───悠久の深淵へ───
───……キィンッ!!
彰利 「うっし、到着」
鈴訊庵二階の一番奥の部屋の前。
よ〜するにリヴァっちの部屋の前に立ち、その障子を開ける。
彰利 「ヘロウ」
陽気かつ、ベンジャミンの真似をしながら中に入る。
そこは『リヴァっちラボ』でした。
リヴァ「ん───ああ、検察官か。どうしたんだ?」
男 『お客さんですね。それでは今日はこれで失礼します』
リヴァ「ああ、とっとと切れランス。お前の顔を見てると疲れる」
ランス『相変わらずですね、リヴァイアさん。
連絡を入れてきたのは元よりあなたの方でしょう』
リヴァ「そんなこと知るもんか。そっちが切らないとこっちが切れないんだ、早くしろ」
ランス「はいはい」
───ヴンッ。
なにやら、よう解らんが……ランスとかゆう男が映ってたバカデカい画面が消えた。
彰利 「知り合いかね?」
リヴァ「ああ、空界の出来の悪い弟子───じゃないな。
この世界で言う『金魚のフン』か『コバンザメ』みたいなヤツだな」
彰利 「へえ。それにしてはなんだかんだで嬉しそうだったけど?」
リヴァ「ばか、妙な誤解をするな。
わたしは、わたしが空界で育てているプラントが、
順調に育っていると聞いて安心してただけだ」
彰利 「そうなん?
ああまあ、たしかになんでも色恋沙汰に繋げるのもどうかと思うけど」
リヴァ「そうだぞ、まったく。地界の輩ってのはどうしてこう……」
彰利 「色恋沙汰がどうのこうので盛り上がるの、
天地空間の中でも地界がダントツだろうな。
だが、今はそれよりも頼まれてくれまいか」
リヴァ「頼み?なんだ、珍しいな。どんな用件だ?」
彰利 「………」
リヴァイアって、頼まれごとを断われないタイプだな。
などと、ふと思ってしまったり。
だって『頼まれてくれまいか』って言った途端、目ェ輝かせたし。
彰利 「なぁリヴァっち。もしかしてさ、結構お節介?」
リヴァ「知らないね。けど───ああ、そうかもしれない。
わたしは自分で、凍弥に似てるって自覚したんだから」
彰利 「へえ、そうなん?」
リヴァ「ああ。感じたことは否定しないのが空界の魔術師だ」
彰利 「ほへー、そうなんか。案外、損な性格してんのね、空界の魔術師って」
リヴァ「ああ、そうだな。けど性には合ってるんだ。だからそれも否定しない」
彰利 「そかそか」
うむうむと頷いて、
かつてアタイが寝かされたベッドくらいの大きさの台に悠介を寝かせる。
ゴロリと転がった悠介は、それはそれは苦しそうだった。
リヴァ「なんだ、またなにかやったのか?」
彰利 「あの日です」
リヴァ「…………お、男にもあるものなのか?」
すげぇ、『あの日』が空界にも通用することが証明されたぞ。
わたしは大変驚きました。
彰利 「実は……黙ってたけど、悠介ってば女だったんだ……」
リヴァ「そ、そうなのかっ!?───……せ、生体検査してみていいかっ!?」
彰利 「それはマズイと思いますが」
特にリヴァっちの目がマズイ。
案外どころか、素直に無邪気といいますか。
うーむ、生きていて飽きの来ない性格らしい。
リヴァ「まあいいか、この発熱の原因を調べれば解ることだし」
リヴァっちがラボの中をゴソゴソと掻き回し、適当な材料を持ってくる。
リヴァ「じゃあ、始めようか。ああ検察官、ちょっと手伝ってくれ」
彰利 「Certainly Sir。謝謝(、楊海王(」
リヴァ「……?ま、いいや」
