───秋に映える故郷、日常への鎮魂歌(───
───……じゃりりりりりんっ!!りんっ。
声 「ほーらー、起きなさいよ〜っ!」
……?
あれ……?
彰利 「ん……あれ……粉雪……?」
粉雪 「ほらっ、早く起きてよ。遅刻するでしょ?」
彰利 「………」
あれ……?
俺、確か……
彰利 「ここは地獄ですか?」
ぼかっ!!
彰利 「アウチ!!」
粉雪 「目覚めて、幼馴染の顔を見ての開口一番がそれっ!?
わたしが居る場所は地獄だっていうの!?」
彰利 「…………」
ヘンだな……。
なんか、記憶があやふやで……。
妙な夢を見てた気がしたんだけど……
でも思い出せない。
というわけで……
彰利 「イエス!」
粉雪 「───」
その後、俺は粉雪に完膚なきまでにボコボコにされた。
制服に身を包んで通学路を行く。
粉雪 「もう、朝くらいちゃんと起きてよね?」
彰利 「すまねぇ、俺のウェポンならギンギンに起きとるんだが」
バチィーーーン!!
彰利 「ぐおーーーっ!!!」
思いっきりビンタされた。
粉雪 「朝から人を怒らせて楽しい?」
彰利 「超絶に!!」
粉雪 「威張ることじゃないでしょっ!!」
彰利 「そうかえ?」
粉雪 「そうだよ……はぁ」
重苦しい溜め息をつかれてしまいました。
彰利 「………」
ふと気づくと、目覚めた時の違和感が無くなっていた。
彰利 「……なぁ、粉雪」
粉雪 「もう……なに?」
彰利 「もしさ、自分が夢の世界に居たとしてさ」
粉雪 「なに?またいつものからかい話?」
彰利 「うんにゃ、真面目な話」
粉雪 「……続けて」
彰利 「ああ」
疲れた顔から一変して真面目な顔になった粉雪は、俺の言葉に集中してくれる。
彰利 「もし自分が夢の世界に居たとして、
その世界では信じられないような力を使えるとしたら……
現実か、夢の世界か……お前はどっちに居たい?」
粉雪 「……質問の意図が見えないんだけど」
彰利 「実は今日、ヘンな夢見た気がしてさ。
詳しくは思い出せないんだけど、
その世界は『矛盾』が『当然』みたいな世界で……」
粉雪 「その世界では、『信じられないような力』を使えた……?」
彰利 「そゆこと」
粉雪 「んー……」
彰利 「しかもさ、夜の間に見る夢にしちゃあ……なんてゆうのか、長かった」
粉雪 「長かった?どれくらい?」
彰利 「……200年近く、かな」
粉雪 「それは……長いね」
彰利 「ちなみにその世界じゃあ俺と粉雪は愛し合ってた」
ボゴッ!
彰利 「アウチッ!!」
粉雪の振った鞄が、俺の頭にメガヒット。
粉雪 「な、ななななななに寝惚けたこと言ってるのよ!
そんなことになるわけないじゃない!!ど、どうしたわたしが、
こんな手の掛かる幼馴染を好きにならなきゃいけないのよ!!」
彰利 「安心しろ、俺だって願い下げだ」
ボゴシャアッ!!
彰利 「ヘブゥ!!」
粉雪が放った拳が俺の頬にギガヒット。
粉雪 「わたしだって同じ意見よっ!!
足が速いのと喧嘩が強い以外に取り得が無い彰利なんか、
好きになる人が居るわけないでしょっ!!」
彰利 「グ、グムーーーッ!!返す言葉もねぇーーーっ!!」
粉雪 「ふふ〜んだ、悔しかったら言い返してみなさいよ」
彰利 「ブ〜ス」
ドカバキ!!
彰利 「ギャアアアァァァーーーーッ!!!!」
………………。
彰利 「いでででで……」
顔面を押さえながら、ようやく見えてきた登校者の人垣に紛れるように歩く。
粉雪 「朝っぱらから疲れさせないでって言ってるのに……」
彰利 「はっはっは、高校男児の溢れる欲求を抑えろというのが無理なんだ。
いつも起こしてもらってすまないが、その分可愛がってやってるじゃないか」
メゴシャアーーーッ!!!
