───流れる時。約束されていない未来へ───
───……時は流れる。
春が過ぎて夏が過ぎて、秋が過ぎて冬が過ぎて───そしてまた、何度目かの春が来る。
ふと気づけば学生だった時間は通り過ぎて……
俺はレイヴナスカンパニーの正式な家族になっていた。
凍弥 「はぁ〜あ……今日も書類に囲まれて地獄気分……ってか?」
浩介 「愚痴をこぼすのも恒例だな。こればかりはとっとと終わらせるに限るぞ同志」
凍弥 「そりゃそうだけどね。……で、浩之は?」
浩介 「む?シルフィーから聞いてなかったのか?
ブラザーなら菜苗さんとデート中だ。
付き合い始めた時期が悪かったからな。
今まで恋人らしいことを出来なかったとかで、外に繰り出している」
凍弥 「……それ言うと、俺とお前はどうなるんだよ」
浩介 「フッ……我とシルフィーはいつだって愛し合っている」
凍弥 「お前がそれでいいならいいんだけどな」
俺は椛が気になってばっかりだ。
俺も恋人らしいことは特にできなかったわけだし。
浩介 「我はまだ現状維持でいいのだ。
それよりも同志、貴様は親になるのだろう?ここでしっかりしなくてはな」
凍弥 「───ああ」
そう、椛のお腹には俺の子が宿っていて、そう遠くない時期に産まれる。
俺はそれを励みにがむしゃらに働いて、未来への下地を作っているような状況だ。
……楽しみではある。
楽しみではあるけど……今の椛に産むことが出来るのだろうか。
あの日から数年。
椛の身体は随分と弱っている。
俺はそれだけが心配でならなかった。
浩介 「なにを情けない顔をしているか同志。
そんなことでは産まれてくる子供に失礼だぞ?」
凍弥 「どう失礼なのかは訊かないでおくよ。
たぶん訳の解らん返事が返ってくるだろうし」
浩介 「任せろ」
凍弥 「どーゆう返事だ、ばか」
そう言って笑い合う。
……うん、きっと大丈夫さ。
いろいろな人のお陰で開けた未来だ……いいことが無ければ酷すぎる。
───コンコン。
浩介 「む?鍵はかかっておらぬぞー」
ノックを聞いて、入室を促す浩介。
ふと時計を見てみると、もう結構な時間になっていた。
メイ 「失礼します」
ドアを開けて中に入ってきたのはメイさん。
リヴァイアに見てもらって以来異常もなく、使用人業に戻った彼女だ。
浩介 「メイさんだったか。シルフィーは?今日は確かシルフィーの番だった気がするが」
メイ 「ラチェットさんは只今、湯浴みの最中です」
浩介 「───そうか。だからメイさんが」
メイ 「はい。なんでも倉庫整理時に落下してきた塗装用のペンキを、
頭からかぶってしまったとかで。ペンキはなかなか落ちません。
ですから一日かけて、のぼせてでも落とすとか……」
凍弥 「うお……それはまた……」
浩介 「なんとも……」
メイさんが勤務に戻ってからというもの、お茶汲みが当番制になった。
といっても大げさなものじゃなく、一日交代という簡単なものだ。
……そして今日はラチェットさんの番だった筈なんだが、
まあ……メイさんが言った通りだ。
浩介 「同志……我はもうダメだ……頑張れぬ……」
凍弥 「一日会えないだけで腐るなよ……」
浩介 「だ、だけとはなんだ!だけとは!!我にとっては死活問題なのだぞ!?」
凍弥 「気持ちは解らんでもないけど、メイさんの目の前で言うのは失礼だろが……」
浩介 「うむ……確かに。失礼した、メイさん」
メイ 「構いませんよ。わたしはこうしてまた仕事が出来るだけで嬉しいのですから」
浩介 「………」
凍弥 「………」
極上のスマイルを贈呈された。
ほんと綺麗な人だよな、メイさんって。
