───誤解・戸惑い・擦れ違いざまに連ね斬り───
───……。
佐古田「は〜ぁ……毎日毎日、よく飽きもせず学校行こうと思うわよね、わたしも」
重郎 「おい好恵、テレビで面白いニュースやっとるぞ」
佐古田「お父さん、ご飯の時はテレビつけないでって言ってるじゃない、もう」
重郎 「いや、速報があってな。
『晦神社』ってところでバカデケェ光の柱が確認されたとか」
佐古田「そんなことどうだっていいでしょ?ほら、朝ご飯食べちゃってよ」
重郎 「おう、おめぇらもさっさと食え!好恵の作った料理だ、残したら許さねぇぞ!」
組連中『ウーーーッス!!!』
佐古田「はぁ……朝から疲れるわ……」
───……。
ごしゃっ、めごしゃっ……ぱらぱら……。
アタイを押しつぶさんとする瓦礫をどかし、地獄からの生還を果たした気分に陥る。
彰利 「ゲホッ!ゴホッ!」
うう……ひでぇ目にあった……。
まさか密かな楽しみで仕掛けた自爆装置を自分で踏むことになろうとは……。
いやー、ハデに吹っ飛んだねィェ〜。
屋根も二階も無くなっちまった。
ああちなみに、
自爆装置にはアルファレイドカタストロファーくらいの月操力を圧縮して仕掛けました。
まあ……圧縮したものですからねぇ。
屋根が消滅する程度で済んだのは運が良かったと言えませう。
でも瓦礫とともに吹き飛ばされていったルナっちが見当たらん。
少々不安だが、それよりも悠介だ。
さすがに起きてしまったとは思うが……
彰利 「えーと……おお、一階は原型がありまくるな」
なんというか、立っているアタイの頭の部分から上が、平行して消滅しております。
ま、それはそれとして……
彰利 「ダーリン?ダー……うおう」
ダーリンの部屋に辿り着いてみると、なんと……
彰利 「……すげぇ……寝てるよ」
ダーリンは寝たままでした。
こりゃすげぇ。
彰利 「……さて、起きてからこの絶景なる景色を見られるのも厄介だ。
月癒力引き出して直しちまいましょう」
暴走は怖くはあるから、すこ〜しずつすこ〜しずつ、と。
彰利 「……むむ?」
引き出してみたが、べつに暴走はなかった。
そこでピンとくる。
彰利 「そっか。目覚めた時とかは、俺の存在が不安定になるってわけか」
意識がボ〜っとするのは確かだしな。
OK解った、ルナっちが豆腐に何かを仕込んだわけじゃあなかったのだね?
彰利 「じゃ、気合入れて直しますかぁ!冥月刀よ、頼みまっせぇ!?」
冥月刀から月癒力を引き出して、家の再生を行う。
必要なのは、『この場にあったものの再生』ってイメージだけですし、楽々です。
───1分後。
彰利 「まあ!見てジョナータ!家が元に戻ったわ!まるで奇跡みたい!
ステキ!ステキすぎるわ!眩しいくらい!ジョナータって誰!?」
よし解らん。
彰利 「さてと、家も元通りになったし、
消えたと思ってたルナっちも瓦礫に埋もれて気絶してただけだし。
これでひと安心ですかね?」
しっかし情けねィェ〜!
ハーフとはいえ、死神があれしきで気絶とは。
そりゃあ、アタイも死ぬかと思いましたけどね?
彰利 「さてと、それはそれとして……お待ちかね!
ダーリンの顔面に豆腐を落とす時が来たのです!」
アタイは満面の笑みを浮かべつつも懐を探り、豆腐を───無い!?
彰利 「ア、アレーッ!?アレレーッ!?」
全身をくまなく探すが、豆腐は無くなっていました。
……もしかして、さっきので消滅した?
アタイは無事なのに?