彰利 「ペポアァーーーッ!!」
勢いのついた粉雪の蹴りが、俺の腰にテラヒット。
粉雪 「誤解されるようなこと言わないでっ!」
級友 「朝っぱらからお盛んなんだなぁ」
俺と粉雪の話を聞いていたのか、級友が茶化してくる。
俺は一度咳払いをしてから胸を張った。
彰利 「おう、ベイビィが出来ないのが不思議でしょうがない」
粉雪 「肯定するなぁーーーっ!!!!」
コパキャア!!
彰利 「ほぼべぇーーーっ!!」
助走のついた粉雪の肘が、俺の鼻っ柱にペタヒット。
彰利 「ぐへっ!ごほっ!!こ、粉雪サン……?
言葉に対してここまでやるのはやりすぎなんじゃないでしょうか……」
粉雪 「それだけのこと言ってるでしょっ!」
彰利 「ンなことねぇざます……」
くそっ、鼻血が出てしまった。
級友 「おおっ!朝っぱらからエロ心全開だなっ!」
彰利 「これは殴られて出たものじゃい!」
級友 「妄想にふけってたんじゃないのか?」
彰利 「完全には否定できん」
級友 「それでこそ弦月だ」
頷かれてしまった。
俺の印象ってそんなもんか?
でも……なんだろ。
前にも鼻血がどうので、誰かになにか言われたような……
彰利 「既視感ってやつ?」
粉雪 「なにがよ……」
彰利 「いや、俺もよく解らん」
なんだろうなぁ。
またモヤモヤが膨れ上がってきた。
彰利 「ま、いいか。そんじゃ教室行くか」
粉雪 「言われなくても行くわよ」
…………。
キーンコーンカーンコーン……
───昼を知らせるチャイムが鳴る。
彰利 「ダァーーーッシュダァーーーッシュダッダッダダーーッ!!
ダァーーーッシュダァーーーッシュダッダッダダーーッ!!
ダァーーーッシュダァーーーッシュダッダッダダーーッ!!
スクランブルゥゥウウウウウウウウッ!!ダァッシュッ!!」
それとともに、パンの調達のために教室から飛び出す。
見れば、他の教室からも飛び出る猛者どもがちらほらと。
負けられん!!ツナ焼きそばパンは俺のもんだ!!
中井出「───む!?おお、貴様もか彰利!!」
彰利 「おお!中井出ではないか!貴様もツナ焼きそばパンが狙いか!?」
中井出「ゲフェフェフェ違うなァ!俺の目的はアンパンである!!」
彰利 「……お前って安い男だよな」
中井出「なんで!?美味いじゃん!!」
中井出はアンパンとエロビデオをこよなく愛す男なのだ。
こんなヤツだが、一応学級委員長だったりする。
世の中ってよく解らん。
彰利 「いや、走る必要がないと思うんだ」
中井出「この緊張感がいいんじゃないか」
彰利 「どのみち残るだろ」
中井出「あいつら、アンパンの良さが解ってないのさ。悲しいね」
お前が他のパンの良さを知ろうしないだけだと思うぞ?
───で、購買。
彰利 「トタァーーーッ!!」
中井出「ノヘラァーーッ!!」
彰利 「トテアァーーッ!!」
中井出「ギゴガゴーーッ!!」
彰利 「フィギューーッ!!」
中井出「ニョホ〜〜〜ッ!!」
彰利 「トアタァーーッ!!」
購買に群がる漢どもを蹴散らしながら、購買の前に立つ。
皆が皆、今を生きるために戦っている。
人気の高いパンを勝ち取るのは漢としてのロマン!
そしてそれを邪魔する者は害虫でしかない!!