メイ 「それでは失礼します。……ああ、凍弥さま。
のちほど時間が空きましたらメンテナンスをお願いします。
腕の関節に微量の異常が確認されました」
凍弥 「そか。了解」
メイ 「はい、失礼します」
キィ……パタン。
ドアが閉められ、メイさんが部屋を出て行った。
浩介 「ふーむ……メイさんをメンテナンス出来るのは同志だけか。
これでもし、同志が海外への赴任を命じられたらどうなるのだろうな」
凍弥 「断れるなら断るよ。
外国になんて興味ないし、元より椛を置いていけるわけがない」
浩介 「だな。まあそのようなことがないように、
日々この日本で頑張っているのだからな。
そのようなことがそうそう起こってたまるか」
凍弥 「ああ」
浩介の言葉に苦笑混じりの返事を返しながら、書類に目を通してゆく。
この作業も慣れたもので、もうひとりでも終わらせられるくらいの余裕は出来た。
それなら何故ひとりでやらないのか。
それは───ふたりでやった方が速く終わるから。
このひとことに限るわけである。
浩介 「ン……おお、そういえば同志。
子供でいまさら思い出したのだが───どうだったのだ?」
凍弥 「ん?なにが」
浩介 「風間の子供だ。一年前くらいになるか?手紙が来て会いに行ったのは」
凍弥 「んー……そう、だな。それくらいになるか」
浩介 「それで、どうだったのだ?しかと宇宙人フェイスだったのか?」
凍弥 「お前、全国の赤子好きの奥方さまに謝れ」
浩介 「術がないので御免蒙(る」
凍弥 「ま、いいけどさ。
俺が行ったのは美雪ちゃんが産まれてしばらく経ってからだからな。
赤子ってわけじゃなかったから宇宙人フェイスではなかった」
浩介 「ほう、美雪というのか」
ふむふむと頷く浩介を余所に、俺は筆を走らせていた。
浩介は───てんで走らせてない。
凍弥 「浩介……喋りながらでも手ぇ動かせ」
浩介 「む?おっとこれはとんだ失態だ」
……それからしばらくは、筆の走る音のみが社長室に響いていた。
───が。
浩介 「そういえば同志よ。もう子供の名は決めてあるのか?」
凍弥 「へ?ど、どうしたんだよいきなり」
ほんとにいきなりの質問に、不覚にもどもってしまった。
浩介 「なに、子供の話をしていたら気になったのでな、ちと確認を」
凍弥 「確認って……まあ、一応考えてはいる」
浩介 「ほほう!是非聞かせろ!!」
凍弥 「……楽しんでるだろ」
浩介 「うむ!同志の名付けのセンスが光る一瞬だからな!
安心しろ、絶対に聞き逃さん!!」
凍弥 「………」
なにやらノリノリの浩介。
なにが楽しいのかは解らんが……まあ名前を教えるくらいはどうってことない。
凍弥 「産まれてくる子供はな、男だったら緋鳥(。
女だったら紅花(にしようって思ってる」
浩介 「ひどり、このか、か……。どんな字だ?」
凍弥 「ん?ああ、えっとな……男の方はこの『あか』に『とり』で緋鳥。
女の方はこっちの『あか』に『はな』で紅花」
浩介 「ふむ……?『赤系』にこだわっているのか?」
凍弥 「へ?ぷっ……ははっ、椛にも同じことを言われたよ。
おかしなもんだなぁ、そういう意識は無かったんだけど」
浩介 「ふむ……ところでな、同志」
凍弥 「なんだ?」
なんだかんだで顔が綻んで心ウキウキの俺に、浩介が沈んだ声で言う。
浩介 「……貴様が名前を書いたこの紙な……?最終点検用の書類だったんだが……」
凍弥 「へ?───……おわぁああーーーーっ!!!!それを早く言えぇーーーっ!!!」
最終点検用書類……それは、書き連ねた書類の点検のために、
チェックをした書類の名前をひとつひとつ書き連ねたものなのである……!