彰利 「……お、俺達は忘れない……豆腐よ……き、貴様のような男が居たことを……」
豆腐に性別があるのかは別として、散っていったモノを見送る最高の言葉を贈りました。
男塾万歳。
彰利 「しかしこれは困った。クエストがコンプリートできなくなってしまった」
ルナっちが気絶してる今がチャンスなんですが。
彰利 「FUUUUUM……」
思考を回転させてみました。
彰利 「ムムッ!」
ピコーン!思考の中に電球が閃きました!
彰利 「これだ!これがステキだ!では早速夜華さんを起こしに!」
───……。
ペッペケペー!
彰利 「イエイ」
さて、社前に来ました。
彰利 「夜華さんの部屋は左の方の部屋でゲスね」
アタイは極めて静かにその部屋へ歩み寄った。
……そう、目的が変わっただけで、クエストはまだ続いているのです。
彰利 「………」
夜華さんの部屋の前へ来たアタイは、
身を屈めた上で静かに、尚且つ少しだけ障子を開けた。
彰利 「……OK」
中では、まだ静かな寝息をたてる夜華さん。
アタイはやはり静かに障子を開け、中に侵入した。
……フフフ、ここまではいい。
あとは……きゅぽんっ。
彰利 「やはり額に『肉』でしょう……!」
んもう、夜華さんってば最高!
アタイのからかいハートをここまで擽る人は夜華さんくらいYO!
さあ……!今こそアナタをキン肉メンに!
彰利 「……ぬ、む、むむう……?」
むう、ダメだ。
書こうと思ったが、逆さに書く漢字ほど難しいものはない。
やはりこう、正面から向き合った状態で書くのが好ましい。
彰利 「ということで……失礼をば……」
枕元に座る姿勢から、夜華さんの横に座る姿勢に移行。
よし、これなら……むう……!
彰利 「いかんぜよ、いかんぜよ……!これでは少々、斜めになってしまうぜよ……!」
『肉』の字はそんな軽い気持ちで書いていいものではないのだ。
やはりここは正面書きでなくては……!
彰利 「………」
アタイは覚悟を決めて、
眠っている夜華さんの体を跨ぐような姿勢でマジックペンを強く握った。
やがて姿勢を屈め、夜華さんの顔の横に肘を付くようなカタチで、その額にマジックを!
彰利 「………」
なんだか物凄く犯罪者チックなことをしている気分です。
でもめげません。
彰利 「さて、かつてないほどの『肉』を描いてみせよう……」
一筆入魂!
……てゆうか……
彰利 「……あら。夜華さんってば結構なべっぴんさんじゃないですか……」
こんな間近で夜華さん見るのって初めてYO?
……あ、いやん……なんだかヘンな気分。
彰利 「まあそんな錯覚は無視して、今は『肉』だ」
地下闘技場にガイアが参上した時くらいの満面の笑みを浮かべ、
アタイはマジックを夜華さんの額に……!
嗚呼、ドキドキだぜトニー!
やがてそのアタイのドキドキハートが呼吸を荒くさせた。
彰利 「でっきるっかな♪でっきるっかな♪」
ノッポさんの恩命を授かるが如く、マジックをきゅっきゅと走らせる。
慎重に、かつ美しく!
アタイのハートは、緊張と目的達成への心と夜華さんのドアップにドキドキです!
で、その荒くなったドキドキサワヤカ吐息が夜華さんの前髪を揺らした時───
夜華 「ん……う、ん……んんっ!?」
彰利 「ギャア!?」
夜華さん覚醒!!
アタイの顔を見て顔を真っ赤にさせた!
うわ!ヤバイ!これは絶対に誤解されてます!
夜華 「なっ!わ、あ、あきえ───うわぁああっ!!?」
彰利 「あっ!いやっ!違う!違うんですよ!?これは別に!」
夜華 「き、きききき貴様ぁっ!」
目にも留まらぬスピードで、夜華さんの拳が振られボゴシャア!
