───邪族───
ズシャア!
悠介 「ぐはっ!」
どかぁあああああん!!
悠介 「ギャーッ!!」
滑って落ちた途端、地面が炸裂した。
悠介 「な、なん……」
オロオロとしながら辺りを見ると、そこはルナの大根畑だった。
悠介 「……何故?」
何故にここに繋がってるんだ……。
いや、今はそれよりも……。
悠介 「どうやって出ようか、この畑から……」
試しに傍にあった大き目の石を投げてみた。
するとドガァアアアアアン!と地面が爆発した。
……だから。
どっからこんな地雷なんて持ってきたんだよあの馬鹿死神は……。
助走つけようにも、一歩退いたら爆発するかもしれない。
……ならば。
悠介 「…………これしかないよな」
俺は石をぽいぽいと投げていった。
その度に地面が爆発する。
……ただの一度も爆発しない場所が無いのはどうしてだろうなぁ。
ああくそ、こういう時に創造の理力が完全に馴染んでいれば……。
悠介 「……よし、一度爆発した場所なら爆発はしないだろ」
ひょい、とバコォオオン!!
悠介 「ギャーッ!」
爆発した。
どうなってるんだよこれ!
悠介 「ゲホッ!ゴホッ……!ど、どうやら殺傷能力のある地雷じゃないようだ」
まあそりゃあ猿撃退くらいなら本物の地雷なんて使うわけがないよな。
よっしゃあそうと解れば怖いけど無視できるぞ。
悠介 「突貫ーーーっ!!」
バコォン!ドカァアアン!ガシャァン!
悠介 「───ウィ?」
足を見ると、トラバサミが見事に
悠介 「ぐっ───あぁああああああがぁああああああああああっ!!」
痛ぇ!こりゃ痛いわ!
彰利でも叫びまくってたのがよく解る!
悠介 「くっ、ぐ───がぁあああああっ!!」
足に食込んでいるトラバサミを家系の腕力にモノを言わせて広げていく。
悠介 「はぁ───っ!」
その内に足を退け、手を離した。
ガッシャァアン!
ゾッとするような金属音を奏で、俺の血を吸ったトラバサミは締まった。
悠介 「くぅう……あの馬鹿……!」
俺は彰利じゃないからいきなり修復することなんて出来ないんだぞ……?
……なんか改めて考えるに至り、あいつのバケモノっぷりを再確認してしまった。
ありゃああれだ。
ストレイツォも裸足で逃げるぞ。
太陽光なんてまだるっこしいこと抜きで光れるし、ほぼ出来ないことなんて無いし。
時も跳ばせるし瞬間移動も出来るし歴史の移動も出来る上にホモだしオカマだし。
非の打ち所がありすぎて困るくらいだが、それがあいつの持ち味……か?
嗚呼、今はそんなこと考えてる場合じゃないな。
なんにせよこのトラバサミは猿がくらったら足が飛ぶぞ。
妙にえぐれたのか、血がドバドバ出てるし。
こりゃあ手当てしないと出血多量で死ぬぞ……。
悠介 「って、そうしたいんだけどなぁ」
痛みのあまりにイメージは纏まらないし、纏まったとしても成功するか怪しい。
少なくともあと何日かは待たないと理力が完全には馴染みそうにない。
くそ、まいったなぁ。
彰利 「ダーリ〜ン」
絶望を体感していると、景色の先の方から彰利が歩いてきた。
その背にはセレスが。
彰利 「元気かい?」
悠介 「これを見てそういう質問するか?」
彰利 「うお、こりゃグロテスクな。何か創造して止血すりゃいいじゃん」
悠介 「それが出来るんだったらとっくにやっとるわ。
大体創造理力が完全に馴染んでないのに創ったりして、
それでもし気絶したらその時点で御陀仏だろうが」
彰利 「あ、そうか」
悠介 「悪いけど、これ直せないか?
