【ケース08:弦月彰利/お空の下で】

 もぐもぐもぐもぐ……

彰利「モグモグゥ、オーダンゴッテオイシイナー」
悠介「前から思ってたんだが、それはなんなんだ?」

 悠介に貰った団子を食いながら言った言葉に悠介が反応した。
 なに? なにと言われたら───

彰利「八頭身はやりすぎたんだ」
悠介「よし解らん」
彰利「それでいいんだよ、きっと」

 青空の下で食うメシは美味ェです。
 このフェンス越しに流れる風もまたステッキン。

彰利「ところでもし風を視覚化出来てたなら、
   屋上に吹く風はきっとところてんみたいなことになってたと思うんだ」
悠介「怖いわ!」

 屋上の東側の出入り口。その上にどっかと座り、足をぷらぷらさせながら。
 こんなお昼もたまには良しでしょう。
 と和んどったところへ、対面して存在する西側の出入り口の扉が開かれた。

彰利「フッ……どうやらとうとうカオスの扉が開かれちまったようだぜぇ……!」
悠介「お前はいきなり何を言っているんだ」

 あら冷たい。
 でも意味ありげな言葉って時たま使いたくならぁね。
 そげなわけで、扉の先から現れた三人のカオスを見た。……中井出どもだった。

博光「あ、いたいた。おーーい! このパンクズやるからおにぎりよこせーーーっ!」

 そしてトレードにもなっちゃいなかった。

彰利「いきなり無礼にもほどがあんデショこのタコ! なーんば抜かしよっとか!」
博光「フホォーーッホホ!? あぁんらご挨拶! 無礼ならば元から礼が無い!
   そこに程度ってもんを求めることになぁんの意味がございまして!?」
彰利「くっ、正論だ」
悠介「説き伏せられんなよあんな言葉で!!」

 中井出の一歩を皮切りに、緑ヘヤーのおなごと木吉さんが前に出る。
 ……つーか、あれ? 木吉さん顔色悪くない?

和哉「俺に米をくれ! 頼む! 米が無いと、俺は……俺はぁああっ……!!」
彰利「米ですって!? 貴様ァアア……人々が過去、
   この米の一粒のためにどれだけご苦労なされていたか! 知っているか!」
博光「知らないねぇ」
謳歌「それがどうした」
彰利「コノヤロォオオ!! 許さねェェェェ!!」

 無駄に凶徒の拳をやりつつ、屋根からトーンと飛び降り、屋上へと降り立つ。
 つーかあの緑頭さん、おなごなのにノリのいいこと! ステキ!
 って、あれ? 立ち上がれねー。足……痺れてる。
 そういや高いところから飛び降りるなんて、随分久々だった。

謳歌「? 着地の格好のまま動きませんよ?」
博光「きっと風が吹いて謳歌のスカートがめくれ上がるのを待ってるのよ」
謳歌「私の電圧は最初からクライマックスです……!《バヂヂヂヂッ!》」
彰利「ギャアなにそれスタンガン!? 最近の護身武器ってコンパクトだなぁもう!
   そしてちげぇザマス!
   あたしゃ自分が好きになった相手のパンツにしか興味ねぇ!」

 …………。

悠介「いや……あ、あのな、彰利よ……!
   昼時で、俺達以外にもここでメシ食ってるヤツが居るってのに……!」
彰利「あれ? …………ゲェーーーーーーーッ!!」

 キャアやだ! みんながアタイのこと見てる!
 だ、だが待てアタイ! アタイ間違ったこと言ってねぇべよ!
 これ、アタイの真心! 真のココロと書いてマゴコロ! ならば何を恥じ入ることがありましょう! OHアタイステキアタイステッキン!

彰利「て、訂正なんてしないもん! しないんだからねっ!?《ポッ》
   おぉおおーーーぉおお俺は好きになった相手の下着にしか興味ないんだもん!」
博光「愛したら下着だけにしか興味ないのか…………ある意味男だな」
彰利「ギャア違ェエーーーッ!! 他の人の下着になんぞ興味ないって言っとんの!!
   解る!? つーか解ってこの切ない思い!」
博光「……ランポスよ。たとえば誰か知らんヤツの下着があるとする」
彰利「え? お、おう。つーか下着の話続けんの?」
博光「まあ聞け。知らんヤツの下着には興味がないお前だが、
   もし好きになったヤツの下着が泥跳ねかなんかで汚れたとする。
   そいつは友達に下着を借りたとして、
   お前が興味がないと言っていた下着を装着するとする。
   果たしてお前は───興味を持たずにいられるかな!?」
彰利「《ズガァーーーン!》はっ……はぁあ……!!」

 ば、馬鹿な……ば、馬鹿な……! 興味がない下着だった筈なのに、何故好きなおなごが履いたということを意識するだけで、こんなにも胸が高鳴るの……!?
 これはマジック? カッパーフィールド?

彰利「目が……目が覚めたぜ中井出! そうか……俺はただの下着ではなく、
   好きなヤツが履いた状態の下着にときめいていたんだな!?」
博光「そう、その通りさ。さあ、あの天に点在する太陽に高らかに叫んでやれ。
   キミの真実の愛ってやつを」
彰利「オッケン! すぅっ───……俺はっ……!
   恋人のパンツが大好きだぁあーーーーーっ!!」

 叫びました。
 何を恥じることがありましょうとばかりに全力で。
 すると丁度、コチャキィと扉を開けてやってきた風紀委員長さんと目が合った。

彰利「エ、エエト」

 ごぎぎぎぃいい……と、音が鳴るくらいゆっくりと中井出へと向き直る。
 すると、彼はサムズアップして仰った。

博光「ハブアグッドエッチ!」

 どっかで聞いた言葉だった。

ニゴ「あ、あなたは…………〜〜〜〜っ!」
彰利「あ、いやっ、ギャア違う! これは巧みな話術の末の青春の暴走といいますか!
   でも言ったことに嘘はないから暴走ともちょっと違うような!
   えーとニゴちゃん先輩そこんところは解ってもら───」
ニゴ「ニゴちゃんはやめなさいと言っているでしょう!」
彰利「えぇ!? じゃじゃじゃじゃあ便所!」

 ───……ぴきーん、と。暖かな陽気も凍らせるほどの静寂が、屋上を支配しました。
 あれ? アタイ勢いに任せてなにを?

ニゴ「ふっ……ふふっ? ふふふうふふふうふふははははははは!!!
   便所! 便所と言いましたか私を!
   私がかつてこのサイドネームでどれほどの屈辱を味わったかも知らないままに!」
彰利「ゲゲェトラウマスイッチだった! ノ、ノー! 悪気は無かったんす!
   ちょっと気が動転してまして!」
ニゴ「では私も動転しましたので歯ァ食い縛りやがりなさいこの無礼人がァアア!!」

 アアッ! セレスちゃんの目つきが鋭くなった! とか思った瞬間には顔面に拳が埋まっておりました。はい。

───……。

 しゅぅうう……

彰利「ウウ……顔面がいてぇ……」
悠介「自業自得だ、たわけ」

 なんだかんだで木吉さんに握り飯を分けた悠介が、アタイの隣でとほーと溜め息を吐いていた。アタイはといえば、溢れ出る鼻血を惜しみ無くダヴォダヴォと流し、止まるのをひたすらに待っていた。
 知ってっかぁニコボールゥ! 鼻血を出した時に上を向くのは、血が固まっていろいろと塞ぐ可能性があるから危ないんだぜぇ!? 一緒に……見にいこうなっ! …………何をだろう。

彰利「つーかニゴ先輩、風紀委員長さんなのにナックル一閃って」
ニゴ「風紀委員に人権が無いとでも?」
悠介「侮辱されりゃあそりゃ殴るだろ」
彰利「ぬう。確かにそりゃあ人権だ」

 正直すまんかった。
 でも鼻っ柱はまずいデショ。鼻血が……止まらねぇさ……。

博光「ところでランポス」
彰利「なんじゃいハーン」
博光「キミってエロス好き?」
彰利「先輩の前で平気でそういうこと訊くのね、キミ……」
博光「相手が誰だろうと自分を通したいお年頃なので。
   で、好きならば僕の秘蔵の本をキミに」
彰利「いやいらん」
博光「そんなこと言わずに受け取れよぉ、
   返品しろなんて口が裂けても言わねぇからさぁ〜〜っ」

 懐からゴゾォと出した大き目の紙袋を何故かアタイに押し付けてくる。
 ええはい、現在境界線のすぐ傍でメシ食ってます。

彰利「………待て。それはまごうことなきエロ本であろうな」
博光「ちっ、疑り深いやつめ。そら」

 ごそりと取り出し、ちらりと見せられた本の上半分には、確かに艶かしい女性の姿が。
 好きなおなご以外にはそう興味が無いアタイだが、雄としての好奇心はあります。
 ええ、ぶっちゃけ見てみたいです。
 なので仕方なやと受け取り、ニゴちゃん先輩が頭が痛そうにしている横でガサゴソと取り出した。……おおう、まごうことなきエロ本表紙。
 ちょっぴりわくわくながきんちょハートをくすぶらせ、いざ開帳!!
 すると…………視界いっぱいにフンドシがあった。

彰利「ごぉおわぁあああああああああっ!!!
   目がぁっ! 目が潰れるぅううううううっ!!!」

 開いても開いてもフンドシ! 褌! FUNDOSHI!!
 こりゃひでぇあまりにもひでぇ!!

彰利「テメェェェ!! カバーと中身が全然違うじゃねーか! JAROに訴えンぞ!」
博光「ぼ、僕の勝手だろ!!」

 言うやドヒュウと逃げ出すハーン!
 しまった謀られたわ! これは全てヤツの作戦!!
 受け取ってしまった以上、返品は効かねー!
 そして風紀委員長の前でポイ捨てなんぞ出来るはずもねー!

