───OperationMarrige/僕と僕らの秋───
【ケース82:弦月彰利(再々々)/訪れた未来!かつての娘候補を攫え!!】
そうして僕らはレイヴナスカンパニーにやってきました。
何故再びこうして心の囁きが丁寧になっているのかは秘密でもなんでもありません。
これは僕の心構えの問題であり、二度と変態仮面になどなりませんという現れです。
彰利 (………)
夜華 (………)
僕はまだ恐怖から脱していない夜華さんを案じます。
無理矢理気絶状態から起こしたのは可哀想でしたが、これも気分転換のためです。
夜華 (……その……なぁ彰衛門。お前があの変態からわたしを助けてくれたのか……?)
彰利 (……イエス。キミはもう少しでお嫁にいけなくなるところだったのです。
そこをなんとか拙者が救いました)
夜華 (…………すまない。時として考えてみれば今日貴様に嫁ぐ身だというのに……。
他の男の裸体などを見てしまった……わたしは自分が恥ずかしい……)
彰利 (………)
もう後には引けません。
何故なら、僕はあの変態仮面が自分であることを打ち明けることは出来なかったからです。
だって墓まで持っていくと決めました。
今さら誰かに公言することなんて出来る筈もありません。
彰利 (……夜華さん、今度のミッションは
リヴァっちのセキュリティにさえ気をつければ楽なものだから。
出来るだけ気負わないように……そうですな、
椛に軽く挑むような感じで行ってみよう)
夜華 (楓さまに……挑む?)
彰利 (そ。夜華さんとみさおと俺の隠密行動が、どれほど家系の開祖さまに通用するか。
それを他の誰でもない楓直属の武士であった夜華さんと、
その楓の親代わりだった俺。そして───)
僕はきょとんと首を傾げているみさおさんを見ます。
ですが『そして、椛の娘である───』などとは続けません。
もうみさおさんは吹っ切ろうとしているのですから、それは酷というものです。
彰利 (とにかく、これは僕らの力を試されるミッションです。
いいですか夜華さん、さっきのミッションでは思わぬ敵と遭遇しました。
けれど僕らが何かをする前にみさおさんが豆村のご両人を攫った。
ようするに俺達は何もやってないのです。だからヒドイかもしれないけど、
さっきのミッション前に言った約束ごとはこっちに回しますよ)
夜華 (遣り遂げれば願いを叶えてくれる、というやつか?)
彰利 (そうです。その方が気が引き締まるでしょう?
なにせ相手はかつて剣聖と謳われた相手で、
さらに癒しの巫女で夜華さんが尽くした人。不足は無いと思いますぞ?)
夜華 (し、しかし……これは楓さまに対する裏切りにならないだろうか……)
彰利 (夜華さん。仕える者が主君より弱くて何を守れましょうか。
解りますか?今この時より夜華さんは試されているのです)
夜華 (わたしが……試されている……?)
彰利 (夜華さん、ここで立ち上がるか挫けるかは夜華さんが決めることです。
ですがそんな、やる前から諦めてしまうような存在を果たして、
あの楓が良しと思うでしょうか。
今まで素敵だった楓の中の夜華さんの姿が霞んでしまうのでは?)
夜華 (───!!)
夜華さんの目がハッとします。
『椛』ではなく敢えて『楓』と言ったのが効いたようです。
夜華 (……そうだな。どの道わたしは既に楓さまに仕える者ではなくなった。
楓さまには鮠鷹が居て、わたしには……その……)
夜華さんが、月夜に照らされた世界で顔を真っ赤にして僕を見ます。
……最近の夜華さんの顔は赤くなってばかりです。
もしや何かの病気なのではないでしょうか。僕はなんだか心配です。本当です。
みさお(彰衛門さん、そろそろ……)
彰利 (ウィー)
今まで蚊帳の外、というか話の外に居たみさおさんが僕に声を掛けます。
僕はそれに頷くと、迅速なる行動に移ったのです。
夜華 (………)
みさお(あ、あれ?なんで睨むんですか篠瀬さん)
夜華 (もういい……)
───……。
……。
彰利 (エタァッ!!)
ボチューーンッ!!
様々な場所にあるセキュリティ魔具を貫手で破壊しながら進みます。
破壊音はそう五月蝿いものではないので、そうやすやすと気づかれたりはしないでしょう。
不安要素は小僧だったけれど、紅花にデレデレの彼奴が
騒ぎに気づけるほどの気配察知能力を残しているとは思えませんでした。
だから僕らは堂々と進みます。
尚、どうあっても連れ攫えばいいとのことなので、
騒ぎになっても強引に攫う覚悟は出来てます。
というかむしろそっちの方が楽しそうではあります。
……などと思っていた時でした。
声 「はぁ〜あ……夜の見回りなんて警備員でも雇ってやらせればいいッス……」
僕の耳に、あのおなごの声が届いたのです。
語尾の『ッス』は聞き間違えることもなくあの女でしょう。
みさお(あの。あのこちらに近づいてきている光って……)
彰利 (小僧言うところの『魔王サコタヨーシェ』の持つライトの光ですな)
夜華 (ど、どうするんだ?)
彰利 (撃つ)
トォンッ!!───ビスッ!
声 「ほごっ!?」
……ドサ。
死んだ。───じゃなくて眠りについた。
彰利 (ヒャッハァーーーッ!!命中だぜーーーっ!!)
みさお(ザマァみろだぜハッハァーーッ!!)
僕とみさおさんは喜びのあまりに手を叩き合わせて小声で叫びます。
こういう時のノリは最高です。
夜華 (……何故あの者だけ、なんの躊躇も無く撃たれたんだろうな)
ひとり、最大の疑問にブチ当たっていましたが、
それは相手があやつだからだとしか言えません。
とりあえず僕らは佐古田好恵の亡骸を突付き、完全に眠っていることを確認すると、
高級で大きな壷の中に便利に収納しました。
一応夜華さんが刀を拭くのに常備している和紙に『悪霊退散』と書き、
それを壷に張るのも忘れません。安らかに眠ってください魔王さま。
彰利 (さて行きますよ。
絶対に、ヨウカンとオチットさんにだけは気づかれてはなりません)
声 「何故だ?」
彰利 (何故ってキャアアアアアアアーーーーーーーッ!!!!」
小声で話していた言葉がつい悲鳴に変わってしまいました。
何故って、我が背後にいつの間にかヨウカンが居たのです。
またですか?また関門の誕生ですか?
なんていうことでしょう、ここでまた手柄を譲ることになろうとは思いもしませんでした。
彰利 「みさお!こうなったら特攻だ!
ヨウカンは俺と夜華さんで食い止めるから、貴様はターゲットを捕獲しろ!」
みさお「え───あ、ハイ!!」
みさおさんが駆け出します。
ヨウカンはそれをすぐに追おうとしますが、僕はその手を超高速で掴んで止めました。
葉香 「───!……お前……」
彰利 「させませんよヨウカン……。オチットさん、どうせ見てるんだろ?出てきてくれ」
チット「あらあら、見破られていましたか」
ヨウカンのすぐ後ろからスゥ……と現れるのはオチットさんというおばあさんです。
ですが誰よりもクセモノのおばあさんです、油断は出来ません。
葉香 「……ばーさん、気をつけろ。こいつ、前までのこいつじゃない」
チット「ええ解りますとも。張り切っていかなければいけませんねぇ」
夜華 「……っ……彰衛門……わたしはどうしたらいい……?」
彰利 「そこで黙って見ていてください。こいつらは俺が蹴散らしますから」
夜華 「だがっ……!」
彰利 「今日夫になる相手の言うことくらい、こういう時だけでも信じてください。
絶対に負けませんから、安心おし」
夜華 「ばっ……な、いきなりなにを言う馬鹿者っ!!」
彰利 「馬鹿とはなんだコノヤロウ!!」
……と、こんなことをしている場合ではありません。
僕はゆっくりと影を蠢かせると、そこから鎌を引き出しました。
彰利 「……一度、あなたを圧倒的な力の差で倒してみせたかった。
加減はしますからどうぞ、全力で抗ってください」
葉香 「───」
ヒュオドパァンッ!!
