───少年の願いの先───
───……。
彰衛門「…………んー……」
そして俺は考える。
あの症状についてを。
どっかで見た筈なんだ、アレと同じ症状を。
娘ッ子……菜苗さんもそうだったが、他にも……
彰衛門「思い出せればなんとかなるかもしれんのに……!!あぁくそっ!!」
イライラが募る。
解消されないストレスほど性質の悪いものはない。
彰衛門「いや待て。俺……あ、あぁあ……!?」
なにか引っ掛かってる。
確か思い出した筈だ、あの時。
誰を頼ろうとしてた?
夜華さんが倒れた時、誰を……て───ああ!!
彰衛門「……童栄!童栄のじっちゃん!!」
思い出した!!
あの小僧だ!童栄のじっちゃんの診療所に居た小僧!!
あいつの症状に似てるんだ!!
彰衛門「そっかそっか!それなら月清力で抑えてられる!」
あの小僧がいつからあの診療所に居たのかなんてことはどうでもいい!
ただあの小僧は、じっちゃんの月清力のおかげで楽になってたことは確かだ!
彰衛門「てゆうか……あの小僧、風太と同じような口調だったけど……」
まさか、なぁ。
まさかあの小僧が風太と魂を同じくする者って……
彰衛門「……有り得そうで怖いな」
でも血縁はないのだろう。
魂を同じくってことは輪廻転生に近いことで、血縁とはまるで関係ない。
同調みたいなもんだろう。
たとえばこの時代で風太の魂が召され、生まれ変わる時。
その魂が必ずひとつに宿るとは限らないってゆう仮説だ。
彰衛門「……でも、なんだってこの時代だとあの小僧のこと忘れてたんだろ」
謎だ。
別に消えたってわけでもあるまいに……。
まあもし消えたとしても、
別の歴史で会ってるから思い出そうとすれば思い出せるけどね。
彰衛門「まあいいコテ!そうと決まれば悠之慎にまた創造してもらうまでよ!」
俺は急ぎ足で悠之慎の居るお堂へと駆けた!!
そして……
スグル『おわぁ〜〜〜〜っ!!!!』
……そして。
悠之慎「お前さ……なにか執着でもあるのか?」
彰衛門「面目ない……」
目の前には、イメージ投影で創造してもらった月清力発生装置が。
今回ばっかりは望んだわけでもないのに、何故かスグルくんが出た。
スグル『おわぁ〜〜〜っ!!』
悠之慎「ものすごく五月蝿いんだが……」
彰衛門「うう……」
感じます、『馬鹿かお前はオーラ』。
めちゃくちゃ睨まれてるし。
すんません、真面目に。
彰衛門「ま、まあさ、その……。
これを設置すれば一応月清力発生するわけだし……そう怒らんといて?」
悠之慎「怒ってない、呆れてるんだ」
彰衛門「面目ない……」
まいったなぁ、俺の頭の中ってそこまでスグルくんに侵されてるのか?
いやいや、今はそれよりも風太だ。
俺は布団に寝かされている風太の傍にスグルくんを置いた。
これで随分楽になるとは思うが───
スグル『おわぁ〜〜〜っ!!!』
風太 「う……うう……」
スグル『おわぁ〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!』
風太 「う……う……?」
スグル『おわぁ〜〜〜〜〜っ!!』
風太 「うわぁっ!?」
魘されていた風太が目を覚まし、しかも───叫んだ!!
