───日常。
その日々に身を置き、流れる時節の中を歩く。
ふと気づけば時は過ぎ───
とある朝に目覚めれば、季節は秋だった。
そんな世界の空を見上げて、ゆっくりと白く濁ってゆく蒼に目を細めた。
黄昏を待った日。
その大きな木に触れて、俺は笑みをこぼした。
いつか駆け回ったこの草原を見渡して、
今までのような感情が死んだ笑みではなく、心から。
───楽しいことはいつ感じたって楽しいこと。
それと同じように、懐かしいものはいつだって懐かしいものであると信じてる。
この木にいろいろな思い出があるように、この世界にもいろいろな思い出がある。
だけど心は変わらないことも信じてる。
変わらないものなんてないこの世界で、
ただ一身に信じるものだけは変わらないと信じてる。
不思議なもので、自分の中にある熱さが馴染んでくると……
刀の中の少女の声もハッキリと聞こえた。
そうなると、まるで長い勉強を終えたかのように会話が出来るようになり。
いつしか孤独なんてものを感じることもなく笑っていられる自分が居た。
元より、人は人との繋がりの末に日常を感じられるんだろうから、楽しくないわけがない。
それでも自然に笑っていられる自分には今でも戸惑いを感じる毎日。
そんな日常が続く秋の空の下、俺は───
───今も、その白く濁った空を見上げていた。
───DayByDay!〜新しい日常の未来へ〜───
───……秋、月詠街。
デェーーーッテェーーーンッ!!デェーーーッテェーーーン!!!
マキィンマキィンマキィンマキィンマキィーーン!!
彰利 「闇を照らす霊訓!!
心霊系の怖いモノを見て寒気を感じた時には、周りに霊が居ることが多いらしい!
そんな時は慌てずに『のんのん』だ!!」
冥月刀『はい!吾郎さん!』
晦神社の脇───封印の石塚の傍にある木に腰を預けて握り飯を食らう。
FUUUUM、やはり米は美味ェエエなぁ。
ここ最近、相変わらずのホームレス状態で食うものに困ってたのよね。
そこに来て、この握り飯。
感謝しないといけませんよ?
冥月刀『あの……いいんですか?』
彰利 「なにが?」
冥月刀『それは篠瀬さんのお弁当だったんじゃ……』
彰利 「夜華さんのモノは俺のモノ、俺のモノも俺のモノ」
冥月刀『あぅ……また斬られますよ?』
彰利 「ノンノンノン、解ってませんねぇ。
からかったら全力でぶつかってくるその姿勢がいいんじゃないですか」
冥月刀『でも血を見るのは……』
彰利 「安心おし、夜華さんだって本気で殺しにかかったりはしないって」
冥月刀『そう言って、昨日は手が空に舞いましたけど』
彰利 「………」
冥月刀『………』
彰利 「……夜華さんが来たら意識を同調させて交代していい?」
冥月刀『絶対にやめてくださいっ!』
……とまあ、こんな感じで毎日を送っている。
冥月と会話が出来るようになってからというもの、俺も大分退屈しない。
もっとも……会話が出来るようになってから飛んできた言葉は文句の嵐だったわけだが。
やれ『扱いがひどいです』だの『どうして無茶ばっかりするんですか』だの、
『どれだけ心配したと思ってるんですか』だの……いやァ〜〜ンァ、キリがねィェ〜。
でもそれだけアタイの身を案じててくれたってことよね?
いやはや、よい娘ッ子じゃて。
彰利 「しっかし、空は薄い水色空じゃけんど、日差しがそれなりにあると暖かいやね」
冥月刀『そうですね。ポカポカと気持ちのいい陽です』
彰利 「昼寝でもしようかのぅ」
言って、ぐぅっと伸びをする。
木漏れ日と風に当てられながら寝るのって気分のいいものですよ?
サワサワと葉の揺れる音を聞きながら、
木や葉の隙間から差し込む暖かな日差しを受けての惰眠───最強!!
これは野宿メンとかにしか解らんことじゃけぇのぉ。
……問題は虫とかなんだけどね?
彰利 「ごちゃごちゃ考えてないで寝るか」
体を横に伸ばして目を閉じる。
さあ、耳を澄ませてごらん……?
聞こえるでしょう?木々の奏でる自然の音楽が……。
彰利 「聞こえる……聞こえるわ……自然の音色が……。
サワサワと擦れる音や、遠くに聞こえる滝の流れる音……。
鳥の鳴き声に、夜華さんの足音───なにぃ!?」
夜華 「きぃいいさぁぁああああまぁあああああ〜〜〜っ……!!!」
彰利 「はああっ!!ま、摩利支天さま!!」
慌てて起き上がり、視線を移した先に夜華さん。
しかも怒ってる。
夜華 「貴様っ!今日というこの日の食料がどれほど大切か解っていてやったのか!!」
彰利 「知らん!」
夜華 「だったら教えてやる!今日は悠介殿が昂風街に行っていて、
食料はあの握り飯だけだったんだ!!どうしてくれる!!」
彰利 「知ってた!」
夜華 「どっちだ!!───いやいい!今この場で切り伏せてくれる!!」
彰利 「お前には出来ないかもしれない」
アタイはダブルハードのひとりの真似をして構えをザクシュドシュザク!!!
彰利 「ギャオォオオーーーーーーッ!!!!!」
思いっきり問答無用で切り刻まれました。
夜華 「いつもいつも───!!何故貴様はわたしの嫌がるようなことをするんだ!!」
彰利 「お、お腹が減って死にそうだったんです!本当です!!」
夜華 「だからといって人の昼餉を奪っていいと思っているのか!!」
彰利 「誰だって自分が一番可愛いのさっ……あんただってそうだろっ!?」
夜華 「飛燕龍ゥウウウウウッ!!!!」
彰利 「キャーーーーッ!!!?」
ドカベキバキザシュシュシュベゴシャメゴシャコパキャアアッ!!!!
───……ええ、ボコボコでした。
これ以上無いってくらいにボコボコですよ。
彰利 「グビグビ……」
紅葉刀閃流刀技-飛燕龍の型-の全刀技をお見舞いされました……。
体がズキズキと痛むが、月生力を流せばもう完治♪
夜華 「わ、わたしはなっ!貴様が奪うまでもなく、半分食わせてやるつもりだったんだ!
それを貴様はっ……!!」
彰利 「馬鹿野郎!あんなお握り、半分もらったって腹の足しになるかボケ!」
夜華 「な、なんだと貴様!!人の昼餉を食らっておいて、言うことはそれだけか!?」
彰利 「言うことって……えーと、マツタケモドキあげるから許して?」
夜華 「許さんっ!!」
即答でした。
結局何を言っても許す気ないんじゃないですか……。
彰利 「むう……どうする軍師」
冥月刀『逃げた方がいいと思いますけど……』
彰利 「けど?」
冥月刀『その【軍師】ってゆうの、やめてもらえますか?』
彰利 「なんで!?カッコイイじゃん!!」
冥月刀『嬉しくありません』(キッパリ)
彰利 「そ、そうですか……」
だが『逃げる』という案は却下。
夜華さんをからかったからには逃げずに立ち向かうのが俺の信条!!