彰利 「ブゲーーーィ!!!?」
一瞬にして間合いを詰めての拳が僕の頬を殴りつけました。
葉香 「相変わらず妙な慢心は抜けていないのか。力をつけたというのに勿体無い」
彰利 「……教訓として受け取っておきます。そしてこれが最後です」
僕は小さく『卍・解』と唱えると、闇黒の鎌を解放しました。
加減などと謳った自分が馬鹿に見えたからです。
強敵だったのなら全力で負かせましょう。それが、相手に対する礼儀です。
彰利 『眠れ、かつての強者よ。掌破』
僕は姿さえ見せぬほどの疾駆で彼女の懐に潜り込むと、
そのお腹に掌を当てて吹き飛ばしました。
恐らく彼女は何が起きたのかさえ気づく間もなかったと思います。
当然、刹那の瞬間に項に手刀を落とされたオチットさんも。
彰利 「……ふう」
息を吐いて卍解を解きます。
引き締まった精神が一気に気を抜くようにふしゅる〜と落ち着く感じ。
僕の体は軽い脱力感に纏わり憑かれながら、普通に戻りました。
夜華 「……凄いな。あのふたりをああも簡単に……」
彰利 「いやいや凄くない凄くない。
俺に比べりゃバケモンクラスのヤツなんてまだまだ居るって」
そうです、僕はまだまだ経験不足なのです。
こうして卍解に至っても、まだまだ自分が強くなれる可能性っていうのを感じています。
その点で言うと僕の親友は……どうなんでしょう。
今までは『変化』出来る状態があるのならそれを極め、次に進んでた親友。
最近はむしろ、精霊状態の長時間維持や、
竜人ロヴァンシュフォルスの状態を長時間継続出来るように心がけているようです。
竜人ロヴァンシュフォルスっていうのは、ややこしいから僕が名付けたものです。
竜人状態で神魔竜の力を引き出している状態のことを言います。
彼はもう存在自体が怖いもの無しです。神で死神で竜で精霊……もうなんでも来いです。
彼が空界の精霊王の座を受け入れているかは解りませんが、
僕は僕で、もう死神王の座を受け入れては居ます。
僕のこれからの目的は難しい雑務はルヒドっちに任せて、
僕は冥界の死神に鎌の能力の解放をさせて死神自体を強化させることです。
どれくらいが卍解に至れるかは解りませんが、
至れたら冥界の強さの規模は随分と変わると思います。
まずその第一歩として───
夜華 「?」
夜華さんの中に眠る死神の力を引き出し、卍解に至らせようとか目論んでいます。
もちろん春菜も粉雪にも至ってもらおうと思ってます。
そうすれば空界の中でも、恐れるものはそうそう出てこないと思うがゆえです。
まずは自分の中の死神をコントロール出来るようにならなければなりません。
そういった意味では───
悠介くんが戦ったロディエルさんの能力は、あながち無駄ではありませんでした。
彼が強制的に粉雪、春菜、夜華さんの中の死神を呼び起こしたことで、
案外早めに死神の引き出しは出来るかもしれません。
彰利 「………」
春菜の鎌の能力は恐らく弓系、夜華さんの鎌の能力は刀系で、粉雪は……なんでしょう。
もしかしたら先を読むことに長けたものかもしれません。
なんにしても楽しみです、僕の心は血沸き肉踊る祭りの気分です。
彰利 「………」
ところで、悠介くんの鎌───ラグナロクは、やはり卍解なのでしょうか。
いえ、『真に至る』と言ってたスッピーの言葉が確かなら、やはりあれは卍解なのです。
あれほどの高密度な力の波動、滅多に感じられるものではありません。
彰利 「……あの。夜華さん?
夜華さんって一度死神化したじゃない、浅美さんの魂の影響で」
夜華 「う……あ、ああ……」
彰利 「あれ以来、頭の中に届く声みたいなのってあります?」
夜華 「……───ある。我を受け入れろ、と何度も。
危機が訪れるたびにその声は響くが、わたしは頑として跳ね除けている」
彰利 「…………」
なんてことでしょう、夜華さんは既に己の死神の声を聞いているのだそうです。
しかもそれを押しのけて、多大な精神力で死神の力を押さえ込んでいるのです。
彰利 「受け入れてみなされ」
夜華 「なっ───馬鹿を言うな!
そんなことをして、もし再び自我を奪われたら───!」
彰利 「安心おし、その時は死神の王様である我輩が叱ってあげますから」
夜華 「っ……だ、だがな……!」
彰利 「信用して、夜華さん」
夜華 「〜〜〜……な、何故貴様はこういう時にだけやさしいんだ!
もっと普段からそうやって接しろ!なにかといえば人を馬鹿だのカスだの!」
彰利 「や、今そげなこと言われても困るんだけど───ほれ、受け入れてみ?」
夜華 「〜〜……」
夜華さん、溜め息を吐くの図。
観念したのか、ぶすっとした顔のままに意識を集中していきます。
心構えのつもりか、しっかりと刀を抜いて。
すると次の瞬間───ブワァッ!
彰利 「お……」
夜華 「……?うわっ!?」
どうしたことでしょう、夜華さんの武道装束があっという間に死神の黒衣に早変わりです。
おまけに、持っていた刀は真っ黒に染まってしまったのです。
刀身も装飾も、なにもかもです。
感じるものは死神の波動のみです。
おそらく、悠介が言ってた“風”とやらを知ってしまった今、
死神は自分の力では夜華さんに勝てないことを理解していたのかもしれません。
現に、覚醒したばかりの死神の力では幻獣には勝てないでしょう。
そういった意味では夜華さんの中の死神は、既に夜華さんを認めていたのかもしれません。
そして……そんな夜華さんの『鎌』はやはり、
刀技に生きて刀技を貫いた生き様が繁栄されたこの刀のようです。
漆黒に変色したのは、鎌の力が上乗せされたためでしょう。
夜華 「な……なんだこれは……。ただ受け入れよう、と思っただけで……。
体が軽い……刀が恐ろしく軽い……
今ならばどんな高いところへでも跳躍ひとつで届きそうな気さえする……」
夜華さんがチキリと刀を握り直します。
驚きはしたけれど、それら全てを受け入れて息を吐いた、という感じです。
夜華 「……わたしは。楓さまの『血族』として認められたのだな……」
彰利 「あ───」
そうです。
考えてみれば、死神を発現することが出来るということは、
まさしく『月の家系』の、それも相当な実力を持った者ということになります。
つまり、それだけ神であり死神であった開祖、楓に近いということです。
夜華さんはその繋がりを今になって理解し、喜びに笑みをこぼしているのでしょう。
彰利 「だが夜華さん、これからが大変ですよ?
そっから始解、卍解と習得していかねばならんのですから」
夜華 「しかい……?ばん……なに……?」
彰利 「始解と卍解です。始解っていうのは自分の中に居る死神の力を鎌───
夜華さんで喩えるならその刀だけど、それに込めること。
死神の鎌にはそれぞれ固有的な能力があるからね。
レオの運命破壊然り、フレイアの闇薙然り、俺の黒の秩序然り。
そこに、裡なる死神自身の力を上乗せすることで始解には至れる。
で、問題は夜華さんの『鎌の力』なんだけど───なんだか解る?」
夜華 「……───、……いや」
刀を持ち直してシゲシゲと見る夜華さんですが、能力は解らないようです。
彰利 「悠介が居れば分析で解るんだけどね。
まあいいコテ、その修行はあとあとゆっくりやっていきましょう。
僕らの人生はまだまだこれからですから」
夜華 「……あ、ああ、そうだな」
彰利 「?」
夜華さんはなにやらまた顔を赤くしました。
そして小さな声で『僕ら……わたしと彰衛門の人生のことか……?』と言っています。
確かにその通りですが、顔を赤らめながら言われるとこちらも照れます。
しかしここでもたついていてもミッションはクリアできません。
僕は夜華さんを促すと、とりあえずは先に進むことにしました。
彰利 「夜華さん、まずは死神の状態に慣れるところから始めましょ。
その状態でこのミッションはクリアするってことで」
夜華 「……よし、解った」
夜華さんは刀を鞘に収めながら頷きます。
そうしてから僕の隣を歩き、長い通路を一緒に進んでゆきます。
夜華 「……不思議だ。今まで感じることの出来なかったものが感じられる。
彰衛門、この部屋に人は……ふたり居るな?」
と、夜華さんがふと立ち止まり、壁に手を付くとそう言います。
僕は促されるままに気配探知をしてみますが───なんということでしょう、
その部屋には確かに人の気配がふたつあるのです。
これは驚きました、気配探知能力は僕よりも夜華さんの方が上、ということになります。
気配探知能力は戦場ではとても大切なものです。
それを夜華さんは死神化しただけで持っているというのです。
……僕は死神王として、ちょっと寂しい気持ちになりました。
でも夜華さんは武士です。そういった能力には元々長けていたのかもしれません。
夜華 「……男と女だけだ。この感じは恐らく風間とその伴侶だ」
彰利 「エエッ!?そ、そんなことまで解るんですか!?」
大変です、私はあまりの出来事に大変驚きました。
夜華さんの探知能力はそこまで高いということです。
これは……卍解にまでさせた時の能力が楽しみです。
彰利 (……あれ?)