中井出「お、おばちゃん!!アンパンふたつ!!」
全員 『あとにしろ馬鹿野郎ォーーーーーッ!!!』
中井出「ギャアアアーーーーーーーーッ!!!!!」
中井出が殺気だった猛者どもにボコボコにされる。
俺はその隙にツナ焼きそばパンを四つ購入するのだった。
中井出「ほがががが……」
ボコボコにされた中井出が、ふらつきながら屋上に現れた。
その手にはアンパンがふたつ。
悠介 「アンパン買うためにあの荒波に入るか?普通」
彰利 「『この緊張感がたまらねェYO!』とか言ってた。きっとMだぜ」
中井出「違うよ!?そんなんじゃないよ!?ほんとだよ!?」
中井出が復活した。
彰利 「悠介、260」
悠介 「ほれ」
ツナ焼きそばパンふたつの代金を受け取る。
中井出「ところで晦よ。貴様ってなんで購買行かないの?シャイなの?」
悠介 「妹たちと更待先輩の誘いを断わるのに忙しいんだよ……」
彰利 「よっ!女ったらし!!」
中井出「モテる男は───憎いぞタコ!このボケ!」
彰利 「クズがっ!カスがっ!ゴミがっ!!」
悠介 「俺だって好きで誘われてるわけじゃねぇっ!!」
彰利 「ンマッ!逆ギレですわよ奥さん!」
中井出「やぁねぇ恥ずかしい……!!」
彰利 「引っ掛かりおったわこの奥さんめ!!
奥方!マダム!!マダム中井出!!中井出マダム!!あなぐらマムル!!」
中井出「いっ……いきなり標的変えてんじゃねー!!」
───高校二年の秋。
俺達三人はいつも通りの馬鹿をやっていた。
勉強をそこそこに、力限りに遊んでいた。
彰利 「ところで中井出よ。お前ってさ、別の高校に進学したんじゃなかったっけ」
中井出「……お前、俺のこと嫌いか?」
彰利 「愛してる!」
中井出「きもいよ!?」
中井出が泣きそうな顔で叫んだ。
悠介 「どうしたんだよいきなり。中井出は普通に俺達とここに入っただろ?」
彰利 「あー……なんだろな。
なんかさ、俺達がバラバラの高校に入ったことがあった気がしてさ」
中井出「ほー」
悠介 「夢でも見たんじゃないか?」
彰利 「夢、か。そうかもな」
苦笑してみせ、俺は空を見た。
彰利 「その世界での俺はさ、感情のない人形みたいなヤツだったんだ。
流されるままに馬鹿やって、人に馬鹿にされて……。
でも、なんだろうな……すっごく幸せだった気がする」
悠介 「感情がないのに幸せ?……よく解らんな」
中井出「きっと馬鹿なんだ」
彰利 「お前も同類だろ」
中井出「ルゲレフェフェフェハハハカカカッカッカッカ……もちろんさ」
威張ることじゃない。
彰利 「で、俺達と一緒に居る『寝言は寝て言え魔人』も馬鹿の一員だ」
中井出「うむ。名実ともに三馬鹿だ」
悠介 「お前らと一緒にするなよ……」
彰利 「一緒もなにも、普通に馬鹿やってるだろ」
中井出「うむ。妹さんたちと先輩さんの誘いを無視してるだけで十分だろ」
悠介 「……じゃ、あれだ。お前たちは逃げ道ということで」
彰利 「うわー、ここに人でなしが居るYO」
中井出「友情を捨てるか……クズが」
悠介 「だな、もちろん冗談だ」
クックックと笑う悠介。
なんてゆうか、明るいなと思った。
彰利 「なぁ悠介よ。お前ってそんなヤツだったっけ?」
悠介 「……それってどういう意味だ?」
彰利 「んー……クックックなんて笑うヤツだったかなぁと」
中井出「……今日のお前、なんかヘンだよな」
彰利 「だろ?そう思うよな」
中井出「いや、お前のことだって。この変人」
彰利 「ここぞとばかりに叱咤するなよ……」
俺の言葉に、肩を揺らしながら笑う中井出と悠介。
彰利 「…………なぁ」
悠介&中井出『んあ?』
彰利 「ああ中井出、お前じゃないから黙ってろ」
中井出 「……なんか個人的な中傷が含まれてる気がするんですけど」
どこか悲しそうな顔をしながら、中井出がアンパンにかぶりつく。
彰利 「……俺とお前とでさ、なんか……大事な場所ってなかったっけ」
悠介 「大事な場所?……さあ」
彰利 「んー……あ、じゃあさ。俺とお前が出会った場所ってどこだった?」
悠介 「小学校だろ入学式でお前がとんずらこいて、俺がそれに付き合ったアレだろ?」
彰利 「……そうだっけ」
中井出「なに、貴様らそんな頃からそんなことやってたの?」
