───無情への帰路へ───
───どうしよ? 彰衛門「グムムー……」 どうしたもんか。 イヤな予感はするけど……甘やかすようなことをすれば、 楓巫女みたいに精神の成長が遅くなるやもしれん。 彰衛門「グ、グウム……」 悠之慎「なんだってんだよ、彰衛門」 彰衛門「ああ、えっとその……ヤボ用、あるかも」 悠之慎「ヤボ用?」 彰衛門「……なんかね、イヤな予感がするので」 悠之慎「…………そか。けど……」 彰衛門「ウィ?」 悠之慎はなにやら言おうとしたけど、思いとどまったように苦笑した。 悠之慎「さっさと済ませてこいよ」 彰衛門「ああ、悪い」 悠之慎にそれだけ言って、俺は踵を返した。 その後、現れていた刀が悠之慎の体を白く霞ませ、やがて消えた。 彰衛門「……さて。帰る手段が歴間移動以外に無くなったわけだけど」 あの直感にも似た気分はなんだったんだろう。 それを解明するまでは、帰る手段なんて二の次だ。 俺はその場から離れ、あとにした。 ───……。 そして、俺の直感が当たっていたことを理解する。 満月の夜、音菜が発熱した。 嗄葉 「音菜っ……!?ど、どうして、こんな……!!」 嗄葉は苦しそうに息を吐く音菜に寄り添うが───そうしたところで、なにも出来ない。 声  「チャンスはくれてやっただろう……」 嗄葉 「───!?」 虚空から声が聞こえた。 見てみれば、何も無い場所から真っ黒な服を来た男が出てきた。 ……ウィルヴス=ブラッドリア───あいつだった。 ウィル「なぜ14年間も時をくれてやったというのに、神の子の魂を献上しなかった」 嗄葉 「出来るわけがありませんっ……!!この子は……この子は……!」 ウィル「……拾いものだろう?」 嗄葉 「───!」 みさお「え……?」 みさおが、力が抜けたようにがくがくと震え始める。 ───そう。 みさおは自分が神の子であることを知らない。 嗄葉もみさおを自分の娘のように思っていたんだ。 そんなことを言って、 自分の子供じゃないことを知らせることもないと思ってたに違いない。 ウィル「なんだ、知らなかったのか。それはヒドイことをしたな」 みさお「うそ……ですよね、お母さま……」 嗄葉 「っ……!」 みさおの問い。 だが、嗄葉は菜にも言えずに目を閉じ、歯を食い縛りながら俯くことしか出来なかった。 ───それが肯定だということを少女は知っていた。 みさお「そんな……」 ウィル「フン……いいか、娘。貴様は神の子……選ばれし存在だ。     神界などという、     天地空間の中では辿り着けるものが居ないと言われる幻想の世界の存在。     貴様は類を持たぬ至高の存在だ。だが……貴様は例外のようだ」 ブラッドリアがみさおを見下ろし、目を真紅に染める。 ウィル「……どうやら、『力』は産みの親に封印されたようだな。これは厄介だ。     だが……楔としては文句のつけどころのない存在だ」 話の内容はよく飲み込めなかった。 だが、みさおを『なにかの犠牲』にしようとしてることは確かだと判断した。 彰衛門「オウコラ!戯言はそこまでだ!」 ウィル「なに……?」 ウィルヴスがこちらを向く。 凄まじい威圧感だが、それ以上言わせるわけにはいかない。 みさおは何も知らずに生きてきたんだ。 そして……これからも余計なことを知る必要なんて───ない!! 彰衛門「我が名は───花京院ッ!典昭!!」 妙な構えをしたのちに軽やかにジャンプし、無意味に着地する。 ウィル「………」 ……凄まじく訝しげな視線で見つめられてしまった。 彰衛門「いや……照れるな、そんなにジッと見つめられると……」 ウィル「……なんだこいつは」 みさお「あ、彰衛門さん……」 ウィルヴスだけじゃなく、みさおにまで呆れた顔で見られてしまった。 ウィル「それで……その花京院典昭がなんの用だ」 彰衛門「オウコラハゲデブアブラムシ!!それ以上みさおに近づくんじゃあねぇ!     みさおに手ェ出したらてめぇ……末路は死だぜ?」 ウィル「ほう……?」 ギンッ!! 彰衛門「ややっ!?」 ウィルヴスの眼光ひとつで、俺は吹き飛ばされた。 まさか……これが勁や氣の波動……!? 彰衛門「甘いわっ!超〜眼力〜〜〜っ!!!」 ギカァッ!! ウィル「ヌッ───!?」 秘技、眼光返し。 ウィルヴスへ衝撃波を返しておいた。 