女子「ヒソヒソ……ヒッソォ……!」
女子「やだ……男の人のフンドシ写真集見て鼻血出してる……!」
彰利「なにににににににににににィイイーーーーーッ!!!?
   ギャア違う! ちがっ……違うよ!? 違うんだってば!!
   これは見る前から出てた鼻血でしてね!?」
女子「見る前から興奮のあまり鼻血出してたんだって!」
女子「きゃーーーっ!!」
彰利「違ェェェって言ってんだろォオオ!!?
   お前なに嬉しそうな顔してェ! 頭ン中そればっかか!!」

 なんというコンボ! よもや我が鼻血をこうまで利用し、さらにニゴちゃん先輩の役職さえ利用する……まさに永続トラップ!!

彰利「お、おのれぇ中井出! よくもこれほどまでの罠を!」
博光「え? 俺? …………す、すげぇ……だろ?《ど〜ん……?》」
彰利「そこは思い切り胸張りましょう!? つーかもう返すよこれホラァ!!」
博光「《ゴチャア!》オジェェーーーイ!!」

 話をするために律儀に戻ってきた中井出へと、突き出すように思い切り本を返す。
 するとその硬い背表紙が中井出の鼻っ柱を強打し、もう返したもんねーとばかりに手放したソレを中井出が反射的に拾ったところで勝敗は決した。

女子「きゃあっ! 少し目を離した隙に、今度はあっちの男子が鼻血出してるわよ!」
女子「もしかしてそういう関係なの!?」
女子「きゃあーーーーっ!」
博光「いがががが……ハッ!? し、失礼な! 俺は普通に女が好きなんだ!
   でもそれが友情を上回ることが今のところないだけだい!
   好き勝手に噂するのはキミたちの勝手だが、
   それをネタに集団で人を馬鹿にするというのなら、
   僕の丸太のような脚がキミたちの顔面を潰すことになるぞ!」
女子「やぁあ〜〜だぁ〜〜〜っ、男だから強いんだとか思ってるヤツが居る〜〜っ!」
女子「す〜ぐ暴力に走るんだよね〜っ!」
博光「いやあの……言葉の暴力って知ってる〜?」
女子「あ〜〜っ! 今度は屁理屈に走った〜!」
女子「格好がつかなくなるとすぐそれだよね〜!」
博光「………」

 オ? アレ? てっきり血管ムキムキになって怒ってるかと思えば、結構フツーの顔。
 案外冷静?

博光「……ニゴ先輩、質問です。拳を振るわずに話で解決しようとしたのに、
   彼女らはそれを屁理屈と罵りました。この場合、俺に人権はありますか?」
ニゴ「言葉でならいくらでもどうぞ。あなたはそういうことは得意そうですし」
博光「よしきたァァ!!」

 ニゴちゃんの言葉に中井出がテコーンと歯を輝かせた!
 そして笑顔のままに立ち上がり、

女子「うわっ、立ったわよ」
女子「やだ、やっぱり暴力するつも───」
博光「ブ〜ス」

 ───……たった一言仰った。

女子「なっ! なななななっ!?」
女子「ブス!? ブスって!」
博光「ふう、スッキリした〜。じゃあメシの続きだね」

 一言でスッキリしたらしい。
 女子どもの罵倒も完璧に無視し、幸せフェイスであんぱんを食っている。
 その反応を見て女子どもも考えたのか、中井出へとあることないこと言い始める。

謳歌「……《ビキッ》」

 中井出の隣で奇妙な音が鳴りました。が、それをやんわりと宥める中井出。

博光「ほっときなさい、きっとブスって自覚があったから、言われたことが悔しいのよ」
女子「───!《カッ!》」
女子「あっ……あったまきた! このっ!」

 で……よせばいいのに、女子は食い終えた弁当箱を中井出へと……投げちまった。
 それが中井出の頭に、ベキャって嫌な音を出して当たった時。
 俺と悠介と和哉と緑さんは合掌した。

博光「フッヒ……フフフハハ!? ウヘヘハハハハハハハ!!
   やった! やっちまったなぁあんたぁあああ!!」
女子「っ!? な、なによっ! あんた女に手ぇあげるって───」
博光「あげるけど、なに? 舌戦に男も女も無いように、攻撃にだって男も女もないよ?
   あんたは俺を攻撃した。
   手ぇあげないってのは、誰かの攻撃を甘んじて受け続けろってことだ。
   なにお前、もしガキがナイフ持って襲いかかってきたら、
   子供だからって抵抗しねぇの? するよね? だから殴るよ」
女子「え───ちょ、冗談でしょ!?」
博光「俺さぁああ……てめぇみたいなヤツ大嫌いなんだよね。
   散々人のこと馬鹿にしといて、自分が馬鹿にされれば攻撃してさ。
   そんで女であること盾にして事なきを得よう? 馬鹿だろお前。
   そういうことしてぇんだったらもっと相手選べ」
女子「殴ったら……っ! 殴ったらそのまま職員室駆け込むわよ!?
   裁判起こしたっていいんだから!」
博光「───……」

 自分の体を庇うように後ろへ下がるおなご。
 そんなおなごを見て、中井出は……

博光「……つまらないヤツ」

 冷たい目で改めてそいつを見ると、溜め息を吐いて視界から消した。
 座り、あんぱんを笑顔で食べ始めたのだ。
 そうなれば脅しが効いたのだと調子に乗り始めたおなごが、好き勝手なことを言い始める始末で。

博光「はぁっ……あのさ。一方が折れたのになんでわざわざ面倒ごと続けるのさ。
   もういいよ、興味失せたから」
女子「興味とかそんな問題じゃないわよ!
   ……あぁ、あんたさっき中井出とか呼ばれてたわよね?
   もしかしてあの中井出教授の息子さん? ちょっといいこと考えちゃったかも」
博光「好きになさい。家族崩壊でもなんでも、やってみるといい」
女子「はっ……はぁっ!? なにそれ、出来ないとでも思ってるの!?
   そりゃあ完全には無理だろうけど、立場悪くすることくらい───」
博光「あーうっさいうっさい! 俺折れたの! あんたが正しいの! いいだろそれで!
   ……うう、ごめんなぁみんな。不愉快な思いさせちゃって。
   こんな人が居る場所でこんなもん、出すべきじゃなかったよ……」

 いや、そりゃあまったくの同意見じゃけんども、アータそれでいいん?
 ゴソゴソとフンドシグラビアを仕舞う中井出を眺めつつ、そげなことを考えた。

謳歌「私が滅ぼしましょうか?」
和哉「ぶ、物騒だな……」
博光「いいって。ヘンな目で見られるの、もう慣れてるし」
彰利「おおそれよ。キミってば中学とかどうしてたん? 人脈結構あるっしょ」
博光「猫被って人脈ばかり広げてました。
   するとどうでしょう、知り合いにはなれても友は一人も出来なかった。
   今はそれでよかったって心底思ってるよ。“友情”に対する価値観が違いすぎた」

 おなごはまだギャースカ叫んでます。
 しかし無視。
 で、叫ぶのをいい加減やめようとすると軽く呷り、また叫ばせる。
 しばらく続けるとゲッホゴホと咳き込み始めた。

女子「うぅっ……頭痛い……」
博光「頭痛にバファリン」
女子「いらないわよっ!!」

 バファリンと言いながら、傍に落ちていた弁当箱を広い、ひょーいと投げて渡した。
 飛距離は丁度よく、慌てたおなごの手にすっぽりと収まると、きょとんとするおなごへ一言。

博光「森へ帰れ」
女子「あたしゃどこの野人だぁっ!!」

 もはや猿にしか見えていないらしい。
 ……興味か。相手に対する興味が無くなると、こうなるのか。
 こいつってやっぱりドルァーイ。

ニゴ「……随分と冷たい目をするのですね」
博光「昔っからっす。相手がつまらない人間だと、興味が無くなりまして」
ニゴ「もっと踏み込んでみれば解ることもあるかもしれないのに?」
博光「踏み込みたいと思うかどうかは自分次第じゃないすか。
   女であることを武器にするとか、
   集団でなら怖くないからって自分以外の誰かに集団思考を強制するヤツとか、
   そういうのには興味持てませんです」
彰利「興味ねぇ……実はそいつがモノスゲー面白いやつだったら?」
博光「知らないままならそれでいいし、
   知ったとしても関わらないならそれでいいんじゃない?
   あいつ面白いんだぜーって誰かに言われても、判断するのって結局自分だし」
彰利「ワーオ、同じ意見だ。
   ンマー、アタイもその考えの下でこうやってつるんでるわけだし、
   別にあいつが面白いと言うつもりもナギャーヨ。
   むしろ性別を盾にするやつぁ俺も嫌いだ」

 ちらりとおなごを見る。
 ぎょっとした顔で、隣に居た女子と一緒になって足早に去っていった。

ニゴ「西と東だというのに、妙に親しげに争う理由はそれですか」
彰利「オウヨ。こいつと居ると退屈しないんでゲソ。
   アタイの何処にどう“興味”を持ったのかは知らんけどね」
博光「人を興味だけで判断する男みたいに言うなよぅ。言っとくけどお前あれだよ?
   俺が興味で“モノ”を見るのは、輪の外の“モノ”だけだよ?
   気に入っちまえば興味が無くても大好きさ」
ニゴ「それは私も?」
博光「“自分”でぶつかってきてくれる人は好きですから」
悠介「なるほど。そういう意味では彰利は“大好き”の部類に入るのか」
博光「うんまあ。そういった意味では雪ちゃん先輩も謳歌も大好きさ。
   だってさ、ここまで我をぶつけてくるヤツなんて珍しいでしょ。
   初めて会った時から今まで、こいつとぶつかるのが一番楽しいや」
彰利「その割りにアタイの全勝だがね」
博光「細かなところでは勝ってるんだ。でも一歩でしくじる。地道に努力するよ。
   なにせ、修行ってのはステキだからな」

 ヤハハと笑って、二袋あったあんぱんの最後の一口を食べて、食事を終えたそいつはぐぅうっと伸びをすると、「バイアイ」と訳の解らん言葉を放って去ろうとする。……“訳の解らん”でもないか。確か万国共通ピングー語で、別れの挨拶だった筈だ。

