───放浪精神『第八章◆猛る子供と味覚お子様味皇仕立て』───
───……。
彰利 「ほいっほいっほいっと」
必要だと思ったらなんでも盗んでくる彰利さんが、
今度はフライパンを使って料理をしている。
なんでも、子供達……というか、
椛ちゃんと聖ちゃんにはマシなものを食べさせたいのだそうだ。
……火は月然力・火で出しているものだそうです。
浅美 「うう……」
その料理を作っている過程でさえ、とんでもなく美味しそうな匂いが漂ってくる。
お味噌汁もパンも食べたっていうのに、
その匂いを嗅いだだけでお腹が減ってくる思いだ。
彰利 「む、醤油が無ェな。転移」
キィン───……キィン!!
彰利 「よし、いい醤油を盗んできたところで、これをかけて、と……」
ジュワァッ!!シュ〜……!
浅美 「あう、あうあうあう……」
醤油の焼ける音と匂いが食欲をそそる。
聖 「……?いい匂い……」
椛 「うん……」
そんな匂いに誘われて、大樹のてっぺんで眠っていたふたりが降りてきた。
浅美 「あ、起きた?」
椛&聖『うん……』(きゅく〜)
返事と一緒に、お腹まで返事をした。
ふたりは顔を真っ赤にして俯いたけど、その顔がまた可愛かった。
はぅう、撫でたいよぅ……。
彰利 「おう、おはようさん───って言ってももう昼だけどな。
っと、椛?母家の方か実家に帰らなくても大丈夫か?」
椛 「うん……ここで食べてく……」
こくりと頷く椛ちゃん。
けど、その視線は彰利さんが作っている料理にくぎづけだ。
そんな椛ちゃんを余所に、わたしは彰利さんの耳に小声で事情を話した。
浅美 (椛ちゃんは小学生の頃、母家から学校に通ってたんですよ)
彰利 (へえ……そうなん?)
浅美 (昂風街に移ったのは、高校生になってからなんですよ。
その初日に凍弥さんにぶつかったんですけどね。
まさかその人と結婚することになるとは、夢にも思わなかったでしょうね)
彰利 (そうでしょうなぁ。予想も出来んよ)
大きなお玉を捌き、次々と味をつけてゆく彰利さん。
料理が出来あがってゆく過程を間近で見た所為もあって、
わたしはそろそろ我慢が出来なくなってきた。
だって……こんな美味しそうな料理、見ること自体初めてですし……。
浅美 「あ、あの。味見させてくれませんかっ」
彰利 「む?ダメダメ!なにを言っておるのかね!
出来てないものを食わせるのは料理人の恥じですぞ!?失せろ!」
浅美 「うっ───!?失せろとまで言わなくてもいいじゃないですかっ!」
彰利 「ほらほら、子供達の前でみっともないですよ?」
浅美 「えっ!?あ……」
聖 「………」
椛 「………」
ハッとして振り向いてみたら、聖ちゃんと椛ちゃんがわたしをじーーっと見てた。
その目が『わたしたちも早く食べたいのに……』という、
何気に非難が混ざったものだった。
浅美 「……ごめんなさい」
彰利 「出来あがったら一番に食わせてやるから待っといで、ね?」
浅美 「はい……」
顔が赤いのを感じる。
恥ずかしいなぁ……。
彰利 「聖、椛、まだちょっとかかるから、このお姉さんと遊んでもらってなさい」
聖 「うん」
椛 「はーい」
わくわくしながら彰利さんの傍をうろちょろしていたふたりが、とてとてと歩いてくる。
聖 「………」
椛 「……遊ぶ?」
浅美 「うん、いいよ。なにして遊ぼっか」
聖 「……これ」
聖ちゃんがヒョイと、ピコピコハンマーを持ち上げた。
浅美 「それ……?どうするの?」
聖 「『じゃんけん』して、勝った方が叩くの……。
パパと一緒にやったら面白かったから……」
浅美 「……いつの間に一緒にやったんですか、そんなこと……」
彰利 「浅っちが湯浴みしてる時だけど。
やることないんで暇だったから、適当に始めてみたら聖が気に入ってね」
浅美 「………」
そんなことがあったなんて、知らなかった。
そしてやっぱり、このピコピコハンマーも盗んできたものなんだろうなぁ……。
彰利 「今日も湯浴みするんか?だったら滝壷の水持ってきて温めるけど」
浅美 「あ、お願いします。『篠瀬さん』っていいましたっけ?