なんか気持ちよくなってきた。そろそろヤバ気だ」
彰利 「うおっ!?そりゃいかん、今すぐ直すからまずその血をこれに」
そう言って、彰利はセレスのグラスを見せた。
悠介 「なるほど、経済的だ……」
彰利 「だろ?って、待て待て!オチるな!死ぬぞ!」
悠介 「───……」
彰利 「チィ、こりゃあルナっちもシャレにならんものを作ったもんじゃ。
……よし、血液採取完了!さてそれでは……ベホイミ♪」
パァァア……。
悠介 「こんな時にまでパクんな……アホゥ」
彰利 「おお、意識はあったかいダーリン。だがまあそう言うな。
こういう時だからこそ、絶望的な会話は危険なのよ。
少しは砕けてた方が生への希望が持てるからのう」
そんなもんか……?
彰利 「それにしてもなんでマァムのベホイミはパァアとしか鳴らんのだろうな」
悠介 「知るか……」
彰利 「それ以外にもあったかもしれんが、今はもうどうでもよかギン。
よっしゃ、もう治ったぜ?飛んでも八分、歩いて十分。
飛んでも跳ねても暮らし安心ぞ?そして俺に盛大に感謝しろ」
悠介 「ああ、そうだな。サンキュ」
彰利 「うっしゃあ、そういうわけで吸血鬼さんに血を飲ませて───と」
彰利がセレスを降ろして血を飲ませる。
飲ませるといっても口に流し込んでいるだけなのだが。
しかし本能が察知したのか、セレスは意識の無いままに血を吸い上げ、目を開けた。
セレス「………」
そして、俺と彰利を見る。
セレス「……仕掛けたのは、あなたですね」
ギラリ。
彰利 「え?あ、お、俺は悠介に脅迫されたんだ!」
悠介 「なにぃ!?」
珍しく人をダシに使い、逃走を図る彰利。
しかし目を真っ赤にさせた本気モードのセレスにあっさりと回り込まれた。
彰利 「ふはははっ!それで勝ったつもりか!
月聖力よ!邪族のセレスさんの動きを封じよ!」
彰利を中心に、地面に光りが広がってゆく。
ゼノとの戦いでやったアレだ。
セレス「……なんたる児戯。くだらない」
しかし効いていないのか、そのままスゥ……と近づいてくる。
彰利 「え?あれ!?ウソ!」
セレス「力の加減というものを知っていますか?
わたしは怒り、暴れることよりむしろ、冷静でいる方が力が強いんですよ。
能力の扱いも冷静に出来ますしね。制御だって言うまでもない……」
うわ、なんかヤバい。
冷静ながらにキレてる。
セレス「初めてですよ。ここまでわたしを怒らせた輩は。
せっかく人間の暮らしにも慣れて、穏やかになれたと思ったらこれです。
平穏を邪魔されることがここまで腹立たしいとは思いませんでした。
ですが不思議ですね。ここまで怒りながら、それを制御できるなんて。
ええ、なんだかとっても───」
───何かを破壊したい気分───
そう言った途端、彼女の漆黒のマントがバァッ!と開いた。
その刹那、その場に殺気が溢れる。
目は依然として真っ赤なままで、目の前のそれはなんというか───
彰利 「ギャアア!シャレになってねぇーっ!」
セレス「冗談などで本気になる愚か者と同視するか、このわたしを。
所詮は人間の見解。わたしの思想には到底及ばぬ愚考よ。
───ああ、長かった。
結晶と化した血の中で、どれほどこの瞬間を待ち侘びたことか。
ハンターに追われ討たれた際、血に全てを託してわたしは待ったのだ。
ああ、そうだな。そのことに関しては貴様に礼を言おうか。
我が人格、呼び起こしたことに感謝しよう。───そして死ね」
───もう、セレスじゃなかった。
彰利 「ちょっと待てーっ!ゼノでさえ止められた月聖力だぞ!?
それが効かねぇってーと他のも望み薄いじゃねぇの!
