───創造神VS破壊神───
───…………まあ、ね。
予想しなかったわけじゃない。
何度も思い知ったことじゃないか。
『俺は死ねない』って。
南無 『っ……』
体が再生された。
だが死神としては力無く、せいぜい地界人くらいの生命力だ。
なんの嫌味か、即効で再生した体に残ってる余力はそんなものだった。
南無 『は……あ……』
見渡す景色は破壊の爪痕の景色。
まるで焼け野原をさらに壊したようにえぐれている。
声 「あっ……!」
南無 (……?)
聞こえた声に視線を向ける。
そして見た。
そこに立っている悠介と浅っちとルナっちを。
浅美 「あの骨です!あの骨が死神と争ってて……!」
浅っちが叫ぶ。
その言葉を聞いた悠介が顔を顰め、舌打ちをするように俺を睨みつけてきた。
……言われなくても解る視線の言葉が感じ取れる。
『てめぇがここをこんなにしたのか……!』と。
誤解だ、と言おうとした。
けど……弁解しようとして馬鹿らしくなった。
南無 (おかしいな……。どうして俺……こんなに疲れてまで……)
……生きてるのかな……。
そう続けた時、崩れた地面を破壊して現れるカタチがあった。
……レオだ。
レオ 「ガァアアッ!!グゥウ……!!おのれ……おのれおのれおのれぇえええっ!!!」
苛立ちは当然だ。
強くなったと思ったプライドを再び破壊されたのだから。
それも、自分が支配していると確信していた『弦月彰利』という『俺』に。
悠介 「───お前らが原因か。まったく邪魔くさい……!
ルナ、浅美、出来るだけこの場所から離れろ。あいつらを消す」
浅美 「え───あ、待ってください!あの骨はわたしを逃がしてくれて───」
ルナ 「ぐずぐずしないのっ!ほら行くよっ!」
浅美 「ま、待───きゃあっ!!」
───ブワァッ!!
……何かを叫ぼうとしていた浅っちがルナっちに連れられて、空に消えてゆく。
そして俺はその目を見るのだ。
明らかに俺を憎しみの目で睨む、かつての親友の目を。
南無 『………』
これは……漠然としたものだけど。
きっと俺は次に破壊されれば復活できないだろう。
なんとなく感じてる。
いや、本当はずっと昔から知っていたのかもしれない。
───復活は無限じゃない。
永く生きた生命にはいつしか欠陥が現れるものだ。
それが俺の場合、無限再生の部分に現れた───ただそれだけだ。
どこで狂ったのかは解らない。
けれどもそれは、何度も復活する上で感じていたことだ。
いまさら驚くことでもない。
南無 『でも……』
でも。
俺は今、生きたがっている。
疑問が薄れる過程でそう思えた。
自分の存在意義を夜華さんのためにって思ったのは、
一時の感情によるものじゃないと思えた。
だから死ぬわけにはいかない。
無様でも生き延びたい。
───それでも俺は死ぬのだろう。
かつての親友に憎まれながら、その親友の手によって。
だったら……ああ、それもいいのかもしれない。
これが本当の死に繋がるのなら、あの時消滅させてしまった借りが返せるのだから。
───どうしてこんなにボロボロになりながらも生きてるのか。
そんな自分への疑問には……答えなんて必要ないんだ。
生きてるんだから生きてる。
それで十分だ。
大げさな答えなんて要らないさ。
悠介 「───」
レオ 「───……」
南無 『ぬう……』
ハタから見れば三竦みのように見えるこの状況。
実はかなり複雑でありそうで単純である。
俺の敵はレオだけ。
レオの敵は俺と悠介。
悠介の相手は俺とレオだろう。
もちろん戦略を考えれば、ふたりとも見るからに弱ってる俺を狙うだろう。
って……え?瞬殺確定?
……えーと……いやーーーん!!!
死にたくねぇって思った途端にこれですか!?
南無 (けど悠介を見殺しには出来ないし……ああ、ほんと馬鹿だ俺)
自分を殺そうとしてる親友を守ろうなんて、何考えてんだか。
でもそれでいい。
俺が生きてきた100年余りの全ては悠介のための人生だった。
それから数百年余りがいろいろなやつらのため。
それは楓巫女のためであったり小僧のためであったり、
およそ自分を除いた知り合いのために生きた。
つまり───俺は自分のために生きていなかった。
それを疑問に思ったことはあまり無い。
何故かといえば、心が砕けてたからだろう。
今思えば本当に馬鹿な話だ。
南無 『しかし……まあその、なんでしょうね?
