さて、今日は少々時間もあることだ。
 今からとある男の話をしようか。
 平凡な家庭に産まれ、平凡に生きる筈だった一人の男の話だ。
 両親は共働き。
 裕福とまではいかなかったが、普通の暮らしが出来ていた。
 性格はいたって普通。
 才能らしい才能もなく、ただ多少、機械についてが強いかも……? くらいなガキだった。

  ある日のことだ。

 両親が“忙しくなるから”と、祖父母の家へそいつを預けた。
 そいつはたまにしか会わない祖父母に照れながら接し、けれど少しずつ心を許してゆく。
 ある日、祖母にとある魔法を教わった。
 曲げたくない想いを自分に刻み込む時、それをすればいいという、魔法の言葉。
 とても簡単なものだ。
 ただ、胸をノックして口にする。
 覚悟完了、と。
 祖母は戦時中の父親に教わったらしい。
 なるほど、と思った。
 心を許しかけているところにそんなおまじないを教わり、ガキはやっぱり照れた。
 けれど、そんな照れから離れて、きちんと話を出来るようになるために、一番最初の覚悟を、ノックで胸に叩き込んだ。
 ……祖母が亡くなる前の日の話だ。

  翌日、祖母は地震で落ちてきた天井の一部からガキを守り、死んだ。

 腰が痛いと言っていたのに必死に駆けてきて、怯えるだけで動けなかったガキを庇い、死んだ。
 ガキはそうして、一生届けたかった思いも感謝も口にすることも出来ず、泣いた。

 祖父はなにも言わなかった。
 いっそお前の所為でと言ってくれた方が、後悔を口に泣き叫ぶことが出来たのに。
 その後は、家が崩れたことで祖父とともに元の家へ戻り、そこでの暮らしが普通に続いた。
 そのままガキは生きて、どこで知ったのかクラスメイトに「ババ殺し」なんて言われ、暴れた。
 言葉に対して拳を振るえば、悪を決めることなんて大人にしてみれば簡単だ。
 わけもわからないままに祖父は学校に呼び出され、ガキの前で頭を下げた。
 ガキは叫んだ。
 なんでじいちゃんが謝るんだよと。
 あんなことを言われなければ、暴れることなんてなかったのにと。
 それでも祖父は頭を下げ、ガキと一緒に帰った。
 ガキは悔しさから泣き続け、祖父はそんなガキの頭を初めて不器用に撫でて……言ったのだ。お前の所為じゃないよ、と。
 それが祖母の死についてのことであると、ガキはすぐにわかって……また、泣いた。

  数日後に両親が殺された。

 朝目が覚めて、階下に降りると、そこに血があった。
 両親は動かず、近所の見知ったおっさんが包丁を持って、怯えた表情でガキを見ていた。
 手には通帳と金。
 ……両親は、金に困ったご近所さんに殺され、それまで頑張った日々を砕かれた。
 それでも生き続けるしかない。
 寂しさで死ねるなら、とっくにそいつは死んでいる。
 けど、まだじいちゃんが居るからと前を向いた。
 一回じゃ足りなくて、何度も何度も胸をノックしながら。
 ……その頃にはもう、心のタガが、どこかでイカレていたんだと思う。

  中学に上がり、“楽しい”を知った。

 イジメを行なう馬鹿は居なくて、ただ純粋に世界を楽しもうとする馬鹿どもが居た。
 そんなやつらと盛大に楽しみ、盛大に笑い、家に帰ればようやく祖父に笑顔を向けられる日々が出来た。
 楽しい日々はあっという間に過ぎ、高校に上がると、ガキはまた一人になった。
 大学でも。仕事に就いても。
 けど、ある日に計画した同窓会が全てを変えた。
 ただの普通の人だと思っていた一部の友人が、異能力を持っていたことが判明。
 一気に世界の“不思議が存在する側”という位置に立って、けれど拒絶することなく状況を楽しんだ。
 何故って。友達だからだ。異能力くらいでそれ全てを突き放すなんて、そんなものは友達じゃなくただの知り合いだと豪語して。

  そしていつか、祖父が死んだ。

 財産目当ての親族の仕業だった。
 毒を盛られたらしいことを後で知って、けれどその時にはもう家は差し押さえられ、持てるものなどなく、家から追い出された。
 どこへ行けばいいのかと考えるよりも体は勝手に動き───かつての、異能力を持った友人が住む神社へたどり着いていた。
 ……それから異世界生活が始まった。
 日本に住む場所がないなら他の世界で暮らせ、みたいなくらいの軽口で異世界生活をすることになり、そのたびにファンタジーに触れた。
 やがて身も心も完全に異世界に染まる頃には、いろいろと度胸もついた。

  運命の日。

 精霊が普通に存在する世界で暮らし、かつその精霊の主が中学時代の友人だってことに驚愕しつつ、けれど面白いなら一向に構わんと受け入れて楽しむ毎日。
 ある日、ある夏、その友人が世界を作った。
 ゲーム感覚で遊べる、何度死のうが蘇れる世界……その名も“博光の野望ONLINE”……通称ヒロラインである。
 そこで経験したことは体に刻まれ、レベルアップすれば現実の身体能力も向上するという、異常な世界だった。
 そこに加速させた意識を飛ばし、楽しみながら強くなるお手軽超人育成計画みたいなものだった。
 ガキたちはそれはもう楽しんだ。
 なにせ、再びの同窓会ということもあり、さらには企画者がその場に居る、もういい加減いい歳の彼らをガキだった頃……高校生あたりの姿に戻したからだ。
 若い体をもう一度、ともなればはっちゃけもするだろう。
 そうして疑似ファンタジーを経験するに至り、その世界では参加者……いわゆるプレイヤーが経験、または視聴などをした物語や技などが反映されるとあって、それはもう楽しんだ。
 魔法を撃って感動し、高い跳躍に感動し、初心者修練所(チュートリアル)にて教会の神父に撲殺されて神父が嫌いになったりと、何度も死んで何度も様々な経験をした。