でも待ってください。
もし僕が妻になる三人を卍解にまで至らせてしまったら、
僕はそんな強力奥さんに囲まれて過ごすことになるということですか?
ヘタにからかったりしたらMAXパワー夜華さんに刀でボコボコにされたり、
MAXパワーの春菜に弓で射られまくったり、
反撃しようとしたら粉雪に先読みされまくってボッコボコ……?
彰利 (………)
なんでしょう……僕の頭の中にあった明るい未来が血に染まっていきます。
でも僕はもう逃げません。
僕は死神王です、ここで逃げてはどうにもならないのです。本当です。
だから今さら彼女らの能力を成長させないとは言いません。
こうなったら僕も覚悟を決めましょう。
彰利 「と、ともかく。ここじゃないなら別を探してみますか?」
夜華 「ああ」
僕は、夜華さんの成長が楽しみであると同時に不安も感じてたのでした……。
彰利 「あ、でも夜華さん?いくら死神状態でいこうっていったって、
その能力で危機を逃れちゃいけませんよ?」
夜華 「言われるまでもない。わたしは手に入れたばかりの力で誰かに挑む気なんて無い」
彰利 「その意気です。それでこそ夜華さんですよ───お?」
なんて言ってる時でした。
浩介 「ふ〜〜〜、なかなかしぶといビッグであった……む?」
浩之 「出すもの出すと体が軽くなる……ぬ?」
彰利 「………」
丁度便所から出てきたスーパー志摩ブラザーズと遭遇。
僕はすかさず銃を構えますが、その構えた銃に光が灯るのです。
なんてタイミングでしょう、みさおさんは既に小僧と椛を発見したようです。
すぐに追いつけると思いましたが、どうやら手柄はみさおさんのものになりそうです。
だったらせめてこの双子に八つ当たりを───!
彰利 「トルネードバス!ってあれぇ!?」
銃を撃とうと思ったら、銃に弾が入っていないことに気づきました。
しかも傾けても弾が補充されないのです。壊れたのでしょうか。
もしかしてヨウカンにどこかを破壊されたのでしょうか。
すぐに夜華さんを見ますが、夜華さんは銃を持っていませんでした。
これは大変です。
緊急時だからとはいえ、人間相手に能力を使うのは気乗りしません。
彰利 「ウムムム〜〜〜〜ッ」
浩介 「貴様、こんな時間にここでなにをしているのだ?
……っと、貴様に関連することと言ったら同志のことか。そうだなブラザー」
浩之 「おうともブラザー。そしてこれは立派な不法侵入だ。
ちょっとフェイスを貸せ貴様ら。
罰として我らのために極上のとんこつラーメンを作れ」
浩介 「なにぃブラザー!ここは掻き揚げうどんだろう!これは譲れん!」
浩之 「よし譲らんで結構。どうせならニ品とも作ってもらおう」
浩介 「おおそれは名案。というわけで作れ」
全力でお断りします。
どちらにせよターゲットは既にみさおさんが発見したわけですから、
僕らはこのふたりを引きつければいいわけです。
それに、もし他の人が起きたとしても僕らが騒いでいればこちらに来るでしょう。
そうなると、僕らがやることはただひとつです。
彰利 (夜華さん……!こやつらを引き付けますぞ……!)
夜華 (ああ。それで───どうすればいい?)
彰利 (…………《ボソリ》)
ダダッ───夜華さんは一目散に逃げ出した!!
ザガガッ!───しかし回り込まれた!!
夜華 「い、いぃいいいやだぞわたしは!!
何故わたしがあんなことを再びしなくてはならないんだ!!」
彰利 「未来っ子は驚かされるのが好きなんです!!
あのふたりをいつの間にか空界に移動させといて、
目覚めたら結婚式場でした、なんて最高じゃないですか!!
解ります!?ひとえに楓を喜ばせるためですよ!」
夜華 「いくら楓さまが喜ぶとしてもわたしは嫌だぞ!?あれだけは絶対に嫌だ!!」
彰利 「じゃあ僕らが結婚する前の最後のお願い」
夜華 「うぐっ……!!」
彰利 「夜華さん!これは個人問題ではありません!
これで引きつけておかねばミッションは失敗するのですよ!?」
夜華 「引き付けるにしたって他に方法というものがあるだろう!!」
彰利 「ありません!!」
夜華 「少しくらい考えたらどうだ!もっと他に……あるだろっ、なぁっ……!!」
夜華さんは泣き顔直前です。
彰利 「くどい!ありません!あるのだとしたら教えてほしいものですな!」
夜華 「うっ……うぐっ……うぐぐぅうう……!!」
もう彼女は泣き顔でした。
───その頃のみさおさん。
みさお「はふ……これでよし」
父上母上を月清力で包んで深い眠りに誘い、起きていた紅花も同様にそうする。
紅花に近い反応だったからでしょうか、父上も母上も安心しきった顔で隙だらけでした。
紅花もなんていうのか、敵ではなかった。
刀の楔から外れた“わたし”の力なんてそんなものなんだろうって、あっさりと落胆した。
そう考えてみて改めて、わたしはこのままの方が誰かの役に立てるって思った。
……そりゃあ、ものにもよりますけど。
みさお「それじゃああとは父上と母上を空界に運んで……。
ああ、紅花は置いていきましょう。八つ当たりってことで笑って許してください」
人の気も知らずに幸せ噛み締めてる“わたし”への八つ当たり。
父上も母上も何を言い出すか解らないけれど、
……そうです、結局“この人たち”はわたしの親ではないのだから。
気楽に行きましょう。怒られたって知りません。
みさお「さてと」
ポムと手を打って、月空力でふたりと一緒に転移します。
わたしの周りを緑色の光が舞い、いざ転移───という時。
声 「───……ラァ……!!」
声 「……、ラァッ……!!」
なにやらわたしの聴覚に妙な声が届きました。
けど既に月空力は発動していて、それを確かめる手はなかったのです。
彰利 「男の道をそれるとも 女の道をそれるとも 踏み外せぬは人の道
散らば諸友 真の空に 咲かせてみせよう───」
彰利&夜華『オォオオオオオカマウェェエエエエエイ!!!!』
彼女の涙に濡れた顔が悲しかった。
そして、それでも一緒にやってくれるその心意気が嬉しかった。
以上、感想終わり。
彰利 「アン!ドゥ!オゥルァッ♪(合いの手)」
夜華 「アン!ドゥ!クゥルァッ♪(合いの手)」
彰利 「所詮〜〜んこの世は〜〜男と〜〜女〜〜〜♪
しかし〜〜オカマは〜〜男で〜〜女〜〜〜♪
だ〜〜〜か〜〜〜ら〜〜〜最強!」
夜華 「最強!」
彰利 「最強!!」
夜華 「最強!!」
彰利 「オ〜〜カマウェ〜〜〜イ♪あー最強!」
夜華 「最強!」
彰利 「最強!!」
夜華 「最強!!」
彰利&夜華『オ〜〜〜カマ〜〜〜ウェ〜〜〜〜イ〜〜〜♪(ハモリ)』
僕は踊った!夜華さんも踊った!そしていつしかギャラリーは増え、夜華さんは泣いた!
でも僕らは叫び続けました!地界からみさおの反応が無くなるまで叫び続けました!
