───解雇付き姉妹弁当 救い無し──
───……気になったことは確かだった。
けど、聞くのが怖かったのも確か。
だから俺はそれを追及することもなくここに居る。
凍弥 「あー……」
悠介さんは俺になにを言おうとしたのか。
こうしてカンパニーに戻ってきても気になってしょうがない。
かといって、いまさら訊きにいくのもヘンだし。
まいったなぁ……なにかで気を紛らわせて忘れるしかないか。
凍弥 「……よしっ、浩介と浩之にでも会いに行くかっ」
椛に会いに行く、という案も脳内が提出したけど却下。
なんてゆうのかな……椛が自分で会いに来てくれるまで、会えないような気がする。
直感ってやつだけど、何故だか確信に近いものを感じる。
……まあ世の中なんてものは確信を破壊することが多いものだし、考えたって仕方が無い。
今は志摩兄弟と駄話でも咲かせて時間を潰すとしよう。
───…………。
さて……
凍弥 「社長室にも居ない、自室にも居ない……何処に行ったんだ?あいつら」
どっかで道に迷ってるとか?……って、まさかな。
菜苗さんじゃあるまいし。
凍弥 「しかし情けないなぁ……誰かが居ないと暇潰しも出来ないとは」
暇潰し───あ、菜苗さんのところでゲームをやらせてもらうとか───ってダメだ。
菜苗さんが相手じゃ10秒ももたない。
や、まいったねどうも……。
凍弥 「うーむ……」
頭を動かせ〜……思考を回転させろ〜……うーぬぬぬ……
凍弥 「───普通に探すか。それだけでも暇潰しにはなるだろ」
思考を切り替えてとっとと歩くことにした。
だって立ち止まってても仕方ないし。
よーし、一応菜苗さんの部屋に行ってみるかぁ。
───……地下、断罪の遊戯室。
凍弥 「菜苗さ〜ん、志摩兄弟居る〜?」
し〜ん……。
凍弥 「……誰も居ない」
あとは───いいや、片っ端から───
───一階、大浴場前脱衣所。
凍弥 「……はい居ない、と」
───一階、厨房。
厨房長「凍弥さま……?なにか?」
凍弥 「あ、料理長。志摩兄弟を見ませんでしたか?」
厨房長「志摩───?……ああ、浩介さまと浩之さまですか。
いえ、ここには来ておりませんが」
凍弥 「そうですか。お邪魔してすいませんでした」
厨房長「いえ構いませんよ。摘み食いじゃない限り、見学でも構いませんから」
凍弥 「はは……」
───一階、倉庫。
メイド1「ね、ね、ね、浩介さまの友達の───
ほら、最近カンパニーの家族になった人居るじゃないっ?」
メイド2「あ、うん、霧波川凍弥さまでしょ?かっこいいよねっ」
メイド3「付き合ってる人居るのかなぁ」
メイド2「カッコいいし頭もキレるし料理も上手だし……言うことないよねー」
メイド1「そういう人ほど女の人にモテそうでモテないんだよね。
ほら、手を出しにくいってゆうか周りの様子が気になるってゆうか」
メイド3「それはそうだよ、抜け駆けしたら周りが怖いもん」
メイド1「どんな人ならOKくれるのかな?」
メイド2「今風の娘かな?それとも地味な娘かな」
メイド3「わたし、顔には自信があるけど……」
メイド2「ユッコ可愛いもんね。
こんなところに勤めてなければ選り取りみどりだったんじゃない?」
メイド3「そ、そんなに上手くはいかないよぉ〜」
メイド1「───!しっ!誰か来た!」
メイド達『えぇっ!?』
ガラガラガラ……
凍弥 「……っと……!デカイ扉だなオイ……!!
話し声が聞こえたから来てみたけど……!」
ゴコォン……
馬鹿でかい戸式の扉を完全に開ききる。
中には様々なものが置かれていて、見上げるだけでも圧巻だ。
凍弥 「うーお……なんだこりゃ……」
日々の書類整理はコレの所為か……。
こんだけの荷物とかがあれば、倉庫点検の書類があれだけ来るのも頷ける。
メイド1(……きゃあっ!凍弥さまよっ!?)
メイド2(わっ……わっ……生凍弥さまだっ!!)
メイド3(『生』はやめようよ……)
メイド2(どうしよ!?襲っちゃう!?)
メイド1(幸いここにクロロホルムがあるけど!)
