と、まあ、そんなわけで夜。
「むぅわはははははは!! いや実に愉快! 聖杯に求める願いが叶ってしまっては、戦う理由が“戦いたいから”しかなくなってしまったわ! いや、それこそ征服というものか? んまぁあ今は良い! さぁ飲めセイバー! 今宵の酒は親睦の酒である! 余の同胞が用意し迎えたのであれば貴様は客だ! そしてランサーよ! 貴様もまた客よ! 硬いことは言わん! 飲んでゆけぃ!」
武を競うでもなく、呼んだわけでもないのに自然と集った者たちは、とある公園に結界を張り、そこで宴会をしていた。
「主……これは、いったい……」
「んああディルっち? こやつらは僕の友達。聖杯戦争として見るなら敵ではあるけど、願いはとっくに叶ってるっていう、まあ……良い戦いをしようっていう相手だよ。憎しみを以て向かう相手じゃない」
「……主がそう仰るのであれば」
「ふむ、しかしこれは美味しいですね、ヒロミツ。世にこのような美味があったとは……!」
低反発な巨大シートを敷き、そこに座っての宴会。
当然食事も飲み物も用意されており、その全てが中井出が自分の世界から引きずり出し、用意したものだ。
「でしょでしょ? ほらほらもっといっぱいおあがり? 食材なら無限にあるから」
「無限とな!? いったいどうなっとるんだ貴様のそのー……霊章とやらは」
「この中にひとつの世界があるでよ。血沸き肉躍り、英雄どもが闊歩する世界が。今まで出会ってきて、意思を受け取れた者全員がその世界でいろんなことやって楽しんでおります。その気になりゃあ何でもできる世界だから、退屈だけはしませんよ? 今もえーと……つい最近取り込んだ……誰だっけ? けーねす? とか呼ばれてるオールバックさんが水銀っぽいスライム使ってモンスターと戦ってるところ」
「けーねすって……ケイネス先生!? おまっ……なにやってんだよ! 取り込んだって……えぇええっ!?」
「まーまーそう叫ばない。状況は楽しんでこそですぞ? ほら、そうこうしてるうちにケイネスさんがカイザードラゴンに消し炭にされた」
「うぉおおおおおおおおおいぃいいいっ!!?」
「じゃーじょーぶじゃーじょーぶ! 何回死んでも生き返れる世界だから! ほら、これがその映像ね?」
中井出が「ハッピー・セェッ♪」とか言って両手人差し指を動かして四角形を描いたのち、左手を胸に、右手ではサムズアップしながら右肩あたりまで手を持ち上げると、“お前ら表へ出ろ”のポーズを取る。
するとその描かれた空間が巨大な映像となって、空間世界を映しだした。
「うわぁっ!? ……お前ほんと、なにものなんだよ……!」
「漬物だ。美味いぞ」
「そーゆーこと訊いてるんじゃなくてぇっ!!」
「ウェイバーちゃんはあれだねぇ、物事気にし過ぎて胃を痛くするタイプだね」
「誰の所為でこんなんなってると思ってやがりますかぁあっ!!」
で、そんな映像の中、死ぬと絶対にファザー・ベントという教会の神父の前に飛ばされる世界において復活したケイネス・エルメロイ・アーチボルトは、『おお旅人よ! 死んでしまうとは情けない!』と神父に言われ、「この私が情けないだと……!?」と青筋を立てて、威嚇の意味も込めて神父に魔術を行使。
頬にでも軽い傷をつけて、己がいかに優れた魔術師かどうかを思い知らせてやろうとした時点で、神父に顔面をストレートに殴られて鼻血を噴き出させていた。
「ちなみにあの神父、あの世界じゃほぼ世界最強の存在だから」
「なんでそんなのが神父なんてやってんだよぉ!」
「攻撃しなければただの復活させてくれる神父なんだけどね」
のほほんと言っているうちにケイネス氏はボッコボコに殴られ、再び塵となって消滅した。
当然死ねば神父の前に強制転移されるわけで、『おお旅人よ! 死んでしまうとは情けない!』と再び言われたケイネスは、血管をビキビキと脈動させて全力攻撃を開始し、また返り討ちに遭った。
『おお旅人よ! 死んでしまうとは情けない!』
「おのれ貴様……! このロード・エルメロイに向かって《バゴシャア!》ぱぐわ!?」
『おお旅人よ! 死んでしまうとは情けない!』
「だ、誰がころしたと……! ならば全力で《ボゴシャア!!》あぼがっ!?」
『おお旅人よ! 死んでしまうとは情けない!』
「このっ《マゴシャア!!》はぐぼっ!?」
『おお旅人よ! 死んでしまうとは情けない!』
「〜〜……もはや許さん! 塵も残さず潰してくれる《ゴバシャア!!》たわば!!」
『おお旅人よ! 死んでしまうとは情けない!』
「ギッ……ギイイイイイイイーーーーーッ!!!」
……キレた。
「うんうん、ヒロラインプレイヤーは絶対に一度は通る道なんだ、アレ。あの神父がまたむかつくんだ……マジで」
「というわけだ坊主。あれが短気な存在の末路というものだ」
「自分で殺しておいて情けないとか言われたら怒るだろ普通!」
「いや、ほんと攻撃さえしなけりゃ無害なんだよ。口悪いけど」
「〜〜……じゃあ。攻撃じゃなく、柱にでも縛り付けてから攻撃したらどうなんだよ」
「動きを止めた状態で一定回数攻撃すると、ゼルダの伝説のニワトリよろしく、無数の神父が空を飛んで頭突きで襲い掛かってくる」
「だからなんなんだよあの神父はぁっ!!」
「ま、いいではないか! それよりヒロミツ! 料理が足りん! もそっと用意出来るか!?」
「うむ! つーかセイバーさん思ったより食うね!? いや実に結構! たーんとおあがり! ほらディルっちも! アイリスフィールさんも!」
「いえ、しかし……騎士が主と席を同じく───」
「じゃあ主として命ずる」
「…………御意」
「……セイバー、毒が入っている、なんてことは……」
「アイリスフィール、少なくともこのヒロミツのことは信頼して損はありません。というよりそもそも、彼には人を裏切るつもりは欠片もないのです。彼の伝承に自分のためにしか動かない、というものがありますが、受け取る意味が少々違うのです」
「違う、って? どういう意味?」
カカカカカッと食べていたチャーハンから顔を持ち上げ、レンゲをカチャリと置くと、頬に米粒をつけたまま騎士王は語る。