  冒険は楽しかった。

 武具を鍛えたりボスと戦ったり、ゲームなどでは正々堂々と戦わされる強制を全く無視した戦いをして、レベルアップしたりするのは純粋な娯楽といえた。
 たとえそれが、人型モンスターに砂の目潰しをしたのちに襲い掛かるものだろうと、毒霧を吐いて目潰ししたあとにポセイドンウェーブ(ラリアット)したりするものだろうと。
 ヒロラインはほぼ完全自由なヴァーチャルリアリティとして、多くの猛者どもに愛された。(ただし強姦などは除く。むしろ同意が無ければ無理である)
 そうした日々を生き抜き、時に現実に戻り、また潜り、戦い、遊び、楽しんだ。

  ガキだったそいつは、武器とレベルだけで強くなることに夢中だった。

 昔のRPGにスキルなんてものはなく、レベルを上げて武器で攻撃、が普通だった。
 ならばと純粋にそれを目指した。
 武器を鍛え、武器合成をして性能を上げて、ともかく武具を愛し、あとはレベルでを繰り返していった。
 もしそこまで武具を鍛えようと思わなければ、あるいは未来は違ったのかもしれないが。
 結果としてそいつは精霊に洗脳され、住んでいた異世界の住人を惨殺し続けた。
 合成させると発動する呪いが、ある武器に仕掛けられていたのだ。
 人を嫌った精霊がそいつを利用し、その世界の住人を殺させた。
 “祖父母を自分が殺してしまった”というまちがいに気づけないトラウマがある彼には、勝手に動く身体が老夫婦を殺す光景は、心を砕くのに十分だった。
 その日から、そいつの視界は老夫婦の血で染まり、赤いままだった。

  呪いは続く。

 滅びの未来から来た精霊たちと、彼が生きる現代の精霊たちとの争いに巻き込まれたそいつは、未来の精霊たちに勧誘をされる。
 洗脳したのは、人々を殺させたのは自分らだというのに。
 当然ながらそいつは断った。故に呪いは続いた。
 その呪いは人に忘れられ続けるというものだった。
 友に忘れられ、妻に忘れられ、娘にも忘れられた。
 妻に忘れられたのに娘が居るのはおかしいという、世界の辻褄合わせがその頃から始まり、そいつは妻が他の男と結婚し、娘が出来たという世界を見ることとなり、泣いた。

  やがて様々に忘れられた。

 かろうじて覚えていた人達にも忘れられる頃には、そいつの心は壊れていた。
 人を殺した。妻が奪われた。娘に最後に言われた言葉など、死んじゃえばいいんだ、だった。
 それでも生きてゆく。
 もう、それしかできなかったから。
 自分はただ信じて生きて行こうと決めた。
 裏切られるのは辛いから。それを知っているから。
 これだけはと心に決めて。

  裏切られるまで裏切らない。

 事実、そいつは愚直なまでに相手を信じ、裏切られたと絶望するまで信じ、やがて最後に、いつも泣いていた。
 一方で未来の精霊側の親玉は、ただそいつを手元に置いておきたかった。
 未来において、そいつだけが自分を裏切らなかったから。変わらずそこに居てくれたから、過去に戻り、そいつに手を伸ばした。
 けれどそいつはそれを拒む。
 誰に忘れられようが、それを拒み続けた。
 ……やがて、その親玉もそいつを忘れた。
 すべてに忘れられて、けれど……機械などの無機物に宿る意思めいたなにかだけは、例外となった。
 だから彼は武具を集めた。
 武具は自分を独りにしないからと、変わらず武具とレベルだけで強くなっていった。
 いつしかその強さから魔王と呼ばれるようになって、自らも他のプレイヤーにとっての敵となって、生きた。

  ……そいつの最後?

 自分を覚えていないかつての仲間たちを、突然デスゲームになった世界から脱出させるために一人残って、黒の軍勢を前に突撃。
 たった独りで戦い続けて、死の精霊を殺して、勝てたと思ったところに腹を貫かれて、死の精霊に洗脳された。
 体を操られて、まだ一人、仮想世界から逃げてなかったかつての友人と戦うことになって、洗脳を内側から破って、自分で自分の腹を武具で貫いて終わった。
 友人も無事に元の世界に帰って、そいつだけがその世界に取り残された。
 出られるのはあと一人だけだったらしい。
 だからそいつは友人だったそいつを行かせて、自分は黒の追手を相手に、風穴空いた腹を庇いながら戦った。
 あとはお察しだ。
 黒が消えた頃には、ろくに体が動かせない瀕死野郎の完成だ。
 結局そいつはヒロラインの爆発とともに死んだってのが、その光景を見たヤツの話だ。
 誰が涙しようが、やがてその涙も忘れられる。
 誰のために泣いたのかも忘れて、結局はこうなるんだ。

  その場で死んだ人など誰も居なかった。めでたしめでたし。

 だが、そいつを知る者にしてみれば、そいつはある意味で英雄ではあったのかもしれない。
 認める者なぞほんの僅かだ。
 とっくに解けた呪いを思えば、一度覚えればもう忘れることもない。
 ただ、彼の一生を知る者などほんのひと握りだ。
 本当に死んだのか、生きているのかもわからない。
 ただそいつは、今もまだ裏切られるまで裏切らない、なんてことを続けていると……風の噂で耳にした。
 どこ情報なのかは知らんがね。

 ……うん? そいつがどんな性格だったのかって?
 まあ、おかしなやつだったよ。
 そんな滅茶苦茶な人の信じ方をするやつが、まともなわけがない。
 自分のためにしか動かないヤツで、楽しいことをなによりも愛した馬鹿者。
 それが、そいつを知る者たちの、そいつに対する知識だよ。
 そうだな、そいつになにが出来るのかっていったら、ほぼなんでも出来る。
 言った通り、参加者の知識がそのままゲームに適応されるような世界で、武具を集めた馬鹿者だ。
 未来の精霊側が面倒くさいことを考えて、ゲームから脱出する際は武具を外さなければ出られない、なんて制約をその世界に埋め込んだんだが……知っての通り、それを外せばレベルが高く、魔法やスキルが使えるだけの人間になるわけだ。
 プレイヤーどもは躊躇したが、結局は現代の精霊どもが同じ武具を用意することで納得して現実に戻った。
 未来の精霊どもと戦うことは決定していたからな、武具がないなら意味がない。
 こうなればなんとなくわかるだろう?
 最後に辿り着いた、一人残っていたプレイヤーが自分の武具をその場に置き、現実に戻った時点で、そいつの前には武具の山があった。
 そいつはそれらの武具を自分が持つ武具能力で、自分の武具と合成させた。

  モノには意思が宿るってよく言うだろう?