メイド3(フフフ……倉庫番人、雪穂、月穂、花穂の雪月花姉妹の手にかかれば……!)
月穂 (この倉庫の何処に何があるのかなんて熟知してるし……)
雪穂 (閉めきっちゃえば完全防音のあの扉がある……!)
花穂 (犯っちゃおっか……?)
三姉妹 (……ゴクッ!!)
ゾワワッ!!
凍弥 「うおっ!?」
な、なんだ……!?
今信じられないくらいの悪寒を感じたんだが……
凍弥 「こ、浩介ーっ?浩之ーっ?」
なにか……なにかヤバイぞこの倉庫。
嫌な予感が消えない……。
隆正と鮠鷹が鍛えた戦人としての本能か、この場所はヤバイと心が告げている。
雪穂 (男を断って、はや数年……)
月穂 (さすがにカンパニーのご子息さまに手を出すわけにもいかず……)
花穂 (我慢我慢の毎日……───でも!!)
雪穂 (そう!わたし達にも好機が来た!)
月穂 (カンパニーのご子息ではなく、けれどカンパニーの家族で、しかもいい男!!)
花穂 (いい彼をゲット出来るうえに玉の輿間違いなし!!最高!!)
雪穂 (わたし決めたわ!あの人にこそ、わたしを捧げたい!
今日まで守り続けた純潔を、彼に!!)
月穂 (───聞き捨てならないわ雪穂姉さん。彼はわたしが───!)
花穂 (なに言ってるの!凍弥さまはわたしが襲うのよ!)
雪穂 (なによ!長女に逆らおうってゆうの!?)
月穂 (なによ!倉庫の最高責任者は姉さんじゃなくてわたしじゃない!)
花穂 (倉庫の鍵を任されてるわたしこそ最高責任者よ!)
雪穂 (なに言ってるの!個数確認や現場の秩序を任されたわたしこそ!!)
……なんかすっげぇ嫌な予感。
出て行った方がいいか……?
雪穂 (───!?待って!凍弥さまが何かを感じ取ってるわ!)
月穂 (このままじゃ外に出ていっちゃうわ……)
花穂 (……チィ、仕方ない。それじゃあ順番に頂いちゃいましょ?最初は雪穂姉さんで)
雪穂 (オッケェーイ……)
花穂 (じゃあ、扉閉めるね)
ピッ───ゴゴッ───ガッシャアアアアアアアン!!
凍弥 「───へ?……って、な、なんだぁっ!!?」
突如!あれだけ重かった馬鹿でかい扉が自動で閉まった!!
しかもビクともしない!
さらに倉庫内からただならぬ気配が……!!
雪穂 「わたしを愛して凍弥さまぁーーーっ!!」
ガバァーーッ!!
凍弥 「とわっ!?おわぁっ!!」
さらに突如!!
謎の使用人が俺目掛けて飛び掛かり、俺を倉庫の床に押し倒した!
綺麗な人だが、鼻息が荒いのが恐怖を掻き立てる!
雪穂 「お、おいどんもう我慢できんとですたい!
男との接触のないこの屋敷では男は宝!!まさに至宝!!
だから、ね!?いいでしょ!?ね!?おいどんのものになってつかぁさい!!」
凍弥 「だっ……なにすんだよ!は、離せっ……!どけぇっ!!」
誰こいつ!
てゆうかなんで男弁!?
ああもう!いろいろと訳解らん!!
雪穂 「む、無駄なんだな!凍弥さまには睡眠香を嗅がせたんだな!!
緩やかな風下に居た凍弥さまは、じきに抵抗できなくなるんだな!!」
凍弥 「なに言って───あ……?」
う、あ……体に力が入らねぇ……!?
うそだろ……!?
雪穂 「くうう!男の体がこげに近くに!!もう辛抱たまらんですたい!!」
謎の使用人が俺の服に手をかける。
俺はそれを止めようとするが───力が入らない。
雪穂 「い、いただきま───あ、ら……?」
ぼてっ。
突如倒れる謎の使用人。
おそらく……睡眠香とやらがまだ残ってたんだろう。
……馬鹿で助かった。
雪穂 「くう……ふ、不覚……」
がくっ。
雪穂 「すぅ……すぅ……」
謎の使用人は俺の上に乗っかったまま、眠りに落ちてしまった。
ここで俺も寝るわけにはいかない。
なんとか起きなきゃ……
凍弥 「く、ううう……!!!」
謎の使用人をどかし、立ち上がる。
くそ……瞼が重い……!
