───生存競争曲・仁王───
凍弥 「…………ごめんくださーいぃ」
冬間近だというのにクソ暑い日。
俺は燦燦(と輝く太陽の下、晦家に訪問していた。
時刻は昼になる手前。
学校が休みということもあって、俺は電車に揺られて石段登ってここまで来た。
理由は───椛が激怒しつつ、俺の話を全然聞かずにこっちに帰ってしまったからだ。
蒼空院邸に帰ればいいのにと思ったが、瞬間移動のようなものまで出来る彼女にとって、
どこに行くのも一緒なのだと諦める。
凍弥 「うーむ……」
三日前に殴られた頭がまだ痛む。
それにしても……『浮気者』ってどういう意味だろ。
……わからんなぁ。
悠介 「ほいほい……って、凍弥か?どうした」
凍弥 「あ、悠介さん。あの……椛、居ます?」
悠介 「ああ、居るが……椛っていえば、なにかあったのか?えらく怒ってるが」
凍弥 「いえ、それがてんで理由が解らなくて。
三日前から一言も口利いてくれないんですよ」
悠介 「ふむ……ま、あがってけ」
凍弥 「はい、失礼します」
悠介さんに促されて、俺は晦家に上がり込んだ。
───……。
悠介 「ふーん……つまりお前は、いつの間にか椛に組み伏せられていて、
いきなり『浮気者』扱いされて殴られた、と」
凍弥 「はい……」
客間に案内されると、悠介さんは座布団を置いてから俺の話を聞いてくれた。
自分にとってもいきなりだった出来事だから、うろ覚えと言えばうろ覚えなんだけど。
凍弥 「話を聞こうとしても、椛が俺のこと徹底的に避けるんですよね……。
だからその時になにがあったのかまるっきり……」
悠介 「そうか……おいルナ〜」
ルナ 「なにっ?」
悠介さんが虚空に向けて言葉を吐いた次の瞬間、ルナさんがその場に現れた。
……すごい速さだ。
悠介 「お前さ、俺なんかより魂に詳しいだろ?
ちょっとこいつのこと調べてやってくれ」
ルナ 「こいつ?……あ、ムナっち」
凍弥 「……なんか胸毛みたいで嫌な呼び方ですね」
ルナ 「似合ってるわよ?」
凍弥 「嬉しくないです」
ルナ 「ま、いいけど。えーと……」
ルナさんが俺をじ〜〜〜っと見て、目を真っ赤に変異させる。
やがて───
ルナ 「ん、もうひとつの人格みたいなのがあるみたい」
凍弥 「えぇっ!?」
悠介 「二重人格か……。俺はてっきり夢遊病かと」
凍弥 「どちらにしても嫌ですよっ!!」
ルナ 「あそーれ」
ぼごしゃあっ!!
凍弥 「ギャウッ!?」
───………………
───……
凍弥 「ぐ……いっつ……!!はっ!?」
目を覚ませば、見知らぬ場所だった。
そこにおわすは一組の男女。
その内の男には……何気なく見覚えがあった。
凍弥 「えーと……誰?」
おなご「あ、ほらほら、上手く人格入れ替わったみたいよ?」
男 「にしたって、問答無用で殴るなよな……」
呆れた風に溜め息を吐く男。
俺はそいつに向けて言葉を放った。
凍弥 「…………ふむ。えーと確かお前……神社の神主もどきだったよな?」
男 「もどきもなにも……神主だが」
凍弥 「いいや違うね!俺はそう紹介されたし!」
男 「紹介……?待て、俺とお前は面識があるのか?」
凍弥 「あるぞ。お前、確か晦悠介だろ」
悠介 「ああ……そうだが……」
凍弥 「で、お前が……」
おなごの方を向いて、頭を捻る。
こんなヤツとは会った覚えがない。
だが、もしや……モロッコで手術を終えた者なのかもしれん。
ということで───
凍弥 「……えーと……弦月彰利?」
ルナ 「───喧嘩売ってる?」
俺の言葉に、目の前のおなごの髪がブワァッ!と逆立つ!!
悠介 「ああああ待て待てルナッ!まずはこいつのこと知るのが先決だ!」
ルナ 「ぐるるるる……!」
凍弥 「ふかーーーっ!!」
悠介 「お前も威嚇するなっ!」
まるで獣のように唸るおなごに対して、俺も猫風に威嚇してみた。
が、あっさりと却下を下された。
凍弥 「おお失礼、つい野生の本能が」
悠介 「訳の解らんこと言ってないで、お前が何者なのか教えてくれ」
晦は俺の正体に迫った!!