彰利 「ぶへぇーーっ!!」
目にも留まらなかったが、確かに頬で感じました!
横殴りです!痛いです!かなり痛いです!
彰利 「いで、いででで……!」
殴り倒され、夜華さんの布団の横に倒れるカタチになったアタイは、
ひとまず体を起こし、真っ赤になったであろう頬をやさしく撫でた。
が。
夜華 「きぃいいさぁああまぁあああああ〜……!!」
凄まじい殺気を背後に感じました。
いやん、ヤバイです。
体裁も状況もなにもかもが。
おそるおそる後ろを見てみれば───ギャアア!!
あまりの殺気に、景色をモシャアアアと歪ませてる夜華さんが!!
夜華 「人の寝所に……お、おお襲いにくるなどと……!は、恥じを知れぇっ!!」
顔が恐ろしいほどに真っ赤になってる夜華さんは、布団の横にあった刀を手に取った。
それを腰に当て、構える夜華さんの目は、なにやら潤んでおりました。
彰利 「いやっ!違うんですよ!?アタイはただ肉を───はうあ!」
いかん!これはいかん!
『肉』の字に文字が足らん!
あれでは『内』だ!
彰利 「………」
夜華さんが刀の柄に手をかける中、アタイはマジックペンのグリップに手をかけた。
だめなのだ……!
『肉』は『肉』だからこそ美しいのだ……!
あんな中途半端な芸術は許されん!
彰利 「夜華さん……」
夜華 「だだだ黙れぇっ!!ここっ……こういうことはだな!
双方の了承を確認してからっ……!!
うあぁあっ!なななにを言っているんだわたしはぁっ!!」
頭をぐしぐしと掻き毟り、頭を振る夜華さん。
なにやら愉快だが、唐突にアタイを睨むと叫びました。
夜華 「おのれ貴様っ!斬る!!」
彰利 「へっ?キャッ……キャーッ!?なんで!?」
夜華 「うるさいうるさいうるさい!!
お前が全て悪い!!斬られて詫びろ!てりゃあっ!!」
夜華さんが刀を居合斬りの要領で振りシュカァンッ!!
彰利 「おぉわあっ!!?」
はッ……速ッ!!
すげぇ!顔真っ赤で目ェ潤ませてても、流石は免許皆伝の腕前!!
無意識に後ろに飛ぶのが遅れてたら、胴体飛んでましたよ!?
夜華 「ええい避けるな!!お前はここで斬られろ!」
彰利 「無茶言わんでつかぁさい!それに誤解だと言っとるでしょうが!!
アタイは夜華さんを」
夜華 「い、言うなぁあああっ!!!」
シュフィン!シュカン!シュバァッ!!
彰利 「ほぅわぁーーーっ!!!」
連ね斬りを避ける避ける避ける!!
やべぇ、夜華さんてば目がマジだ!!
潤んでるけど目がマジだ!!
夜華 「貴様がなんと言おうが、
その、み、みみみ乱れた服装が全てを物語っている!!」
彰利 「へ?乱れ……ゲェーーーッ!!」
そうでした!
アタイの服ってばルナっちに刻まれてボロボロになってたんでした!!
しかも嫌な具合にボロな所為で、少し脱いだように見えなくもないし!
彰利 「NO!これは違う!これはこの部屋に入る前からこんな状態で」
夜華 「なっ……!この部屋に入る前からそんなふしだらなことを考えていたのか!」
彰利 「へっ───へぇっ!?いや待って!誤解です!それ究極の誤解です!」
夜華 「くぅぁあ〜〜〜っ!許さん!!」
彰利 「許してぇーーーっ!!」
畳を蹴り、物凄い勢いでアタイ目掛けて疾走(る夜華さん!
アタイはそんな夜華さんから自分でも感心するくらいのスピードで逃げ出しコパキャア!
彰利 「ほぎゃあああああああああああああ!!!!」
箪笥の角に小指を強打して絶叫!!