 大切にされた人形とかに意思が宿る〜みたいな話は、実際にその世界ではあったんだ。
 だから、プレイヤーどもに大切にされた武具にも当然、そいつらの意思が宿った。
 そいつにはなんの才能もなかったが、ひとつだけ、そんな世界にならなけりゃあ役に立たない才能……カケラとしか言えないちっぽけで半端な才能があった。
 器詠の理力(きえいのりりょく)というのだが、まあたとえば……機械に触れれば、ほんのちょっぴりだけその中の意思と触れ合える、みたいなものだ。
 お蔭でテレビゲーム的なものには多少強かったが、無機物などを使わないゲームには滅法弱い、自他共に認める雑魚だった。
 そんな才能も、過去に死んだ家族の魂で作られた、死神の鎌を合成させることで多少は使えるようになったわけで。

 なにが言いたいかというと、無機物はそいつを忘れないって話の続きだ。
 そこに残ったのはプレイヤーどもが置いて行った武具。
 それを自分の武具に合成させた、無機物から意思や意志、または遺志を受け取れる孤独な馬鹿者。
 ようするにそいつは一人ではあるが、独りではなくなった。
 自分の中にゲーム世界を吸収、展開して、そこには意思体となった友人知人妻が居た。娘はゲームに参加しなかったから、どうしても存在出来ないがね。
 忘れてしまったとはいえ他の男と結婚していることになってしまった妻は、そりゃあもう涙して謝ったもんさ。

 ……うん? その時のそいつの反応? いや……知らない方がいいことってあるもんだぞ?
 む、そうか? 知りたいのか? ああうむ、そうだな……まずは、まあ、ビンタは飛んだ。
 それはな、裏切られるまで裏切らない、なんて言うようなヤツだぞ?
 抵抗出来るような強制力じゃなかったとはいえ、辛かったのだからそれくらいはするだろうさ。
 で、泣きながら謝る元妻を抱き締めて、頭を撫でるわけだ。
 うん? いい話だな? ……いや、その時点でそう思えるなら、お前はまだ幸せ者だよ。
 なにせそいつ、元妻を抱き締めたままブリッジしたからな。
 相手を両腕ごと抱き締めて動けないようにして、ブリッジ。
 いわゆるM11型デンジャラスアーチだな。
 その妻、“ごめんなさぴぃっ!?”なんて悲鳴を上げて悶絶してたよ。
 それで、チャラだ。
 元のサヤには戻らなかったものの、元々幼馴染だったってこともあって、気安さはそのまま戻った。

 で、まあ、そのまま未来の精霊をブチコロがしに向かって、さっさとコロがせばいいのに別のところで戦ってるかつての仲間のために、眼前の精霊様の体力を削る作業を続けていた。
 その精霊ってのが黒の集合体で、その精霊サマが黒の密度を高めれば高めるほど、他の場所の精霊が弱体化するってわけだ。
 だからそいつは、“俺がそうしたいから”っていう“自分のため”に精霊を削りまくって、結果は相打ちみたいなもんだ。
 精霊を空間ごとぶった切ったそいつは、空間の切れ目に落ちて、その世界から消えた。
 武具の全力解放。
 吸収した武具の一つに、人の姿じゃ解放しきれないものがあってな? それを解放したもんだから、人の姿じゃなくなったんだ。
 んで、そいつを忘れるっていう忘却の呪いがまだ残る世界で、人じゃない“そいつ以外”になった所為で、そいつ自身もそいつのことを忘れた。
 あとに残るものなんて、自分のことさえ知らない生命体だけだ。
 そいつは確かに世界を救ったんだろうさ。
 けど、誰もそんなことは知らない。
 ただ、そいつの中にある武具……その中に宿る意思だけは、そいつをずうっと覚えていたわけだ。

 それからいろいろあって、まあそいつは自分を思い出すに至るわけだが、武具の全力解放をした時にこそそれら全てと融合しちまったもんで、そいつは不老不死になったわけだ。
 空間世界の創造の時点にまで、人じゃないなにかとして飛ばされたそいつは、それから57億年近くを生きた。
 知り合う人には忘れられ続けたが、武具は覚えていてくれたから、一人だが独りじゃなかったから生き続けられた。
 57億生きたのだって、56億年後に弥勒菩薩が現れるらしいぜ!? という情報を信じて“会ってみよう”と単純に思ったからである。アホだ。
 しかしそれが世界の理に触れることであり、触れちゃいけないものだったらしくて、そいつは世界から弾かれたわけだ。
 そうして降り立ったのが───


───……。


 とある場所で問答を口にする場が設けられ、しばらく。
 髑髏を思わせる仮面をつける無数の人型が数人を囲む景色の中、巨漢が腕を組み、風を巻き起こす。
 周囲の者がそれを眺め、瞬きをした刹那、世界は変わった。
 一面に広がる砂漠と、彼方にまで続く空、そして地平線。
 見下ろせば砂しかなく、景色を遮るものさえ砂でしかなかった。
 そんな中を歩む音が無数。
 見れば人が集い、武器を手に、なにを恐れるでもなく真っ直ぐに敵であろう者を見据えた。

「王とはッ───! 誰よりも鮮烈に生き! 諸人を魅せる姿を指す言葉!!」
『然り! 然り! 然り! 然り! 然り!』
「すべての勇者の羨望を束ね、その道標として立つ者こそが王!! 故に───! 王とは孤高にあらずッ!! その偉志は! すべての臣民の志のっ───総算たるが故にィィィィ!!」
『然り! 然り! 然り! 然り! 然り!』