その人の影響かは解りませんけど、
一日一回は湯浴みしないと落ちつかないんですよ」
彰利 「そりゃ器用だ……っと。よし、一品完成。あともう一品作るか。
そろそろ米も炊きあがる」
浅美 「お米……?って、うわぁっ!いつの間に持ってきてたんですか、お米っ!」
彰利 「へ?料理始める前に、既に炊いてたけど」
浅美 「………」
木の蓋をしたお釜が、泡を吹いてシュ〜〜という音を出す。
お米の香りだけでも、お腹が減ってくる。
浅美 「あの……お釜で作ってるってことは……」
彰利 「うむ、シメはやはり『おこげ』のおにぎりぞ?」
浅美 「くださいっ!」
こう見えて、わたしはおこげのおにぎりに目が無いのだ。
椛ちゃんと友達になってから、母家にも誘われることも結構あった。
その際、悠介さまがご馳走してくれたのがおこげのおにぎりだ。
それを食べて以来、もう……好きで好きで仕方ない。
彰利 「たわけ!炊けてもいないのにおこげが出来るわけないザマしょ!」
浅美 「たわっ……!?」
彰利 「とにかく待っといで!
出来たら呼ぶけん、今は聖と椛の相手をしておりんさい!」
浅美 「うう……」
怒られてしまった……。
でもでも、なんとしてもおこげは手中に……!
浅美 「そ、それじゃあ……遊ぼっか」
聖 「うん」
椛 「負けません」
ピコピコハンマーと、何故か転がってた軽いメットを手に、大樹を登ってゆく。
ふたりのわくわくしたような顔が印象的で、いつしかわたしも笑っていた。
けれどこの時。
わたしは───
その頂きで、聖戦が繰り広げられることになるなんてことを……全然知らなかった。
───……。
浅美 「じゃんけんぽんっ!───あっ!」
聖 「やーーーっ!」
聖ちゃんの攻撃!
ババッ───ビゴッ!
ミス!わたしは聖ちゃんの攻撃をメットで防御した!
椛 「じゃんけんぽんっ!」
聖 「はうっ!」
椛ちゃんの攻撃!
ババッ───ミゴッ!!
ミス!聖ちゃんは紙一重でメットで防御した!
聖 「じゃんけんぽんっ!───はうっ!」
浅美 「たぁっ!!」
わたしの攻撃!
シュバッ───メギョッ!
ミス!聖ちゃんは紙一重でわたしの攻撃をメットで防御した!
浅美 「はっ……はっ……や、やるね、ふたりとも……!」
聖 「はぅっ……はうっ……!」
椛 「負けません……負けられません……!」
ただの遊びだったピコピコハンマー遊びがどうしてこんなことになったのか。
それは、彰利さんの何気ない一言で巻き起こった。
彰利 「あ、そだ。浅っち、ちといいか?」
浅美 「はい?」
ふたりを先に登らせて、最後に大樹を登ろうとしてたわたしに、彰利さんが声をかけた。
わたしはなんの疑問も抱かずにその声に振り向くと、
登りかけていた体を降ろして彰利さんに近づく。
浅美 「どうしたんですか?」
彰利 「ああ。デザートにプリンを作っておいたんだが……」
浅美 「なっ……プリンまで作れるんですかっ!?」
彰利 「すげぇでしょ?最強でしょ?自慢じゃないけど、料理は得意だ。
ちゃんとカロリー計算もしてあるし、
太るどころかダイエットにも効果的な料理だ。
かといって、味を損なうようなものは使用しない」
浅美 「あ、あの……それで、プリンがどうかしたんですか?」
上で待っているふたりの視線を感じたわたしは、先を急がせることにした。
わたしも案外、こういう遊びは嫌いじゃないから。
彰利 「えーと……浅っち、プリン好き?」
浅美 「デザートの中じゃあ一番好きですっ!」
女の子でプリン嫌いはそうそう居ないと思う。
彰利 「そうか。実は俺は嫌いでな」
浅美 「嫌いなのに作ったんですか……」
彰利 「馬鹿お前、あいつらの喜ぶ顔がみたいから作ったに決まってるだろ。
それに、多分キミも食いたいだろうと思ってね」
浅美 「彰利さん……」
不覚にも、少しじ〜〜んときてしまった。
なんだ、やさしいところもあるんじゃないか。
浅美 「……あれ?でもそれならどうして、わたしを呼んだんですか?」
彰利 「ああ、それがな……」
浅美 「はい……?」
彰利 「……大変申し上げにくいんだが……」
浅美 「……?なんですか?言ってくれなきゃ解りませんよ」
彰利 「果たしてそうだろうか……」
そう言いつつ、彰利さんは割れた器と、
それの周りに砕け乗っている黄色い物体を見せてきた。
そしてその香りは……プリンのものだった。
それで、解ってしまった。
浅美 「………………あ、の………………まさか」
彰利 「その、まさか。俺は食わないから2つしか作ってなかったのよね……」
……つまり。
誰かひとりがプリンを諦めなきゃいけない状況……ということだ。
そんなのは嫌だ。
今でこそ体は成長したわたしだけど、
味覚はいつまでも───蝕まれた時のままの……小学生だ。
そんなわたしがプリンを諦めるなんて───できない!できっこない!!