油断してると眠っちまいそうだ……!!
月穂 「くっくっく……分け前が増えたわ」
花穂 「そうね、月穂姉さん」
凍弥 「───!?だ、誰だっ!!」
姉妹 『あなたを狩る者!!』
即答だった。
いかん……この倉庫は変態姉妹の巣窟だったのか……!?
は、早く逃げなきゃ……椛に会わせる顔が無くなる……!!
入り口の扉は無理……しかも他に出口らしい場所はない……。
凍弥 「くそ……」
───いや待て。
さっき扉は自動で閉まった。
ってことは……もしかしてリモコンかなんかがあるんじゃ───?
凍弥 「となると……あのふたりのどっちかが持ってるってことか……」
厄介だ……物凄く厄介だ……。
椛以外の女性との接触は極力避けたいってのに……。
こうなったら───
凍弥 「こんなときこそ盟友リンカーだ……!」
説明しよう!
盟友リンカーとは、長い付き合いの信頼出来る盟友の思考をキャッチ、
または発信する盟友奥義である!!
浩介よ……浩之よ……!俺の救援電波を受け取ってくれ───!!
───…………。
ジョバァア〜〜〜……。
浩介 「ふぅ〜〜〜、なかなかしぶといビッグであった」
浩之 「まったくだなブラザー。いくらなんでも便所滞在時間が長すぎる」
浩介 「出張先の滞在が長引いてるような喩えをするなブラザー」
浩之 「断る。それよりブラザー、同志はカンパニーに居るのか?」
浩介 「うむ、それは間違いない。先ほど厨房長が同志を見たと言っていた」
浩之 「そうか、ならば───む!」
浩介 「どうしたブラザ───む!」
志摩 『百円が床に落ちている!なんと罰当たりな者が居たものか!!』
───……。
───……こねぇ。
凍弥 「甘い思考を働かせた俺が馬鹿だった……」
月穂 「さ、ささささあ服を脱ぎ脱ぎしましょうね凍弥さま……!!」
花穂 「お、おおお……程よく鍛えられた体……!!
無駄な贅肉のないすっきりした肉体のフォルム……!!うぶっ!!」
ブピッ!
月穂 「きゃっ!?こらっ!花穂っ!なんてはしたない!」
花穂 「うぶぶぶぶ……!!つ、つい興奮のあまり鼻血が……!!」
凍弥 「………」
タスケテー……貞操の危機をこれ以上ないってくらい感じてるよ俺……。
このままだと……ほんとヤバイことになる。
だってこの人達、目がマジだ。
月穂 「うふふふふ……!!い、いただきます!!」
花穂 「いただきます!」
凍弥 「───南無三ッ!!」
ガリッ!!
凍弥 「はぁっ!!」
シュッ───パァンッ!!
月穂 「なっ───!?」
ブレイクダンスの要領で、手を軸にして体を振り、
襲い掛かってきた謎の使用人姉妹から距離を取る。
すぐさまに体勢を立て直して脱兎の如く逃走!!
花穂 「馬鹿な!睡眠香が効いてないの!?」
月穂 「───!いえ……違うわ花穂!
よく見て!凍弥さまは舌を噛んで眠気を吹き飛ばしたのよ!」
花穂 「な……なんてゆう雄度……!ますます愛しくなりましたわ!!」
月穂 「逃がしちゃダメよ花穂!!」
花穂 「解ってるわ姉さん!!」
俺はそこらへんにあったデッキブラシを手にして構えた。
これでなんとかなる───!!
月穂 「……?ふほほほほほ……それで抗うおつもりですか?凍弥さま。
残念ですが、そんなもので退けられるほど、
生易しい男断ちをしていたわけではありませんわよ?」
花穂 「お、大人しく食べさせるんだな!辛抱たまらんのだな!!」
うーわー、花穂って呼ばれた娘の目が、さっき俺を襲おうとした娘と同じ目に……。
こりゃヤバイ……。
凍弥 「……あのさ。保身ってことで全力でいくけど……悪く思わないでくれな」
月穂 「うふふ……勝気な人って大好きです……」
花穂 「御託はいいから犯らせるんだな!!」
凍弥 「はぁ……」
一呼吸置いて、俺は意識を集中した。
凍弥 「光技身刀流(、霞吹鮠鷹───参る」
ヒュオッ───
月穂 「え?消え───」
疾駆。
身を極限まで屈ませ、地を這うように床を蹴り、間合いを一気に詰める。
一息で相手の背へと回り、その隙だらけな背に目掛けてデッキブラシを落とす。
ズパァンッ!!