 まるで地鳴りのように響く然りの雄叫び。
 見る者は震え、聞く者は竦み、動じぬ者は口角を持ち上げた。
 歴戦の勇者と語られた者はそのまま構え、敵……否、的でしかない者を見て、しかし油断なくそこに在る。
 軍神がいた。
 マハラジャがいた。
 以後に歴代を連ねる王朝の開祖がいた。
 そこに集う英雄の数だけ伝説があり、その誰もが掛け値なしの英霊だった。

「エキサイティン《どーーーん!》」

 そして、その馬鹿も何故かそこに居た。
 黒く短めの髪に茶色の目。典型的な日本人の外見で、着ているものはファンタジーゲームなどの村人が着ているような、どこにでもあるような村人の服だった。
 両手に何も持たず、かといって武器らしきものを携帯しているわけでもない。
 ただ特徴として、両腕に奇妙な紋様が存在していた。

「彼らとの絆こそ我が至宝! 我が王道!! イスカンダルたる余が誇る───」
「おいライダー! ライダー!」
「〜〜……なんだ坊主! 今ここで余を邪魔立てるのであればデコピンの一発二発では済まさんぞ!?」
「そうじゃなくて! ……なんか、おかしくないか!? ほらあそこ!」
「あん……!? ……お、おお?」

 言われ、促されて見てみれば、たしかにヘタイロイの中でなにやら悶着があった。
 しばし待つと、なにやら一人の男がパイク……槍兵の一人に軍勢から蹴り出され、ジュザァアと砂漠を滑った。顔面で。その際、「オァマァー!」とか妙な悲鳴をあげたが、気にしちゃならない。

「痛ぇ……! もういやだこんな人生なにをやってもだめだよ全部妹子の所為だ……!」

 なんか泣きながら誰かの所為にしてた。
 しかし立ち上がると、ぽかんとしている赤っぽい巨漢を前に軽く片手を持ち上げ、

「やあ《どーーーん!》」

 挨拶をした。

「………」
「………」
「………」
「………」

 全員が沈黙した。
 しかし征服王はひとつ咳払いをすると、

「蹂躙せよォオオオーーーッ!!」

 叫んだのでした。
 これに気を取り直したヘタイロイは突撃を開始し、蹴り出されたそいつも何故かウォオオオと叫び、アサシンへと走り出したのだった。

……。

 のちに。
 外道の限りを尽くしてアサシンどもを始末して、固有結界の解除とともに消えると思っていたソイツは、何故かそのまま現実に残った。

「サーヴァント・クロリスト。召喚に応じ参上した。これより我が身、我が意思は当然僕自身のものであり、全力で楽しむことを誓おう。ここに、契約は完了した」

 言っていることが滅茶苦茶だった。
 思わずウェイバーはツッコミを入れ、しかし彼は笑った。

「まあまあいいじゃないの、楽しくいきましょう。えーとところでマスター? ここ何処? サーヴァントとして召喚された時に、一定の知識は植えこまれたんだけど、現状がいまいちわからんとです」

 ゲームとかなら、そこいらの村人が着ているような平凡な服に身を纏った少年はそう言う。
 王の問答をと設けた場所に、そいつは相応しくなどない筈なのだが───王の中の王、英雄王ギルガメッシュは眉も動かさず、無表情でいる。

「んむぅ……その前にその、なんだ。貴様はなぜ、我がヘタイロイにまぎれておったのだ?」
「押忍。さっきのってサーヴァントの連続召喚だよね? 絆と景観を共有、媒体にしての。たぶんね、それが触媒だったのよ。僕も似たような宝具持ってるから、絆を媒体に使われちゃあ召喚もされるというもの」
「ほほう! それではなにかっ! 貴様はイレギュラーとして召喚されておきながら、きっちり戦えるというのか!」
「戦えるけど……えーと、ちょっといい? 先に自分の願いを言っておくね? ……我が名は中井出博光! 此度の聖杯戦争においては記録者……クロリストのクラスを得て現界した! まあイレギュラーだね。そィでさ、我が願いは───現界した英雄と一緒に様々を楽しむことである! せっかくこうして出会えたというのに、戦うばかりではつまらんではないか! なのでこの博光! うぬらとは聖杯を奪い合うこともなく、欲しけりゃくれてやる心づもりで挑ませてもらう! 故に! ……あなた方の願いってなに?」

 ハッキリキッパリ、自分は聖杯なんぞどうでもいいと言ってのけた。
 これには全員が口を開けて固まった。

「するってぇとその、なんだ? クロリストよ」
「あ、マスター、博光って呼んで? 中井出でもOKよ?」
「うむ。ではヒロミツと。貴様には聖杯に願う願望なぞなく、ただ我らと出会い、語らい、比類するだけで十分だと……そう言うのか?」
「押忍。それだけよ! それだけが満足感よ! そしてマスター、うぬの願いは?」
「うむ、もはや隠す意味もなかろうて! 既に口にした願いに今さら照れも無い! 余の願い、それは! この世界に今再び、受肉することにある!」
「なんと!? ほほう、それでよいのであれば……あ、マスターのマスター、ちょっと手ぇ見せて? ふんふんこれが令呪と……えーと……コピー、創造…………おし」

 ウェイバーの令呪を見て、能力を発動。
 それを分析、コピーして創造して、自身の左腕をそれで満たしてゆく。

「うえぇっ!? なにやってんだよお前! それっ…………ぜ、全部令呪、なのか……!?」
「押忍。というわけで。全令呪を以て命ずる! 我がマスターよ! 受肉せよ!《ボゴォン!!》ギャアーーーーーッ!!」

 滅茶苦茶である。
 滅茶苦茶であるが、構造の全てを分析して創造した令呪は確かに本物であり、パスや保有する奇跡の元さえもが本物。
 三画どころではない数の令呪全てを以て命令をすると、彼の腕は吹き飛び、しかし征服王は確かに受肉した。

「ちょっ……ちょちょちょちょっと待てぇえええ!! なにをやってやがりますかお前ぇええっ!! こんなんありなのか!? あっていいのかよぉっ!!」

 ウェイバーはそれはもう取り乱した。
 騎士王も困惑するばかり。
 英雄王は興味なさそうにフンと鼻を鳴らした。

「おおっほ!? おお! 久しく感じるこの実体感! 血沸き肉躍る体動! どうやったのかはよくわからんが、見事なもんだのう! ……フン!《ビシィッ!》フンンッ!!《ムキキィッ!!》……ぬはははは!! 実体になったからこそ、この胸の世界全図も輝くというもの! うぅむ、実に小気味良い!!」

