───過去を失った彼の未来は─── …………時は流れる。 あれから五年が経った。 ふたりに事情を説明して、 『結婚できません』事件はルナの悪知恵だったことを知らせた。 それにより凍弥と椛は誤解が解け、ふたりは椛の卒業を待って結婚した。 椛の中の奇跡の魔法は凍弥に移され、凍弥は完全に持ち直した。 不安だった椛にもなんの変調はなく、ふたりとも幸せに暮らしている。 けど、予定していた婚儀は随分と遅れてしまった。 それというのも…… 彰利 「ああ、悠介さん。おはようございます」 悠介 「……ああ、おはよう」 彰利はあの日の出来事がきっかけで、記憶喪失になっていた。 自分のことが何者なのかも解らず、俺を見ても『誰ですか』と言うだけだった。 あの日、この世界から月操力が無くなって、 家系の身体能力も無くなり、死神が人へと変わった。 けど─── 夜華 「こら彰利、勝手に動き回ったら危ないだろう」 彰利 「ああ夜華、ごめん。でもさ、散歩くらいいんじゃないかな」 夜華 「だーめーだ。歩く時はわたしと一緒だと言ってるだろう」 彰利 「ははっ、ごめん、夜華」 ……彰利が記憶を無くしてから、 シェイドやリヴァイアに頼んではみたが───それは叶わなかった。 何故なら……もう、彼の中に『弦月彰利』の人格も記憶もなかったのだから。 ただ、この歳までの言語知識がある程度。 彰利は、もう俺の知っている彰利ではなくなっていた。 凍弥と椛が婚儀を遅らせたのも、せめて彰利の記憶が戻れば、と思ったからだ。 ふたりとも、心から彰利に祝ってほしかったんだ。 でも…… 悠介 「………」 彰利と篠瀬は昨年、婚儀を果たした。 ふたりは夫婦で、だけど……俺はどうしても祝福することが出来なかった。 俺以外の人は『幸せを願うなら』と言った。 だが───それはきっと、彰利自身の願いじゃない。 そんなものが幸せな筈がないから……祝福するわけにはいかなかった……。 悠介 「……これから境内の掃除を始めるから、お前も社に戻れ」 彰利 「うん、ありがとう。悠介さん」 悠介 「………ああ」 辛かった。 完全に壊れてしまった『親友』としての関係。 今のあいつは友達でもなんでもない、赤の他人。 解らないことだらけで、けれど悔し過ぎても泣くことも出来ず。 何も解らない感情が、俺を襲っていた。 ……ただひとつ解っていること。 それは……辛過ぎる現実だった。 俺の……『たったひとりの親友』は…… 生きながらにして、死んでしまったのだ─── Menu back