浅美 「………」
見上げてみれば、さっきまでの会話が聞こえていたらしいふたりの目が、
兎を狩るのに全力を尽くしきり───尚も猛る百獣の王の目になっていた。
わたしはその場所を目指して登り……ふたりの前に立った。
浅美 「譲る気は?」
椛&聖『ない』
浅美 「そう……わたしもだよ」
椛 「………」
聖 「………」
浅美 「………」
わたしを含めた三人の間の空気がモシャアアアァァァ……と歪む。
その時、どう決着をつけたら、と迷っていたわたしの目に、ピコピコハンマーが映った。
浅美 「じゃんけんぽんっ!」
聖 「はうっ!?」
浅美 「ハイィ!」
わたしの攻撃!
シュバァッ───ミゴッ!
ミス……!殺(ったと思ったのに……!
ふたりとも必死な所為で、全然決着がつかない。
大体にして、わたしたちは家系の存在と死神。
体力の果てなんてそうそう見えてくる存在じゃない。
そして反射神経も速度も並大抵のものじゃない。
いまさらだけど、決着……つくのかなぁ。
椛 「じゃんけん───」
声 「メシができたぞー!」
浅美 「おこげっ!?」
椛 「ぽんっ!」
浅美 「え?あ───」
椛 「隙ありぃぃいいいいいっ!!!!!」
椛ちゃんの攻撃!!
ピギョパァンッッ!!
浅美 「痛ぁーーーっ!!!!」
クリティカルヒット!!おこげに気を取られたわたしの頭に衝撃が走った!!
『ピコピコハンマーが壊れてしまった!!』(効果)
彰利 「……なぁにモンスターハンターやっとんのかね……」
浅美 「……いえ…………ただ……プリンがぁ……」
登ってきた彰利さんに敗北を宣言した。
彰利さんは呆れたような顔をしたのち、わたしの体を軽く持ち上げて境内に降りた。
浅美 「わっ、な、ななななにするんですかっ!?」
彰利 「いーから。ひとりだけに無いのは可哀相だろ?
俺が自分用に作ったデセル(やるから、そんなシケたツラすんなって」
浅美 「お、女の子をつかまえて、『ツラ』とはなんですかっ……!」
彰利 「知らんなぁ〜、俺におなごの扱いを要求するってのが土台無茶だ」
浅美 「威張れることじゃないですよっ!降ろしてくださいっ!」
彰利 「まーまー、あいつらの相手をしてくれた強制的なお礼と思ってくれ。
夜華さんなら感激しすぎて刀でザクザクだぞ」
浅美 「……喜んでるんですか?それって」
彰利 「さあ……」
お姫さま抱っこは恥ずかしい。
恥ずかしいけど……不思議と、そこまで嫌じゃなかった。
……ヘン、だよね。
わたし、凍弥さんのことが好きなのに。
この人と一緒に居るの、そう嫌いじゃないみたいだ。
なんてゆうか───そう、安心するんだ。
この人からは『日常』を感じる。
どんな辛い状況でも、そんな状況を無理矢理にでも『普通』にしてしまう、そんな感じ。
もしこんな人の彼女をする人が居るなら、苦労はするけど幸せは約束されると思う。
……思うだけで、確信なんてないんだけど。
彰利 「お?なんじゃいジッと見て。惚れた?」
浅美 「惚れませんっ」
彰利 「そりゃそうだ。俺に惚れてくれる女っていったら粉雪くらいなもんだ」
浅美 「……粉雪おばあさま?」
彰利 「あ、言っておくけどな。未来では誰かと結婚しちまってたけどな、
俺が死んだりしなけりゃあ、結婚してたのは俺とだったんだからなっ!
俺は粉雪が好きだし、粉雪もこげな俺を好きでいてくれてる。
だから本来だったら結婚するのは俺だったのだよ」
浅美 「でも……粉雪おばあさま、わたし達の時代では幸せそうでしたよ?」
彰利 「───……」
わたしの言葉を聞いた途端、彰利さんは見たこともないくらいに真面目な顔になった。
そして言う。
彰利 「…………あのさ。
自分の恋人が結婚してて、子供まで居たって解った時の気持ち、知ってるか?
