───剣と神の子みさおさん───
───……。
悠之慎「よっ、ただいま」
彰衛門「おうお帰り。どうだった?」
悠之慎「ああ、普通〜に終わった」
彰衛門「そかそか」
この時代に来てから20年後。
嗄葉がどこぞの男と結婚した。
風太も麻奈とささやかな婚儀を済ませ、もう子供も出来ている。
『緋芽』という可愛い娘ッ子だ。
……何故か妙に俺に懐いてる。
嗄葉が婚儀を決断したのも、風太が婚儀を済ませたと聞いたからだった。
俺はとことん嫌われとるので、嗄葉の婚儀に出席したのは悠之慎だけだ。
緋芽 「あい〜」
ぺちぺち。
緋芽が俺の頬を叩く。
彰衛門「フッ……それでパンチのつもりか?」
緋芽 「あ〜い」
ぺちぺち。
更に叩く。
彰衛門「効かんなぁ〜」
緋芽 「あいっ」
ドチュッ。
彰衛門「キャオラァアアアーーーーッ!!!!」
風太 「うわっ!こ、こら緋芽っ!!目を刺しちゃだめだよっ!!」
緋芽 「あい……」
彰衛門「あぁあ〜〜っ!!目がぁ〜〜っ!!目がぁああ〜〜〜〜っ!!!」
ムスカくん、キミは英雄だ。
めんこい子供のサミングは、俺の心をしこたま傷つけた。
麻奈 「どうせ緋芽になにかしたんでしょ」
彰衛門「アホかてめぇ!俺が小娘相手にそんなことするわけねぇだろ!」
風太 「そうだよ麻奈。彰衛門はそんなことしない。僕が保証するよ」
悠之慎「そうそう、こいつロリコンだし」
彰衛門「違いますよ失礼な!!!!」
悠之慎「すまん、変態オカマホモコンだったな」
彰衛門「それも忘れてたんだから忘れたままにさせといてくれよ!!」
畜生、恨むぞ水穂ちゃん……!!
キミがあの時『変態オカマホモさん』とか言わなきゃこんなことには……!!
一時期は受け入れたが、やっぱこんな不名誉なあだ名は勘弁ノリスケ!!
緋芽 「へー……たい?」
風太 「え……?」
緋芽 「へーたい、おかーほ、こ?」
麻奈 「あ……」
風太 「喋った……!ははっ!喋ったぁっ!!」
麻奈 「緋芽っ!緋芽ぇっ!!」
ふたりは俺から緋芽をひったくると、高々と持ち上げて喜んだ。
『あい〜』も言葉じゃないのか?
俺に『愛』を語ってるとばっかり思ってたのに。
でも……
悠之慎「初めて喋ったセリフが変態オカマホモコンってのも……」
彰衛門「なぁ……」
俺と悠之慎は顔を見合わせて、長い長い溜め息を吐いた。
───……五年後。
緋芽 「たーっ!」
へろへろぽて。
緋芽 「うー……はるのしん……」
悠之慎「難しいか?ほら、ここをこう持ってな……こうっ!」
シュッ───ゥウウウウン……ぽてっ。
緋芽 「わあ……」
悠之慎「な?」
緋芽 「う、うん」
この時代に来てから25年目の秋。
俺は緋芽と一緒に竹トンボで遊んでいた。
中々気に入ってくれているようで、緋芽は懸命に竹トンボを飛ばす。
けど、ふと気がつくとキョロキョロと辺りを見渡している。
もちろん、彰衛門を探すために。
悠之慎(思うんだが、彰衛門って子供に好かれやすい性質なんじゃないだろうか)
それならそれでいい。
あいつは人に嫌われて生きてきたんだから。
俺だって学生時代は嫌われたものだったが、
それは卒業すればどうということもなかった。
けど、あいつは永い永い時を嫌われながら生きてきた。
……もういい加減、誰かに好かれる人生が訪れたっていいと思う。
悠之慎(ま、現代にはあいつを嫌うヤツなんてそうそう居ないけどな)
それを嬉しく思い、俺は笑った。
そして竹トンボを飛ばす。
高く、高くどこまでも。
緋芽 「たーっ!」
ひるひる……ぽて。
緋芽 「うう……」
悠之慎「はは……まだちょっと難しいか……」
緋芽 「そんなことないもん……。
あきえもん、『やればできないことはない』っていってたもん」
悠之慎「なるほど」
確かにあいつらしい言葉かもしれない。
緋芽 「たぁっ!」
へろへろ……ぽて。
緋芽 「うー……」
悠之慎「やれやれ……」
小さく微笑むと、緋芽の隣に座った。
そしてアドバイス。
緋芽は竹トンボを回すために手を擦り合わせる時、
力み過ぎて竹トンボが途中で傾いてしまう。
その点を教えて、もう一度、と背中を軽く押してやった。
緋芽 「う……や、やぁっ!」
ヒュッ───ゥウウウウ……ぽてっ。
緋芽 「わっ……!」