コマンドどうする!?
1:ウソをつく
2:問答無用のドナルドマジック
3:一瞬の隙をついてサミング
結論:1
凍弥 「俺はガルキマセラの末裔でガルキマ・セイラだ」
悠介 「うそつけ」
あっさりウソだと言われてしまった。
凍弥 「じゃあ……
トリケラトンプソンの末裔のヨーデルハイム・ボルゲニョーラ酸性だ」
悠介 「誰だよ」
凍弥 「ヨーデルハイム・ボルゲニョーラ酸性だ」
悠介 「繰り返せとは言ってないが……ようするにそれはウソなんだろ?」
凍弥 「フッ、よくぞ見破った……!
えーと、俺の名は閏璃凍弥。今をトキメくナイスガイだ」
悠介 「……な……閏璃……凍弥……!?」
晦、呆然。
悠介 「あ、いや……そうか、だから凍弥も元気になったのか……?いやいや……」
凍弥 「ちなみに貴様と初めてあったのは、今から数十年前のあの日……。
俺と鷹志と柿崎で、心臓破りレースをした時に会ったのだ」
悠介 「そうか……凍弥の奇跡の魔法自体が閏璃凍弥のカケラなら、
その閏璃凍弥自身の魂が加われば、その力はより鮮明に……!」
ドスッ。
悠介 「ふごぉっ!?」
凍弥 「聞けこの野郎」
真剣な顔で考え事をしてた晦の脇腹に貫手(。
悠介 「い、いきなりなにしやがるっ……!」
凍弥 「人に語らせておいて無視してたヤツの言うセリフか?それ」
悠介 「うぐ……それは謝るが……。なぁあんた、椛にいろいろ言ったのはお前か?」
凍弥 「椛?ああ、あのパワフリャなおなごさんね?
いろいろって言っても、俺は正直なことを言っただけだが」
悠介 「どんなことを?」
凍弥 「俺が好きなのは由未絵だけだー!と」
悠介 「ぐあ……」
ルナ 「一番キツイ言葉言ったのね……。ムナっちに同情するわ……」
凍弥 「なにを言う。キツイもなにも、俺が好きなのは由未絵だけだ」
てゆうかムナっちって誰?
凍弥 「ところでさ、貴様何者?
貴様との邂逅は何十年も前の話だというのに、なんだってそのままなの?
不老不死?无(ですか?光牙(撃てますか?」
悠介 「不老不死でも无でもない。光牙なんて撃てるか馬鹿者」
凍弥 「……じゃあ子孫!?経験継承!?ロマンシングサガ2!?」
悠介 「懐かしい言葉ばっかりだが、どれも違う」
ルナ 「ねえ悠介……?この人、頭ヘンなんじゃない?」
凍弥 「初対面の人になんて言い草だ、この空き缶ヘアーめ」
ルナ 「あきかっ───!?空き缶!?」
悠介 「ブッ……!」
ルナ 「悠介!?」
空き缶ヘアーのおなごにイチャモンつけ返したら、晦が吹き出した。
ルナ 「ちょっとあなた!わたしのどこを見て空き缶ヘアーとか言うのよ!」
凍弥 「だってホレ、頭の上で髪通してるのって空き缶だろ?」
俺は自分の頭の上あたりをついついと指差して見せ、それを促す。
ルナ 「違うわよこれは!!」
凍弥 「じゃあなに」
ルナ 「これは封冠(っていって、魔力を抑えるものなの!