そして俺はその重要な書類にデカデカと名前を刻み込んでしまい───
結果、再びチェックした書類名全ての書き直し……。
浩介 「……今日は眠れぬ夜を過ごせそうだな……」
凍弥 「マジですまん……」
チェックするべき書類の『山』を見て、俺と浩介は心底溜め息を吐き出したのであった。
───…………ちなみに翌朝、
幸せヅラして帰宅した浩之が捕獲され、
新たな書類の山が待つ戦場へと放り込まれたことは言うまでもない。
───……時間あくまで普通に流れている。
ふと気づけば仕事に追われる毎日。
同じ屋敷に居るにも関わらず、なかなか会いに行けない日々を思い、俺は相当病んでいた。
椛はどうしてるだろう。
子供に異常はないだろうか、など。
考えることがいっぱいありすぎて、疲れも当然溜まっていた。
溜まっていたからこそ───ガタッ!ドタタッ!!
浩介 「なっ───同志!?同志!!」
……その日、俺は倒れた。
原因は過労。
そして、極度のストレスだそうだった。
───…………。
凍弥 「……あ……」
ふと目が開けると、そこは和室だった。
ハッとして部屋を見渡してみると、そこに……椛が居た。
静かな寝息で眠っている。
とはいえ……何日ぶりだろうか、顔を見るのも。
凍弥 「また……痩せたか?」
膨らんでるお腹とは反対に、痩せこけてゆく椛。
ただ『治らない』とだけ言われたその病状は謎のまま。
知り合いの全ては匙を投げ、シェイドでさえ解決できないままだった。
神王の竿ってゆうものがあれば、少しは快方に向かう可能性もあったそうだけど───
その竿は彰衛門の中にメルティアの魂を流し込んだ精神の旅の際、
抗った彰衛門の死神───レオの波動にあてられて、
耐え切れずに壊れてしまったのだそうだ。
『竿を直せばいいのでは』という期待も、
神界の技術で作られたものであるため修復不可能。
そのうえ、所持者とされる神王は既に死去しているのだという。
凍弥 「……上手くいかないことばっかりだ……。
どうしてこう、物事のタイミングが悪いんだろうな、俺達は……」
自然に呟きが漏れた。
気づけば俺は、眠っている椛の額にかかる髪を撫でるようにどかしていた。
椛 「あ……」
凍弥 「……悪い。起こしちゃったか?」
椛 「……いえ。よく起こしてくれました……」
そう言って、椛はにっこりと笑った。
会えて嬉しい。
そんな椛の声が聞こえるような笑顔だ。
当たり前だ、俺だって嬉しい。
嬉しい、けど……
凍弥 「……大丈夫か?」
椛 「え?……はい、大丈夫です。丈夫な赤ちゃん、産んでみせますよ」
凍弥 「そうじゃなくて。椛自身が大丈夫なのかって訊いたんだ。
あ───そりゃあ子供が産まれるのは嬉しいぞ?
嬉しいけど……俺、なんだか椛が居なくなっちまうような気がして……」
椛 「凍弥さん……───あははっ、心配性ですか?大丈夫ですってば。
それにわたし、なんとしても産んであげたいんです、この子のことを。
生きてるんです、一生懸命……生きようとしてるんです。
そんな子を産まずに殺してしまうなんてこと、絶対に嫌ですから……」
凍弥 「椛……でもな」
椛 「でもじゃありませんっ、産むって言ったら産むんですっ」
凍弥 「……はぁ。別に反対してるわけじゃないんだからつっかからないでくれ。
言っただろ?嬉しいって」
椛 「むー……」
いかにも『納得いきません』といった風に俺を睨み、頬を膨らませる椛。
『まるで子供だな』と苦笑しながら、椛の頬に触れ───やさしくキスをした。
椛 「……誤魔化してます?」
凍弥 「そんなんじゃないよ。したかったからした」
椛 「そうですか。こんな痩せ細ったわたしでも、まだ好きでいてくれるんですね」
凍弥 「こらっ」
ズビシッ!!
