───放浪精神『第九章◆黄昏、創造』───
───……気配を感じた。
とんでもなく嫌な気配。
そしてそれは、母家から漏れているものだ。
……間違いねぇ、逝屠の野郎が発現し始めてやがる。
彰利 「まあ発現しようがしまいが、飛鳥のもとへは行かせねぇけどな」
俺は心底あいつが嫌いだ。
子供の頃の顔が俺に似ているからだろう。
俺は子供の頃の自分がなにより嫌いだから。
自分じゃない自分を思うと、それも仕方ない。
彰利 「……出てきたら屠る。が───」
悠介の体を利用して出てきてるなら、ちと厄介だ。
流石の俺も、悠介ごと屠る度胸はない。
彰利 「───……」
大樹の上で母家の様子を見る。
しばらくはそうして見張っていた。
───そして……約3分後、母家から悠介が出てきた。
その姿は───蝕まれた逝屠の存在の影響なのだろうか、若い頃の悠介の姿だった。
そしてそれが、ゆっくりと逝屠のものへと変異してゆく。
彰利 「っ───!」
それを見たら、脳にスイッチが入った。
その存在を滅ぼそう、と。
そして───勢いよく走り去るその存在を追って、俺もまた駆け出した。
───……。
悠介 「………」
ボ〜ッとしながら、塀の段差に座って───遊んでいるふたりを見る。
飛鳥と凍弥はあれからず〜〜〜〜っと遊び続け、
飽きることを知らないように、笑い合っている。
……まあ、幸せな情景のひとつだな、こりゃ。
こういう時間があることはいいことだ。
───そんな風に、気楽な思考を働かせていた時だった。
その場に、とても嫌な記憶を呼び起こす気配が現れたのは。
悠介 「飛鳥ぁっ!!」
飛鳥 「解ってます!凍弥ちゃん、家に戻って!」
凍弥 「え……?でも」
飛鳥 「いいからっ!早くっ!」
凍弥 「う、うん……」
凍弥が鈴訊庵正面の家に戻っていくのを見届けると、俺と飛鳥は構えた。
もう、嫌な気配はすぐそこまで来ている。
とても嫌気の差す気配だ。
そして、こんな気配を出せるヤツは俺の知る中じゃひとりしか居ない。
十六夜逝屠───あいつだ。
彰利は引き止められなかったのか───?
悠介 「……居るんだろ、出て来いよ」
その気配を近くに感じたうえで、そう呟いた。
すると───いつからそこに居たのか、壁に寄りかかっていた存在が歩んできた。
逝屠 「……驚いたな、お前の体は俺が使ってるのに。どういうカラクリだ?」
悠介 「お前に言う必要はない」
逝屠 「……ふん、相変わらず愛想のねぇ野郎だよ。いいぜ、遊んでやるよ」
ズボンのポケットに手を入れたまま、逝屠がゆっくりと歩いてくる。
悠介 「大した自信だな。一度蝕まれたことを忘れたのか?」
逝屠 「なに。蝕むといった点では、今の俺とお前はそう違わない。
なにせ、この体はお前のものなんだからな。
ちょいと『蝕み』を発動させてやれば、俺だってお前を消せる」
悠介 「扱えるか?お前なんかに」
逝屠 「侮るなよ、人形。俺はお前の中でいろいろと学ばせてもらった。
その中に月蝕力の操り方くらい無いとでも思ったか?」
悠介 「………」
チッ……嫌な性格してやがる。
相変わらずすぎてヘドが出る。
逝屠 「さ、始めようか。惨殺ショウの始まりだ」
ポケットから手を抜き、ゆっくりと構える逝屠。
俺はその動きに合わせるように、対応できる体勢をとる。
逝屠 「───馬鹿が。『受け』に回った時点でお前の負けだ」
悠介 「なっ───」
刹那に逝屠が消える。
いや、『視界から』消えたのだ。
どこかに居る筈───ヴンッ!!
悠介 「くうっ!?」
逝屠 「気づくのが遅いんだよ、鈍間がっ!」
一瞬だ。
まさに一瞬。
俺の後ろに『ホワイトホールを創り』、現れやがった───!!