死ぬことを想定していろいろとモノローグしてた自分って相当恥ずかしいね』
先程の消滅状況を考えると、もう恥ずかしいのなんのって。
所詮俺ってこういうヤツですか?
まあいい。
今は目の前のこの状況をなんとかしなけりゃならん。
だがそれはどんな手を使ってでもというわけじゃあ……ねぇぜ!?
禁止項目?は『悠介に俺が弦月彰利だということを教える』ことと、
『隙をついて悠介に狼髏館回頭閃骨殺をキメる』とかそういうこと。
標的はレオのみだ。
というわけで、だ。
南無 『ヘイそこのボーヤ!まず先にレオをブッ殺!ほね!』
悠介 「黙れ」
気さくに声をかけて、話の流れをって早ッッ!!
人の話聞く気が全くねぇ!!
南無 『馬鹿かてめぇほね!俺はてめぇを敵だとは思ってねぇほね!
俺の標的はレオだけなんだから気楽にいこうというココロほねよ!』
悠介 「俺が敵じゃない?へぇ、そこまで強さに自信があるのか」
南無 『【敵じゃない】の意味が違うほねぇええええええええーーーーっ!!!!!』
ああなんてこと!
言葉の意味のすれ違いが多大な誤解を大量生産しちまってます!!
もはや血管ムキムキな『寝言は寝て言えマン』には、
何を言っても誤解に終わる気さえしてきます!
悠介 「───最初から全力で行かせてもらう。“創造の理力”(」
南無 『いきなりですか!?あ……てゆうか───え!?ちょっと!
なんで俺を睨みながら発動させんの!?
俺どっちかっつーとキミの味方なんですけど!?』
悠介 「誰の味方でもないんだろ?お前が言ったことだ」
南無 『や、あの……気が変わったから訂正させて?ってのは……』
悠介 「寝言は寝て言え」
やっぱ言われました。
さすが寝言は寝て言えマンです。
とかなんとか思ってる内に黄昏が創造される。
俺は───
コマンドどうする?
1:独眼鉄をひとり引っ張り出す力なら残ってる
2:ハラショーサンボ!セルゲイ・タクタロフの叫びを真似しながら玉砕覚悟の攻撃
3:逃げる
───当然3。
残り少ない余力を独眼鉄なんぞに使ってたまるか!
どうせ呼び出してもバク転と命乞いしかしねぇんだ、呼ぶだけ無駄!!
セルゲイ・タクタロフの玉砕攻撃は問題外!
覚悟する時点で玉砕してるんじゃ夢がねぇ!!
というわけで、まずは黄昏の草原の草を一本抜いて、と。
南無 『鳴り響け!俺のメロス!』
ピッキィイイン!!!
闇力を流し込み、草をピンと硬質化させる。
それをシュピンと放ち、レオを攻撃!!
レオ 「ぬっ!?」
パァンッ!
レオが振るった腕が、硬質化させた草を粉砕する。
悠介 「!」
気づかれんように極力無拍子で放ったから悠介には気づかれてない。
それどころか、悠介にしてみればレオが急に動き出したようなものだ。
当然注意は俺からレオに移る。
そうして始まるふたりの攻防……クォックォックォッ、これぞ頭脳プレイというもの。
南無 『戦いってのはなにも力だけじゃないんだぜ?───ここさ!ここを使わねば!』
コツコツと人差し指で頭骨を突付く。
これぞ知性の神の力を授かったキン肉マンスーパーフェニックスの知性的戦略ぞ!
……いやまあ、結局は逃げのための戦略なわけですが。
悠介が危険になったら俺がなんとしてでも庇うが、それまでは頑張ってもらいませう。
てゆうか……ね。
悠介 「我紡ぐは破壊の光。無限の創造に抱かれ、その刹那を思え」
悠介強すぎ。
創造の理力って絶対に敵に回したくない能力だよなぁ。
現に今、ガトリングブラストとアルファレイドカタストロファー、
そのふたつを合体させたようなものを平然と撃ちまくってるし。
つまりアルファレイドの高速連射。
ありゃあおめぇ……アレだ、いくら死神だって一溜まりもねぇぜ?