風間 「あの……この人たちなにを……?」
浩介 「黙って見守っていてやろう……。
それが、頬を涙で濡らす武士へとせめてもの供養だ……」
浩之 「まったくだブラザー……
なんの目的でこんなことをしているのかはまったく解らんが、
ツッコミを入れるのはヤケクソを停止させることに繋がる……。
それはつまり、ヤケになることで押さえている感情を解放することになるのだ」
浩介 「そうなれば……ああ、間違い無く剣術女は思い切り泣くだろうな……」
風間 「うわぁ……」
言われるまでもなく解りきったことを言われてます。
でも大丈夫、そうなったら僕が彼女を慰めます。
だって僕は彼女の夫になる男なのですから、こんな時くらいはなんとかしてあげたいです。
僕の目指す男……それは、“おなごを傷つけない男”である。
絶対に弦月宗次とは逆の男になってやろうと僕は心に誓ったのですから。
───などと考えていた時、
浩介 「む?ところで同志はどうした?」
浩之 「ブラザー、つまらんぞそのギャグ」
浩介 「ギャグではない」
双子の片割れ1が小僧の行方が気になったと同時に、
地界からみさおさんの反応が消えました。
そう、僕らはやったのです。僕らは───シャアアアア……!!
彰利 「おや?」
僕はなにか背筋に冷たいものを感じると、後ろを振り返りました。
するとそこに、あまりの恥ずかしさのために顔を紅蓮に染めて涙を流す夜華さんが───
夜華 「くっ……ぐぅっ……!!屈辱だ……!!
貴様の最後の願いだからと受け入れたが……!!」
その手には鞘から抜刀された刀がありました。
ご丁寧に僕に向けられています。
彰利 「やっ……大丈夫ですよ!?もうミッション成功したみたいだし───」
夜華 「そんなことは解っている!!だからこうして奇妙な舞いなどやめているんだ!!」
彰利 「えっと。じゃ、まさか……」
夜華 「くっ……ふふふふふ……ふはははははは……!!!
彰衛門……この刀の用途が気になるか……!?」
彰利 「えーと……あの、夜華さん?平和的な話し合いを……」
などと言ってる間に、彼女の周りに風が集まっていきます。
ああ、これはヤバイです。どうやら彼女の『鎌』の能力は、風を知る者の力のようです。
それを利用した戦い方をする彼女にとって、
これ以上無い素敵な能力───あぁっ!夜華さんが姿を消しました!
気配を察知しようにも、風に紛れて気配が完全に殺されています!!
大変です!僕ともあろう者が完全に彼女を見失いました!!
そしてなんだかとても嫌な予感がします!
声 『紅葉刀閃流───』
風に紛れて、ブレたような声が聞こえました。
ああ……死ぬ、死ぬな……こりゃ……
そう思った時にはおっそろしいほどの数の刃が僕を襲いました。
いえ、当然刃の数など一本なんでしょうけど、
風を身に受けて速度を増した刃は幾重にも見えたのです。
事実、僕はその中の一本を受け止めようとしたらそれは擦り抜け、
後ろから斬りつけられました。───その時に僕は思ったのです。
ああ、僕は恐ろしい能力を卍解に至らせようとしているんだなぁと。
ゾヴシャシャシャシャシャシャ!!!
彰利 「ギャアアヤヤァアアアアアーーーーーーーーーーッ!!!!」
当然僕は滅多刺しの滅多斬りにされました。
すぐに黒を融合させようとしても、
斬られた先から散った黒を風が霧散させるため、回復が思うように間に合わず───
僕は彼女の卍解について、もう少し考えることにしました。
【ケース83:弦月彰利(ステキに再)/愛よ集え!知り合いどもを招待せよ!!】
───そうして戻ってみれば、とりあえず庭園に悠介の姿は見当たらなかった。
彰利 「ありゃ?悠介は?」
中井出「それ訊く前に傷塞いだらどうだ?」
彰利 「いや……如何に夜華さんが凶暴だったかを皆様に知ってほしくて」
中井出「どうせ自業自得だろ?」
彰利 「まあ、そうなんだけどさ……」
同情の『ど』の字も無かった。
まあべつにそげなもん欲しくもないが。
ともあれ俺は傷を治すと、眠ってる椛のところへと歩いてゆく夜華さんを横目に
もう一度同じことを中井出に訊いた。
中井出「晦なら現代の地界に行ったぞ?お前たちと入れ違いに晦家の人々がここに来てさ。
んで、まあここだといろいろと寝てるわけだろ?
だから家の方で話そうってことになった」
彰利 「なるほど」
ようするに縁のことだの結婚のことだのを話にいったってわけか。
彰利 「んで、どうする?他になにかやることあるか?」
中井出「寝なくていいってんならあるけど。どうする?」
彰利 「乗りかかった船は泥舟だったらしいぜ?」
中井出「よし、沈没覚悟の乗船なら俺も容赦せん。───集まれヒヨッ子ども!!」
中井出がみさおさんと夜華さんに向かって声を張り上げる。
それに反応したふたりは『静かにしろ』的なことを言うが、
当然『黙れヒヨッ子!』と返されて渋々こちらへ来た。
テリー教官には『お前が静かにしろ』なんて理屈は無駄だと瞬時に悟ったんだろう。
中井出「うむ!ではこれよりファイナルミッションを始める!!
貴様らはこれから現代の地界へ行き、知り合いを集めてこなければならない!!」
彰利 「テリー教官!発現の許可を!」
中井出「許可する!なんだ弦月一等兵!」
彰利 「地界の知り合いというのは誰のことでしょうか!
生憎と俺には知り合いと呼べる輩があまり居ないのですが!!」
中井出「馬鹿者!閏璃や穂岸といった、
家系を悪く思っていないやつらを問答無用で攫ってくるのだ!
目が覚めたらいきなり結婚式場……最高だろう!!」
彰利 「す……すげぇや!さすがは天下のキバヤシさんだ!!」
中井出「誰がキバヤシだてめぇ!!訂正しろ!!」
彰利 「テリーてめぇ!ちゃんと成り切れタコ!!」
中井出「うるせぇ!人をあんな、なんにでも
『愛してる!』とか『大好きだ!』とか言うやつと一緒にすんじゃねぇ!」
みさお「……?なんの話ですか?」
彰利 「知る人しか知らないコト。『彼』はスゴイぞ?
幼女から熟女までなんでもござれ、選り好みしないオールマイティーだ。
人間としてクズでカスで部下にも好まれてないが、度胸だけは誰にも負けん」
みさお「余計に解りませんよ……」
まったくだった。
彰利 「とにかく、閏璃凍弥とか精霊野郎を連れてくりゃいいんだな?」
中井出「待て、その前に訂正しろ」
彰利 「イェッサー!テリー教官!!」
中井出「よし!イェア・ゲッドラァッ!ライクファイクミー!!」
ザザッ!!
彰利&みさお&夜華『Sir!YesSir()!!』
こうして俺達は───って
彰利 「おお夜華さん!」
夜華 「うるさいっ!あんなことさせられて、
今さらこんなことが恥ずかしいわけがあるかっ!!」
みさお「……?あんなことって?」
中井出「弦月一等兵……まさか貴様───夜の加速度に背中押されて、
糸が切れるようにただキミを強く強く抱いてたのか……!?」
みさお「彰衛門さん……」
彰利 「えっ!?違うよ!?ふたりしてなんでそんな軽蔑するような目で見んの!?」
中井出「弦月一等兵……いくら男として我慢出来なかったからって、
ミッション中に新入りを襲うとは何事だ……。
貴様、初夜までも我慢できないほどに“男”だったのか……?」
みさお「さ、最低です彰衛門さん!!さっきから篠瀬さんの様子がヘンだし、
涙の跡があったからどうしたのかって思ってたら!!」
彰利 「いやちょちょちょちょっと待って!違うってば!!誤解だよそれ!!
つーかそんなこと大声で言わないで!ね!?
これで春菜や粉雪が起きてきたら俺殺されるよ!?」
中井出「更待先輩なら晦と一緒に母屋に行ってる。
日余だっていろいろあって疲れて寝てる。
ふたりに心配はないが、俺はお前が心配だ……」
彰利 「だぁーーーーーっ!!!違うっつっとろーが!!」
中井出「篠瀬さん、この馬鹿にどんな恥ずかしいことさせられたんで?」
夜華 「……〜〜〜……」
中井出の質問に、夜華さんが涙を浮かべて真っ赤になります。
あの夜華さん?それが今どれほどヤバイ反応だか解ってる?
中井出「きぃぃいいさぁああンまぁあああ〜〜〜…………!!!!
まさか野外プレイでも強要したんじゃあるまいなぁあああ……!!!」
彰利 「なんてこと言い出すんだてめぇ!あたしゃそんなことしてませんよ!
人の未来の妻を言葉で汚すのはやめていただこうか!?
