───放浪精神『序章◆微食倶楽部の海原雄山』───
───……空界、リヴァイア工房。
悠介 「───どうだ?」
リヴァ「ああ。こうしてひとつひとつ掘り起こせば、まだもつだろう」
その、どこか薄暗い場所で、俺とリヴァイアは眠りっぱなしの彰利を見下ろした。
あれから俺とリヴァイアは彰利の記憶や経験を引きずりだす方法を考え、
精神に潜ってそれを掘り起こすという方法を考えついた。
実際、もう何度精神に潜ったか解らない。
悠介 「よし、もう一度だ」
リヴァ「少し休め。無理をするとお前の体がもたないぞ」
悠介 「構うか。助けたいんだよ、こいつを」
リヴァ「…………好きにしろ」
フンと鼻で笑い、リヴァイアが俺の精神を彰利の精神へと繋ぐ。
リヴァ「いくぞ。ダイヴ開始───!」
意識が遠退くのを感じ、俺はまた、彰利の精神へと潜った。
───そして。
ズズ……
彰利 『アタイの記憶が確かなら!アタイの名前はセルゲイ・タクタロフ!!』
悠介 「うそつけ!」
潜った途端にツッコミどころ満載だった。
立ててある看板には、今回は『闘狂アキトSea(』と書いてある。
確か前回は『ドミトリィ・チェレンコフを応援する会』で、
前々回が『旋風剛拳で宙を浮く理論会議』だった。
何回潜ったかはもう忘れたが、何回潜っても看板だけは絶対にかけてある。
彰利 『アァーーーレッ!キュイジーヌ!!
さあ、今日の挑戦者は【リアルジャイアン】の称号を持つ───
つごォーーもりィーーッ!!ゆうゥーーーすけェーーーッ!!』
ハワァーーーッ!!
周りに居る彰利の軍勢が歓声をあげる。
彰利 『対するはァーーッ!腐敗の王者ァーーッ!!弦月ィーーッ彰利ィーーッ!!』
ハワァーーーッ!!
……腐敗でいいらしく、更に輪をかけて大きく歓声をあげる。
そしてどうやら……今回の勝負方法は料理対決らしい。
───よく解らんが、レオが食った彰利の経験は消滅せずに残っているらしく、
それが精神のどこかに埋まっている。
それを掘り起こすのが俺の役目である。
もちろんこの役目の最中にレオに襲われるといけないので、
そのために神王の竿───田中の出番というわけらしい。
……まあ、本当は掘り起こすだけだった筈なのに、
どうしてかその埋まっている場所には無数の彰利が居た。
恐らくはレオの苦肉の妨害策ってやつだろう。
しかし聖なる力で抑えつけられているため、
攻撃的なことが出来ないと、そういうことだ。
悠介 「で……前回は確か、雪合戦だったか?」
彰利 『忘れました!俺らサルベージ彰利隊は、
回収したモノをネタに誰かをからかうのが仕事なんでね!
ンなこといちいち気にしてられませんよ失礼な!』
悠介 「……いい性格してるよ、お前も、本体も」
彰利 『馬鹿とはなんだコノヤロウ!!』
悠介 「いつ『馬鹿』なんて言ったよ馬鹿!!」
彰利 『バカとはなんだコノヤロウ!!』
……しかし。
最初に掘り起こしに行った場所のサルベージ彰利隊は、どうにも人間味がなかった。
しかしどうだろう。
掘り返すたびに、どんどんとサルベージ彰利隊にも人間味が増えてゆく。
それはなんだか嬉しいことだった。
彰利 『今回のこの料理勝負、審査員としてこの方に来ていただきました!!』
悠介 「この方?どうせ彰利だろ」
彰利 『そこ!五月蝿ェぞ!黙ってろこのタコ!』
悠介 「タコ!?」
いきなりひどい中傷だ。
前回まではこんなことはなかったんだが。
まあいい、それだけ回復してきてるってことだ。
彰利 『さぁ!我らが微食倶楽部が誇る巨匠!『海原雄山(』の登場です!!』
ハワァアアアーーーーーーッ!!!!!!