月穂 「けふっ!?」
花穂 「月穂姉さんっ!?よし!これで凍弥さまはわたしのもの!!」
返す軌跡を瞬かせる。
振ることはせず、再び床を蹴りその石突き(柄の先端)で、立っている使用人の腹を打つ。
ドボォッ!!
花穂 「うきゅっ!?」
二息でふたりを仕留める。
意識を失い、倒れゆく使用人達を目に捉え、俺は息を吐いた。
凍弥 「……二呼吸か。精進せねばな……」
鮠鷹の時だったら一息でなんとかなった。
怠けている証拠だ。
けどまあ、普通の人が相手ならまず負けない自信はある。
……刀代わりになるものがあれば、だが。
凍弥 「……デッキブラシがあってよかったよ」
まったくもって心の底からそう思った。
出る溜め息も凄まじく、
俺はその場に倒れている謎の使用人の中のひとりが持っているリモコンを手に、
早々と倉庫から脱出した。
───……で。
浩介 「……む?おお同志ではないか、どうした?」
凍弥 「………」
社長室に戻ってみると、そこに居るのは志摩兄弟。
探し回った自分がアホに思えるこの瞬間をアナタに。
凍弥 「……あのさ。この屋敷の使用人たちってどうなってんだ……?」
志摩 『うぬ?』
俺はさっき起きた事件(?)のことをこと細かく話して聞かせた。
正直シャレにならん事態だったし。
そして出た志摩兄弟の結論は───
浩介 「そいつら解雇」
凍弥 「むごっ!?」
いきなりの退職宣告だった。
浩之 「いくら同志がカンパニーの家族になったとはいえ、同志は預かり人だ。
それを襲うなど……信じられん行為だ」
凍弥 「いやさ、もとより外出を自由にすりゃいいんじゃ……」
浩介 「このカンパニーで働く者は仕事に没頭できる人材が欲しくて雇った者どもだ。
外に出て男を作られれば、仕事に支障が出るだろう?
デートがあるから仕事なんて出来ないだの、そんなことでは困るのだよ同志」
凍弥 「あー……そりゃ確かに。
俺達だって、『仕事中は相手のことより仕事優先』が義務づけられてるからな」
浩之 「そういうことだ。それにオチットさんの話では、
倉庫番の三姉妹は最近よくサボっているらしい。
それに目を瞑ってたのは、
単に外出できないことでストレスが溜まっているからだという理由もあった。
しかしここに来てそのような行い……もはや決定だろう。
その姉妹もそれを望んでいるであろうよ」
凍弥 「……そか。それは仕方ないな。職務怠慢って理由があるならどうしようもない」
浩介 「うむ。では───」
カタカタカタ……ピッ。
浩介 「ああ、我だ。外国本社の親父に繋げてくれ。……ああ、うむ。頼む」
なにを思ったのか、浩介は社長室の回線を外国の本社に繋げ、
カフェインさんに電話をかけていた。
浩介 「───親父か?少々訊きたいことと頂戴したい許可があるのだが───」
───……。
───……その数分後。
志摩兄弟はオチットさんの協力のもと、三姉妹を社長室に集めた。
で、社長椅子に座りながら一言。
浩介 「チミたち、クビね」
一度言ってみたかったらしい。
ああもちろん、それがやりたかったから解雇するわけではない。
……って、当たり前か。
三姉妹『えぇっ!?解雇ですか!?』
浩介 「ああ、親父も許可を出した。
本日づけをもって、踝(雪穂、月穂、花穂をこのカンパニーから除名する」
雪穂 「そんな!なにかの間違いでは!?」
浩之 「貴様ら、同志凍弥を襲ったそうだな?」
月穂 「ぎっ……な、ななななんのことでございましょうか……?」
花穂 「わわ、わたしたちはそのようなことは一切……」
チット「まあまあ、なんて見苦しいことでしょう。
あなた方の職務怠慢は既に知っているのですよ?」
雪穂 「で、ですからなんのことで?わたしたちは日々、このカンパニーのために……」
チット「あらあら。倉庫の監視カメラがあるのですが、見たいというのですか?」
三姉妹『はうっ!?』
オチットさんが持つ小さなテープを見て縮こまる三姉妹。
自業自得ってこういう状況に使えるんだろうな……。
凍弥 「───?」
ふと、三姉妹のひとりが俺を見てジェスチャーを始めた。
月穂 (告げ口するなんてヒドイです!!)