悠介 「チィッ!」
すぐさまにイメージを弾けさせ、大鎌のように振るわれたその腕をガードする。
が、急造した盾は一撃で破壊され、その腕が俺の服を切り裂いた。
逝屠 「───……へぇ、覚悟が座ってるんだな。
あの一瞬でイメージを完成させるなんて。あれから少しは成長したようだ」
悠介 「御託を聞いてやる時間なんて無ェ!!お前は消えろ!!」
逝屠 「やれやれ……嫌われたもんだな」
クスクスと笑い、余裕の表情で俺を睨む逝屠。
……正直、油断してた。
まさか創造の理力まで使ってくるなんて思わなかった。
それくらい想定できないでどうする……!
こいつの体は俺の体なんだぞ……!
悠介 「冷静になれ、俺……!」
逝屠 「俺と対面して焦るのは変わらないのか?
……フン、こんなヤツに蝕まれた自分が情けなく思える」
悠介 「黙れよ───!逝屠を飲み込むブラックホールが出ます!」
逝屠 「───出でよ、悠介を飲み込むブラックホール」
悠介 「───!」
逝屠が俺を真似て言葉を放った刹那、俺の眼前にブラックホールが現れた。
悠介 「ぐっ───!ぐ、ううう……!!」
その渦がゆっくりと唸り、その混沌へと誘おうとする。
ゆっくりとした動きだっていうのに、その吸い込む力は想像を絶している。
悠介 「くそっ───ブラックホールを相殺するホワイトホールが出ます!」
逝屠 「ほう、こうか」
ホワイトホールをブラックホールに重ねるように創造し、それを破壊。
しかしその瞬間、逝屠までもがその方法でブラックホールを破壊していた。
逝屠 「これは勉強になるな。創造の理力で言えば、俺はお前に劣る。
だが、そっくり真似てやったらどうなる?
俺はお前が選ぶ対処法を忠実に実行してやればいいだけのことだ」
悠介 「───……!」
余裕ぶってべらべらと喋る逝屠の言葉に、ふたつのヒントを得た。
ひとつ、逝屠は俺の選ぶ対処法を忠実に実行する。
……ようするに、俺より創造の開始が遅い。
ふたつ、俺が知ってて逝屠が知らない創造をしてみせればいい。
そのイメージに心当たりはあるが───
悠介 「っ……チィ」
考えろ───考えるんだ。
俺に出来て、こいつにできない何かを。
もしくは、時間がかかり、すぐに創造できないようなものを───
逝屠 「来ないなら行かせてもらうぞ」
逝屠が動く。
しかし俺の思考は纏まってくれやしない。
こんな時にクレバーになれないで、なんのための思考だ───!
悠介 「月鳴の裁き!」
疾駆する逝屠へ向け、右手にありったけ込めた月鳴力を弾けさせる。
しかし逝屠は、先ほどと同じ方法で俺の後ろに廻り、その腕を振り上げた。
───もちろん、そうくることを読めないほど馬鹿じゃない上に───
悠介 「そこだっ!」
拳を上空へと突き上げた。
その瞬間に頭上が閃き、炸裂音が響き渡る。
逝屠 「ぐああっ!?がぁあああっ!!」
何かが破裂するような炸裂音と、その先で青白い光に巻き込まれる逝屠。
───そう、認めるのも癪だが、このクソ野郎とは長い付き合いだ。
動きくらい予測は出来る。
そして、恐らくは逝屠も───
逝屠 「チッ……予想通りそう動いたか。
裏の裏をかけない時ってのはムカツクもんだな。えぇ?そう思わないか?悠介」
悠介 「ッ……」
予測していればそれなりの対処が出来る。
さらに言えば、月鳴力は元々逝屠の家系のものだ。
それなりに耐性があるに決まっている。
そんなことも思い出せないとは───くそっ!
自分でも思うよりも焦ってるみたいだな……!
逝屠 「行くぞ。次に控えろよ。じゃなけりゃ……首が飛ぶ」
言われるまでもない。
本当に、相変わらずの見下す態度に腹が立つ。
悠介 「弾けろイメージ───ブラストッ!」
思考に描いたイメージを弾けさせ、それを物質かする。
突き出し、広げた手から光の球が放たれた。
逝屠 「芸が無ぇな」
逝屠はそれを腕一本で弾いて見せた。
───もちろん、これくらいでダメージがあるなんて思っちゃいない。
ようするに……俺に覚悟があればいい。
しかしそれは覚悟と言えるだけのものか?