観衆彰利が騒ぎまくる───てゆうか五月蝿い。
海原 『この雄山を唸らせる料理を作ってみせろ。
まあ、貴様なんぞにこの雄山を唸らせるものが作れるとは思えんがな!
うわぁっはっはっはっはっは!!』
悠介 「殴っていいか?」
彰利 『ナックルは敗北を意味するが』
悠介 「野郎……」
むかつくヤツだ……。
どう見たって海原雄山の真似をした彰利じゃねぇか。
彰利 『それでは始めよう。貴様と俺、どちらが上か決める闘いをな!』
悠介 「お前、司会じゃなかったのか?」
彰利 『人手不足なのよ。ホラ、最近不景気じゃん?』
悠介 「精神世界の不景気なんて知るかよ……」
なにはともあれ、こうして料理対決の火蓋が切って落とされた!!
彰利2『どうも。貴様も料理の助手をするように言われた助手彰利だ』
悠介 「あ、そ……。あ、ところで材料は?」
彰利2『勝手に創造してくれ』
悠介 「………」
彰利2『お?あんじゃいその目は!やンのかコラ!』
悠介 「やかま───ハッ!?」
彰利 『………』(じぃーーー……)
……まさか。
こいつを殴っても失格になるってか……?
彰利 『ここでは殴ったら失格……。今まで散々殴ってくれましたからねぇ。
解るかねッッ!!我々も学んでおるのだよッッ!!』
悠介 「前のことなんていちいち気にしてられないんじゃなかったのかよ!」
彰利 『シャラップお黙り!余計なこと言ってる暇があるなら料理を作りなせぇ!!』
悠介 「やろっ……!お、覚えとけよてめぇ……!」
彰利 『忘れましたじゃ!』
俺は構想していた料理の食材を創造して、料理を始めた。
彰利2『おおこの料理なら知ってますぞ!塩をたーーんと入れるのがミソね!』
ボサボサボサ!!
悠介 「ぐおぉおーーっ!!?な、なにしやがるてめぇ!!」
彰利2『味付けだ!すげぇだろ!』
悠介 「このや───ハッ!?」
彰利 『………』(じぃーーー……)
く、くそっ……!殴れねぇ……!!
悠介 「な、なぁ……もし俺が殴ったら、どうなるんだ……?」
彰利 『知れたこと……。弦月彰利の経験や記憶が風化するだけぞね』
悠介 「お前はそれでいいのか?」
彰利 『知らんなぁ〜、俺はただ命令に従っているだけなんでなぁ〜』
悠介 「チィッ……!」
こいつらは彰利であって彰利じゃない。
記憶や経験を糧に作られた幻像ってわけか。
レオも酷なことしやがる……。
悠介 「っし、あとは───」
彰利2『ああ奥さん!醤油を入れ忘れておりますよ!?ダメダメこんなんじゃ!』
悠介 「お前は調理台に立つな。邪魔だスダコ」
彰利2『うわヒデェッ!!』
───はい完成、っと。
彰利 『タイムオーバーだ!料理は出来たかね!』
悠介 「ああ、出来てる。いつでもいいぞ、審査を始めてくれ」
彰利 『御意。ただし、審査は俺が先、貴様が後だ!』
悠介 「………」
やっぱそう来たか。
こいつの性格だしなぁ、
冷めたものを食べさせれば印象が悪くなると思ったからこその行為だろう。
彰利 『さあ食せ、存分にな!』
海原 『む……』
彰利が海原の前に料理を置く。
海原はそれをナイフとフォークを器用に使い、凛々しい顔で口に含んだ。
海原 『まずい、食えたもんじゃない』
彰利 『なんと!?』
海原 『なんだこの料理は!この雄山にこんなものを食させるとは!!
だから食に招かれるのは嫌なのだ!
人を招いておいてこんなものを食べさせるとは!!』
彰利 『いや……貴様が勝手に来たんでしょ?』
海原 『なんだとてめぇ!この雄山にケチをつける気か!』
彰利 『いいからちゃんと食えてめぇ!