凍弥 (たわけ)
月穂 (たわっ!?)
チット「あらあらまあまあ!月穂さん!?あなた何を奇妙な動きをしているのですか!?」
月穂 「あわわっ!?い、いえ違うんですオチット婦長!!
わ、わたしは凍弥さまに話し掛けられて───!!」
うわぁ……ここまで来るともうヤケクソ気味に話進めてくるなぁ。
ちょっと感心してしまいましたよ?
凍弥 「あのさ、男に困ってるならここを辞めるのって丁度いいんじゃないかな。
ここを辞めればいくらでも外には出れるわけだし、
男くらい簡単に見つかるだろ?」
雪穂 「な、なにを仰るのですか凍弥さま!
わたしは凍弥さまだからこそこの身を捧げたいと!!」
凍弥 「……俺、もう結婚してるんだけど?」
花穂 「既婚者!た、たまらないんだな!!
新妻から男を寝取るスリルは最高だと聞いたんだな!!」
月穂 「結婚しているのがなんだというのですか!
古来より男は寝取るものだと言われているのですよ!?」
志摩 『救いようのない欲望一直線姉妹だな、おい……。
こやつらを残しておいた親父の気が知れんぞ……』
チット「まったくお下品な!!あなた達!今すぐ荷物を纏めて出ておゆきなさい!!」
三姉妹『そ、そんなっ!若い身空、女だけでこの世界に下りてどうしろと!!』
チット「家に帰りなさい」
三姉妹『あ……そうですね』
なんなんだこの姉妹……。
なんか疲れがどんどんと蓄積されていってるような……って、志摩兄弟も疲れてる。
チット「ご家族には電話で通達しておきました。
あなた方はもうカンパニーとは関係の無い者です。達者で暮らしなさい」
雪穂 「凍弥さまをテイクアウトしていいですか?」
チット「退職手当が要らない上に、足腰立てなくなりたいのならどうぞ?」
花穂 「よっしゃいただき!」
凍弥 「早っ!?ってうわぁっ!!」
ガバァッ───ボゴシャア!!
花穂 「へぶっ!!」
飛び掛ってきた謎の使用人だったが、オチットさんに殴られて怯んだ。
チット「花穂さん……覚悟は出来ているのですね……?」
花穂 「馬鹿野郎!覚悟も無しに男が狙えるか!!」
凍弥 「馬鹿野郎って……」
チット「……よい度胸です」
ドカバキベキドゴ!!
花穂 「ギャーーーッ!!!」
……やがてボコボコにされる謎の使用人。
自業自得すぎるが、その雄度だけは認めてやりたかった。
浩介 「なぁ同志……何故あいつはあんなにも雄々しかったのだ?」
凍弥 「そんなの俺が訊きたいよ……」
雪穂 「オチット婦長が花穂をボコってる今が好機!
凍弥さま!わたしを貰ってください!」
凍弥 「って、またかいっ!!」
がっし。
雪穂 「……あら?」
空中で静止する謎の使用人。
浮遊しているわけではなく、エプロンドレスの帯を掴まれているのだ。
謎の使用人もひしひしと感じている筈だ。
その圧倒的な圧力を。
……いつ入ってきたのかは謎だが。
葉香 「……フン。わたしの愚弟に手を出そうとは……いい度胸だ」
雪穂 「はがっ……!?よ、よよよよ葉香さまっ……!!?」
葉香 「覚悟、出来てるんだな?」
雪穂 「あ、あああああの!?わたっ、わたしはっ!
あのその……つ、月穂にそそのかされまして!!」
月穂 「ひえっ!?い、いきなり妹を売るなんてどういう了見よ姉さん!!」
雪穂 「黙れ!!己のために他を犠牲にして何が悪い!」
葉香 「悪すぎだ馬鹿者」
メゴシャドバァーーンッ!!
雪穂 「へぎゅうっ!!」
……ドゥ。
ナックル一発でダウン。
というよりは、アッパーくらって天井にぶつかれば気絶はする。
相変わらず滅茶苦茶な強さだ……。
葉香 「……さて、どうせお前も邪なことを考えているんだろう?
歯を食いしばれ、一発で終わらせてやる」
月穂 「な、なにを仰るのですか葉香さま!
わ、わたしは三姉妹の良心とも呼ばれるほどですよ!?
