───銘度───
───漣高等学校名物、ひと〜つ。
体育祭の日は確実に雨が降る。
そのため、体育祭の日は大抵、準備が終わってなかったりしている。
体育祭の日が次週に延ばされるからだ。
俺がこの高校に入ってからというもの、
決められた体育祭の日には見事に雨が降っている。
理由が解れば苦労はしない。
雲は体育祭が嫌いらしい。
そんなこんなで、今年も相変わらず人々はアンニュイな学園生活を送っていた。
悠介 「───ああ、いい天気だ〜……」
体育祭前日。
俺は相変わらず屋上のてっぺんに寝転がり、空を見上げていた。
仰向けで寝転がっている時点で空は見えるのだから、
見上げるという言葉が適当なのかは微妙なところだ。
そんなことを適当に考えながら、明日のことも考えていた。
俺もまあ、雨は確実に降るに違いないと踏んでいる男衆のひとりである。
彰利は彰利で祈祷師のカッコをしてなにやら奇声ををあげているが、
べつに側で騒いでいるわけじゃないから五月蠅くもない。
息を吐いて、視線を横にずらす。
そこには街の様子が見えるくらいだった。
その先の先にあるのは神社への階段。
遠くから見ても、長いことこの上ない。
声 「ダーリン!?」
突然、ドアが開け放たれる音とともに、馬鹿の声が聞こえた。
俺は面倒だったので返事もしないで視線を空に戻した。
声 「チィ……ここじゃなかったか……!」
───バタン!
ドアが閉められる音。
奴は去ったらしい。
悠介 「───はぁ」
勢いをつけて体を起こす。
その場に立って大きく伸びをすると、俺はその場からフェンスを越えて飛び降りた。
地面に落下しそうなところで突風を創造し、落下速度を緩めて着地する。
悠介 「……うん」
創造理力もこの1年の間に随分回復した。
今ではもう、大体のものは創造出来るようになったし。
悠介 「くぁ……あ〜ぁ、ガッコに残ってても暇なだけだしな。帰るか」
あくびをしながら校門に向かう。
鞄なんて持っても無くてもかわらんし、置きっぱなしでも差し支えない。
手が軽い分、持ってない方がかさばらんし。
悠介 「じゃ、帰りますか」
もう一度伸びをして、俺は神社への帰路を歩み出した。
───それは、帰路を半分辿ったくらいに起きた。
いや、詳しくは訪れた、と言うべきか。
声 「───……ァアアアリィイイン!!」
聞こえた声に、俺は呆れを抑えきれなかった。
もはや確認する必要が微塵にもない、ヤツの存在。
大人しく学校をうろついていればいいものを……。
彰利 「あ、ダーリンめっけー!ラブリィイイッ!!」
恥も外聞もなく、彰利が内股で走ってくる。
彼は恐らく彼氏に巡り会えた女を演じているのだが、あれは全国の女人に失礼だ。
彰利 「ダーリン!?ダーリィイン!」
俺はたまらず逃走した。
彰利 「ゲェーッ!?待って!
待てコラダーリン!俺が怖いの!?逃げるこたないでしょ!?」
俺はそんな彰利の言葉を完全に無視して走る。
恥ずかしいことこの上ない。
彰利 「ダーリン!!ダーリン!?」
ドバァアアン!
彰利 「ダぶおぁはぁあああああっ!!!!」
途中、彰利がストレートに車に弾き飛ばされ、空を飛んだ。
が、華麗に着地してみせ、
彰利 「ふふふ、ドライバーさんよ、相手が俺じゃなかったら殺人罪だぜ?」
と言って歯を輝かせた。
男 「馬鹿野郎!どこ見て歩いてやがる!」
彰利 「なにぃ!?なんだコラその言いぐさ!
まずは相手が助かったかどうかを確かめるのが常識でしょう!?
ていうかブレーキも踏まずにストレートに轢くか普通!!」
男 「俺の大事な車に傷がついたじゃねぇか!」
彰利 「なにおう!?それならアタイこそキズモノにされるところだったわい!
そしたら責任とって結婚してくれるってのかてめぇ!」
男 「あ、あほかてめぇ!」
彰利 「あほじゃない!人は俺をこう呼ぶ!馬鹿と!」
男 「───……」
あ、呆れてる。
彰利 「ふふふ、本来ならば賠償金を頂いてるところぞ?