「彼の自分のためとは、他人の益になる行動を指します。もちろん自分のためではあるのですが、たとえば誰かを笑顔にしたいと思えば、自分がその笑顔を見たいから、と。人の幸せを願うなら、自分が幸せに暮らすその者らを見てみたいから、と。遊びで人に責任を押し付けることはしても、彼は本当に人を裏切らないのです。だから、安心してください。彼が私たちが毒に苦しむ姿を見たいと願わない限り、毒が入ることなど有り得ません」
「うむ。そして、こやつは既に“我ら英雄と楽しみたい”と願いを語っておるのだ。楽しみたい相手に毒を盛る馬鹿がどこにおる」
「お前っ! たったそれだけのことを信じただけで、確認もしないで食ったの《バチィッ!》かひゅうんっ!?」
「ええい小さい! いつまでみみっちいことを言っておるのだ! 貴様それでも余のマスターか! 腹の探り合いなぞし続けたところで、辿り着きたい果てなどには永劫辿りつけぬわ!」
「いや、デコピンで一回転するほどの衝撃出すキミもどうかと思うよ?」
言いつつ吹き飛んだウェイバーに癒しを流して、しゃんと立ち上がらせる。
するとウェイバーは「べ、べつに頼んでないだろ! 回復なんて余計なお世話だ!」とその手を払いのけて、マキシマリベンジャーで大地に沈んだ。(例:まず相手の頭を掴んで持ち上げます。次に地面に向けて顔面から振り降ろし、叩き付けます。本来ならここで空中に放り投げて、落下してきた相手に頭突きをしますが、とりあえず初撃だけで十分です。はい、マキシマリベンジャー)
「癒しがいらないとは……強きお子よな、ウェイバーちゃん」
「だからといってなぁヒロミツよ。なにも地面に叩き付けるこたぁないだろう」
「いや、さっきのマスターの一撃、たぶんこれくらいの衝撃はあったと思うのよ?」
「なんというか……ヒロミツは容赦がないのですね」
「うむ。これでも悪を自称し、己を外道と認めている故。ほら、他人にとっての人の正義って悪じゃない? それを正義だ正義だーって言って振りかざし続けるの、大嫌いなのよね。ならさ、最初から悪として自分を認めて、自分の意思や意志を貫きゃいい。それなら俺は最初から悪で、自他共に認める悪で外道でいられる」
「それは……自分の意志が負けていることを認めたことにはなりませんか?」
「自分の考えよりあっちが正しいのかもって思うことくらい、誰にだってあるじゃない。んだども自分の意志を貫かんとするから征服なんだし、そうであろうとするから王道になるんじゃない? これでもこの博光、王って意味でなら魔王をやったし、侯爵として町を治めたことはある男。曲げたくない意思や意志や遺志や偉志はもちろんあるし、それらの押し付けなんぞ自分のエゴだってことはきちんと理解しておるです。完璧なんて無理だったし、もちろん失敗だってしました。じゃあ最初っから完璧な道を歩んでりゃよかったのかーっていったら?」
「……それは、違う。……そうか、違って、よかったのですね。過去に戻り、何度も繰り返したあの時のように」
「うす。失敗して学べるものって結構大事ですもの」
失敗した数なら57億もの時で腐るほど。ムンと胸を張って、彼は答えた。
「うむ。民が怠惰し、正解のみを歩む王に全てを押し付ける国なぞに、魅せられ昂るものなぞなにもない。臣民にこそ志を抱かせ、偉志としてそれを受け取った王が疾走し、その姿に魅せられ、勇者が集う。そこに信じ、頼るべきものがあるからこその信頼か。己の道だけでは知れぬものを、こうして戦争という名をつけた集いで知れるとはなぁ……ぬふふははははは!」
「ほれほれマスター、杯が空ではござーませんの。ほれほれ飲みねぇ」
「おぉっとと、うむ! 飯も美味し! 酒も美味し! 伝承だけを教えられただけでは知り得ぬものも、やはりあるものだのう! アーチャーの酒も目の醒めるような美味であったが、これはまた別格な美味さだ! ヒロミツよ、これはなんという酒だ?」
「大樹ユグドラシルの雫。この世界に生きる全ての者、魔術や魔導や魔法や式、氣やら魔素やら諸力に理力、それら全てを吸収した自然が循環させて、僕の妻がお客様を持て成すために作り上げた限定品にござる。王に献上するために神聖味のみを特化させたものとは、作り上げる過程からして味が違うのよさ。まぁまだ熟成させたばっかりのやつだから、極上品とは呼べないけど」
「ははぁん? なるほど! 献上するものと持て成すためのものでは、それは違って当然か! いや美味い! 貴様の妻とやらは酒造りで名を馳せた何者かか!?」
「いんや、大樹の精霊ドリアード」
『ブボォッシュ!?』
さらりと放たれた言葉に、酒をクッ……と口に含んだ全員が噴き出した。
「どっ……ドリッ……!? あの、ニンフの……!?」
「ああほらほら白い人、まずは落ち着きめされい、お口周りがすごいことになってらっしゃるよ?」
「《ごしごし》ぷわっ……ちょっ……! 自分でっ……!」
「ほら〜、綺麗になった! 女の子はちゃんと綺麗にしないとダメ!!」
「え、あ……あの…………はい……」
噴き出させた原因が何を言うんだろう、という言葉を飲み込んで、アイリスフィールは頷いた。
次いで疑問を投げたのは、きちんと口周りを拭いたセイバーだ。
「ヒロミツ。過去の伝承において、精霊と契約したものや、その加護を授かったという話はよく聞きます。しかし妻……!? 精霊を……!?」
「ああほら、僕不老不死じゃない? いろいろあって結局死んだけど、生前は忘却の呪いでいろいろ苦労してね。かつての妻は他の男と連れ添っちゃって、娘はそいつの娘ってことになっちゃって、世界の抑止力っていうのか、強制力? みたいなものを随分と恨んだもんです」
「……っ……」
「? どうしました、ディルムッド…………あっ」
「い、いや、待ってもらおうセイバー……! 確かに生前、俺は他人の婚約者と駆け落ちまがいのことを……!」
「いや、それを言うなら私もランスロット卿に妻を奪われた。奪った者の気持ちはついぞ知れなかったが、私が死したのち、悔いて断食の果てに没したことを知った。それが出来るくらいなら最初から奪うなとは言いたかったが……世界とは、気持ちとは、ままならないものだ。繰り返して見てしまった身としては、奪ったのなら幸せになってほしかった。許すと。私はそう届けたはずなのに」