悠之慎「ば、馬鹿な……あの、いつでもどこでも冷静沈着で穏やかな風太に、
『うわぁっ!!』と言わせるとは……!!」
悠之慎は大層驚いていた。
俺も驚きです。
風太 「う、ぐっ……!は、はぁっ……!」
悠之慎「大丈夫か……?」
風太 「けほっ……!う、うん……大丈夫……」
悠之慎「……訊いておいてなんだが、ウソをつくな。
大丈夫、って顔じゃないぞ、今のお前」
風太 「あ、はは……ちょっと……疲れてるだけだよ……」
相当辛い筈なのに、風太は笑ってみせた。
……嗄葉に心配させないように。
嗄葉 「ふーたくん……」
風太 「嗄葉ちゃん……僕は大丈夫だから、そんな顔しちゃダメだよ……」
嗄葉 「でも……」
風太 「ほら、全然大丈夫だからっ……!」
言うや否や、風太は立ち上がって駆けまわってみせた。
体への負担は相当大きな筈なのに。
嗄葉 「でも……すごく魘されてたし……」
風太 「夢を……怖い夢を見てたんだ……。もう、大丈夫だから……」
嗄葉 「……ほんと?」
風太 「うん。大丈夫だよ」
嗄葉 「よかった……」
にっこりと微笑む嗄葉。
それを見て、風太はひどく安心したように笑った。
嗄葉 「よかった……ほんとに、よかっ……」
悠之慎「あ、おい───嗄葉っ!?」
嗄葉が倒れた。
嫌な予感が旋律したが、どうやら気張ってて疲れが溜まってただけらしい。
今は可愛らしい寝息を立てている。
彰衛門「………」
問題は……
風太 「ぐぅっ!う、うぐっ……!!」
問題は……風太だ。
我慢が響いたのか、風太は立って居られなくなってその場に倒れた。
いや、倒れそうになるのを抱き留めた。
風太 「───!ダメだ!僕に触っちゃ───!」
彰衛門「なっ───」
しかし突き放される。
彰衛門「風太……?」
風太 「ごめん……でも……解るんだ……。
僕の中に『呪い』があって、それは……彰衛門を狙っている……。
嗄葉ちゃんと、彰衛門と、悠之慎を狙ってる……。
どうしてだか解らないけど……解るんだ……」
悠之慎「風太……」
風太 「……お願いが、あるんだ……聞いてもらえるかな……」
悠之慎「………」
彰衛門「………」
俺と悠之慎は顔を見合わせ、ゆっくりと頷いてから風太を見た。
───……。
嗄葉 「う……ん……?」
嗄葉が目覚めた。
なんの不安も持ち合わせていない、純粋な目覚めだ。
俺はそんな嗄葉を見ながら、これから言わなきゃいけないことに胸を痛めた。
嗄葉 「あきえもん……?」
彰衛門「ああ」
嗄葉が俺を見て名を呼ぶ。
そんな安堵を破壊することになっても……黙る気にはなれなかった。
彰衛門「よく聞けよ、嗄葉」
嗄葉 「……?」
彰衛門「……風太は、遠くの村に旅立った」
嗄葉 「え───」
解らない、といった感じで俺を見上げる嗄葉。
そんな顔が辛くても、俺は続ける他なかった。
彰衛門「あいつは遠くに旅立って、二度と戻ってくることはない」
嗄葉 「どうして……!?どうしてっ!?」
彰衛門「……風太を襲った呪いは治ってなんかなかったんだ。
あれはお前を不安にさせないための精一杯の演技だったんだよ」
嗄葉 「どこっ!?ふーたくん、何処に居るの!?」
彰衛門「……悪いけど、言えない」
嗄葉 「どっ……どうして!!どうして!?あきえもん!!」
彰衛門「───俺がそうしたいからだ。お前に教えることなんて何もない」
嗄葉 「───!!」
嗄葉が驚愕の顔で俺を見た。
『信じられない』と、その顔が言っている。
けど、俺は真実を教える気はないし……あいつがどこに言ったのかを語る気も無かった。
……そんな時になってようやく、風太のことが苦手だった理由が解った。
あいつは俺に似てたんだ。
誰かのために自分を犠牲にするようなところが……。
とんでもなく辛いくせに、誰かの前では絶対に弱さを見せないところが……
鏡を見ているみたいで、とんでもなく嫌だったんだ。
───風太には親が居ない。
散々暴力を振るわれた挙句、捨てられたんだという。
夜華さんに拾われるまではずっと、いろいろな人に嫌な目で見られたりしたんだろう。
そんなことも含めて……俺はきっと、あいつが……自分が苦手だったんだ。
だからせめて、あいつの願いは叶えてやる。
自分のことではなにも出来なかった俺だけど、
誰かの願いくらいは聞いてやれると思うから。
そして俺が嫌われることであいつが安心していられるなら……
嗄葉 「おしえてよ!おねがいだからおしえて!あきえもん!」
彰衛門「ダメだ。教えられない」
嗄葉 「どうして!」
彰衛門「……っ……俺がそうしたいからだって言ってるだろう!