空き缶なんかと一緒にしないでよね!!」
……ふむ、封冠、ねぇ……。
だが、あの大きさなら……
凍弥 「……べつにさ、髪じゃなくて腕につけてもよかったんじゃないか?」
ルナ 「───…………」
俺の言葉に、ただ呆然とするおなご。
どうやら今気づいたらしい。
悠介 「ブフッ!」
ルナ 「悠介っ!!」
悠介 「くははははは……!!お前が言葉で負けるなんて珍しいなっ……!」
ルナ 「うぅうう〜〜〜っ……!!ちょっとあなた!」
凍弥 「なんだ?」
ズビシと勢いよく俺を指差すおなご。
だが、その口から次の言葉が出ることはなかった。
ルナ 「う、ううう……!うー!」
凍弥 「言いたいことが思いつかないのに呼ぶなよ」
ルナ 「うううーーーー!!ゆ、悠介〜〜!!悔しいよ〜〜〜っ!!」
おなごは晦に抱きつき、泣いてしまった。
……どうでもいいが、これでは俺がイジメたみたいじゃないか。
凍弥 「……でさ。ここってアレか?月詠街か?」
悠介 「ああ、そうだ」
……なんというか、自分の知らない間に別の街に居るとヘンな気分だ。
夢遊病にプラスして、瞬間移動でもしてる感覚になる。
俺にそんな趣味はないんだが。
能力としてあるなら、そりゃあ便利だとは思えるが。
凍弥 「……でさ。ムナミーは一体、ここでなにをしたかったんだ?」
悠介 「聞いてどうする?」
凍弥 「それを達成してやろうかと。
なんてゆうか、俺は確かにこうして存在してはいるが、どうにも希薄なんだ。
別にもう死んだ人間だ、そこまでの執着はないが、
こうして人格が存在してる限りは人間らしいことはしていたい。
てゆうか……まあ、『意味』が欲しいんだ。ここに居る意味が。
だってのに手持ち無沙汰で存在しているだけってのは悔しいだろ?」
身振り手振りで説明するように、俺は熱心に説明していた。
実際、俺の人格がいつ消えるのかも謎なわけだし、
それならそれまで出来ることはしておきたい。
悠介 「そっか。でもなぁ……ルナ、どう思う?」
ルナ 「……うー、多分、悠介と同じこと思ってると思う……」
悠介 「……だよなぁ」
凍弥 「なんだ?言いたいことはハッキリ言うべきだぞ」
悠介 「ああ、そりゃそうだ。
……えっとな、お前が椛に会っても、火に油を注ぐだけじゃないかって」
凍弥 「なにぃ、何故だ」
悠介 「……解ってて言ってるだろ」
凍弥 「知らん」
悠介 「………」
いや、本当は知ってるが。
俺は初対面だろうが久しぶりに会ったヤツだろうが、遠慮はしない男なのだ。
凍弥 「まあ安心しろ、俺は俺として全力でそのおなごにぶつかろう。
だからムナミーのことがどうだろうが関係ない」
悠介 「それが一番危険だと思うんだがな……」
凍弥 「大丈夫大丈夫、俺にとっておきの案がある!」
悠介 「……無茶苦茶不安だぞ」
───…………。
───で、椛とやらの部屋の前に立つ。
目の前には襖。
俺はその襖に手をかけ、思いっきり開いた!
スパァーン!という小気味のいい音とともに、その部屋の全貌が明らかに!!
───まず確認したのは、びっくりしているおなご!
凍弥 「俺は閏璃凍弥だーーーっ!!」
その一瞬の隙をついて、俺はそう叫んでいた。
椛 「………」
相手は呆然としている。
ほんとは隙もなにもなかったんだが、強引にいかせてもらったわけだ。
凍弥 「よろしく」
椛 「………」
俺は出来るだけフレンディ〜な笑みを贈った。
だが、椛サンは口の端をヒクつかせて、ゆっくりと立ち上がり、歩み寄ってきた。
凍弥 「自己紹介をしたんだ、貴様も名乗らないのは失礼だぞ」
椛 「〜〜〜っ……!!だとしてもっ!!
女の子の部屋をノックも無しに開ける人が居ますかぁーーーっ!!!!」
咆哮。
思わず竦んでしまいそうになるのをこらえ、俺は開口した。
凍弥 「お前の目は節穴か!目の前に居るだろう!」
椛 「───」
凍弥 「ぐあ……」
言った刹那、再びおなごの目が真紅に変異し、髪が銀色になった。
こりゃいかん。
再びすまん、ムナミー。
俺は再び頭に手を添え、それを思いっきり捻った!
凍弥 「クロノスチェーーーンジ!!!」
メゴキャアッ!!
───……。
凍弥 「いてぇっ!?な、なんだぁっ!?」
ハッと気づくと、首が凄まじく痛かった。
そしていきなり殺気を感じると、目の前には殺気で景色を歪ませてる椛が。
凍弥 「あ、あれ……?あれぇーーーっ!!?」
状況がよく解らないでいると、椛が握り拳に息を吹きかけた。
椛 「歯を食い縛りなさい!この礼儀知らずーーーっ!!!!!」
凍弥 「キャアアーーーーッ!!!!!」
やがて、きゅっと握り締められた拳が刹那の時の中で目前へと迫りメゴシャアッ!!