悠之慎「おー、飛んだな」
緋芽 「わ、わっ……すごいすごいっ!」
ふと過去を思う。
深冬……自分の娘と遊ぼうとした時のことを。
親の愛なんて知らなかった俺は、娘とどう接したらいいか解らなかった。
俺がそんなだったから、深冬はおどおどした娘に育って───
結局、大したことはしてやれなかった。
けど、いつだったか。
深冬がクラスの友達と喧嘩したと言って泣いて帰って来た時。
俺はお節介にも、泣いていた深冬をなんとか元気付けようと躍起になった。
でも結局、あの時の俺はダメな親で。
気の利いた言葉もかけてやれなかった。
───そんな時だ。
ルナがひとつの言葉を俺にくれたのは。
『娘として見るんじゃなくて、友達として見ればいいんだよ』
その言葉に俺は救われたんだと思う。
そして……深冬も。
あの頃の俺は彰利のことも忘れちまってて、
友達ってのがどんなものかも希薄だったけど。
もし子供の頃に出来たらきっと楽しかっただろうと思うことをした。
深冬を誘って、竹トンボを作って。
だけど飛ばし方もよく解らずに、呆れる深冬に教えてもらったんだっけ。
その時になってようやく、深冬が俺に笑ってくれた。
『しょうがないなぁ、お父さんは』って。
……嬉しかった。
親になるってことを特別なことだって思ってしまった自分が恥ずかしかった。
ただ『友達が増える』って思えばよかったんだ。
特別に大切な、だけど世話のかかる友達が増えるんだって……そう思えば。
───けど、それからなにが変わったわけでもない。
相変わらず俺と深冬の間に会話が増えることはなく。
それから数年後、深冬は家を出た。
好きな人が居るって聞いた時も、別に驚くこともなかった。
ただ祝福してやりたいって思っただけだった。
この世界には特別なことなんてなく。
ただ、誰かがそれを特別だと思わない限り、それは特別なんかじゃなくて。
それでも、そのなんでもないことを『特別だ』って思えた時は───
きっと、自分が嬉しい時なんだろうって……そう思った。
緋芽 「はるのしん、はるのしん」
悠之慎「あ……うん?どうした?」
緋芽 「みてみてっ、とばせるようになったよっ」
緋芽が竹トンボを飛ばす。
それは───いつか自分の娘と飛ばした竹トンボのように……
高く、どこまでも高く飛んでいった。
──────。
時は流れる。
もう何年、何百年経ったかなんて、いちいち覚えてない。
ただ……もう家系は大きく広がり、その名と能力を分けていった。
それくらいだ。
そして……風太にかかっていた呪いは何代目かの子供に降り掛かり、
その度に月清力を浴びせては時を生きてきた。
───そして……ある年の秋。
デゲデデッテデーーン!!
マキィーーン!!
彰衛門「闇を照らす霊訓!!心霊現象が怖いなら無闇矢鱈と写真を撮るな!!」
多分、間違った意見じゃないと思う。
……関係ないけどね?
彰衛門「さて、こちら神社の境内に潜伏しております弓彰衛門です。
嗄葉二世さんの様子を見に来たと題して、
子宝に恵まれた者どもを一目見ようと参上した次第ですよ?
神社は既に『晦』と名づけられており、俺のハートもドキドキもんだぜ?」
何人産まれたかは知らんけど、きっとクソ生意気に育ったに違ェねぇ!!
というわけで茶化しますか?
嫌われるのは馴れてるし、どんな罵倒が飛ぼうが耐えましょう!
とゆわけで、GO!!
ドコントドコトコ♪
彰衛門「ルパンザサァ〜〜〜ド♪」
───ややっ!?
彰衛門「……いきなり場違いなことをしちまったようだ」
社の先に見えたのは、布団の中で動かぬ子供と、その場に泣き崩れる嗄葉二世だった。
どうやら……子供が死んだらしい。
彰衛門「どういうこった……病気か?」
俺は泣きながら何かを言う嗄葉二世を見たまま、考えた。
その時───嗄葉二世の居る部屋から、光が溢れた。
彰衛門「な、なんだぁっ……!?」
その光はゆっくりと宙から降り、
やがて人のカタチを取ると……嗄葉二世の腕に納まっていた。
その波動は───
彰衛門「神の子……!?」
その波動はあまりにも楓巫女に似すぎていた。
だからそう感じた。
あれは神の子だ、と。
だが訳が解らない。
神の子は降臨祭で舞い続けた時のみに降りるんじゃなかったのか?