ワガママ言うんじゃねぇ!!いい加減にしねぇと殴るぞ!!」
嗄葉 「ひぅっ……!?」
……あいつが安心できるなら、俺がどれだけ嫌われようが構わない。
嗄葉 「うぐっ……うっ……!きらい……!あきえもんなんかだいっきらい!!」
彰衛門「そうかよ……」
俺は踵を返して、嗄葉の部屋を後にした。
その背に何度も罵倒が飛んだが、そのすべてを受け止めた上で。
悠之慎「……ご苦労さん」
部屋を出た先に悠之慎が居た。
彰衛門「なんだ、聞いてたのか。人が悪いなぁ」
悠之慎「そう言うなよ。
しょうがなかったとはいえ、理解者が居ないと辛過ぎるだろ、お前」
彰衛門「……ちぇっ、なんでもお見通しかよ……」
悠之慎「どうだかな」
閉めた障子の先からは、大声で泣く嗄葉の声。
心の中がムシャクシャするのを感じて、さっさとその場を離れることにした。
───
石塚にルナカオスを封印した。
これでなにかの言い伝えでも捏造して残せば、誰も触れないだろう。
さて……
彰衛門「風太は?」
悠之慎「ああ。無事に送り届けた」
……風太が俺達に頭を下げた時から俺達がしたこと。
それは、かつての双子山まで行って小屋を作り、そこに風太を住ませることだった。
小屋は悠之慎が簡単に創造してしまって、俺がすることなんて特になかったけど……
風太はここからそこまで、自分の足で歩いていった。
触れれば呪いが漏れ、俺達が蝕まれてしまうから。
風太は自分以外の誰かが傷つくことを嫌った。
だから……俺でさえ遠いと感じた双子山への道のりをひとりで歩いた。
もちろん悠之慎が見届けてくれたから問題はなかったと思う。
彰衛門「これからどうする?」
悠之慎「実はな、俺もそれを訊こうとしてた」
さすがにこの神社には居られなくなるかもしれない。
かといって双子山に居る風太の傍に居るのは、風太が良しとしないだろう。
彰衛門「……コレ以上なにをしろっていうんだよ、冥月……」
自然にそんな呟きが漏れた。
一瞬悠之慎がきょとんとしたけど、追求するようなことはしなかった。
……どうするかな、本当に……。
───……。
結局俺達は神社に住みついている。
俺を見る嗄葉の目は既に親の仇を見るような目で、俺も結構呆れている。
人は変わるものだな、と。
風太が双子山に行ってから五年が過ぎ、嗄葉も成長していっている中で……
俺と悠之慎の姿は全然変わらない。
冥月刀が上手く調整しているんだろう。
それとも成長の時を止めているのか。
どちらにしろ、居心地が悪いことは確かだった。
───……。
この時代に来てから十年目。
嗄葉は14を過ぎ、この時代では大人として認められる歳になった。
彰衛門「赤飯、食う?」
嗄葉 「いつまでこの神社に居るつもりなんですか……!
いい加減に出ていってください!!」
彰衛門「知らんなぁ〜。何故俺様が貴様ごときの願いを聞かねばならんのだぁ〜?」
嗄葉 「くっ……!!お母様は馬鹿です!!
何故こんな最低な男をやさしいなんて……!!」
彰衛門「馬鹿とはなんだこの野郎!!」
嗄葉 「馬鹿を馬鹿と言ってなにが悪いんですか!!
あなたみたいな人が世の中を悪くするんです!!
どうせここに残っているのもこの神社が目当てだからでしょう!!」
彰衛門「………」
嗄葉 「図星ですか!?まったく呆れますね!
こんな様子じゃあ、こんな人を『親』だと思ってたお母様も、
さぞかしおかしな人だったんでしょうね!!」
彰衛門「なに……?」
嗄葉 「お姉さまからよくお母様の話は聞いていましたけど……
あなたのことを話されたことなんて一度もなかった!!
それはそれだけあなたがどうでもいい最低な人だったからでしょう!!」
……俺のことをどうこう言うのは勝手だ。
だが……
彰衛門「……思いあがるな、戯け」
嗄葉 「なっ……!なにを……」
彰衛門「どんな辛さの末に自分が産まれたかも知らないくせに……!!
勝手な想像ばっかりして思いあがってんじゃねぇて言ったんだ馬鹿野郎ッ!!」
嗄葉 「っ……!!」
彰衛門「お前が俺のことをどうこう言うのはお前の勝手だ!!