博光「あ。ところでさ、トータスの家って確か神社だったよね?
   今さらだけど、何を祀ってるの?」
悠介「ほんと今さらでしかも俺は悠介であってトータスじゃない」
博光「まあまあ。それで、なに? ゴッドだよね?」
悠介「お前なぁ……あ、あー……確か龍の神を祀ってるってきいた。
   家の後ろの滝つぼはその象徴なんだそうだ」
彰利「マジですか!? カッケェ! なんか龍って無条件でカッケェよね!」
謳歌「オオナヅチでもですか?」
彰利「…………あれ、龍っつーかカメレオンだよね」

 無条件は取り消しましょう。

彰利「でも初耳。龍の神かぁ……」
悠介「ああ。龍の神と、その神とともに楔となった者を祀ってるとか」
和哉「それは読んだ記憶があるな。
   どの文献であったかは忘れたが……顔が描かれた書物だったはずだ」
博光「へぇえ……どんなヤツだったんだ?」
悠介「えっ……と……なにか描くものあるか?」
謳歌「こんなこともあろうかと」

 緑さんがスチャリとノートとシャーペンを取り出す。
 どんなこともあろうかとなんだろうか。

悠介「えっとな、たしか……」

 ともあれそれらを受け取った悠介が、ザザッと絵を描いてゆく。
 しばらくは軽い話で時間を潰しておると、やがて描き終えた悠介が絵を見せてくれた。
 そこには───

彰利「………」
博光「……長州?」
ニゴ「ぶっふぅっ!?」
彰利「あ、ああっ! そう! それだ長州だ! なんかどっかで見たことあると思った!」
悠介「いやちょっと待て! これの何処が長州だ! よく見ろ!
   長州───ちょ………………長州……かも」

 ───そこには、長州力が描かれていた。
 ニゴちゃん先輩が絵を見て震え、中井出の言葉とともに盛大に噴き出すほどにソックリ。
 しかも描いた本人まで否定しきれずに、最後には困った顔で認めていた。

彰利「そうか……晦神社って長州を祀ってたのか……」
悠介「ちょっと待てぇえええっ!
   この絵が長州に似てたとしても、祀ってたのは間違い無く龍の神だ!」
博光「な、なるほど! うねる体! 空を舞う絶対的な存在感! でも顔が長州なんだな」
ニゴ「ぶふしゅっ! ぷふっ……く、くふふふっ……〜〜〜〜っ……!!」
悠介「違う! 龍は普通だって! 俺が描いたのは一緒に祀られてる人間のほうだ!」
彰利「お前の先祖、長州だったのか……」
悠介「時代と年齢考えろたわけ!!」
博光「ごめんな晦……トータスなんて呼んで。
   これからはお前のことスコーピオンって呼ぶよ」
彰利「おお! 長州といえばスコーピオンデスロック!」
悠介「やめろ馬鹿者!」
博光「ど、どうしたんだスコーピオン」
彰利「急に怒るなよスコーピオン」
悠介「おぉおおおおおおこの野郎どもぉおおおおおっ!!」

 いやうん、そもそも晦の先祖っつーたら木葉ちゃんたちの先祖だから、悠介関係ないの解ってんだけどね。それに気づかず元気にツッコミ返しをする悠介がもうおもしろーておもしろーて。
 やっぱ悠介はもっと自分を出すべきだよ。このままおじちゃんっぽく年老いていくんじゃつまらんけんねぇ。えぇはい、からかいすぎて中井出ともども悠介に手痛いゲンコツもらったあたりで、からかい劇場も幕を閉じました。

博光「ぐおお……! 脳が揺れる……!」
彰利「相変わらず()ったいのォォォォ……!!」
悠介「自業自得だたわけ」
博光「うむ。自業自得、つまり自己責任。
   俺はその全てをもって、楽しいを追い求める修羅になる。
   だから一時痛いくらいで楽しいを逃すくらいなら、俺は喜んで痛い道を選ぶ!」
悠介「へんな方向に逞しさを向けるなよ頼むから……!」
博光「いや、俺としてはスコーピ」
悠介「スコーピオン言うな!!」
博光「……長州?」
悠介「長州もやめろ!!」
博光「…………晦もさ、もっとぶつかってきてほしいんだよね。
   せっかくの青春だよ? もっと自分を出して騒ぎましょうよ」
彰利「そうそう、中井出がEこと言ったYO」

 もっと一緒にはっちゃけたいくらいなのに、悠介ったらどこかで自分が冷静でいなければ〜なんて妙な使命感持っとるし。ナンデショ、ツッコミ役でいたいんなら別に止めはせんのだけどね。どうせなら一緒に騒ぎたいのよ。この切ない思い、是非届いて。

博光「でも強制はいかんし強要もいかん。なのでキミに自分を変えるつもりがあるのなら、
   是非とも一緒になって騒ぎましょう。
   我が3564プロは、いつでもキミを歓迎するよ!?」
悠介「見殺すなよ」

 言いたいことだけ言うと、中井出は元気に立ち上がって出入り口へと走っていった。
 ……ううむ、ほんに奔放ですこと。

彰利「……なんだかんだで昔っからの付き合いだけど、あいつの底は解らん」
悠介「黒か白かって訊かれれば、間違い無く黒だな」
彰利「キョホホ、そりゃアタイらもでしょーが」

 ちらりと見れば、いつの間にか緑さんも居なかった。
 中井出ストーキンに戻ったんでしょうか。

和哉「ふむ、堪能した。じっくり味わうことは大事だな」
悠介「そりゃ結構。米で人格を保つ兄が居ると、俺も鼻が高い」
和哉「そんなことを言われたのは初めてだな」
彰利「ちなみに米が切れるとどうなるん?」
和哉「うむ。壁に爪が割れるほどの引っ掻き傷を作り、
   血が出ればそれで壁に血文字を書き、急に笑い出したかと思えば───」
悠介「すまんもういい」
彰利「アータどこまで狂人ですか」
和哉「さすがに冗談だ」
悠介「冗談に聞こえんかったわ!!」
ニゴ「はぁ……」

 食後のティーを飲んでいたニゴちゃん先輩が溜め息をお吐きになられた。
 断じて、ほっと一息として出た溜め息ではねーざんす。

和哉「ただ前回、米が切れた時は……うむ。
   ハッと気づけば何故か褌一丁で町の真ん中で握り飯を食べていた」
彰利「警察呼ばれなかったん!?」
和哉「すぐ近くに居てな。署に来いと言うからついていき、あらいざらい話した。
   熱心に話したら解ってくれたぞ。感動の涙すら流していた」
悠介「ちなみにその時の格好は?」
和哉「褌一丁だと言ったろう」
悠介「よーし解った、そりゃ泣くわ」

 褌一丁の男が熱弁しながら迫ってくる状況を想像してみた。
 ……泣きそうになった。

和哉「ともかく、そういった経験もあり、米は欠かさず食うことにしている。
   三食米を食わなければ、俺はどうにかなってしまうのだ」
悠介「……念のため訊くが、米が切れる前までの格好は───」
和哉「きちんと服を着ていたぞ」
彰利「切れたら?」
和哉「いつの間にか脱いでいた。
   以来、再び己を見失った時におかしな目で見られぬようにと、
   褌で行動することを心掛けるようになったのだ」
悠介「頼む。握り飯を常備してくれ。同じ顔でされたら人格が疑われる」
彰利「手遅れじゃない?」
ニゴ「ええ。高い確率で」
悠介「《キリキリキリ……》ごぉおおお……! 胃が……胃がぁああ……!!」

 腹を抱えて苦しむ高校一年の図である。
 やあ、我が友ながらほんとじじむさいこと。まだ若いってのにこれだもの。

彰利「まあま、気楽にイコーや。いっそ悠介もドッスィーになりゃあええやないの。
   キミはどーも、内に眠る童心を閉じ込めっぱなしでいかん。
   もっと己を解放しようぜ! 弱気など退散退散! イワコデジマイワコデジマ!」
悠介「お前はなにか、俺に回転しながら空に飛んでほしいのか」
彰利「うぅう〜〜ん見てみたぁあ〜〜〜いぃ!!」
和哉「普通に変態なんだな」
彰利「変態だがホモではない」
ニゴ「そう変わらない気もしますが。……さて。
   いろいろとあなた方という存在のことも知れました。
   今日は有意義な昼食をとれたことを感謝します。有難う」

 ニコリと笑い、ペコリとお辞儀をしてニゴちゃんが去っていった。
 気づけばもう昼も終わる頃。
 アタイと悠介はコクリと頷くとさっさと後片付けを終わらせ、既に歩いていた木吉さんにアディオスを唱えて校舎へ戻った。


───……。


 ……で、教室での授業開始までの数分。

夜華「《きゅるるるる……きゅるる〜……》………………」
彰利「うるせーーーっ! なにさっきからキュルゴー鳴らしとんじゃワレェーーーッ!!」
夜華「しっ……仕方っ……ない、だろうっ……!
   そ、そのっ……学食で食べようと思っていたのだが休みで、
   ならば購買へと行ってみればそこも休み……!
   わ、私はなにも食べていないのだからっ……!」
彰利「エ? 購買休みなん?」

 にしては中井出どもはパンとか持っとったけど。

夜華「くぅうっ……泣くな、泣くんじゃない私の腹……!
   これしきで泣くとは、鍛錬が足りん証拠だぞ……! ───喝っ!《ビッタァ!》」

 なにっ!? 腹が泣きやんだ!?
 ……でもしのっち自身が泣いていた。

彰利「おぉかわいそうにのう……どれ、じいめが消しゴムを授けよう。食え」
夜華「食えるかっ!!」
彰利「なんと!? 知らんのか! ある場所で遭難した男が居たんだが、
   実はそいつはガリ勉くんでな。常に持っていた筆箱にあった消しゴムのおかげで、
   襲い掛かる飢えを凌いでいたと言われているんだぞ!」
夜華「な、なにぃっ!? そうだったのか!? まさか先人が居たとは……!
   すまない弦月、せっかくお前が生きる術を教えてくれたというのに……!
   お前の援助に感謝を! はうぐっ!《もぐっ! ごにゅごにゅっ……!》」