───…………。
───……。
凍弥 「でな、目が覚めたら床に転がってた」
悠介 「そりゃ、大層な衝撃だったんだろうな」
一撃の名の下に気絶させられたらしいムナミーは、再び俺に入れ替わっていた。
なんとも不憫なことだが、それはそれでOKだろう。
悠介 「凄まじかったぞ……。殴りつけられて、壁にめり込んでたからな」
凍弥 「そりゃ、気絶するなってほうが無茶だな」
悠介 「しかし行動力のあるヤツだな。
椛を知ってるヤツなら、あんなことが出来るのは彰利くらいなもんだ」
凍弥 「ま、俺はいざとなったらムナミーと人格交換してるからな。全く痛くない」
悠介 「……少しは凍弥のことも考えてやれよ……」
凍弥 「馬鹿、考えてなければ融合なんてするわけないだろうが」
悠介 「ん……それもそうか」
晦は頬をコリコリと掻いて、それから少し笑って頷いた。
悠介 「お前、彰利に似てるな」
凍弥 「そうかぁ?学生の頃に会った時、
あいつと一緒にされるのだけは嫌だって思ったくらいだぞ?」
悠介 「いいや、似てる。まあその、性格が一緒とかじゃなくて……なんてゆうのかな。
誰かのために馬鹿になれるところとか、かな」
凍弥 「……そりゃ買い被りってヤツだな。俺はそんなにお人好しじゃない」
悠介 「そうか?俺にはそう見えるけどな」
凍弥 「融合したのは『どうせ消えるなら』って思ったからだ。
それに……こいつは柾樹の息子だからな。
血縁があるわけでもないが、幼馴染の孫だ。見捨てることなんか出来るか」
悠介 「……そういうところがお人好しだって言ってるんだけどな」
俺の言葉を聞いて、晦は笑みをこぼした。
悠介 「あの時は悪かった。随分邪険に接したよな」
凍弥 「気にするなよ。誰だって初対面のヤツにはあんなもんだろ。
一目見ても、優等生には見えなかったしな」
『俺も含めてな』と続けると、晦は笑った。
その笑みはまるで子供みたいな笑みだった。
ルナ 「ぶー……」
その横で、話に置いていかれていたおなごが口を尖らす。
ルナ 「珍しいよね、悠介がホモっち以外の男との会話で笑うなんて」
悠介 「……俺は何者に見られてたんだ?」
ルナ 「でも事実じゃない。あー、それともあれかなー?
男友達が居なかったからかなー?女ばっかりだったもんねー?」
悠介 「なに拗ねてんだ、ばか」
ルナ 「むっ!拗ねてないもん!
なにさ、わたしとの会話じゃそんな風に笑ってくれないくせに!」
悠介 「そりゃあなぁ……お前にこのテの会話を望むのは無理ってもんだろ」
ルナ 「そんなこと、やってみなきゃ解らないじゃない!!」
悠介 「無理だって。お前じゃ」
ルナ 「うぐぐぐぐ……!!ちょっとあなた!!」
また俺にズビシと指を差すおなご。
凍弥 「なんだよ、なんか用か?」
ルナ 「わたしと会話しなさい!
絶対にあなたよりわたしの方が楽しいって思わせてやるんだからっ!」
凍弥 「……そりゃまた、随分と虚しい努力で……」
ルナ 「むーーーっ!!虚しいってゆぅなーーーっ!!」
……ふむ。
凍弥 「ま、いいや。まずは自己紹介といこうか。俺は閏璃凍弥。お前は?」
ルナ 「……ルナ=フラットゼファーよ」
凍弥 「『お月さん』と呼んでいいか?」
ルナ 「喧嘩売ってる?」
凍弥 「呼び方の云々で喧嘩に落ち込むなんて、ガキだな」
ルナ 「なっ……!」
凍弥 「ほれ、何か言い返してみろ。会話はキャッチボールだからな」
ルナ 「う……ぐぐぐ……!わ、わかったわよ!好きなように呼べば!?」
凍弥 「じゃあ今からお前はアンドレだ」
ルナ 「アンドレ!?なんで!?」
凍弥 「え……?好きなように呼べって言ったじゃないか」
ルナ 「あ、あう……で、でもアンドレは───」
凍弥 「なにぃ、まさか自分で胸張って大声で言ったことを今更取り消すってのか!?」
ルナ 「うぐっ!あ、あうあうあう……!!」
凍弥 「よろしく、アンドレ」
俺は震えておろおろするアンドレの肩に手を置くと、そう言ってやった。
途端、それまで肩を震わせていた晦が激しく吹き出した。
ルナ 「ゆ、悠介っ!!?」
悠介 「ぶははははははははは!!!!お前が言い包められてっ……!