思わず足を庇ったその瞬間、夜華さんの連ね斬りがアタイを襲って
彰利 「キャアアーーーーッ!!!!」
……その日。
遥か高位置に聳(える晦神社に、風を切るようなアタイの絶叫が木霊した。
───……。
彰利 「いてぇよ〜!いてぇよぉお〜!!」
散々斬られました。
夜華さんたら限度ってもんを知らないんですもの。
アタイったらキズモノですよ……。
こんなことが続いたら、死神との衝突を待たずして……死んでしまうがね……。
彰利 「いてぇよぉお〜〜!」
夜華 「うるさいっ!男なら喚くな!」
彰利 「男でも痛いモンは痛いんですよ!それくらい解るでしょうがこのカスが!」
夜華 「カスと言うな!!
だ、大体だな、貴様が誤解されるような格好をしているから悪いんだ!」
彰利 「俺だって好きで切り刻まれたわけじゃないわい!
男として、顔面に豆腐を落とすってゆう浪漫に心躍らせてなにが悪い!」
夜華 「なに!?貴様、わたしにそんなことをしようとしていたのか!」
彰利 「違いますよ失礼な!
夜華さんに対しては、額に『肉』って書きたかっただけですよ!」
夜華 「額に……肉?」
彰利 「ゲェーーーッ!!」
しまった!ついうっかり語ってしまいました!
とかなんとか思ってる内に、夜華さんが手鏡を手に!
彰利 「な、なんでもござんせん!幻聴です!忘れてくだされ夜華さん!!
そりゃあ確かに斬られてる隙に『肉』の字は完成させたけど!」
夜華 「……───〜っ……!!」
ベゴシャアッ!
彰利 「あ」
夜華さんが持っていた手鏡が、夜華さんの手の中で圧縮破壊される。
ぬおお、なんという握力!なんて感心してる場合じゃねぇーーっ!!
彰利 「え、えーと……話し合い!話し合いをしましょ!?
夜華さん話し合い好きでしょ!?知らんけど!だから話し合いをしましょ!?
夜華さんは話し合いが好きだと今アタイが決めたから!ねっ!?
あ、あれ!?なんで刀構えるの!?やめて!ねっ!?
正当な話し合いを熱望しますから!いやっ!やめて!キャアアーーーッ!!!」
……その日。
遥か高位置に聳え立つ晦神社に───再度、風を切るようなアタイの絶叫が木霊した。
───……。
彰利 「がぼっ……がぼっ……」
紅葉刀閃流の全刀術フルコースをくらったアタイは、
霞む意識の中でスモーキーの真似をしていた。
ひどいや夜華さん……手加減ってものを考えないんですもの……。
夜華 「つくづく愚か者だな貴様は……!!
なぜこのような愚行しか思いつかぬのだ……!」
彰利 「フッ……く、悔いはない……。き、貴様のような男と、た、戦えたのなら……」
ゾブシュッ!
彰利 「オギャアーーーッ!!」
夜華 「誰が男だ!!いい加減にしろ貴様!」
彰利 「夜華さんこそいい加減にしてたもれ!
こうズバズバ斬られてたら死んでしまいますよ!」
夜華 「だったらまず貴様がその愚考を改めろ!
何度もその馬鹿行為に付き合わされる周りの身になってみろ!」
彰利 「馬鹿とはなんだコノヤロウ!!
夜華さんこそ思考より抜刀を優先させるのを改めなさいよ!」
夜華 「うっ……い、いや、これは貴様が……」
おお図星!?
これは上手く話を逸らせるやもしれません!
彰利 「あ〜ん!?あんだってぇ〜〜っ!?聞こえんなぁ〜〜っ!!」
夜華 「こ、これは貴様が馬鹿な行為をするから、
わたしは止めるために……だな……!」
消え入るような声になってゆく夜華さん。
キャア!形勢逆転ってヤツ!?