ウィル「───ふ、ははは……!!面白い!!私に攻撃を当てるとは!!」 彰衛門「ふははははは!!!」 ウィル「はははははは!!貴様、面白いぞ!この世界に貴様のような者が居たとは!!」 ウィルヴスは弾けたように笑い、目を真紅に変異させた。 あらヤバイ、殺る気満々ですよ? みさお「あ……う……」 彰衛門「むっ!これみさお!貴様は社に入ってなされ!」 みさお「で、でもっ……!」 彰衛門「構わん!貴様は俺が守ると誓おう!!」 みさお「……でも……」 彰衛門「ええいもう!異翔転移!!」 みさお「あ───」 ギキィンッ!! 避難しないみさおを強引に転移させると、俺はウィルヴスに向き直った。 ウィル「神の子を退けたか。それにその力……貴様、何者だ?」 彰衛門「我が名は───花京院典昭!!」 バッ!クルクルクル……スタッ! 妙な構えをしたのちに軽やかにジャンプし、無意味に着地する。 ウィル「……ああ、解った解った。貴様は花京院典昭だ。     ───さあ、始めようか。神の子を手に入れる闘いを!!」 彰衛門「覚悟はいいか?俺は出来てるッ!!」 拳に月聖力を溜め、ウィルヴスを睨む。 視界が染まり、自分の目が真紅に変異するのを感じた。 ウィル「……実力の拝見もなしか」 彰衛門「手加減して勝てるだなんて思ってないからな。     最初から全力近くで行かせてもらう」 ウィル「───来い。私は遊んでやるとしよう」 彰衛門「吠え面かくなよわりゃ〜〜〜っ!!」 両手に光を集め、一気に間合いを詰める。 ウィル「遅いな」 フッと微笑し、左手のみを(かか)げた。 俺はその慢心を利用し、最初からフルパワーで力を放つ。 月聖力を引っ込め、俺の中の全属性を爆発させる。 早口で呪言を唱え、リミットも外す。 ───逝け。 魔人に落ちるのがなんだ。 俺は……どうしてもみさおを見捨てることなんか出来ない!! ウィル「なに───!?」 彰衛門「一点集中───ジェノサイドブレイバァーーーッ!!!!!」 ギバガァアアアアアッ!!! ウィル「なっ───バカな!!     人間ごときがこれほどの───が、がぁああああっ!!!」 人ひとりを飲み込むくらいの青白い光が、ウィルブスを襲う!! ウィルは咄嗟に危険を感じたのか、体を逸らした。 が───その半身以上の部分を、光に持っていかれた。 ウィル「が、あ……!?ば、かな……!!」 彰衛門「グ、……!!」 視界が軋む。 力を使いすぎた。 呪言の解放での月操力で……冥月刀を介して放ったくらいの威力か。 くそっ……冥月刀があれば、今ので始末できたものを……!! ウィル「ッ……!!タカを括ったか……!!侮ったわ、この私が……!!」 彰衛門「グ……アアア……!!く、そ……!!協力しやがれレオ……!!     こいつを滅して……みさおを守れればそれでいい……!!     あとはお前に任せてやる……!!だから───お前の力を貸しやがれ!!」 ───……チッ!!シカトか! ウィル「……もう貴様は人とは思わん。     体の再生には時が必要だが、この状態でも貴様くらいは殺せるぞ……」 消えた半身から、黒い霧のようなものが溢れ、カタチを作ろうとする。 畳み掛けなきゃいけないってのに、体が言うことを聞かない。 ───だが。 俺はそんな『限界』なんてものを信じるほど生易しい生き方はしてない。 意識があるうちは十分だ。 だから─── 彰衛門「お前を───殺す!」 ウィル「フン……!やってみろ!」 まだ大丈夫だ。 幸い、今日は満月───力の補充は出来る。 さっきの威力とまではいかないが───!! 彰衛門「アルファレイド───カタストロファァーーーッ!!!」 伸ばし、広げた手から光が溢れる。 それがウィルヴスへと勢いよく飛ぶ。 ウィル「───デスクリムゾン!!」 カッ───ザゴォンッッ!!! 彰衛門「なっ───!?」 当たると……思った。 アルファレイドは、確実にウィルヴスを捉えていた。 だってのに……あいつ、空間ごと消し去りやがった……!! 空間を断つ鎌だって……!?冗談じゃねぇ!! 彰衛門「ち、ちくしょ〜っ!!卑怯だぞてめぇ!!     こっちは丸腰だってのによォオ〜〜〜ナランチャァ〜〜〜ッ!!!」 ウィル「……貴様に対して、もはや手加減は無礼だ。     貴様の実力、もはや芸術だ。ならばこそ、私も全力をもって……貴様を消す!」 彰衛門「…………いやん」 手加減抜き宣言されて呆然としている内にも、 みるみる内にウィルヴスの体が再生してゆく。 こりゃいかん!! 彰衛門「おっけーざますーーーっ!!対主人公爆死地獄(ズガド〜〜〜ン)