アタイの料理がマズイなんて、そげな馬鹿な話があるわけないでしょう!』
海原 『チッ……ことの本質を忘れたら料理人もクズだ。
このようなものがマズイ筈がないなどと……。
よくもそんな腕でこの雄山を呼べたものだな!!』
彰利 『やかましい!いいからトマトと一緒にチーズを食べてみろ!
トラサルディーマジックが味わえるから!!
おめぇこれで美味いって言わなきゃ……ウソだぜ!?』
海原 『こんなものを美味いの不味いの言っても始まらんからそれは言うまい。
だがひとつだけ言っておこう』
彰利 『なんじゃい』
海原 『こんな物は売り物にならんっ!!』
彰利 『なんですと!?てめぇ失礼だぞ!
そういうことはきちんとトマトとチーズを一緒に食べてから言え!』
海原 『黙れカスが!貴様を見損なったぞ宇田!!
こんな子供だましの食い物ひとつ、まともに作れんとはなっ!!』
彰利 『誰が宇田だこの野郎!いいから食えっつの!!』
ガバァッ!!
海原 『むぅ!愚か者めが!この雄山に掴みかかるとは!!』
ボゴシャア!!!
彰利 『ブゲェーーーッ!!!』
おおすげぇ!海原パンチが彰利の鼻っ柱を砕いた!!
海原 『む……見ろ!手が汚れてしまった!!
貴様!二度とこんな物を私の食卓に出すなっ!!』
彰利 『も、問答無用で殴っといて、言うことはそれだけかてめぇ……!!』
海原 『宇田の愚か者めが……あれほど私が目をかけてやったのに……』
彰利 『誰が宇田だこの野郎!!』
さて、悶着は無視してと。
はぁ……なんで俺、こんなことしてんだかなぁ……。
悠介 「そんじゃ、頼むぞ」
彰利2『御意に』
彰利2はレタスを創造してやったら従順になった。
そんな彰利2に、ある段取りを教えて、向かわせたのだ。
彰利2『海原先生……今日の昼食は、
変わったものを召し上がって頂きとうございまして……』
海原 『変わったもの?それは何だ』
彰利 『え!?あ、ちょっと待てコラ!まだアタイの審査が!
このままじゃあアタイ、トニオに合わせる顔がねぇよ!?』
海原 『黙れ!貴様などに食を語る資格はない!失せろ!』
彰利 『な、なんだとてめぇ!』
海原 『それより中川。変わったものとはなんだ』
彰利2『誰が中川だこのや───』
悠介 「レタスふたつで手を打とう」
彰利2『───……は、大変に下衆な物でございますが……』
海原 『なに、下衆な物?』
レタスに釣られた彰利2が俺が創造したものを雄山に渡す。
……作った料理は結局、彰利2に台無しにされたからだ。
海原 『む、これは……!?』
それを見て、雄山が顔をしかめる。
海原 『中川!』
彰利2『………』
海原 『うーぬ……』
彰利2は平伏すだけだ。
それを見た雄山は、面白くない顔をしながら『それ』……ハンバーガーを手に取った。
海原 『───この間、宇田の店で食べたハンバーガーよりパンの色が濃いな』
雄山がハンバーガーの包み紙を開き、そのパンを千切って口に放る。
海原 『ほう……小麦を精白せずに全粒のままひいた粉を使っている。
そしてこの香り……この味……いわゆるふくらまし粉などではなく、
天然の酵母を使ってこそ出せる濃厚な味だ……』
バクッ。
雄山、とうとうおもむろにハンバーガーを噛み締めた。
海原 『むう……どっしりした歯応え……。
パンと、中のハンバーグの歯応えが釣り合っている』
さらに噛む。
喋りながらで、よくもまあ食べられるもんだ。
行儀ってものを知らんのだろうか。
海原 『ほう……肉の味がよい……。
なかなか旨みのあるしっかりしたハンバーグだ……。
パンが力負けせずにそのハンバーグを受けとめている。
ふむ……このハンバーグとパンの釣り合いのよさがあって初めて、
つけ合わせのトマトと玉ネギの素性の確かさも楽しめるというもの』
……ほんと、よく喋る。
海原 『なるほど……炭で焼いた肉の香ばしさは食欲をあおるな……。
全く……アメリカ人好みのあさましい食い物だ……』
バクッ。
結局、愚痴をこぼしながらも全部食べた。
海原 『───!見ろ!手が汚れてしまった!!