彰利 「しかしさ、珍しく寝坊したからって置いてかれる夜華さんも夜華さんだよね。
昂風街では椛の子供が産まれるか産まれないかで騒がしい時だってのに」
夜華 「だ、黙れっ!!寝坊したのも貴様の所為だろう!
貴様が『さむわん海王』とかゆう者の話をわざわざ大声でするから!!」
彰利 「いやぁホラ、眠れない時って道連れが欲しいじゃん?」
夜華 「貴様はっ……!!真実呆れた男だなっ!!」
彰利 「いや……照れるな、そう褒められると」
夜華 「褒めてなどいないっ!!!」
彰利 「ではなんなのかね!キミが何を言いたいのか私にはまるで解らんよ!!」
夜華 「貴様がややこしくするからだろう!!」
彰利 「なにぃ!?……そうなの?」
冥月刀『自覚がないんですか……』
あるわけないじゃないですか。
アタイってば超自然的に行動してるんですから。
彰利 「相解った!ならば夜華さんを、
昂風街のレイヴナスカンパニーに送り届けてしんぜよう!!
それでチャラってことでどうザマス!?」
夜華 「ちゃら……?なんだそれは」
彰利 「貸し借り無しや後腐れ無しって意味だと思う」
夜華 「……たとえ今貸し借りが無くなったところで、
すぐに新しい後腐れを持ってくる貴様がそうゆことを言うか?」
彰利 「あの……夜華さん?それ言われると身も蓋も無いんだけど……」
夜華さんたら言葉のツッコミのレベルもメキメキと上げちゃって……。
まったく誰の所為でこんな娘に……って俺の所為か。
彰利 「それはそれとして、どうするね?行くか行かないか」
夜華 「行く」(キッパリ)
彰利 「そかそか。冥月も行きたがってたことだし、丁度良かった」
冥月刀『なぁっ……わ、わたしは別に行きたいなんてことは一言も……っ!』
彰利 「声と雰囲気で解るって。どれだけ一緒に居たと思っておるんですか」
冥月刀『あぅ……』
冥月刀がカタカタと揺れる。
ほっほっほ、照れておるわ。
夜華 「……うん?なぁ彰衛門」
彰利 「ああ〜〜〜ん?」
夜華 「真面目に返せ。……その、刀は二振り持っていなかったか?
見たところ、一振りしか持っていないように見えるが……」
彰利 「ああ、あれならシェイドが連れていった。
『ここ』まで未来が続いたわけだし、
もう普通のおなごとして生きても構わないだろうってね。
なんでも冥月刀の『家系へ降り掛かる災厄』を解除して、
冥月を解放するんだとかなんとか」
夜華 「そうなのか。よく解らないが、誰かが解放されることはいいことだな」
彰利 「ウィ。でも一緒に死神が取り込まれてたらしいから、
そいつがどうなるかが疑問なわけだが」
冥月刀の中には随分前に未完成の冥月刀……邪神刀-月光-を作ったってゆう死神、
ブライン=リヒトグローウン(家系の伝承では邪術師)が取り込まれているとか。
元々は神の子と死神の力を合わせた力、月操力を増幅させるために作られた刀だが、
今となっては『戦うための力』なんて必要じゃない。
そう思ったシェイドはウィルヴスの反対を押し切って無理矢理実行に走った。
……どちらにせよ、解放された少女が幸せになれれば俺としても文句は無い。
彰利 「あ、言っておくがシェイドが持っていったのはこの時代の冥月刀ですよ?
さすがにこっちの方の冥月刀を渡すわけにはいかねぇからねぇ」
夜華 「わたしには違いなんて解らないが……解るものなのか?」
彰利 「当たり前じゃよ〜っ!実際、長い時の中を共に生きましたからね!
『傷』があった時、冥月のお陰でどれだけ助かったことか!
いやもうホント感謝してますよ冥月!」
冥月刀『それなら……もっと自重してください……。
【傷】があるのに馬鹿なことをして自分を痛めつけてどうするんですか……。
わたしは……彰衛門さんが傷つくのは見たくありません』
彰利 「あらら……」
沈んだトーンで語りかけてくる冥月刀の声を聞くと、
さすがに心配かけすぎたってゆうのが痛いくらいに解った。
でも改めるつもりは毛頭無しッ!!
彰利 「ま、それはそれとして夜華さん。
行くか行かないか、今ここで決めてもらおうッ!!」
夜華 「……今か?というか『行く』と言ったが……」
彰利 「やかまし!それならこれは確認ぞ!!行くか行かないか言え!
じゃなけりゃあ落ち着けん!てゆうか俺行く!」
夜華 「な……ま、待て。解った、わたしも行く。だから置いていくな」
彰利 「オッケーイ!そんじゃいきますよ冥月!」
冥月刀『はいっ!』
冥月刀が淡く輝きを帯びる。
その輝きがアタイと夜華さんを包むのとほぼ同じ頃、
キィンという聞き心地のいい音が鳴る。
音が鳴ったと思った時には既に転移完了。
やっぱり家系の力って便利よねィェ〜。
彰利 「よし行くぞ夜華さん!」
夜華 「ああっ───あわぁっ!?あ、ああああ彰衛門っ!?」
彰利 「なんぞね!!って、うおっ!?」
ハタ、と気づけばカンパニーの屋敷の屋根の上。
何故にこげな所に?などと思ってる暇も無く聞こえる声。
声 『産まれますよ〜〜〜、凍弥ちゃんと椛ちゃんの子供が〜〜〜、産まれます〜〜〜』
間延びした館内放送(?)が流れた。
それが菜苗さんの声だと認識するより早く、アタイは飛び降りるためにジャンプしていた!
夜華 「うわわっ!ま、待て彰衛門っ!!わたしを置いていくなぁっ!!」
ガッシ!!
彰利 「おわぁっ!?っと、ととと!!
こ、これ夜華さん!?アブッ……アブナァーーーッ!!!」
夜華 「わぁっ!?こ、こら暴れるなぁっ!!
わたっ……わたしは高い所が苦手だと言っただろう!!」
ジャンプしたアタイの襟首をいきなり掴むもんだから、バランスと重力配分が散り散りに!
しかも掴まれた位置がマズかった。
だって屋根の端の端だし、バランスなぞ保ってられるわけもなく───ズリャアッ!!
彰利 「あ」
夜華 「あっ───」
あっさりと足を滑らせ、大いなる大地……というか、手入れの行き届いてる芝生へとGO。
彰利 「ってキャーーーーッ!!!!」
ドグシャアッ!!!