リヴァっちは怪訝そうな顔をしつつも、悠介に近寄る。
リヴァ「状態異常を見る式は───っと……」
リヴァっちが指を光らせ、宙になにかの文字を描く。
彰利 「それなに?」
リヴァ「魔導魔術の式だ。空界では天界とかで言う『詠唱』の代わりに式を編むんだ」
彰利 「ほほー」
リヴァ「馴れてれば編む式を頭の中でイメージして発動出来るけど、
この手の初期の式は忘れがちなんだ。
記憶力には自信があるつもりでも、複雑な式ってやつは多いから」
彰利 「ほへー」
リヴァ「よし、完成」
リヴァっち、描いた『式』とやらを弾けさせ、光に変換した。
するとその光が悠介の中に消えていく。
リヴァ「───……なぁ検察官。こいつは生粋の男らしいが」
どうやらデータを引き出したらしい。
そしてあっさりバレた。
彰利 「すまん、さっきのはリヴァっちがふてくされてたから言った冗談だったんだ」
リヴァ「不貞腐れてた?……ああ、そうかもしれない。ランスと話すと疲れるんだ」
彰利 「そうなん?」
リヴァ「融通が利かないんだ。あいつは苦手だ」
彰利 「へー……」
よし、話を逸らした。
アタイ最強!
彰利 「ところでどんな感じ?悠介のってやっぱ疲労?」
リヴァ「ん───悪いところは見当たらないよ。
ただ、ちょっとした殻に閉じ篭もった感がある」
彰利 「カラ?なんザマスのそれは」
リヴァ「精神がまいってる証拠だな。……検察官、最近でなにかあったか?」
彰利 「最近……そうさのう、過去に飛ばされて、そこで百年近くを生きたとか」
リヴァ「それだ」
彰利 「ウィ?」
リヴァ「それだけの長い時間を生きれば、普通の人間なら『生きること』に飽きが来る。
ああいや、生きることに飽きるんじゃないな。人との別れが辛いんだ。
自分は老いを知らず、だが他のやつらは老いていく。
そういうのは少なからず心にダメージを与えるもんだよ」
彰利 「俺、平気だけど」
リヴァ「………」
彰利 「………」
わぁ、珍獣を見るような目だ。
リヴァっちのこんな顔、初めて見た。
リヴァ「……今度、生体検査をさせてくれ」
彰利 「初めてだから、やさしくしてね?」
リヴァ「痛みはない、安心しろ」
彰利 「それならいいけど。そんじゃ、話の続きしましょか」
リヴァ「ああそうだ、こいつの状態のことだったな。
こいつにはお前への引け目があるんだ」
彰利 「……なんですと?」
リヴァ「こいつはお前を『無限地獄』に落としてしまったことを悔やんでる。
自分がそうしたかったわけじゃないことくらい解ってるだろうに」
彰利 「無限地獄って、俺が何度も繰り返したゼノとの戦いのことだよな?」
リヴァ「検察官。以前お前が気絶した時、わたしたちはそれを見た。
それが今の現状を作ってる。ヘンなところで責任感が強いらしい。
わたしから見れば、検察官がそれを気にしてるふうには見えないっていうのに」
彰利 「実際気にしてませんしね。しっかし……案外悠介って馬鹿なのな。
気にしてるなら友達なんてやめてるってのに」
リヴァ「ああ、わたしもそう思う。こいつは馬鹿だ」
彰利 「馬鹿め!馬鹿め!」
リヴァ「……一応式で眠らせてはいるが、
そういうヤツにそこまで言う検察官も相当だと思うぞ」
彰利 「自覚してます」
俺ってこういう男だし。
彰利 「で、治せるかな」
リヴァ「検察官の時と同じだな。
精神に介入して修正するしかないな。精神が底の底に沈んでる」