 ……食ってる。

夜華「げはぁっ!!」

 ……そして盛大に吐き出した。

夜華「だ、だめだ! とても食べられない!」
彰利「諦めたら死ぬだけだぜしのっち……さあ、これを」
夜華「こ、これは……?」
彰利「香る消しゴムシリーズ“ストロベリー”だ!
   さっきのはあまりに無機質なゴムスメルだったから吐き出したに違いない!
   しかし香りがいちごならば───!」
夜華「そっ……その手があったか! 弦月、お前の助言に感謝を! はうぐっ!」

 そしてまた食った。───吐いた。

夜華「くぅうっ……なんと情けないっ……!
   先人が残した知恵をも満足に糧に出来ぬのか私はっ……!」

 そして真剣に苦悩し始めた。
 ……どうしよう。もう嘘だとか言える雰囲気じゃなくなってしまった。

悠介「もういいだろ、十分に頑張ったよお前は。
   握り飯でいいなら一個余ってる。食うか?」
夜華「《びくぅっ!》う……う、うあう、う……!」
悠介「ええい落ち着け、どこまで人見知りなんたお前は。ほら」
彰利「ひょっ」

 戸惑うしのっちの掌に、とんとおにぎり入りの銀紙を進呈。って違った、銀紙じゃなくてアルミホイルでしたすいません。
 両手でそれを受け取ったしのっちは何度も何度も悠介とおにぎりを見比べ、人見知りのためにか細い声ででも頑張ってお礼を言うと、おにぎりにかぶりついた! ───銀紙のまま!!
 ……当然吐いた。

悠介「なぁ。もしかしてこいつは頭が弱いのか?」
彰利「や、だからさ。極度の人見知りなんですわ。
   アタイだって話が出来るようになるまで結構かかったのよ?
   逃げまくるこやつを散々と追い掛け回して一方的に話をしまくって、
   ようやくこうして話せるようになりました。
   テンパると行動が突拍子無いのは昔っから」
悠介「突拍子が無いにしてもなさすぎだろ……」

 きちんとアルミホイルを剥いてから改めておにぎりを頬張る姿はめんこいんじゃけど。
 目の端に涙浮かべて大事に大事に食べてらっしゃる。
 と、そんな時に次の授業のセンセが降臨。皆が席に着く中で、気づかずにおにぎりに夢中な生徒を発見すりゃあ……当然注意アマス。

教師「おい篠瀬ー? いつまで食べてるー? もう授業始まるぞー」
夜華「《もくもく》……? …………───!!《びくぅっ!》」

 幸せ笑顔が固まり、跳ねた肩の反動でおにぎりが手から零れ落ちる!
 咄嗟に手を伸ばすが、剣術で養われた技術も空腹のためか発揮されず、哀れ……おにぎりは床へとぼとりと音を立てた。

総員『あ』

 ……凍る教室。
 しのっちは落ちたおにぎりへとカタカタと震えながら歩み寄り、跪くように屈むと……ぽろぽろと泣き出してしまった。

男子「先生……」
女子「先生が泣かした……」
教師「なっ……お、俺が悪いのか!? 先生は教師として当然のことを言っただろ!?」
彰利「ああもう、しのっちは可愛いなぁ」

 ひょいとおにぎりを拾い上げ、床についた海苔の部分を切除。
 当然米も少々切除し、ハイと渡す。

彰利「人の目なぞ気にするものじゃあありません。
   たしかにばっちぃと思うやもですが、
   落ちたからって全部の部分が悪くなるわけでもなし。
   この部分はまだ大丈夫だぜよ?」
夜華「い、いや、それはさすがに……だな」
彰利「おやいかん? ならば俺が食いましょう《バクリ》」
夜華「あっ───あぁあああっ……!!」

 綺麗な部分をバクリと食う。
 おお、この塩と海苔の風味が染み付いたおにぎりの美味いこと。
 アルミホイルで包んでしばらく置いたおにぎりって、やっぱ最強ですよね。

彰利「多少削ってでも食べ物は大事にするものです。
   それが出来ないことのほうが、人としてはよっぽどいかん。
   いいですかしのっち、こういう行為を馬鹿にする者が居るのならば、
   そいつらには“お前らに生きることを諦めるなと言う資格はない”と言いなさい。
   三秒ルールと称して拾って食べる子供のほうがまだ逞しい」
夜華「そっ……そそそっ……それを……!
   それをお前が食べてしまったのではないかぁ〜〜〜っ……!!」
彰利「ギャア泣き出した!?
   これ教師よ! 貴様の所為でしのっちが泣いてしまわれた!
   今すぐ食べるものを用意せよ!」
教師「人の授業中にここぞとばかりに騒がないでほしいんだがなぁ……。
   大体、食べる時間に食べないことがよくないだろう」
女子「あ、でもせんせー、今日学食も購買もやってなかったって言ってたコ居たし、
   それはちょっとひどいと思いまーす」
教師「なに? そうなのか?
   ふーむ……あー、誰かパンを余分に持っているヤツ、居るかー?」

 教師が呼びかける。
 ……が、当然そげに都合よく持っているヤツが居るわけがない。

彰利「悠介、もうおにぎりない?」
悠介「さすがに無い。あの一個だって、変態兄が脱がないための控えだったんだ」
彰利「OH……」

 これは困った。
 このままではしのっちが放課後を待たずして餓死してしまう。嘘だが。

夜華「いや……いいんだ、弦月。
   もとはといえば弁当を持ってこなかった私がいけなかったのだ。
   空腹は当然だ。しかし方法がまったくないわけではない。
   私には先人から賜った食事法があるのだ……我慢をすれば糧となろう」
教師「? ……って、おいおいこらこらっ! どうして消しゴムを食べようとする!」
夜華「? ははは、そうですか。教員殿も知らぬのですか。いやいや当然です。
   これには私も驚かされましたから。実はですね教員殿」

 あ。めっちゃヤな予感。
 訊ねられたしのっちが得意げな顔で、さっきアタイが話したデマを語り始めた。距離が十分離れてりゃあきちんと普通に話せるんだけどね、しのっちも。
 しかし教師は当然といえば当然だが唖然としていた。
 なのにしのっちモノスゲー鼻高々顔。
 そのフェイスはまるで、親が知らない情報を得意げに話す子供のようだった。
 やだ……めんこい……。

教師「……こういうのもなんだがな、篠瀬。お前弦月に騙されてるぞ」
夜華「だま……?」

 ちらりとしのっちがオイラを見上げる。
 そう、バレた時ははぐらかさず、しっかりと受け止めるのがデマを伝える者の務め。
 殴られることも良しとする者だけが、この領域へと足を踏み込めるのだ……!

彰利「ウソです《ゲパァンッ!!》ギャボッ!!」

 木刀が閃きました。
 そして私は怒り心頭に発した武士娘さんにボコボコにされた。

夜華「なぜお前はいつもいつもっ! いい加減に私をからかうのはやめろ!!」
彰利「ワガガガガ……! す、すまんこってす……!
   お詫びといってはなんだが、キミに情報を……!
   隣の西のクラスの中井出ってヤツがパンを持ってるから、それを奪うのだ……!」
夜華「なにっ!? 私に族まがいのことをしろというのか!」
彰利「ノー……これはウォ〜〜〜……(戦争だ)。
   糧を得るために僕ら人間は昔からなにかと戦ってきました。
   それは狩猟であったりなんかこういろいろ。
   ならば今、己の意思をしっかり以って戦いを挑み、
   糧を得ようとすることになんの憂いがありましょう」
夜華「い、いや、しかしな……《きゅるぐ〜……》…………イヤ……イイノカ?
   イイ……ソウダナ、糧ヲ得ルタメダ。兎ヲ狩ルヨウニ、自己責任デ───!」

 しのっちが立ち上がった!
 そしてそのまま駆け出し、廊下に出ると高らかに宣言!

夜華「中井出とやら! 私は東の篠瀬夜華!
   ゆえあって汝が持つ糧を頂きたく己の意思を以ってして挑む!
   私が勝ったならばその糧を私に献上していただきたい!」

 まさかマジで行くとはと慌てて追ってみれば、授業中だというのに廊下に居る中井出!
 ……その手には、何故か水入りバケツが握られていた。

博光「いやあの……僕今ちょっとオイタしちゃって、立たされている身なんで……」

 顔にモノスゲー陰が差してらっしゃる!
 なにやったんデショね、こやつ。
 「いや……あのなー? 今授業中なんだが……」と教師のボイスが届くけどそれどころではないのです。

彰利「なにやったんキミ」
博光「初めての授業のセンセだったから、自己紹介しましょうねってことになってさ。
   僕を知ってもらうためにもあますことなく暴露したら立たされた」
彰利「キミって無駄に勇者よね……」
博光「だ、だっておかしいじゃないか!
   普段から正直に生きなさいとか嘘はよくないとか言ってるくせに、
   いざ真実を話せばこのザマだよ!」
彰利「それただテメーが正直すぎただけだろ絶対!
   程度ってモン考えなさいよ程度ってモンを!」
夜華「い、いや……そんなことよりその……パ、パンを……」

 ……ハッ!? そうだった!
 元々アタイらは中井出からパンを頂戴するために来たのよ!
 つーか適当に言ってみただけなんだけど、パン持っとんのかね、こやつ。

博光「パン? ……あ、もしかして食いっぱぐれた?」
夜華「ううっ……《かぁあっ……》すまない……。
   私も出来ればこのような行為はしたくはないのだが……」
博光「えーと、娘さん。実行しておいて、さらに食いたいって意思があるのなら、
   中途半端に“こんなことはしたくないのだが”とか言わないで。
   欲しいなら欲しいでいいじゃない」
夜華「あ…………《……ぱんぱんっ!》……すまない、私が間違っていた。
   そうだ、もう行動に移っているのなら、何故自分を偽る必要があるのか。
   中井出殿、目を覚まさせてくれたこと、感謝する」
博光「……………………」