彰利 「ギャウッ!!」
夜華 「っ!?」
約四階分くらいの高さからの落下……こりゃあこたえる。
夜華さんはなんとか守ったが、アタイはそうはいかねぇ……。
彰利 「フフフッ、ド、ドジこいちまったぜ……」
夜華 「よし、平気ということだな?急ごう」
彰利 「ゲゲッ……!」
なんてこと……!
独眼鉄ネタを散々見せすぎた所為で、既に慣れてしまっている……!?
アタイのことを気にすることなく走りゆく様は、なんというか鬼気迫るものがござった。
よっぽど立ち会いたいんでしょうなぁ、椛のお産に。
彰利 「フッ……俺も急ぐとするか」
既に治っている体を起こし、冥月刀の無事を確認すると走り出した。
……とまあ、普通ならそれで椛の部屋まで一直線〜、だったわけだが……ズバババババ!!
夜華 「うわわぁああああああああああっ!!!!!」
彰利 「ゲェーーーーッ!!!!」
……アタイの目の前でリヴァっちのセキリティに攻撃される夜華さんが居た。
───……。
彰利 「馬鹿じゃなかと!?」
夜華 「うう……」
彰利 「時間くってたらどこもこもなかろうモン!?
あた(自分がなんしょっとか解っとーと!?はらくしゃあ!!」
夜華 「す、すまない……まさかこんな不可思議な仕掛けがあるとは……」
彰利 「あーんとに普段っからキリっとしとんのに、
なんでこういう時さ失敗ばっかしよっとね!?
しっかりしろち言いよろうが!?なんでしっかりせんとや!?」
夜華 「すまない……いや待て!
こんなところで言い合う暇があるなら急いだほうがいいだろう!」
彰利 「なんば言いようとや!?適当なことば抜かしてさっさ逃げるつもりたい!?」
夜華 「逃げるなんてことはしない!ただわたしは」
彰利 「お黙り!お話は終わってませんことよ!?大体キミは」
夜華 「〜〜っ……邪魔をするなぁあああっ!!!」
彰利 「へっ?え、あいやちょキャーーーーーッ!!!!」
ズバドシュザクドシュザクシュドクシュズバシャシャシャア!!!
彰利 「ウギャアアーーーーッ!!!!!」
───……。
彰利 「グビグビ……」
またボコボコでした……。
アタイの態度と笑い顔からして、
アタイがただ単に夜華さんの邪魔をしていることに気づいてしまったようで……あー痛い。
冥月刀『あの……懲りるって言葉を知った方がいいと思います』
彰利 「負けず嫌いのキミに言われたくない言葉ですよ?」
冥月刀『わたしは別に命が無くなるかどうかの瀬戸際で虚勢を張ろうなんて思いません』
彰利 「ぬう……」
そうかも。
とまあ納得したところで急ぎますか。
アタイも是非立ち会いたいし。
───ドガシャーーーンッ!!
彰利 「ズイホォーーーッ!!!!」
で、辿り着いた途端に追い出された。
葉香 「男は入るな」
彰利 「なんで!?小僧は居るじゃない!!」
葉香 「夫だからいいんだ。他の男は入るな」
彰利 「さ、差別だっ!!僕が平民だからって見下してるんだな!?このクソメイド!!」
葉香 「……よし。何もしないで居ると退屈でな。外まで付き合え」
彰利 「俺用事思い出しましたんでこれで」
葉香 「逃がさん」
彰利 「やだぁーーーっ!!!!」
問答無用で捕まって、あっさりと引きずられていきました。
ああ、なんてゆうかもう泣けてきますよ。
───……。
聖 「頑張ってください、椛さんっ」
椛 「はっ……はっ……」
ドカバキ!! ギャアアーーーッ!!!!
メイ 「……頭が出てきました。もう少しです」
ドゴォオオオオオオン!!! ギャオォーーーッ!!!!
凍弥 「頑張れっ……椛っ……!」
ボゴシャア!! つぶつぶーーーっ!!!
夜華 「楓さま、しっかり……!」
ドゴッ!ゴシャッ!! うきっ!うきっ!うきぃいーーーっ!!!!
全員 『…………うるさい』
汗をかいて苦しそうにする椛を見守る中、
庭の方でずっと鳴り響いてる轟音と彰衛門の絶叫。
なにをしてるのかは聞くだけで解るが……今がどういう時なのか解ってるのか?
……でも不思議と、椛の表情が和らいだ気がした。
その途端───バゴキュッ!!
……妙な乾いた音が鳴り、『うきゅっ!?』という声。
それに次いで聞こえる『ゲェエエーーーッ!!!』という彰衛門の絶叫。
そして沈黙。
凍弥 「…………?静まった」
夜華 「……なんとなく展開が読めるというか、散々折られた首が痛むというか……」
左隣に居た篠瀬がそんなことを口にした時、メイさんがにっこりと笑って一言。
メイ 「……はい、よく頑張りました」
───え?
全員 『えぇっ!?終わったのっ!?』
メイ 「はい。元気な女の子ですよ」
全員 『………』
俺と篠瀬と聖は呆然とするしかなかった。
外の騒音に、いつしか意識が外に向かってた。
最後まで応援出来なかった……なんてこったい。
凍弥 「あ……だ、大丈夫だったか?椛……」
せめてと思い、どもりながらも椛の手をとる。
椛はくたっとしながらも微笑むと、『おとうさんの声が聞こえたら力が抜けた』と言った。
もしかしたら妙な部分に力が入ってたのかもしれない。
緊張もあっただろうし、なにもかもが初めてのことだ。
そこに来て、いつも通りの彰衛門の馬鹿騒ぎ。
気が抜けるのももっともかもしれない。
メイ 「さ、凍弥さま。この子を産湯に」
凍弥 「あ、う、うん」
元気に泣く赤子をしっかりと抱くと、産湯で体を洗ってやる。
ゆっくりと、やさしく。
そして……改めて実感した。
『親になったんだ』って。
凍弥 「親……俺が親かぁ」
やばい。
どうにも顔が緩む。
笑いが止まらない状態に近い。
赤子を思いっきり抱き締めたい衝動に駆られながらも、
走り回りたい衝動に駆られながらも、その全てを我慢すると……どうしても顔が緩む。
そしてなんとなく未来を想定する。
俺は多分、自分が思う以上に親馬鹿になるんだろう、と。
凍弥 「……うん。綺麗になった」
十分に洗ってやった赤子を柔らかいタオルでゆっくりと撫でるように拭く。
その過程……ますます自分が親であることを自覚する。
こんな行動でドキドキするなんて、俺もまだまだ精進が足りないなと苦笑。
でも……くすぐったくて、嬉しくて。
こんな未来に到達できたことが信じられないくらいに……騒ぎたくなるくらいに嬉しい。
きっと自分だけじゃ辿り着けなかった。
いろんな出来事が重なって、この未来に辿り着けたことを───俺は素直に感謝したい。
この未来と、この未来へ辿り着かせてくれた人に。
凍弥 「……みんな、ありがとう」
だから自然にそんな言葉を呟いていた。
小さすぎて誰の耳にも届かなかっただろうけど、言いたかった言葉だ。
俺はゆっくりと深呼吸をするように息を吐いて、
小さな我が子を高く掲げドガシャアアアアアアアン!!!