まあそれを鎌で破壊しながら疾駆するレオも相当だけど……あ、くらった。
レオ 「おのれぇっ!!人間の分際で貴様!!この俺に傷を!!」
しかしその傷も月生力で消される。
でもなぁ……あいつ本当に俺の記憶と経験持ってるのか?
色濃い死神のくせに、『神側』の能力をそんなに使ったら……
レオ 「ア、グ……!?」
ほれみろ、無理が出てきた。
死神なんぞが癒し系の能力を連続して使えるわけねぇだろうが。
死神は死神らしく自分の自己治癒能力に頼ってりゃいいものを……
レオ 「小癪……小癪な!“運命破壊せし漆黒の鎌(”!
死神を蝕む我が神力の法の戒めを解け!
死神が神の力を使えぬなど───そのようなものは虚像として消えろ!!」
漆黒の鎌が黒く輝く。
その刹那にレオの表情は変わり、先程までの苦悶の表情が消える。
相反する死神と神の力の『相反』の部分を破壊しやがったようだ……。
ほんと無茶苦茶だ……レオも、悠介も。
レオ 「許さんぞ人間!貴様は楽には殺さん!!」
悠介 「そういうことは近づいてから言ってみろ!」
悠介が再び創造する。
……とまあ、悠介の言った通り、レオは悠介に近寄れてない。
創造される光の弾幕の所為で近寄れないんだ。
だが───俺がレオなら実行する行動はひとつ。
レオ 「近寄れないと思っていたのか?」
悠介 「なに───ッ!?」
瞬時だ。
一瞬にして悠介の背後に現れたレオが、その鎌で悠介の背を切り裂く。
南無 『悠───ゲェーーーッ!!!』
それは助けに入ろうとした途端だった。
背を切られ所為で体勢を崩したため、
虚空に創造されていた光が散り散りに飛んできたのだ。
南無 『お、おわぁあーーーーーっ!!!!!』
しかも何故か俺一直線。
慌てて逃げようとしたが───ドガァアアアアアアアアンッ!!!
南無 『ほねぇえええーーーーーーーーっ!!!!!!』
……間に合いませんでした。
だが後ろに跳んだことが幸いし、俺は光に吹き飛ばされ、
約束の木に叩きつけられるだけで済んだ。
南無 『う……お……』
しかし意識が飛ぶ。
死神でも気絶するんか……という疑問とともに、俺の意識はぶっつりと途切れた。
───バシャアッ!!
悠介 「がっ───!ぎ、あ……!」
背中が裂けた。
それだけは、痛みが現れる前に理解した。
手を回せば、自分の背骨に触れることが出来る。
してみたわけでもないのに、それが確信できた。
悠介 「あ、……あ……!」
けど笑える。
レオはこんなもので決着が着いたかいうかのように笑っている。
笑いたいのはこっちの方だ。
レオ 「……フン、梃子摺らせてくれたな。だがそれもここまでのようだ」
悠介 「か、は……っ!あ───!あはは───はははははは!!!」
レオ 「なに───?」
悠介 「我紡ぐは癒しの希望。舞い降りる光は、塞げぬ傷など皆無なり」
創造した光が、俺の傷を消す。
それを見たレオは、明かに驚愕した。
───そう、この世界は創造の世界。
創造できないものなんて無に等しい、唯一無二の絶対空間だ。
悠介 「何度だって言ってやるさ……お前は死ぬ」
レオ 「ぐっ……!!」
悠介 「俺は人という存在にして『死神』と言われた男だ。
さあ……より紅蓮へと染まれ、死神」
レオ 「ほざけぇっ!!」
レオが鎌を振り上げる。
そして目を深紅に染めた。
レオ 「運命破壊せし漆黒の鎌(!!
この創られた世界の理を───『創造できる』という運命を破壊しろ!!」
悠介 「なに───!?」
あいつの鎌はそんなことまで出来るのか───!?
ヤバイ、この世界を破壊されれば、俺には反撃の気力は───
悠介 「───……」
急がなきゃいけないっていうのに、意識がブッ飛んだ。
俺はその世界を別の視界で眺めているような気がした。
けど、イメージだけはどんどんと流れてくる。
それは……黄昏だった。
声 『……手を伸ばせ。そして……私を受け入れろ』
なに……?