それとも所詮、言い伝えだったのか……?
赤子 「あぁあああっ!あぁーーーっ!!」
嗄葉 「あっ……!」
神の子は元気に泣いた。
楓巫女とは違い、本当に赤子のように。
───……嗄葉二世……(いいや、嗄葉で)と、その家族を見守る日々が続く。
嗄葉は神の子を育てることを決意し、
だが……嗄葉の実子はどういうわけか、どんどんと亡くなっていった。
それがどうしてかが、まるで解らなかった。
ちなみに嗄葉に会ってみたけど、どういう遺伝なのか、思いっきり嫌われた。
名前だけあって、嗄葉の血と意思は多く継がれているらしい。
───神の子は『みさお』と名づけられ、
他の子と変わらず愛情を受けながら育てられる。
けど、やっぱり嗄葉の実子は亡くなった。
残っている子は……音菜(と呼ばれた子だけだった。
───………………。
みさお「………」
彰衛門「ぬお……」
それはみさおが10歳になった頃のことだった。
俺が大樹の上でシエスタを楽しんでいると、俺の頬を突つく存在があったのだ。
で、目を開けてみれば……みさお。
みさお「あなたは誰ですか?」
彰衛門「身分低き者故、名乗るほどでは……」
みさお「低くてもいいです。わたしは、そんなことは気にしませんから」
彰衛門「うおう……」
なんというおなごかっ!
心やさしく育ったみたいで嬉しいですぞ!
みさお「あなたは、誰ですか?」
彰衛門「いい質問だ!サブリガをやろう!穿きたまえ!」
みさお「いりません」
彰衛門「即答ですか……」
誰に質問されてもいいように、
この数年間ずっと持っていたサブリガが無駄になってしまった。
ネタのためにパンツみたいなのをずっと持つの、やめよ……。
考えてみたら物凄く情けなかった。
彰衛門「俺は弓彰衛門っていうんだ。よろしく」
みさお「彰衛門さん、ですか。もしかしてお母さまが言っていた彰衛門さん?」
彰衛門「そうだぞ。怖くて意地悪で最低な彰衛門だ」
みさお「……でも、いい人なんですよね」
彰衛門「なに言ってんだ、嗄葉から聞いたんだろ?俺は意地悪だって。
何も知らんくせに、あることないこと捏造して罵倒すんだから」
みさお「はい、聞きました。最低で、もう顔も見たくないと。
何も知らない、というよりは……
祖先の残した書物に『弓彰衛門は最低だ』と書かれてました」
彰衛門「あらら」
そこまでかよ。
子供の頃の恨みって凄いね、まったく。
これこそ『末代まで祟ってやる』ってやつか?
彰衛門「って、待て。俺、もう相当長い時間を生きてるぞ?
不老不死なんですかー、とか訊かないのか?」
みさお「あなたが『弓彰衛門』なら、驚く必要なんてありませんから」
彰衛門「ん……」
ああ、アレの所為かな。
みさお「話を戻しますけど……彰衛門さん、いい人なんですよね」
彰衛門「なんでそう思う?」
みさお「人を見る目はいいと思うんですよ、わたし。
彰衛門さんは……そんな酷い人には見えませんから」
彰衛門「そうか?こんな風に話してはいるが、お前を苛めようとしてるかもしれないぞ」
みさお「いいえ。彰衛門さんはそれをしませんよ。
だって……わたしの心がそう言ってますから。
わたしの心はわたしが信じるしかないでしょう?
だから、わたしはわたしの心と彰衛門さんを信じます」
彰衛門「………」
やれやれ。
神の子ってのは、どうしてこう……
彰衛門「でもダメだ。俺と話をしているところを見られたら、嗄葉に怒られるぞ?」
みさお「質問に答えてくれれば退散します。……彰衛門さん。
彰衛門さんは、先祖の『嗄葉さま』のことを思って何かを言ったんですね?