凍弥 「うぉわっ!?」
椛 「っ───!?」
聖 「わっ!?」
夜華 「な、なんだ!?」
メイ 「……?」
突如、窓ガラスに顔面から突っ込んできた───彰衛門。
凍弥 「あ……彰衛門?」
彰利 「こ、これほどまでのものなのか、中国拳法……。
首が折れたと見せかけておいて、自ら頚椎を外して骨折を免れるとは……」
ガシッ。
彰利 「キャーーーッ!?」
葉香さんに後ろから頭を鷲掴みされた彰衛門が絶叫。
葉香 「さあ……続きだ」
彰利 「ふ……ふはははは……月光力を手に入れたこの俺様に勝てるおつもりか!」
葉香 「おつもりだ。来い」
彰利 「やだぁーーーっ!!!」
ズルズルズルズル……
凍弥&椛&聖&夜華&メイ『…………』
呆然と見送ると、その次の瞬間に聞こえる轟音と絶叫。
やっぱ彰衛門は彰衛門だなぁ……。
俺と椛は同じこと思っていたのか、顔を見合わせて笑った。
こんな未来がある大部分は彰衛門のお陰だってことは解ってる。
だから一番感謝の気持ちを送りたいのは彰衛門にだ。
凍弥 「……頑張ろうな、ここから」
椛 「……はい」
ふたりで微笑みあって、ふたりで寄り添うように赤子を抱いた。
その時再びの轟音が聞こえて、窓の方を見た。
瞬間、視界の端に黒い影が舞い降りて赤子に触れた気がしたけど───
パッと振り向いてみても、何も居なかった。
凍弥 「……?」
なんだったんだろうな。
気の所為?
椛 「……シェイド?」
凍弥 「え?」
椛 「あ、いえ。なんでもないです。ただシェイドの気配を感じた気がして」
凍弥 「………」
じゃ、あれってシェイドだったのかな。
確かめようがないな、忘れよ。
凍弥 「じゃあ、少し休め。疲れたろ?」
椛 「はい」
凍弥 「俺は……───まあその」
椛 「顔、緩んでます」
凍弥 「ぐ───……と、とにかくっ!俺は浩介たちに産まれたって話してくる」
椛 「自慢ですか?」
凍弥 「うぐ……」
クスクスと笑う椛に狼狽(えることで返事をする。
つまり図星だったわけだ。
凍弥 「じゃ、じゃああと……よろしくね」
聖 「はい。パパのことも含めて、よろしくされちゃいます」
こっちでもクスクスと笑ってる聖を余所に、半ば逃げるように部屋から出る俺であった。
───……。
彰利 「ぐはーーっ!!ぐはーーーっ!!」
なんとかヨウカンを淤凜葡繻スピン・ヘッド・ベリアルで地面に埋めて逃走を図れた。
いや、もうなんつーかどういう強さだよあの人!!
いくらレオが消えた所為で魔人力が無くなったからって、
こちとら月光力でわりとパワーアップしてるんですよ!?
バケモンですよあの人!!
冥月刀『世の中にはとんでもない人が居るものなんですね……』
彰利 「オ、オウヨ……。アタイも驚いてますわ……」
屋敷の陰に隠れてモシャアと一息。
はぁ〜、ほんとようやく一息ってところですよ。
ルヒド「大変だったみたいだね」
彰利 「お、おお〜、シェイドじゃおまへんの。キミがここに居るってこたぁ……」
ルヒド「うん。しっかりと」
彰利 「そかそか。あんがとさん」
ルヒド「でもよかったのかい?赤子に冥月の魂を融合させたりして」
彰利 「よかちゃいよかちゃい。
アタイがこの時代から居なくなれば、冥月と同調出来るヤツはおらんたい。
そうなりゃほんとにあっちの冥月は孤独を味わうことになる。
こっちの冥月はアタイと同調出来るからいいけどさ、
さすがにこの時代の冥月をアタイの時代に連れてゆくわけにゃあいかんし。
これでよかったんじゃ……これでな。フフフ」
ルヒド「ふぅん……まあ、いいんだけどね」
彰利 「……なんじゃい、含みあるような言い方しおって」
ルヒド「別に。きちんとあの子のことを考えていたんだなって思っただけだよ。
ウィルヴスが心配してたからさ、さすがにほっとけない」
彰利 「死神王が?なんだって……て、あー、そっかそっかぁ」
ナム思考を働かせたらその答えが出た。
クォックォックォッ、死神王ともあろうものが……クォックォックォックォッ……!!
ルヒド「……えーと、ウィルヴスが『笑うつもりなら命を消す』って言ってるけど」
彰利 「すいま千円」
殺されそうなんで素直に謝ります。
せっかく未来が開けたのに、ふざけただけで殺されるのは勘弁ノリスケ。
彰利 「あぁそうそう、ウィルヴスに聞いてもらえるかね?
あの時アタイ……ってゆうか、ボーン=ナムが居たことに気づいてたかどうか」
ルヒド「知ってたって。向かってくるつもりなら遠慮なく消すつもりだったとか」
彰利 「……怖いこと言うね、キミ」
ルヒド「僕じゃなくウィルヴスだよ」
同じようなもんでしょ。
ルヒド「さて……キミはどうするんだい?
キミが思っていた通り、キミの体にはもう月光力が生まれてるわけだけど」
彰利 「帰りますよ?冥月も悔いはないみたいだし」
冥月刀『そういう言い方はやめてくださいよ……。【納得できた】って言ってください』
彰利 「まぁよ、まぁあああよ。いいじゃんべつに。どちらにせよ嬉しかったろ?」
冥月刀『それはそうですけど……』
彰利 「じゃ、この時代での冒険も終わりだ。
冒険が終わっても物語があるという某弓使いの言葉通り、
アタイたちはアタイたちの物語を作ってゆくのですよ。
今まで散々、他人の物語の手伝いばっかだったんだ、そろそろいいだろ?」
冥月刀『……そう、ですね。頑張ってください』
彰利 「……なにを言っておるのかねキミは」
冥月刀『え?』
たわけたことをぬかす冥月刀をギヌロと睨み、アタイはアタイの愛を語ることにした。
彰利 「よいかね?アタイは『アタイたちの物語』と言ったのですよ?
つまり、頑張るのは俺だけじゃなくてキミもなのです。解る?」
冥月刀『えぇっ……?で、でもわたしは刀なわけで……物語なんて、そんな……』
彰利 「あーもう……シェイド?」
ルヒド「解ってるよ、任せて」
シェイドが冥月刀に触れる。
普段からのにこにこをキリっとした表情に変え、意識を集中させている。
ルヒド「……はい、おしまい」
冥月刀『……あの?』
彰利 「安心おし、冥月の中から家系への災厄を解除してもらっただけだから」
冥月刀『え……?それって……』
ルヒド「元々それはブライン=リヒトグローウンの鎌の能力だったんだ。
彼の鎌の能力は“連結せし災厄を齎す死神鎌(”。
つまり、ひとつのものから繋がりを持つものに伝染するような災厄だったんだ。
それがたまたま月の家系に向かってしまってね。
だからそれを解除してあげれば、キミは解放されたようなものなんだよ」
冥月刀『わたしが……解放……?』
彰利 「そ。その気になれば自分の体で歩けるんだよな?