けどな!楓巫女や楓にそんな虚言を言うつもりなら俺だって本気で怒るぞ!!」
嗄葉 「……う……」
確かにあの時の楓は馬鹿だったかもしれない。
好きな人……鮠鷹のために周りが見えなくなってたのも確かだ。
でもあいつは自分のしたことを悔いていた。
辛そうにしながら、嗄葉を作り上げた。
あの時のあいつの気持ちはあいつにしか解らない。
それを勝手な想像で罵倒するのは絶対に間違っている。
彰衛門「面白くない……」
嗄葉 「っく……う……ひっく……」
泣いてしまった嗄葉を慰めることもせず、俺は部屋をあとにした。
───……。
悠之慎「調子はどうだ?」
風太 「うん……今日はそうでもないよ」
風太の世話をするようになってから10と4年。
最初は弱音をてんで吐かないヤツだったが、
大人に近づくにつれて頼ってくれるようにはなってくれた。
厚意を受け取るってことを知ってくれたらしい。
スグル『おわぁ〜〜〜っ』
風太 「ただちょっと……この声を聞いてると疲れるかな」
悠之慎「悪いな。それの文句は彰衛門に言ってくれ」
風太 「ふふ……でも、これがあると不思議と楽なんだ」
悠之慎「それを認めてくれただけで十分だ。
もう『声が嫌だから』って外に放り投げたりしないでくれよ?」
風太 「それはもちろん。
投げ飛ばした途端にあれだけ悪化すれば、もう怖くて出来ないよ」
違いない。
あれから風太がスグルくんを捨てることは何度かあった。
けどその度に悪化するもんだから、もう認めてくれたんだろう。
信用する他無いとはいえ、正直俺もこんなもんが効果あるのかと疑ってたくらいだ。
風太 「今日は彰衛門、どうしてるかな」
悠之慎「そうだなぁ……また嗄葉でもからかってるか……それとも」
風太 「それとも……喧嘩したか?」
悠之慎「……やれやれ。お前って本当に鋭いな」
風太 「そうでもないよ。ただ……僕の所為で誰かが喧嘩するのは嫌だなぁ」
悠之慎「そりゃ贅沢ってもんだ。人は誰しも誰かのために喧嘩するもんなんだよ」
風太 「うん……そうかもしれないね」
あの日から今日まで、風太は数えられる程度しか立ってない。
その『立てた日』に限ってスグルくんを投げ捨てるもんだから、
ちっとも回復には向かわないし……。
風太 「悠之慎が来てから、どれくらい経つかな」
悠之慎「んー?14年くらいじゃないか?」
風太 「そっか……でも、全然背格好が変わらないんだね」
悠之慎「それは教えただろ?
それは俺達が時の旅人だからだ。この時代で歳をとることはない」
風太 「……うん」
悠之慎「それより……そろそろかな?」
風太 「うん、きっと」
ばたんっ!
麻奈 「こ、ここここんにちわっ!」
来た。
悠之慎「麻奈、ここでは静かにって言ってるだろう」
麻奈 「あう……面目ないです。
でも風ちゃんのお世話をするのはわたしの生き甲斐です!!」
風太 「大袈裟だよ、麻奈」
麻奈 「大袈裟なんかじゃないよ!
誰もが風ちゃんを見捨てようと、わたしは見捨てないからね!」
……鏡穂麻奈。
数年前からここに来るようになった女だ。
山に登って道に迷った際に立ち寄ったというものだが、
どうやらこいつ、風太に一目惚れしやがったらしい。
止めても聞かないところは嫌いじゃないが、素直に馬鹿なのがたまにキズだ。
……ちなみに言うが、風太は麻奈の気持ちにはてんで気づいてなかったりする。
麻奈 「風ちゃん!はい、あーん」
悠之慎「くぉら」
ズビシッ!
