う。
なんてことを思いながら、そういやゼットと彰利は……と視線を動かしてみると……居た。
彰利 「うーりゃうーりゃせいやせいやチェスタチェスタァーーーッ!!」
ゼット「トンガリの剣の振りかたってヘンだよな。
俺、魔法使いの兄ちゃんの剣の方が好きだ」
彰利 「な、なんだとてめぇ!ブラックロータスに謝れ!!
ィヤッィヤッィヤッィヤァッ!!チェチェチェチェチェスタァッ!!」
妙な構えで小枝をレイピア代わりに振るっている彰利。
最初の妙な掛け声とともに振るっていたのは木の棒だったが、何をやりたいのかは謎だ。
彰利 「しっかし、この村も豊かになったよね。
兵士どもも食料を出せー!とか言ってこないし、平和平和」
ゼット「そりゃ来ないよ。だってこの村、王国から見捨てられた村なんだから」
悠介 「見捨てられた?」
ゼット「お前らが来るちょっと前だよ。
食料も金も出せないから、って国がこの村を捨てたんだ。
ほうっておいても餓死するだけだって思ったんだろうな」
悠介 「……そんな国でも、お前は誘われれば国の兵士になるのか?」
ゼット「あったりまえじゃん。そうなったら俺が内側から国を変えてやるんだ。
馬鹿な王様に強いとこ見せてさ、みんな必死に生きてるんだ、って。
寂れた村の出身のヤツでも、
頑張れば裕福なヤツなんかに負けないんだって見せ付けてやるんだ。
そうすればここ以外の寂れた村に施しとかしてくれるかもしれないだろ?
それって俺が王様の意思を変えてやったことになるじゃん」
悠介 「………」
彰利 「驚いた……子供というのは見ているものなのだな……」
悠介 「……なんの真似だったっけ、それ」
彰利 「確か南国少年パプワくんのサービスあたりが言ってたような……」
自信は無いらしい。
そりゃそうだ、地界から離れて結構長い。
ゼット「だからさ、俺は勇者になりたい。
踏ん反り返ってるだけで何もしない王様なんかより立派になりたいんだ」
彰利 「そして俺は海賊王になる。
つーかさ、勇者っていやぁ魔法と剣とを両立させる者でしょうが。
キミ、魔法出来るん?」
ゼット「うぐ……じゃ、じゃあ俺とセシルと合わせて勇者だ。
セシルは魔法が使えるんだぞ、すっげぇだろ」
彰利 「知っとります」
ゼット「な、なんでだよ!」
彰利 「教えてほしいか?」
ゼット「お、教えろ!」
彰利 「どうしてもか?」
ゼット「どうしてもだ!」
彰利 「だめだ」
ゼット「なっ……じゃあ教えて欲しいかとか訊くなよ!!」
彰利 「ィヤッハッハッハッハ!!」
哀れな……。
ゼット、そいつは構えば構うほど調子に乗るから、子供であればあるほど不利になるぞ。
彰利 「しかしな少年。勇者たる者、技のひとつは覚えておかねばならんよ?」
ゼット「……だよな。なにかカッコイイ技、ないかなぁ」
彰利 「闘気を剣圧に変えて放つアルベイン流の初歩、魔神剣から習ってみよう。
よいかね?まず剣をこう構える」
ゼット「こうか?」
技と聞く+しかも構えを取る=技を教えてくれる。
そう考えたのか、ゼットは彰利が差し出した木の棒を、彰利の構えに習って構えた。
彰利 「次にこうして振る。闘気が無ければ放てません」
ゼット「その闘気ってなに?俺にも使えるのか?」
彰利 「剣士ならば必ずやあると思う」
ゼット「……なぁ。なんか技、ひとつでもいいから見せてくれよ」
彰利 「ほっ、小僧がほざきおるわ。よいでしょう、じゃあ───悠介」
悠介 「了解。木偶人形が出ます。弾けろ」
イメージを弾かせて、彰利の前に藁人形が大きくしたような模擬相手を創造する。
当然動かないが、地面に固定してある分当てやすい。
彰利 「よっしゃ。じゃあよく見とけよゼット坊」
ゼット「あ、ああ……」
ゴクリと息を呑むゼット。
見逃さぬよう、そしてあわよくば自分の技にしてみようと凝視している。
それはセシルも同じようだが、
セシルの場合はいっつもふざけてばかりの彰利が本当に強いのか、
とかが気になっているようだった。
で。当の彰利は長剣と短剣を構え、例の構えをとっていた。
もちろん───
彰利 「“交わらざりし生命に()───”」
───義憐聖霊斬である。
黒しか行使できないところを、
強引に光を使用して身を焦がしながらも長剣を光の剣へと変える。
彰利 「“今もたらされん()刹那の軌跡”()」
少々の前進ののちに振るわれる輝く長剣と短剣。
長剣短剣でのニ撃から長剣の二連へと続き、現れた隙を長剣の突きで殺ぐ。
次に体を回転させ、長剣と短剣で切り上げるように跳躍。
そして、
彰利 「“時を経て…()…”」
着地とともに次の構えへと以降。
光の剣は闇の剣へと姿を変えた。
彰利 「“ここに融合()せし未来への胎動”!()」
そして再び前進とともに剣の連ね。
下から振り上げるように長剣で斬り、それを振り下ろして斬り。
次に突きをしてすぐに構えを戻すと、大振りの横薙ぎ。そして───
彰利 「“義聖剣”()!!」
闇と光の剣を合わせ、両手で掴むと一気に振り下ろす!