お前のことだからそんな半端な細工はしないだろ?」
ルヒド「細工って言い方は感心しないけど、確かにね。
いいかい?キミがその刀から出たいって思えばすぐ出ることが出来る。
さらに、戻りたいって思えば戻れる。
これは要注意だから気をつけてほしいんだ。
キミは『刀の中に居る限り』時間の流れに左右されない。
つまり歳をとらないってことだね。もちろん刀の外に出れば歳はとる」
冥月刀『そう……なんですか』
彰利 「あ、ちょっと待った」
一気に喋るシェイドに待ったをかける。
そうだよそう、ナムの思考の中でひとつだけ危険な映像があったんだ。
彰利 「あのさ、刀から出た時……大丈夫なのか?」
ルヒド「なにがだい?」
彰利 「ほら、あれ。ザクッとやっただろ?」
ルヒド「……───ああ、あれかい?あれなら問題ないよ。
刀の中に居る内に自然に治った筈だ。もう痕もないと思うよ」
彰利 「……そか、そりゃよかった」
ルヒド「ふふ、過保護だねぇ」
彰利 「やかましっ!」
冥月刀『あ、あのっ。早速ですが、出てみてもいいですかっ?』
彰利 「だめだ」
冥月刀『えぇっ……?』
喜びに胸を張っていたであろう冥月に待ったをかける。
だって、ねぇ?
彰利 「この時代は貴様が足を下ろすべき時代じゃない……。
つーわけで、アタイの時代に戻るまで楽しみに待っておきんさい」
冥月刀『………』
あら返答無し?
彰利 「フフフ、一丁前に拗ねてやがる」
冥月刀『そ、そうじゃありませんっ。
ただ、そこまで考えてくれてたことが嬉しかっただけですっ』
彰利 「そうなん?フホホ、そりゃあよかった」
アタイも止めた甲斐があったというもの。
さて……
ルヒド「……表情が変わったね。そろそろ行くのかい?」
彰利 「オウヨ。リヴァっちとの約束通り、
歴間移動方法は『必要だと思ってるかどうか』。
アタイのことをどうでもいいって思ってる輩の記憶からは消えるという寸法よ」
ルヒド「ふふっ……」
彰利 「だから……なんなんじゃい、その含み笑いは」
ルヒド「ううん、ただ『無駄だと思うけどなぁ』って思っただけだよ」
彰利 「なんでさ」
ルヒド「この屋敷に居る人やキミの知り合いは、まずキミのことを忘れたりしないよ。
キミは日常だからね。日常を忘れるなんてこと、人は出来ないものだ」
彰利 「……?わけわからん」
ルヒド「知らぬは本人ばかりなり。そんなものだよ」
なにやら癪に障るが……考えても仕方がない。
アタイは刀を構えて集中を開始した。
冥月刀『このまま元の時代に戻るんですよね?』
彰利 「んにゃ、ちと寄りたい時代がある。よいかね?」
冥月刀『はい、それはもちろん』
彰利 「そかそか、それじゃあ」
刀が輝く。
キラキラと揺れる光の粒子が宙に舞っては消えてゆく。
そんな景色の中───
リヴァ「検察官!!」
夜華 「彰衛門、貴様!!」
何故か我先にと邪魔し合いつつ現れたふたつの影があった。
彰利 「あら……リヴァっちに───夜華さんでねが!」
リヴァ「次元の歪みを感じたから来てみれば───どういうつもりだ検察官!
この時代に居てくれるんじゃなかったのか!?」
彰利 「マテ!なんでいきなりそれが決定事項になってるわけ!?
アタイちゃんと月操力が馴染んだら帰るって言ったっしょ!?」
夜華 「なにも言わずにどこに行くつもりだったんだ!
まさか自分の居るべき場所とやら帰るつもりだったんじゃあるまいな!!」
彰利 「何が悪いのかね!!……つーかリヴァっちはともかく、
夜華さんはどうやってアタイが帰るって解ったのよ!!」
夜華 「女の勘だ!」
彰利 「アータ武士でしょうが!!」
夜華 「う、うるさい!!胸騒ぎがしたんだ!それだけだ!」
彰利 「うそつけコノヤロウ!!」
夜華 「なぁっ!?ご、ごがが……!!」
リヴァ「───検察官!」
カタカタと怒りに震える夜華さんを余所に、リヴァっちが一歩前に出る。
リヴァ「お前、本当に帰るつもりか!?」
彰利 「約束は果たしましたじゃ!
月操力は完璧に復活したし、椛の子供も見た!これでOKね!?」
リヴァ「───わたしはお前が居るから地界でも退屈せずに居られたんだぞ!?
お前が居なくなった地界で、わたしに何をしろっていうんだ!」
彰利 「怒鳴るんじゃありません!
───ただ普通に小僧たちと暮らせばいいんじゃなかと?」
リヴァ「……だめだ。それじゃあスパイスが足りないんだ」
彰利 「スパイスって……俺は調味料ですか?」
あー……まあいいコテ。
ひとまずは月空力解除。
ルヒド「やさしいね」
彰利 「やかましっ!───あのね、アタイにどうしろってゆうのかね、お二方」
埒が開かんのでアタイはふたりにズズイと問いかけた!
すると───
夜華&リヴァ『この時代に残れ!!』
との即答が返ってきました。
アタイの返事はもちろんNO!!
彰利 「断る!!アータら今までアタイの話をどう聞いていたのかね!!
アタイにはアタイの時代が、って何度言わせれば」
夜華 「知ったことか!」
彰利 「ギャア鬼人!?即答すぎる上に無慈悲ですよ夜華さん!
だが貴様がなんと言おうがアタイは帰る!
これは俺の勇者としての決定だ!誰にも文句は言わせん!!」
リヴァ「それがどうした!そっちがその気なら、
わたしだってお前の言うことなんか聞くもんか!」
彰利 「あらヒドイ!?」
ルヒド「大変だねぇ」
彰利 「やかましっ!!」
チィくそう!シェイドの野郎、
夜華さんとリヴァっちにギャースカ言われるアタイを見てクスクスと笑っておるわ!!
しかもこの騒ぎを聞きつけて、小僧がヒタヒタと歩いてきてるし……!!