言っとくけど、生半可な衝撃じゃねぇぞ……?
信じてた人に裏切られた時って、多分あれくらいか、あれ以上だぞ……。
正直な話、それを知った時は粉雪のところまで行って、
本気でブッ叩いてやろうかと思ったくらいだった。
それくらいショックで、それを堪えてたら泣いちまったくらいだ。
この俺がだぞ?未来の時代では幸せなのかもしれないが、
俺にとってはそれは、信じてた人に裏切られた気分だった」
浅美 「………」
初めて、この人の本音にぶつかった気がした。
それくらい、今のこの人は本気だった。
よっぽど好きなんだ。
そうじゃなきゃ、ここまで怒れやしない。
その顔が怖いとさえ思ったくらいだ。
彰利 「感情がまだ死んでて、子供の俺の意識を糧にしてた時で泣けるんだからな……。
もしあの時、俺の感情が生きてたら……正直、どうなってたか解らんよ……」
浅美 「怖いこと言わないでくださいよ……」
彰利 「まあでも、おなごはそうそう傷つけていいもんじゃあござらん。
きっと大丈夫だったさね。
じゃあなけりゃあ俺、帰っても粉雪に合わせる顔が無ェよ」
浅美 「……うー。聞いてると、合わせる顔が無いのは……その。
こ、粉雪おばあさまのような気がしてきます……」
彰利 「……んにゃ。俺が悪いのさ……。
勝手に死んじまって、あいつの傍に居てやれなかった俺が……な」
浅美 「彰利さん……」
彰利 「さ、御託は終わりぞね。
デセルは滝壷の中にあるから、ちとここで待っててくれ」
そう言ってわたしを降ろすと、彰利さんは滝壷へと飛び降りた。
滝壷の中のデザートって……なんだろう?
なにかを冷やしてるとか……?
水で冷やすっていったら西瓜とかかな……って、こんな季節に西瓜はないよね、うん。
彰利 「トアターーッ!!」
シュババッ!スタッ!
浅美 「わっ!?」
彰利 「HEY、YO」
指をヘンなカタチにして前に突き出す彰利さんが現れた。
その手には───白いモヤを出す謎の物体。
浅美 「それが……?」
彰利 「うむ、俺様特性『アセロラシャーベット』だ。
一度凍らせたものを容器に入れて、滝壷の氷の張ってる場所に沈めといたんだ。
電気がないから冷蔵庫とか盗んでも仕方ないからね」
……どういう人なんだろうか。
こういう暮らしが馴れてるってゆうか、サバイバルが得意そうってゆうか……。
彰利 「そんじゃ、みなさま揃っての昼餉といきますかぁ」
浅美 「───……そう、ですね。そうしましょう」
考えても解りそうもない。
だったら、その状況に順応しちゃえばいいんだ。
そうしよう、うん。
───……。
浅美 「ところで───どうやって凍らせたんですか?」
みんなが彰利さんが作った箸を動かす中、わたしは気になって訊いてみた。
冷蔵庫はあっても意味が無い、と言ってたんだ、なにか別の方法で凍らせたんだろう。
彰利 「ああ、あれか。月操力には氷もあるけどさ、
敢えて苦労してやってみたかったからさ。
月然力の風のモードを使って、外気を利用したんだ。
ここまで寒けりゃ、風を引っ掻きまわしてやるだけで随分変わる」
浅美 「あ……なるほど。でも、凍るまでいきますか?」
彰利 「その点ならご安心を。
まず氷を大量にかっぱらってきてだな、その氷を細かく砕くのです。
そしてその大量の氷の粉塵を風に巻き込みます。
その粉塵入りの風で竜巻起こすとね、その風の中はあっさりと零度を越すのよ」
浅美 「へえ……そうなんですか……」
彰利 「そうなんよ。それで冷やせば、
そりゃもうステンレスに触っただけで指の皮が剥げるわい」
浅美 「……それって、滝壷の水まで凍っちゃうんじゃないですか?」
彰利 「オウヨ、実際凍った。今はもう水になってるけど。
容器を滝壷に入れてたのだって、凍りすぎたからだし」
浅美 「……大丈夫なんですか?そのシャーベットって……」
彰利 「じゃーじょーぶよ。さっき食ってみたら美味かった」
浅美 「そ、そうですか」
その言葉に安堵する。
デザートを食べて凍死なんてことは勘弁してほしかったから。
───と、そんな中。
聖 「けほっ!こほっ!う、うう……!」
彰利 「んお?ど、どうした聖!奥歯にもやしでも詰まったのかっ!?」
浅美 「奥歯にもやしが詰まって、どうして咳き込むんですか……」
彰利 「む、そりゃ確かに……じゃあどうしたというのかね!」
浅美 「わたしに訊かないでくださいよっ!」
いきなり怒られても困る。
大体わたしが原因を知ってるわけがないってことに、どうして気づかないんだろうか。
そんな折、聖ちゃんが口を開いた。
聖 「……お肉、食べられないの……」
───と。
彰利 「……そうなん?」
彰利さんの言葉にこくりと頷く聖ちゃん。
そういえばメルちゃん、学食でなにか食べる時───レタス盛食べてたっけ。
それに───
浅美 (あ、わたし聞いたことがありますよ)
彰利 (し、知っているのか雷電……)
浅美 (───……教えるの、やめました)
彰利 (ギャア!?じょ、じょ〜〜だんですよっ!承太郎くん!