中川!!二度とこんな物を私の食卓に出すなっ!!』
彰利2『誰が中川だこの野郎!』
悠介 「レタス3個」
彰利2『も、申し訳ありませんっ』
レタスに釣られた彰利2が雄山に謝る。
……さて、一応俺の勝ちでいいんだよな?
悠介 「そんじゃ、記憶と経験はもらっていくぞ」
海原 『愚か者め!貴様は失格だ!!』
悠介 「へ───?って、ちょ、ちょっと待て!どうしてそうなる!」
海原 『馬鹿めが!ハンバーガーなどというものは料理と呼べぬわ!
そんなものでこの雄山を誤魔化せると思っていたのか!』
正直、思ってた。
悠介 「全部食っておいてそれかよ!」
海原 『ことの本質の解らぬ者にくれてやるものなどないっ!!失せろ!』
悠介 「……はあ」
結局こうなるのか……。
こんな感じで毎回、最後はこうなるんだよな……。
悠介 「まあ、恒例だしな……」
海原 『所詮貴様のような男が究極のメニューがどうとか言うこと自体が愚かなのだ!!
うわぁっはっはっはっはっはっは!!』
悠介 「カアァーーッ!!」
ボゴシャア!!
海原 『つぶつぶーーーっ!!!』
やっぱ面倒だったから思いっきり殴った。
結果、雄山は倒れ、もがき苦しんだ。
海原 『うきっ!うきっ!うきぃいいーーーっ!!!』
どうやら顎の骨が砕けたらしい。
だがいつものことなので無視。
しかし……雄山が口から血を出しながら転がりまわる姿は新鮮だった。
彰利3『アアッ!海原先生が!』
彰利4『今だ!日頃の恨みを晴らせ!!』
彰利5『オオッ!!』
海原 『き、貴様ら!私にこんなことをして、微食倶楽部が黙っていると───!!』
彰利6『どうせ会員は貴様だけだろうが!』
彰利7『死ね!!』
海原 『お、おわぁーーーっ!!!!』
ドスガスボゴドゴガンガンガン!!!!
海原 『ギャーーーッ!!!!』
……こうして。
海原雄山がボコボコにされてる隙をついて、俺は記憶と経験の回収に向かうのだった。
───……ヴヴンッ……
悠介 「ン……う……あー……」
リヴァ「大丈夫か?」
目を覚ますとリヴァイアの工房。
無事に戻ってこれたらしい。
悠介 「はあ……疲れた……」
リヴァ「だから無駄だって言ってるんだ。
どうせ力ずくでなんとかなるんだったら、
あんな茶番に付き合わずに最初から力ずくでいけばいい」
悠介 「それは解ってるんだけどな……。
ど〜もこの眠りっぱなしの彰利を見てから、あの元気な彰利を見るとな……。
馬鹿な行動でも、付き合ってやりたくなるんだよ」
あそこまで彰利っぽく振る舞われちゃあなぁ。
リヴァ「お前にはルドラの覚醒ってゆう仕事もあるんだぞ?
無駄な体力の消耗はするな。壊れるぞ」
悠介 「は〜いはいはい」
リヴァイアが彰利の言葉を受け入れて始めたという計画……
その名もシステムルドは、俺の精神の中からルドラを引っ張り出すというものだった。
完全に覚醒させたら体がもたないんじゃなかって問題もあったが、
調べてみたところ普通の純粋な死神ならともかく、家系の死神なら問題ないらしい。
純粋な死神は魂を狩る者だけど、家系の死神は血に宿るもの。
だから、魂に強い干渉はないのだそうだ。
故に、ルドラを引き出そうってことになった。
で、その引き出し方ってのなんだが……なんと、俺に『黄昏を作れ』と言いやがるのだ。
黄昏作ってどうすんだってツッコミを入れた俺だったが、
リヴァイアもよく解らないらしい。
悠介 「黄昏、ねぇ……」
黄昏と聞いて思い出すのはあの約束の木だった。
あの草原と、あの木が、脳裏に浮かんだ。
しかし……それは『場所を作れ』ってことだよなぁ?