大体野外プレイ()したのは中学時代に世界の括約筋を爆発させた貴様だろうが!」
中井出「あっ!て、てめぇっ!!それは秘密だってあれほど注意しただろうが!!」
彰利 「うっせうっせ!人の話も聞かずに罵倒した罰だこの野郎!!」
みさお「あの、篠瀬さん。
篠瀬さんは彰衛門さんに恥ずかしいことを求められたんですよね?」
夜華 「…………《コクリ》」
みさお「さっ……最低です!!なに考えてるんですか彰衛門さん!!」
中井出「……クズが!!」
彰利 「真っ先に言う言葉がそれかよ!!待って!まず落ち着こう!?
ホラ!僕あったかい紅茶煎れてあげるからさ!!」
みさお「そんなもので誤魔化されると思ってるんですか!?」
中井出「……クズが!!」
彰利 「誤解ですっつーのに!!ホラ夜華さん誤解解いてよ!!
俺達がなにやってきたのかちゃんと事細かく!!」
夜華 「〜〜っ……!!《ふるふるふる》」
彰利 「いやそんな涙ながらに俯きながら首を横に振られたらもう大変なことに───」
中井出『ク……クズが!死ね!!』
彰利 「やっぱりぃいいーーーー+ーっ!!!!」
みさお「散々辱めた上に、それを事細かく他人に言えっていうんですか!?最低です!!」
中井出「なぁ彰利よ……。
俺はお前に体験告白プレイをしろだなんて言った覚えはねぇぞ……?
それじゃあお前……ただの鬼畜じゃねぇかよ……」
彰利 「あの待って!マジで待って!!聞いてよホント!
なんかヤバイ方向に向かいすぎてる!!
そんな辛そうな顔で言われたら俺自身自分が信じられなくなるよ!!」
みさお「あの……出来心だったんですよね……?そうだって言ってくださいよ……。
これじゃああんまりにも篠瀬さんが可哀想ですよ……」
彰利 「ねぇお願いだよぅ……聞いてよぅ……。
俺もう涙出てきたよぅ……誤解なんだよぅ……。
俺こういう人の話も聞かないのにギャースカ言われるのもうヤだよぅ……」
みさお「わっ!泣き出しました!」
中井出「鬼畜の涙だ!鬼の目にも涙!」
みさお「いい歳して情けなくないんですか!?これから三人と結婚する人が!」
中井出「重婚する度胸はあっても発言を許されない状況は嫌いか一等兵!」
───ブチリ。
みさお「───ややっ!?」
中井出「むう!これはどうしたことか!大変危険な香りが!!」
彰利 「……ボクハ、コノキレイナセカイガダイスキデシタ」
ガガシィッ!!
みさお「ふわっ!?あ、彰衛門さん!?なにする気ですか!?」
中井出「頭掴むなって!ちょ、───えぇ!?まさかおまっ───や、やめろ!!
それだけはやめろ!!ギガンティックミーティアなんてやられたら死ぬって!!」
彰利 「フッハッハッハッハッハァ!!!───ゥリディアァアッ!!!」
───ボゴォッッガァアアアアッ!!!
みさお「あきゃああああっ!!!」
中井出「げはぁああああっ!!!」
どこかで何かがキレた僕は、ふたりの頭を掴むなり飛翔。
その後勢いよくふたりの頭を大地に叩きつけると、
黒を身に纏って彼と彼女から大きく離れた上空へと飛ぶと力を込めて───
彰利 「ハッハッハッハッハッハァッ……!!!───ィヤァッ!!!」
───ドンチュゥウウウウウウンッ!!!
緑色というよりは真っ黒なエネルギー弾……リベンジデスボールを放ちました。
みさお「…………!!?───!!」
中井出「…………ーーーーーーーッ!!!!!」
ふたりが何かを叫んだ気がしましたが、
リベンジデスボールが放つ轟音の所為でなんにも聞こえません。
僕は怒ったのです。天狗風に言うと『ワタァシ、オコリマァシタ』って感じです。
彼と彼女は慌てて逃げようとしてますが、
こんな事態は予測していなかったようで上手く思考が回っていないようです。
原中大原則、『人が泣くまでからかってはいけない』の名の下に、貴様らを裁きます。
僕は今まで、夜華さんにそれをしてしまった時は甘んじて斬られたものです。
だから彼と彼女にもそれなりの罰が必要なんです。本当です。
モゴォッシャァアアアアアアアアアンッ!!!!!
みさお&中井出『ほぎゃああああああああーーーーーーっ!!!!!』
爆発の中でもよく通る絶叫が聞こえました。
が、致死は避けてあります。なぁに死にはしません。
───……。
……。
中井出「殺す気かてめぇ!!」
彰利 「黙れ下郎が!!正当な反撃だろうが!!
貴様、原中の大原則さえ忘れて傷ついたマイハートを散々罵りおって!!」
みさお「それにしたってもっと威力ってものを考えてくださいよ!!
回復が遅れてたら死んでましたよ!?」
彰利 「大丈夫だ!俺は夜華さんに散々斬られはしたが死ななかった!!」
中井出「……だからって月の家系でもなんでもない俺にあれをやるのはどうかと思うが?」
彰利 「黙れ下郎が!!原中の提督ともあろうものがこげな調子でどうするか!!」
中井出「だってなぁ、からかいがヒートすると止まれねぇって。
だからお前もいっつも篠瀬さんに斬られるような結果になってるんだろ?」
彰利 「解ってんじゃん。だったら今のは報復としてきちんと受け取っておきなされ」
中井出「む……まあ、生きてたんだし。この上ないスリルも味わえたから……」
みさお「はぁ……怒らせると怖いのは彰衛門さんも同じですね……」
む。
彰利 「ちょっと待てみさお、俺は悠介みたいに記憶が飛ぶほどキレないぞ?」
中井出「ギガンティックミーティアやられちゃ説得力が無い」
彰利 「ええいやかましい!!
罪を罪として認めるなら報復を素直に受けとめる!それが漢だ任侠だ!!」
中井出「俺どこのヤクゥザだよ」
彰利 「やかましい!!言い訳するでない!!」
みさお「……あの。さっきから気になってたんですけど。
言葉を浴びせられ続けて泣いたこと、かなり恥ずかしかったんですか?」
彰利 「当たり前ェだろうがタコ!!」
みさお「怒鳴らないでくださいよ!
そりゃあ一方的に言ったのは悪かったとは思いますけど!!」
彰利 「うっさいうっさい!なんだよもう!お前らなんか大ッ嫌いだ!
今度のミッションは俺と夜華さんだけで行くから付いてくんな!!」
みさお「え……あの、もしかして本気で怒ってます?」
彰利 「うっさいって言ってるだろ!?もう知らんよ!夜華さん行きますよ!!」
夜華 「うぐっ……あ、ああ……。だが、もうあんなことはしない、よな?」
彰利 「誓いますとも!とにかく僕はもう大変ですよ!?感情を手に入れて以来、
こんなに怒ったのは理由も聞かずに悠介が俺を殴った時以来だ!
あれは平和ボケした悠介だったからまだいいが今回は違う!!
僕の怒りは今頂点を極めようとしている!貴様らなんぞ知らん!!
奥歯にもやしでも詰まらせてイライラするがいいさ!!」
中井出「や、どういう罵倒なんだそれ───って、おーい彰利ー?」
みさお「あー……行っちゃいましたね……」
───……。
【ケース84:弦月彰利(怒号再)/ミッション破棄・怒りの終焉と穏やかなココロへ】
トコトコトコトコトコ……
彰利 「なんねまったく!散々と人のことを馬鹿にしおって!