たとえそれで『嗄葉さま』に嫌われることになっても」
彰衛門「……ブッブー、はっずれー」
みさお「あぅ……そうですか」
彰衛門「……いいよ、俺が離れる。お前はここで眠るのも遊ぶのも自由だ」
みさお「この大樹は、『楓巫女さま』の寝所なんですよね?彰衛門さんが作った」
彰衛門「……キミ、そこまで知ってんの?」
みさお「はい。『楓さま』の書いた書物……読んじゃいました」
てへへと笑うみさお。
その顔は、年齢よりもずっと大人に見えた。
そして……やっぱり、
楓が書いた書物の所為で俺が時間に左右されないってことを知ったようだ。
まあ、左右されないというよりは『時空転移した』と思われてるんだろうけど。
みさお「教えてくれませんか?どうして嫌われるようなことをしたのか」
彰衛門「……言ったら戻るか?」
みさお「はい」
彰衛門「……ったく」
別に俺が離れてもいいんだけど、それじゃあこいつは納得しないだろう。
俺を探してでも理由を訊こうとするに違いない。
彰衛門「風太、って知ってるか?蒼麻風太」
みさお「はい」
彰衛門「そか。俺が先祖の嗄葉にヒドイことを言ったのは、風太のためだったんだ。
呪いに苦しんだあいつが頭を下げて言った、
『一生のお願い』だったから聞いたんだ。
そうじゃなけりゃ、誰かを泣かすようなことなんて滅多に言いやしない」
みさお「……やっぱり、やさしい人じゃないですか」
彰衛門「買い被りすぎだ。それと、今のことは嗄葉には言うなよ?
あいつが俺を嫌ってるなら、嫌ってくれていた方がいい」
みさお「え……どうしてですか?」
彰衛門「俺、この時代の人間じゃないから。
だから、何かのきっかけですぐにこの時代から消えちまう。
だったら中途半端な罪悪感を持たせるよりは、このままの方がいい。
あいつの性格は知ってるからな。一度謝ったくらいじゃ気がすまないヤツだ。
たとえ遺伝の直感で嫌われてるとしても……あいつが『嗄葉』な限り、
絶対に一度謝ったくらいじゃ納得しないに違いない」
みさお「………」
彰衛門「そんなわけだ。ほら、戻れ。そろそろ嗄葉が来るぞ」
みさお「はい。それでは今日はこのへんで」
彰衛門「ああ」
俺の返事を聞くと、みさおは満足げに微笑んで大樹を降りていった。
そして……何か引っ掛かった。
あいつ、なんて言った?
『今日は』……このへんで?
彰衛門「……明日も来る気かあの野郎」
───…………。
彰衛門「あのなぁ……」
みさお「なんですか?」
案の定、みさおは大樹を登ってきた。
どうやらここが俺の隠れ家だということを確信されてしまったらしい。
彰衛門「いいや、もう。で?お前はなにをしたいんだ?」
みさお「はいっ!よく訊いてくれましたっ!」
座ったままの状態で跳ねるようにするみさお。
その顔は喜びに満ちている。
みさお「お母さまと彰衛門さんを仲直りさせよう作戦です!」
彰衛門「却下」
みさお「あう……解りました」
断わられることは予測していたらしい。
あっさりと頷いた。
みさお「それでは……わたしに遊戯を教えてくださいっ」
彰衛門「なんで?」
みさお「お母さま、疲れているようですから。いつも何かに怯えるようにしています。
それなのに遊んでくれ、だなんて言える筈がありません」
彰衛門「へえ……」
人のことを考えられる子供か。
さすがって言うわけじゃないけど、神の子ってのは凄いものだ。
彰衛門「んじゃ、教えてやる」
みさお「本当ですかっ?」
彰衛門「ああ。その名も『ドラゴンカードゲーム爺さんのかめはめ波』だ」
みさお「どら……?」
彰衛門「まぁよ、まぁああああよ。まずは見ておけ」
みさお「はいっ」
それから俺は、
みさおにドラゴンカードゲーム爺さんのかめはめ波を教えることになった。
───……。
彰衛門「ドラゴンボォ〜ルカァ〜ドゲェム〜〜〜♪」
ドシュゥーーーン!!!