ていうかいきなりバトル!?南瓜祭りはどうなるの!?ていうかメシは!?」
セレス「───つまらん」
彰利 「はい?」
セレス「腑抜けが、失望させてくれる。
わたしに牙を剥いたのだからどれほど勇ましい者かと思えば。
───逃げ腰の者になど興味はない、失せろ」
彰利 「……な、なんだと貴様コンチクショウ……!」
セレス「そこの貴様」
悠介 「え?」
セレス「そうだ、貴様だ。貴様はどうだ?わたしを楽しませてくれるのか?」
悠介 「……やるっていうなら相手になる」
彰利 「だぁあっ!馬鹿言っちゃならねぇーっ!」
セレス「ほう、面白い。
たとえ冗談でも、わたしを前にそこまで言えれば大したものだ。
いいだろう、かかってくるがいい」
彰利 「な、なに考えてんのさダーリン!あやつの強さ、ゼノ以上ぞ!?」
悠介 「そんなこと言ったってな。セレスの人格戻さないと収拾つかんだろ」
彰利 「そりゃそうだけど……!」
セレス「どうした。ふたりがかりでも構わんぞ?」
悠介 「いいや、俺ひとりだ。どんな手段を使ってでも勝つ」
セレス「……いい目だ。かつてわたしを屠った輩も、そのような目をしていた」
彰利 「ああんもう……!どうして楽しい祭りになるはずがこんな状況に!!」
彰利が両手で顔を覆ってわぁっ!と泣いているのを横目に、
俺は体制を低くしてセレスに向かって走った。
セレス「愚かな。正面からくるか、わたしを相手に」
悠介 「相手の力量が解らないんだったらどっから攻めても無駄だろっ!
おおぉおおらぁああっ!!」
どがぁっ!!
セレス「───ほう、これはいい。貴様、ただの人間ではないな?」
大振りの拳を受け止めたセレスが笑う。
セレス「だが甘い。所詮は人間か」
ドンッ!
悠介 「が───はぁぁああっ!!」
どがぁっ!ざっ!どしゃぁっ!
悠介 「ぐ……!げ……ふ……」
息が漏れた。
軽く押されただけでこれかよ……!
セレス「たった一度の攻撃でわたしを屠る気か貴様。
相手を怯ませることは出来ても、次の備えが無ければ勝つことなど叶わぬ。
───いや、違うな。貴様、元よりわたしを倒す気が無いな?」
悠介 「あ……ッたり前だ馬鹿……!セレスは俺の大事な家族だ……!」
セレス「家族?ふふっ家族か。これは面白い。人間風情がわたしを家族と。
くっ……ふふははははははははははははははっ!」
彰利 「なッ……なにがおかしい!」
悠介 「お前はだぁってろ、ファンタジーアニメみたいなことやってんじゃねぇ」
彰利 「いいじゃない、こういう時じゃないと出来そうにないし」
いつでも何処でも馬鹿は馬鹿だった。
セレス「だが、それもまた道理。
完全に純血のヴァンパイアなど存在しないのだからな。
わたしとて、元は人間。くだらぬ思想の果てに邪族に堕ちた者。
が、だからこそ真なる吸血族。
人間であることを放棄し、人間である要素の全てを反転させ、邪族となった」
彰利 「……おい、なんか語り始めちゃったぞ」
悠介 「ツッコむな。もうちょっとでキそうだ」
彰利 「キそうって?」
悠介 「小さなイメージを少しずつ溜めてる。これなら馴染んでなくても出来るだろ」
彰利 「……考えたな」
セレス「……もちろん、その際に人間であった頃の記憶など消えた。
全てを反転させたのだ、当然だろう。
……もっとも、自分が自分に残した書記で全てを理解したが。
───人間、名をなんという」
悠介 「えっ!?お、俺!?」
彰利 「ハイハイハーイ!とくと聞いて脳髄に焼き付けろ!
俺様の名はァーッ!弦月ィー彰利ィーッ!!」
ギンッ!
彰利 「お?おぉうぉわぁあああああああああああっ!!!」
ドガァアッ!!
彰利 「っは───!!」
どしゃっ。
セレスが目を見開いて彰利を睨んだ途端、彰利がスッ飛ばされて壁に激突した。
セレス「腑抜けに訊ねることなどない。思い上がるな」
彰利 「ひ、ひどいや……」
がくっ。
あ!気絶しやがった!