しかもアンドレ……!アンド……ぶははははははは!!!」
ルナ 「うー!うー!!」
凍弥 「長良川(の」
ルナ 「うー!」
悠介 「ぶはぁーーっ!!はがっ……!ぶははははははは!!」
ルナ 「う、ううう……!!あなたちょっと黙ってて!!」
凍弥 「落ちつけアンドレ、お前が自爆するようなことしてるだけだろ」
ルナ 「アンドレって言うなーーーっ!!」
凍弥 「悪い……ゴンザレスの方がよかったよな……」
ルナ 「いいわけないわよっ!!」
凍弥 「言い訳はないのか。潔(いんだな、アンドレ」
ルナ 「そうじゃなくてっ!!」
凍弥 「ああすまん、ゴンザレスだったな」
ルナ 「違うってば!!」
凍弥 「……ロドリゲス!?」
ルナ 「もっと違う!!」
凍弥 「どうしろっていうんだアンドレ!!」
ルナ 「アンドレ言うなぁーーーーっ!!!」
そうして、俺とアンドレが騒いでいる中、晦はずっと腹を抱えて笑っていましたとさ……
───……。
悠介 「いや、まいったな……はははは……」
熱が冷めきらないのか、まだ微妙に笑ってる晦を前に、俺は適当にくつろいでいた。
晦の横には、いじめられた子供のように俯いて、
涙目で晦の腕にしがみついているアンドレ。
ふっ……虚しい勝利を手に入れてしまった……。
凍弥 「まったくだ、ここまで俺の言葉に翻弄されてくれるやつも珍しい」
柿崎に勝るとも劣らぬ逸材よ。
悠介 「それにしても、ルナが言葉負けするとはなぁ。
言葉で負けてもすぐに手を出すんじゃないかって思ってたのに」
凍弥 「言葉で負けたのに手を出せば、それこそ敗者だからな」
ルナ 「わ、わたしは負けたわけじゃないんだからねっ!?
今度勝負した時は絶対にわたしが勝つんだから!!」
凍弥 「じゃ、今勝負するかっ」
ルナ 「ひうっ……!?」
俺の言葉に、晦の腕に隠れるように抱き付くアンドレ。
悠介 「……ルナが怯えるとは」
凍弥 「会話しただけでここまで怖がられるのも、ある意味才能だと思わないか?」
悠介 「一理あるな」
ルナ 「こ、怖がって、なんか……!」
悠介 「よせよせ、お前さっき大敗を味わって泣いただろうが」
ルナ 「だってこの人融通聞かないんだもん!!」
凍弥 「俺としては普通に会話してただけなんだが」
ルナ 「性質悪いわよっ!!」
凍弥 「人聞きの悪いことを言うなよアンドレ」
ルナ 「アンドレじゃないってば!!」
凍弥 「アンドレアス・リーガン!?」
ルナ 「違うぅっ!!」
凍弥 「で、本名は?」
ルナ 「ルナ!ルナ=フラットゼファー!!」
凍弥 「よろしくアンドレ」
ルナ 「違うったらぁっ!!!」
───……。
5分後。
ルナ 「うわぁああああああああん悠介〜〜〜っ!!!」
俺は再び、虚しい勝利を手にしていた。
おかしい……俺は友好的に会話をしていただけなんだが……。
凍弥 「えーと、何故泣かれたんだ?俺は」
悠介 「こいつ、人と接するって部分ではまだまだ子供でな。
自分の思い通りに話が進まないのが苦手なんだ。
だから予測出来ない会話ばっかりだと余裕が無くなるんだろ」
凍弥 「……俺の話って、凄まじく予測が簡単だと思わないか?」
悠介 「思わない」
即答だった。
悠介 「お前の言うこと、先の言葉からの派生がまったく読めん。
もし解ったらすごいぞ」
凍弥 「いや、照れるな……」
悠介 「ちなみに全く誉めてないからな。
そしてそういうところが読めんと言ってるんだ」
凍弥 「今のは素でボケてみたんだがな……」
悠介 「真面目に言ってるようにしか聞こえなかったが」
凍弥 「そ、そうか?」
俺の演技もハリウッド級ということか……?