「…………俺は半ばで力尽きたがな。だが、恨んではいない。恨まれるべきは俺だったのだから」
「………」
「………」
「うぅむ……英雄色を好むとは言うが、こうも結果が虚しいのでは、この言葉も別の意味で後世に残すべきだったのではないかと思うなぁ」
「昔っから色恋に首突っ込んで、いいことなんてありゃしねーのよ」
「むはははは! 然り! まあ、色恋ではないところでは存分に堪能もしたがな!」
豪快に笑い、ぐいっと酒を呑むと、ぶはぁと熱い息を吐く。
その横でもくもくと、大自然が育んだ素材で作った超級あんぱんを食べる中井出。そのさらに横で、中井出へと跪き、今にもおそれながら、とか言いそうな様相で、ディルムッドは口を開いた。
「……ところで、主。その、言い難いことなのですが。主の妻である方は精霊であり、たとえばその……我が魅了が通じなかったりする、ということは……!」
必死。その言葉が似合うほど、汗をたらしつつも訊ねるディルムッドを見て、ウェイバーがライダーへと呟く。
「なんか滅茶苦茶必死だな、ランサーのやつ」
「んん? おお、そういやぁ輝く貌のディルムッドといえば……───いや、無粋であったな。あやつを見ていればわかりもするというもの。今のランサーからは、忠義しか感じられん」
「……そんなやつが、どうして。僕だってその過去のことは知ってるけど」
「騎士というやつは中々に強情であり、中々に真面目なのだ。忠義を持てばこそ主に振り回され、その果てに死ぬ者なぞ、歴史書を紐解けがどれほどでも見つかるだろうさ。それに、ゲッシュもあったのだろう」
「ディルムッドっていったら……ああ。婦人の保護を拒絶することなかれ、だよな。それって、きっかけであるグラニアに“自分を連れて逃げてくれ”って言われたら断れないってことじゃないか。じゃあ、あいつの願望って、そいつらへの復讐……とか?」
「馬鹿者。ん〜なんだから小さいと言われるのだ」
「ちっさいとか言ってるの、お前だけだろーがっ!」
「たとえ死することになろうが、こうであれと決めた己を貫けずになにが騎士道か。なにが王道か。願う果てこそ違えど、是として歩めばこそ、それが己の道となり歴史となるのだ。悔いを残そうが己の道を悔いだけで終わらせぬためにこそ、己の道を良しとして歩む。悔いの無い人生? ん〜なもんあるわけがなかろうが。ないからこそ面白いのだ。全てが正解であると解れば、いったいその道の何処に楽しむべきを見い出せる」
「……けど、苦労だってないじゃないか」
「だ〜から貴様はちっさいと言っておるのだ。たとえば貴様がキャスターの工房を見つけたように、地道な努力で敵の本拠地を見つけたとする。それは貴様の努力の結果、得てきた知恵のお蔭だろうが。その報われた結果を味わう過程のない、ただ“そこに居ると知っているだけ”の世界にどんな喜びがある。征服出来ると最初から知っている場所へと疾走を繰り返したとて、そこになにがあるかを知った上で走ることを繰り返したとて、そんなものに踊る心など持ち合わせておらんわい」
「なんだよ、それ……」
「彼方にこそ栄え有りといってな。世界全図を目にし、駆けた大地を余は小さいと笑ったな? だが、そんな小ささなど知ろうと知るまいとどうでもよかったのだ。世界の広さから見ればただの点でしかなかった余が、それでもなおその巨大な地を、海を制そうとした。応とも、広く届かぬものだと誰に笑われようとも、届かぬからこそ挑むのだ。なにせ、それが余の目標であったのだからな」
ニヤリと笑い、酒を煽る。
酒で湿った口に料理を突っ込み、乱暴に咀嚼するや、その美味に震え、がははと笑った。
「つまり、ランサーは悔いはあっても悔やみはしないってことなのか? 恨みもしないって? ……ああ、いいよ、それはそうなんだろうって、僕もわかった。あんなに必死なんだから、そういうもんなんだろうって」
「おう、それでよい」
「でも、それを聞いたから訊くけど……これからどうするんだよ。お前が言った通り、僕はもう今さら、聖杯で正当な評価を、なんて考えは持っちゃいない。お前が受肉して、したいことが世界征服だってんなら……聖杯戦争に参加することに意味なんて」
「ほう! 改めたか! しかし……ふむ、そうさなぁ。確かに今さら聖杯を求め競う意味は無くなったなぁ。───だが」
「だが? なんだよ」
「召喚されねばその姿を見ることすら叶わぬ英雄豪傑がこの地に揃っておる! 征服せずして背を向け疾走することのなにが覇道か! いずれも各地で名を馳せ、どころか王ですらあった者たちがおるのだぞ!? 野を! 山を! 町を! 国を! その道を歪ませず疾走し続け征服してこそイスカンダル! 征服王たる余である! かける願いなぞなくとも! 戦う理由ならばいくらでもあるわい!」
「……お前……めちゃくちゃだぁ……」
自分のサーヴァントの豪快さを前に、マスター・ウェイバー・ベルベットは半泣きだった。
受肉して、聖杯にも興味がないなら、もう自分なんてどうでもいいじゃないか、とすら思ったのだが、どうにもこの征服王、あーだこーだ言いながらもウェイバーの傍を離れる気はないらしい。
「あん? なんだ坊主。もしや貴様、余に願いが無いのなら、自分との関係は終わったようなもの、などと思っておったのではあるまいな?」
「……そうじゃないのかよ」
「はぁ……あのなぁ坊主。あれだけ同じ戦場を駆けておいて、願いが無くなれば共に走った者を捨てるなど。このイスカンダルがするとでも思っておったのか? 先に言っておったろうが。“余に聖杯を”と共に戦うのであれば、その者を朋友として遇すと」
「はぁっ!? あれっ……! 僕にも言ってたことなのか!?」
「ともに戦を駆けるのであれば当然だろうが」
故に、世界を制する愉悦をともに。
ニィっと笑う王の姿に、ウェイバーは口をあんぐりと開け……しかし、友として認められていたという事実に顔を赤くし、顔を横へとぶんぶん振った。