彰利のことを思えば、それくらいは小さなことだ。
あいつの体を襲う激痛は相当なものだが、俺が心配すればいいのは体力だけ。
だったら───迷う必要もない。
──────いいぜ、やってやる。
悠介 「無限に弾けろ、俺のイメージ……」
目を閉じる。
そして、思考のみに意識を集中させる。
声 「……?念仏でも唱える気かよ」
まずはガトリングブラスト。
1セットなんて生易しいものじゃなく、景色が埋め尽くされるくらいの。
そしてさらに、そのひとつひとつにホーミングブラストを隠しておく。
イメージしろ。
強固たるイメージを。
声 「……つまらないな。お前、死ねよ」
地面が蹴られる音を耳にする。
何かを言う飛鳥の声が聞こえた。
けど、イメージに揺るぎはない。
あと少しで完成する。
意識を集中させろ───!
一撃───否!何発だって、逝屠の攻撃くらい耐えてみせろ!
───ザコンッ!
悠介 「ッ───!」
左腕が弾ける感触。
肘から先の感覚がゼロになる。
だが、イメージはやめない。
激痛がイメージを破壊しようとするが、血が出るほどに歯を噛み締めてそれに耐える。
しかしその覚悟が纏まらないうちに、腹に衝撃と激痛。
目を閉じているために、
次にどこが壊されるのかが解らない恐怖が、思考を掻き消してゆく。
チッ───積み重ねたイメージが歪みやがった───!
集中しろ集中───!!
声 「抵抗もしねぇのかよ……!つくづく救えねぇ野郎だ───!!」
腕が振るわれるのを感じる。
だが、元々一度は纏まったイメージ。
腕が振り落とされるのと、イメージを復元すること。
そんなものは、復元の方が早いに決まっていた。
悠介 「───弾けろ」
バッと見開いた目で、逝屠の存在を見定める。
その刹那、蓄積していたイメージが弾け、その全てが逝屠へと降り注ぐ。
逝屠 「チッ!小細工を!」
その全てが当たる寸前で、逝屠はブラックホールで転移する。
しかし、目標を見失ったガトリングブラストはすぐさまに突進を止め、
互いがぶつかり合う前に止まる。
そして、ホワイトホールから現れた逝屠へと一気に襲いかかる。
逝屠 「───!?小癪!」
目が赤く変異する。
逝屠が腕を大きく振るうと、その周りに青白い壁が発生する。
退魔の絶対防御壁───だが。
悠介 「───ばぁか、創造物に聖も魔もあるもんか」
光の軍勢は、薄いが強固である壁をあっさりと通り抜けた。
逝屠 「───!うぉおおおっ!!」
土煙が舞う。
岩盤さえも打ち砕くような威力をイメージしたひとつひとつのイメージが、
逝屠へ降り注ぐ。
当然、そんな一瞬で逃げられるわけもなく。
逝屠はその煙の中で驚愕の声を上げた。
……さぁ、本番はここからだ。
悠介 「左腕が出ます───弾けろ」
切り飛ばされた腕を生やし、轟音を鳴らすその一点を睨む。
そして両手を構える。
属に言う、弓道の構えだ。
悠介 「イメージ……」
記憶を掘り返す。
『退魔の絶対防御壁』───電磁場をも破壊した、あの純粋な光の記憶を。
悠介 「つっ……ぐ───」
脳が軋んだ気がした。
自分の記憶が、アレは俺が作り出せるようなものじゃないと必死に訴えているのが解る。
けど、創らなきゃいけないんだ。
甘えは許さない。
悠介 「は、あ……」
ぼんやりと、両手に光が集まる。
だがイメージは完全じゃない。
悠介 「くそっ……もってくれよ……俺の体力……!」
レプリカなんてものじゃない。
あの純粋な光を創造するんだ。
───神屠る閃光の矢。
アレを、完全に───!
悠介 「絶対、平然としてやがるんだろうからな……!」
破壊音をやめない光の軍勢の先を見て、さらにイメージを沸かした。
声 「ガ、ァアアアアーーーッ!!!」
ビジッ───バッシャアアアアアッ!!!