悠介 「今、俺の演技もハリウッド級とか思わなかったか?」
凍弥 「なにぃ!?貴様……エスパーか!?」
悠介 「くっ……くはははははは……!!やっぱお前、彰利に似てるって……!!」
凍弥 「……そんなことはないと思うんだけどなぁ」
俺が弦月彰利に似ているとしたら、鷹志や柿崎だって友達やめてた気がするし。
俺も逆の立場だったら……逃げてたな、うん。
凍弥 「そういや、その弦月彰利はどうしてるんだ?
ムナミーの記憶じゃあ一応この時代に居るみたいだけど」
悠介 「ああ、ピンピンしてると思うぞ?ちょっとした問題があって、追い出したが」
彰利 「ヘェエエックシッ!!」
だ、誰!?
今、誰かアタイのこと噂した!?
彰利 「……ま、いいコテ。それより今日の寝床を探さなきゃなぁ……。
うう、ホームレスって辛いわ……」
悠介 「あいつなら金が無くても生きられると思うしな」
凍弥 「へえ……逞しいんだな」
がしゃーーーーん!!!
魚屋 「ど、泥棒だーーーっ!!!」
彰利 「とんずらぁーーーっ!!!!」
よっしゃあ!
今日は焼き魚だ!!
悠介 「ああ、誰かのことばっかり考えてるやつだけどさ、俺が誇れる親友だ」
凍弥 「……信頼してるんだな」
猫 「フギャアアアオオオーーーッ!!」
彰利 「ブシィーーッ!!フカァーーーッ!!」
猫 「ナオォオーーーッ……!!」(訳:ここは俺の縄張りだ!失せろ新入り!)
彰利 「ボンゲェエエーーーッ!!」(訳:知るかボケ!御託は俺に勝ってから言え!)
猫 「……ウゥウウーー……!!」(訳:その魚、置いていってもらうぜ……!)
彰利 「ガルルルルル…………!!」(訳:やってみろ……猫風情が……)
オバン「いやざますねぇ……猫と喧嘩してる人が居るざます……」
奥方 「やぁねぇ……」
彰利 「うっせぇババァ!!これは生存競争なんだよ!!」
猫 「ウナァーーーッ!!!」
彰利 「なっ!?しまっ───ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
バリバリバリバリバリィーーーーーーーッ!!!!!
悠介 「あいつ、ヘンな風に見えるけどな、人としての心は捨てたりしないんだ。
俺はあいつを信頼してるし、冗談言い合える関係を大事に思ってる」
凍弥 「そっか、そりゃいい友人だな」
彰利 「いで、いででで……」
うう……一瞬の隙を狙われて負けてしまった……。
俺の魚が……!!
オバン「見たざます?奥さん。あのコ、猫に負けて魚取られていったざますよ……」
奥方 「無様ねぇ〜」
彰利 「う、うるせぇ!!うるせぇうるせぇ!!
黙れババァども!見せ物じゃねぇぞ!?」
奥方 「まぁ!喋ったわ!」
彰利 「喋っちゃ悪いかぁああああああああっ!!!!」
アタイは猛然と奥方どもに突進して
警察 「警察だーーーっ!!」
突如現れた警察を前に、立ち止った。
警察 「ここらに魚泥棒が居るという通報を聞きました!」
オバン「あの男ざます!!」
彰利 「ゲェーーーッ!!?ババァてめぇ!!」
即答でアタイを献上するババァ。
無慈悲すぎます。
───フッ!だが警官ひとりくらい、あっさりと気絶させちまえば逃げることなど───
男1 「なぁにぃ〜〜っ!?オイラたちの街で泥棒たぁイイ度胸だ小僧ォ〜〜ッ!!」
男2 「覚悟できてるンだろうなぁ、オォ!?」
ヤクザ「ワシのナワバリで盗みたぁいい度胸じゃあ!!」
彰利 「キャーッ!?」
なにやらゴツイお方達がゾロゾロと!?