「うんうん、美しいねぇ……。で、ディルちゃん。ドリアードのことだけどね?」
「はっ……」
「えへへ、僕、文通してるんだ……《ポッ》」
「はっ!? あ、いえ……そうではなく───! というか、文通!? つ、妻では!?」
「いや、うん、まあ、ね? どっからどう見ても完璧な凡人たるこの博光にもね? いろいろあったのよ? 亜人になって不老不死になってから、体は裂かれるわミンチにされるわ魔法の実験道具にされて爆発させられるわ窒息させられるわ毒殺されるわ。そんな日々を呆れるくらい過ごしてや〜っと救われた〜と思えば、それからまたひっどい人生を歩ませられるわ。当然、ドリアードと恋仲を進展させるどころじゃなかったわけですよ。いろいろあって世界から弾かれた時に離れ離れにさせられちゃったしね?」
「……ご苦労なされたのですね」
「うん。でもそんな博光をドリアードは探し続けてくれて、世界まで飛び越えてきてくれて。もう感動です。でも僕が最後に辿り着いた世界にドリアードが来た頃には、僕はもう長い旅の末に死んじゃってたのね。いろいろあって今はこうして生きてるけど。そんなわけで、一応結婚ってかたちには辿り着いたんだけど、まだ初々しいんだ僕ら。えへへ」
「ヒロミツ、照れ顔が気持ち悪いです」
「ほっといてよもう!」
正直な感想を言われて、自覚もあったためにそう返して、咳払いひとつ。
ようやく本題に入るようだ。
「まあともかく、ドリアードにそういうチャームは効かないから大丈夫。ていうか僕ら、一つの博光でいてひとつの世界だから、誰かに呪いをかけたいなら、レベルの時点で追い越してなきゃ難しいと思う」
「……? それは、つまり?」
「んーと。たとえばゲームがあったとして、必死こいてレベル上げるよね?」
「うむ。レベルは大事だなぁレベルは」
ゲームと聞いて、何故か乗り気な征服王が、美味い酒で気持ちよく酔い、上気した顔をズズイと寄せてくる。
「押忍。で、僕らヒロラインに生きた者は、全員ステータス移動って能力を持っとるのよ。つまりサーヴァントとしてなら筋力をMAXにして他をE−にする〜とかがあっさり可能。対魔力だろうがなんだろうが、相手を選んで好き勝手出来るから、まあ……呪いの類とかが通用するとは思わんほうがいいです。で、ディルムッドのマスターになってからはきちんとステータスも確認したし、チャームはどれくらいでレジスト出来るのかも確認済みだからさ、そこんところは心配しないで。僕のことは気にせず、貴様は貴様の騎士道を貫いてくだされ」
「……! 感謝を」
「ほほう……! つまりヒロミツ、貴様はその気になればどのようなクラスにでもなれるというわけか?」
「押忍。騎乗スキルをMAXにすることだって可能でゴンス」
「ではマスターとして問おう、ヒロミツよ。それだけの力を有し、何故貴様は世の征服を願わん。もそっとこう……やりたいこととか、ないのか?」
「あるよ? みんなと楽しむこと。むしろそれだけ。“楽しい”以外にそれほど興味が湧かんのですよ。行なうことを自分勝手と、エゴと、悪と認め、その上で無茶をし世界を楽しむ。それこそがこの博光の生き様にございます。力があるから戦うんじゃあないのです。力があるから、全力で世界を楽しむのです。力を戦にしか向けられないなんてつまらんじゃあないですか! なので僕ぁ57億生きても堪能しきれない世界を、まだまだ楽しむ所存であーる!!」
「ふっ……ふ、くふふははっ、ぬわははははは!! そうかそうか! ならば良し! その力を以て世界を支配すると言うのであれば、臣下といえど、友といえどいずれは敵となっただろうが、楽しむことにしか興味が沸かんとはな! ならば、いつか余に比類することに飽きを覚えたならば、余を征服する楽しみを目指してみよ! その時こそ余はそれまでに築き上げた“イスカンダル”の総べてを以て、貴様を征服してみせよう!!」
「ラーサー! ならばその時はこの博光の全勢力を以てそれを迎え討ちましょうぞ!」
「ふふふはは! はーっはっはっはっはっはっは!!」
「フブレハハハカカカッカッカッカッカ……!!」
征服王は豪快に笑い、中井出は何故かアニメデスノートのリュークみたいな笑い方で笑った。どう聞いてもクククって聞こえないよねアレ。
そんな二人は酒とは別に中井出が用意した、美味なる牛乳をジョッキになみなみと注いだそれを片手に、「マイティ……ハーキュリー!」と叫んだのちに一気飲み。ジョッキに口を付けて飲むのではなく、口にぶちまけるように流し込んだものだから、当然ムセた。ゲヴォハァと盛大に吐き出しぶちまけたが、牛乳まみれになろうがガハハハハと笑い合っていた。
ちなみにハーキュリーはヘラクレスの英語読みらしい。ヘラクレスって牛乳好きだったのか? うん知らん。
「けど……えっと、クロリスト? ヒロミツ? お前って結局なにが原因で死んだんだ? そんないろいろな能力があって、不老不死だってのに死ぬなんて」
「うぬっ……あー……うん、そうさなぁ……」
ウェイバーの言葉に、頬をコリコリ掻いて溜め息。
聞いても面白くないよ? と言うけど、促されたので話した。
「世界から外された時に、“僕だけ”が外されたんです。つまり、不老不死の原因だった亜人と切り離されたわけ。で、そっからはマナを糧に生命を繋いで生きてました。ドリアードの核だけは僕の中にあったから。つまりマナが切れて死んだの」
「マナが切れたって……もしかして誰かと戦って?」
「んにゃ、とある子供の家が地震で崩れてさ。よしときゃいいのに……昔の自分とダブって見えたのかね。子供庇って背中から天井に潰されてね。かろうじて生きてたけど、ほら、近くで子供がガタガタ震えてるわけじゃん? 最後のマナを振り絞ってドッペルゲンガー作り出して、子供を外まで避難させたの。それで終わり。孤独で不老不死だったバケモノの一生は、そんなもんで終わったよ」
「………………お前……」
「まーまー、僕の過去なんていいじゃない、あ、もしかして弱点とか知りたい? だったらここここ! 背中背中! 背中以外は究極に硬いこの博光ですけど、背中だけはレベル1相当の防御力しかないから弱いよ! めっちゃ弱い!」