 一方で腕が令呪とともに吹き飛んだ馬鹿は、「ずあっ!」とか言って腕を再生していた。まるでナメック星人である。

「あなた……本当に人間なの……?」

 そして、なんか白い人妻に人間性を疑われていた。

「しっ……失礼な! 僕人間だよ!? ちょっと普通と違うだけだもん!」
「そうだぞぅ? そこな婦人よ。そう細かいことを気にするものではない。時にヒロミツよ。貴様の能力だが……主になった影響か、ステータスとやらがしっかり見えるようになっておる。……デタラメだなぁ、なんだこのステータスは」
「そりゃあね、鎌倉幕府なレベルに到達した博光ですもの、常識だけでは語れません」

 11922960レベル。
 ある冒険の世界、ヒロラインの限界とされるレベルに独りだけ到達したその馬鹿は、そうであるからこそ魔王と呼ばれたりバケモノ扱いされたりしていた。
 強いくせにプロレス技を好むところも、どういう感性を持っていればそうなるのか。まあ、結局は強いだけではつまらない、というところに落着するわけだが。

「しかしそうであるというのに、貴様の現界の維持にちぃとも魔力を使わんのだが……」
「その世界に現れれば、その時点で受肉してるのがこの博光です。魔力なんて必要ないし、その気になればいくらでもかき集められますよ?」
「お前何者だよ!」
「博光ですよ失礼な!」
「だって、そんな英雄聞いたこともないぞ!? おいライダー! 聖杯からの情報で、こいつの伝承とかって聞いてないのか!?」
「はぁん……? ああ、それがなぁ、こやつが語ったこと以外の情報などなにもないのだ。ただ、その生涯を裏切られるまで裏切らずに生きた、という部分にこの征服王イスカンダル、実に心擽られた! 愚直なまでに相手を信じる生き方! その意気や良し!」
「押忍、よろしゅうマスター。あ、ところでキミらここで何話してたの? もしかして聖杯にかける願い事? 僕にもおせーて?」
「───」

 中井出が訊くと、セイバーは口を噤んだ。
 同時に、ライダーはううむと唸り、英雄王を見る。
 英雄王はやはり鼻を鳴らすだけだ。

「え? なに? 人に誇れない願いなの? はたまた言うほど立派なものじゃない? もしくは願うだけ馬鹿馬鹿しいとか?」
「そんなことはない!」
「《ビビクゥッ!》ヒィ!? ちょっ……い、いきなり叫ぶことないじゃないか! びっくりさせないでよもう!」
「え? あ、ああ……すまない」

 力はあるくせにどこまでいっても心は凡人である。
 それはともかく、セイバーはもう一度語った。
 英雄王には笑われ、征服王にはそれは違うと言われた願いを。
 それを聞いた中井出は、「それなら」とセイバーの手を取り、次いでライダーの手を取ってにっこりと笑った。

「じゃあ、やり直してみよう!」
『へ?』

 次の瞬間には時空転移。
 セイバー……アルトリアの良く知る時代へと時を遡り、選定の剣の前へと降り立った。


───……。


 キィンッ───!

「たでーもー」

 転移した時間そのものに戻ってきて、セイバーとライダーは大きく溜め息を吐いた。

「どうだった? セイバーさん。これにて時間旅行は終わりだけど」
「セ、セイバー? どうかしたの?」

 白い人、アイリスフィールはセイバーの肩に手を置きそう訊くが、セイバーは───

「いえ、アイリスフィール。どうかした、というよりは、理解できたところです。言葉だけでなく、この目できちんと見届けることが出来た。ブリテンは、結局滅びました。どのような王政をしても、私以外が王になっても、なにをどう切り捨て、なにをどう受け入れても」
「セイバー……?」
「うむ。余も己の知識と経験だけで語りすぎてしまったのう……アレはセイバー、貴様でなければ引っ張ってはいけん国だ。そして、どうあれ必ず滅びる。余がどれだけ疾走しようが、アレらは余とともには駆けられん」
「当然だ、ライダー。私もそれを自覚し、受け取れることが出来た。何度も繰り返し、何度も悩み、時にギネヴィアとサー・ランスロットを最初から引き合わせ祝福し、時にモードレッドを認めてもなお……国は滅んだのだ。異民族を受け入れようと、拒もうと。剣を抜かねば滅び、剣を抜いても滅んだ。過程はどうあれ滅ぶのであれば、私は……せめて、円卓の騎士たちが、望んで私とともにあってくれたことを知れただけでも……、……っ……私は……!」
「ライダー? いったいなにがあったんだよ」
「あー……んん、その、なぁ。ちと過去のブリテンへ飛んで、選定からのやり直しとやらを見届けてきたのだがなぁ」
「へっ? ……やり直し……はぁっ!?」
「ありゃあ無理だ。誰がどう足掻こうが、国、というよりは島の問題だ。大地というものは生きているものでな。神秘というものが時とともに薄れてゆくもので、その時代の只中にこそかのブリテンがあったというのでは、現在に神秘のほぼがないことを考えるに、滅びるのは必然であったのだ」
「その通りだ。ただ、神秘がそうであっても、国は残せたのではと思わずにはいられなかった。神秘というものにブリテンの人々やピクト人、竜や幻獣などが数えられているのであっても、薄れた神秘の先でも残せたものはあったのではと。だから……ヒロミツ、私は……」

 なにがあったのか、セイバーは目に涙を浮かべ、拳を握り締めていた。
 そして騎士の礼を取ると、ウェイバーに「時間旅行って! お前それもう魔術っていうか魔法……っ!?」とか問い詰められている中井出に感謝を。