俺は聖人君子でもなんでもなかとよ!?怒りもするし泣きもするっちゃあぞ!?」
夜華 「………」
僕は地界に来るなり転移をして稲岬町へ来ていました。
こんな心境で親友と会いたくなかったからです。
今は訪れた町のそがぁな景色を眺めながら歩いているわけですが、困りました。
僕はこの『稲岬町』自体は知っていましたが、
穂岸遥一郎……精霊野郎の住居など知りません。
彰利 「うぅう……やだなぁ……。こんな気分なんてさっさと払拭したいんだが……」
夜華 「……なぁ、彰衛門」
彰利 「ウィ?なんですか夜華さん」
夜華 「あ、いや……困ったやつだな。みさおも、あの中井出とかいう男も」
彰利 「そうザンスね……流石のオイラもカチンときてしまった。
ホントはもっと忍耐をつけなきゃいけないんだろうけど」
夜華 「い、いやっ、貴様は悪くない。一方的に誤解をするのが悪いんだ。
あぁいやそうじゃない……すまなかった。
わたしがもっときちんと説明できていたら貴様を泣かせることなど……」
彰利 「もういいですよ夜華さん。確かに俺は楽観的な方が似合ってるわ。
周りからしてみれば、それほど怒ることなんて似合わなすぎたってことデショ。
自分でもそう思うんだもの、ほんに仕方ない」
夜華 「そんなことはないっ!」
彰利 「ウヒョオッ!?」
突然の大声。
それは夜の地界にはよく響き、
僕はドキリコとしながら周りにある家の電気がつかないかどうかを案じました。
夜華 「誰であれ感情があれば怒りもするし泣きもする!
それを仕方ないで片付けていたらみさおもあの男も懲りずに同じことをする!」
彰利 「あー……それも無きにしも非ずかも」
夜華 「わたしならそんなことはしない。
相手が嫌だということを泣いてしまうまですることなんてしたりはしない」
彰利 「………」
ここで『だったら刀で斬らないでください』と言ったら刺されるでしょうか。
僕は物凄く言いたかったのですが、なんとなく怖かったのでやめておきました。
彰利 「でもまあ、夜華さんが嫌がるようなことをお願いしたのは俺だしね。
あれがきっかけで誤解されたんなら仕方ないって。
俺も大体落ち着いてきたし。……まあ、謝らんけどね。
でも───うん、あんがとね、夜華さん。ほんに落ち着いた」
夜華 「そ、そうか?無理をしていないか?
貴様はいつだって自分を犠牲にしてばかりだったんだ。
その……わたしとふたりきりの時くらい、寄りかかってもいいんだぞ?」
彰利 「魅力的な提案だけど、それはきちんと夫婦になってからね。
俺、無責任な状態でおなごに甘えたくないんだわ。
ちゃんと結婚して、心を落ち着けられたら……思いっきり甘えさせてもらうよ」
夜華 「……ああ。賑やかな家庭を作ろう。
貴様の嫌な思い出が霞むくらい、賑やかな家庭を」
彰利 「うす。そのためにもまず輝かしい思い出を。
沢山のみなさまに祝福されるために、沢山の人を強制的に招待しましょう」
夜華 「ああ、わたしも全力で手伝おう。
ここまで来たらもう恥がどうなどどうでもよくなった。
考えてみれば貴様と添い遂げるということは、
それが日々付き纏うということだ。今のうちに慣れておいたほうがいい」
彰利 「………」
夜華さんは僕との新婚生活をどんな風に思っているんでしょうか。
知りたがりは長生きしないとはいえ、僕はとても気になってしまいました。
夜華 「それにその……慣れておかないと他のふたりに差をつけられてしまう……」
彰利 「ウィ?なんぞ言うたかや?」
夜華 「ぅなっ!?な、ななななんでもない!忘れろ!!」
彰利 「?……忘れろもなにも、ちと考え事してたから聞こえなかったもんで……」
夜華 「だったらそれでいい!訊くな!!」
彰利 「お、押忍」
どうしたのでしょう。
夜華さんはやっぱり顔を真っ赤にすると、わたわたと手を振って質問を非許可としました。
でもそんな仕種もめんこいと思ってしまう僕は、
きっと相当変わっていっているのだと思いました。
でも、それはそうです。
僕自身、まさか三人の女性と結婚することになるとは夢にも思わなかったのですから。
今思えばそれが、僕が大きく変わる第一歩だったのかもしれません。
そして、そんな大それたことをするというのに僕の中には不思議と後悔はありません。
僕は確かに三人とも好きですし、
それを許可される世界があるのならそれを受け入れることは罪ではないのです。
それは僕の理想とした漢像とは明らかに違うものですが、
今さらそれを言い訳に彼女たちと距離をとる方がよっぽど酷いのだと思っています。
彰利 「………」
でも……時々思います。
こうして結婚する僕は、どの世界にこそ住むべきなのかと。
僕には思い出の木とともに弦月屋敷があるのです。
あれは地界に存在し、あの黄昏がよく届く場所だからこそ思い出が溢れているのです。
もし地界から乖離して空界に運ぶのだとしても、空界に黄昏の夕日などありません。
そこに果たして僕らの思い出はあるのでしょうか。
朋燐と月永の頃から続いている僕らの黄昏は、そこにあるのでしょうか。
いえ……きっとありません。
だから僕はあそこを捨てて空界に住むことなど出来ないし、
かといって空界に行かなければ僕らは夫婦として振る舞えないのです。
僕は『重婚』を罪としてだけは背負いたくないのです。
僕は真剣に彼女たちを好いていますが、
それが犯罪となってしまっては彼女たちに申し訳がありません。
だからこそ空界で彼女たちと過ごす時間も大切にしたいのです。
彰利 「上手くいきませんなぁ……」
相変わらず、と……小さく続けました。
そうです。僕の人生とこの世界はいっつも、
どんな時間軸であっても上手くいかないことばかりなのです。
呆れるくらいの時を生きてきても、きっとそれは変わりません。
いつか、僕と結婚してくれた女性たちが僕よりずっと早く死んでしまって───
もう一度ひとりぼっちになった時、僕はきっと、もう一度そう思うのだと思います。
そんな時にこそ思いました。
彼女たちは『人』としての時間を生きるのか、
それとも『時』を受け入れて『千年』は生きてくれるのか。
それは解らなかったけれど、もしそうなったら僕は嬉しいと思う。
でもそれは僕の我が儘です。
既に僕以上の時を約束されている親友以外をそれに巻き込むわけにはいきません。
だけど、願わくば───
彰利 「……ねぇ夜華さん」
夜華 「うん?なんだ」
考え事をしてる中、ずっと黙って僕の隣を歩いていた夜華さんは、
ずっとほったらかしにされていたというのになんでもないように返事を返してくれました。
そんな『普通』が嬉しいと思うのは感情があるが故なんでしょうか。
彰利 「夜華さんは……その、どうするのかな」
夜華 「……?すまない彰衛門。質問の意味が解らない。
主語をきちんとつけてくれないか?そうしてくれたなら真面目に答えられる」
彰利 「ん……まあその、えっと……」
驚きました。
僕は自分が思うよりもずっと我が儘だったのかもしれません。
こんなことを訊くのも間違いなら、そうであってほしいと願うのも自分勝手だというのに。
それでも僕は願わずにはいられなかったのです。本当です。
だって、今ではこんなに好いている人が、いつかは自分を置いて死んでしまうのです。
そんなこと、今想像してみてもとても怖いことです。
家族というものを嫌っていた僕だったのに、今ではこのザマです。
きっと楓巫女や楓や椛、ミントやリーフ、聖にみさお。
かつては娘だと思いながら接していた彼女たちが知ったら笑ってしまうでしょう。
こんな僕が、いつかは本当の親になるというのだから不思議なものです。
彰利 「……ごめん、なんでもないや」
結局僕は否定された時の恐怖の想像に負けて、質問し直すことが出来ませんでした。
本当に情けない限りです。
でもこれでよかったとも思えます。
だって僕らはこれから結婚するのです。
もしここで『一緒に生きてくれること』を否定されたら、
きっと僕は心から彼女たちを迎え入れることが出来なかったと思います。
きっとこれでよかったんです……これで。
───クッ……
彰利 「……?夜華さん?」
黒衣の袖を引かれる感触に振り向くと、夜華さんが寂しそうな顔で俯いていました。
それを見たら、何を言われるまでもなく理解してしまったのです。
……そうです、ここで何も言わずに誤魔化すのは酷いことなのではないでしょうか。
だってそれこそ僕たちはこれから結婚するのです。
だというのに秘密ごとをするなんて、
それは相手を信用していないことに繋がるのではないでしょうか。
僕たちはそれぞれが互い互いに伴侶になる存在です。
だというのに結婚する前からこんなことをして不安を抱えたまま結婚をしたら、
祝福してくれる人に対して大変失礼だと思います。
だから僕は───
夜華 「……なんでもないわけ、ないだろう……。そんな辛そうな顔をされて、
黙って頷けるんだって思われるほど、伴侶というのは頼りなく見えるのか……?」
だから、僕は───
彰利 「………」
心の中に暖かいものが満ちると同時に、彼女を抱きしめたんだと思います。
何故って、とても嬉しかったのです。本当です。
もう油断すれば涙が出るくらい嬉しかったのです。……本当、です。
夜華 「あ、彰衛門……?」
夜華さんは小さく身じろぎします。
だけど僕は彼女を離したくなくて、しばらくそうして抱きしめていました。
そうすると夜華さんは諦めたかのように小さく笑みをこぼすと、
僕の背中に手を回して、僕の背中をポンポンと軽く叩いたあとに抱きしめてくれました。
───それからどうしたと思いますか?