凍弥 「なんだよ、騒がしいな」
彰利 「なんでもおまへん!失せろ!」
凍弥 「目を合わせた途端に失せろとか言うなよ……」
夜華 「鮠鷹!貴様も彰衛門を止めろ!自分の時代とやらに帰るつもりなんだ!」
凍弥 「───なんだってぇ!?おい彰衛門!本当なのか!?」
彰利 「ターーッ!!夜華さんのタコ!ボケ!煮っ転がし!!応仁の乱!!」
夜華 「黙れ!!」
凍弥 「本当なんだな……───何も言わずに帰るなんてことさせるかっ!!
緊急通達!葉香さんとオチットさんの両名は至急、東館の庭方面に来られたし!」
彰利 「ややっ!?こ、これぇえーーーっ!!なにをやとるのかねキミ!!
そ、その無線機よこしなさい!!てゆうか訂正しなさい!ホレ!早く!!」
キヒィンッ!!
彰利 「キャーーーッ!!!?」
とかなんとか騒いでる内に転移してくるオチットさんとヨウカン。
現れた際、首から上が土に汚れてるヨウカンを見て小僧が首を傾げるが、
貴様などに淤凜葡繻の絶技が理解できるものか!!
チット「あらあら、如何なさいましたか?」
凍弥 「オチットさん、葉香さん、悪いんだけど彰衛門を捕まえてもらえるかな。
今この場で元の時代に帰ろうとしてたんだ」
チット「あら───わたしたちに何も言わずに帰ろうとは……いい度胸ですね」
彰利 「度胸とかの問題じゃないと思うんですよ……ね?解って?」
ジリ……
彰利 「ハヒョウ!?ち、近寄るな!アタイは帰るンだッッ!!」
シュババッ!!!
夜華 「───え?」
彰利 「近寄るな!近寄ればこいつの首がコキリ……だぜ!?」
全員 『………』
夜華さんを掴み寄せ、その首に腕を添える!
彰利 「フハハ!俺は本気だぜ!?狼髏館回頭閃骨殺の威力、知らぬわけではあるまい!」
葉香 「……まあ、なぁ……」
凍弥 「彰衛門……お前ってやつは……」
チット「お別れしようという時にする行動ではありませんねぇ……」
なんと、その場に居る全員に白い目で見られた……。
俺か?俺が悪いのか?
───否!!断じて否!!
聖 「…………パパ。お別れってどういうこと……!?」
彰利 「ややっ!?」
椛 「おとう……さん?」
彰利 「やややっ!?」
やべぇ!なにやらゾロゾロ来ましたよ!?
メイ 「椛さま、お体に障ります。寝室へお戻りください」
椛 「大丈夫、だから……。ねぇおとうさん、お別れって……」
志摩 『緊急呼び出し使うくらいの用事とはなんなのだ同志。
仕事に段落ついたので冷やかしに来たぞ』
佐古田「面白い話なら一口噛ませるッス!」
サクラ「うるさいですよ!なんですかっ!」
佐野崎「……なんなの?ゾロゾロ集まって……」
風間 「ふあ……っ……五月蝿くて眠れないすよ……」
皆槻 「なんの騒ぎですか……?」
アル 「騒がしいなまったく……」
レイル「馬鹿おまえ、静かで暇よりはいいだろうが」
レイン「度合いにもよるよ」
和哉 「なんだ?なにかやるのか?」
ヨイチ「……案外みんな、結構暇なのか?」
彰利 「キャーーーッ!!?」
さらにやべぇ!
皆様の野次馬ハートに火がついた!!
彰利 「よ、寄るなぁーーーっ!!それ以上近寄るな!
そげなことすれば夜華さんの首の骨の保障はしませんよ!?」
全員 『………』
彰利 「あら……」
集まってきた皆様にまで白い目で見られた。
やべぇ……もしかして俺、とんでもねぇ生き恥さらしてる?
声 「た〜」
ブスッ!
彰利 「ギャア!?」
背中っ……!背中になにか刺さって……!
彰利 「何者っ───って菜苗さん!?」
チュ〜……
彰利 「ってギャア!?なに注射器なんぞ持って───」
───う、お……!?
い、意識が遠退く……!?
馬鹿な……!
これではジャック・ハンマーに注射されて眠った魔拳・烈海王じゃないか……ッ!
菜苗 「即効性の麻酔ですよ〜。すぐに眠れるから抗わないでください〜」
彰利 「麻酔ってアータ……ど、どっから……」
菜苗 「それは〜、企業秘密です〜」
クスッと微笑む菜苗さんだが───アタイはそれどころじゃない。
意識が───意識が薄れてゆくっ……!!
既に立っているだけで精一杯……!!
彰利 「グウウ〜〜〜〜ッ!!バランスを保っているだけで精一杯だ〜〜〜っ!!!」
ボゴシャア!!
彰利 「つぶつぶーーーっ!!!」
OLAP研究中のケビンマスクの真似をしてたら横から飛んでくるナックル。
あまりの威力に顎が砕けてしまった!!
彰利 「うきっ!うきっ!うきぃいいいーーーーっ!!!」
しかしお陰で目が覚めたわ!
アタイはシュバッと起き上がり、アタイを殴った相手に罵倒を飛ばした。
彰利 「誰じゃいグラッ!───って」
悠介 「勝手に帰ろうとしたペナルティだ。───月鳴の裁きぃいいいいいい!!!!」
バチィッ!!!バリバリバリバリズババババババ!!!!!
彰利 「ギャアアアーーーーッ!!!!」
夜華 「うわわわぁああああああっ!!!」
凄まじい雷撃がアタイを襲う!───おまけに夜華さんも。
悠介 「あっ───こ、こらっ!篠瀬は離せ!」
彰利 「フフフ……安心しろ……。お、俺は貴様ひとりを残して逝かん……」
夜華 「わががが!!は、離せ貴様っ!!くわががががが!!」
ズバババババババ!!!!
夜華さんが奇妙な奇声をあげる中でも雷撃は続く。
彰利 「フッフフ……ヌワッハハハ!!
さあ悠介よ!雷撃をやめねば夜華さんの命は無いぞ!
先に言っておくが俺は夜華さんを解放する気など全く無い!!」
ジョパァンッ!!
彰利 「ストライツァーーーッ!!!?」
鋭い足刀(がアタイの頬にクリティカルヒット!!
やったのは───ヨウカン!?
葉香 「……大人しく気絶しろ」
彰利 「お、おのれ……!お、俺は暴力には屈しねぇ……ぞ……」
ドゥッ……。
意思とは別に、アタイの意識は遠退いてゆくのでした。
人体って無情です。
───……。
彰利 「俺はなにも喋らねぇぜ……!?フフフハハハハハハハッ……!!
見た目はこんなにプリティだけど……中は───筋金入りさぁっ!!」
ボゴシャア!