椛 「あにゅっ!?」
デコピン一閃。
俺は額を押さえて俺を見る椛に言った。
凍弥 「『こんな』とはなんだ。好きでいてくれるとはなんだ。
嫌いになるわけないって言っただろうが。
そんなこと気にしてると今度はゲンコツいくぞ」
椛 「うー……ひどいですよ凍弥さん……。かよわい乙女にデコピンなんて……」
凍弥 「俺は人種差別はしない主義だ」
椛 「……あからさまなウソつかないでください」
凍弥 「あ、バレた?」
椛 「当たり前ですっ!」
ぷんすかと怒る椛にまあまあと言って宥める。
怒りやすさは依然変わらず。
ほんと、とんでもない人を好きになったもんだ。
凍弥 「まあそれだけ元気があれば大丈夫だよな?」
椛 「もちろんですっ。元々わたしは辛いだなんて言った覚えはありませんよっ?」
つん、とそっぽ向く椛を見てやっぱり苦笑。
……気休めでもいい。
椛本人が大丈夫って言ってくれるなら、俺はそれを信じることが出来る。
凍弥 「さてと、それじゃあ仕事の続きでもするかな」
椛 「え───もう行っちゃうんですか?」
凍弥 「ああ。これでメシも食わせてもらってるし、椛を支えていけてる。
中途半端にサボるわけにはいかないよ。
けどまあ……ガッコで授業をサボってた俺だからこそ、
過労だとかストレスで倒れたりしたんだろうけど」
椛 「あの……無茶はしないでくださいね?」
凍弥 「……解ってる。ごめんな、心配ばっかりしてるとお腹の子にも障るよな」
椛 「………」
俯く椛を布団に寝かせ、俺は『大丈夫』と言って頷いた。
ああ、大丈夫さ。
絶対に幸せにしてみせる。
椛と、これから産まれてくる子供を、俺の手で。
凍弥 「子供が産まれたらさ、一度鈴訊庵に戻ってみないか?
なんだか……誰かに報告しなきゃいけない気がするんだ。
守るべきものができたぞ、って」
椛 「……そうですね、いいかもしれません」
凍弥 「ああ。その時、休みが貰えるように頑張るから。
父さんと母さんと、みずきさんと深冬さんにも挨拶しに行こう」
椛 「……はい」
笑顔で返事をすると、椛はそのまま眠ってしまった。
……身体が平気じゃないのは椛の方だ。
だってのに俺の心配なんかして……
凍弥 「……ばか。俺は心配してもらいたいから仕事してるんじゃないんだぞ……?」
言っても仕方が無いことが自分の口から漏れた。
……ほんと、言ってもどうにもならない。
好きな人が倒れたりすれば、俺だって心配する。
仕事に文句をぶつけても仕方が無い。
この仕事を受け入れたのは俺なんだから。
凍弥 「……じゃ、ゆっくり休んでくれな。俺はまだまだ頑張れそうだから」
規則正しい寝息をしている椛の額にキスをしてから立ち上がった。
さぁ……頑張るかっ!