「いーのいーの、せっかくこうして集ったんだからさ、もやもやなんて無くして、全力で楽しもう。というわけで、やり直そう」
『は?』
「聖杯戦争、最初から。ほら、聞けばなんでも、えーと……ランサー? のマスターがジャイアンばりのイジメっ子で? ランサーの願いとか存在とかを否定してるくせに道具としてしか見てないっぽいらしいじゃない? そんなのはよろしくない。なのでちょっと、時間……巻き戻してみない?」
「…………最初から……」
「聖杯戦争を……とな?」
「そ。あ、もちろん記憶はそのまま。ここに居る僕らだけがだけど。どう?」

 どう? と言われても。一同、まるで示し合わせたようにうぅむと唸る。
 そしてもちろんウェイバーくん驚愕。さっきも言ったが、時間移動なんてそんなことが本当に出来るのかとか、しかもこの人数をとか、めちゃくちゃである。
 そんな中、蒼と銀を主体にした装備をしゃらんと鳴らしながら頷くセイバーは、静かに言う。

「……私は賛成です」
「セイバー!?」
「アイリスフィール、私はもっと、切嗣と話すべきだった。嫌われようと、どうしようと」
「うぅむ、セイバーにやり直しについてを説いておいて、今さら、というのもあるが……出来るのであれば経験してみたいというのが余の考えでもある。何事も経験してみなければなぁ。ちなみにそのー……なんだ? ヒロミツよ。それはなにかしらに影響が出たりとかはするか? マスターが変わったりとか」
「しませんよ? 僕らの記憶だけが残って、召喚時まで戻るってだけ。まあ、僕はちとランサーのマスター権をかっぱらおうとはしてるけど」
「相解った!! ならば余も賛同しよう!」
「おいおいおいおいおいぃいっ! いいのかよライダー! 罠かもしれ《ごべしぃっ!》あへぁふんっ!?」
「だぁっとれい坊主! 敵の狙いがわかっておるのであれば、キャスターとて早々に対処することも出来よるだろうが! そして余は! 経験したからこそ、一度見た惨劇を救ってみたいと思うようになったのだ! やり直すのであれば救う! 知っていて見捨てるなぞ出来るものか! ま、当然やり方としては……征服するのではあるがな? ぬははははは!!」
「だ、だから……! 罠……!」
「あぁ、その心配ならいらん。ヒロミツとは既に酒を交わした。同胞となったからには冗談以外での嘘など論外であり、こやつは裏切られるまで裏切らん」

 ウェイバーは頭を抱え、嘆息しまくった。
 英雄王は出来るものならばやってみろとでも言う様相で、結局はその場に居る全員が納得し、時は、戻った。

……。

 で。

「レンタベイビー!!」
「《ドゴッシャ!!》ぶべぇっしぇ!?」

 ダンターク流奥義ぶちかましが炸裂し、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは壁画になった。
 ソフィアリ嬢は既にぐったりと地面に倒れ伏していて、あとはケイネスの令呪を奪って召喚するだけで準備は整った。
 分析、コピー、切断。
 それだけをして令呪を移し、召喚の呪文を並べた。
 もちろん呪文なんて知らなかったので、令呪から読み取ったものをそのまま口にする形で。
 するとどうでしょう、眼前に全身タイツっぽい男が現れ、自らをディルムッド・オディナと名乗った。

「やあ僕博光。早速で悪いんだけど、あなたの聖杯にかける願いを聞かせて?」

 返答。無い。
 マジかテメー! とばかりに訊ねてみても、無いと言う。

「強いて言うのであれば、主のために騎士道を貫きたい。忠義を貫く……ただそれだけの願いであると、知っていただきたい」
「…………」

 騎士道云々は、まあこの外道にわかるはずもなく。
 しかし貫きたい想いがあるのはステキなことだと、彼は令呪を構えて命令をしました。

「全令呪を以て、中井出博光が命じます」
「主っ!? なにを───」
「ディルムッドよ。忠義を……己が騎士道を、なにがあっても貫き通しなさい」
「《ドクンッ……!》……! これは………っ………主……!」
「たとえ僕の命が危うき時でも、あなたはあなたの騎士道を貫くのです。たとえその所為でなにかを失うことになろうと、これは俺が勝手に命令したものであるから、キミはなぁんにも悪くない。そう、全部俺が自分のためにしたことじゃけぇ、全力で騎士道ってやつを貫いてくりゃれ?」
「───……〜……感謝を……!!」

 これでとりあえずはOK。
 あとはケイネスさんを、影を通じてアモルファス(影のバケモノ)でガボォンと丸飲みして、ヒロラインへと飛ばした。
 過去を覗いてみれば、なんでもソフィアリ嬢に認めてもらいたくて頑張りたかったらしいので、ならばなにも聖杯戦争じゃなくてもいいじゃないの、と。
 大丈夫! 僕の世界は誰もが退屈出来ません! 常識の悉くをぶち砕くファンタジーが、あなたとソフィアリ嬢を待っていることでしょう!
 そんな思いを胸に、彼はケイネスとソフィアリ嬢を博光の野望ONLINEという世界へ送った。
 頑張ればレベルアップも可能な、仮想ではない実体そのもので挑む異世界冒険記となりましょう。

「そういえばあの黄金の人、なんか俺が来てからやたら不機嫌そうだったけど、なんだったんだろ」

 やはり自身からあふれ出る凡人村人オーラが、彼にそうさせたのだろうか……! と無駄に迫力を出しつつ悩んだが、とりあえずはまあ動くことにした。
 そもそもこの世界のことを何も知らないので、まずは適当に移動を開始した。

「主よ!」
「《びくぅ!》ヒィ!? な、ななななに!? なんなの!? どしたの!? 敵襲!?」
「いえ……! ……不用意に移動するのは危険かと。ここはこのディルムッドが偵察に───」
「過保護すぎません!? え!? 騎士ってそういうものなの!?」

 ……悶着はあったものの、とりあえずは出たのである。


───……。


 のちに。
 時間を戻す前に渡しておいた連絡手段で連絡を取り、外国までセイバーと白い人を迎えに行ったり(キリツグ? はもう早くに発ったらしい)、ライダーと落ち合ってガッハッハと笑い合ったり。
 その先で、死の匂いを嗅ぎつけ、惨殺現場に馬鹿が到着した。