麻奈 「あいたっ!な、なにするの、お悠(さん!」
悠之慎「お悠さん言うな。
それにお前が作った料理なんて毒にはなるが良薬にはほど遠い」
麻奈 「むぐっ……!!しょ、勝負だぁーーっ!!」
風太 「鮮やかな勝利だったね、悠之慎」
悠之慎「ああ、ありがとう」
麻奈 「まだなにもしてないよ!」
……こんな遣り取りが数年前から続いていたりする。
なんだかんだで風太は楽しんでいるようだが……
悠之慎「お前さ、なんでも勝負で解決しようとするの、やめたほうがいいぞ?」
麻奈 「え?なんで?すぐに決まっていいと思うよ?」
悠之慎「お前のそういうところは嫌いじゃないが、
もっと女らしくあれって言ってるんだ」
麻奈 「むむ……」
俺にはもう、こいつの内面が手に取るように解っていた。
ふと気づけば当たり前のように受け取れる。
『ああ、そうか……馬鹿なんだ、こいつ』と。
それほど麻奈は単純だ。
なんでも勝負したがるし。
ちなみに今までした勝負の数、およそ……いや、毎日やってるけど。
その中で一度だけしか負けたことはない。
その勝負ってのも『不味い料理勝負』ってことで、
見事な好成績で俺を圧倒しつつ勝利の栄光を掴んだ麻奈は、
女としてのプライドを自分の手で大層傷つけた。
それでも次の瞬間には笑い、風太にアプローチを続ける。
諦めが悪いって点では、俺は結構こいつのことを気に入っている。
悠之慎「ま、諦めが悪いってことと、
鬱陶しいってことの域を弁えてるってのはいいことだ」
麻奈 「うんん?なんか言った?お悠さん」
悠之慎「そのお悠さんやめぃ」
溜め息を吐きつつ、今日までのことを思う。
俺が見るに、風太は嗄葉を『妹』として見ていて、恋だのの対象としては見ていない。
だからといって麻奈のことをどう思っているかはまた別。
普段からニコニコ顔の風太は、その表情から何かを読み取るのは難しい。
それでも『好意的だ』ということくらいは解る。
果たしてそれが『好き』に届くものなのか『友達』としてのものなのか。
それまでは流石に解らない。
……もっとも、俺はどちらであろうと応援するつもりだ。
嗄葉が風太のことを好きだとしても、判断は風太にある。
悠之慎「なぁ麻奈。風太のこと好きか?」
麻奈 「もちろん」
小声で訊いてみたところ、即答。
これは実に『恋』の方の返事だった。
俺は次いで、風太の耳元で囁いた。
悠之慎「なぁ風太。麻奈のこと、どう思う?」
風太 「嫌いじゃないかな」
悠之慎「また曖昧な答えだな……」
今までの経験だが、風太は『どっち付かず』の言葉が多い。
不快感を感じないのが不思議なんだが、それだけこいつの傍は穏やかってことだろう。
……などと思っていた時。
彰衛門「ただいまギョ〜」
妙な言葉とともに彰衛門が現れた。
麻奈 「うわっ!来たっ!」
彰衛門「ややっ!麻奈っちでねが!!よう来たのぅ!!ゆっくりしちぇけ!!」
麻奈を見るや否や、ズカズカと乗り込んでくる。
麻奈 「わわわ……わたしこの人苦手……!」
彰衛門「相変わらず馬鹿しておるかね!?えぇーーーっ!?」
麻奈 「や、やめてよ!わたし別に馬鹿なんかじゃないんだからっ!」
彰衛門「ならば勝負するかね!?」
麻奈 「や……やだ」
彰衛門「何故かね!悠之慎にはすぐに勝負を挑むくせに!」
麻奈 「だって彰衛門ってわたしが負けると、
ここぞとばかりに『馬鹿め!馬鹿め!』って言うし!」
彰衛門「負ける方が悪い」
麻奈 「そ、そうだけど……」
ジリジリと間合いを詰められている麻奈が退く。
そんな状況を楽しみながら、俺は彰衛門に声をかけた。
悠之慎「嗄葉の方はどうだ?」
彰衛門「喧嘩してまいりました」
悠之慎「あー……そうか」
麻奈 「女の子と喧嘩するなんて、彰衛門ってばヒドイ人だね」
彰衛門「なに、お前には負ける」
麻奈 「むむっ!?それどういう意味!?」
彰衛門「フッ……馬鹿ってことさ」
麻奈 「ばっ───馬鹿って言うなーーーっ!!」
馬鹿は関係ないっていうのに、どうしてその言葉に反応するのか。
『馬鹿は関係ないでしょ』くらい言えばいいのにどうしてそれをしないのか……