そ、そんな邪なことなんて!」
葉香 「───凍弥。この女には襲われなかったのか?」
凍弥 「バッチリ襲われた」
葉香 「そうか」
月穂 「わきゃあああああっ!!!で、出てゆきます!出てゆきますからご勘弁を!!」
葉香 「わたしは『殴る』と決めて、止めたことなんてあったか?」
月穂 「皆無です」
葉香 「いい答えだ」
月穂 「えっ!?あ、いや」
ゴパァンッ!!
月穂 「ふぎゅうっ!!」
目にも留まらぬパンチが炸裂。
謎の使用人は空を飛び、その場に倒れて動かなくなった。
浩介 「……なんというか……」
浩之 「うむ……」
凍弥 「地獄絵図……」
志摩 『だな……』
自業自得とはいえ、
未だにオチットさんにボコボコにされている謎の使用人が不憫でならなかった。
───……。
葉香 「出ろォーーーッ!!」
バキャーーーン!!
三姉妹『ズイホォーーーーッ!!!』
バキベキゴロゴロズシャーーアーーーッ!!
凍弥 「うあ……」
志摩 『……流石に気の毒だ』
容赦無さすぎ。
三人の後ろ襟を片手で掴んで窓に向かって投げやがった……。
というかどういう腕力ですか?
人間って強化ガラスを割るくらいの勢いで投げられるとシャレにならんのでは?
葉香 「その服は選別にくれてやる。二度とカンパニーに近寄るな」
雪穂 「覚えてろくそっ!」
月穂 「50超越したババアのくせにどうして未だに若いのよバケモノ!」
花穂 「いつまでも偉そうにしてんじゃねぇブス!!」
葉香 「貴様らぁあああああっ!!!」
三姉妹『ギャーーーーッ!!!!』
ドカバキベキボキガンガンガン!!
三姉妹『ジェーーン!!』
ああよかった、生きてる。
その絶叫に疑問は残りすぎるけど、生きてるなら……って、今度こそ死にそうな気がする。
浩介 「なぁ同志。我はちと考えてみたんだが……」
凍弥 「へ?あ、な、なんだ?」
浩之 「まああいつらのことはこの際無視だ。ちと聞いてくれ」
凍弥 「……?あ、ああ……」
───……。
───……地下・遊戯室。
浩介 「他の場所には監視カメラがあるのでな、話をするならここだろう」
凍弥 「自室でもよかったんじゃないか?」
浩之 「まったくだブラザー」
浩介 「まあそう言うな。で……ものは相談なのだがな」
真剣な顔をする浩介を見て、俺も真剣に構える。
どんな話にせよ、ここでふざけるのは失礼だ。
浩介 「我はな、最近このカンパニーで働く者に不満を覚えているのだ」
凍弥 「不満?どうして」
浩之 「同志もその身をもって実感しただろう?最近あのような輩が増えてきているのだ」
凍弥 「そうなのか?初耳だ」
浩介 「無理も無い。我らはオチットさんとシルフィーと菜苗さんに頼み、
調査してもらった上で知ったのだ。これで同志が知っていたら物凄いことだ」
確かに。
書類整理とかやらせてもらってはいるが、
かといって内部事情に詳しいかと言ったらそうでもない。
浩介 「無茶だということは承知の上なのだが……同志。
知り合い連中を掻き集め、カンパニーで働いてもらうというのはどうだろう?」
凍弥 「知り合い連中って……おいおいおい、
カンパニーの仕事がどれだけあると思ってるんだよ。
俺達の知り合い程度で補える程度じゃ───って……」
浩之 「うむ。同志も言っていただろう?今のカンパニーには無駄な人員と仕事がある。
それを削減すれば、少数精鋭だとしてもなんとかなる。
個々にかかる負担は大きいかもしれんが、そこは止むを得ん部分。
その分の給料を増やすことでなんとかならんだろうか」
凍弥 「だとしても……ちょっと難しいと思うぞ?」
浩介 「だがな……このままではカンパニーは悪くなる一方だ。
親父にここを任されてはいるが、正直我はまだ子供だ。
頼りない責任感を糧に日々を過ごしてはいるが、
中の方から崩れるものを治す自信など無いのだ。同志……解るだろう?」
……意外だった。
まさかここまで弱気な浩介を見ることになるとは。
やっぱり『社長』ってゆうのは軽い気持ちでなれるものじゃないんだ。
……当然じゃないか。
そして───そんな友人を支えてやれないで、なにが盟友だ。
凍弥 「検討してみるか。上手くすれば吉に向かうかもしれない」
浩介 「───!ど、同志!」
浩之 「さすがは同志だ!頭から否定することをしないのは貴様の強みだぞ同志!」
声 『いいや、まだまだ詰めが甘いほね』
───!!