教えろ!ここで教えなきゃお前……ウソだぜ!?
だから教えろ!教えないとあなたのシャーベットの命はないわよーーっ!?)
浅美 (どういう脅迫ですか……)
彰利 (そこんとこだが、俺にも解らん。で、なに?)
浅美 (………)
とことん人の調子を狂わせる人だ。
でも、不思議と嫌気がささない。
……呆れはするけど。
浅美 (えっとですね、メルちゃんに聞いたんですけど……
メルちゃんは菜食主義者なんですよ。
だからきっと、聖ちゃんも菜食主義なんじゃないかなぁって)
彰利 (ふむ……なるほど。そういや聞いたことがあるな、神は肉を食わないって。
こげに身近な人にレタスに愛を注いでくれる輩がおったとは……)
浅美 (いえ……べつにレタスに愛を注いでたわけではなくて、
ただ単に菜食主義だったってだけで……)
彰利 (いやいや!みなまで言うな!俺はますます聖が愛しくなった!
そっか〜、聖はレタスが好きか〜♪)
浅美 (……ダメだ、この人……)
一度トリップすると、人の話をてんで聞きやしない。
彰利 (あれ?でも待たれよ。ミルクとかは大丈夫なわけ?
ほら、北海ミルクパンとか)
浅美 (あ……そういえば平気で食べてましたね)
彰利 (なんか怪しいもんだな……ほれ、ちゃんと製造材料も……砂糖?)
浅美 (……砂糖を練って加工したもの……だそうですけど)
彰利 (………)
なんだかやるせない気持ちが溢れてきた。
『北海ミルク』の名が泣きますよこれ……。
彰利 「と、とにかく肉は食えないわけだな!?
ならば───……あれを作るしかあるまい!」
彰利さんが意気込んで立ちあがる。
そしてフライパン片手にその底に月然力・火を灯して、なにかを作り始める。
聖 「………」
椛 「わぁ……すごい……」
その手際の良さと豪快さで、ふたりは調理にくぎづけだ。
かくゆうわたしも、ふたりと同様である。
彰利 「ほいっ!フィニッシュ!」
ジュワァッ!と味付けされたご飯と野菜が宙に舞い上がる。
それが木の器に盛られていき……聖ちゃんの手に手渡された。
聖 「……これ……?」
彰利 「聖のために作ったものだ、食べてみてくれ。
大丈夫。野菜とご飯しか使ってないから」
聖 「………」
おそるおそる、聖ちゃんがソレ……レタスチャーハンを口に含む。
そして咀嚼して……顔を輝かせた。
聖 「わぁっ……おいしいっ!おいしいよっ!」
黙ってられない、といった感じだ。
もくもくと食べながら、喜びとともに咀嚼している。
───そんな聖ちゃんを見て、彰利さんは───
彰利 「負けるかぁーーーっ!!」
ギシャアア!!!
聖 「ひうっ!?」
椛 「わひゃっ!?」
……どういう対抗意識からか、顔を輝かせた。
彰利 「………」
浅美 「………」
けど、先のことは考えてなかったらしい。
その場に冷たい沈黙が訪れる。
彰利 「えーと……そ、そっかそっか、美味いか。
まだまだあるからたぁんと食いなせぇ」
聖 「うんっ♪」
そしてまた、元気に食べ始める聖ちゃん。
その元気のお蔭で、重苦しい沈黙がほぐれてゆく。
……今回は、聖ちゃんの素直さに救われた気分だった。
浅美 「あの、あまり意味のないことしないでください」
彰利 「ハズして一番恥ずかしかったのは俺なんですけど……」
浅美 「ハズすと解りきったことをやらないでくださいよ」
彰利 「やっぱ言うことキツイよキミ……」
悲しい顔をしながら料理を食べる彰利さんは、なんだか可笑しかった。
考えてみれば……こんな風に遠慮なく人にぶつかるのって初めてかもしれない。
本当に不思議だけど、この人に対しては『遠慮する』ってゆう行為が馬鹿らしく思える。
それって、この人に『日常』を感じてるからなのかな……。
ちょっと解らない。
彰利 「椛、これ美味くできてるぞ。
ああ聖、こっちは野菜しか使ってないから食ってみろ。
っととと、椛っ、汁が垂れてる!服汚れるって!ああもう、ほらこれで拭いて!