!!!!」 掌に月壊力を凝縮させ、一気に放った!! が、それもあっさりと消される。 ザ、ザーマスの奥義が……!! 彰衛門「こ、このわらしゃあ……!!     スロォオオオイィイングッ!!!ブラストォオーーーーッ!!!!」 ギャォオオオオオオオンッ!!! 今度は月壊力とちょびっとした月醒力を乗せ、球状の光弾を投げた!! ウィル「デスクリムゾン!!」 ヒィンッ───ガガァッキィン!! で、また破壊された。 くそ……ブロリーの技が……。 彰衛門「こ、このっ……ダボがぁーーーっ!!エメラルドスプラァーーーッシュッ!!」 微妙にズレたかめはめ波スタイルで、掌からガトリングブラストを放った!! ウィル「デスクリムゾン!!」 ガキィンッ!! 光弾の全てが消される。 ───が、俺はその隙を見破っていた。 彰衛門「彰衛門・口から爆裂魔光砲!!」 ドッチュゥウーーーンッ!!! ウィル「なっ───!?」 そう。 所詮、こいつは片手で鎌を振っているに過ぎない。 そして鎌を振った後、その威力の所為か───ほんの少しだけ行動が止まる! バガァンッ!! ウィル「ぐっ!?」 光弾が鎌を弾く。 それが合図となった。 俺は身を低くして駆け、一気に間合いを詰める。 彰衛門「───くたばれ」 右手に月醒力を込め、ウィルヴスの右胸に向けて一気に突く。 ザコンッ!! ウィル「がはっ……!?」 彰衛門「消えろっ!!月聖力!!」 所詮は魔の者!! 体内で聖気を出されれば死滅する筈───ゴトッ。 彰衛門「え……?」 ……それ(・・)に気づいた時、思考が飛んだ。 訳が解らなくて、呆然とした。 視線を落としてみれば───……石畳に落ちている、俺の右腕。 彰衛門「っ……!!てめぇ……!」 ウィル「……悪くない目の付け所だったがな。     私の鎌をひとつと思ったのが仇となったか」 腕が飛んだ。 斬られた部分は漆黒に染まり、血の一滴も落ちない。 それはつまり……再生も回復も否定されたってことだ。 ウィル「カオスクリムゾン。斬ったモノを混沌へと変える鎌だ」 彰衛門「……へへっ……痛みがないのが救いだなっ……!!」 とはいえ、腕が無いというものは違和感がありすぎる。 彰衛門「くそ!こうなったらヤケだ!弦月彰利の名において命ずる!いでよ光牙コアンヤア)!」 ウィル「なにっ!?貴様、花京院典昭では」 ドゴォオオオオオン!!! ウィル「ぐわあっ!?」 お見事! 失った腕の先───つまりは肩から放った月醒の矢は、ウィルヴスの顔面にメガヒット! ウィル「貴様……」 でもダメージないみたい。 怒りで通常の三倍ほど実力が上がってるような気がするほどだし。 彰衛門「こ、この通常の三倍磯野カツオめが!!高鳴れ大地、唸れ海峡!!     ウラシマ流奥義───シャイニングウェーブ!!」 額に太陽の紋章を焼き付け、左手に月醒力と月聖力を込める!! それから跳躍し、一気に間合いを詰めて左手を振り下ろす!! ウィル「不用意に近づくなど───戯けが!!」 振り下ろす腕の軌道に合わせるように、カオスクリムゾンを振るウィルヴス。 だが俺はその腕を強引に止め、ウィルヴスの眼に───ブシィッ!! ウィル「ごっ!?ごぉわぁああああああっ!!!」 毒霧一閃!! キャア!見事にくらいやがった!! というわけで 彰衛門「死ねおりゃあ〜〜〜っ!!」 自分で言うのもなんだが、随分と情けない声で襲いかかった。 ウィル「貴様ッ───!!」 シュヒィンッ───ジュパァンッ!! 勢いよく振られた鎌が、胴体を斬った。 刹那、その鎌が漆黒を作り出し、体を飲み込んだ。 そして……消えた。 ……等身大マスオ人形が。 ウィル「フハッ……!!馬鹿めが……声を出して襲いかかってくるなど……!!」 消滅したマスオ人形を見て、俺は気が気じゃなかった。 くらったら確実に死にますよ? どうやらマスオ人形を俺だと思ってるようで、助かってるけど…… ここはひとつ、鬼になったほうがいいでしょう。 というわけで 彰衛門「絶!サミング!!」 