悠介 「───ッ!」
青白い光が唸った。
その光は煙はもちろん、光の軍勢までも破壊した。
そして───その先には、ボロボロで、左腕を無くした逝屠が居た。
逝屠 「楽しませてくれるじゃねぇか……!だが───詰めが甘いんだよ!」
俺と同じく、切り飛んだ腕を再生させる逝屠。
まったく……少しでもあいつに同じことをされると嫌になるってのに───!
逝屠 「ん……?はっ、なるほど?
ガトリングで俺を抑えつけておいて、ソレでトドメといくつもりだったのか。
けど、イメージしきれないらしい」
悠介 「───悟ってんじゃねぇよ」
ボソリと呟いて、その光を最大に創造した。
逝屠 「なっ───!?」
悠介 「そうだな、実にくだらない。
創れないってゆうなら、創れる状況を創っちまえばいいんだ」
逝屠 「な、んだ……!?景色が───」
俺の体を中心に、赤に近い橙色の景色が広がる。
それとともに、目が赤く変異するのを感じる。
自分の深層が唸り、それが声となって響く。
───染まれ、ソマレ、そまれ、染まれ……
───赤く、紅く、朱く、緋く───!
やがて───その景色が真っ赤に見えた時。
俺の口から、自然に漏れる言葉があった。
悠介 「───“創造の理力(”」
その名の意こそが『“黄昏を抱く創造の世界(”』であることを確信して。
俺は、黄昏の世界を創造した。
逝屠 「なんだこれは……世界を、創造するだと……!?」
俺の手からは、既に直視できないくらに眩い光が溢れていた。
───そう、この世界ではどんな無茶な創造すらも可能なのだから。
悠介 「創造神ソード……かつて、神界に存在した、モノを創造する神───。
そっか……全て、理解出来た───」
俺の中にはもう、死神なんて存在は無かったのだ。
いや、居るには居る。
ただし、それは流し込まれた創造神と融合した存在なわけだが。
俺の中に居るルドラ=ロヴァンシュフォルス。
そいつこそが、創造神ソードだった。
悠介 「───……」
ルドラの記憶が俺の中に流れ込んでくるのが解る。
かつて、ひとりの死神とひとりの神として、世界は違えど友だったふたりが居た。
ひとりは死神王と呼ばれ、ひとりは異神として唱えられた。
ようするに、ウィルヴスとソードだ。
ふたりは互いを追い越し、追い抜き───それぞれを高めていった。
だが、高めれば高めるほど求めるものを違ってきて───やがて。
些細な食い違いから、ふたりは互いを憎むようになっていった。
ふたりは闘い、争い───けど、勝つと思われたソードは、その手を止めた。
その瞬間にウィルヴスの腕はソードを破壊し───……
悠介 「………」
全てが食い違いだった。
ソードは自分が死ぬことで、ウィルヴスに『先』を譲った。
そんなソードを俺は、どっかの誰かに照らし合わせて……苦笑した。
けど、ウィルヴスはそんなソードの気持ちには一生気づかない。
気づかないまま───ソードの能力……創造の理力を吸出し、
やがて創造したフレイアにそれを託し、フレイアがルナとなり───やがて。
その力は俺に流れることになる。
……疑問は晴れた。
どうして死神が───ルナだけが、創造の力を俺に送ることができたのかを。
死神にそんな力は無いというのに、どうして、と。
その疑問が、ようやく晴れた。
それは───俺の力は……不器用な友情の成れの果てだったからなのだ、と───
逝屠 「なに感傷に浸ったツラしてやがる───!」
悠介 「───……」
受け入れよう。
そして、受けとめよう。
俺達はなによりも友情を前提に生きてきた。
不器用だった俺達は人から睨まれ、異質だと謳われ。
いつしか不良と罵られていた。
けど、それが間違っていただなんて思うことはない。
なぜなら───自分の隣には、唯一無二の友人が居たのだから。
悠介 「……“聖災を誇る無情の兵槍(”」
その不器用な創造神を受け入れた途端、光がひとつの槍へとカタチを変える。
口が勝手にその名を呟き、その声に呼応するかのように眩く閃いた。
逝屠 「───大層な威力のようだがな……これはお前の体だぜ?