 OH? なにやら中井出がしのっちを見つめて、ほぉおお……と暖かな溜め息を吐いておる。てゆゥか頬を叩いたしのっちが地味に痛がってる。

博光「キミ、面白い人だね」
夜華「え……? なっ!?
   わわっ、私はなにかおかしなことをしてしまったのだろうかっ!?」
博光「いやいや、気に入ったって意味。
   キミは真っ直ぐだ。真っ直ぐで、きちんと自分を持ってる。
   第一声が無かったら、
   “こんな行為は”って時点で嫌になってたかもしれない自分がもっと嫌だ。
   あ、申し遅れました。僕、中井出博光イイマス」
夜華「あっ───わわっ、私はっ、わたっ、……こ、こほんっ!
   私は、篠瀬夜華という。以後、よろしく頼む」
博光「篠瀬? おお、もしかして八房剣術道場の?」
夜華「? 知っておられるのか?」

 挨拶しつつもキュムと合わさる握手。
 きょとんとするしのっち相手に、中井出はフムと思考してから口を開いた。
 や、なにをやらかすのかは予想がつくんじゃけんど、こればっかりはしのっちが乗り越えるべきことだから口は出さんです。

博光「実はわたくし、壬吹剣術道場の門下でして」
夜華「みぶ───、……っ!? み、壬吹とは、西の剣術道場の!?」
博光「はい」

 あくまで自然な笑顔で。
 しかししのっちは握手した手を───…………振り払った。
 途端に中井出は目つきを変えてしもうた。しのっちがハッとするけどもう遅い。

博光「……残念っす。あなたにとっては壬吹に関わる全てが敵っすか。
   あ、これパンっす。あげるからもう話しかけないでください」
夜華「《ぽさっ》あ……う、うあっ……」

 バケツを下ろし、懐に大事にしまっていたらしいパンをしのっちに投げる。下ろしていたバケツを拾うと、中井出は教室の前まで歩き、無言で立つ彫像と化した。もはや何を言っても返事もせん。
 しのっちも自分の失態に対する後悔と人見知りが手伝って、上手く言葉を発することが出来ないままに狼狽えるだけだ。

彰利「中井出YO〜?
   悪気はなかったみたいだし、謝罪くらい受け取ってやんなさいよォオ」
博光「それ、お前が先に言ったらなんの意味もないんじゃない?」
彰利「ア」

 しまった、これじゃあ事情もよく知らんのに無理矢理喧嘩両成敗にしようとする汚い大人みたいじゃねぇの。

博光「壬吹に関わる全てを嫌うなら、俺はそれを返すだけっす。
   全力には全力で。だから俺も嫌うっすよ。八房に関わる全ては敵。
   俺がそう受け取れば満足でしょう? 篠瀬さん」
夜華「あ、ち、ちがっ……」

 にこりと笑顔を向けられ、余計に戸惑うしのっち。
 その目が助けを求めて彷徨い、俺を映した。
 ───まずい、と感じた時にはもう終わっていた。

夜華「ゆ、弦月っ、たすけ───」
博光「……自分で謝る気はゼロかよ」
夜華「え───」

 やっちまった。
 こやつはどうも、“自分”で突っ込んでくる人が好きな分、肝心な時に自分じゃなく誰かを通じて自分を救おうとするヤツが嫌いらしい。
 面倒なヤツだなとは誰もが思うこと。
 けど、本当に気兼ねなくやっていきたいって思うなら、そうするのはむしろ当然だ。
 しのっちが対人恐怖症気味であるってことがあるにしても、対人恐怖症だからそっちがもっと理解力と包容力を広めろって言うのは無茶だ。それに……そもそもこいつは差別が嫌いなのだ。恐怖症だからなんだってヤツ。
 それを考えると、よくもまあ俺と悠介はこいつと上手くやってるもんだって感心する。

彰利「エィイめんどっちぃやっちゃね! えーから謝罪受け取れコノヤロー!」
博光「うるせー!
   貴様が言っても謝罪もしないやつの言葉を何故俺が受け取らねばならん!
   言葉にしなきゃ伝わらんことってのは山ほどさ! 僕はそれに賭けた! 勝手に!
   なのに待てども待てどもしてくれないで、挙句に貴様に助けを求めるとは!!
   たった一言でよかったのに!
   その一言でさえ出せずに気兼ね無しで言い合える存在になどなれるものか!」
彰利「んーなもんテメーの勝手な理屈でしょーが! なんば言いよっとかこんげら!」
博光「おー! 俺の理屈だとも!
   では訊くが、俺の理屈を俺が信念を持って大事にしないでなんとする!」
彰利「グ、ググ〜〜〜ッ!!」

 い、言われてみれば〜〜〜っ!
 じ、自分の信念は自分以外にのヤツには本当の意味で解りやしね〜〜〜っ!
 な、ならば自分以外に大切に出来るやつなどい、居るわけがねぇ〜〜〜っ!

博光「とにかくもう知ったこっちゃねー!
   自分の非を自分で謝れないお子のことなど知らないんだからねっ!?《ぽっ》」

 おぉおおこんの解らず屋め!! どうしてこう融通効かんのでしょうねこやつは!
 つーかなんでここでツンデレ怒り!? ほんと訳の解らんやっちゃのぅ!
 もういっそ、一発くらい殴ってでも言うこと聞かせて───と思っておったら、なんと隣から小さくすすりなく声が! キャアもしやおばけ!? と隣を見てみれば、なんとしのっちが泣いておるではないか!

夜華「〜〜〜っ……ふ……くっ……す、すまないっ……! すまないっ……!
   せっかく握手までしてくれたとい」
博光「許します」
夜華「うのに……ってえぇえええーーーーーーーっ!!?」

 そしてソッコーで許された!
 あらやだモノスゲー簡単だった! なにこの速さ!

彰利「あの、ちょっと? 中井出この野郎?」
博光「え? なに?」
彰利「なにじゃねーべヨ! こげに速く許すんだったらさっきの問答なんなのマジで!」
博光「謝ってくれれば許すって言ったじゃん。
   僕こういう場面ではひどいウソはつかないつもりだよ?」
彰利「それにしたってせめて最後まで言わせてやりんさいよ!」
博光「え? やだ。辛い思いで謝ってくれてるなら早く楽にしてあげたいじゃん。
   なぜなら俺は許したくてうずうずしてたんだからなーーーっ!!」
彰利「てめぇ善人なのか極悪なのかどっちなんじゃぁあーーーーーっ!!」
博光「人間だもの、二つそろっての俺である。
   じゃあ篠瀬さん、改めて握手───よろしい?」

 バケツをゴドンゴと置いて、自然な笑みで近寄ってくる。
 ……ほんにこいつって昔からおかしなヤツザマス。

夜華「……い、いいのか? 本当に……本当に許して」
博光「しつけぇえーーーーーーっ!!
   許してるって言ってんだから許してるんだよォオオーーーーッ!!」
夜華「ひぅうっ!? す、すまないっ、すまないっ!!」
彰利「お前っておかしなヤツだね」
博光「……?」
彰利「や、そこで“え……? なに、いまさら……”って顔すんじゃねーアマス」

 そういうわけで握手が交わされた。
 しのっちは目の端に涙を浮かべながらも笑顔で手を揺らし、最後にくすぐったそうに笑った。

夜華「お前……いいやつだな」
博光「ところで話は全然変わるんだけどさ」
彰利「いや聞いておやりよ」

 いいやつだなって言ってくれてるのにスルーって、どういうことなの……。

博光「昨夜、スマイル動画を見ていて思ったんだ。
   ほら、人気原作のアニメとかやってるとさ、そこでいろいろとコメントつくよね?
   その中にたまーにさ、小説だったら小説原作の中の言葉が出てきて、
   それをコメントしてたりするじゃない」
彰利「喩えが長いからさっくり話してくれん?」
博光「フッ……まあそう焦るなよ。そこで僕は見たわけですよ。
   “○○○のその部分は○○○だと言ってるだろうksが”という文字を」
彰利「ケーエス?」
博光「カスとかクソの略なんだって」
夜華「……? よく解らんが、その者は人には正しい書き方を求めるくせに、
   自分は多くには理解されぬ言葉で理解を求めているのか?」
博光「うん」

 文字を書くのでさえ省略しているヤツがそれ言うのってなんかヘンではないか。
 まあでもどうでもいいのでそれこそどうでもいい。

彰利「それだけ?」
博光「うんそれだけ。ちょっと“アレ?”と思ったことを口にだしてみた。10点。
   さ、もう教室へお戻り。俺はここで水神さまを呼び起こす儀式を続けるから」
彰利「ただ立たされてるだけでしょーよ」
博光「や、違うんだって。ほらアレだよアレ。アレでアレ的なアレだからコレ。
   立たされてるんじゃないよ?
   こうしないと時を経て立ちし者(クララ・スタンダップ)が解き放たれて大変なことになるんだ」
彰利「わざわざ大袈裟にするでねぇよ」
夜華「そうか……それは大変だな。
   どんな相手かは解らないが、その者が解き放たぬよう頑張ってほしい」

 アレェあっさり信じた!? 相変わらずこの人ったら人を疑うこと知らんのか!?
 だからこそ毎回からかえるんだけどさ!

博光「ありがとうです。あ、あと。篠瀬さん?
   俺は正義より悪が好きな外道を通ってます。
   いいヤツだと思うのは勝手でございますが、
   それよりも俺は悪で外道ということをお忘れなく」
夜華「わ、私はべつに悪だ正義だにこだわるつもりはないぞ?
   あ、握手をしたのなら、その、握手をして笑ったのなら、えと。
   と、ととと友っ! なのだからなっ!」

 おおっ! 目がしゃらんらあと輝いてらっしゃる! 自己紹介をして握手まで出来たことがよっぽど嬉しいらしい! どもりまくりだけど期待を込めて、ちゃっかり友とか言っちゃっておる!
 いやでもな。相手、あの中井出だぞ? 友達とか言って素直に受け取るかどうか。

博光「なにっ!? 貴様この博光と友になりたいというのか!」
夜華「!? ち、違うのか!? 友ではっ……まだ友ではなかったのか!?
   こういう場合は言った者勝ちだと弦月が言っていたのに!」
博光「お前……」

 ゲッ!? 思わぬところで矛先がアタイに!?
 だが我に策あり!
 その名も“善人っぽくしてりゃあ相手も悪い気がして行動に移れねー”作戦!