軍師殿、我が郡の優勢にございます!
彰利 「なにかね!ハッキリ言いたまえ!」
夜華 「ぐ、ぐうう……!!では訊くがな!
わたしが抜刀をやめたら、貴様はその愚行を改めるのか!?」
彰利 「するわけねぇだろタコ!」
夜華 「なっ───ごごがぁああああああああっ!!!!」
彰利 「アイヤーッ!?」
夜華さんの質問を即答で返した途端、夜華さんは白熊も逃げ出すくらいの咆哮を発し、
アタイ目掛けて刀をザクドシュズバザシュジュパァンシュパァンザシャアアアッ!!
彰利 「ウギャアアアーーーッ!!!!」
……その日。
遥か高位置に聳え立つ晦神社に(略)
───……。
彰利 「すんません……。
もう生意気なこと言わないからアタイのお願い聞いてくだされ……」
散々切り刻まれたアタイは、涙声で夜華さんに謝っておりました。
だって体はいくらでも治癒できるけど、服ばっかりはそうも言ってられないんですもの。
真っ白だったアタイの服が、自分の血でもう真っ赤ですよ……?
夜華 「願い?なんだ。またくだらないことだったら、今度こそ本気で斬るぞ」
彰利 「散々斬ったじゃない!本気だったじゃない!
あれ以上があるなんて冗談じゃねぇわよ!?」
夜華 「うるさい、言うだけ言ってみろ。そ、その……出来ることなら聞いてやる」
彰利 「む……そりゃあありがたい」
よう解らんけど、夜華さんは協力的でした。
そして俺も、夜華さんを起こしに来た理由を忘れてました。
彰利 「えーとですね、大変恐ろしいことが母家で起こっておるのです」
夜華 「恐ろしいこと……?」
彰利 「ウィ。奇病のウィルスが下界から流れ込んだらしく、
悠介が『眠り病』に侵されたんじゃ!」
夜華 「眠り病……?聞いたこともないが」
彰利 「ウィ。そりゃあそうでしょう。
夜華さんが存在した過去には無かった病気だから。
この『眠り病』というのはですね、
侵されるとずっと眠りっぱなしになるという恐ろしい病気なのです」
夜華 「なっ───では悠介殿は……!」
彰利 「助けが遅れれば寝たきりになるというわけですじゃ。
だから、夜華さんの助けが必要だったわけです」
夜華 「馬鹿者め!何故それを早く言わない!」
彰利 「実は忘れ───いやいや、実はですね?
その奇病を治すには、とある儀式をしなけりゃならんのです。
その儀式には額に『肉』を書くことが定義でして。だから」
夜華 「……それで、これを書いたのか」
彰利 「ウィ」
出任せ万歳。
夜華さんってばホントに純粋なんですからもう……!
夜華 「すまなかった、そんなことも知らずに……」
彰利 「いや、俺こそゴメンナサイ、ほんと、マジで」
純粋なだけに、謝られると心苦しいです。
夜華 「悠介殿といえば……妙なことがあるんだ」
彰利 「むむ?それは一体?」
夜華 「ああ、何故かわたしを見ると顔を俯かせてな。手で口を覆って震えるのだ」
彰利 「───……いや、それって笑ってるんじゃ」
夜華 「なに?」
彰利 「あ、いや……なんでも」
むう……ダーリンの身になにが……?