ズチャアッ!! ウィル「ギッ!?」 勢いよく突き出した人差し指と中指が、ウィルヴスの眼球を破壊する。 抜いた指には鮮血。 彰衛門「()……雄雄雄雄雄雄雄(オオオオオオオ)ッ!!!!」 加藤清澄氏の真似をしつつ、今度は月聖力を込めて拳を下ろす!! ウィル「───キングクリムゾン」 伸ばした手に、寸分の狂いもなく合わされて振られる鎌。 てゆうか───なんと!?キングクリムゾンとな!? ディアボロ!?ボス!?ジョジョ!? って!ンなこと思ってる場合じゃ───チッ! 彰衛門「!!」 鎌が、服の袖を軽く斬った。 それだけなのに、服が漆黒に飲まれそうになる。 瞬時に、このままじゃあ体ごともっていかれると思い、袖を噛み千切って捨てた。 袖を吐き出した瞬間、漆黒に飲まれ、それは跡形もなく消える。 ───ヤバイ。 このキングクリムゾンだけはマズイ。 かすっただけで死ぬ。 斬った対象を完全に滅ぼす鎌だなんて……イヤな鎌ですなぁ。 ウィル「解るぞ……気配を感じる。そこだ」 フィンッ!! 彰衛門「ホワァアーーーーッ!!!」 投げられた鎌を全力で避ける!! だが、それがいけなかった。 その回避動作に合わせるように、別の鎌が振るわれた。 彰衛門「───」 時がゆっくりに感じた。 見えるもの全てが遅い。 腹に向けられて振れられる鎌までもが遅い。 だっていうのに、俺が早く動けるわけでもなくて。 ───ザゴォンッ!! 彰衛門「かはっ───」 鎌が、俺の腹を裂いた。 意識が飛ぶ。 視界が真っ暗になり、けど鎌ごと持ち上げられて宙吊り状態になっているのを理解した。 ウィル「……終わりだな」 彰衛門「げほっ!ごほぉっ!!」 ウィル「……感じるぞ。血を吐き出したな。そして……絶命も近い」 彰衛門「は───ぐ……!!」 意識が薄れる。 ここまで完璧に腹を裂かれちゃあ、回復が追いつかない。 ウィル「愚かなヤツだ。     貴様があの神の子を守ろうとしたところで、あの神の子も『家系の者』だ。     私から逃れられたとしても、いつか刀に食われる。     そして───貴様のその軽率な行動がこの時代に居る『家系』全てを蝕む。     あの『嗄葉』とやらもいずれ死ぬ。     あの神の子が未来から来たとしても、その未来自体が壊れる」 彰衛門「げほっ……うる……せぇなぁ……」 ウィル「まあ、未来など人の行動次第でいくらでもあるのだからな。     あの神の子が居た時代になんの異変もないだろう。     ただ───『家系の存在しない未来』がここから築かれることは確かだ」 彰衛門「うるせぇ……って……言ってんだ……。     たとえ家系が滅びても……『転生』した楓には関係ねぇんだよ……!!     『椛』が産まれることはなくても……別の誰かに転生して……     そして……きっと……小僧と……」 ウィル「ほう?だが───もしそのふたりの関係を紡ぐ者が居なかったらどうする?」 ───なに……!? ウィル「転生は必ずしも完全に成功するとは限らない。     記憶が喪失することもあるだろう。     その時、そいつらを巡り会わせる存在が『家系の者だった』、     なんてことがあったらどうする?」 彰衛門「………」 ウィルヴスの声が頭に響く。 ……過去に飛んで、『椛』が『楓』だったと知ったのは誰だった? その『椛』に『楓』の記憶を戻すために、記憶の移動を提案したのは誰だった……? 地界に現れたリヴァイアに、地界に感心を持たせるようなことを言ったのは…… 彰衛門「……ッ」 紛れも無く、『家系に産まれた弦月彰利』という存在だ。 そして……その家系は滅び、ふたりの間を繕う存在は居なかったことになる。 そんな未来が出来てしまう。 そしていずれ───魂を半分しか持っていない椛は飛鳥の魂を受け取ることが出来ず…… 彰衛門「そ、んな……!くそっ……!なんて、こった……」 俺の体から力が失われていく。 今回ばっかりはバカなことをしたかもしれないって自覚した。 けど……後悔はない。 目の前で泣いてるヤツを見て、放っておけるほど人から外れちゃいないんだ、俺は。 ウィル「言い残すことはあるか?」 彰衛門「ッ……へっ……意思は消えないぜ……。     お前は……お前の大儀を、抱い……て、くたば……り……やがれ……」 その言葉とともに、俺の意識は完全に途切れた。 ───…………。 ウィル「……なんだ……?生命力が溢れてくる……!?」 ウィルヴスが困惑の声を漏らした。 ああ、そんなことはどうでもいい。 困惑しているのなら、その困惑ごと破壊してやればいい。 ───グボッ!! 鎌から身を抜き、眼に真紅を灯す。 さあ……時が来た。 レオ 「───チッ。なかなかひどくやられたものだな」 右腕が無いのは困りものだな。 ウィル「……死神か?……だが、無事ではないのは当然だ。我相手に無事で済むものか」 レオ 「どうかな?───運命破壊せし漆黒の鎌(デスティニーブレイカー)」 己の中の鎌を発現させ、肩を蝕んでいる漆黒に叩き込む。 その刹那、漆黒が力を無くし、泥のように落ちて消えた。 ウィル「───漆黒の反応が消えた。……なにをした」 レオ 「己の能力を好んで言うバカが居るか」 ウィル「───……フン」 ウィルヴスが爆ぜる。 一気に間合いを詰めに来たのだ。 レオ 「フッ!」 バジィッ!! 鎌が振るわれた軌道に、漆黒が疾走る。 それを避け、視線を移す。 腕は───そう遠くないな。 くっつければ治る。 ウィル「感じるぞ───貴様は次に腕を拾いに行く……。     だが、それは私がさせぬ……!貴様はここで滅びる運命にある!」 レオ 「───言ったな?」 ウィル「なに───?」 レオ 「その言葉が貴様の遺言となる。発動せよ───運命破壊せし漆黒の鎌(デスティニーブレイカー)!!」 ウィルヴスが振った鎌が確実に我を斬ろうとした。 が、その鎌は粉微塵に砕けた。 ウィル「なっ───バカな!?」 レオ 「───命は貰った」 ドゴォンッッ!!!! ウィル「がぁああうっ!!?」 ウィルヴスの心臓に、拳から腕までをブチ込んだ。 ウィル「ば、かな……!?な、なぜぇ……!?」 レオ 「……冥土の土産だ。我が『鎌』は運命破壊せし漆黒の鎌(デスティニーブレイカー)。     まあ、能力は全ての『運命』を破壊する『だけ』だ。     だが、それ故に全てを否定できるのだ。     ……解るか?我はまず、貴様が植え込んだ漆黒を消したな」 ウィル「あれは……私にしか消せぬ筈……!!」 レオ 「いいや、違うな。我は『貴様にしか消せないという運命を破壊した』。     枷を外してしまえば思い通りにならぬことなどない。……解るか?     異端が故に、異端なればこそ破壊できる王がある。     そして……今この場で、異端に破壊される王とは───貴様のことだ」 ウィル「……グ……ば、かな……!!純然たる死神が……異端の……死神などに……!」 レオ 「───ここまでだ」 腕を大きく振るい、地面に叩きつけるように腕から引き剥がした。 ウィルヴスは地面に倒れ、やがて───動かなくなった。 レオ 「……死神の長を殺した。だが、我は長の座などに興味はない。     強い者を屠り、我が我として存在していればいい。     ───そこで消滅するんだな。消滅させてやるほどお人よしではない」 腕を拾い、肩につける。 すぐに外れてしまうので、捻り込むようにして強引につけた。 レオ 「月生力」 家系の印とやらを発動させる。 ……なるほど、これは確かに便利なものだ。 簡単に腕がくっついてしまったぞ。 レオ 「あとは───」 現代に戻り、開祖と戦う。 相手が強ければ強いほどいい。 我が運命破壊せし漆黒の鎌(デスティニーブレイカー)がどれほど通用するのか。 それを試してみたい。 レオ 「───月空」 フィィンッ!!ゾバァッ!! レオ 「な……っ!?」 背中から腹に風穴を穿たれた。 何事か。 レオ 「……ッ!?き、貴様……!!」 ルヒド「……残念だったな。     ウィルヴスの人格を退けたくらいで勝利を確信するようなら、     程度が低いとしか言いようが無い。無様なヤツだ」 グボォッ! レオ 「ゲハッ……!」 勢いよく、腹から腕が引き抜かれる。 ルヒド「お前の能力のことはよく聞いた。     厄介な能力だけど、使う前に滅ぼせばどうとでもなる」 レオ 「ッ……ぐ、が……ハッ……!!無理だな……!!     お前は……我に勝てやしない……!いや……誰も、我には……!!」 ルヒド「そのザマでよくほざく。虚勢を張るなよ、今殺してやるから」 男がゆっくりと腕を振り上げる。 