声 『早くしろ、この世界を破壊されてもいいのか』
お前は誰だ───
声 『……この状況でそのようなことを訊く、か。
やれやれ、どうやら思った以上に緊張感の無い宿主らしい』
宿主───!?
てことは……
声 『私の名はルドラ=ロヴァンシュフォルス。晦悠介、汝の深淵に住まう死神なり』
ルドラ……
レオ 「はぁっ!!」
キィン───バッシャァアアアアン!!!!!
悠介 「っ……!?ぐああっ……!!!」
約束の世界が破壊される。
それでも頭の中には言葉が響く。
声 『もたもたしてるからだ。さあ、私を受け入れろ。
この状態で勝つには、それくらいしか方法が無い』
悠介 「っ……とか言って……!
俺の体を乗っ取ってレオと一緒に俺の知り合いを殺す気なんだろ……!!」
声 『それが汝の願いなら、聞いてやらなくもない』
悠介 「やめろっ!冗談じゃない!」
声 『……汝が言い出したのだがな。まあいいが』
悠介 「………」
声 『………』
悠介 「お前が……俺に協力しようとする理由を聞かせてくれ……」
声 『私は汝が気に入っている。それだけだ』
悠介 「………」
驚くような単純な理由だったけど。
そこに、偽りの一切は感じられなかった。
だから……俺は思考の中で手を伸ばし……その手を掴んだ───途端。
ルドラ「───ああ、あとは任せろ。汝はしばし休憩をとるがいい」
ルドラの意識と俺の意識が入れ替わった。
その刹那に、服や体がルドラのものへと変異する。
その時に感じた死神……ルドラの気配だが……
今まで出会ってきたどんな死神の気配よりも、穏やかなものだった。
レオ 「死神───か」
ルドラ「ああ。汝を滅ぼす存在だ。心して来るといい」
レオ 「ほざけ!死神が現れたからといって、この状況は変わらん!
貴様が作った世界は壊れ、一度否定されたものは創れぬのだ!」
ルドラ「そうかな?」
レオ 「なに……?」
ルドラが小さく口を歪ませた。
そして目を染める。
赤く、紅く、朱く、緋く。
ルドラ「さあ、始めよう。黄昏の創造を」
レオ 「創造……?ハッ!懲りずに創造に頼るか!笑わせてくれるわ!」
ルドラ「発動せよ我が鎌───“黄昏を抱く創造の世界(”」
ルドラが言葉を言い放つと、その場の世界が再び黄昏に染まる。
破壊された筈の世界が創造された。
レオ 「馬鹿な!こんなことが……!?」
ルドラ「私の思考の辞書に『想像は既存を超越する』という言葉がある。
既存があるからこそそれを上回る『想像』をし、
それを超越する『創造』が出来る。
それはたとえ、死神が個々に所持する鎌とて同じ。
理解せよ、そしてその身に刻め。これこそが真の『創造』なり」
レオ 「……っ……だが!これで戦局が変わるわけではない!!
圧倒者は依然この俺だ!貴様の運命はここで潰えることとなる!!」
ルドラ「フン……私が気に入っているいい言葉を教えてやろう」
レオ 「なに……?」
ルドラ「───寝言は寝て言え」
視界が染まる。
紅から真紅、真紅から深紅へ。
そして───光が創造される。
レオ 「神屠る閃光の矢か!?馬鹿め、馬鹿のひとつ覚えとはこのことだ!」
ルドラ「見紛うな、戯け。私の創造は既存にして既存にあらず」
レオ 「フン!なにを訳の解らんことをほざいている!
貴様は死ね!鎌よ、彼の者を切り刻む刃となれ!!」
ルドラ「───まずは蝕みを味わえ。“死生担う毒巨槍(”」
光は巨大な槍となり、レオの腕を貫いた。
レオ 「ギッ……!ククッ、馬鹿め!この程度の傷などすぐに治癒を───」
レオが自分の腕に月生力を浴びさせる。
……が、傷は治らない。
レオ 「な……に……?」
ルドラ「生憎だな。この巨槍で受けた傷は、この槍でのみ治せるものだ」
レオ 「貴様……!!!」
ルドラ「精々足掻いてみせろ。手加減はしてやらぬ」
冷たく言い放つと同時に、虚空に光を創造する。
レオ 「───!」
レオは構え、一気にルドラへと走った。
───速い!