彰利 「お、俺じゃない!このババアがやったんだ!」
俺はババアにウィンクをして、口裏合わせを促した!
オバン「ンなことねぇざます。その男のデマカセざますよ」
彰利 「ババァーーーッ!!てめぇーーーっ!!!」
ババアが謀反した!!
てゆうかいきなり口裏合わせてくれるわけがありませんでした!!
男衆 『いきなり人に罪を擦り付けようたぁいい度胸だ小僧ォオオオオオ!!!!』
彰利 「ひゃっ……ひゃぁあああああああああああああああああっ!!!!!!!」
ガタイのいい男……いや、漢どもがアタイを囲んで拳を振ってギャアアアア!!!!
めごごしゃべきゃごきゃどぼぐぼごしゃめしゃがんがんごしゃごしゃ…………
悠介 「だからかな。俺もあいつをずっと友達だって信じれる」
凍弥 「へえ……いいもんだな、そういうのって」
悠介 「だろ?はは……っと、なんかシメっぽくなっちまったな。テレビでも見るか?」
凍弥 「んにゃ、俺はべつにいいよ」
悠介 「そうか?」
凍弥 「……って、やっぱつけてくれ。
俺が離れてた頃から、どれくらい番組が変わったのかを知りたい」
悠介 「そか。そんじゃ───」
晦がテレビリモコンを操作して、テレビをつける。
するとまず、ニュース速報が目に入った。
男 『突然ですがニュースです。昂風街(にて、目から光線を出す男を目撃しました』
テレビを見た晦の動きが止まる。
悠介 「光線って……」
凍弥 「昂風街って……」
昂風街。
俺が生まれ育った思い出の街……ってゆうか、現在柾樹達が居る街だ。
男 「その男は帯刀しており、銃刀法違反に引っ掛かり、
尚且つ魚を盗み猫に負け、人としてのプライドが微塵にも無い宇宙人だそうで』
う、宇宙人……?
男 『男は現在、ひとつの家に引き篭もっている様子です。
子供が人質に取られているらしく、警察もどうすることも出来ません。
あ……ただいま、二階のベランダに犯人が出てきました!』
彰利 『ィヤァッハッハッハッハッハァーーーッ!!───絶景!』
どごしゃあっ!!
凍弥 「あ」
視界の中で、晦がヅッコケた。
彰利 『てめぇらーーーっ!動くなよーーっ!?動くと……ブスッ、だぜ!?』
オバン『あぁ!やすおちゃーーーん!!てめぇやすおちゃんを離すざますーーーっ!!』
彰利 「動くなオバーーーン!ドントムーブ!!動くヨクナイ!NOウゴク!ノー!!
それ以上騒ぐつもりならこの子供のケツにキャベツの芯をパイルダー・オン!」
オバン『ひぃいやめるざます!!
そげなことしたら、やすおちゃんが痔になってしまうざますー!!』
彰利 『所詮貴様のようなヤツが私のもとに辿り着こうなど不届きなことなのだぁ!!
ィヤァッハッハッハッハッハッハァッ!!ここは高き場所!神の領域だ!
全てが目障り!!人も木も土も!あるべき場所へ帰るがいい!!
全て青海に降る雨となれェ!ィヤァッハッハッハッハッハッハァッ!!』
オバン『や、やすおちゃぁーーーん!!!』
彰利 『力こそが正義!支配こそが統率!天上天下唯我独尊の名の下に我を崇めよ!!
ィヤッハッハ!!ィヤァーーーッハッハッハッハッハッハァーーーッ!!!!』
───ブツッ。
黒くなった画面が、全ての色を遮断する。
悠介 「…………………」
凍弥 「…………………」
なんだかとってもやるせない空気が流れた。
悠介 「友達…………やめよっかな……」
その声は本当に本当に、絶望の淵から響くような言葉だった……。
凍弥 「そして訂正してくれ……。
誰が『似てる』とか言おうが、俺はあんなことしない……」
悠介 「悪かった……」
で、何気なくもう一度つけたテレビの中には、
偉そうにしてベランダに肘をかけようとしてすっぽ抜け、
バランスを崩してベランダから落下し、警察に取り押さえられている弦月彰利が居た。
……それを見た晦は、恥ずかしさと情けなさに、長い長い溜め息を吐いたとさ……。
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