彰利 「オウヨ。所詮貴様ごときには到底出来ない芸当だがな」
中井出「し、失礼な!?そこまで言うんならやってみせようホトトギス!」
彰利 「別に今、朝礼とかしてるわけじゃないだろ」
中井出「ククク、次の機会があればすぐにでもしてくれるわグオッフォフォ……!!」
ピンポンパンポ〜ン。
声 『校長先生から生徒にお知らせがあります。至急、体育館に集合してください』
ピンポンパンポ〜ン。
中井出「………」
彰利 「お誂え向きってやつ?」
中井出「…………ウ、ウン……ソウダネ……」
こうして俺達は、普段はフケる集合に参加した。
……余談ではあるが、その日。
体育館から堂々ととんずらしようとした、ひとりの勇者が捕まった。
その時、慌てて言い訳を考えた勇者は、彼を捕まえた教師にこう言った。
中井出「う●こです!!」
……勇者はそれ以来、『Mr.ビッグ』と呼ばれるようになった。
………………
…………
……
彰利 「まったくグレイトだぜ」
中井出「う、うるせー!!」
悠介 「ハッピーかい?」
中井出「うるさいよもう!!」
彰利 「おわぁ〜〜〜っ!!Mr.ビッグが怒ったぁ〜〜〜っ!!」
悠介 「逃げろ〜〜〜っ!!彼はすごいわよ〜〜〜っ!!」
中井出「て、てめぇらぁーーーっ!!!」
そんなこんなで日常は続いてゆく。
馬鹿をやってられる内は心配することなんて何もなく。
俺達はその時その時を大事に思いながら笑い合う。
ふと心に感じた引っ掛かりはいつの間にか忘れてしまって───
俺はいつまでも、こいつらと笑い合っていた。
───……。
そして……ふと。
彰利 「あれ……」
休みの日、悠介の家に遊びに来た俺は……何か引っ掛かりを感じて立ち止った。
神社を見上げて、何かが胸を打った気がしたからだ。
悠介 「どした?」
中井出「奥歯にもやしでも詰まったか?」
彰利 「なんだよそりゃ……」
なんだろな……。
解らない。
ただ、大事なものを夢の中に置いてきてしまったような……
彰利 「……解らん」
悠介 「また始まったか?いつものアレ」
中井出「あーアレか。最近多いよな。なに?毎日デジャヴュ?」
彰利 「そんなんじゃないと思うんだけどな」
いつもより激しい喪失感。
なにを無くしたのかも解らず、
ただ俺は……神社を、そしてなにもない場所を見つめていた。
彰利 「なぁ……ここに大きな樹がなかったか?」
中井出「とうとうお前もイカレちまったか……って、すまん。イカレてたのは前からか」
彰利 「そうだ、失礼だぞカスが」
中井出「認めた上に中傷!?」
驚く中井出を余所に、悠介を見る。
すると、「そんなものはない」と言った。
彰利 「……そう、だったかな」
ただ昔。
どこかで俺を『おとうさん』って言ってくれた人が居たような気がした。
なにも無い場所を見て、そして空を見て、そう思った。
悠介 「どした?」
彰利 「いや……天界ってあると思うか?天上人が住んでるんだ」
悠介 「彰利……お前……」
悠介が可哀相な人を見る目で俺を見る。
彰利 「イカレてないイカレてないっ!!真面目な話だっ!!」
悠介 「無い」
彰利 「そんな、真面目だって言った刹那に言わんでも……」
中井出「なにを言っとるんだこの男は……」
彰利 「お前は……どうしてここぞとばかりに会話に紛れ込んでくるかねぇ」
中井出「フフフ、それが僕のいいとことさ」
彰利 「寂しいやつだな。会話に紛れ込まなきゃ話してくれるヤツが居ないのか」
中井出「そういう意味じゃないよ!?」
俺と悠介は笑って、中井出の言葉を適当にはぐらかした。
中井出もそこのところは解っているらしく、
ふざけ半分どころかふざけそのもので言葉を放っている。
……これといった遠慮のない付き合い。
そこは、とても心が安らぐ世界だった。
───ある日。
適当に気の向くままに悠介と一緒に歩いていると、またあの違和感に襲われた。
見れば、そこにあるのは見慣れないのに見慣れた道。
矛盾ばっかりがある場所だった。
ただ……俺はその道を知っていると、そう思った。
彰利 「………」
その頼りない記憶を辿り、歩く。
少し呆れながら、悠介も付いてきてくれた。
…………。
彰利 「ここって……」
そこは綺麗な場所だった。
散々歩いて、見つけた場所は黄昏に包まれていて。