少し考えてみようとしたが、すぐに答えが出た。
悠之慎「………」
麻奈 「……なに?その『ああ、そっか……』って顔」
悠之慎「いや、すまん。考えるまでもなかった」
そっか……『馬鹿は関係ないでしょ』と言うのを思いつかないくらいに馬鹿なんだ。
───……。
悠之慎「そんじゃ、俺は神社に戻るよ」
彰衛門「ああ」
悠之慎が小屋を出ていく。
神社に戻るのは嗄葉を落ちつかせるためだろう。
俺は相当嫌われているが、悠之慎はそうでもない。
……いっつもそうだよね、俺達って。
俺は嫌われる側で、悠介は好かれる側。
ま、もっとも。
好かれたからって何がどうってこともない。
人から嫌われることには馴れてるから。
彰衛門「さて、どうすっか」
麻奈 「勝負はしないから……」
彰衛門「わぁってるよ。それなしでどうするかだ」
風太 「お話でもしようか。
昨日は僕が話したから……今日は彰衛門が話してくれないかな」
彰衛門「未来のことか?」
風太 「うん。あ、また神の子のお話でもいいけど」
彰衛門「いいや、構わねぇよ。話してやる」
風太 「うん」
麻奈 「うーん……彰衛門さ、喋り方が変わった?」
彰衛門「さぁね。俺はもともと不良だったから」
麻奈 「不良……?」
首を傾げる麻奈に『気にするな』と言って、話を紡ぐことにした。
俺の子供の頃の話とか、成長してからのこととか。
風太 「……呪いなんてどうでもよく思えてくるよ」
麻奈 「苦労したんだね……」
彰衛門「気にするなって言っただろ?俺はもうこういう生き方には馴れてるから」
風太 「だから嗄葉ちゃんとも喧嘩するのかい?」
彰衛門「そういうこと。
大体、俺が心を許したのは楓巫女や楓であって、あいつじゃない。
俺はね、冗談を冗談と受け取れないヤツや、
自分のことしか考えないで物事を進めようとするヤツが嫌いなんだ。
そういう身勝手なヤツが相手なら、俺も全力で拒絶する」
風太 「彰衛門自身は?よく強引に物事を運ぼうとするけど」
彰衛門「いい質問だ」
俺はピンと人差し指を弾きながら言った。
彰衛門「俺は別の誰かが普通に思うよりももっと、自分が一番嫌いなのさ」
風太 「自分が……?どうして」
彰衛門「いや、違うか。血の宿命なんてものを背負っちまった自分が嫌いなんだ。
こんな血を持たずに産まれたら、もっと別の生き方が出来たんじゃないかって」
麻奈 「血って……あの不思議な能力のこと?」
彰衛門「ああ」
風太 「もしかして、自分が嫌いだから……
わざと冗談めいたことをやって、自分を痛めつけているのかな」
彰衛門「………」
こいつの『鋭いな』って思うところは、こういうところだ。
なんでも見透かされているような気がして、こういう時の風太は苦手だ。
彰衛門「さぁな。俺は俺のやりたいようにやってるだけだし。
それが自分を痛めつけるためのことかどうかなんて解らねぇよ」
風太 「そっか……」
彰衛門「でもまあ……いろいろあるけど、人は嫌いじゃない。
嫌ってたら話する前に逃げるか追っ払ってるだろうし。
俺は自分がバケモノだってことくらい認めてるし、
人がそんな異端を嫌う理由だってなんとなく解る」
麻奈 「………」
彰衛門「けどな……だからこそ。
俺を解ってくれる人だけは、なにがあっても全力で守りたいって思う。
喩え命を削ることになってもな」
風太 「命を粗末にしちゃいけないよ……」
彰衛門「アホゥ。お前がそれを言うか?
死ぬかもしれないって時に嗄葉を庇ったのはどこのどいつだ?」
風太 「僕はいいんだよ。死んでも悲しむ人の方が少ないから。
そんな僕よりも、その未来でなにかを出来る人が生き残るべきだから」
彰衛門「……っ!」
呆れた。
なんだってこいつはこう、俺に似てやがるんだ。
自分が死んでもその先でなにかを出来る人が、なんて……
どうして他人から聞く日が来るんだ。
悲しむ人の方が少ないから、だなんて……どうして俺以外の誰かから……!!
彰衛門「お前馬鹿!!」
風太 「え……?」
彰衛門「お前に死なれたらその『少ないけど悲しむ人』が悲しむだろうが!!