もちろん僕は如何わしいことなどなにひとつしていません。
ただしばらくはずっとそうしていて、
落ち着いてから僕の不安と我が儘を打ち明けたのです。
そうしたら彼女は、
夜華 「馬鹿者……わたしにだけは寄りかかっていいと言ったばかりだろう……」
そう言って、僕の不安も願いもなにもかも受け止めてくれたのです。
……困りました。
僕は今、とても嬉しいです。
こんなにも嬉しいのはどれくらいぶりなのか、それとも初めてなのか……。
それと同時に、僕は純粋に夜華さんを愛おしいと思いました。
思えば出会ったばかりの頃に手を斬られました。
独歩さんの真似をして夜華さんを殴り返しました。
からかいもしたし怒鳴り合いもしたし、酒も飲み交わしました。
口内を何度も焼けどさせられもしました。
思えば生傷と火傷といった『傷』系統が絶えない仲でした。
でも……今はこんなにも好きです。
感情というものは解らないものです。
でもそこに後悔があるかと言われれば、そんなことはないのです。本当です。
彰利 「夜華さん……ぶっちゅしていい?」
夜華 「ぶっ……!?ばばばばかっ!!なんてことを言い出すんだ!!
というかなんだそれは!!あ、い、いやっ、嫌なわけじゃないが……!
もっとその……あのな、いくらなんでも『ぶっちゅ』はないだろう……」
彰利 「じゃあ……キスしていい?」
夜華 「………」
彰利 「あの……接吻してよろしいでしょうか……」
夜華 「……最初に『ぶっちゅ』などと言ったことを、今とても後悔していないか?」
彰利 「この上無いほどに……」
ああ、でもやっぱり僕にシリアスは似合わないんだと思います。
だからこそ雰囲気なんてものを壊してから夜華さんを抱き締め直しました。
それからその抱き心地を堪能したのちにゆっくりと向き合うと、
静かに唇を夜華さんの唇に近づけていざ、まちゅりと───
少女 「………」
───ぶっちゅしませんでした。
何故って、いつの間にかそこに居て、僕らをじぃっと見つめるメット少女が居たからです。
少女 「ああいえ、わたしのことは気にせず続けてください。それが男で任侠です」
彰利 「出来ませんよ!メットさんキミいつからそこに!?」
少女 「メットじゃありません、アークです。
それよりも続けないなら別のところへ行ってもらえますか?
人の家の前でそんなことをされると迷惑なのですが」
彰利 「迷惑って……」
それはそうかもしれません。
ですがそれは、瞳を輝かせながら
少女言うところの迷惑行為を見てたキミ自身にそげなこと言われたくありません。
というか夜華さんが緊張のあまりに、
ぶっちゅの体勢のまま顔を真っ赤にして固まっています。
多分どころか絶対、おなごが来たことにすら気づいてないのです。本当です。
ああもう可愛いです……確かに中井出たちの言うとおりです。
夜華さんの魅力はこの一生懸命なところなのでしょうね。
今時のおなごには無い何かを確かに持っているのですよ。
少女 「待ってくれてますよ?これでやらないなんて、女性に恥をかかせる気ですか?」
彰利 「グ、グウウ〜〜〜ッ」
少女の言葉に思わず『雨の中に放り出されたロビン』の唸り声が出てしまいました。
でも確かにとても勇気のいることなのだと思います。
一生懸命で純情なら当然です。
だからここはきっと僕が勇気を出さなければならない場面なんだと思います。
覚悟を決めましょう。少女もそれを期待しているのはどうかと思いますが。
彰利 「お、押忍……ではいかせていただきます」
僕は改めて構え直すと、
無意識に唾を飲み込んでしまった音に焦りながらも顔を近づかせていきました。
すると、いつまで経ってもぶっちゅされないことを不思議に思ったらしい夜華さんが
恐る恐る目を開き、すぐ近くにあった気配に気づくと───
夜華 「っ───!?」
今まさにぶっちゅしようとしていた僕の顔面をゴパァンと殴り、
彰利 「おごっ!?」
顔をさらに真っ赤にして僕から離れました。
彰利 「ほわらががががが……!!な、なにすんねん……!!」
まさかの不意打ちに、
湯豆腐の味が広がる筈だった僕の口内に鈍い鉄サビの味が広がりました。
こんなのあんまりです。
これではまるで、初めてのチュウに心躍らせた途端に殴られたヤザワクンです。
夜華 「うああっ!す、すまん彰衛門っ!!本当にすまんっ!!」
夜華さんは夜華さんで無意識に殴ってしまったようで、
とても悪いことをしたという顔で僕に謝ってきます。
もういいです、やっぱり僕の愛の道なぞこんなもんで丁度いいのでしょう。
少女 「残念ですね、未遂ですか……男として不能ですね」
彰利 「なんと!?」
会ってまだそう経っていない人に何故ここまで言われているのでしょうか。
不思議です。
でも我慢です、僕はもう怒りません。
ふざけ以外で怒ると気分が悪いです。
彰利 「あの、嬢?ちと訊きたいんじゃが……
ここらに穂岸さん家の遥一郎さんはおらんかにゃー」
少女 「……?マスターの知り合いの方ですか?」
彰利 「いや、俺の知り合いの穂岸さん家の遥一郎は
年中無休でグラスを磨いてるようなダンディではなかったが」
少女 「……?ああ、貴方はもしかして空中に映し出された映像の中に居た───」
彰利 「へ?」
なんてことでしょう、私は大変驚きました。
それを知っているということは、この少女も家系のことを悪く思ってない人です。
というか、僕はこの人を何処かで見た気がします。
少し思い出してみましょう───……一致しました。
僕の記憶が確かなら、彼女は雪子さんが教師を務める学校の生徒だった筈です。
僕は彼女のこのメットに自爆された覚えがあります。
その時に言っていた言葉が確か『アーク』だった筈です。本当です。
そして彼女が名乗った名前は───
彰利 「まぁノアちゃん!?あなたノアちゃんね!?まあまあ!こがあに大きくなって!」
ノア 「そういう貴方はサクラの傷を癒そうとしていた時に顔を光らせていた変態さん」
彰利 「……物凄く嫌な覚えられ方ッスネ……。
それで、穂岸さん家の遥一郎は何処に?」
ノア 「目の前です。わたしたちと同じ場所に暮らしているので」
彰利 「なんと……」
ふいに見上げた大きな家。
まだ電気は点いている……起きているようです。
彰利 「ちょほいとお邪魔してよろしいか?穂岸さん家の遥一郎に用がござる」
ノア 「ダメです。夜中に訪ねてくるなんて非常識ですよ。
早々にとっととお帰りやがりください」
彰利 「……キミ、大人しそうな顔してんのに口悪いね」
ノア 「マスターは今、わたしとビデオ鑑賞中ですから邪魔です。
せっかくサクラを麻酔弾で眠───とにかく邪魔です」
マテ、今とても物騒なこと言いかけませんでしたか?
彰利 「まあそれはそれとして。
キミはそのせっかくの邪魔者の居ない時になんで外出てたん?」
ノア 「マスターが喉が渇いたというので買い物をしてきたまでです。
これからはわたしとマスターのふたりきり空間……!来たら死ね」
彰利 「『殺す』じゃなくて『死ね』!?自害しろってこと!?」
ノア 「ああ……思えば長かった……。
サクラとともにマスターと住むようになってからというもの、
いつだってサクラがマスターの傍をチョコマカと……。
いい加減鬱憤も溜まるというもの……。
ですがマスター『のみ』のメイドとして今まで仕えてきて……!
長かった……やっとこの時が来ました……!ふたりきりの時間……万歳です!」
彰利 「………」
夜華 「なぁ彰衛門。既に声など聞こえていないようだぞ?」
僕もそう思っていたところです。
少女は目を輝かせて夜空を拝んでいます。
そんな彼女には今さら声など届かないのかもしれません。
彰利 「だがキミ、ひとつ確認したい。キミは穂岸───精霊野郎のメイドさんなのだね?