剣は止まることなく振り切られ、ザックリと木偶人形を切り刻み、さらに───
彰利 「僕は───過去を断ち切る……!」
身を翻し、剣を振り上げ、下ろす動作の合間に黒い剣に力を凝縮させてゆく。
そうした次の瞬間には再び身を翻し、
そのままの勢いで短剣を地から天へと振り上げて木偶を切り刻む。
そして最後。
力を凝縮した長剣を構え、突きの構えを取ると一気に突進した───!
彰利 「散れ!───真神煉獄刹!!」
闇、黒、影を輝かせた一撃は木偶人形を粉砕。
跡形も残らすことなく消滅させた。
彰利 「何も言うことはない……」
で、終わってみれば彰利は片手で顔を覆って決めポーズを取っていた。
……ホント、なり切るとどこまでもって感じだ。
ゼット「す……すげぇ!すげぇすげぇ!!カッコイイ!!
なぁなぁ!俺も闘気とか身につければ出来るようになるのか!?」
彰利 「いえ。これは闇を背負い、それを乗り越えた剣士にしか出来ない技です。
乗り越えてないと『僕には……無理だ』と心が諦めてしまいますから」
ゼット「……?」
彰利 「だがね?ゼット坊。考えてもみなさい。
貴様が目指すのは闇の勇者などではあるまい。
だから貴様では一生、この剣を見切ることは出来ん」
ゼット「ぅう……すげぇかっこよかったのに……」
セシル「あ……ねぇお兄さん!お兄さんはああいうこと出来るの?ひっさつわざとか」
悠介 「出来る。けど危険だぞ?」
ゼット「!魔法使いの兄ちゃんも技できるのか!?見せてくれよ!」
セシル「やってやってー!」
悠介 「………」
彰利 「悠介の技って威力高いからなぁ……。ダイジョブ?」
悠介 「自分の力の在り方くらい把握してる。加減は出来るから大丈夫だ」
彰利 「そか。ではではどうぞ?」
彰利が身を引かせて場所を譲る。
俺はその場に巨大な木偶人形を作ると、賢者の石をラグに変えて構えた。
ゼット「うわっ!い、石が剣になった……!?」
セシル「すごい……!」
悠介 「彰利、少し離れて薄い黒の膜でも張っておいてくれ」
彰利 「あいよー。ほい、もっと下がりませうね」
ゼット「?そ、そんなに凄いのか?」
彰利 「ドラゴンくらい一撃でコロがせますよ?宅の悠介は」
ゼット「え……うそだろそれ。だってそんなことが出来るなら、
とっくの昔にドラゴン絶滅してるじゃん」
彰利 「宅の悠介は悪戯に力を行使しません。
あいつの剣はね、『守りたいものを守るため』にあるんだ。
だから守りたいものを守れればいいし、
力があるからって理由で生き物を殺したりはしないんだよ。
……そういうのを、本当の意味で勇者って言うんでないのかい?」
ゼット「う……」
黒い膜を張って、ゼットと何かを話している彰利を余所に構える。
行使は……黄竜剣でいいだろうか。
悠介 「彰利〜、技って言っても何をすればいいんだ〜?」
彰利 「む。これだから無駄に技の多い人は……。
よし!どうせなら超究武神覇斬ver.5やりなさい!