そう思ったが───
ルドラ「───“聖災を誇る無情の兵槍(”」
軽く翻した漆黒のマントの中から、一筋の光が飛び出した。
レオ 「なっ───!」
レオは形振り構わず走ったのか、今更勢いを止めることも出来ず───
レオ 「グ───ォオオオオオッ!!!!!」
───!
確実に当たると思った光を、レオは跳躍して避けてみせた。
そしてその勢いのまま、ルドラに向けて鎌を振る。
レオ 「仕留めたぞ!くたばれ!」
ルドラ「決断には速いな。即決も時に残酷だ」
ボシュンッ!!
レオ 「ギッ!?」
レオの左腕が、さらに放たれた光の槍によって破壊された。
微塵も残さず、その場には何も残らない。
レオ 「キ、サマ……!!」
ルドラ「死神をも破壊する、真たる意味での災い。
聖なる槍の災いの一撃の味はどうだ?貴様を弦月彰利から弾き出すのは容易い。
だが、貴様には自分の意思でその体から出てもらうぞ」
レオ 「ほざけ!傷つけられ、再生せぬ腕が消えたところで戦況は───」
ルドラ「見極めることも誇りだ。貴様は、それを見誤った」
光が創造される。
レオ 「フン……!『再生せぬ』と決められているのなら、その運命を立ちきればいい!
“運命破壊せし漆黒の鎌(”!!」
レオは鎌を振りかざし、己の千切れた腕を切った。
その刹那、その腕は何事もなかったかのように再生する。
レオ 「ふはははは……!!俺は……誰にも敗れぬ至高の存在……!貴様などに……!」
ルドラ「運命破壊せし漆黒の鎌か。面白いものを見せてもらった」
レオ 「ああ───もっと面白くなるよう、すぐに殺してやる」
レオが跳ねる。
ルドラもそれに合わせ、跳躍した。
レオ 「何度だって破壊してくれる!
“運命破壊せし漆黒の鎌(”!!この創造の世界を断ち切れ!!」
ルドラ「───“創造の理力”(」
レオが虚空に向けて鎌を振る。
それでこの世界も破壊されるかと思った。
───けど。
レオ 「な……に……?何故だ……何故破壊できない……」
その後には、レオの困惑した声だけが響いた。
ルドラ「抗うな。もう見せてもらった()」
レオ 「なに……!?」
ルドラ「貴様がその鎌で世界を破壊することや、運命を破壊することを見た。
……一度見れば、それ以上の力を想像し、創造することは容易いだろう?
想像はどんな破壊をも上回る。故に『想像は既存を超越する』。
残念だったな、一度見たものは通用しない」
レオ 「かっ……ぐ───!!おのれぇえええええっ!!」
黄昏の草原に降りるのと同時に、レオは手に光を込めた。
アルファレイドだ。
ルドラ「“五肢輝く光の戦槍(”」
ルドラは放たれたアルファイドに対して、大きな光の槍を放った。
それが五つの閃光となり、アルファレイドを破壊する。
レオ 「馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な!!
こんな筈はない!!俺は───俺はレオ=フォルセティーだぞ!!
このようなことが───!!」
ルドラ「勘違いをしているようだから言ってやる。
汝の力は『弦月彰利』が高めたものであり、
汝はそれに肖(っているだけにすぎない。
理解せよ、所詮汝は鎌が使えねば弦月彰利にも及ばぬ存在だ」
レオ 「ふざけるな!俺はゼノより強い!
それが、今更弦月彰利ごときに破れるものか!」
ルドラ「───ほう。ならば、試してみるか」
レオ 「なに───!?」
ルドラが目を閉じる。
刹那、黄昏の景色が一瞬だけ黒く染まり、すぐに黄昏へと戻る。
そしてその場に───
レオ 「な……」
ゼノ 「………」
ゼノ=グランスルェイヴが、創造された。
レオ 「貴様……底無しかっ!?死神を創造するなど……!!」
ルドラ「この黄昏の世界では体力の消耗など皆無。
そうなるように創造された世界なのだからな。
さあ、勝ってみせろ。汝の言葉が虚言か否か、私に見せてくれ」
レオ 「フン───!!望むなら何度でも破壊してくれるぞ!」
ゼノ 「……くだらん」
ゼノが揺らめく。
レオ 「漆黒の鎌よ!我が眼前の敵を滅ぼせ!」
ヒィンッ!!