ただ、そこにあった筈の家は無く、見晴らしのいい景色にあるのは一本の木だけだった。
彰利 「………」
屋敷があった気がした。
けどそれはない。
でも、この場所が大切な場所だということくらい、知っていた。
悠介 「ここ、知ってるのか?」
彰利 「お前は?」
悠介 「んにゃ、来たのは初めてだ」
彰利 「……そか」
どうしてか、寂しいと思った。
悠介には知っていてほしかったと感じる。
彰利 「………」
孤立したようにポツンと立っている木に触れる。
すると、その木の下に何か埋まっているんじゃないかと感じた。
いや、埋めたんだ、誰かと一緒に。
そしてそれは、俺と……そうだ、悠介との大事なものだった筈なんだ。
彰利 「っ……!」
悠介 「彰利?……って、なにやってんだよ。ミミズでも探してるのか?」
彰利 「そんなんじゃないっ!」
悠介 「……?なんなんだよ」
悠介は首を傾げるだけで、とくに何かを言うことも協力することもなかった。
俺は息が切れても掘り続け、『なにか』を探した。
けど……
彰利 「………」
いくら掘っても、いくら探しても……『なにか』は無かった。
彰利 (所詮、夢か)
そう思った。
どこかに苦しいくらいの喪失感を感じて。
悠介 「なにか見つかったか?」
彰利 「いいや、なにもなかったよ」
悠介 「そか。ま、お前も寝転がれよ」
彰利 「ああ。そうする」
寝転がっていた悠介に誘われるがままに……その場に寝転がった。
彰利 「………」
喪失感は消えない。
いや、ここに来たことで余計に膨れ上がった。
ここには……何かがあった筈なのに、それが思い出せない。
だとすると……俺の中の喪失感の正体は『無くなった思い出』なのか……?
彰利 「ああ、解んねぇ……なにやってんだ俺……」
悠介 「気にすんなよ、お前がヘンなのは今に始まったことじゃない」
彰利 「いや、そうだけどさ」
悠介 「お前は……。ったく、ちょっとは否定しろよな」
彰利 「自覚あるし、そっちの方が楽しいし」
悠介 「……あー、そうだな。お前はそういうヤツだ」
くだらない言葉。
それが途切れた合間に、ただこの場所を思う。
もし自分が永い永い夢の中に居たとして、
俺はその夢の中で、どんな自分であったんだろう。
思うのは、心の砕けた俺は今の自分よりも馬鹿だったこと。
他人のために無茶をしては、自分が苦しんでばかり居た。
けれども……その行為が誰かの微笑みの糧になることが、ただ嬉しかった。
彰利 「………」
思い、さらに思う。
けれども、夢の中のどれだけの、どういう人が笑ってくれたのか。
そんなことすら思い出せなかった。
だとしたら、俺がその夢の中に居た意味はあったのだろうか。
……報われずに死んでいってしまった人達は、笑っていられるだろうか。
そう考えたら……少し、泣いてやりたくなった。
悠介 「あ、そういや……更待先輩な、
目指してる大学入試に自信があるってはしゃいでたぞ」
彰利 「へえ……先輩、頭良かったっけ?」
悠介 「ああ。意外と」
……時は流れてゆく。
気づかぬ間に、ゆっくりと、けど確実に。
彰利 「大学、かぁ。なぁ悠介、お前……ガッコ卒業したらどうする?」
悠介 「神社を継ぐことになるな。康彦さんも奈津美さんも、それを願ってるし……
俺自身が、それをやってみたいって思ってる」
彰利 「……そっか」
悠介 「お前は?」
彰利 「え?」
悠介 「お前はどうするんだ?もしかして大学目指すのか?それとも就職か?」
彰利 「………」
正直、困った。
後悔ってやつだ。
馬鹿だな、訊いたら訊き返されるのは当然なのに。
彰利 「……さあなぁ」
悠介 「決めてない、か。ま、お前らしいよ、それ」
彰利 「なんだよそりゃ……」
小さく笑い合うと、その後に溜め息が出た。
彰利 「もしかしたら俺達がこうして話し合えるのも、そう長くないのかもしれないな」
悠介 「……そうだな」
彰利 「悠介が神社の神主になって、中井出が浪人になって……俺は……」
悠介 「……なぁ、さりげなく中井出を浪人決定してるところ悪いんだがな。
あいつ、結構頭いいぞ?」
彰利 「……ウソッ!?」
悠介 「だってあいつ、校内順位3位以内だし」
彰利 「………」
馬鹿な……あのMr.ビッグが……!?