凍弥 「だ、誰だ!!」
声 『俺だほね!!』
凍弥 「誰だよ!」
声 『だから!俺だほね!
俺が俺じゃないなら俺は誰だほね!?てめぇ俺をナメとんのかほね!?』
凍弥 「………」
なんで俺が怒られなきゃならんのだ?
志摩 『無礼だぞ貴様!姿を見せい!』
声 『馬鹿野郎!俺は失礼なんだほね!!』
志摩 『大差ないわ!!』
声 『なんだとてめぇこらほね!!
その僅差が物事の違いを見分ける鍵だという事実に何故目を開こうとしない!!
そんなことだから部下が謀反を起こすのだほね!!』
志摩 『なっ……なにぃっ!?』
凍弥 「いーから出てこいよ……姿も見せないヤツにアレコレ言われる筋合いはないぞ」
声 『いや、だって……驚くほねよ?絶対』
志摩 『構わん!!出て来い!!』
声 『……ほねほねほね、仕方の無い……』
ババッ!カションッ!
骨 『ヘロウほね』
志摩 『………』
凍弥 「あー……」
骨だ。
骨が壁から現れた。
志摩 『なんだこの!そんな骨の被り物を着てなんのつもりだ!!』
凍弥 「いや……浩介、浩之……今ツッコミ入れるのってそこじゃないと思う……」
浩介 「───はっ!?そ、そうかしまった!!」
浩之 「我らとしたことが───!!やい貴様!!」
志摩 『不法侵入は立派な犯罪だぞ!!』
凍弥 「そこでもねぇ!!」
『壁から現れた』って事実、完璧に無視してるよこいつら……。
言うなれば『いけない……!怒りに我を忘れている……!』といった感じだ。
浩介 「ええいなにが不満なのだ同志!我らにも解るように言え!」
凍弥 「解らない方がどうかしてるわぁあっ!!
もっと全体的に見ろ!!視点を大きく!!」
浩之 「視点を?む……───ハッ!そ、そうか!そうだったのか!!」
凍弥 「解ったか?」
浩之 「あいつ裸だ!」
凍弥 「そうじゃねぇ!!」
浩之 「どうしろというのだ同志!!」
凍弥 「こっちこそどういうつもりなのか訊きたいわ!!」
骨 「ほねほねほね、仲間割れか、見苦しいほねねぇ」
凍弥 「お前の姿の方がよっぽど見苦しいけど」
志摩 『うむ』
骨 『ほねぇっ!?なんと失礼な!この俺さまを誰だと思っていやがる!!』
凍弥 「骨」
骨 『その通りだ』
凍弥 「………」
志摩 『………』
それでいいらしい。
なんかもういろいろと訳の解らんヤツが出てきたな……。
大丈夫なのか?この世界。
骨 『ともかく貴様』
凍弥 「俺?」
骨 『そうほね、貴様ほね。貴様がどういうつもりかは知らんが、
貴様のお節介を止めるってゆうことに関しては、俺は貴様を阻止するほね。
今貴様がやろうとしたことは明らかにお節介。
救いの道があるかも解らないのに協力することは余計なお世話というほねよ』
余計……そうだろうか。
余計じゃないと思うが……
凍弥 「余計なお世話か?」
浩介 「我が頼んだのに何故余計な世話になるのだ?」
浩之 「我が知るか、骨に訊け」
浩介 「うむ。何故だ?」
骨 『それはな。
貴様の考えがどうであれ上手くいかないことを成功させようとする思いが、
微量だが奇跡の魔法を発動させるからほね。
そんなことになって貴様の存在率が減ってもなお、
きさまら兄弟は余計ではないと言えるほね?えぇーーーっ!?』
浩介 「む……ぬぐぐ……!!
いちいちもっともだが、なによりもまずこの骨の存在がムカツクぞ我は……!」
浩之 「同感だブラザー……!!」
骨 『それで貴様らの言う同志が消えたりしたら、
貴様らは消滅の手助けをしたことになるのだほね!!
それでもなにか?ン?余計ではないと言えるほねか?ン〜?』
ブンッ!!