悠介 「……晦 悠介。それが名前だ」
セレス「晦悠介か。その名、覚えよう。……さあ、案内しろ」
悠介 「……はい?」
セレス「朝食があるのだろう?案内しろ」
悠介 「……食うの?」
セレス「愚問だ。訊ねる意味もないことを訊ねてわたしを失望させるな。
そこで崩れている腑抜けのようにはなりたくあるまい」
悠介 「ア、アイアイサー!」
その瞬間、蓄積したイメージは消えてしまった。
俺は諦めて彰利を抱え───
セレス「捨ておけ。腑抜けと食事をとるなど、不快極まりない愚行だ」
……うう、怖いよぅ。
……その日の朝食は散々なものだった。
視線をずらせばルナが壁にめり込んで気絶してるし、
見上げれば乗り込んできた彰利が天井にめり込んで気絶している。
……いきなり『ネッキー、醤油とって』はヤバイとは思ったんだ。
案の定、見えない力でフッ飛ばされ、壁にめり込んだ。
ルナは腑抜け2号さんに任命されてしまったし。
水穂 「セレスさん、お茶どうぞ」
セレス「ふむ、なかなかに気が利く。淹れ方も巧いようだ」
他の人は、そのただならぬ殺気に気づいたのか震えている。
が、家系の者ではなく、そういうのに敏感ではない水穂は全然いつも通りだった。
ガラッ……。
ふと、天井から物音が聞こえた。
重力によって、彰利が落ち始めてきベキャァッ!メリメリメリィッ!
彰利 「ギャーッ!」
……彰利がまためり込んだ。
セレス「黙れ腑抜け。殺さないだけ有り難く思うことだ」
彰利 「なっ……な〜んぬかっしゃぁとかこんげらぁああああっ!!」
バコォッ!
自力で天井から抜け出し、彰利が降りてきた。
彰利 「勝負しなさい吸血鬼!もはや手加減の必要はねィェーッ!!」
セレス「………」
彰利の罵倒に黙って立ちあがると、
セレス「表へ出ろ。ここでは他の者に迷惑だろう。
……否。むしろ貴様が迷惑の具現か」
彰利 「ほ、ほっとけこの野郎!ってそこ!頷いてんじゃね−っ!」
悠介 「いや、その通りだ」
彰利 「肯定もしないでーっ!」
セレス「腑抜けが……対立する時くらい相手を直視せよ」
ドンッ!
彰利 「またですかーっ!?」
どがぁんっ!バリィッ!ガシャァアンッ!
彰利がフッ飛ばされ、庭に倒れた。
彰利 「あ、あいたたたた……」
セレス「とうに始まっている。その体勢のままでいいのか?」
彰利 「!おわっ!」
セレス「……どうした、かかってこないのか?」
彰利 「うっさいわい!くらいやがれ!霊丸ーッ!」
彰利がアンリミテッドストリームを放つ。
それがセレスの腕を捉え、フッ飛ばした。
セレス「……ふむ。破壊力はそれなりか。だが」
しかし腕は空中で静止し、セレスの下に戻って何事もなかったようにくっついた。
彰利 「うそぉん!」
セレス「悠介にも言ったが、一撃でわたしを屠る気か?」
彰利 「なにぃ呼び捨て!?てめぇ死なす!月切力!」
ヒィンッ!
怒り任せに、人体の致命傷を避けた攻撃が、セレスをズタズタにしてゆく。
しかし。
セレス「対人間用になら役立つかもしれぬが───」
切れた断面は、もう見えなかった。
セレス「相手が悪かったようだな。わたしではそれも無駄に終わる」
うーわー、ゼノと比べりゃ別格だわこりゃあ。
あの時このセレスがいりゃあ、あっさり勝てたじゃない。
彰利 「───ああくそっ!もうどうなっても知らねぇからなぁっ!
アルファレイドカタストロファァアアアアアアアアアアアアッ!!」
ゴウッ!