彰利 「ほほー……それ、楽しい?」
リヴァ「どうだろうな。不快なことも結構あるかもしれない。
……やれやれ、またランスに協力を要請しないといけないのか……。
あいつに借りを作るのは嫌なんだけどな……」
彰利 「リヴァっちだけでなんとかならんの?」
リヴァ「空界には暇な魔導ハッカーが多くてね。
そいつらを押さえておいてもらうには、あいつは長け過ぎてるんだ」
彰利 「……恐ろしいほど適任ってわけね」
リヴァ「元がS級魔導ハッカーだから、余計に」
彰利 「なるほど」
リヴァ「魔導ハックであいつに勝てるのはわたしくらいだ。
けど、わたしは精神介入したヤツの様子を見る義務がある」
彰利 「だからハッカーの方には手が回せない、と」
リヴァ「そういうことだ」
苦笑して見せるリヴァっちに対し、アタイは頬を掻いてみせた。
いろいろ忙しいうえに面倒なんだなぁ。
リヴァ「先に言っておくけど、精神介入されたらその介入された者の幻像が編まれる。
そいつは精神に潜ってる者の排除を優先するから、
もし検察官が潜っていたとしたら、襲われる」
彰利 「ってことは……悠介と戦うことになるってこと?」
リヴァ「ああ。検察官の時に解ったことだけど、幻像はオリジナルに酷似しすぎてる。
惑わされるな、そいつは確実に作られたニセモノにすぎない」
彰利 「……そのハッカーの捻くれた性格が見えるようだな」
リヴァ「そういうことだ。わたしから言えるのはそれらに注意しろってことくらいだ。
他に質問はあるか?」
彰利 「何人でも入れるか?」
リヴァ「せいぜいで三人くらいだ。あまり多くの意識を入れると精神崩壊に繋がる」
彰利 「三人……アタイは確実として、あとふたりか……。
俺の時って誰が入ったん?」
リヴァ「こいつと刀を持った女と椛とかゆう女だ」
彰利 「……ふむ」
……さて。
どうしたもんかなぁ……って、そうだ。
彰利 「閃いた!閃いたよリヴァっち!!」
リヴァ「……そのリヴァっちってゆうの、なんとかならないのか?
あ、いや……嫌ってわけじゃないけど」
彰利 「ウ、ウィ?」
あらら、なにやらリヴァっちが照れてる。
もしかして、愛称とかで呼ばれるのに憧れてたとか?
…………まさかねぇ。
彰利 「べつにやめてもいいけど」
リヴァ「それはしなくていい」(キッパリ)
彰利 「………」
リヴァ「………」
彰利 「……リヴァっちのままでいいんでないかい?」
リヴァ「……そうだな」
なにも変わりませんでした。
───……さて。
彰利 「というわけで、小僧と椛を連れ攫ってきました。
ルナっちに見つからんように連れてくるのは大変だったぜ?」
椛 「………」
凍弥 「………」
気まずい雰囲気バリバリです。
まあこれはアレだ、仲直りツアーということで。
彰利 「よしリヴァっち!初めてくれ!」
リヴァ「それはいいけど。眠らせないと精神の受け流しは出来ないんだ。寝てもらうぞ」
彰利 「よし寝ろ」
椛 「………」
凍弥 「………」
わぁ、すっげぇ気マズイ。
でも寝てもらわなぁ困るのですよ。
彰利 「奥義!“頭頂破砕岩(”!!」
説明しよう!
頭頂破砕岩の奥義は、対象の頭と頭をぶつけることで大激痛を誘う伝説奥義である!
彰利 「ハイヤァーーッ!!」
椛 「え……あ、ひゃあっ!?」
凍弥 「う、うわっ!?」
アタイは両脇に抱えた小僧と椛を勢い良く向かい合わせ、合掌ならぬ合頭!!
ゴコォッ!!