凍弥 「あらっ!?」
骨 『ほねほねほね!!俺には奇襲攻撃など当たらぬほね!!
しかしいきなり不意打ちとは!貴様それでも剣術道の師範ほね!?』
凍弥 「───!」
浩介 「剣術……?」
浩之 「師範……?なにを言っているのだこのカルボーンは」
なんで……この骨そんなこと知ってるんだ……?
俺───いや、前世の鮠鷹は確かに若いながらも道場の師範をしていた。
それを知ってるのはあの時代に居た者か、彰衛門だけの筈……
凍弥 「お前……まさか彰衛門?」
骨 『───ッ!!死にたいか貴様!!俺をあんなヤツと間違うな!!』
凍弥 「っ……!?」
凄まじい殺気を向けられた。
思わず足が竦み、体が動かなくなった。
骨 『いいかっ……!!命が惜しかったら俺をあんな存在だと唱えるな……!!
俺はあいつの馬鹿さ加減の果てに散ったんだ……!!
この世が運命なんてもので縛られていることを思い知らされた……!!
ここに来てようやく未来の変動を再確認できたというのに、
その果てがあの未来と同じ晦悠介の消滅では救いがないのだ……!!』
凍弥 「なに……!?今なんて言った!?悠介さんが消える!?」
骨 『チッ……お喋りが過ぎたようだ……。
いいか貴様ら、今から俺が貴様らに助力をしてやる。
時間はかかるが、貴様らのカンパニーは変われるだろう。
だから貴様は無駄なお節介や人助けなんて考えるな。
そうするつもりならこの未来はそれだけの未来……俺が歴史ごと破壊する』
凍弥 「………」
本気の目だ。
骨だから目はないけど、この骨の言っている言葉は全て真実。
歴史ごと破壊というのはつまり、消滅をまたずして俺達を殺すということだろう。
『あの未来と同じ晦悠介の消滅では救いがない』……骨はそう言ったのだから。
こいつは見てきたんだ……未来の先にある絶望を。
それを少しずつ変えようとしている。
誰の味方もしないってゆうのは、
自分の力だけで変えてやりたいってゆう気持ちからなのか、孤独を選んでいるだけなのか。
それは解らなかった。
骨 『もう少し……もう少しだ……もう少しで償える……。
変えるんだ……未来を……。
そうすれば……永く続いた罪と罰の歴史も終わる……』
やがて……ブツブツと何かを呟きながら、骨は消えた。
浩介 「……なんだったのだ、あいつは」
浩之 「壁に消えていきおった……───壁?」
浩介 「………」
ペタペタ。
志摩兄弟が壁に触れる───が、当然仕掛けなんてない。
浩介 「………」
浩之 「………」
沈黙。
そして開口。
志摩 『おばけーーーっ!!!!』
志摩兄弟、逃走。
そういやおばけとか苦手だったんだっけ。
……そもそも気づくの遅いって。
浩介 「ぬわぁーーーっ!!エレベーターが作動せーーん!!!」
浩之 「どうなっているのだぁーーーっ!!」
声 「わたしが止めました〜」
志摩 『キャーーーーッ!!!!!』
絶叫。
それも、怪虫に襲われそうになった仲田くんの如く。
って……
凍弥 「菜苗さん?」
菜苗 「はい〜、南城菜苗ですよ〜」
浩之 「な、なななな……菜苗……?」
浩介 「い、いつの間に……?」
菜苗 「ずぅっとそちらのソファで眠っていましたけど〜……」
三人 『………』
気づかなかった。
もしかしてここに浩介たちを探しに来た時も既に居たとか?
……何者?忍者?
菜苗 「えーと……どうかしたんですか〜?」
凍弥 「サムライニポーン……」
浩介 「フジヤマゲイシャー……」
浩之 「スシー、テンプラー、フジヤマー……」
全員 『新橋(!!』
……よし落ち着こう。
菜苗さんが息ぴったりで新橋を合わせたのは驚きだが、
そもそも新橋のことはどうでもいい。
凍弥 「それで……菜苗さん?どうしてエレベーターを止めたんだ?」
菜苗 「こうでもしないとわたしとゲームをしてくれないからです〜。
安心してください〜、
わたしに勝てたらエレベーターの鍵は開けてあげますから〜」
志摩 『………』
……脱出不可能。
その文字が、俺の頭の中に……いや、おそらく志摩兄弟の頭の中にも浮かんだことだろう。
さよなら太陽、よろしく永久遊戯地獄。
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