チッ……!神の子に作られし程度の存在が……我を殺すだと!? レオ 「ほざけ……!我は何者にも負けぬ!!何者にも殺られぬ!!」 ルヒド「死ね」 眼前に、我が血で染まった腕が伸びる。 普通ならばこれで終わりだろうが─── レオ 「バカめ───!運命破壊せし漆黒の鎌(デスティニーブレイカー)!!     貴様が『勝利する運命』を破壊するッ!!くたばれっ!!」 ルヒド「ッ!!」 唱えた途端、男の腕が消し飛ぶ。 レオ 「否定された運命に『存在する意味』などない!!     ここで死ぬのは貴様だけだ!そして───貴様には反撃の機会すら与えん!!     『貴様が我に攻撃する運命』を否定する!!」 ルヒド「───!こ、こんなっ……バカな!!動かない───!?」 レオ 「命は貰ったァッ!!」 ヒュッ───ボッゴォッ!! ルヒド「グ───あああああああっ!!!!」 勢いよく振った拳が、男の腹を破壊した。 空いた風穴から脇腹にかけてを破壊すると、支えるものがなくなった左半身が沈む。 レオ 「避けた……のか?確実に殺す気で放ったというのに」 ルヒド「グ……!!はっ……!貴様の能力……!!     確かに厄介だが……!『破壊できる運命』の重みが強ければ強いほど、     効果が切れるのが早いらしいな……!!」 レオ 「なに……?」 ルヒド「そして貴様には……それを補えるだけの『戦闘経験』が無いッ!!」 男は一気に間合いを詰め、細い腕を振るった。 が、その細腕はどんな破壊兵器よりも極悪。 受けるわけには─── ルヒド「時よ凍れ!!月空の戦慄き(オーダーブレイク)!!」 レオ 「な───」 空気が凍る。 男が言霊を唱えた刹那、風は止まり、落ち葉が止まり、鳥が制止した。 時を……止める、だと!? バカな!こんなことが───!? ルヒド「世界にある『時』という『秩序』を破壊した。     神の子の力だが、これは悪くない……」 男がゆっくりと腕を振り上げる。 ───バカな……こんな終わり方が……! 許されるものか!! ルヒド「……こんなことを今の貴様に言っても無駄だな。死ね」 レオ 「───」 体がっ……!!動かない!! 何故だ!視界は確認できる!! 思考も動く!! だが───体が動かぬ!! 運命破壊せし漆黒の鎌(デスティニーブレイカー)……!! くそ……!!『鎌』までもが発動せぬ……!! バカなッ!!こんなことが……!!! レオ 「───!!!」 我は───レオ=フォルセティーだぞ……!! このようなところで───!! き、消えるわけには───!! ───ザゴォンッ!! ………………胴が、完全に切られた。 力無く落ちた上半身は石畳に倒れ、血を流す。 ルヒド「な……に……?」 男は不思議そうに声を出した。 何故そうなったのかが不思議だというくらいに。 レオ 「……貴様が教えてくれた。神の子の能力に時を操る能力があることを。     『素質』を持っているのがお前だけと侮ったのが敗因だ」 ルヒド「そ、んな……まさか……!貴様、『神の子の素質』を……!?」 レオ 「いいや。貴様にも我にも、神の子の素質など存在しない。     あるのは───その神の子から譲り受けた『月操力』と呼ばれるものだけだ」 ルヒド「ギ……!」 レオ 「貴様が操った時が月空力によるものならば、我に扱えぬ筈がない。     そして───扱えるからこそ、視界と思考程度は動かせたわけだ」 ルヒド「お、のれ……!我が大儀が、このようなところで……!!」 レオ 「───散れ。死神王」 鎌を勢いよく振り、男の顔面を潰した。 ……それで、男からは完全に『気配』が消えた。 体が黒い霧へと霧散し、やがて消滅した。 レオ 「……ちっ……思いのほか梃子摺ったな……」 こんな筈ではなかった。 運命破壊せし漆黒の鎌(デスティニーブレイカー)を扱いながら、なんてザマだ……。 たしかにあの男の言う通り、我には戦闘経験というものがない。 元々『弦月彰利』と『子彰利』と我の意識と記憶は別々で、その経験さえも分割される。 弦月彰利がゼノとの戦いや他の者との争いで得た知識や経験は、 全てが弦月彰利のものなのだ。 ただ我は、肉体に宿る微量な記憶を感じて、それらを『知っている』に過ぎない。 『知っている』だけでは経験にはならないのだ。 