キミの忠誠は穂岸にのみ向かっていて、他の者など二の次ですか?」
ノア 「当然です。わたしはマスターの専属ですから」
彰利 「おお……」
意思は硬いようです。僕は安心しました。
彼女の気丈さと精霊野郎の性格からして、
それが曲がった方向に向かっているということは無さそうですからです。
べつにメイドさんと恋をするななんて言いません。
だけどメイドさんを欲望の捌け口として見るのだけは我慢がなりません。
その点で言うと、僕はこのノアさんは嫌いではありません。
忠義に溢れながらも下僕ではないという気丈さを確かに持っているからです。
きっと言いたいことはなんでも言う性格でしょう。
彰利 「で、えーと。オイラたち穂岸くんに用があるんだけど」
ノア 「おかえりください」
彰利 「うわっ!めっちゃいい顔ッ!!」
しかもそんな顔で帰れと言われました。
このメイドさん、とても自分に素直です。
しかもそれは鈍い欲望などではなく、
ただふたりきりの時間が欲しいという純情の為せる業のようです。
彰利 「いえでもね?」
ノア 「おかえりください」
彰利 「いや、あの……」
ノア 「帰ってください」
彰利 「ねぇ……」
ノア 「お失せなさってください」
彰利 「ちょ……」
ノア 「お消えくださいませ、お客さま」
彰利 「………」
取り付く島が無いって……こういうことなのでしょう。
……こうなったらこちらも実力を行使します。
ささやかなる時を邪魔するのは心苦しいのですが、こちらももう引くに引けません。
彰利 「精霊野郎ォーーーッ!!ちょっとカムヒアーーーッ!!」
ノア 「!!」
そう、僕は家に向かって叫んだのです。
その時のノアさんの顔は、それはもう驚きに染まったものでした。
自分の感覚からして僕の声は家の中まで通った筈です。
だから僕は、やがて来るであろう精霊野郎を待つだけでよかった筈です。本当です。
ですが───ガシャシャシャシャコンッ!!!
彰利 「へ?ゲ、ゲェエエエーーーーーーーッ!!!!」
夜華 「っ!?」
ノアさんのメット……アークが形を変えたのです。
それは、なんというか……機関銃を彷彿とさせるものでした。
やがて彼女はニッコリと微笑むと───
ノア 「……ゴートゥヘル」
そういって、機関銃を高鳴らしました。
彰利 「おわっ!おわっ!!おわぁああああーーーーーーっ!!!!」
夜華 「うわわわわわっ……うわわぁあああああっ!!!!」
足元や頬を掠める威嚇射撃から、本格的に体の中心を狙ってくる弾丸まで様々です。
普通ならば逃げるべきなのでしょうが、僕はそうすることをすぐに諦めました。
これは彼女の正当な仕返しです。
自分の大切な時間を邪魔されれば誰だって怒ります。
だから僕は夜華さんを促すと───
夜華 「───んっ!」
あとのことを全て夜華さんに任せました。
夜華さんは弾丸ひとつひとつに向かい刀を振るい、それを全て叩き落していきます。
流石です。
普通なら刀が砕けそうなものですが、死神の力に纏われた刀はビクともしません。
ノア 「……!そ、そんな!」
やがて、弾切れになったらしいノアさんは、
刀で高速で風を切る弾丸を叩き落す夜華さんを見て呆然。
夜華さんはそれを確認するとゆっくりと刀を鞘に収めるのでした。
ノア 「───甘いです」
タァンッ───ビスッ!!
夜華 「はくっ!?」
……いえ。どうやら弾切れに見せかけただけのようでした。
夜華さんの右胸に弾丸が放たれると、夜華さんは力無くその場に倒れました。
夜華 「っ……う、ぐ……!」
いえ、倒れません。
刀を地面に突き立てて、杖にするようにして立っています。
夜華 「力が入らない……貴様、なにをした……!?」
ノア 「麻酔弾です。即効性ですから相手の自由を奪うには最適ですね。
弾といっても、当たったら少し痛い程度のものですから死にはしませんが」
夜華 「くっ……!不覚……!」
ノア 「さ、あなた方にはマスターが来る前に退場していただきます。
大人しくこのポリ袋に便利に収納されてください」
ノアさんがスマイルのままに夜華さんに近づきます。
ですがそれは甘すぎます。
夜華 「……射程距離だ。貴様も甘いな」
ノア 「え?」
夜華 「赤亀奥義───烈震走翔刃!!」
振り上げた刀が地面に叩き落とされます。
刀とともに振り下ろされた闘気は地面を走り、
驚愕に身を竦めたノアさんの足場を弾きます。
ノア 「あうっ!?」
夜華 「っ……〜〜〜……わたしの唱える武士道に、
『死ぬことと見つけたり』などという言葉は無い……!
どんな時でも最後まで足掻けば必ず勝機は見つかると信じているからだ……!」
ノア 「チィ……!やりますね……!こうなったら───アーク自爆モード!」
夜華 「な、なにっ!?」
ノアさんの言葉と同時にアークが輝きます。
それとともに夜華さん目掛けて飛翔し、頭に取り憑いて自爆しようと───ガチャリ。
遥一郎「弦月、来てるのか?」
ノア 「あ」
と、飛翔していたアークがビタァと止まりました。
精霊野郎が現れた途端です。
アークはすぐに輝きを無くすとノアさんの頭に戻り、
ノアさんはノアさんで体についた誇りを優雅に払うと精霊野郎にペコリと一礼。
そして『お見苦しいところお見せしました、マスター』と言う。
おお……ほんに精霊野郎の前では完璧だ。
彰利 「やー精霊野郎。おひさでアミーゴ」
遥一郎「やっぱりお前か……」
彰利 「あ、すぐ解った?」
遥一郎「俺のことを『精霊野郎』だなんて呼ぶのはお前だけだからな。
それで、こんな時間にどうしたんだ?」
彰利 「明日───というか今日、僕の結婚式があるのです!
是非ともキミにも参列して頂きたく、攫いにきました!!」
遥一郎「へぇ……って結婚式!?今日!?急すぎじゃないか!?」
彰利 「そんなことはねぇ〜〜〜っ!!俺達の結婚は遅すぎたくらいだぜ〜〜〜っ!!」
遥一郎「誘いに来るのが急すぎるって言ってるんだよっ!!
結婚式に着ていけるような服なんて持ってないって!!」
彰利 「いえ、参列者は好き勝手なもの着てきてええよ?カタッ苦しいの嫌いだし。
なんだったらドラえもんスーツでもハンバーグラースーツでもOK」
遥一郎「……どうしてそれらが喩えに出るのかは謎でいいのかな」
彰利 「その方向でお願いします」
僕らはウムスと頷きました。
伊達に未来での知り合いをやっておりません。
彰利 「あ、なんなら悠介に服を創造してもらうのもいいと思うぞ?」
遥一郎「あ、そっか。晦も参列するのか」
彰利 「参列っていうか……ええと。結婚します」
遥一郎「………………お前」
彰利 「ノゥッ!!べつにホモるわけじゃねぇ!!俺と悠介が同時に結婚するって意味!」
遥一郎「解ってる解ってる。それで、何処に行けばいいんだ?」
彰利 「今すぐ俺と一緒に来ればいいのです」
遥一郎「い、今すぐなのか?心の準備もなにもしてないんだけどな……」
彰利 「構いません。べつに金が欲しくて人を集めてるわけじゃないから。
そんなことやってたら恋人の誕生日なのに周りにブツを強請る馬鹿みたいじゃん」
遥一郎「まったくだな。解った、行くのは俺だけでいいのか?」
彰利 「多いに越したことはありませんよ。桃色ッ子もメイドさんも是非どうぞ」
遥一郎「そっか。ノア、どうする?」
ノア 「何処までもお供します」
即答でした。
遥一郎「あとはサクラだけど───あぁそれと蒼木と……おまけで観咲と。
真由美さんも呼ぶとして……蒼木が来るとしたらレイチェルさんも来るな。
えっと……結構な人数になるけど、転移で運んでもらえるのか?」
彰利 「オウヨ、任せんしゃい」
僕はドンと胸を叩いて承諾しました。
これにて穂岸グループは勧誘完了。
次は閏璃凍弥です。張り切っていきましょう。
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