悠介 「だぁあ馬鹿!またここを破壊───ぎゃああああ!!」
セレス「───」
ブワッ!
悠介 「───あら!?」
眩しくて仕方なかった景色は、あっさりと落ち着いた。
見れば、セレスがマントを手から離していたところだった。
彰利 「───はぁっ!───はぁ……はぁ……!
う、うそだろ……!弾くかよ、あれを……」
突然呼吸を荒くした彰利がその場に倒れた。
セレス「……腑抜けと謡ったこと、撤回しよう。
だが、武力を持っていながら退きに徹するのは愚ではないか」
悠介 「いや、こいつは根が馬鹿だから、
いつでも冗談言ってなきゃ気がすまない奴なんだ」
セレス「……なるほど、合点がいった。しかし困ったな。
最後の攻撃は予想外だった。力を使い果たしてしまった……。───悠介よ」
悠介 「ぎっ───な、なにか?」
セレス「わたしはもうしばらく眠るとしよう。
そして今度会った時こそ、貴様の力を試そう」
───結構です。
そう言いそうになるのを必死に止めた。
セレス「───はっ!?」
ビクンッ!と肩を跳ねさせたセレスが辺りを見渡して、俺を見た。
セレス「………?」
その目は、いつものセレスのものだった。
悠介 「朝飯が出来た。食おう」
セレス「え?あ、はぁ……」
そして遅い朝食を食べ終わるまで、セレスは終始『?』顔をしていた。
もう、庭で倒れた彰利なんて完全に無視だった。
───愛が溢れる。
それはもう、吹き零れる煮汁の如く。
冗談だということは言うまでもないが、よく解らんほどに高揚する。
それが、祭りというものの魔力である。
悠介 「しかしまいったな、俺も行きたいのはやまやまなんだが。
クラスメイト……いや、学校関連の者供には会いたくないな。
せっかくの祭りがシラケる」
木葉 「……お兄様、落胆したのなら盛り上げればよいのです。
お兄様の周囲にはその元となるものが溢れかえっていると存じますが?」
悠介 「……否定出来ないな」
木葉 「お兄様。木葉もお兄様の力添えが出来るのであれば、
それほど光栄なことはございません。
恐れることはありません、お兄様は独りではないのですから」
悠介 「……あのさ、やっぱりなんとかならないか?その口調」
木葉 「……?なにか、至らぬところがございましたでしょうか……」
悠介 「いや、もう何度も言ってると思うんだが……はぁ」
木葉 「些事に過ぎません。木葉は木葉ですよ、お兄様」
……まあ、違いない。
若葉 「木葉、おにいさま。そろそろ行きましょう。
そろそろ始まる頃合です、遅れるのは癪に障ります」
悠介 「だな。いくか」
───ハロウィン。
とうとうこの時が来た。
べつに自分達がなにかをするわけでもないのだが、
俺達……いや、この街に住む者にとっては初めての催し物。
聞いた話だが、南瓜の行動範囲はまるっきりの自由。
最初はみんな一緒の場所から移動を開始するらしいが、
今日一日は南瓜が起こした暴挙はどんなことでも許される。
もっとも、まともな人間良識内での話だ。
俺はとんでもないことをしでかす南瓜に一機だけ心当たりがある所為で、
心中穏やかじゃなかった。
ああ、そうそう。
暴挙を許可する代わりに与えられた試練がひとつだけある。
この、晦神社の境内まで行き、破魔矢を入手すること。
もちろん渡すのは姉さんだ。
数人の南瓜の内、ひとりは確実に平気だろうが───……
他の人が、この石段を登りきれるだろうか。
まったく、おエライさんも酷なことをする。
……まあ、その所為かなこれも。
悠介 「……うざったいな」
木葉 「同意見です。
所有者として排除することも可能ですが、どう致しましょうかお兄様」
若葉 「木葉。おにいさまが祭り好きなのは知っているでしょう?」
悠介 「………」
目を見張る。
神社に人が来ること自体が珍しいというのに、その場には人がごった返していた。
女A 「あ、あー!更待先輩じゃないですかーっ!」
春菜 「え?あ、えっと」
女B 「先輩!どうしたんですか!?こんなところで!」
春菜 「え〜〜〜〜〜と…………」
女A 「ううん、そんなことより巫女服似合ってますーっ!きゃーっ!」
女B 「ああんもう!カメラ持ってくればよかったー!」
春菜 「……はぁ」
……ああ、そういえば在学中に言ってたな。
うるさい後輩が居る、って。
俺はそんな姉さんを遠めに見て苦笑した。
女B 「もしかしてここでバイトしてるんですか!?