レオ 「……だが」 経験など今のものだけで十分だ。 死神の長というだけであの強さだったのだ。 ならば……『死神と融合した神の子』は、どれほどの強さなのか……!! レオ 「ククッ……!!笑いが止まらぬ……!あの時代には強者が揃っている……!!     なんと都合のいい時代だ……!!神の子も死神の子も創造者も死神も居る!     かつて死神の中の最強と言われたフレイアまでもだ!!     ルナの中で眠っているだろうが、呼び起こせばいい!!     そして───それらを滅ぼし、力としてくれる!!フハハハハハハ!!!」 月空力を解放し、時を越える準備をする。 傷の治療は戻ってからでいいだろう。 月の光だけでは、もはや回復が追いつかぬ。 未来に戻れば『冥月刀』という便利なものがあるのだからな……。 レオ 「その前に───」 ふと思い立ち、神社の影で怯えているその人影を睨む。 みさお「あっ……!」 まだ、体が馴染まない。 それは何故だ? それは……弦月彰利の『意思』がしつこいからだ!! レオ 「貴様を殺す。そして……我は自由になるのだ!」 みさお「あ、あきえ───」 ゾボォッ!! みさお「───か、ふ……」 心臓を一突き。 腕が血に染まり、女は絶命した。 レオ 「───ぐっ!?な、なんだ……?体が急に重く……!?」 くっ……我が思うより、ウィルヴスとの戦いの傷が深かったということか……? レオ 「餞別として、貴様の魂は頂いていくぞ」 我は神の子の魂を吸収し、違和感を感じながらも持ち直した。 そして───月空力とやらを発動させ、飛んだ。 ───ガカッ!!キィン! レオ 「は、あ……!!」 戻ってきた。 景色は過去のそれではなく、神の子の転生体の居る時代のものだ。 レオ 「チィ……思った以上にダメージが大きい……!!     だが、我が『弦月彰利』の意思に勝てば、もっと体が自由になる……!     そうなれば、この動かし辛い体も言うことを聞くだろう……!!」 だから滅ぼすのだ……!! ヤツの大事なものを、全て……!! レオ 「晦悠介……あいつがいい……!!あいつと神の子の転生体を殺せば……!!」 ───神社だ……! 神社に行けば───!! キィンッ!! 悠介 「なっ───!?」 椛  「え───?」 椛と話し合っていた時、その場が死気に包まれた。 そして───視線の先に立っているのは……レオ=フォルセティー。 レオ 「……お誂え向きだ……。まさかふたりとも居るとはな……」 椛  「───!あ、あなたは……おとうさんの精神の中に居た───!」 悠介 「っ……!お前が存在してるってことは、彰利はもう……!」 椛  「え……?」 ……飲まれたか、死んじまったってことか……!! 知らず、ギリ、と歯が軋んだ。 レオ 「弦月彰利か?あいつならもう死んだ。ウィルヴスに殺されたぞ」 悠介 「───!」 椛  「……うそ……」 なんてこった……!! レオ 「そして我は貴様らを殺す……!貴様らを殺せば、我は確立できるのだ……!!     我は弦月彰利の意思に負けるほどの存在ではないのだ……!!」 ───レオの眼は、既に精神内で見た誇り高さを失っている。 こいつは……ただの破壊魔だ。 そして、彰利じゃない。 悠介 「椛ッ!戦うぞ!彰利の仇をうつんだっ!」 椛  「うそ……うそ……!お、おとう……さんが……」 悠介 「もみ───っ……!!」 あまりにショックだったのか。 椛は眼を虚ろにして、座り込んでしまった。 レオ 「そうだ、抵抗など無駄だ……!!     貴様らごときが我に勝てるわけがないのだからな!!」 レオが疾走る。 その腕は赤く、血に染まっている。 それは───いつかの過去を思い出させた。 神社に集まっていた家系の人達を殺してしまった、あの頃のあいつを。 だからだろうか。 直感的にそれが解っちまって……俺は叫んだ。 悠介 「だめだ───やめろ彰利ぃいーーーーっ!!!」 ……レオが、『なに?』と言葉をこぼした。 その刹那、ヤツの意思とは関係なくヤツの腕が動き───己自身の腹を貫いた。 レオ 「あ……あ……?」 訳も解らず、レオはその場で止まった。 腹からは血が溢れ、空いていた風穴をより深くした部分からは、次第に光が漏れ始めた。 レオ 「な、なんだこれは……!!なんだ……!?