彰利「ま、待てーーーっ! しのっちは悪くない!
   言ったのは俺だ! 俺なんだァーーーッ!!
   だからしのっちは見逃してやってくれ!
   彼女は関係な《マゴチャア!!》ゴボルギャアーーーーーッ!!」

 中井出相手じゃ無理でした。
 鼻がコキコキと鳴った……つーか喋り途中で全力で殴ってきやがったよこの人!
 鼻がっ! 鼻がメキメキって! は、鼻血が止まらーーーん!!

博光「全てを理解した……理解ったと書いてワカッタと読むほどに……。
   全ては貴様の仕業か!
   いたいけな少女を騙くらかしてほくそ笑むとは……許せる!」

 えぇ!? 許せるの!?
 す、すげぇや! さっすが天下の中井出さんだ!
 殴っておいて許せるとか、やさしさがてんで配合されてねぇ!

博光「つーかうん、篠瀬さん。キミはそのままが素晴らしい。
   キミがケッコー純粋さんだということがよく解った。
   そして僕は余計なことを言って、
   キミのピュアさが欠落していくことを良しとしない」

 ああなるほど、クズだこいつ。
 今も無駄にキラキラとした目ェして、しのっちへの現状の説明にあたってる。

夜華「では……ではいいのかっ? わ、私の友達になってくれるのかっ!?」
博光「握手、したでしょ? 僕ァ気に入った人としかアクセスしませぬ。
   そのことについて態度太ェなとか言われても、
   友達だけは選ばないと後悔しかしないって知っておるゆえ。
   試すようなことをして申し訳なかった。
   もし気が済むのなら、思い切り殴ってくれ」
夜華「なっ───!? …………あ、いや……。
   …………一つ訊かせてくれ。お前は、私を試したのか?」
博光「試しました。それも、自分にとっての相手が一緒に居て楽かどうかを試すために」
夜華「………」

 言葉だけ聞いてりゃほんに外道なんだけどね……案外誰でも思ってることだ。
 それを実際に試して、友になれたのならその謝罪として殴られる覚悟とは……許せる!
 でも実際許すかどうかはしのっち次第だ。
 ここで殴っても殴らなくても、中井出はしのっちとは全力でぶつかるでしょう。
 ……惜しいなぁ、ほんと。是非、ヤツには東でいてほしかった。
 あ、いや。遠慮なく好き勝手言えるって意味では、どこに居ても同じか。

夜華「人を試すというのは、正直に言えばやっている本人も気分のいいものではない。
   それは知っている。ある意味で相手の誠意を計るために騙しているのだから。
   そしてお前は私を試した。……最初から殴られることを覚悟の上で」
博光「うす。俺は、その上で付き合ってくれる者のみを友として迎え入れる。
   これは俺の勝手な思考だし、相手がそれに付き合う理由なんて微塵にも無し。
   自己満足なんです。なので、次の行動は篠瀬さんが決めてくれぃ。
   俺はそれを、たとえなんであろうと受け入れよう!」
夜華「それは覚悟か?」
博光「覚悟……重い言葉だよね。でも、イグザクトリィ。
   俺は俺のよりよい青春のために、友人にする人を選ぶ!
   その過程で誰に呆れられようと嫌われようと構わぬ!
   それでも良しと頷いてくれたのなら、
   俺は俺自身の青春をかけてそいつの友でいる!
   たとえその文字が友達の友でも強敵と書いて友と読むでも構わん!
   俺には───その覚悟がある!!」《どーーーん!!》

 どこか怖がるように、しかししっかりと胸をどんと叩き、仰った。
 こやつ、普段から無茶ばっかやってるけど、友達は本当に大切にするタイプと見た。
 むしろアタイも同じ気持ちだから、こいつの叫びはよく胸に響く。
 なので拳を握る。
 んで、しのっちが殴るより先に、思いっきり殴っておいた。

博光「《ギャパァンッ!!》ぶがぁっ!? …………、〜〜〜っ……つ、あっ……!」

 なんと!? 本気で殴ったのに倒れぬ!
 倒れればそこまでだと言うかのように、踏ん張っておる!!
 べつに俺の拳は受け止めるとは言っとらんかったのに!
 ……あ、でも痛みのあまりしくしく泣いてる。無駄に格好つかんヤツだった。

博光「な……なにすんだよぉお……!
   俺、篠瀬さんに殴られる覚悟固めてたのに……!」

 そして子供らしくめそめそと抗議されました。
 なんだかもう思わずソーリー言いたくなるほどの痛々しい顔で。

彰利「お前……人としてちっちぇええのかデケェのかどっちよ……」
博光「フッ……今は小さいが大きくなれるように頑張っているところだと言っておこう」

 どくどくと流れる鼻血を、目を閉じながらピッと親指で弾く中井出。
 ……鼻血はまだどくどくと流れていた。いちいち格好つかんヤツだ。

彰利「んじゃ、次はテメーだ」
博光「OK、歯ァ食い縛んなよ」
彰利「食い縛らせんさい!!」

 中井出が拳を固める。
 相手が殴ったのなら己もである。
 気に入ったならとことんまで。で、あるからして、西も東も関係なく、俺はこいつとどつきどつかれる関係を築くことを今ここで決めたッッ!!
 今まで西か東かって理由も混ぜてバトってきたが、もはや関係無し! 悠介以外にはそういう意味でのどつきどつかれ相手などおらんかった! だがこれからはこやつを認めようッ! 心からッッ!!

夜華(よ、よしっ、覚悟が決まった……! 殴る……人を殴るのだ、私は……!
   そして恐らく、私も殴られる……!
   相手の全てを受け止めるというのは大変なことだ……!
   ならば、これくらいはどうということも───ないっ!)

 中井出が殴りかかる。
 だが三戦の型でガッチリ固めたアタイに隙は無かった。
 さあ、どんとこい! 全て受け止めきってくれるわぁああーーーーっ!!
 とか思っておったら、なんと横からしのっちが拳を放つじゃないか!
 中井出も既に拳を振るっていて、口が「あ」ってカタチになった瞬間、アタイの顔面に中井出の拳、中井出の顔面にしのっちの拳がカウンターでメシャリと埋まった。

彰利「ブゲェエアァッ!! ごっはっ! い、っ……〜〜〜〜ってぇええ……!!」

 まともにくらったのは初めてでしょうか。
 こいつ……伊達に鍛えちゃいません、マジで痛い。
 しかし中井出が堪えたのなら俺も堪える。
 めちゃくちゃ痛いが堪えてみせる。なにせ中井出のヤローはカウンターもらった今でも、足をガクガクさせながら立っているのだから。

博光「《ガタタタタタタ……!》フッ……いいパンチだったぜ夜華ちゃん……!」
彰利「膝、めっちゃ笑っておるがね……おがが、痛ぇえ……!」
夜華「や、夜華ちゃんっ!?」

 三者三様。
 二度の本気を受け取って膝が大爆笑な中井出と、顔面に渾身を埋められたアタイと、夜華ちゃん呼ばわりされて本気で驚いているしのっち。
 ううむ、異様な光景だ。そして僕らのことなぞ完全無視で授業再開してるセンセも、結構ツワモノだ。

夜華「ちゃ、ちゃんはよしてほしいっ! 私はもう、そんな呼び方をされる歳ではっ!」
博光「そうか。じゃあ夜華さんで。
   俺のことはハードボイルドダンディーのリッチモンドさんと呼んでくれ」
彰利「てめぇはハーンでしょうが」
博光「そしてキミはランポスだ」
夜華「は、はーど……?」

 そしてさらに三者三様。
 うむ、話を進めんと教師に怒られる。今でももう十分に怒られるでしょうが。

夜華「いや、だめだっ! 私たちはこれから対等になるんだろうっ!?
   ならば“さん”付けはおかしい!」
博光「や、呼び方くらいで態度は変えないんだけど」
夜華「それでもだっ! 私はお前をひっ……ひ、ひひひ博光、と呼ぶから!
   だからお前も!」
博光「…………本当にいい人だね。大事にしなさいよ、“彰利”」
彰利「オッ……そっか。そだね。んじゃあ俺も。これからさらにヨロシクだ、博光」
博光「おうさ」

 博光と呼ぶだけでも真っ赤っかなしのっちの横で、目の前で足がガクガクな友を名前で呼んだ。すると……なんでしょうね、まるで積年のつかえが取れたかのように、スカッとヒー公。そうだよねー、あんだけ殴り殴られやってたのに、今まで名前で呼ぶことなかったのって、ある意味で貴重体験だよね。

博光「じゃあこれからよろしく、夜華」
夜華「あ、ああ───って待て。私は殴らないのか?」
博光「え? だって試したことが原因で殴られたなら、それでチャラでしょ?」
夜華「待て! それは納得がいかない!
   二人が殴り合い、私も殴ったというのに私だけが殴られないのはそのっ……!
   な、仲間はずれみたいではないか!」

 ないか! ないか! ……ないか……ないかー……(エコー)

博光「……彼女、M?」
彰利「ゴクリ……俺も初めて知った……!」
夜華「えむ? なんだ、それは」
博光「いえなんでも。でもいいの? 俺ほんとに男女差別しないよ?
   殴るっつったら本気で殴るし、
   それが“友情”に関わることなら───マァアジでいくぜェェエ……!!」

 おおっ!? 中井出───じゃなかった、博光が力を溜めている!
 あたかもギルティギアのソルさんが溜めをするかのように!
 溜めのあとのヴォルカニックバイパーはちょっと強すぎだったと思うんだ。

夜華「ああっ! こいっ! これは私から踏み出した初めての友情!
   全てを受け止めると決めた!
   その覚悟が───私にはもう《バゴルシャアアア!!》でぴゅうっ!?」
彰利「うわひっでぇええーーーーーっ!!」