あ、もしかして正規就職ですか!?ステキすぎます!」
春菜 「あ、あのね……?」
女A 「わたしも卒業したらここに就職しよ!それがいいっ!」
春菜 「ぐあ……!それはだめっ!」
女B 「え?どうしてですか?」
春菜 「だってそんなことしたらわたしの平穏───ごほっ!ごほっ!
えーと、自分の道をそんな簡単に曲げちゃだめでしょ?」
女A 「いいえ!不良にからまれてるところを救われて以来、
私の道は先輩の道との連結を果たしたんです!!
いわば運命です!運命の出会いだったんです!」
春菜 「───」
運命。
そう聞いた言葉に、姉さんはもちろん……俺も目の色を変えた。
春菜 「……奈々」
奈々 「───は、はいっ!」
その雰囲気を感じ取ったのか、奈々と呼ばれた女Aが姿勢を正した。
春菜 「運命という言葉……そんなに軽々しく口にしないで、と。
そう、言ったはずだったわよね……」
奈々 「あ、あの……あの……」
久しぶりに本気モードの目に変わった姉さんの視線が女Aを居抜く。
たまったものではないだろう。
俺でさえ、今でもあの目だけは苦手だ。
春菜 「解ったらもう行きなさい。
元々、この場所は祭り事などに使っていい場所ではないのですから」
奈々 「───……」
春菜 「まだ、なにかありますか?」
奈々 「……その、ひとつだけ」
女B 「奈々……」
奈々 「噂で聞いたんですけど、先輩……ここの養女になったって……」
春菜 「……事実です」
奈々 「……そんなっ!
それじゃああの晦悠介と一緒に暮らしてるってことじゃないですか!
どうしてこんなことに!先輩、わたしの家に来てください!
一緒に暮らしましょうよ!こんなところで扱き使われるよりは」
春菜 「───」
ギン、と。
姉さんの目が怒気を含んだ。
春菜 「ひとこと。言っておきましょうか。
噂でしか義弟を知らないあなたに、
そこまで言われる筋合いも義理もありません。
噂に怯え、言葉を鵜呑みにして、
本当に自分を助けてくれた人すら見失う者が、
どうして人のことを語れるつもりですか」
奈々 「え───?」
春菜 「あの時、不良からあなたを助けたのはわたしではなく、
義弟だと言っているんです。そんなことすら憶えてないんですか」
奈々 「そんな───だって」
春菜 「わたしは言った筈ですよ?わたしはあなたを助けた憶えはないと」
奈々 「───」
女B 「………」
春菜 「……もう、行きなさい。
祭り事の際でこんなことを話すこと自体、どうかしています」
奈々 「───……最後に、もう、ひとつだけ……」
嗚咽を噛み締めるように、彼女は言った。
奈々 「先輩の言う、晦悠介は……
噂通りじゃないのなら、どんな人だって言うんですか……?」
春菜 「……奈々。一度しか言わないからよく聞きなさい」
奈々 「───」
春菜 「…………とっても、やさしいコだよ。とくに、自分の周りの人にはね」
奈々 「あ……」
なんて。
なんて、いい笑顔をするのだろう。
そんなことに驚くように固まった彼女は、やがて涙をこぼした。
春菜 「おまけに言っておこうか。
最初に悠介くんを拒絶したのは悠介くんのクラスメイトだったの。
それからというもの、ず〜っとその拒絶した人が言いふらしてね。
あいつは怖いやつだ、とか。バケモノだ、とか。
そいつとも中学で別の学校に別れて、中学校は穏やかだったらしいけど」
ぺしんっ。
春菜 「いたっ」
悠介 「ストップ。人の過去を暴露して何が楽しいんだ姉さん」
故意に『姉さん』と呼んだ。
自分でもどうしてかはよく解らなかったけど、多分───嬉しかったんだと思う。
この人は本当に家族として、知り合いとして、先輩として。
いろいろな気持ちで俺を心配してくれてるから。
それが解ったから。
奈々 「───あなた、なんですか?」
悠介 「……なにが?」
とぼけた。
だって、今更だ。
奈々 「先輩が教えてくれました。あなたがわたしを助けてくれたんですか?」
悠介 「………」
わざと姉さんを睨む。
途中から聞いたということにしたかったから。
春菜 「あはは、話ちゃった」
ごすっ。
春菜 「いたぁっ!」
悠介 「だったら、どうする?」
奈々 「───」
悠介 「……どうもしないだろ?訊くだけ無駄だ」
春菜 「もうっ、また避けるような言い回しして!