それほどの威力の槍を放てばどなるか解るよなぁ」
脅しなんて効かない。
だって、この槍はそういうもの(なのだから。
逝屠 「つまり、俺がこの体を使っている以上、
てめぇは俺に勝てやしねぇんだよ人形ォ!!」
疾駆する逝屠。
その姿目掛けて、その槍を発動させた。
ヒインッ、と───鋭利な刃物同士を擦り合わせたような音が鳴る。
その音色は、あまりに綺麗。
そして───その音に聞き惚れた刹那に、コトは済んでいた。
逝屠 『ガッ───!?』
槍が、『俺』の体を突いた瞬間、中に居座っていた逝屠を貫き出したのだ。
その存在にとって異質なもののみを貫く槍。
それが、この槍の力だから。
逝屠 『な、んだこれは……!どうなってやがる……!』
かつて俺に蝕まれた存在が、そのままの姿で弾き飛ばされた。
『俺』の体はゆっくりと姿を元に戻すと、地面に倒れ込む。
俺はそれを飛鳥に任せると、ゆっくりと逝屠へと向かって歩いた。
逝屠 『ッ……!ムカツク野郎だぜ……!いつもいつも、足掻きやがって……!』
悠介 「足掻かなけりゃ先が見えないのが人間だ。
足掻きもしないで諦める……それこそ人形なんじゃないか?」
逝屠 『うるせぇんだよ!偉そうにしてんじゃねぇ!
てめぇに創れる世界なら、俺にだって───ア……』
逝屠が、倒れている『俺』の姿を見て唖然とする。
……そう。
もう逝屠は十六夜逝屠として確立した存在だ。
俺の体を操っているわけじゃない。
故に───創造の理力も月蝕力も使えやしない。
逝屠 『くっ……そ……!ちくしょう!ちくしょうちくしょう!!』
自分以外の力に頼りすぎていた自分にショックを受けたのだろう。
逝屠は頻りに髪を掻き毟り、苛立った様子を見せた。
悠介 「形勢逆転だな。……どうするんだ?」
逝屠 『てめぇを殺す!それ以外の意思なんて邪魔なだけだ!』
逝屠が再び疾駆する。
俺も全力でぶつかろうとした───その時!
声 「───我唱えん」
そんな声が聞こえた。
逝屠 「なに……?」
悠介 「この声は……」
間違いようがない、彰利の声だ───
声 「我らを宿す黒き大地の上に、
さしずめ───鈍色の剣の如く、太陽の眼から遠く───死の岸辺に誘う!」
声は───上からだ!
逝屠 「なっ───!?」
見上げると、その空に───太陽を背にした赤き眼をした男が居た。
彰利 「───蒼崎先生、俺に力を!スヴィアァッ!!」
ビギィンッ!!
───音がした。
まるで、空間が断裂するような音が。
そしてその音の後、空から巨大な光が舞い降りた。
逝屠 『チッ───月鳴!退魔の防御壁!』
逝屠が月鳴力の退魔効果を使い、電磁場を強化したシールドを張る。
もう嫌ってくらい知ってるが、アレは月操力を通さない。
いくら彰利の攻撃とはいえ、破れるとは思えない。
───バジィッ!ゴガァアアアアンッ!!
逝屠 『グッ!?グゥウウッ!!!』
だが。
シールドの上からでも無理矢理押し潰すかのように、その光は重かった。
彰利 「ブレイクゥッ♪」
ビギィンッ!!
一発目が消えない内に次弾が放たれた。
その光が、怯んでいた逝屠の防御壁に降り注ぎ───バッシャァアアアンッ!!!!
逝屠 『っ……あ、……な、に……!?』
その壁を、完全に破壊した。
彰利 「スライダァーーッ!!!」
ビギィンッ!!
そして三発目。
光の正体が高圧縮のアルファレイドカタストロファーだと解ったのは、この時だった。
その光が、防御壁を破壊されたばかりの逝屠に降り注ぐ───って!
悠介 「ちょっと待てぇーーっ!!俺の体がすぐ傍に倒れてるだろがぁーーっ!!!」
彰利 「へっ!?お、おわぁ〜〜〜っ!!しまった〜〜〜っ!!」
悠介 「『おわ〜』じゃねぇえええええっ!!!!」
ビジュンッ!!