椛 「はうっ!!」
凍弥 「くおっ!!」
……そして作戦は失敗した。
考えてみれば、これくらいで気絶するヤツが居たらスゴイです。
椛 「お、おとうさん……」
凍弥 「彰衛門……てめぇ……」
彰利 「むう、ならば月清力!」
椛 「はうっ!?」
凍弥 「うあっ!?な、なんだ……?急に眠く……!」
彰利 「抗うなど無駄!貴様らはここで眠るのだ!」
椛 「う、うう……」
凍弥 「く……」
がくり。
小僧と椛を眠らせた───これで準備万端!
彰利 「リヴァっち、準備OK?」
リヴァ「ああ、大丈夫だ」
彰利 「ではアタイも眠るとしよう。実はよい気絶方法を教えてもらいまして」
リヴァ「へえ、そうか」
彰利 「クロノスチェーーンジ!!」
ベゴキィッ!!
彰利 「むぎっ!!」
……閏璃の真似をして、首を思いっきり捻った。
するとブラウン管の電源が落ちるが如く、ぶっつりと意識が途切れたのでした。
───……。
ズズズズ……!!
大地が揺れていた。
そう感じたのは、アタイがその場に立っていることを実感した時だった。
彰利 「凄まじいエネルギーを感じる……。これが俺の精神の力なのか……」
声 『力は変わらないぞ』
彰利 「……そっすか」
聞こえたリヴァっちの声に落胆。
なにはともあれ、精神には入れたらしい。
彰利 「さてと、それではあとはお若いふたりに任せ───って居ねぇ!」
振り向いてみても、小僧と椛は居なかった。
声 『落ちつけ検察官。
精神に入る時には、ひとりひとりどこに現れるのか解らないんだ。
ただ、そこが出入り口だ、覚えておけ。帰る時もそこに来ないと戻れない』
彰利 「おっけーざますー!で、ここでの目的は?」
声 『こいつ……晦悠介の精神の底の底まで行って、不安材料を破壊すればいい。
その破壊材料は、多分検察官が一番知ってると思う』
彰利 「……そか。了解だ!任せておきたまえー!!」
声の聞こえる方に親指を立てて笑ってみせた。
……が、返事は返ってこなかった。
彰利 「……んじゃ、進みますか」
こうして、アタイの旅が始まったのだった。
───……コーーン……コーーーン……
凍弥 「………」
気がつくと、見知らぬ場所だった。
けど、ここは何処だろう、と感じるより先に───それはやってきた。
男 『へえ、客人か』
凍弥 「お前は……───っ!?まさか!」
男 『覚えてもらえてて嬉しいよ。
ま、もっとも?俺は自分が消滅するまでお前のことなんか忘れてたけどな』
凍弥 「櫂埜上……喜兵衛……!!」
逝屠 『おっと、勘違いしてもらっちゃ困るな。今の俺は十六夜逝屠だ。
あの頃の俺と比べてもらったら、それは恥じでしかない』
言って、喜兵衛───逝屠は、刀を取り出した。
逝屠 『気に入らないが、この世界は便利だ。
イメージするだけで欲しいモノが手に入る。
刀が欲しいと思えば、こうもあっさりと手に入る』
凍弥 「くっ……!」
逝屠 『おっと、逃げるなよ。お前はここで死ね。精神が死ねば肉体も死ぬんだからな。
いつかの礼、たっぷりと返させてくれよ』
凍弥 「───!」
逝屠が跳んだ。
迷うことなく、俺に向かって。
───……。
椛 「……また、精神の世界……」
コーーン、コーーンと鳴っている世界。
一定の間隔で鳴るその音は、何が鳴っている音なんだろうか。
椛 「……凍弥先輩……」
解ってる。
おとうさんは、わたしと凍弥先輩の仲直りを手伝ってくれようとしている。
わたしだって仲直りしたいし、結婚できないなんてウソ。
好きだし、愛してるし、ずっとずっと傍に居たい。
なのに……
椛 「どうして……ごめんなさいの一言が言えないのかな……」
───どちゃっ。
声 『クフ……アハハ……ゴポポポポ……!!』
椛 「え……?」
ふと聞こえた声。
その方向に向き直った。
そして───吐いてしまいそうになる自分を、必死で押さえた───!