悠介 「出来るかっ!!」
彰利 「出来るでしょうが!!ラグナロクをファースト剣に変換すりゃあ十分でしょう!
飛翔の時は上手く風を利用して!!ホレやれ!!」
悠介 「〜〜〜〜っ……!」
どうしてくれようかあのボケ者……!!
しかし、確かに飛翔には風を使わなければいけない。
離れているとはいえ村の近くで竜人になるわけにはいかないからだ。
悠介 「……ああもうやってやる!いいイメージトレーニングだと思えばどうでもいい!」
イメージトレーニング、というのはラグを別の武器へと変えるトレーニングを指している。
実際に手にしたことも見たことも無い武器では完全に変換出来ない可能性がある。
それを完全なものにするためにも、こういった架空の武器などの再現も時折やってはいる。
故に……そう、これはトレーニング……トレーニングだ。
などと自己催眠をかけ、ラグにイメージを流した。
すると、すぐにファースト剣に変換されるラグ。
既に五本の剣と合わせた状態だ。
人間が持ったら相当に重いものだろう。
彰利 「ハイそこであのセリフから!」
悠介 「お前絶対に子供たちのこと抜きにしても楽しんでるだろ!!」
彰利 「当たり前だ!見縊るな!!」
悠介 「くっは……コ、コノヤロ……!!」
いや……これはイメージトレーニング……!
どうせならもうヤケクソだ……成りきってしまえ!!
悠介 「───……イメージ、解放」
キィンッ───……
彰利 「…………悠介?」
悠介 「………」
頭がスッキリする。
時折傾ぐ程度の痛みが頭を襲うが、それは成り切っているからだと断ずる。
悠介 「哀れだな……。あんたは何も解っていない……」
彰利 「お……おお!!」
キィンと構えたファースト剣が輝く。
そうした構えとともに姿勢を低くし、疾駆。
辿り着くとすかさず木偶を空へと斬り飛ばし、自分も跳躍。
悠介 「大切じゃないものなんか、無い!!」
大剣であるファースト剣を片手で軽くニ回転させると肩に担ぐように構え、
やがて木偶が宙に舞うスピードが落ちてきた頃、
剣を振るい、ファースト剣に重ねられていた五本の剣を解放。
木偶を囲むように分かたれ、輝きを増す剣と、その中心に浮かぶ木偶。
それを確認すると体に黄竜の力を満たし、魔法で風を起こすと空中でもう一度跳躍。
木偶を囲む剣の中の一本を手に取ると同時に木偶へと向かい一閃。
同時に木偶の背後に存在する一本の剣を手に取るとさらに飛翔し一閃。
離れた場所にある大剣を手に取ると木偶に向かい一閃。
それぞれの剣で攻撃を加え、一閃、もう一閃と連ねてゆく。
そして最後。
手に取り、木偶を斬るごとに重ねていったファースト剣を構えると空へと飛翔。
急速なる落下とともに木偶に全力の一撃を───!!
───ゾッパァアアアアンッ!!!!
弾ける金色の光。
剣を連ねるごとに残っていた残像もその衝撃で散り、
空中から大地へと着地した俺の周りには、
懇親の一撃のために五本に分解した剣がガガガガガッと突き刺さる。
そして俺は、立ち上がりとともに落ちてくる残りの一本、ファースト剣を手に取った。
悠介 「思い出の中で……じっとしていてくれ……」
最後にそう言う───が、空を見上げてみても木偶は存在していない。
技の威力が強すぎたためにコナゴナになったんだろう、なにも残っていない。
そして今さらながら、途中から自分が完全に成り切っていた事実に顔を赤らめた。
彰利 「ブラボ〜〜……」
悠介 「や、やかましいっ!!───お前らもっ!そんな輝いた目で俺を見るなっ!!」
ゼット「カッコイイ……!」
セシル「カッコイイ……!」
彰利 「人形もう無いのに空見上げて
『思い出の中で……じっとしていてくれ……』ってブフゥ!!
しかも完全に成り切ってたから悲しげな顔でブフゥ!!!
人のこと『成り切るとどこまでも』とか普段から言ってるのにブフゥ!!」
悠介 「や、やめろぉおおおおおっ!!!!言うなぁあああああっ!!!!」
のちの彰利の話では。
その時の俺の顔の赤さは、過去最高を記録するかもしれないとのことだった。
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