───……光が降り注ぎました。
その光は逝屠ごとアスファルトを破壊し、やがてゆっくりと光の半球を産み出した。
それはアスファルトの岩盤を飲み込みながら少しずつ広がり───
その場に居た、俺、彰利、飛鳥を絶望の渦へと巻き込んだのでした。
───……。
彰利 「グビグビ……」
───黄昏を解除してしばらく。
なんとかなった現状のさなか、彰利は三発ものアルファレイドの所為で力尽きていた。
悠介 「はぁ……ったく!
考えて行動しろって何回言われれば覚えるんだよお前は……!
飛鳥が抑えてくれなかったら、ここら一帯消滅してたところだぞ……」
彰利 「め、面目ねぇ……」
半球となって破壊を続けたアルファレイドは、
飛鳥が放った光弾と月清力により抑えられて消滅し……
破壊された場所は月癒力で再生された。
飛鳥 「はっ……はっ……」
ったく……余計な力使わせちまった所為で、飛鳥が苦しそうじゃないか……。
悠介 「大丈夫か……?」
彰利 「俺はもうダメだ……」
悠介 「いや、お前に言ったんじゃないから」
彰利 「……お、男塾万歳……」
コトッ……。
悠介 「それで、大丈夫なのか飛鳥」
彰利 「無視ッスか!!」
悠介 「あー五月蝿い、お前は寝てろ」
彰利 「いや、でも……アスファルトがゴツゴツしてて寝苦しいでござる」
悠介 「なにもそこで寝ろって言ってるわけじゃねぇ」
彰利 「グ、グウムッ……」
言い返す言葉が見つからなかったのか、返事をする力もなくなったのか。
彰利はそのまま、アスファルトに仰向けになった状態で動かなくなってしまった。
その先を見てみれば───倒れている逝屠の体。
霊体だってのに消滅してないってことは、まだ逝屠の意識が勝ってるってことだよな?
───そんなことを思っていた時。
地面に影が映ったのを見て、空を見上げた。
刹那───ザコォンッ!!
逝屠 『ギッ───!?』
赤と黒を混ぜたような色をした大鎌が、逝屠の体を斬った。
……そしてその持ち主は、まだ小さな女の子だった。
逝屠 『な、なんだ……!?力が消えてゆく……!意識もだ……!
てめぇ……なニしやガった……!!』
女の子「……災いを斬っただけ。
魂から災いへと成り下がったあなたは、ただ消えるだけです……」
逝屠 『ギ……』
女の子の言葉通り、倒れていたその姿が消えてゆく。
俺はホッと息を吐いて、倒れたままの『俺』の体を見てみた。
てゆうか……っか〜、おっさんだなぁオイ。
俺、こんな顔してたんだなぁ。
改めて見てみると、どうもしっくり来ないぞ……。
女の子「パパ……」
悠介 「……?」
倒れている彰利をパパと呼ぶその少女は、
倒れている彰利の傍に座って、その様子を見る。
そして生きていることを確認すると、顔をパッと輝かせて喜んだ。
声 「はっ……はっ……も、もう……どこまで足速いんですか……!」
悠介 「篠瀬……?」
少女を追ってきたのか、篠瀬が───いや、この口調は浅美か。
浅美が疲れ果てながら、よろよろとフラつきつつ現れた。
てゆうか……大丈夫か?
かなりフラついてるなぁ。
悠介 「どうしたんだ?そんなに疲れて。神社に居たんじゃ───」
浅美 「そ、それが……彰利さんが歩いて行った方に聖ちゃんが付いていって……。
その先で急に彰利さんが走り出して……けほっ」
悠介 「それを見たら、その娘が走り出したから慌てて追いかけた?」
浅美 「は、はい……。家系の身体能力があっても、ここまでは流石に疲れます……。
───あっ……も、椛ちゃん置いてきちゃった……はっ、はぁ、はぁ……」
悠介 「あー……まあ、なんだ?まず休め」
浅美 「はひ……そ、そうさせていただきます……」
やはり疲れ果てていたのか、浅美は彰利の横に膝をつき、息を荒げていた。
月詠街からここまで、どれだけの距離があると思ってるんだ、まったく……。
浅美 「途中まで……月清力で疲労を沈めてたんですけど……ね……。
その途中からはもう……力を使ってられるほどの余裕がなくて……」
悠介 「……うん?浅美の家系って月清力の家系だったのか?」
浅美 「あの……わたし、椛ちゃんの中で死神を抑えてたんですよ……?