 喋り途中に殴りおった! しかもほんとの本気、マジで!
 しかしながらしっかりと受け止めきり、倒れそうになる体を無理矢理保たせてみせたしのっちの根性たるや、実に見事!! ……あ、でもやっぱり鼻血は出てる。

夜華「いっ……ぐっ……! くぁあっ……!」

 涙を流しながら鼻を押さえる。
 普通なら、どんな前準備があっても怒ることくらいはする場面だが───しのっちは一歩を歩くと、改めて手を差し出した。

夜華「篠瀬、夜華……っ……これで、対等だっ……!」
博光「…………おうっ! 中井出博光! 対等だなっ!」

 お互いの鼻血を拭った手での握手。普通の人ならば奇妙に感じるだろうが、二人は痛みに涙し、鼻血を出しながらも握手を続けた。
 ……あれ? なんかアタイ、蚊帳の外?
 ぬう、なんか血盟みたいで羨ましいんだけど……でももう鼻血止まっちゃってるしな、アタイ。

彰利「ふーーん!《ブビッ》」

 試しに手をティッシュ代わりにするように鼻をかんでみた。
 すると、デロリと出る鼻水。鼻血は出なかった。
 …………やべぇ、ティッシュ持ってねぇ。
 なんかもうこれでいいや。アタイも混ざろう。

彰利「フレーーンド!」

 ベチャリと、鼻水がついた手を二人の握手の上に置いた。
 おお、まるで円陣の中心で手を重ねるがごとき高揚! 素晴らしい!
 ……その後わたしは怒りMAXの二人にボコボコにされた。




【ケース09:晦悠介/放課後帰路タイム】

 ザムザムザム……

彰利「いやぁ〜ンアまいったまいった、まさかああまでボコられるとは」

 帰路を歩む中、顔を腫らした彰利がニコリと笑いながら言う。
 ボコボコなのに笑顔ってのはどうなんだろうな。

彰利「いやしかし有意義な時間を過ごせたよ。夜華さんとも仲良ぉなれたし」
悠介「夜華さん? 篠瀬のことか」
彰利「うす。丁度いいからちょほいと親密度上げてきました。
   アタイがさん付けしたらなんか普通にスルーされたけど……うう、ちくしょう。
   博光ン時はさん付けは嫌だーとか言ったくせに」
悠介「そういうやりとりが普通になってるってだけだろ?
   ある意味身近な存在って思われてるってことじゃないか」
彰利「あれ? そうなん?」

 時々こいつが解らん。
 解らんが、まあそれはそれでいいって思ってる。
 人生なんて自然体のままに馬鹿やって、年老いていくくらいが丁度いい。
 となれば、問題があるとしたら俺のほうか。

悠介「なー彰利」
彰利「オウ? どしたいダーリン」
悠介「ダーリン言うな。……童心ってのはどうすれば外に出せる?」
彰利「…………」

 あ。固まった。
 歩みも止め、田畑が見える見晴らしのいい景色の傍で、ビッタァと。
 しかし急にとことこと歩くと草むらに落ちていた棒を拾い、アスファルトではない地面にカキカキと文字を書いてゆく。

彰利「たんぼ」

 田圃と書いていた。
 ……なにがやりたいのかはさっぱりだ。

彰利「まずは世を楽しむこと。楽しめないなら楽しいを探すこと。
   探しても見つからないなら、
   つまらないことをしまくったあとに今まで自分が居た場所を振り返ってみること。
   それでも見つからんのだったら、つまらんものを楽しいに変える努力をしよう」
悠介「いろいろと大変そうだな」
彰利「そればっかりはしゃーねーさね。
   無駄に大人っぽく成長しちまったんならそういうことにもなりましょう」
悠介「お前や中井出が好き勝手に振り回すからだろうが……!」
彰利「ノンノン、そこでキミもいろいろ気にせず馬鹿やっときゃよかったのよ。
   そうすりゃ大人っぽいガキで居る必要なんざなかった。
   童心を外に出してぇってヤツが、過去の自分を人の所為にしちゃあいけねぇなぁ」
悠介「む……」

 それは、確かにそうか。
 思い返せば妙に大人ぶって、外から見ることばっかりしていた。
 巻き込まれたりしたのは確かだが、あれは彰利なりに俺を引き込もうと頑張ってくれてたのかもしれない。

悠介「ん……わり」
彰利「? ……ああ。やっはっは、解ってくれるだけでサンキューさ」

 謝ってみるだけで笑って返してくれた。
 それだけ意識してやってくれてたってことなんだろう。本当に、悪いことをした。

悠介「自分を出すか。結構難しいことだよな、これ」
彰利「夜華さんはやってみせたよ? なんと、博光に殴られてまで受け入れた」
悠介「あいつも大概だなおい! えっ……殴ったのか!?」
彰利「押忍。本気の本気で殴ってた。夜華さん鼻血出してたし」

 「ちなみにアタイと夜華さんも殴り合いました。一発ずつだけど」と続け、詰め物がしてある鼻の頭をコリコリと掻く友人を見る。
 べつに、男女差別云々を思うつもりはない。
 俺だって、そりゃあ加減はするがゲンコツくらいならすることもある。
 しかしこいつらの本気を受け止めた、って……大丈夫なのか、篠瀬。

悠介「お前なぁ……いっつも無駄に鍛えてるくせに、全力で殴るって……」
彰利「友になるのになにを遠慮することがございましょう。
   それを確かめる方法がたまたま拳だっただけ。
   むしろ博光は話だけでいいって言ったのに、
   夜華さんが殴ってくれと言ったのですから……その覚悟に応えたまで」
悠介「……そか。だったら、俺がとやかく言うことじゃないよな」
彰利「おうさ。出来れば悠介にも仲良ぉしてもらいたいけど、
   それは言ってやってもらうようなことじゃあねぇべさ。
   悠介は自然に仲良ぉなってくりゃれ」
悠介「ああ。俺のペースでのんびり行くよ」

 とはいっても、せっかくの高校生活。
 一歩を踏み出すなら早いうちのほうがいいだろう。

悠介「よし彰利」
彰利「ホイ?」
悠介「久しぶりにお前の家でゲームでもするか」
彰利「え───マジ!?
   よっしゃあ今日はオールナイトだぜ! パイロットウィングスのみで!」
悠介「お前まだそれやってるのかよ!!」
彰利「だってゲームって高いんだもん!
   だが……ククク、他の猛者どもが新しいゲームにうつつをぬかしている間、
   ずっとずぅっとパイロットウィングスをやっていた俺に隙はねぇぜ……!?」
悠介「……俺はそれにすげぇって言ってやればいいのか、
   寂しいやつだなって言ってやればいいのかが解らん」
彰利「魂の言葉でGO!!」
悠介「寂しいやつだな」
彰利「チクショォオオオオーーーーーーッ!!!!」

 きっぱり言ったら頭を抱えて叫びだした。
 しかし次の瞬間には「俺……給料入ったらゲーム買うんだ……」と無駄に死亡フラグを立てていた。

悠介「バイトも明日からか」
彰利「いやぁ、学校公認のバイトって楽しみだよね。
   授業の一環だっつーんだから余計さ」
悠介「新聞配達っていうのがまた面白いもんだけどな。深夜3時集合だっけか」
彰利「オウヨ。今日は早めに寝て、バイト終わったら寝ずに遊ぼう」
悠介「明日のガッコが苦痛になるようなこと言うなよ……」
彰利「ダイジョーV! なぜなら明日は体育がある!
   体育! それは天の川高校ではバトルの時!
   体育の時間だけは必ず西側とかぶるように出来ているそれは、
   もはや合法バトルの時間! 最強!
   さあ悠介! いますぐ自分のペースで童心を目覚めさせるんだ!」
悠介「今すぐって言ってる時点で自分のペースじゃないだろそれ!!」

 今日の彰利は随分と高揚している。話していて解るほどに。
 何があったのかを訊いてみれば、ダチが出来たと……それだけを言う。
 なるほど、さっきの話か。

彰利「つーわけで明日……俺、やるぜ?」
悠介「なにをだ」
彰利「西には負けぬ!
   東のプライド云々じゃなくて、なんか俺自身が負けたくねーから!
   東が負けても俺は負けねー! そのつもりでぶつかる所存にございます!」
悠介「……それ、いいな」
彰利「いいっしょ!? 名言だよね!?」

 西や東の話はガキの頃から散々と言われてきた。
 この七夕に住むのなら、親からはしつこいほどに何度も。
 そんな馬鹿なと考えてみても、境界線の傍で出会った西のヤツは本当にこちらを嫌っていて。それは自分が気に入らないとかではなく、西だから東だからという……自分ってものがまるでない、つまらない意思から出たものだった。
 そんな中で出会った中井出ってヤツはガキなりに馬鹿なヤツで、西とか東って言葉にへりくだるどころか利用してまで自分ってものを突っ込んできた。当時、大人ぶっていた俺は、べつに殴られて負けて、東が馬鹿にされることくらいどうでもいいとさえ思っていた。
 なのにそいつがあんまりにも自分ってものでぶつかってくるもんだから、負けるわけにはいかなくなっていた。東が負けてもいい。でも、自分が負けるのはたまらなく嫌だったのだ。

彰利「悠介?」
悠介「ん……ちと、昔のこと思い出してた」

 そういう意味でならこいつも同じだ。
 同じ東であったからだろうが、こいつも“自分”で向かってきた。
 三人で西も東も関係なく喧嘩して、中井出だけが東側に転がり、小遣いを減らされた。
 今思えばひどいことをしたなぁと後悔。
 なんだかな……こいつや中井出に会わなかったら、俺ってどれほど嫌な大人になってたんだか。いろいろ気づけないままに他人を見下している自分しか思い浮かんでこないところがたまらなく嫌だ。
 よ、よしっ! 自分を変えよう! 自分改革! 自分革命! レボリューションマイセルフ! ……なんか違うか? ええいとにかく自分を変える!