……俺にやれ……と?
そんなもん作ったら体力がもたないぞ?
悠介 「黄昏……黄昏ねぇ……」
そう呟いた時、ふと脳裏に浮かぶ光景があった。
あれは確か───彰利と過去に飛んで、魔物と戦った時に感じたイメージだ。
黄金色の世界の中、あいつと寝転がった記憶───。
あの時はたしか……頭のネジがぶっ飛んだ気がして───
それで……───それで?
俺は、なんて言ってた?
なんて……唱えた?
悠介 「………」
えっと……ラグ……?
悠介 「……ラグナリウムってなんだっけ?」
えーと……ああ、確か『マイナスイオン発生装置月清力配合スグルくん』を創造した時、
彰利が考えて創造された金属だっけ?
悠介 「ラグ……デフラグ?……じゃなくて」
ラグ、なんたらだ。
それは覚えてる。
けど───?
リヴァ「ラグがどうかしたのか?」
悠介 「いや、ちょほいと考え事をな?
なぁリヴァイア。俺、意識を失ってた時があっただろ?
ほら、彰利と凍弥と椛が潜ったってゆうあの時」
リヴァ「ああ。それがどうした?」
悠介 「なにか言ってなかったか?あ、もしくはルドラが現れたりとか」
リヴァ「ルドラなら現れてたぞ?お前の中の殺人鬼をあっさりと消してみせた」
悠介 「殺人鬼……逝屠か」
あのしぶといヤツを殺したのか。
……そりゃすごい。
というより、蝕んだだけじゃ消えはしないのか、やっぱり。
そうだよな。
じゃなきゃ、椛が篠瀬を甦らせたってゆうことの辻褄が合わない。
つまりこういうことだろう。
蝕まれた存在は、蝕んだ存在の中に取り込まれる。
けど、それは消滅じゃない。
だから椛は、かつて蝕んでしまった浅美をベースに、月癒力で篠瀬を甦らせた。
皮肉な話だけど、蝕んだからこそ篠瀬……というか浅美は、甦ることができたんだ。
蝕まれたら、体も魂も蝕んだ者の中に残されるってことだ。
それを利用して、俺の中から邪魔な童心を追い出して、俺の体を乗っ取ったのが逝屠。
……なるほど、そういうこったか。
リヴァ「なにをうんうん唸ってるんだ」
悠介 「納得出来ることがあったってことだよ。
ところでさ、リヴァイア。やっぱ漠然と『黄昏』って言われても解んねぇや。
少し休憩して、また経験探しに潜ることにするよ」
リヴァ「……それは構わないが。
だが正直、検察官の死神はルドラ以外で倒すことは不可能に近いぞ。
ルドラだって、運命を破壊するなんてとんでもない力の前では無力だ。
わたしは可能性の話をしているにすぎない。
ルドラを発現させたところで、検察官の死神を屠れる可能性などは───」
悠介 「お前にしちゃ回りくどいなぁ。いや、お前だから回りくどいのか?
よーするに、経験探索してばっかりいても、
戦力がなけりゃ彰利は救えないってことだろ?
だから可能性としてルドラを発現できるようにしとけ、だろ?」
リヴァ「そこまで解っていて───」
悠介 「そんな気分じゃないからだ。
漠然としたなにかに時間を割いてる過程で、彰利が弱っていくのは嫌なんだよ」
りヴァ「…………」
リヴァイアは俺の目をジッと見ると、しばらくしてから溜め息を吐いた。
そして『勝手にしろ』って言うと、式を編み始める。
悠介 「あ───なぁ。
精神の中でも、彰利が彰利らしく振る舞うのは大事なことだよな?」
リヴァ「うん?……ああ、そうだな。それがどうかしたか?」
悠介 「だったら篠瀬も連れてきてくれ。多分あいつが一番、素直に彰利にぶつかれる」
リヴァ「……へぇ、そうか。あの小娘の方はどうする?」
悠介 「小娘って……ああ、椛か。あいつは却下だ。
あいつが居ると彰利の精神がボロボロにされる」
リヴァ「同意見だ。あの女は冷静さが決定的に欠けている」
悠介 「怒り出したらすぐに手を出すし」
リヴァ「出したら出したで責任が取れない、だろ?戦ってみて解ったよ、そんなこと」
悠介 「……はぁ」
思いっきり見切られてるな。
まあ無理もない。
リヴァ「それで、篠瀬ってゆうのは刀を持った女だったな?