レオの鎌が振られる。
ゼノは避けることもせずそれを身に受けると、それを無視してレオの腕をもぎ取った。
レオ 「ガァッッ!?グァアアアアアアアッ!!!!」
ゼノ 「我が身、元より漆黒。貴様の心内が闇であればあるほど、我には通用せぬ」
レオ 「キサマ……!!」
ゼノ 「創造主、我を消せ。こいつでは役不足だ。
やはり我は弦月彰利との決着しか望まん。
我と弦月彰利の決着はヤツの自爆による相打ちに終わったようなものだ。
それでは我は納得できんのだ。……そう、感情を手に入れた今こそ。
我はヤツと全力で戦いたい。……もう一度言う、貴様では役不足だ」
レオ 「な、に……!?ふざけるな!!俺が、俺が役不足だと!?」
ゼノ 「接触を経て理解した。貴様は弦月彰利の虚像にすぎん。
貴様では我を楽しませることなど不可能だ」
レオ 「っ……!!」
ギリ、と歯を噛み締めるレオ。
だが、ゼノの言葉はウソじゃあなかった。
漆黒を持つ者と漆黒そのもの。
その属性は、あまりにも悪すぎた。
ゼノ 「貴様が弱いとは言わん。が、相手が悪かったようだ」
レオ 「ほざけ!“運命破壊せし漆黒の鎌”!!
ゼノに攻撃が通じぬという運命を───」
ゼノ 「───戯け」
ビシッ───パキィンッ!!
レオ 「ガ、アアアアアアアアアアアッ!!!?」
ゼノが閉じていた目を見開くと、レオの持つ漆黒の鎌が破壊された。
レオ 「グ、ア……!!馬鹿な……!何故……!!」
鎌を破壊されることは死神自体にも影響があるのか、レオは苦しげに頭を押さえている。
ゼノ 「闇を持つというのはこういうことだ。
貴様は所詮、長く続いた闇の記憶を鎌に託しただけにすぎんようだ」
レオ 「なん……だと……!?ふざけるな、デスティニーブレイカーは俺の……!!
ふざけるな……!そのようなことがあるわけがない……!!
俺の鎌は弦月彰利が見てきた貴様の像の成れの果てだとでも……!」
そういえば、随分前にルナが言っていた。
死神とともに成長する『鎌』は、その主の記憶や生き方によって己の名を刻むって。
ルナの鎌は、ルナが異端として成長した故に『異端の三日月鎌(』。
そして……レオの鎌の名は『運命破壊せし漆黒の鎌』。
その『運命』とは……彰利にとって、破壊してこそ先の見える『ゼノ』だったんだ。
……なるほど、その漆黒自体に、影である鎌が勝てる道理が無い。
レオ 「馬鹿な……!!
俺は……俺は弦月彰利を超越したからこそここに立っているんだぞ!
こんな馬鹿な話があるか!俺の鎌が───あいつの溜めた闇だと……!?」
ゼノ 「貴様は……弦月彰利の影にすぎない。それだけだ」
そう言って、ゼノはルドラによって無に戻った。
レオ 「……屈辱だ……!これほどの怒りを覚えたのは初めてだぞ……!」
ルドラ「認めてしまったのが悔しいか?……違うな。
今まで気づかなかった汝が愚かだっただけのこと。
汝はただひとつとして、己の力を持っていなかったのだからな」
レオ 「黙れっ!ただの属性の相性ごときで優劣を決めるなど───認めるものか!!」
ルドラ「そうか、ならば試してやる。全力で抗って見せろ」
ルドラはそう言うと、黒いマントを広げて目を見開いた。
ルドラ「───、……、───」
ルドラが言葉にならない言葉を唱える。
恐らくそれは『人』の言葉ではない。
『意味』だけが流れてきて、それが虚空にゆっくりと消えてゆく。
『我は誘う、神の名、死神の名、果てに見える主の御名を』
その言葉とともに空の一部分に円を重ねるように、
文字───呪文のようなものが弧を描いてゆく。
それが完全に円を結ぶと、その呪文がゆっくりと回転を始め、中心の円に光がこもる。
ルドラ「この槍は少々創造に手間がかかるが……なに、逃げても構わん。