悠介 「お前も同じガッコなら順位くらい……って、
お前いっつも結果見に行こうとしないしな……」
彰利 「俺は俺の実力を信じてる!」
悠介 「この前のテスト順位、ドベだったぞ」
彰利 「うそっ!?」
悠介 「自分を信じるのは勝手だが、実力が見合わないとただの馬鹿だぞ」
彰利 「………」
ひでぇ。
でもその通りだから言い返せねぇ。
彰利 「あ〜あ、未来ねぇ……つまらんのぉ〜」
悠介 「未来に対して愚痴こぼしてもしょうがないだろ」
彰利 「いやいやいや……多分俺ほど未来を夢見た男は居ないぞ?
なんてったって……───あれ?」
なんてったって……なんだ?
俺、未来なんかに夢見てたっけ?
……流されるままの浮き草みたいな生き方をしてる俺が……───夢?
悠介 「おいおい、どうしたんだよ。最近のお前、ほんと変だぞ?」
彰利 「………」
そんなことはとっくに自覚している。
でも釈然としないものは所詮、釈然としないもの。
それが解決しなければ自分が自分に戻ることなんてないんだ。
彰利 「………」
悠介 「彰利?」
彰利 「なんだろ……俺、なにか大切なこと忘れてる」
悠介 「それも聞き飽きた」
彰利 「ああ……悪い。でも……なにか、さ……」
ただ、自分のことを慕ってくれていた人が居たんじゃないか、って……。
俺はそいつらを幸せにしてやれないまま、夢から覚めてしまったんじゃないかって───
彰利 「…………なぁ、悠介」
悠介 「んあ?なんだよ」
上半身だけ起こして、寝転がっている悠介を見下ろした。
そして……自分でも驚くくらいの固い決意の下、俺は言葉を紡いだ。
彰利 「俺さ……卒業したら……保父さんになるよ」
悠介 「保父?保父ってあの?」
彰利 「ああ。まあ……孤児院での、って言った方がいいと思うけど。
……行き場を無くしたやつらの面倒を見てさ、
『おとうさん』って呼ばれるのも……悪くないんじゃないかって……」
悠介 「………」
悠介は唖然とした顔で俺を見ていたけど、やがて笑って『そっか』と言った。
彰利 「……なんか拍子抜けだ。絶対茶化してくると思ったのに」
悠介 「ばか、お前のその顔見れば本気かどうか解るよ。
そんな顔したヤツを茶化すほど、不良してないよ」
彰利 「……サンキュ。誰よりも、お前に頷いてもらいたかった」
悠介 「なんだよそれ」
彰利 「自分でも解んねぇや。でも……なんだろうな、すっごく嬉しいよ、俺」
悠介 「そっか、そりゃなによりだ」
悠介はよくイマイチよく解らないって顔だったけど、笑ってくれた。
それから一頻り笑い合って……くだらない冗談を言って。
そういう日常が、いつまでも続いてゆく。
そりゃあいつかは自分のことばっかりで精一杯になる時が来るのかもしれない。
けれども……いつかそんなことがあったなって思えれば───きっとまた笑えるから。
流されるだけだった浮き草だって、幸せになれると信じよう。
───幸せになる権利は、誰にだってあるのだから───
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