そいつを連れてくればいいんだな?」
悠介 「ああ、頼むよ」
リヴァ「気にするな、検察官を救うためだ。式を発動させる。もう眠れ」
そんなリヴァイアに『悪い』と言うと、俺の意識は深い眠りへと沈んでいった。
───……それは、悠介が休み、
篠瀬とかゆう女を連れてきて───そして再びダイヴをしたあたりのことだった。
ルヒド「ちょっといいかな」
どこから入ったのか、シェイドのやつが工房の中に現れた。
リヴァ「シェイドか。どうした?見て解るだろう、今忙しいんだ」
ルヒド「時間は取らせないよ。それに、これは悪い話じゃない筈だ。
弦月彰利を救うのを協力する代わりに、
この娘を完全な光にさせてやってくれないかな」
リヴァ「なに……?」
シェイドが掌に輝く光を見せてきた。
その波動は───間違い無い、神界の神のものだ。
リヴァ「これは……神の魂じゃないか。どうしたんだ……こんなもの」
ルヒド「堕ちた神の魂の災いを浄化させようとしたんだけどね。
今一歩、吸収した災いの数が少なかったみたいなんだ。
だから徳が足りない状態で困っている。
このままじゃあ彼女は中途半端なままにまた堕ちてしまうだろう。
だから、弦月彰利にこの光を埋め込ませてほしい」
リヴァ「なんだって……?」
ルヒド「この光……メルティアは、元は静沈の神で『聖(』という名の少女だった。
彼女を弦月彰利に埋め込めば、今の状態を落ち着かせることが出来る。
ただしそれは、弦月彰利が彼女を救うことが出来ればの話だ」
リヴァ「なんなんだお前は、救うだの埋め込むだの。
どうしてこういう時だけいちいち回りくどいんだ」
ルヒド「つまりね、この光を弦月彰利に埋め込むことで彼の症状は落ち着く。
そして、彼が精神の中でメルティアを救えれば、
メルティアの徳は元に戻って、再び『聖』になれるのさ。
それから転生すれば、また神界人として産まれることが出来る。
……災いはね、善行を繰り返すと『幸福』という名の光になれるんだ。
けど、死神のままじゃ光にはなれない。だから一度消滅する必要があった。
だけど一度は堕ちた身だ。災いを道連れにして無理矢理にでも徳を高めなきゃ、
光にすらなれずに災いとともに消滅する可能性があった。
僕はそれに協力しただけだよ。そして、協力するからには最後まで。解るね?」
リヴァ「……だが、今の検察官は危険な状態だ。今余計な負担をかけるわけには」
ルヒド「そのために僕が居る。僕が神王の竿のバックアップをしよう。
死神にはなったけれど、これでも神の子の息子だ。
それなりの神力は持ち合わせている」
リヴァ「なに……?待てシェイド。神力は神の素質が無ければ……」
ルヒド「…………始めよう。御託で時間を潰す余裕なんて無いんだ」
リヴァ「……解った」
確かに時間が無い。
こうしている間にも、検察官の体は蝕まれていくばかりだ。
リヴァ「悠介と篠瀬とかゆうのが潜ったままだが、構わないか?」
ルヒド「大丈夫。役者が多い方がハッピーエンドは迎えやすいものさ」
リヴァ「その役者の人柄にもよるだろう?」
ルヒド「それなら余計に心配は要らないんじゃないかな?」
リヴァ「───……違いない」
一度、検察官と悠介と篠瀬を見て苦笑した。
そうだ、こいつらになんの不満を抱く必要がある。
こいつらなら大丈夫だ。
信じよう───
ルヒド「じゃあ、始めるよ」
リヴァ「それはわたしの台詞だ」
───……。
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