他のどんな家系なら、死神の力を沈めてられるっていうんですか……」
悠介 「ほら、月聖力とか」
浅美 「う……確かに……」
ぽてっ。
あ……死んだ。というか倒れた。
納得したところで、今度こそ力尽きたらしい。
悠介 「……さて。どうしたもんかな」
倒れている晦悠介(いや、晦Oと喩えよう)を見る。
こいつを神社に帰して───それから?
実際、一番に気がかりだったのがこいつだったわけだし───
彰利 「ウウ……月を……月明かりをくれッ……!!」
彰利も彰利でぐったりだし。
まいったな、この時代でなにをすりゃあいいんだ?
悠介 「なぁ彰利。この時代でなにをすればいいのか、見当つくか?
俺の目的はお前の経験と記憶だったんだけどな、
およそ、この世界にお前の経験と記憶があるとは思えないんだよ……」
黄昏の創造も上手くいったし、あとはなにをしたらいいのか……。
彰利 「フフフ、それはな……聖を成長させればいいのだ!」
悠介 「なんだそりゃ……本当なのか?」
彰利 「いや、俺の目標がそれだから、別になにがどうだろうと関係無いかなぁと」
……よく解らん。
そう、心の中で呟いた俺は、感覚を忘れないようにと───
もう一度黄昏の創造を発動させてみた。
悠介 「あれ?」
だが。
黄昏は創造できず、さっきまで聞こえていたルドラの声も、聞こえなくなっていた。
悠介 「……?無茶な創造しすぎたんカナ」
やっぱよく解らん。
……ま、未知のものってのは大体が扱いづらいもんだし。
じきに使えるようになるだろ。
悠介 「さて───と、これでもう、
飛鳥の寿命を削るような存在は居なくなったわけだよな?」
彰利 「甘いな……」
悠介 「……なんだよ、いきなり。なにかあるのか?」
彰利 「予想でしかないんだけどね、喜兵衛の転生体がまだ居そうなんだ」
飛鳥 「え───!?」
彰利の言葉に、飛鳥が驚愕の声を漏らす。
悠介 「まだ居そうって……逝屠は完全に消えただろ」
彰利 「逝屠じゃねぇザマス。なぁ飛鳥、お前もおかしいとは思ってたんだろ」
飛鳥 「え……おとうさん……?」
彰利 「ほへ?『おとうさん』?」
飛鳥 「あっ───!」
……お馬鹿。
彰利 「お?なんだ?お?きさん今なんばゆうちょっとか!?オオ!?」
飛鳥 「あ、あうあう……!」
彰利 「アンタまさかぁ〜〜、俺のこと覚えてるんじゃあねぇえだろうなぁああ〜〜!!
アレ?でも病室に転移させられた時は……───あ」
飛鳥 「はうっ……」
彰利 「飛鳥さん、正直に言いなさい。アータ、俺のこと覚えてる?」
飛鳥 「…………うん」
彰利 「で。今、未来の俺を過去に飛ばして、『運命』ってもんを見せつけてる?」
飛鳥 「あ、あの……あのね、おとうさん……」
彰利 「しかも、自分の病室に転移させた時、すっとぼけようとしてる?」
飛鳥 「あうぅ……」
彰利 「沈黙は肯定なり……。おのれ許さん!!」
飛鳥 「ひうっ───!?ご、ごめんなさい!
ごめんなさいおとうさん!だからアレだけは───!」
彰利 「だめですじゃ!!」
ガバァッ!!
飛鳥 「やぁっ!やだぁあーーっ!!!」
彰利は、逃げようとした飛鳥を颯爽と抱き上げ、膝の上に構えた。
そして片手を小さく振り上げるに至り───それがなんなのか、俺にも解った。
ズパァアアアアン!!!!
飛鳥 「きゃぅううううん!!!!」
ズパァアアアアン!!!
飛鳥 「あうっ!うわぁああああん!!!!」
……尻叩きだ。
しかも相当力がこもってる。
あの馬鹿……お前の馬鹿力で叩けば、一発だけでもおつりが来るだろうが……。
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