あぁ聖っ、それは魚肉入ってるからっ!
ほらほら、口周りべちゃべちゃだぞっ」
……わー、お世話好きなお父さんみたいだー。
でもそれがよく似合ってる気がした。
子供が好きなんだろうな〜。
ふたりも、構ってもらいたくてわざとやってる感がある。
聖 「パパ、それ取って」
彰利 「む?ほい、これかね」
聖 「うん、ありがと」
椛 「むー……あ、あのっ!それ取ってくださいっ!」
彰利 「オウ?お、おお……これかね」
聖 「………」
椛 「………」
わぁ、横目に睨み合ってる……。
椛ちゃん、彰利さんのこと気になってるのかな。
彰利さんってやっぱり、普通の人より子供に好かれる人なんだろうなぁ。
椛 「あの……『おとうさん』って呼んでいいですか」
聖 「!?」
彰利 「へ?そりゃ……」
わー、椛ちゃん、大胆だなぁ……。
彰利 「えーと、参考までに……何故におとうさんと?」
椛 「彰衛門さんの夢の中で、
楓さんだったわたしは彰衛門さんをおとうさんって呼んでました。だからですっ」
彰利 「いやしかし……だからといって椛が我輩をおとうさんと呼ぶのは……」
浅美 「顔が嬉しそうに緩んでますよ」
彰利 「お、お黙りっ!嬉しいんだからしょうがないでしょうが!
でも人としてのスジは通さなけりゃならんのよ!」
浅美 「一応、いろいろ考えてるんですね」
彰利 「キミ、人をなんだと思ってるのかね……」
浅美 「……マサイ族?」
彰利 「マサイ族!?なんで!?」
なんとなくです。
彰利 「そげなわけで、椛さんや。俺をおとうさんと呼ぶのは却下でござる」
椛 「え───ど、どうしてですかっ?」
彰利 「おぬしにはちゃんとした親がおるでござろう?
ならば、拙者をおとうさんと呼ぶ必要がどこにあるでござる」
椛 「でも……聖ちゃんは」
彰利 「聖は両親が居ないのでござる。
だから拙者が親代わりになっているのでござるよ薫殿」
椛 「かおる……?」
彰利 「なんでもないでござる」
……驚いた。
絶対了承すると思ったのに。
どうして拒否したのかな……。
浅美 (あの……どうして拒否したんですか?)
彰利 (ウィ?今言った通りでござるよ。
拙者に頼ってばかりでは、成長は望めないでござる。
少し考えてみたのでござるがな、
未来の椛はちと拙者離れできていないのでござるよ薫殿)
浅美 (誰が薫殿ですか)
彰利 (定義でござる。ござる語を使う時には言葉のシメに『ござるよ』を付けたら、
『薫殿』をつけねばならんのでござるよ薫殿)
浅美 (……もういいですから。それで……彰利さんは後悔してるんですか?
椛ちゃんが成長しないことに関して)
彰利 (オウヨ。なんだかんだで、あいつは小僧より拙者を優先するでござる。
それは大変いかんことでござる。夫婦が一方を蔑ろにしてどうするでござる?)
浅美 (うーん、確かにそれは……)
彰利 (だからこれでいいのでござる。
拙者達がこの時代で目的を果たすまで帰れないのであれば、
それまでは椛とも付き合いがあるということでござる。
それならば早い内から、拙者には関わり過ぎない方がよいのでござるよ薫殿)
浅美 (あの……真面目に話してます?)
彰利 (それはもう真面目でござるよ薫殿)
浅美 (………)
そうとは思えないんですけど……。
彰利 「なぁ椛。甘えるべき親が居るならば、目一杯甘えるべきでござるよ?