「主っ……! 敵になるやもしれぬ相手に弱点を教えるなど!」
「いーからいーからディルちゃん! そうハラハラしないの! あ……それも騎士道だったらごめん………………マジでごめん……《ずぅうううん……》」
「いえっ、これは騎士道というか、純粋に心配をっ……! か、顔を上げてください主よ!」
「………」
セイバーは二人のやりとりを見て、ランスロットと自分も、傍から見るとこんな感じだったのかなぁ……とか思っていた。
「まあともかく、いろんな知識から作られた世界で精製された武具が僕の系譜みたいなものですけぇ、当然ファフニールのアレも入っておりまして」
「では、ニーベルンゲンの……?」
「うんそう。主な武器は巨大長剣ジークフリード。それを双剣化スキルで二振りにしたのが灼紅剣ジークムントと蒼藍剣ジークリンデ。武具の大体はいろんな伝説にちなんだものだから、武器はまあいいんだけど防具とかになると弱点があったりしてさ。まあ、グングニルの槍を手に持っても、フェンリルは殺せないってのはどうしようもなくあるわけだけど」
「なぁるほど、知識や伝承から来たが故に、その性能も左右されるか。実にこの聖杯戦争向きの能力ではないか。だのに戦う意志が薄いのは実に勿体ない。戦いに楽しみを見出す気はないのか? んん?」
「や、そりゃあ楽しむ時はありんすよ? でも基本、僕ってば外道だからなぁ……騎士道精神を持つ人にはめっちゃくちゃ嫌われるんですよ」
「ほほう。たとえば?」
「まず使えるものはなんでも使います。状況とて使い、その隙の全てを穿つつもりで襲いかかります」
「他には?」
「んーと……僕の宝具、ステータスと一緒に見た?」
「うむ。“剣碑に眠る刻剣思念”、“万象担う灼碧の法鍵”、“我が意思こそが無限の自由”、だったか。リネーム、っちゅうのもあったが」
「そうそう。で、固有スキルになんかなかった?」
「ふむん? ……おお、常識破壊、というものがあるな。なんだこれは」
「その名の通り、常識を破壊するのが大好きなんですよ。敵が持つ常識、ルールを破壊してこそ博光よ、と楽しく語りたいくらい大好きです。何故ってそれが原ソウル。常識だけでは語れない」
常識破壊? と白い人が首を傾げる。
セイバーもそれが気になったのか、訊ねてみた。
「いや、ほら、僕って凡人でしょ? どっからどう見ても村人A。そんな自分に誇りを持ってる博光ですが、まあとにかく見た目完全に雑魚な僕です」
「うむ、まあ、強そうには見えんなぁ」
「押忍。まずそう思い、ただのモブ野郎と判断した時点で、擦れ違い様にラリアットをかまします」
「なんでここでプロレス技なの!?」
白い人がとってもびっくりしておった。そりゃそうである。
「で、何事!? と焦った相手は、まず攻撃してきた相手を探しますね? そこに砂かけババアーと叫びながら目潰しです」
「正直に卑劣だなお前!!」
「博光ですもの」
「いいのかよそれで!?」
「目を潰されれば次は感覚で探すわけです。しかし周囲はモブが紛れることの出来る人の波の中。突然苦しみだしたそいつを見る人は多い。そんな中で───」
「ヒロミツ……まさか貴方は、そのまま斬るなど───!?」
「とんずらします」
『うぉおおい!!?』
これにはさすがに、その場に居る全員がツッコんだ。
ツッコまれた方は、「え? なに?」なんて本気で首を傾げている。
「なんでそこで逃げるんだよ! 馬鹿なのか!? ああ馬鹿だろお前ぇえっ!!」
「馬鹿じゃない! 博光ですよ失礼な! 先に言っといたでしょうが! べつに勝つ理由も必死こいて戦う理由もあたしにゃねーのよ! ならばせめて楽しまねば、相手にとって失礼というものであろう!」
「お前のその行動自体が失礼以外のなにものでもないんだよこの馬っ鹿ぁああっ!!」
「し、信じられない……! こんなサーヴァントが居るなんて……!」
「アイリスフィール、気を確かに。ブリテンの過去を何度かやり直した時も、そういえばヒロミツはしつこく付きまとうマーリンに、その……なんといいましたか……しょ、将軍家三大奥義? のひとつ、大江戸ドライバーなるものを決め、黙らせていました。常識だけでは語れないというのは、つまりああいうことなのでしょう」
「納得しちゃだめよセイバー! それきっと納得しちゃいけない類のものよ!」
「いえ、正直“浮気するとは何事かー!”とギネヴィアの顔面をセイントマッスルパンチで殴った時にはスカっとしました。王としては失格かもしれませんが、言わせてもらえるのなら、なにもあのタイミングで不倫が露見に到ることないでしょう。あれはあんまりにもあんまりすぎました」
「だからセイントマッスルパンチってなんなの!?」
キン肉マンにおいて、キン肉マンゼブラが繰り出すパンチのことである。
というかいつかの問答の日、過去から戻ってきたセイバーがどこか晴れやかな顔をしていたのは、まさかそれが原因ではないだろうかと……アイリスフィールはちょっぴり思ってしまった。
「まあその後、円卓の騎士全員にボコボコにされてHEEEEEYYYと泣き叫んでいましたが」
「なにがしたいのかまるでわからない……!」
「行動には対価が必要だ、と言っていました。人をからかうなら報復は絶対で、からかって殴られるなら本望だと。そういった意味で、殴ったなら殴られることも覚悟の上だったのでしょう」
「よく処刑にまでいかなかったわね……」
「そうするつもりで縄で縛って吊るしていたら、ムキキーと叫んで関節を外して逃走しました。その後捕まってさらにボコボコにされていましたが」
「だからどんな英雄なの彼は!!」
「……その。ヒロミツとしか。ヒロミツはともかく規格外ですから。常識なんて破壊するものだと笑って言えて、しかもそれを実際にしてしまうのですから」
「………」
白い人が頭を抱えた。
あ、この騎士王、もう過去に飛んだ時点で毒されてる、と理解したからである。
いったいどのような非常識を見れば、あの騎士王がこうも……!