どうしても払いたいなら貰ってやってもいいが」
悠介 「アホゥ!さっさと行くぞ!」
彰利 「さっさとってなにさ!元はと言えばダーリンが逃げるからいけないんじゃない!
ふっとばされて電線越えた時は死ぬかと思ったよマジで!
そして世界新記録に挑戦出来るかもしれないという新たな可能性に、
アタイの心がダーリンの心とマッスルドッキング風味でドキドキマイハート!
キャア!俺ってば伝説になれるの!?ってイヤアア!無視して行かないで!」
悠介 「いいから来い!またブツクサ言われるだろうが!」
彰利 「望むところだ」
悠介 「そうか、だったら好きなだけ愚痴聞いてこい」
彰利 「もちろんキミも一緒に」
悠介 「誰が行くかっ!」
彰利 「ええ!?そんな!ずっと一緒って誓い合ったじゃない!」
悠介 「誓ってない」
彰利 「あれは嘘だったの!?」
悠介 「誓ってないと言っている」
彰利 「なにぃ、ダーリンの署名まであるのよ!?見よ!この婚姻届け!」
悠介 「偽造すんな!」
彰利 「フフフ、俺の手にかかれば婚姻届けを作るなど、赤子の手を捻るより簡単よ。
あ、でも普段はそんな残酷なこと出来ない男だから。
赤子にも優しく、時には厳しい……それが俺よ?」
悠介 「意味わからん、近寄るな変態オカマホモコン」
彰利 「ギャアもう!そのあだ名はやめてって言ってるでしょう!?」
悠介 「だったらまずお前が落ち着け。
ホモモード全開で校内を走り回るな気色悪い……」
彰利 「ギャッ……ギャーッ!
ダーリンが……あぁああダーリンがアタイを気色悪いって……!
ひどいやダーリン!でも愛してる!」
悠介 「天下の往来で誤解しか招かないようなことを大声で謡ってんじゃねぇーっ!!」
ドガァアッ!!
彰利 「ウギャアアアーーーッ!!」
彰利が空をギュリギュリと回転しながら飛翔し、ゴシャアと音を立てて倒れた。
彰利 「ああんもう!なんてことさらすんじゃいダーリン!
危うく天国が見えたじゃない!」
悠介 「知るか!そのまま死ね!」
彰利 「ゲェーッ!?そりゃあんまりだ!アタイを永遠に愛してくれるって」
悠介 「言ってねぇ!」
彰利 「即答!?ヒドイわ!取り憑く島もねぇ!」
悠介 「取り憑いてどうする!いいから黙れお前!」
彰利 「ぬうう……わかった、ダーリンがそこまで言うなら仕方ねぇ……。
ただ、ひとつだけ言わせてくれ」
悠介 「断る」
彰利 「イヤアア!お話にもなりゃしねぇーっ!
ダーリン!?交換条件って言葉も知らないの!?
どうしてそんな子に育ってしまったの!?
アタイはあなたをそんな子に育てた覚えはねぇわよ!?」
悠介 「育てられてないわ!」
彰利 「───わかった、いいから一言だけ言わせろ。
それで全てが済む。もうハッピーエンドよ?」
悠介 「……変なことぬかしたら殴るぞ」
彰利 「おう、受けて立つ」
悠介 「殴られる気、満々じゃねぇか……」
彰利 「じゃ、言うぞ?一回しか言わないからよ〜く聞いておくんだぞ?」
悠介 「いいから言え」
彰利 「……ふふ、そんなシャイなところも捨てがたい」
悠介 「わけわからんことはいいから言え」
彰利 「アイアイサー!では……コホン」
悠介 「咳払いもいいから……」
彰利 「どうしろっていうのダーリン!」
悠介 「用件だけをとっとと言えと言ってるんだ!」
彰利 「キャアアもう!やっぱり聞きてぇんじゃねぇか!
もう、ダーリンたら!それならそうと早く」
バガァアッ!!