みさお「………」
俺の掌からかめはめ波が放たれる中、みさおは終始……唖然としていた。
───……。
彰衛門「んじゃ、ここだ」
パタ。
みさお「ここです」
パタパタ。
彰衛門「む……」
───向かい合って座る俺とみさおの間を挟むようにあるオセロ盤。
常備品だからどこにだって持っていけます最強です。
レイヴナスカンパニーで取り出したのと同じアレです。
……ちなみに『ドラゴンカードゲーム爺さんのかめはめ波遊び』は却下された。
純粋につまらなそうに『他のがいいです』と言われてしまったよ。
何気に傷ついたのは余談である。
彰衛門「ではここを」
パタパタパタ……
みさお「ここです」
パタ、パタパタパタ……パタパタ。
彰衛門「ぐお……」
みさお「えっと……これで勝ち、ですよね?」
負けてしまった。
菜苗さんほどではないにしろ、みさおはオセロが強いらしい。
初めてやる者とは思えない。
……断じて、俺が弱すぎるからではない筈だ。
彰衛門「もう一度だ!」
みさお「はいっ」
───…………
…………
彰衛門「……勝てねぇ……」
みさお「あ、あの……彰衛門さん、調子が悪いみたいですし、もうやめませんか?」
みさおの言葉が俺のハートを八ツ裂きにする。
気を使われるほどに負けてる俺って……───ああ……虚しい。
声 「……おー……?……みさおー……!」
おっと、来たか。
彰衛門「ほれ、嗄葉が来たぞ。早く降りてけ」
みさお「あ……は、はい」
オセロ盤を仕舞い、みさおを見送る。
みさおは思ったより器用に大樹を降りていき、嗄葉と一緒に社へ戻っていった。
彰衛門「……ああ。なんかよく解らないけど……」
ふと思った。
みさおはきっと、いい女になるって。
妙な予感ってやつだ、他意はない。
だから……まあ、冥月刀が俺と悠之慎を帰す時が来るまで、見守るのも悪くない。
『神の子』と知ってから、みさおには楓巫女を重ねて見てしまう。
だからだろうか。
楓巫女があんな人生を歩んでしまった分、みさおには普通に生きて欲しい。
神の子としての苦労を知らず、ただ普通に。
だから……なにがあっても、守ってやりたいと。
……ただ、そんなことを思った。
───……。
彰衛門「えーと……お、あったあった」
ある日、俺は剣を封印した石塚にやってきていた。
荒らされた様子も無く、盗人が居ないことを思うと安心する。
みさお「あれ……彰衛門さん?」
彰衛門「お?」
ふと聞こえた声に振り向けば、みさおさん。
彰衛門「よぅ、どうした?こんなところに」
みさお「なんとなくです。こちらの方に彰衛門さんが居るような気がして」
彰衛門「そっか」
そう返事をして、特に何をするわけでもなく、そこらへんの適当な木の幹に腰掛けた。
……と、みさおがてこてこと歩いてきて俺の足の上に座った。
どうして俺が会う神の子ってのはこういうのが好きなんだか。
みさお「この石塚になにかあるんですか?」
彰衛門「んー……さあな」
敢えてとぼける。
わざわざ知ることでもないし。
みさお「教えてくれないんですか?」
彰衛門「知りたがりは嫌いだ」
みさお「あぅ……」
一蹴すると、みさおは心底残念そうな顔をした。
みさお「お願いしてもだめですか……?」
彰衛門「んー……さあなぁ」
もう一度そう言うと、俺は目を閉じて息を整えた。
みさお「眠るんですか?」
彰衛門「……質問が多いな、みさおは」
目を閉じたままで言う。
その言葉に「はいっ」という元気な返事は似合わなかったけど、
みさおらしいなと思った。
みさお「だって、訊かないと知ることが出来ないじゃないですか」
彰衛門「知るって……この世の理?」
みさお「違います。彰衛門さんのことです」
…………ふむ。
彰衛門「惚れた?」
みさお「どうでしょう」
みさおはクスクスと笑う。
そして言葉を繋いだ。
「わたしが笑っていられるのも、きっと彰衛門さんのお蔭ですから」と。
その言葉に目を開けて、みさおを見下ろして言う。
彰衛門「俺は別になにもしちゃいないよ。買い被り過ぎだ」
みさお「そんなことないですよぅ」
拗ねるように頬を軽く膨らませ、俺を見上げるみさお。
……ちと可愛いとか思ってしまったが、頭を撫でることはしない。
『頭撫で』は悠之慎が潜在スキルとして持ってれば十分だ。
あいつ、頭撫でるの好きだったからなぁ。
いや、好きってゆうよりは無意識下の癖ってヤツか。
みさお「……彰衛門さん?」
彰衛門「うん?」
思い出し笑いをしている中、みさおが「なにが可笑しいんですか?」と訊ねてくる。
俺はまた「さぁなぁ」と返事をすると、ゆっくりと眠ることに───
みさお「教えてくださいってばぁっ」
彰衛門「むぐぐ……」
みさお、正面を向いて俺の肩を揺する。
い、いかん……眠気が遥かなる旅路へと歩んでしまう……。
───大きすぎる力は災いを招く。聞かせるべきじゃない
───話してやる
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