「迫り来るヴォーティガーンに対して巨大化して素手でフルボコって殴り殺したり、大地を埋めんとする蛮族には剣に宿した属性を合わせ……あ、彼の剣は巨大な剣なのですが、それを双剣に変えたのちに、ひとつずつに魔力……でしょうか、ともかく属性というものを込めて、再び大剣化。合わせた属性を剣から放って敵を焼き尽くしていましたっ」
「そ、そう……なの……?」
「はいっ、戦う際には私にも武器を貸してくれ、それが3秒待つと剣閃を放てるという、なんとも不思議な剣でして。しかも魔力が消費されることもないので放ち放題でした」
「………」
「征服王など大した燥ぎっぷりでしたよ。ヒロミツの世界は本当に不思議なものです。なんと彼の中には移動要塞まであり、征服王のヘタイロイがそこへ乗り込み、大砲やバリスタ、魔導砲なるものを行使しては蛮族や巨大生物を吹き飛ばしたのです」
まるで初めてのアトラクションを熱く語る子供である。
セイバー気づいて、それ、敵に回ったら私たちに勝ち目なんてあるの!? などというアイリスフィールの視線には、まるで気づいてくれなかった。
「彼が内包していた獅子に騎乗し、戦場を駆けた時は心が躍りました……! いえまあ、それも数回の内まででしたが。懲りず、幾度も攻めてくる蛮族を前に、いい加減うんざりでしたよ」
「そ、そいつらにブリテンは……?」
「いえ、蛮族はヒロミツがハイペリオンミサイルとやらを発射、一網打尽にしたのちに、逆に蛮族の住む場所を壊滅させました」
「無理だから! セイバー!? ミサイルとか対抗しようがないのよ!? お願いだから常識を思いだして!?」
「なにをいうのですアイリスフィール、憎き蛮族どもがミサイルの一撃で広い大地とともに消滅した時など、高見台の上でその最期を見送ったものですよ。とても気分のいいものでした。……その後、我らの苦労はなんだったのか……と虚しくなりましたが」
「考えちゃだめ! セイバー、目からハイライト消えていってるから!」
「しかも綺麗に蛮族のみを消したのです。大地は少々抉れましたが、弾けたミサイルから癒しのマナとやらが溢れたようで、大地も自然も元通りです」
「………」
うん、やっぱりあの英霊がおかしいだけなんだ。
何回繰り返したのかはわからないけれど、王としての彼女が“もうどうにでもな〜れ☆”って思うくらいには、滅茶苦茶が常識になるような光景を見たのだろう。
白い人はもう一度頭を抱えて溜め息を吐き、ウェイバーがそんな彼女の肩をぽんぽんと叩いた。頭痛同盟、誕生の瞬間であった。
「ギネヴィアを殴ったことからの処刑も、ものともせずに走り回っていました……もう、なんというか対立するのが馬鹿馬鹿しいのです」
「おお、あれは中々に愉快だったのう! 縛り首にしても“敗北を知りたい”と言って息を吹き返す、首を斬っても“デューラーハーン!”と叫んで頭を持って走り寄ってくる、磔にして火で焼いてみせても、“サクラ大戦3! 巴里は燃えているか!”とか言って全身を燃やしながら走り寄ってくる、魔術で殺しにかかろうがその魔術を倍返しにして打ち返してくる。まあなんとも、見ている者には愉快な処刑であったなぁ」
「お前のどこが凡人だよ!!」
「凡人でしょうがどっからどう見ても! 見なさいこの村人の服! 変化出来る意思ある鎧、ブリュンヒルデに村人の服としてしっかり化けてもらってるんだぞこれ! すげーだろコノヤロー!! 言っとくけど隕石降らしたって傷ひとつつかねーんだぞコノヤロー!」
「だったらもう少しそれっぽい形にしろよぉお!! なんだよその頭の痛い耐久度はぁあっ!!」
「人を見た目で判断したら、村人な見た目の魔王に殺されました伝説の第一歩?」
「どこの世界にラリアットしたり砂で目潰しする魔王が居るんだよぉ……」
「《ザッ……!》ここに……!」
「従者みたいに跪くなよ!」
「あーこらこら、ヒロミツ。あまり余のマスターをからかってくれるな。やりすぎれば喉が枯れ、胃に穴が空いちまうだろう」
「ライダー。その原因がお前にあることも、少しは考えてやるべきだろう」
「んん? そうか? ……ここに居る全員がその原因であるようにも、余は感じるのだがなぁ」
「同様に見られてもらっては困る。……ところでヒロミツ、料理が尽きたのですが」
「まだ食うの!? ……ええいよろしい! 好きなだけご馳走してくれるわー!」
騒ぎはまだまだ続く。
こうして、召喚して間もないというのに聖杯問答ならぬ、ただの英霊の集いの時間はゆっくりと過ぎていった。
そんな中、いろいろやりながらも、やることはやっていたウェイバーが溜め息を吐きつつ言う。
「……はぁ。前回と同じように、アサシンが死んだよ」
「おう。アサシンのうちの一人か」
「ああ。魔術結界を潜るところも、宝石を潰そうとして貫かれるところも……って言いたいところだけど、その前に貫かれて死んだ」
「ほほう? まあ、アーチャーもなぁ、同じく記憶を持ったまま戻ったのならそうなるわなぁ」
「これが茶番だってのはわかってるし、そのアーチャーが居ながら同じことが起こるのかを調べてたんじゃないか。……結果は変わらなかったけどさ───って、あれ?」
「ん? どうした坊主」
「いや……もう一人。誰か遠坂邸に入っていって……って、なにやってやがりますかあの馬鹿はぁあっ!!」
「馬鹿? …………ぬおっ!? おいセイバー! クロリストのやつはどうした!」
「もぐ?」
「食っとる場合かぁっ! ええいよく見ればランサーのやつもおらんではないか! 敵がおるとわかっていてなお突っ込むなど、そんな面白いことをやつだけにさせてたまるか! 出るぞ坊主!」
「えぇえっ!? わかってることに疾走するのは無意味じゃなかったのかよぉっ!」
「敵の戦力と我が戦力をぶつけてどうなるか! それを知らぬからこそ目指すのだ! セイバー! 貴様はどうする!」
「もぐ、んぐぐもぐもぐもぐ」
「…………ああよい、食事の邪魔をしてすまなんだな。ではちょっくら楽しんでまいる! AAAAALaLaLaLaLaLaaaaie!!」
「うわばっ! ばかぁっ!! まだ心の準備がうひぇあぁああああああっ!!」
神威の車輪は疾走る。
弾ける稲妻を纏い、宙を駆け。
やがてそれが空の果てに消えゆくのを、幸せを口いっぱいに頬張りながら、見送った。
……。
で。
「すげぇ……! 魔術使ってまでウルトラ電流イライラ棒を再現する人なんて居たんだな……! と、遠坂、とかいったっけ……! サインとか貰えないかな……!《ドキドキ……!》」
遠坂邸をアトラクションハウスと勘違いして訪れた馬鹿が一人。
「ええっと? この魔力の波を避けつつ中に入っていって、あの宝石を破壊するゲームだよね? ウフフ、聖杯戦争中だっていうのにこんな娯楽を作るなんて、遠坂って人わかってるなぁ」
そんなわけで踏み込む。なんか黒い人が串刺しになって死んでるけど、踏み込んだ。
ヴフォン……ヴミン……と、なにやらビームサーベルが振るわれたような音とともに魔力の波が襲い掛かるも、それをまるでダンスでも踊るかのように避けてゆく。もちろん笑顔は忘れない。
ひとつ避ける度に「他愛ない……」とドヤ顔するのも忘れない。何故ってこの黒い人がそうしてたから。“先人には敬意を払えッ!”を実行しているのだろう。
ちなみに、監視している遠坂時臣氏と、状況が読めていない言峰氏は、“なにしに来たんだあいつ……”って顔で、その馬鹿の行動を眺めていた。
「他愛ない……! 他愛ない……! たあ《ズルルシャドグシャア!!》オアマァー!!」
踊るようにドヤ顔していた馬鹿だったが、黒い人の血を踏んで滑り、よく手入れされた遠坂邸の庭を顔面でジュザーと滑った。そして直後に魔術結界に捕まった。
「ゲェエエエーーーーッ!!!」
直後、空より飛来する無数の刃。
どれほど馬鹿げた速度で飛んできたのか、一本目が地面に突き刺さると、それが地面を抉り、爆発したかのように土煙を上げた。
次いで二本三本、休むことなく降る武器の雨は、土煙の先にあったであろう肉体を貫き、ハリネズミのようにした。
それだけの武器の雨を降らせ、それが止む頃。
土煙が晴れると、そこには無残にもボロボロになった…………
「危なかった……!(俺が)」
黒い人の姿が……!!