夜華 「悠介殿には世話になっている。
面識のなかったわたしをここに置いてくださり、
金銭の面でも手厚くしてくださった。
悠介殿が何かの病気で、わたしが協力することで治せるのなら悩むこともない」
彰利 「では、協力してくださると?」
夜華 「無論だ、急ごう。母家でいいのだな?」
彰利 「ウィ」
先駆けて社を飛び出る夜華さんに次いで、アタイも社を飛び出した。
───で、ダーリンの部屋。
彰利 (わぁ、まだ寝てる)
しかも気持ち良さそうです。
夜華 「確かに妙だな……。悠介殿なら、誰よりも起床は早い筈……」
彰利 「あぁ、そりゃあアレだろ。ルナっちと夜の営みを……ゲフッ!ゲフフッ!!」
いかんいかん、こげなことを言い切ったら、夜華さんに八ツ裂きにされてしまう。
そんでアタイが叫ぼうものなら、いくらダーリンでも起きてしまう。
……でも、真面目にどうしてでしょう。
確かに夜華さんの言う通り、ダーリンは誰よりも朝が早い。
それは学生の頃から変わっちゃいねぇ。
メシつくるのもダーリンだし。
一度ルナっちが作ったメシ食ってみたけど、
冗談抜きで三途の川を素っ飛ばして冥府が見えたし。
夜華 「どうした彰衛門。早く手を打たねばならぬのだろう?」
彰利 「へ?あ、ああ、そうザマした」
いかんいかん、思考に捕らわれてる時じゃねぇや。
彰利 「では夜華さん、これからアタイがその儀式の方法を教えるから。
一字一句、間違ったりどもったりしたら……あきまへんえ?」
夜華 「言葉が必要なのか。
儀式というから、舞いのようなものかと……本当に大丈夫なのか?」
彰利 「大丈夫、アタイはこれと同じ症状を持った、
『中井出』という人物を救ったことがあります」
夜華 「そうか……ということは、その人物は今も元気で暮らしているんだな?」
彰利 「いえ、死にました」
夜華 「な、なにぃっ!?」
彰利 「回復した途端、
『素晴らしい〜汗を〜かこうぉ〜!汗をかくって素晴らしい〜♪
ギャァッツ・ビィ〜〜ッ!ギャアッツ・ビ〜〜ッ!!』と、
ギャッツ・ビーの歌を歌いつつ、
激走するショベルカーにぶつかっていきまして……そのまま帰らぬ人に」
夜華 「その『しょべるか』というものが何かは解らんが、
その人物は馬鹿だったのだな?」
彰利 「いや、まあ……真性なる馬鹿だったことは確かだが……。
よいですか夜華さん。この儀式には副作用がありましてね?
回復すると、無性に車に体当たりしたくなるのです」
夜華 「くるま?あの『てれび』に映っている速い乗り物か?」
彰利 「そう。あげなもんに体当たりしたら、死んでしまうがよ。
だから夜華さん、悠介が目を覚ましたら抑えつけてくだせぇ」
夜華 「そうか───承知した!」
彰利 「では夜華さん、儀式の段取りを説明するから耳貸して?」
夜華 「ああ」
夜華さんが耳を寄せる。
アタイはその耳に、思考の中にあったことの全貌を話して聞かせた。
夜華 「なっ……なにぃーーーっ!?それを言えというのか!」
彰利 「大丈夫!絶対起きるから!アタイも協力するから!」
夜華 「う、うぐぐ……!だがしかしな……!」
彰利 「約束する!悠介は起きますよ!?」
夜華 「だ、だがな……!起きなかったらわたしは……!」
彰利 「むう……では、悠介が起きなかったら……
アタイが夜華さんの恋人になってさしあげよう」
夜華 「本当かっ!?───あ、いやっ!な、ななななにをふしだらなっ!!
ききき貴様っ!このような非常時に、なななななにををを……!!」
彰利 「あら不服?だったら別の条件でも……」
夜華 「あ、やっ……ひ、非常に不服だが……!か、構わん!その条件で、その……」
彰利 「そうザマス?じゃあ夜華さん、お願いね?」
夜華 「い、いいかっ!?か、勘違いするなっ!?
わたっ、わたしは悠介殿の無事を祈ってだなぁ……っ!」
彰利 「はいはい。だったら、どもったり途中でやめたりとかしちゃダメですよ?」
夜華 「くっ……!い、言われなくとも解っている!」
───……。
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