女性 『ブゲッ……ゴバババ……!ア゙バババババ……!!』
男性 『ゲボッ……ブゲゲゲゲ……!!』
全身を焼けただらせた女性と男性が、狂ったように笑っているのだ。
皮膚は焼けすぎて溶け、喉の内側が見えていて……
そこから笑い声と妙な液体が流れている。
目は高熱に当てられたためか白く変色し、髪なんてものは完全に焼け焦げていた。
その場に漂う異臭は尋常じゃない。
それだけで吐いてしまいそうだ。
女性 『ユウ……スケ……』
男性 『オマエモ……オマエモイッショニ……』
女性 『シネ……ヤケロ……!』
男性 『オマエダケ……ソンナスミデナニヲシテルンダ……!!』
椛 「いやっ……!」
女性と男性が、わたしを『ユウスケ』と呼びながら近づいてくる。
その、白く変色した目でわたしを見ながら。
もう、骨まで見えるその体が、喉が、声が、わたしへと向けられる。
椛 「うぶっ……!う……や……こないでっ……!いやっ……!」
キモチワルイ。
足が竦んで動けない。
助けて……!誰か助けて───!
椛 「凍弥先輩……!助けて……!助けてぇっ……!!」
───……。
デゲデデッテデーーーン!!
マキィーーン!!
彰利 「闇を照らす霊訓!……何も思い浮かばん」
さて……底の底って言われたって、どこにあるんだそんなもん。
適当に徘徊するしかないとはいえ、こりゃ面倒だ。
彰利 「うーむ……む?」
ふとした瞬間、地面からなにかが現れた。
黒い塊、だな。
彰利 「あ〜ん?なんじゃあ、こりゃあ〜〜」
黒い塊『───……』
ビキィン!
彰利 「む?」
黒い塊は俺の前で黒く輝くと、ヒトの形を作った。
そしてそれは───悠介になった。
影悠介『───』
彰利 「へえ、悠介にバケたか。その姿なら俺が攻撃しないだろって考えか?
それとも───俺の思考を読み取っただけか?」
影悠介『……ネゴトハネテイエ』
彰利 「───どっちにしても、残念だったな。俺は案外、残酷でね」
ゾバァッ!!
彰利 「模造品なんてものは、躊躇いもなく殺せるのさ」
影の顔を消し飛ばしてやった。
残った体はゆっくりと倒れ、やがて霧散して消えた。
彰利 「……さぁて?次はどんなオモチャが出てくるやら」
またこんなくだらねぇのだったら、形を作る前に死滅してやるさ。
───……ヒュオッ!
風が吹いた。
刹那、女性と男性は黒い塊となって消え、
その場にはその風と見誤る存在だけが残された。
凍弥 『───……』
椛 「凍弥……先輩?」
木刀を手にした先輩は、ふたりに向かって駆け、瞬時に消し去った。
そしてわたしに向き直って、……
椛 「……違う。凍弥先輩じゃない……」
凍弥 『───』
木刀を振り上げる。
わたしに向けて。
椛 「ごめんなさいっ、凍弥先輩っ」
それを食らうわけにはいかず、わたしは手に月醒力を込めて───放った。
その光が掠った程度で、ニセモノの凍弥先輩は黒く染まり、やがて霧散した。
椛 「……なんなの……?ここは……」
おじいさまの心の中には、いったいなにがあるってゆうのだろうか。
……どちらにせよ、もうあのキモチワルイふたりには出てきてほしくなかった。
───ビジィッ!ギキィンッ!!