拙者はそういう親が居なかったから、
そういう親が居ることは羨ましいでござる」
椛 「……お父さんもお母さんも、そんな人じゃないよ……」
彰利 「……いいや。
心が死んでた俺が惚れることのできた、粉雪の息子に……悠介の娘なんだ。
きっと、お前が甘えてくれるのを待ってる筈だ」
椛 「そう……なんでしょうか……」
彰利 「ああ、きっとな。お前は自分が思っているよりも孤独なんかじゃない。
お前にはお前を支えてくれる人がいっぱい居る筈だ。
だから、どんなことがあっても挫けるな。
俺はそれを知らしめるために、この世界に降り立ったっ……!!」(ざわ……)
突然、カイジ顔になって言葉を放つ彰利さん。
浅美 「……途中まではいい話だったのに……。
どうして最後の最後でカイジになるんですか……」
彰利 「カイジ?解っちゃいねぇなぁ……今のは警察に掴まる前の『無頼伝 涯』だぜ?」
浅美 「似たようなものじゃないですかっ」
彰利 「あー、これだ。そういう考えがダメなのよ。
よいかね?無頼伝 涯とカイジはまったく違うの。解る?つまり───」
浅美 「解りませんから話を切り上げましょう」
彰利 「……ひどいや」
寂しそうな顔をする彰利さんを余所に、
椛ちゃんは俯きながら何かを考えているようだった。
そしてパッと顔を上げると───
椛 「───解りました。『おとうさん』はやめにします。
でも、それじゃあなんて呼べばいいんですか?」
彰利 「む!いい質問だ!サブリガをやろう!はきたまえ!」
懐からブルマみたいな履き物を出して、椛ちゃんに奨める彰利さん。
どこから見ても、変態にしか見えやしない。
椛 「さぶりが……?」
彰利 「そうです。フトモモが眩しいんです」
椛 「………」
彰利 「うあ……」
椛ちゃんにすごく冷たい目で見られた彰利さんは、
酷く居心地が悪そうに雑草をむしり始めた。
彰利 「フッ……これが拙者を『おとうさん』と呼ぼうとしていた娘の目ですか……。
キツイ……キツすぎるぜトニー……」
『なんだか自分が犯罪者みたいだ……』とまで言う彰利さん。
どうやら自覚は全くなかったらしい。
彰利 「ごめんよKittyさん……オイラ、サブリメンにはなれなかったよ……」
浅美 「誰ですか」
彰利 「知りません」
そう言って、彰利さんはほんのり人肌のサブリガを燃やし尽くした。
どうしてそんなものを懐に居れてたのかな……。
実に不思議だった。
───結局、呼び方は『彰衛門』になった。
───……。
ゾリゾリ、ゾリ……
彰利 「B、A!!」
ギュッ!ギュッ!
浅美 「………」
ゾリゾリ……
彰利 「B、A!!」
ギュッ!ギュッ!
浅美 「…………?」
デザートの前に、食事のシメとして彰利さんがおこげのおにぎりを作ってくれている。
木で作ったシャモジが、釜のおこげをゾリゾリとけずり……
浅美 「……あの、どうして握るときに『B、A』って言うんですか?」
彰利 「へ?なに言っとんのかねキミ!
『ギュッ、ギュッ』って鳴るからには、『B、A』って叫ばなきゃウソだぜ!?」
聖 「そうなんだ……」
浅美 「信じちゃだめだよ……」
彰利 「な、なんですかこの……!おこげのお握り、あげませんよ!?」
浅美 「あわっ!?そ、それだけは勘弁を……」
彰利 「だったら妙な言い掛かりはやめてもらいたいザマスことよ!?」
聖 「えと……びー、えー!」
ギュムッ!ギュムッ!
彰利 「ややっ!?これ聖さん!『B、A』と言ったら、
効果音は『ギュッギュッ』じゃなければならんとですよ!」
聖 「うぅ……?」
彰利 「それにこれでは強く握りすぎでござる!よいですか!?
お握りはご飯とご飯の間に空気が残るくらいやさしく、
尚且つしっかりと握らなきゃならんのです!
これでは30点っ……!まさにっ……!30点っ……!!」
浅美 「だから……どうして顔がカイジになるんですか」
彰利 「知らんでござる!ただ、微食倶楽部の主人としてこの握り方は許せません!
いい加減な気持ちでお握りを握っていては、
たとえ明珍筒篭手を装備してもおにぎりの真の味など解りませんよ!?」
浅美 「なんですか、そのなんとか篭手って……」
彰利 「こっちの話でござる」
椛 「うーん……B、A……?」
きゅっ、きゅっ……
彰利 「オォ〜ウ……違うでしょ〜……チガウでしょ〜。
OHなにも違うでしょォミキコゥ、レッスンレッスンレッスン!!
ギュッ。これがギュッ。あなたが鳴らしたのは……きゅっ。
チガウでしょう全然。音が第一違うでしょう?
音が違うから当然、掛け声も違ってくるでしょう?ギュッとギュッ。OK?」
聖&椛『うー……』
彰利 「NO!NO!NO!怒ってないよミキコゥ!私全然怒ってないよゥ!!