「恐怖というものには鮮度が」
「《どがぁっしゃあああんっ!!》オーーーリーーービーーーアーーーッ!!」
「むひょおぉおう!?」

 ご丁寧に窓ガラスをぶち破って。
 召喚され、子供を海魔に食わせたキャスターは奇声を上げ驚くが、次の瞬間にはセイントマッスルパンチで鼻っ柱を真っ直ぐに殴られて吹き飛んでいた。

「ぶふはっ……おぉおおおのれおのれ何者かぁああ!! 神聖なるこの恐怖の儀式を邪魔立てしようとはぁあっ!」
「博光である! 死ね!」
「おいおいおいなんだよアンタ! 人がせっかく楽しんでるところにさぁ!」

 さらに殴ろうとする彼へ、召喚者である殺人鬼、雨生龍之介は堂々と、億することもなく真っ直ぐに、両手をバッと広げて文句を飛ばす。

「お? 楽しんでたの?」
「そうだよ! おたくが誰か知らないけどさぁ、人の楽しみに水差す権利とかあんの!?」
「権利? ふむ……権利…………」

 問われた彼はふむりと頷くと、にこりと笑った。

「殺していいのは殺されてもいいヤツだけだよ? 人殺しの権利なんてそれで充分だ」
「へ? なに言って《ぼとり》……は? ………………うわぁあ……!」

 足元から音がして、見てみれば……自分の腹から内臓が零れ落ちていた。
 普通は恐怖するだろうに、雨生は目を輝かせ、頬を染める。
 その赤を美しいと感じ、迫る気配を死と実感すると、それこそが今まで自分が求めていたものだと知る。
 身を震わせ、歓喜に飲まれ、その赤に触れようとした時、その目はぐしゃりと潰された。

「え……? あ、うあぁああああ!? なんで……なんでこんなっ……! やっと見つけたのに! なんでっ……」

 触れようとした手もぼとりと落ち、感動の全てに触れることも出来ない事実に、彼は喉が張り裂けんばかりの絶叫を放つ。

「恐怖というものには鮮度が、でしょう? 絶望というものの鮮度もたぁ〜っぷり味わうとよいですよ、あー……殺人鬼クン?」

 そう言った途端、視界の外から触手が伸び、中井出の体を拘束した。
 次いで激突という言葉が似合うほどの速度で叩きつけられ、その壁から生える触手にミシミシと締め付けられ───やがて骨が砕け肉が千切れる音が暗い家屋に鳴り響く。
 やがてその体が骨ごとぐしゃりと潰れると、その姿は壁ごと海魔に飲み込まれた。

「おお……悲しいことです。よもや魔術師が先に攻撃を受けてしまうとは……。しかしご安心なさい、その程度の傷ならば死ぬことは───」
「残像だ」
「───ハッ!?」

 キャスターの背後。そのさらに後ろで奇妙なポーズを取り、普通に立っている村人の服姿の男。
 代わりに海魔はぐしゃぐしゃに潰れ、塵となって消えた。

「馬鹿な! なにを! なにをしたというのか! 確かに潰し、血肉を喰らった筈なのにィィィィ!!」
「潰れた血肉さえ偽装し、騙してのける……これぞ秘奥義幻影無光拳……!」
「秘奥義……! なるほど……それが貴様の宝具……」
「え? あ、いやその……違うんだけど……」
「よろしい。この場はひとまず預けましょう。大丈夫ですよ我がマスター。あなたが死することはございません。せっかく理解ある者と巡り合えたのです、海魔と融合させてでも、あなたを存命させてみせましょう」
「あれ? ちょっと!? ねぇ!? 勘違いしてるよ!? おたくマジで勘違いしてるよ!? いやべつにどういうものが宝具かとか思われてもいいんだけどさ! 恥掻くよ!? きっと恥掻くよ!?」

 言うや、その場が噴出した赤い霧で覆われる。
 そんな霧をブラックホールを創造して吸い込むと、そこにあるのは惨殺現場のみ。キャスターの姿も、そのマスターの姿もなかった。

「…………《コリコリ》んーむ」

 英雄全員と楽しく愉快に、とは。なかなか上手くいかないものである。
 善悪関係なく楽しみたい身としては、こんな状況には溜め息を吐く以外なかった。

「まあ、世界から外された時点で、もうなんでもやるつもりではあるんだけどね」

 こほんと咳払いひとつ。
 左腕を軽く持ち上げて、その腕に走る紋様……霊章、というものだが、そこに右手を沈めこみ、そこから一振りの巨大長剣を抜き出す。
 それをヒュフォンと回転させると、剣だったそれが錫杖に変わり、その底を床にドンと叩きつけるとともに口にする。

「刮目せよ」

 武具の能力を発動させるには、それぞれの持ち主が使っていた言葉を口にするのが一番早い。
 あくまで力を引き出す者でしかない彼は、武具が無ければ激烈雑魚である。
 経験したことがある事実から言ってしまえば、産まれたての赤子に小指をきゅっと握られて、指がゴキベキ折れて“HEEEEEYYYY!”と泣き叫んだことがあるほどに雑魚である。
 それこそが彼の生前の弱点であり、武具の大元である指輪を外してしまえば普通の人間より弱く、むしろ赤子より雑魚である。
 代わりに、武具があれば強者。様々な知識から生まれたゲーム世界の武具の全てを合わせ持つこの男は、それこそそれらの武具にちなんだ弱点もあるわけだが、不老不死ではあるが背中が弱点とか、まあいろいろと情けなくも悲しい弱点があるわけである。

 ともあれ。

 ドンと叩きつけた錫杖がしゃらんと鳴って、この場の音を支配した。
 完全に音が消えた世界は、まるで巻き戻しのように扉が開いたり閉じたり、倒れていた椅子が起き上がったり飛び散った血が戻ったり。
 タイムヒーリングという、時間に干渉する癒しであり、人が死のうがどうしようが元通りにしてしまう奇跡的な魔法である。
 記憶はどうしようかなぁと考えつつ、まあいいやとそのままに。
 触手に襲われた筈の子供がその場に倒れたところからこの家の時は始まり、その衝撃で子供が目を開くと、暗いその部屋を見て悲鳴をあげそうになった。
 ちなみに、子供の家族らしい人達は、まだ眠っているわけで。