逝屠 『うん?なんだ、考えたな』
凍弥 「そりゃどうもっ……!」
咄嗟に思いついたことだった。
ここが創造を可能とする世界なら、それは相手に限ったことじゃないかもしれないと。
そして───イメージした通り、俺の手には刀が。
逝屠 『けど───イメージに馴れてないヤツの作ったものなんてモロイもんだぜ』
凍弥 「なっ───」
パキィン!!
軽い音を立てて、手にしていた刀が砕けた。
逝屠 『そしてそんな隙を、俺が見逃すわけがない。
望んだものなど消え去るのが世界の法則。
お前はここで死ね。せめていたぶって殺してやるよ』
凍弥 「くあっ───!」
刀が一閃する。
俺はそれを、強引に体を捻って避けた。
逝屠 『さすがだな。剣聖の名は伊達じゃないらしい───が。
あんたと俺とじゃあ力の差がありすぎるのさ。
俺は曲がりなりにも家系の者だからね。
あんたがいくら足掻こうが、お前の結末は斬殺死体として転がることさ』
───落ちつけ。
俺が鮮明にイメージできるものを探すんだ。
俺だけの力じゃあ、こいつには勝てやしない。
逝屠 『そら、とどめだ』
凍弥 「くっ───!」
跳んだ逝屠を見て、俺もその分だけ下がる。
が、その場に落雷が舞い降りた。
凍弥 「なっ───!」
逝屠 『獲物を逃がす殺人鬼がどこに居るっていうんだ。
お前は、ここで、俺に殺されるんだ』
確かめるように、微笑をもらしながら言う。
その顔は、ものごとを楽しむだけの無邪気な子供のようだった。
凍弥 「くそっ……」
追い詰められてゆく。
───けど、その時。
凍弥 「あ……」
脳裏に現れたイメージがあった。
それは確かに、俺なら鮮明に想像出来るものだった。
凍弥 「───」
集中を開始する。
全ての意識を想像と創造だけに向け、やがて───イメージを弾けさせた。
逝屠 『まだ足掻くのかよ。往生際が悪いぜ、あんた』
凍弥 「俺は諦めが悪いんでねっ!生きてる限りはなんだってやってやるさ!」
イメージしたものはただひとつ。
それは───彰衛門が持っていた刀、冥月刀だ。
逝屠 『まずは頚動脈を切って、
それから体中を切り刻んでやるよ。どうだ、やさしいだろ』
逝屠がもう一度、俺に向かって走る。
そのタイミングに合わせて、手に力を込める。
弾けたイメージはやがてひとつのカタチとなる。
逝屠 『またガラクタか!?無駄だよ馬鹿っ!』
凍弥 「どうかなっ!?滅びるのはお前かもしれない!」
俺はそのカタチを、迷うことなく振り抜いた。
───パギィンッ!!
逝屠 『ギ……!?』
ソイツは可笑しそうな顔で、けれど怪訝そうな声を出した。
なにかが間違ってると。
立っている俺と、胴体を分割された自分とを、何度も見比べている。
逝屠 『な、……どういう……』
凍弥 「……悪いな。この刀のイメージだけは、間違える筈が無いって思ったんだ」
逝屠 『ギ……イ……』
凍弥 「理由なんて知らない。ただ、そう思ったんだ。
『刀が泣いている』だなんて感じる俺には、
そういう常識ハズレが合ってるのかもしれない」
逝屠 『………』
逝屠はもう動かなかった。
ただ、なにが間違いだったのかという表情のまま、息絶えていた。
けれどそれも少しの間で、やがて黒い霧となって霧散した。
凍弥 「……はぁ。どうなってんだ、ここ……」
ふと思うことは椛のこと。
なんだかんだで椛を一番に考えてる自分が居る。
……誤解だって解ったんだから、前のように振る舞えればいいのにと。
でもフラレた側は俺なわけで、俺がごめんとか言うのも……なんか違う気がする。
凍弥 「……せっかく彰衛門がチャンス作ってくれたってのに……」
なぁにやってんだかなぁ、俺……。
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