汝にそれだけの覚悟があるどうかの判断など汝が決断することだ」
レオ 「挑発のつもりか……?相手の攻撃を避けるなど戦闘においての基本中の基本だ。
それを恥じるなど……戯けのすることだ!」
レオが構えつつ退く。
それに合わせるように円を描く呪文も傾く。
ルドラ「さあ、存分に抗え───“魔剣を砕く主神の輝槍(”」
───刹那、寒気を感じた。
それは恐らくレオもだろう。
レオ 「───!」
高い空に浮かぶ円を描く呪文から何かが放たれたと気づいた時には───
レオ 「は───う、あああああああああっ!!!!」
意識を破壊せんばかりの轟音が響き、大気さえも震わせる光が空を裂いていた。
レオの目に明らかな驚愕が浮かび、あいつは無我夢中でそれを避ける。
だが───
レオ 「が、ぐ……!」
避けられたのは半身。
避けられなかった半身は消え去っていた。
ルドラ「……抗えなかったか。意思が弱いな」
レオ 「黙れ……黙れぇっ!」
レオが体を再生させる。
そして間を置かずに地を蹴ったが───無謀だ。
いや……この死神を前にしては、どこに立とうが無謀なのかもしれない。
ルドラ「“三十矢の地槍(”」
レオ 「───!!」
光が放たれる。
いつか見たバケモノみたいな破壊力の槍───ゲイボルグだ。
しかしそれを踏まえた上での疾駆だったのか、レオは地を蹴り放って宙に舞った。
レオ 「もらったぞ!創造者よ!」
そのまま弧を描くようにルドラに襲い掛かるレオ。
だが───放たれた槍が無数の矢となって舞い戻ってくる。
レオ 「っ!?チィイッ!!」
しかしレオは構わず鎌のような腕を突き出す。
ルドラ「こと戦闘にかける本能は宿主譲りか。だが……残念だったな」
ルドラがその攻撃を軽く避け、再びマントを翻す。
その瞬間、レオの表情が凍りつくのを見た。
ルドラ「“不避死を齎す破生の竜槍(”」
閃きは刹那。
目にも留まらぬ速さとはこういうもののことを言うのだと理解した。
気づいた時にはレオの体は飛翔する光に貫かれ、
やがてその背後から降り掛かる三十矢に穿たれてゆく。
名は同じでも性質が違いすぎる。
不避死……死を回避することが不可能という意味をもったゲイボルグはまさに竜槍。
鋭い竜の牙のような一閃が、相手の回避速度を上回る速度で対象へと突き刺さっていた。
確かに『生を破壊する』という名が示す通り、当たれば普通は絶命する。
だが───
レオ 「がはっ!ぐっは……!はっ……」
レオは生きていた───いや、生かされていた()
ルドラ「急所は外してやった。他の生き物なら死ぬだろうが、死神なら別だろう。
忠告をしてやる……その体から出るのだ。
人間に取り憑いた状態で勝てるほど私は弱くはないぞ」
レオ 「こんな……こん、な……こんな馬鹿なことが……!
お、俺はレオだ……!俺は……俺はぁあ……っ!!」
レオの耳には何も聞こえていないようだった。
ただ壊れたオモチャのようにうわ言を呟くだけだ。
だが───その目に光が戻る。
レオ 「これは悪夢だ……!ならば悪夢ごと貴様を消してくれる!!」
レオがそう叫ぶと瞬時にその体が再生し、レオは再び黄昏の地を蹴った。
物凄い速さだ───が、ルドラは動こうとしない。
ゆったりとした動作で向かってくるレオを見て、ただ呟いた。
ルドラ「先程、汝が言ったな。『攻撃を避けるのは戦闘において基本中の基本』だと。
なるほど、それは全く理に叶う言葉だ。
それなら私も相応の理を以って挑ませてもらおう」
レオ 「ハァッ!!」
レオの鋭い手刀がルドラに向かって振るわれる。
危ない───そう感じた時には既に皮一枚くらいの距離でゾボガガガガガガ!!!
───……え?