───……。
凍弥 「つまりだ。この屋敷には男が俺と浩介と浩之しか居ない。
それが、どうしても出てくる力仕事を詰まらせると思うんだ」
浩介 「ふむ」
浩之 「然り。それは我も悩んでいた」
夜の社長室で、俺と志摩兄弟は会議もどきを開いていた。
それぞれの意見を出し合って、仕事の流れをスムーズにしようというものだ。
凍弥 「だからといって男を雇うと面倒なことになりかねない。
これは前にも話したよな?」
浩介 「うむ。この屋敷は女性中心に動いている。
そこに男が入り込むと男女関係のもつれなどが生じ、
余計に仕事のペースが崩れる……と話したな」
それが問題なわけだ。
だからといって数を増やせばいいというわけでもなく、どちらにしろ詰まってしまう。
そこで悩んでいるわけなんだが……。
浩之 「数を増やしたところでサボる者が増えるのならば意味がない。
そもそもこの屋敷で働いている者達は、
親父が『やる気のある者』を探して集めた者達だ。
そこにいまさら適当な人員を雇ってみろ、あっと言う間に内側から腐っていく」
凍弥 「同感だ。だから今のままがいいとは思う。
けどさ、最近の書類の中に混ざってる使用人達の質問だとかの書類、見たか?」
浩介 「……婚期の話だな?」
凍弥 「そ。最近それが増えてきて、手間も増えてる。
目を通さないわけにもいかないから余計にな……」
そもそも気持ちが解る。
俺がここで仕事を始める前から居るとはいえ、みんなまだ若い。
まだまだ遊びたいって人も相当に居るだろう。
だってのに、外出の機会もあまりないからな……。
凍弥 「各自でもうちょっと考えてみるか」
浩介 「だな。そろそろ瞼が重い」
浩之 「今日は速く終わった方だ。同志も自室で寝るといい」
凍弥 「ん?いや待て、まだ残ってただろ。庭の壁の修繕の……」
志摩 『馬鹿者、それは我らがやっておく。あまり朧月に心労をかけるな』
凍弥 「浩介……浩之……」
志摩兄弟はニヤリと笑って、親指を立ててみせた。
俺は……悪いと思いながらもそれに感謝し、
駆けるようにして社長室を飛び出したのだった。
───…………。
凍弥 「椛っ!───っと……」
勢いよく自室に飛び込む───と、部屋の中は真っ暗だった。
つまり、椛は眠っていた。
いかんいかん、嬉しいからって眠ってるのを起こすのは可哀相だ。
凍弥 「………」
暗がりの中、穏やかに眠っている椛をじ〜〜〜〜っと見下ろしてから、
パパッと着替えを済ませて布団に潜った。
やっぱ、和室といえばベッドではなく直接敷きの布団である。
凍弥 「……おやすみ」
隣の布団で眠る椛に微笑みかけて、ふと窓を見やった。
その窓から差し込む月明かりが……やけに綺麗に思えた。
凍弥 「ああ、そっか……今日は満月だったのか」
どうりで明るいわけだ。
雲もひとつもない……綺麗な夜空だ。
凍弥 「………」
寝転がりながら、やがて眠りに落ちるまで───その夜空をずっと眺めていた。
───…………。
翌朝。
朝の日差しにゆっくりと目を開いてゆくと───そこに骨が居た。
凍弥 「おわぎゃああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!」
学生時代の性分か、朝早く起きる習慣が身に染みついていた俺の絶叫は、
その日の使用人全員の目覚まし時計になったそうだ……。
───……。
凍弥 「いきなりなんなんだよお前は!」
南無 『ほねっ、なにかねまったく。
人がせっかく困っている馬鹿野郎に提案を出しに来たというのに』
凍弥 「提案?」
目の前で茶をすすり、顎からだばだばとこぼしている骨を見やる。
……提案って……物凄く当てになりそうに感じられねぇんですけど……?
南無 『キミさ、アホだろ』
凍弥 「骨にアホとか言われる筋合いはない!!」
南無 『バカヤロこの野郎!!そんなに叫んだらこのおなごさんが起きるだろうが!!』
凍弥 「え?あっ───」
未だ眠っている椛を見て、俺は口を塞いだ。
危ない……休める内に休んでいてもらいたいから静かにしてよう。
凍弥 「で……なんで俺がアホなんだよ」
南無 『お前さ、今までなんのためにお節介してきたほね?』
凍弥 「なんでって……人を助けたいからだ」
南無 『だったら、おつりを望むのもいいんじゃねぇほねか?』
凍弥 「……?」
おつりって……?