「FUUUUUM……! 黒い人バリアーが無ければ重症だったぜ……!」
黒い人を盾にした馬鹿者は、そんな黒い人をどしゃりと捨ててなんか金色の人を見上げた。
「地を這う虫けら風情が……誰の許しを得て面を上げる?」
「博光です《脱ぎャアアーーーーン!!》」
許しましょう。自分が、自分を。
だってこの身この意志は博光のものですもの。
そう言って、何故か上着をはだけて上半身を見せつけた。
するとどうでしょう。
「………」
特に何も言われず、武器の豪雨が降り注ぎましたとさ。
「《ザドドドドドドド!!》ギャアーーーーーーーーッ!!!」
再び土煙に埋まることになった馬鹿は、そんな豪雨に飲まれ、悲鳴を上げた。
見れば黒い人は土煙の外で倒れていて、盾にするには届かない。
金色の彼はフンと口角を持ち上げ、あっけないものだと笑った。
「……?」
しかし妙な違和感。
黒い人は倒れている。確かに。
だというのに、その体に……突き刺さった筈の武器が無かった。
「───」
なにか妙だと感じはしても、余裕は崩さない。
どうあれ圧倒的に自分が有利であることは変わらず、慢心しない理由もない。なにより、慢心せずしてなにが王か。
存分に武器の雨を降らし、再びそれを止めてみれば、土煙が晴れたそこには無傷な馬鹿者。
「……貴様」
見れば、やはり刺さった筈の武器も無い。回収した覚えもないのに消えていた。
「チッ……」
ならばそのからくりを見極めるまで。
金ピカさんは次に、武器の豪雨を降らすのではなく、一本のみを空間から弾き、弾丸のように飛翔させた。
文字通り弾丸のように風を切り襲い掛かる剣を前に、その馬鹿者が取った行動の絡繰とは───!
「他愛ない……!《スッ》」
ただ剣を避けただけだった。
後方でドゴーンと地面を抉る剣なんて無視して、ドヤ顔で踊るように避けた。
普通ならばここで種明かしとばかりに、その行動を見せつけるのだろうに、この馬鹿者は普通に避けた。
「…………《ビキリ》」
それが気に入らなかったらしい金ピカさん、持ち上げていた口角を下ろし、今度は二本を飛ばす。
「他愛ない……!《スッ》他愛ない……!《シュバッ》」
「……《ビキビキビキビキ》」
なのにまた普通に避けるもんだから、金ピカさんの額に血管ムキムキコンテストで優勝を飾れそうなくらい、血管が浮き出て脈動していた。
「雑種風情が……この我を煩わせるな! 疾く絶命せよ!」
「ワー、怒った怒ったオーコッター、小さい小さい人間ちいさ〜い♪」
「〜〜……オォオオオこの腐れた匹夫がぁあああっ!」
人を逆上させるダンスをされた金ピカさんが歯をギシィと鳴らす。次いで、剣が放たれ槍が放たれ、しかしそれを避け、時には掴み取り、くるくる振り回して遊ばれる。
「誰の許しを得てこの王たる我の財に触れるか!」
「あら怖い! やだわぁこれが最近のキレやすい若人なのかスィら。自分から投げ捨てておいてねぇ〜? おー怖、おーこわ、山菜おこわ《べしべし》」
「ギィイイイイイイイイイーーーーーィイイ!!」
自分に向けて突き出した尻を、べしべしと叩いて挑発する雑種を前に、王様、それはもう怒髪天。普通ならば出さないような言葉になっていない怒声を張り上げ、幾度も幾度も武器を発射する。
そうこうしている内に魔術結界の宝石はワシャーンと砕かれ、馬鹿者は「よっしゃ勝ったーーーっ!」なんて言って燥いでいた。
おのれこの雑種めと苛立ちをぶつけようとしたのだが、ふと気づく。
先に飛ばした筈の武器が。
地に突き刺さった筈の武器が消えていた。
いやいい、知るよりも始末してくれると腕を上げ、容赦の無い豪雨を振らせた。
逃げ道を塞ぐよう、まずは馬鹿者の周囲を囲むように飛ばしたのちに。
そうしてやはり土煙があがるのだが、囲むように飛ばしたそれらが地面を抉った音以降、飛ばした武器が地面を抉る音が一向に鳴らない。
風を切る音のみが響き、次ぐ土煙が上がらないためか、飛来する剣や槍が土煙を裂くとそれは霧散し、やはりそこには無傷な馬鹿のみが居た。
「……!? 貴様……いったいなにをした……!?」
苛立ちをそのままにぶつけてみても、馬鹿者は何故かこちらに背を向け、丸まっているだけである。
膝を地につけ、体を丸め、頭を腕で守って。
しかし武器の射出をやめてしばらくすると、突然軽く顔を上げ、自分を見上げ……言うのだ。
「オヤ……? 攻撃がこねェな……。試合放棄かな……?」
「…………あ?」
「やったァァアアアアっ!! 勝ったぞぉおおおおおおっ!!」
「───《ブチリ》」
いきなりやってきてよくわからん術で攻撃を避け、いきなり勝利宣言。
これにはプライドの塊な金な彼は笑みを引っ込め真顔になっての、剣と槍の豪速射出。
刃のあるものこれすべて凶器とばかりに悉くを射出し、その存在を塵すら残さんと殺しにかかった。
そして今度こそその豪雨を前に、馬鹿者は能力を解放───!!
「他愛ない……!《スゾブシャア!!》ギャアーーーーッ!!」
……せず、避けようとして失敗した。
それからは、財の限りを発射した豪雨と轟音に飲まれ、武器の類が尽きるまで治まらなかったそれは、ついに武器のストック切れで幕を閉じた。
当然ながら、遠坂邸の庭、崩壊。
土煙が風に流されると、そこにはもう…………ドヤ顔(仮面の所為でそう見えるだけ)で立っている黒い人しか居なかった。
「…………は!?」
これには金ピカさん、大驚愕。
しかしこの場で彼以上に驚きを隠せない者が居た。
(……え? なんで生き返ってるの私……!)