彰利 「ウギャアアアーーッ!!」
彰利が空をギュリギュリと回転しながら飛翔し、ゴシャアと音を立てて倒れた。
彰利 「ゲ、ゲフッ……なにも二度も殴らんでも……」
悠介 「俺、帰るからついてくるなよ」
彰利 「なにぃ、じゃあ俺も帰る。そして入浴をそっと見守ってやろう」
悠介 「おぞましいこと言うなボケ者!」
彰利 「なあなあ〜、いいから聞いてくださいよ〜。
今なら高枝切りバサミをつけるからさぁ〜」
悠介 「いらん!」
彰利 「うう……わかった、聞いてくれるだけでいいから聞いてくれこの野郎」
悠介 「この野郎は余計だ」
思いっきり溜め息を吐いて、足を止めて彰利に向き直る。
悠介 「それで?」
彰利 「ああ、一回しか言わないからよく聞いてくれ」
悠介 「……ああ、いいから言え」
彰利 「えっと……な?」
悠介 「ああ」
彰利 「俺のために毎朝、レタスを作ってくれ」
バガァアッ!!
彰利 「ウギャアアアーーッ!!」
彰利が空をギュリギュリと回転しながら飛翔し、ゴシャアと音を立てて倒れた。
彰利 「ゴハァッ……!な、何故だ……!
昔の人はみんなこうやってプロポーズしてたって聞いたのに……!
ま、まさか味噌汁じゃなかったのがいけなかったのか……?」
悠介 「ネタが古すぎる上にわけわかんねぇよダァホ!」
彰利 「なにぃ、そりゃアンタ、昔の人に失礼じゃないの」
悠介 「はぁ……もういいから、ついてくるな……」
彰利 「そうはいかねぇ。俺、まだ返事をもらってない」
悠介 「殴られて尚、返事を求めるかお前は……」
彰利 「レタスは愛のエッセンスで作られているんだ。
それが味噌汁なんぞに負けてたまるもんですか!」
悠介 「………」
判断基準がまず、ずれている気がする。
彰利 「さあ!返事はどうなのダーリン!」
悠介 「……聞かなくてもわかるだろが……」
彰利 「ダメヨー!ワターシ、ダーリンノ口カラ真実、聞キタイネー!」
悠介 「なんでエセ中国語なんだよ……」
彰利 「今すぐ返事をくれ。じゃねぇとストーキングするぞこの野郎。ね、お願い」
悠介 「彰利、それはお願いじゃなくて脅迫だ」
彰利 「大差ない」
悠介 「あるわっ!」
彰利 「さあ!今こそ愛の告白ターイム!」
悠介 「………」
返事を頂くまでは一歩も引かないつもりらしい。
悠介 「じゃ、返事だ」
彰利 「おう、どんとこい!」
悠介 「断る」
彰利 「え?ああすまん、耳にゴミが入ったみたい。ワンモアプリーズ」
悠介 「………」
この野郎……。
悠介 「断ると言ったんだ」
彰利 「ギャアア!目にゴミが!」
悠介 「目は関係ないだろ!」
彰利 「え?ああすまねぇダーリン。ワンモア」
悠介 「………」
彰利 「さあどしたー!怖じ気づいたか!?」
悠介 「殴っていいか?」
彰利 「それが愛なら」
悠介 「……この野郎」
彰利 「さあ、あなたのハートの裏側をそっとアタイに囁いて……?」
悠介 「……はぁ」
そうだよなぁ、こいつが黙って否定を受け入れるわけなかったんだ。
最初っからこうすりゃよかった。
彰利 「ダーリン?」
悠介 「彰利、目を瞑れ」
彰利 「え?ギャア!やだダーリンたらこんな天下の往来で!
でも愛してるからOK!さ、さあどんとこい!」
悠介 「いいから瞑れ」
彰利 「あ、あーあーあー!もういやだわアタイったら!
そしてシャイなあなたも野暮ったい!……これでOKね?」
目を瞑る彰利。
微妙に突き出された唇が不気味だ。
悠介 「よし、瞑ったら歯を食いしばれ」
彰利 「任せろ。───ってダーリン?どうして歯を」
悠介 「死ねぇええええええっ!!」
バガァアッ!!
彰利 「ウギャアアアーーッ!!!!」
彰利が空をギュリギュリと回転しながら飛翔し、ゴシャアと音を立てて倒れた。
彰利 「がぼっ……がぼっ……」
彰利はついに動かなくなった。
彰利を倒した。
マイナス2000の経験値を手に入れた。
悠介 「……アホか」
ここにきてようやく、俺はこの馬鹿から解放された。
彰利 「させるかぁあっ!」
悠介 「だあっ!しつこいよお前!解放されたいんだよ俺は!」
彰利 「イヤアア!滅びた後は同じ墓で眠ろうって誓い合ったでしょう!?」
悠介 「誰がそんなこと言った!!孤独を抱いてくたばれたわけ!」
彰利 「いやああん!なんか語呂良く死刑宣告下されちゃったよ!