彰利 「ベップ!!」
悠介のナックルがアタイの頬を捉えた。
ちなみに今のアタイってば椅子に縛り付けられて皆様の前に座らされている状態。
そんな状況だったからロシア猫の真似をした途端に拳ですよ。
さすが悠介だとしか言いようが無い。
悠介 「さーて……なんだって何も言わずに帰ろうとしたんだ?」
皆様といっても、悠介、小僧、椛、聖、夜華さん、リヴァっちの数名。
彰利 「お腹が減って死にそうだったんです!本当です!!」
悠介 「嘘つくにももう少しマシな嘘つけ」
彰利 「最初(っから信じる気ねぇんじゃねぇか!!」
悠介 「空腹と歴間移動とどういう関係があるんだよ。1文字以内で喋ってみろ」
彰利 「喋れねぇじゃん!1文字以内って0文字じゃん!!
ちくしょう!なんで俺がツッコミに回ってんの!?」
悠介 「驚くところはそういう部分じゃないだろ……」
夜華 「……そうだ」
悠介 「……篠瀬?」
部屋の畳に座ってた夜華さんが目を開けて会話に参戦してきた。
なにを言うつもりかは知らんが、また話がややこしくなるのは御免ですよ?
夜華 「大体貴様はいつも勝手なんだ。
帰るというのなら、その……きちんと言ってほしい」
少し顔を赤らめて言う夜華さんだったが、何故に赤くするのかは謎。
大体アタイは物事に縛られる謂れなどないのですよ!?
それがなんだってこげに縛られねばならんとや!?
孤独であるが故に自由だったこのアタイを───おナメじゃないよ!?
凍弥 「で……彰衛門。本当に帰るのか?」
彰利 「当たり前じゃ!帰ってなにが悪い!」
椛 「どうして?ずっとこの時代に居てもいいのに……」
彰利 「俺が良くないのですよ!向こうの時代にはアタイの帰りを待つ者が居るのです!」
夜華 「諦めろ」
彰利 「なんだとカスてめぇ!アンタ鬼人か!?」
夜華 「カスと言われようが構わない!この時代に居ろ!!」
彰利 「や〜いカスカスカスカスカスカス!!このカス!カスが!カスめ!カスめ!!」
夜華 「カスと言うなっ!!」
彰利 「どっちじゃい!!ああもうキミはなにかね!?私を馬鹿にしているのかね!?
そっちがその気なら私はさっさと帰らせてもらうよ!?」
悠介 「どうして」
彰利 「何度言わせりゃ気が済むのかね!!アタイにゃアタイの生活があるんじゃい!!」
聖 「じゃあわたしは?わたしはパパの子供だよ?」
彰利 「グ……グウムッ!!」
しまった!そうだ聖が居た!
アタイとこの未来の接点がこげなカタチで……!!
おのれナム!最後の最後でなんという罪を!!
彰利 「グウ……よ、よし。聖は一緒に来ることを許可いたそう……」
聖 「ほんとっ!?」
彰利 「仕方あるめぇよ……。アタイは我が子を捨て置くような人間にはなたくねぇから」
聖 「やったぁっ♪」
椛 「…………わたしは?」
彰利 「アホですかキミは!椛はここからが大変な時でしょうが!
キミはこの時代で幸せにならなきゃいかんのよ!解る!?」
椛 「う……でも……」
彰利 「…………あーもう……。
なんでアタイともあろうヒューマンが、こげなことで悩まなきゃならんとよ?
アタイって人のことで悩まないのが流儀だったのに……」
悠介 「うそつけ」
彰利 「嘘じゃなか!!……椛、俺はね。
別に会いに来るなって言ってるわけじゃあねぇのよ?
寂しくなったらアタイの時代に来ればいい」
椛 「え───いいのっ!?」
彰利 「歴間移動なんて個人の自由だろ……誰が許可を出すわけでもない」
リヴァ「な、なんだ……そうか」
彰利 「……なんでリヴァっちが安堵の溜め息吐くの?」
リヴァ「なに、気にするな。わたしも張り合いが無くなったら遊びに行くってゆうことだ。
もっとも……検察官が若い内じゃないかもしれないけど」
彰利 「それでえーよ」
どんな条件付きでもいいからとっとと帰りたいです。
さっさと解いてください。
椛 「あ……確かに大人になったおとうさんは見てみたいかも」
彰利 「それはいーからとっとと解いておく霊・守太郎くん」
悠介 「懐かしいこと言ってないで自分で解いたらどうだ?
お前ならこれくらいあっさりと逃げられただろ」
いやん、バレてた?
彰利 「フンッ!」
筋肉を隆起させると、縄はあっさりとバツンッという音を鳴らして千切れた。
褒めよ筋肉称えよ祖国!!
ハラショー同志ザンギエフ!!
彰利 「じゃ、帰るよ!?アタイはもう帰らせてもらうからね!?
まったくひどい侮辱だ!なんの権限があって私を縛ったりしたのかね!!」
悠介 「勝手に逃走するのは男らしくないぞ」
彰利 「逃走とは失礼な!これはただの帰還ぞ!?」
夜華 「……な、なぁ彰衛門」
彰利 「あぁ〜〜〜〜〜〜〜〜ん?」
横から俯き加減に話し掛けてきた夜華さんへ、
モンスターハンターの鍛冶屋爺の声で返事をする。
しかし夜華さんは嫌な顔ひとつせず、アタイの目をキッと見た。
夜華 「わ……わたしも連れていけ!」
彰利 「やだ」(0.1秒)
夜華 「くはっ!?」
全員 『速い(な)(ね)(ですね)……』
夜華 「何故だっ!!聖はよくて何故わたしは」
彰利 「まあまあ落ち着けカス。あんまり怒るとハゲるよ?」
夜華 「茶化すな!はっきり言え!わたしのことが邪魔なのか!?」
彰利 「いや、からかう分には邪魔ってことは全く無いし、
邪魔だって思ったことすらござらん!
ただその時代に生きるものはその時代で生を貫くことに意味があるのです!
だから夜華さんはこの世界で生きるべきYO!!」
夜華 「それなら聖はどうなる!聖はこの時代で生まれた子だろう!」
彰利 「ターッ!お黙り!キリがないでしょうが!
夜華さんだってリヴァっちや椛がアタイに会いにくるのに便乗すりゃいいでしょ!
解るかね!?二度と会えないわけじゃないのだよ!?」
夜華 「う……」
言葉負けしたのか、半歩下がる夜華さん。
しかし顔を俯かせると、何かを呟いた。
夜華 「だが……わ、わたしはお前に認められた上で……
貴様の時代に……行きたいんだ……。これは、我が儘だろうか……」
彰利 「あ〜〜ん!?聞こえませんよ!?」
夜華 「っ……黙れ!!解った───もういい!帰るなら帰れ馬鹿者がっ!!」
彰利 「馬鹿とはなんだコノヤロウ!!」
悠介 「お、おいおい篠瀬……こんな別れ方でいいのか?」
夜華 「彰衛門が『会いに来たらいい』と言ったのです!