黒い人ことハサン・サッバーハその人であった。
死んだ筈なのに何故か塵にもならなかった彼は、その場で蘇生され、ハッと気づけばアーチャーを見上げていた。
「………」
「………」
呆然と見つめ合う。
が、ここでハサンはハッと自分の目的を思い出した。
そういえば遠坂時臣を抹殺せよって命令されてた、と。
いやでもあの滅法強いアーチャーが……! と再び見上げるも、何故か武器を射出してこない。
「………」
「………」
英雄王は少々戸惑った。投げる財宝がないな、と。
ハサンは思った。もしや様子を見られている……!? と。
英雄王は“乖離剣”ならあるものの、こんなサンシタさんに使うものではないので使えない。
ハサンの人格が一人、ザイードはといえば、襲ってこないなら速度で翻弄、屋敷に入って遠坂時臣を殺せば……と考えるも、一筋縄ではいかないだろうと膠着状態。
「………《ごくり》」
「…………《じり……!》」
千年戦争の型……ハンドレッドウォータイプといわれる、一流の達人同士が戦うことで隙を見つけられず動けなくなるという状態は、この後も続いた。
◆ネタ曝しです。
*ハッピー・セェッ♪
ドナ様。お前ら表へ出ろ、などのコラが凄まじいピエロ。
*漬物だ。美味いぞ
ジャンプ放送局より、ドラゴンボールコラ。
フリーザ様に「き、きさま……なにものだ……!」と言われた悟空が「漬け物だ。うまいぞ」と返した。
*おお旅人よ! 死んでしまうとは情けない!
ドラクエ2より、全滅時に言われる言葉。
とりあえず貴様冒険に出てみろ代表。
子供3人に全部押し付けて、いい大人がなんばいいよっとや。
まあでも破壊神を破壊しちゃうしなぁ……。
*ギイイイーーーッ!!
ストレンジ+より、山菜おこわ。
指紋マンの挑発にキレた男が出した、言葉にならない怒り。
*ゼルダの伝説のニワトリ
叩きまくるとアンリミテッド・チキン・ワークスな神々のトライフォース。
*マキシマリベンジャー
凍傷小説において、中井出がよく使う技。
主に頭を掴んで叩き付けるまでを指します。上に放り投げて頭突き、まではあまりいかない。
*ほら〜、綺麗になった!
銀魂より、八郎のかーちゃん。
口答えするんじゃないのォォォォ!! アンタはもうほんと人の揚げ足ばっかりとってェェェェ!!
*リューク笑い
アニメキャラの笑いを文字にするとおかしなものになる。
ラオウとか、ディヤーハハハとかフググクフフホコカカカカッカッカッカッカになるし。
*マイティーハーキュリー
ハーキュリーとはヘラクレス。牛乳を飲んでパワーアップするCMとかがあった。
*……マジでごめん
すごいよマサルさんより、セクシーコマンドー部が遭難した際、マサルの口から振り絞られた懺悔の言葉。
*砂掛けババアー!
人物としてはゲゲゲの鬼太郎。
ネタとしては珍遊記のキツネババア。
*大江戸ドライバー
忘却の旋律より、杉平さん演じる大暴れ将軍の必殺技。
ラスボスさえ倒せる究極奥義である。
*ムキキーと叫んで関節を外す
珍遊記より、太郎が玄奘から逃げるために用いた技法。
ポキポキと関節を外してずらしてとんずらする。
*敗北を知りたい
バキより、最凶死刑囚のキメ台詞。
その後ドイルさんがどうなったのかだけ知りたい。
*サクラ大戦3! 巴里は燃えているか!
いや、燃えてるのアンタだから。
*電流イライラ棒
ウッチャンナンチャンの炎のチャレンジャーであったゲーム。
狭い空間に手に持った棒を通して進んでゆき、障害物を乗り越えクリアできたら100万円。
ゲームも出たらしい。
*ゲーーーッ!
キン肉マンといったらこれだと思う。
あとグムーとか。なにより外せないのが無駄に伸ばす語尾。
例↓
「ここが完全無比超人になれるトロフィー球根のある黄金の国ジパングか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
「どおれ明日は大暴れしてやるとするか〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
誇張ではなく文字数分完璧に“〜”を書いております。
*FUUUUM
少年ガンガンコミック、ZMANより、MORIMOTOの熱い溜め息。
まさかなぁ、モリモトがラスボスとはなぁ。
そういえば当時のガンガンのCMで、ククリのコスプレをして「魔法陣! グルグル〜! ウフッ!」と言っていた少年は今なにをやっているのだろうか。
*自己紹介とともに上着をはだける
何気なく書いたものがネタとして被ることはあるもので……盛大にネタとして使いました。
Lass原作、FESTA!!より、広原翔。
一言で言うとしらたきへの愛がポエムに走った花形美剣みたいな人。声も子安さんだし。
*血管ムキムキコンテスト
ジャンプ放送局より、ドラゴンボール系のもの。
二回で終わった気がしたけど、二回目の優勝者であるギニュー隊長が血管すごすぎたので仕方ない。
*ワー、怒った怒ったオーコッター、小さい小さい人間ちいさ〜い♪
今日から俺は! より、人を逆上させるダンス。
谷川がやられていた。
*オヤ……? 攻撃がこねェな……。試合放棄かな……?
バキより、寂海王戦法。
勝つためには手段を選ばない。戦いとはそういうものです。
*千年戦争の型
ハンドレットウォータイプ。
電撃ドクターモアイくんより。父蔵の「お亡くなりになりやがれぇえーーーっ!!」が好きでした。
◆あとがき
寝オチしましたごめんなさい。
本日休みということもあり、最近の疲れがドッと出たのかそのままぐったりでした。
まさか二話目にして「一日二話程度を予定……《キリッ》」を守れないとはなんたる……!
しかし本日休みなので、ぼちぼちUPしていこうかと。
本分入力部分に2万文字以内をヴェトォとペーストしては、ネタ曝しのためにプレビューで読み直してこうして書いているわけですが、この作業が地味に楽しく、しかし時間を取ります。
自分で思っているよりネタが多くてもう……いえほんと楽しんですけどね、いろいろ思い出せますし。
いえほんと、あのククリのコスプレしてた少年はどうなったんだろうか。
ではでは、また次回もよろしくお願いいたします。
え? R18Gはどうした? いえいえ、次回あたりには数々の暴力シーンがございますとも。今回もほら、ザイード氏が貫かれて死んでましたし。
ええ、次回はまったくひどい話ですよ? 黒い人が殴られたり黒い人が殴られたり、あまつさえ黒い人が殴られたりするんですから。
え? いえ、暴力シーンですって。暴力。殴られてるシーンが満載です。ちゃんと一話目のキャプションにも書いたじゃないですか、暴力シーンって。すぐ下に“すぐ殴る”って。
いたいけな少女……イリヤの首を捻って気絶させたりするわけですから、そりゃあもう外道ですとも。
そんなわけで───次回! 強襲、アインツベルン!
ケリィとかイリヤスフィールになにかが起こる。ハサンにはなにも起こりません。黒い人は殴られるけど。
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