悠介「よしっ! 彰利、俺は自分を変えると決めた!」
彰利「なにぃ!? 何故いきなり!? だがその意気やブラボー!!
   ではまず恥ずかしさを無くす努力をしようぜ!」
悠介「応! なんでも言ってくれ!」
彰利「ようしではまずアタイを肩に乗せて両腕を横に伸ばして笑いながら走るんだ!」
悠介「それで俺が変わるのか……望むところだ!!」

 彰利が「エ?」と一瞬真顔で驚くが、すぐに靴を脱いで俺の膝を蹴って肩に駆け上がる! つーか肩に乗せてってそのままの意味か!? 肩車じゃなくて立つのかよ!
 ……ハッ!? いや、ツッコむな! 本能で戦え!

彰利「よし行くぜ悠介!」
悠介「よし行くぜ彰利!」

 そして走りだす!
 絶妙にバランスを取る彰利とともに、両腕を広げてトーテムポールと叫びながら……!

奥方「あらまあ、最近の子供は元気ねぇ」
奥方「きっと高校生になって浮かれているのよ。微笑ましいじゃない」


───……。


悠介「奥様がたの笑いものになったじゃねーか!!」
彰利「だから恥を克服するためにやってんでしょーが!!」

 正気に戻って彰利を下ろして絶叫祭り。
 おかしいから待て待て! 確かに恥を克服するためって話だったが、だからってわざわざ恥ずかしい真似をする意味がどこにある!?

彰利「フッ……呆れたぜ悠介。お前の本気ってのはその程度のものか……?」
悠介「なに……?」
彰利「自分を変えるってのは大変なことさ。お前は今、それを成そうとしている。
   それが苦痛じゃないわけがないじゃないか。
   なのにお前はその苦痛の先に足を進ませようとしない。お前はそれでいいのか?」
悠介「いやちょっと待て! それとこれとは───」
彰利「バカヤロー! 理屈で考えようとするな!
   そんな自分を変えたいんじゃねーのかテメーワ!」
悠介「───!」

 そ、そうだ……その通りだ。
 俺は何をやっているんだ……俺は、俺を変えようとしていた筈だろ……!?
 なのにまた適当な理屈をつけて───!

悠介「そうだな! 俺が間違ってたよ彰利!」
彰利「オウヨ! じゃあ早速次へ行こうぜ!」
悠介「ああ! なんでも言ってくれ!」
彰利「押忍!
   俺を肩に乗せて両手を広げながらルナヴァルガーを熱唱しつつ走るんだ!」
悠介「なんで絶対にトーテムポールをやるんだよ!!」
彰利「ばかもん! 考えたら負けだってのが何故解らん!」
悠介「くっ───よしやってやる! 自分革命だぁあーーーーーーっ!!」

 言うや彰利が膝を蹴って肩に乗る! 例のごとく肩車ではなく、肩に乗る形で!
 そして俺は走りながら叫ぶように歌うのだ!

悠介「そぉうっ! わぁったしはルゥウナヴァーールガァーーーッ!!
   魔獣戦士ルゥッナヴァーールガァーーーーーッ!!」
彰利「キャアアステキーーーッ!!」

 俺は走った。
 田圃通りを抜けてアスファルトを蹴って。

女子「クスクス……ねぇあれ、クラスの……」
女子「わあ、あんな人だったんだ」


───……。


悠介「クラスメイトから失笑くらったじゃねぇか!!」
彰利「だから気にすんなっつーとるでしょうが!!」

 クラスメイトの視線から逃げるように角を曲がりまくって、辿り着いた路地で彰利を下ろして絶叫祭り。
 つーか見られた! 笑われた! ぐおおお恥ずかしい!

彰利「悠介よ……知りなさい。
   ここで引いて指差して笑ってくるようなやつらなら、むしろ我らは願い下げ。
   俺たちゃ俺達らしく過ごしていきゃあいいのよ。人間関係ってのは大事だぜ?
   集団思考で相手を指差して笑うやつらなんざほうっておきゃあいい。
   むしろ笑って混ざってくるようなら喜んで受け入れましょうぞ。
   それでいいじゃない。それがいいじゃない」
悠介「うぐっ……言いたいことは、よく解ってるつもりなんだけどな……」

 この羞恥心はどうにもならん。
 こんなもんを乗り越えた先に居る彰利や中井出が、心底すごいと思える。
 思えるんだが…………困ったことに、そこにきちんと混ざりたいって思う自分も、否定出来ずに自己主張を続けていた。もう、ずっと前から。
 だから変わる必要がある。つーか変えなきゃ自分の胃が壊死するわ。
 つまりこれは俺のためであり、揺ぎ無い“自分”を守るためのレボリューション。
 利己的? 好きに言え。その利己の先でこいつやあいつが笑ってられる自分を、俺は生涯目指し続ける。それがダチってもんだと思ってる。

悠介「……彰利、もう一度だ。次はもう挫けない」
彰利「オッ……《ごくり……》やる気……じゃね?」
悠介「ああ。今度の俺はちょっと強ぇえぞ」

 もはや引く気も待ったもなし。
 やったろうじゃねぇか……もはやこの俺を止められる羞恥など存在せん!!

悠介「フレンドリー合体! Aメカ!」
彰利「フレンドリー合体! Bメカ!」

 適当に言って構えた言葉に即座に反応を示す彰利!
 やることはさっきと変わらずトーテムポールだが、しっかりと掛け声を出すと心に勇気が沸いてくる! ……吹っ切れたとも言うが。

悠介「重機動メカ! トーテミックランナー!」
彰利「じゃがじゃーーーーん!!」

 心の背景がどっかーんと爆発した。
 恥ずかしいが知らん。
 通りがかりの奥方にも笑われたが知らん! ええい知らん!!

悠介「いくぜ彰利! お前の家でパイロットウィングス祭りだぁああっ!!」
彰利「おおおぉっ! やったろうぜ親友! ゴー! ゴッゴッゴーーーッ!!」

 俺は走った! なんだかもう楽しくなってきて走った!
 心に勇気を! 胸に希望を!
 調子に乗って妙なことを絶叫しながら走った! 彰利も一緒になって叫んだ!

彰利「キャア! 曲がり角から人影アリ!」
悠介「構うもんか! ウヒャヒャヒャヒャヒャ! 俺は自由! 自由だぁあーーーっ!!」
木葉「───……お兄様?」
悠介「ぐああああああーーーーーーーっ!!!」

 そして───曲がり角の先で学校帰りの妹と遭遇して、大地に蹲って号泣した。


───……。


 …………。

彰利「いい加減元気出しなさいよぉ。木葉ちゃんも笑っとったじゃない」
悠介「うう……いっそ殺せぇえ……」

 現在彰利の家。
 今日は彰利の家に泊まることを木葉に言ったら、なんか一緒についてきた。
 で、俺はその間から今も、妹に目を向けられない恥ずかしいお兄ちゃん状態なわけで。

木葉「驚愕でした……まさかお兄様があのような」
悠介「あぅううう……」
彰利「ほっほ、まあまあこのちゃん、そんぐらいにしときんさい。
   悠介も自分を変えたかったとかで、頑張っとったんじゃけぇのぉ」
木葉「自分を変える……ですか。
   なるほど、妙に大人ぶったお兄様には、確かに必要かもしれませんが……」

 「あれはどうでしょう」と続けた言葉がトストスと胸に刺さる。
 ああもうほっといてくれ、俺はもういっぱいいっぱいなんだよ。

彰利「まあせっかくだし、妹に見られながらなら羞恥もズタボロになるっしょ」
悠介「気楽でいいなぁお前!」

 だがやると決めたからには真っ直ぐに進む。
 いや、この場合は逸れたほうが二重丸なのか?
 ええい考えるな、本能でいけ。叫びたくなったら素直に叫ぶようなノリでいいんだ。

悠介「よし、じゃあパイロットウィングスやるか」
彰利「その前にぷよぷよやろーぜ! アタイ最近必勝法思いついちゃったわけよー!
   名づけて、アーチェスペシャル!!」
悠介「それこの前トランプやってた時にも言ってただろ!
   ───フッ、だが俺とてぷよぷよの必勝法など編み出し済みよ……!」
彰利「顔真っ赤ですよ?」
悠介「スルーして話続けろよ!!」

 それから、ゲームをし続けた。
 木葉は宿題があるからと勉強に励み、俺と彰利はゲームを。

悠介「あっ! てめっ! そこにおじゃまぷよ置くなよ!」
彰利「うるへー! さっきからぺちぺちと落としてきやがって!
   おりゃー! これで致死連鎖じゃーーーい!」
悠介「だったらこっちも───ぐあっ! アテが外れた! 連鎖が続かねぇ!」
彰利「おっしゃ勝ったァーーーッ!!」
悠介「だぁもう次だ次! ツインビーでどっちが生き残っていられるか勝負だ!」
彰利「おお懐かしい! ならば勝負!」

 彰利の家には昔のゲームばかりがある。
 最近のハードのものはとんとないが、昔のものならば豊富だ。

彰利「ギャア死んだ! じゃあ次はチャイニーズワールドだ!」
悠介「いいや! ここは“いっき”だ!」
彰利「おおおおいいね! 百姓の強さ思い知らせてくれるわ!」
悠介「いっくぜぇえ彰利ぃいいっ!!」
彰利「おぉ! やったろうぜ悠介ぇえええっ!!」

 いっきをセットし、開始。
 そして戦った。戦い続けた。
 民となった俺達は巨大な壁と戦い続け、ふと携帯電話のアラームに肩を弾かせると……時は、既にバイトへ向かう時間であった。

彰利「あの……めっちゃ眠いんスけど……」
悠介「……俺もだ……」

 いっきをやっている間はハイテンションで眠気などなかったんだ。
 しかしそれから意識が逸れた途端、俺達は睡魔に襲われていた。

悠介「……童心も……ほどほどがいいってことだろうか……」
彰利「いや……後悔しても笑える勇気が童心なのさ……」
悠介「…………いいな、それ……。後悔しても笑えるなんて最高じゃないか……」

 バイトが終わったらまたいっきでもしよう。
 俺達はお互いを励まし合って、とっくに布団にもぐっていた木葉におやすみを告げ、バイトに向かうのだった。





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