なぜ、勝手に腕が……!!     なぜ勝手に……聖なる力など発動させる!!     馬鹿な!やめろ!!我はそのようなことを考えていないっ!!     デッ……運命破壊せし漆黒の鎌(デスティニーブレイカー)!!力の発動の運命を破壊しろ!!」 ───……。 レオ 「なっ……何故だ……!?なぜ力がっ……鎌が発動しないっ……!?     くそぉっ……!何故だぁっ……!!」 レオが苦しげに唸る。 だが何を思ったのか、目を真紅から深紅に染め、椛に向かって駆けた。 壁に立て掛けてあった冥月刀を手にして。 レオ 「力が足りぬのだ───!!もっと……もっと吸収すれば!!     冥月刀よ!仮初の主として命ずる!     この小娘と、この世界に存在する全ての死法、神法、月操力を吸収せよ!!」 悠介 「ッ!?しまっ───!!」 駆け寄ったが、遅かった。 レオは椛からなんらかを奪い、狂ったように笑った。 そして───力無く倒れた椛から、まさに『能力の全て』が奪われたことが感じられた。 レオ 「ハ───ハハハハハハハハ!!素晴らしい……!!なんという素晴らしい力!!     この力さえあれば、怖いものなど───」 ドクンッ!! レオ 「ギッ……!?な、なんだ……!?体が……崩れ……!?」 レオの体が脈打つ。 体から黒い霧が溢れ、その体を崩してゆく。 レオ 「な、なんだこれは……!!何故崩れる……!?鎌も発動しない……何故……」 悠介 「……お前は何も知らないんだな」 レオ 「なに……!?」 悠介 「情けない……100年以上も彰利の体の中に居たってのに、     お前はなんにも解っちゃいなかった……」 レオ 「どういうことだ……!!貴様……なにを言って……!」 悠介 「あいつは頑張ってたよ。……たったひとりで家系に立ち向かってた。     ボロボロになっても、決して物事を諦めなかった。     そして……いろんなことに関わって、いろんなことを知っていた。     『神の力』と『死神の力』が反発するってことくらい、知っていた」 レオ 「な……」 悠介 「お前はその刀で『家系の力』やその元素となるものを吸収した。     ……けどな、それを支えるためには『奇跡の魔法』が必要なことくらい、     あいつは……彰利は知っていた」 レオ 「……馬鹿な……我があいつに劣っているとでも……!?」 悠介 「劣ってるさ……お前は破壊するだけで、何も救えないクズだからな!!」 体が崩れているレオに、そう言い放った。 レオは驚愕の顔をし、だが……微笑を漏らした。 レオ 「……結局、我は……弦月彰利の意思には勝てなかったと……ゆうことか……」 レオのカタチが崩れる。 影が霧散し、そして─── 悠介 「───!」 その場には、彰利の体と冥月刀が残された。 慌てて近寄って、その心音を調べてみる。 すると─── 悠介 「生きてる……生きてる!!」 俺は嬉しさのあまり、声をあげて喜んだ。 見たところ傷もない。 それを確認した途端─── 彰利 「………」 彰利は起き上がり、よろよろと歩いた。 悠介 「お、おい……彰利?」 彰利 「………」 歩いた先には……倒れたままの椛。 彰利は椛に手を掲げると、椛に『何か』を渡した……そう見えた。 彰利 「ゆう……すけ……」 悠介 「彰利っ?な、なんだ……?」 彰利 「……椛が起きたら……リヴァイアに頼んで……奇跡の、魔法を……」 悠介 「彰利……お前……?」 どうしてかは解らない。 けど……今の彰利は、ひどく存在が希薄だった。 彰利 「……奇跡の魔法を……小僧に、移してやってくれ……」 悠介 「なに……?」 彰利 「もう……椛の中には……死神の力なんて……無い、から……」 それだけ言うと、彰利は倒れた。 悠介 「彰利っ!?」 慌てて駆け寄る。 ……息もしてるし、心音もある。 椛は───ああ、大丈夫だ。 あれだけ生気が無かった顔に、赤みが差している。 もう大丈夫だ。 悠介 「…………はぁ」 ようやく一息がつけた。 彰利の言うことが本当なら、全ては落ちつくことになる。 椛と凍弥は幸せになれるだろう。 そして、レオが消えた今───彰利も。 悠介 「よかった……本当に」 俺は心からの安堵を吐き、その場に尻餅をついた。 正直……疲れた。 Next Menu back