てゆうかなにナチュラルに骨と会話してるんだ俺……。
でも不思議と嫌悪感とか感じないんだよな。
……まあ、信用してるわけじゃないけど。
もしかしたら弱ってる椛の魂を奪いに来た死神なのかもしれないし。
……言葉巧みに操られないように気をつけないと。
南無 『俺は神界以外なら天地空間全土に顔が利く骨ほね。
そして貴様はお節介魔人。地界には顔が利くほねね?』
凍弥 「そんなの知らないよ」
南無 『むう……ならば知り合いに電話をかけてみるのだ。
貴様が今までやってきたことが無駄でなければ、案外上手くいくものだ』
凍弥 「上手くいくって……だから何が」
南無 『【人の輪】を甘く見るなってことほね。
俺も天地空間に呼びかけていろいろやってやるほね。
まあ……最後の親心とでも思ってくれればいいほね』
凍弥 「……俺は骨の親なんぞ持った覚えはないが」
南無 『口の減らねぇガキほねねぇ……。まあいいほね、聖』
ビジュンッ───ポムッ。
骨が虚空に呼びかけると宙に渦が出来て、その中から少女が現れた。
───いつか見た、月の家系の少女だ。
聖 「ナムさん、呼んだ?」
南無 『うむほね。俺は今から天界空界冥界に回ってくるから、
そのおなごさんに月聖力を流しておいておくれでないかいほね』
聖 「相変わらず人使いが荒いね……」
南無 『フッ……幸せのために働くキューピッド……最高じゃねぇかほね』
聖 「骨のくせにキューピッドなんて騙らないでよ……」
南無 『言うことキツイよ聖ちゃん……』
ビジュンッ!!!
悲しそうな顔……まあ雰囲気だが、そんな雰囲気を醸し出しながら骨が消えた。
……何処に行ったんだろ……。
声 『ボディーーチェェーーーンジ!!!!』
ガカァアアアアッ!!!!
声 「ぬわぁああーーーっ!!!」
………………あ、あはは……おかしいなぁ。
どっかから骨っぽい声と、浩之の絶叫が聞こえたんだけど……。
凍弥 「あのさ、聖ちゃん、って言ったっけ?あの骨って何する気なの……?」
聖 「気にしないでいいです。なんの心配も要りません。
あの人……人?骨ですね。あの骨は間違ったことは絶対にしませんから」
凍弥 「滅茶苦茶不安なんだけど」
聖 「大丈夫って言ったら大丈夫なんです。信じてあげてください」
凍弥 「……あ、ああ……」
信じてって言われてもなぁ。
ガガッ、ブツッ。
凍弥 「うん?この音って……館内放送?」
椛に月聖力を流しているらしい聖ちゃんを見ていた時、
通信が通ったような音が室内に響いた。
声 『カンパニーで働く親愛なる諸君!
元気かねほね!?……いや、ほねはいいんだった』
凍弥 「……これって」
浩之の声。
だが、今の『ほね』ってのは……
声 『突然だが諸君らに永久外出許可を出すことにしたほね!!
無論、帰ってきたくないヤツは帰ってこなくてよろしい!!
男を見つけて愛に走るもよし!別の仕事を見つけるもよし!!
とにかく好きにしてよろしい!!以上!!』
ブツッ───
凍弥 「………」
聖 「ナムさん……また無茶で勝手なことを……」
椛の枕元で頭を抑える聖ちゃん。
……多分、相当振り回されてるんだろう。
───ドンドンッ!!
声 「同志っ!同志居るか!?」
凍弥 「おわっと!?」
自室のドアを叩く音とともに聞こえる浩介の声。
これはまあ……今の放送についての質問だろうな。
てゆうか俺、関係ないんだけど?
凍弥 「鍵はかかってないぞ」
声 「うむ!」
ガチャッ───バタン!