ダーリンたらどうしてしまったの!?こんなこと言う子じゃなかったのに!」
男 「……おい」
悠介 「だぁあまああれぇえええ……!!いいから離れろぉおお……っ!!」
男 「……おい!」
彰利 「やだーっ!ボクは絶対ダーリンとは離れないんだーっ!
そう、それは偶然ではなく必然!けれども運命ではなく偶然!
そんな矛盾の上に確立された愛が、
アタイとダーリンの間には存在してるのYO!」
男 「こらっ!!」
彰利 「なンじゃい!この忙しい時に!」
男 「人を無視して愉快にくっちゃべってんじゃねぇよ!!」
彰利 「そうかそれはすまなかった用件を言え」
一息に先を促す彰利。
男 「お、俺の車、どうしてくれんだよ、ああっ!?」
彰利 「自動車保険にでも出しておけ。あとは知らん」
ていうかむしろ、こいつの存在忘れてたし。
男 「ふざけんなよ!弁償しやがれ!」
彰利 「───仕方が無い。ほれ、これで好きなだけ下ろすがいい」
言って、彰利がカードを渡す。
男 「あん?……そうそう、そうやってさっさと渡せばいいんだよ」
男が勝ち誇ったような顔でそれを受け取る。
男 「……キャッツカード!?」
そして驚いた。
彰利 「なに、釣銭はいらねぇぜ?」
男 「ふざけんじゃねぇよぉ!お、俺の車ぁああっ!!」
悠介 「………」
ジリジリ……と。
彰利 「もう……大の男の子が泣くんじゃあありません!
大体、どこにキズがあるっていうのよ」
男 「どこにって───よく見ろよてめぇ!ここにこんなにデカいキズが」
彰利 「何処さね」
男 「……あ、あれ……?確かにここに……」
彰利 「よし、用件は済んだわね?そんじゃあダーリ───なにぃ!?居ねぇ!!
ば、馬鹿な…………っ!!あれだけの短時間でいったい何処へ…………っ!?
ダーリン!?ダァアアアリィイイイン!!」
───やれやれ。
まったく彰利と居ると退屈しないのはいいんだがやたらと疲れる。
しかも何が嬉しいんだか、ゼノとの戦いが終わってからは輪をかけて元気だ。
悠介 「このままじゃ、俺の身……いや、精神がもたない……」
疲れるといった意味でだ。
悠介 「……ふう」
登っていた石段の途中で足を止める。
そして石段に座り込み、少し思いにフケる。
……あれから、もう一年が経とうとしている。
死神に出会ったり吸血鬼に出会ったり、
自分の力が何であるかが解ったり……死神と対峙して死にかけたり。
いろいろな出来事があった。
そんな非現実的なことがいっぺんに起こって、
何に驚いていいのか解らなくなるなることもあった。
だけど、過ぎてしまえば。
慣れてしまえば、それもまた、いつしか笑い話へと変わっていった。
思えば、大変な秋だった。
俺は生涯、もう二度とあんな季節を体験することはないんだと思う。
まあもっとも、頼まれたところで御免だ。
過去に楽しいことがあるのは当然かもしれないけど、今。
自分達は確かに未来に立っている。
その時代が楽しいのであれば、無理に帰ろうだなんて思わない。
───まあ結局。
俺の未来にはいつまでもあいつが付き纏うのだろう。
それはあいつが勝手に決めてしまった。
いくら追い返したところで、あいつは俺から離れようとはしないだろう。
馬鹿みたいな本当の話に、俺はまあ呆れるしかないわけだ。
そして呆れたところであいつが怯むわけでもなく、
俺は疲れるか楽しむかのどっちかなんだ。
思えば自分の周りは妙な間隔でバランスが保たれているものだ。
あれだけ喧嘩喧嘩の彰利と女性軍だったけど、いつの間にか打ち解けていた。
打ち解けた、と言っても誤解が解けただけのことであって、
彰利が邪魔者扱いされていることには変わりはない。
偶然ではなく必然。
けれど運命ではなく偶然。
彰利の言葉はなんとなく解る。
彰利が言うには彰利は自分の運命という枷に何度もぶつかって、
ついには運命に打ち勝ったそうだ。
それがどんなことだったのかは俺が知るところじゃない。
別に知っても知らなくても彰利は彰利だ。
そこにどんな化け物じみたことが起こってたとしても、
俺達が俺達のままなら悩む必要もない。
大体、『魔』を背負った自分達が化け物だとかなんだとか、
そんなことで誰かを嫌うことこそ今更だ。
あいつはあいつ、俺は俺。
肝心な部分は変わらない。
声 「ダァアアリィイン!!ああもう見っけたわダァアアアリイイイン!!」
───だが。
今日はこれ以上あいつに付合う気はない気がする。
悠介 「水洗いした新鮮レタスが出ます」
レタスを創造する。
そして大きく振りかぶり───
悠介 「彰利!取ってこーい!」
思いっきり投げた。
彰利 「ゲェーッ!?レ、レタス様を放り投げるなんてダーリン!