「い、いかーーーん!」

 叫ばれれば起きて面倒なことになる。
 そう感じた中井出は、咄嗟に子供の口を塞ぐと

「フン」
「《ゴキィ!》うきっ!? ……《ドシャア》」

 首を捻って黙らせた。
 そうしてドシャアと力なく倒れる姿を見届けると、「若すぎる……遅すぎる……そしてなんと弱い」と呟いた。鬼である。

「危なかった……! 少しでも対応が遅れていたら、間に合わなかった……!(通報的な意味で)」

 自身を悪と断言し、自他共に認める外道として人生を謳歌するこの馬鹿は、老若男女の差別をしない。
 子供は好きだし老人も好き、同年代だって好きだが、状況が迫れば手段は択ばない。故に悪で外道。
 安堵の溜め息を吐きつつ、気絶した子供の首に癒しを流して、この家族に起こった不幸の全ては、夢として終わったのだった。

「しかしこう、相手の首をゴキィと捻ると、ドドリアさん思い出すよね」

 どうでもいいことを呟き、転移して消えた。
 気づかれる前にそれでさっさと消えていればよかったものを。




◆ギャフターではお馴染み、ネタ曝しです。 *ド外道さんよ、有れ  うしおととらより、お外堂さんよ、有れ。  設楽さんの回はなんというか……うん、アレでしたね。  ホッコォって意味わからない人にはなんのことかわかりませんよね。当たり前ですけど。 *ポセイドンウェーブ  ラリアット。餓狼MOWにてグリフォンマスクが使う技。 *M11型デンジャラスアーチ  相手を腕ごと抱き締めてブリッヂ。  KOFシリーズより、マキシマの痛そうな技。 *ブチコロがす  アニメ・魁クロマティ高校より、殺すのソフトな言い回し。 *エキサイティン  1P目の1コマ目にて、儚げな顔やドヤ顔などでどうぞ。  もうスンゴイ! 漢魂!!など、南ひろたつ漫画より。 *オァマァー!  ギャグマンガ日和より、聖徳太子がブランコから飛び降りて失敗した時の叫び。  元は落とし穴に落とした妹子に言わせたかったらしい。おあまあー。  とりあえずなにをやってもダメな人生は妹子の所為にする。 *それだけよ! それだけが満足感よ!  勝利して支配する! ジョジョ三部より、膝が砕けたDIOの内心。  過程や方法などどうでもよいのだァーーーッ!!  うん、まあ、絶対にこうしたいって思うことがあるなら、過程や方法を選らんじゃいけませんよね。  周囲の人には存分に嫌われるだろうけど。 *ずあっ!  ドラゴンボールより、腕とか再生する時にはやっぱりこれ。  つおっ、というステキな掛け声もある。  ずどどえあーはなんだったんだろうか。 *1192  元鎌倉幕府。今じゃ1185。  難敵屠ろう風塵縛封。 *たでーもー  ただいまの意味。  けだるく、目を腐らせながらどうぞ。 *レンタベイビー!  4年1組起立!より、ものを借りる際に叫んで攻撃、強奪。あ、強奪って言っちゃった。 *ダンターク流奥義ぶちかまし  ロマンシングサガ2より、七英雄ダンタークの得意技。  ダンタークといえばぶちかまし。べつに奥義ではない。 *マジかテメー!  カメレオンなど、加瀬あつし漫画の不良がよく語尾につける言葉がテメー。  例:死んだぞテメー! 明日の朝刊載ったぞテメー!  アに濁点をつけて伸ばすことでも知られる。 *アモルファス  ギルティギアシリーズの影さん。主にザトー=ONE。  いや、主なのはエディか。うう、塩沢さん……。 *オーリービーアーー!!  サガ2より。お前どうやってここまで来た! 代表。  オリビアが「もう、ないもこわくない!」と言っているのは時代を先駆けたフラグ……にはならなかった。 *セイントマッスルパンチ  キン肉マンより、ゼブラがボクシングスタイルで繰り出す拳。痛い。 *これぞ秘奥義幻影無光拳……!  ストレンジ+より、フケ顔の弟が密かに練習していた必殺技。 *HEEEEEYYYY!  ジョジョ第二部より、エシディシの方向。  アニメでヘェエエエイイイって叫んでくれたのが妙に嬉しかった。 *い、いかーん!  アニメジャングルの王者ターちゃんより、ターちゃんが他者の危機に叫ぶ言葉。  中の人は現在、舞台や演出家などをやっているらしい。 *うきっ!?  浦安鉄筋家族より、ねぎまねーちゃんの首折り劇場。  ちぇい! ぺい! フン《コキン》うきっ!? の三連リズム。  ちぇい、ぺいまでは叫んでるのに、フンの首折りだけやけに静か。それがいい。  いたいけな少年の首を容赦なくゴキャアと捻じって気絶させる……外道の所業よな!  ええ、こういうことを普通に出来る主人公もどきです。 *若すぎる……遅すぎる……そしてなんと弱い  首折るだけでなんで三つもネタがついてるんだ……。  えー、バキより、マホメド・アライ。jrは結局なんだったんだ……。 *ドドリアさん  ドドリアさんとザーボンさんにはさんをつけたくなりますよね。  もちろんフリーザ様には様を。コルド大王には大王を付けなきゃなんか語呂が悪いように感じるソレとよく似てる。  たぶんいきなりコルドとか言われてもわからないし、大王をつけなきゃなかなか認識さえしてもらえないと思うの。 ◆あとがき  えー、一度このネタ曝しやあとがきが消えました。  水がこぼれまして、たこ足がびしょぬれで切断せざるをえなくなりまして。  キャプション等のデータは保存されてたんですけどねー……ちくせう。  そんなわけで第一話終了です。  こんな調子の、特にこれといった戦闘描写も多くないお話が続きます。  ……たぶん、戦闘ではないと思うので。暴力シーンはあります。ええ、暴力です、  ではではヘンテコなノリのSSですが、よかったら次もよろしくです。   Next Menu back