ミキコ、スマイルアゲ〜ィン?」
浅美 「誰ですか、ミキコって」
彰利 「O〜〜〜H……GOOD!!」
浅美 「話を聞いてください」
彰利 「TRY!TRYミキコゥ?ンン?」
椛 「えっと……B、A……」
キュムッ、ギュッ……
彰利 「NO……NO、NO、NO、NO!
なにもかもが違うゥ!!OH、NOゥヴォケッ!!!
ミキコ殺しますよゥ!?いっぺんブチますよゥ!?えぁ!?」
浅美 「まず落ち着いてください」
彰利 「ママさ〜んママさ〜ん!ママさん!クッキングストップ!!
ミキコが聞いてくれないです!心の耳で聞いてくれ───」
きゅっきゅっ……
彰利 「ミキコそれはきゅっ!きゅっ!
わたし鳴らしてもらいたいのはギュッ!!ギュッ!!
ママッさ〜ん!ママさ〜ん!クッキンストップ!!
ディナーメイキングストップ!あママッさ……OHミキコそれはきゅっ!
わたし鳴らしてもらいたいのはギュッ!ね!?OH!
ママさん聞いてください!違う!クッキンストップ!ストップ!ママさん!!
OHミキコ!きゅっ!もぉ!あぁママッさん!!あ゙ぁああああああああっ!!!」
ドゴシュ!
彰利 「ハピルマッ!?」
浅美 「あまり無茶なこと言わないでくださいよ、困ってるじゃないですか」
彰利 「ゴゲッ……ゴエゲゲ……!
だ、だからって喋り途中の人に地獄突きしますかね普通……!」
少し寂しそうな顔をしながら、出来あがったおこげのお握りを木の皿に置いてゆく。
といっても、4つしかないのだけれど。
彰利 「さ、食いんせぇ」
浅美 「いただきますっ」
おこげのお握りを手に取って、一口頬張る。
……と、どうにも硬い。
おこげなんだから少々硬いのは否めないけど、これは硬すぎる。
浅美 「あう……このお握り、硬い……」
彰利 「あらら……そりゃきっと聖のお握りに当たっちまったんだな。
ホレ、俺のと交換で良けりゃあやるぞ」
浅美 「うー……はい、いただきます」
別に、もう開き直ってしまえばいい。
この人とは事故とはいえ、キスまでしてしまった仲なのだから。
いまさら間接キスがどうとか言ってても始まらない。
浅美 「いただきます」
はむっ。
浅美 「───!」
口に頬張った瞬間、口内に広がる香ばしい香り……!
そして、ぐっちゃりしているわけでもなく硬いわけでもなく、
ふわっと崩れてゆくおこげ……!
これは……これはぁ……!!
浅美 「うぅぅうううまぁぁああいぃいいいッ───ぞぉぉおおーーーーっ!!!!」
彰利 「おわっ!?」
聖&椛『っ!?』
浅美 「───はっ!?」
ふと気づくと、わたしは口から光を出す味の探求者の如く叫んでた。
うわ……な、なにやってんだろ、わたし……!
でも、おこげのお握りがあんまりにも美味しかったから……!
彰利 「……味皇さまって呼んでいい?」
浅美 「ごめんなさい、勘弁してください……」
彰利 「いや……そげに真面目に謝られてもね……」
多分今日のこれは、一生に一度あるかないかの不覚になるんだろうなぁ……。
ああ、本当に不覚……。
───……。
彰利 「さて……と。よく食したところでデセルにしますか」
待ってました!とばかりに、わたしを含んだ3人が顔を輝かせる。
そして───聖ちゃんと椛ちゃんにはプリンが。
わたしにはアセロラシャーベットが手渡された。
彰利 「さて、と……俺はちょっとヤボ用があるからこれでごちそうさまにしとくよ」
浅美 「あ、はい。どうもです」
彰利 「気にすんねぃ。ちゃんと味わって食らうのですよ?」
聖&椛『うんっ』
彰利 「よしよし」
元気な返事をもらって嬉しかったのか、彰利さんがふたりの頭をわしゃわしゃと撫でた。
そしてそのまま……どこかへ行ってしまった。
浅美 「………」
聖&椛『………』
途端、その場が物凄く静かになってしまう。
息苦しいまではいかないものの、調和が保てないというか。
浅美 「……何処に行くんだろ」
ちょっと気になる。
でも後を尾行るのは気が進まないし……いいや、待ってよう。
わたしは木の匙でシャーベットをひと掬いすると、口に含んだ。
……驚いたことに、シャーベットの出来も達人並だと思えた。
聖 「───……」
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