レオ 「ゲハッ……!?」
俺とレオの驚愕はほぼ同時。
なにが起こったのか解らなかったのだ。
しかしレオの体に突き刺さるその槍が全てを物語っていた。
ゲイボルグ……三十矢の方のゲイボルグが突き刺さっていたのだ。
ルドラ「私が用いる理。それは『自分が優位な戦いをすること』だ。
相手を近づけるまでもない。近づく必要もない。私は私の距離で戦えばいい」
ルドラがパチンと指を鳴らすと、レオに突き刺さっていた三十矢が消える。
その行動がレオのプライドをズタズタにすることを知っていて、だ。
レオ 「〜〜〜ッ!!貴様アァッ!!何故……矢を消した!!」
ルドラ「死神といえど慈悲はある。それだけだ。
もう一度忠告する……その体から出るのだ。消滅させられたいか」
レオ 「やれるものならやってみろ!俺が死ねば宿主も死ぬ!
それはたとえロンギヌスで俺を貫きだしたところで変わらん!!
宿主の魂の半分は俺なのだからな!半分の魂でいつまで生き延びられるかな!?」
ルドラ「それは汝とて同じだろう。私が聞きたいことは寝言ではないぞ。出ろ、と言った」
レオ 「フンッ……御免だな。貴様の指図を受ける気など元より皆無。
それに俺も長生きはしたいからな。そうなれば貴様が死ぬしかないだろう?」
ルドラ「……算段がある、という顔だな」
……確かに余裕とまではいかないが、レオは口を歪ませていた。
レオ 「貴様は宿主を殺せないんだろう?だったら俺は死を恐怖する必要はない。
何度削らせようが向かい、最終的に貴様を殺せればそれでいい」
ルドラ「…………───少しはまともな言葉を期待した」
ルドラの目が深紅に染まる。
それとともに黄昏がより濃く染まり、赤色が増す。
しかしレオはその景色の変わり目に紛れるように転移し、ルドラの背後に現れた!
レオ 「命は貰ったァッ!!」
ドゴォンッ!!
ルドラ「づ───……!」
腹を素手で穿たれる。
レオの腕はルドラの腹を貫通し、血を撒き散らかせた。
レオ 「───ここまでだ!!」
その貫通した腕を引っ掛けるようにルドラを持ち上げ、
黄昏の草原へと勢いよく叩きつけるように投げ捨てた。
ルドラ「グッ……!」
レオ 「トドメだぁっ!!」
狂喜の笑みというのはこういうものだろう。
レオは今までの表情が信じられないくらいに表情を歪ませ、その腕を振り上げる。
レオ 「やはりッ……やはり勝利の女神とやらは俺に微笑んだようだなぁっ!!
貴様などは俺の敵じゃない!!消えろォッ!!」
その言葉。
その戯言を耳にして、俺は呆れた。
そしてただ冷静に目の前の死神を睨んで呟く。
ルドラ&悠介『寝言は寝て言え』
───と。
その刹那、俺とルドラの意識が融合した。
見る景色は一体化し、自分の中に信じられないくらいの力を感じることが出来た。
俺の行動がルドラの行動となり、ルドラの行動が俺の行動となる。
そんな俺達が同時に出した最初の意志は───
ルドラ「“聖災を誇る無情の兵槍(”」
───これだった。
瞬時に驚愕の色に染まるレオの表情だったが、
その体に光が突き刺さるのと同時に、景色の遠くへと弾かれた。
レオ 「ギアッ───!!ぐッ……ば、馬鹿な……!」
弾かれたレオの視線の先には倒れゆく彰利。
つまり───強制分離は成功したのだ。
レオ 「貴様……なにをしたのか解っているのか!?
こんなことをすれば宿主の寿命が───」
ルドラ「……つくづく愚かしい。貴様は弦月彰利に宿っていた死神だろう。
弦月彰利が寿命を選ぶより貴様に取り憑かれたままで居ることを選ぶと思うのか?
そう思うのならばそれでもいい。
だが───貴様に弦月彰利の死神で居る資格はないな」
レオ 「くっ……───!!おのれぇええっ!!」
レオが飛翔する。
向かうは創造を司る死神のみ。
だがレオは思うのだろう。
この無謀な飛翔───否。
この死神と対峙したことこそ、絶対なる敗北条件だったのだと。
怒りに我を忘れたレオが、その虚空に浮かぶ呪文の円に気づくわけもなく───
ルドラ「せめて跡形も無く消えよ───“魔剣を砕く主神の輝槍(”」
巨大な光は放たれる。
気づいた時には遅い───あまりにも遅すぎた。
叫ぶ暇も無く光に飲み込まれ、その輝きの中で───レオは消滅した。
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