それ直せっていっつも言ってるでしょうが!
そんなだから好きな体育も遠慮していっつも見学むぅむ!んむぅうう!」
奈々 「え───?」
悠介 「いや!なんでもないから!俺は元々こういう奴だから!
───……姉さん!余計なこと言うなよ!」
春菜 「───」
ゴリッ。
悠介 「いてぇっ!?」
春菜 「余計なこととはお言葉だね、悠介。お義姉さまの助言も受け取れないのかなぁ?」
悠介 「あっ……きったねぇ!!こんな時だけ姉ぶりやがって!」
春菜 「奈々、見ての通りよ。普通の人なの。
ただ殻に閉じこもって、自分を隠してるだけだから。
図星つかれれば慌てるし、独断と偏見と実力行使に弱いし、
女のコの涙にも弱いし、頭撫でが好きだし」
悠介 「うわーうわーうわー!なにあること無いことくっちゃべってやがりますか!」
奈々 「………」
春菜 「ほら、もう行きなさい。もう話すことはないから。……そうそう、加奈」
加奈 「は、はい……!」
加奈と呼ばれた女Bが驚く。
春菜 「ずっと……ううん、気が回る限り。
それだけでいいから、奈々と友達で居てあげてね」
加奈 「………」
悠介 「……言っておくけどな、俺は別に今の学校が嫌いなわけじゃないからな。
友達って呼べる奴は彰利だけで十分だし、
今更人が俺に接するのも冗談じゃない。そんなのは及川だけで十分だ」
ドスッ。
悠介 「グッホォッ!」
春菜 「もう!だからどうしてそういうこと言うの!」
悠介 「ば、ばかっ!俺だってもう少ししたら卒業だぞ!?
今更どーだこーだ言って、青春の謳歌を邪魔されてたまるか!」
春菜 「悠介!」
悠介 「は、はいっ!」
春菜 「お義姉さんの言葉を、聞きなさい」
悠介 「やだ」
春菜 「───」
見えないように、ほうきを構える姉さん。
悠介 「……脅迫はどうかと思うぞ」
春菜 「実力行使って言って欲しいなぁ」
えーと、どうしよう。
木葉 「お兄様。神主───いえ、所有者に会いたいという方がいらっしゃいました」
悠介 「よし行こう」
春菜 「あ───もう」
奈々 「ま、待ってください!」
悠介 「───はい?」
奈々 「あ、の───あ、ありがとうございましたっ!」
悠介 「………」
奈々 「それとひとこと言わせてもらいます!
わたしはさっきの話を訊いたことであなたにお礼を言うことが出来ました!
無駄なんかじゃありません!」
悠介 「───」
『……どうもしないだろ?訊くだけ無駄だ』
……そういうことか。
悠介 「……そうだな、悪かった。
古びた場所だけど、出来ることなら楽しんでいってくれ」
手をひらひらと振って、その場をあとにした。
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