人の悲しみは一緒だろ!?
そこに『悲しい』って思いがあれば数なんて関係ねぇんだよ!!
未来が見えないのに『何かを出来る人』をお前が決めるんじゃねぇ!!」
風太 「………」
麻奈 「あ、彰衛門!言い過ぎ───」
彰衛門「黙ってろ!こいつには教えなきゃならねぇことが腐るほどある!!
経験者として黙ってられるか馬鹿っ!!」
風太 「…………やっと、腹を割って話せそうだね」
彰衛門「あぁっ!?望むところだ馬鹿野郎!!」
麻奈 「あ、あわわわわ……!!は、悠之慎……帰ってきてぇ……」
───……。
……それから、話し合いは三日三晩続いた。
自分の命は軽く見るくせに、
他人の命を重く見る俺達の意見は大体が同じくせに、同じだからこそ反発していた。
大体、『自分はどうなってもいい』って思う者同士だ。
俺が風太の命を重く見れば、風太は俺の命を重く見てる。
けど、どっちも自分の命を軽く見てる。
これじゃあ話し合いが纏まることもなく───結局、四日四晩へと突入。
……麻奈は途中で寝ちまった。
ようやく休憩を入れて死んだように寝て、起きたらまた続き。
俺と風太は互いに自分の心を打ち明けるように叫び合った。
そして……七日目。
悠之慎が帰ってくる頃には、俺達はいい加減ぐったりしていた。
悠之慎「……なぁにやっとるんだお前らは……」
風太 「ケホッ……ちょっと……言い合いを……ケホッ」
彰衛門「ゴホッ……こいつが……解らず屋で……ゴホッ」
叫び続けて七日。
よく喉が持ったものだ。
麻奈 「んぐ……あ、あれ……終わった?」
彰衛門「終わっちゃいない」
風太 「そうだね……お互い納得出来るまでは……」
倒していた体を起こし、ギンと睨む。
そこには相手への憎しみなどなく、あるのはただ自分への不満のみ。
きっと俺達は、それらを払拭したかっただけだったんだろう。
……やがて罵倒が飛び交う。
悠之慎は風太の叫ぶ様を見て唖然とするが、俺と麻奈はもう馴れたものだった。
だって、叫ばない筈がない。
いくら落ちついた雰囲気を持っていようが、人間なんだから。
それでも手が出ないのは、互いに互いを傷つけたくないと思っているからだ。
悠之慎「おい……そのへんにしておけ」
風太 「いやだっ!僕はまだ納得出来てない!!」
彰衛門「ああそうだ!!黙ってろ!」
悠之慎「……はぁ」
罵倒は続く。
互いに自分の信念を語っているというのにそれは酷似していて。
だからこそ互いに受け入れられない時が続く。
どっちかが折れればいいことなんてお互いが知っているけど、
それは『納得』には繋がらない。
それが出来ないから、俺達は言い合いを続けた。
───…………。
麻奈 「あのさー、どっちとも自分のことを、
『どうでもいい』だなんて思わなくなればいいんじゃないかな」
……言い合いを始めて一月経ったある日。
いい加減疲れたといった感じの麻奈っちがそう言った。
彰衛門「………」
風太 「………」
麻奈 「それでもまだ納得出来ないなら、
誰かを助けた上で自分も幸せになればいいじゃない」
彰衛門「………」
風太 「………」
麻奈 「ほら、どれだけ重症を負ってても、
死なない限りはきっと幸せになれると思うんだよ?」
彰衛門「………」
風太 「………」
麻奈 「あの……なにかなぁふたりとも。そんな怖い顔しちゃって……」
彰衛門「……風太」
風太 「……うん」
がっし!
麻奈 「えぇっ!?」
彰衛門&風太『ぞ〜きん〜……!!』
俺と風太は麻奈っちの腕を左右から片腕ずつ手に取り、それぞれ逆方向に捻った。
麻奈 「痛(ッ!!って、なにするの!」
彰衛門「うるせぇ!
人が散々言い合っても納得いかなかったことをあっさりと解決しやがって!!」
風太 「いくら麻奈でも許せないよ!キミは反省するべきだっ!!」
麻奈 「な、なんでぇーーーっ!!!?」
それから三日三晩、小屋から麻奈っちの悲痛な声が聞こえ続けたという。
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