浩介 「どうなっているのだ同志!ブラザーが危行に走ったのか!?」
凍弥 「いや、俺もなにがなんだか解らない状況で……」
浩介 「ブラザーを押さえて取り消しを要求しようとしたのだがな……
放送室に行ってみればブラザーは気絶中、
かと思ったら我先にと辞職願いの嵐……。
どうする同志、もはやこの屋敷に居るのは少数……
我とブラザー、シルフィーに菜苗さん、オチットさんに葉香さんにメイさん、
そして……同志と朧月だけだぞ……」
凍弥 「全員辞職!?即決すぎやしません!?」
なんてこった……それほどまでに欲求不満だったのか……?
5分程度も経たずに全員辞職とは……
浩介 「最初はやる気があっても、この屋敷に缶詰状態が続けばな。
気持ちは解らぬでもない」
凍弥 「はぁ……どうするんだよこれから……」
ここに来てジ・エンド……?
冗談じゃない……。
浩介 「だがな、人数が減れば仕事が減るのも事実だ。
言っただろう?余計な書類が増えていたと」
凍弥 「そりゃそうだけど……どうするんだよ各所の掃除とか整理とかは……」
浩介 「ふむ……なぁ同志。思ったんだが……知り合いを呼び込んでみてはどうだろうか」
凍弥 「知り合いを?骨みたいなことを言うんだな」
浩介 「骨?なんのことだ?」
凍弥 「いや、こっちの話」
浩介 「……?ところでそこなお嬢さんは?」
話に夢中で気づかなかったのか、いまさら聖ちゃんに気づく浩介。
一方の聖ちゃんはにっこりと会釈して自己紹介をした。
浩介 「おお、これは丁寧に。我はこのレイヴナスカンパニー社長、志摩浩介である」
聖 「知ってます。ご立派ですね」
浩介 「なに、そうでもない。現に今、少々洒落にならぬ事態に陥っている」
聖 「……大丈夫です。自分が信じた道を突き進んでみてください。
そこにあのパパ───あ、いえ……ナムさんが加われば、
怖いものなんてありませんから」
浩介 「ふむ……?そのナムさんとは?」
聖 「もうそろそろ戻ってくると思います。もうしばらくお待ちください」
浩介 「ふむ、そうか。いやいや、若いのに立派なお嬢だ。感心に値する」
聖 「ありがとうございます」
にっこりと笑って、また月聖力を流してゆく聖ちゃん。
……ほんと、いい子だ。
こんな子が娘だったら幸せだろうな。
凍弥 「それで、知り合いってのは……誰だ?」
浩介 「うむ、貴様がお節介をしたものども……と言っても限られているが。
そやつらに交渉してみるのはどうだ?
知り合いならばものごとに遠慮などなくなるだろう」
凍弥 「知り合い……人の輪って……そういうことか」
骨が言った言葉を思い出した。
もし自分の知り合いと一緒に仕事が出来るなら、これほど楽しい時間はない。
それにその知り合い連中なら色恋沙汰でもめるなんてこと、そうそうないわけだ。
凍弥 「骨のくせに───っと」
……骨のくせに頭が回るんだな、って言葉を飲み込んだ。
別にアレコレ言うことはないだろう。
なんとなく悔しいけど、あの骨は頭の回る骨だ。
脳味噌もないのにどうやって思考展開してるのかは理解の域を脱してるけど。
凍弥 「じゃあ思いつく適当なやつらにでも連絡回してみるか。
……っていっても、
これだけ時間が経ってりゃみんなそれぞれの仕事持ってるだろうけど」
浩介 「だろうな。だが偶然仕事を左遷されたとかもあるやもしれんぞ?」
凍弥 「物騒なこと言うなよ……」
浩介 「なにを馬鹿な、同志……。
現に我らがそういう状況下に置かれているのを思い出せ」
凍弥 「……物騒は極々身近なものってことか……」
浩介 「そういうことだ……」
はぁ。
出た溜め息はほぼ同時に消えてゆきましたとさ……。
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