それなら会いに行けば───そうだ!貴様がそういう言い方をするなら、
わたしは何度だって貴様に会いに行くからな!文句は言わせないぞ!!」
彰利 「な、なんですと!?」
夜華 「貴様が言ったんだからなっ!はっ……はははははは!!」
椛 「夜華……」
悠介 「篠瀬……おまえ……」
アタイを指差して笑う夜華さんは……泣いていた。
拭うこともせず、強がって……フフフ、さすが夜華さんだ。
しくしくと泣くなんて夜華さんらしくない。
しくしく泣きなんて女々しいく聞こえるしねィェ〜〜。
…………え?じゃあ俺って……女々しい?
エイィ!!今はそげなこと考えてる場合じゃねぇズラ!!
彰利 「また会おう!夜華さん!」
夜華 「え───?」
彰利 「約束だ!誓おうロミオ!」
夜華 「彰衛門……貴様……」
彰利 「ホレッ!」
高い位置に腕を構える。
夜華さんは涙を流しながらポカンとした顔でそれを見て、やがてフッと笑みをこぼして……
夜華 「ああっ!約束だっ!誓ってやる!!」
───ガッ!
俺の腕に自分の腕を勢いよくぶつけた。
夜華 「必ずだぞ……必ず会いに行く。
その時になって迷惑だなんて言ったら斬ってやるからな」
彰利 「望むところだ!」
悠介 「いや望むなよ!」
彰利 「へ?……ギャア!!」
そういやここで望むところだとか言ったら、
斬り刻まれるのを望んでるみたいじゃないですか!
だが一度言ったことに二言など有り得んのだ!!
彰利 「フッ……湿っぽいのはここまでぞ!いくぜよ冥月刀!!」
ピキィンッ!!
冥月刀を輝かせ、月空力を発動させる!
それを見た椛がてこてこと歩み寄ってきて一言。
椛 「おとうさん、絶対に会いに行くからね」
彰利 「む。待っておるぞ」
リヴァ「わたしもだ。暇を見つけたら冷やかしに行く」
彰利 「オウヨ!」
凍弥 「彰衛門、聖、元気でな」
聖 「うん、凍弥さんも。ばいばい、みんな」
彰利 「しっかり捕まっておれよ?聖」
夜華 「…………彰衛門」
彰利 「カスが」
夜華 「くあっ……ききき貴様!!こんな時にまでカス呼ばわりか!!」
彰利 「言ったでしょう湿っぽいのは無しだと!
夜華さんは騒いでるくらいの方が似合っておるわ!」
夜華 「う……ば、馬鹿にするな……。わたしだって女なんだぞ……」
彰利 「黙れこの武士!」
夜華 「〜〜っ……!!貴様はどうしてそういつもいつも!!」
彰利 「ほっほっほっほぉっ!!……またな、夜華さん」
夜華 「───!…………ああ。またな、彰衛門」
光の色が濃くなる。
ああ、そろそろかなと思ったその時───
悠介 「お前さ、これから53年前の晦神社に降りるだろ」
悠介が何かに気づいたかのようにそう言った。
彰利 「ありゃ……なんで解ったん?」
悠介 「ま、なんとなくな」
彰利 「そうかえ?ま、いいさね。達者でな、悠介」
悠介 「ああ。気が向いたらまた遊びに来い」
彰利 「断る!」
悠介 「断るなよそこで……」
苦笑する悠介を眺めつつ、俺はガイアばりの極上のスマイルを贈った。
もちろんその場に居た全員にヘンな顔をされたが……まあ、それでいい。
椛 「あ……おとうさんっ。紅花を抱いてあげてくれないかな……」
彰利 「オウヨ?オウヨオウヨ!!よかちゃいよ!?さ、寄越しなさい」
椛がやさしく差し出す赤子……紅花とかいったかね?その子を抱く。
光の粒子が飛び交う中の赤子は……まあその、宇宙人みたいでした。
紅花 「あ〜……」
彰利 「あ〜ん?」
紅花 「………」
彰利 「………」
見詰め合う。
しっかしこの赤子の中に冥月の魂が融合させられた、か。
うむ、幸せになるんじゃぞ?……っと?
紅花 「あ〜、あ〜」
彰利 「む?」
紅花が両手を挙げて空を掴むように手を動かす。
それはまるで、アタイに『顔を近づけてくれ』と訴えているようでした。
彰利 「ほほっ、このじいやの顔になにか付いておるのかね?」
紅花 「あいっ!」
ゾブシュッ!!
彰利 「キャオラァアアーーーーーーッ!!!!!」
顔を近づけた刹那、赤子の小さな両手がアタイの両目に突き刺さった!!
椛 「きゃあっ!?こ、紅花っ!?」
彰利 「あぁあああ〜〜〜〜っ!!!!
目がぁああ〜〜〜〜っ!!目がぁあああああ〜〜〜〜っ!!!!」
素晴らしいぞムスカくん!キミは英雄だ!!
などとムスカくんやってる内にアタイの手から小さな重みが消えた。
どうやら椛が紅花を抱き受けたらしい。
その時に『わたしを連れて行ってくれない罰ですよ』という冥月の声が聞こえた。
それは恐らくアタイが持ってる冥月刀ではなく、紅花と融合した冥月だろう。
まったく……やりおるわ小娘め。
彰利 「ッチィ!」
アタイはすぐさまに両手で両目に月生力を流し、血の涙の止血を急いだ。
そんな頃になって、軽い浮遊感を感じると───
引き伸ばしていた転移も、そろそろ完了するのだと実感できた。
リヴァ「───って、待て検察官!!
考えてみればお前の居る時代の座標を聞いてないぞ!」
椛 「───あぁっ!!」
彰利 「ゲェーーーッ!!しまったバレたわ!!」
完治した両の目をパチッと開いてわざとらしく叫んでみました。
そのわざとらしさに気づいた夜華さんが焦った様子で詰め寄る。
夜華 「な、なにっ!?よく解らないが貴様!わたしたちを謀ったのか!?」
彰利 「んーん!?そげなことしてねィェーーッ!!」
リヴァ「だったら座標を教えろ!飛べないだろう!!」
彰利 「……いや〜〜ん、ド忘れしちゃったぁ〜ん♪」
全員 『嘘付け貴様ァッ!!』
彰利 「速攻で嘘吐き呼ばわりですか!?」
何気にヒドイよみんなして!!
でもまあ、シェイドが居るからなんとかなるっしょ。
あいつはあれで、いろいろなこと知っておるし。
彰利 「座標ならシェイドにお訊き!それでも解らなかったらタマに教えてあるから!」
凍弥 「タマってあのメイさんのペットの?」
彰利 「オウヨ!それでは───さらばじゃああああああ!!!」
───光が溢れる。
既に視界は光に遮られ、
今まで塞き止めていた分の光が溢れるかのように、その景色が白く染まる。
彰利 「聖、ちょっと頼みがあるんだが」
聖 「?……うん」
やがて鳴ったキィンッという音とともに、俺はその時代にサヨナラをした。
覚えてられる輩が何人居るかは解らない。
けど、覚えてるヤツも忘れたヤツも全員ひっくるめて、その時代の人たちにサヨナラを。
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