アナタなんてことを!」
彰利が懇親の力を振り絞って横ッ跳びをする。
彰利 「あーっと!森崎くんのキャッチングーッ!」
そして奇妙なキャッチングポーズをとり、レタスを掴んだ。
が。
彰利 「ギャーッ!」
どがっ!ぐしゃっ!ごろごろごろーっ!!
見事に脇腹で着地し、器用に石段を転げ落ちてゆく。
所詮、森崎くんではこんなものか。
それでもレタスを無傷で守っているところに愛を感じる。
……なんのこっちゃ。
彰利 「ギャア痛い!これは痛い!」
なんとか転げ落ちるのを堪えて、痛がっている。
彰利 「ダーリン!こんな仕打ちあんまりじゃない!」
悠介 「すまん、走ってきて疲れただろうから、
みずみずしいレタスを贈りたかったんだ。でも手元が滑ったようだ」
彰利 「え?あ、そ、そうだったの……!?
いやだわアタイったらダーリンの愛を誤解で解決しちゃうなんて!
そう……そうなのね……!?
なんだかんだ言って、やっぱりアタイのこと愛してくれていたのね!?
……ってダーリン!?ダーリン何処ーっ!?」
彰利がうっとりしている内にさっさと家を目指した。
彰利 「あ!ダーリン!もうシャイなんだから!
照れるこたぁねぇってあれほど言ってんじゃねぇの!
たまには聞き入れなさい!聞け!聞いてーっ!
無言で、しかも全力で走っていかないでーっ!!
なんだかアタイがとってもセンチメンタルーッ!!」
奇妙な発言をしながら奴が来る。
悠介 「無数のスーパーボールが出ます!」
向き直り、スーパーボールを創造する。
やがてトントンボテボテと、次々と落ちてゆくスーパーボール。
彰利 「ダーリンたらこんなものでアタイの足を止められるとでも思ってるの!?
こんな超球は無視ザマスわよ!オラ突貫!さーらーにー突貫!!」
ズリャドゴォッ!
彰利 「ギャアア!いたぁい!アゴ打った!ていうかギャッ!?ギャァアアアアッ!!」
滑った彰利がスパーボールと共に転がってゆく。
彰利 「イヤアアアアア!頂上が!頂上が霞んでゆくよマイボニー!……ボニー!?
誰ボニーって!ギャア疑問!ていうか助けてぇええっ!
転がってゆく離れてゆく!近づくほどに離れてゆく!
遠距離!?これが遠距離恋愛なの!?こんな切なくホロ苦い感情が!?
むしろアゴ打った時に口内に血が溢れて鉄サビの味が!俺って健康!?
鉄分豊富ー!塩分控えめー!お得!お得でっせぇえええぇぇ!!
誰だか知らんがボニーの馬鹿ぁあああぁぁぁぁ…ぁ…ぁぁ………………───」
転がっていった彰利の声が聞こえなくなった時点でスーパーボールの創造をやめた。
やれやれだ。
溜め息を吐いて残りの石段を登ってゆく。
やがて家が見えた頃。
その頭上を彰利が飛んでいった。
彰利 「ギャアアアアアアアッ!!マットがねぇええっ!!」
やがて彼は滝壷へと飛んでゆきましたとさ。
めでたしめでたし。
悠介 「ただいま〜」
俺はその景色を完全に無視し、玄関を開けたのだった。
しくしくしくしくしく…………。
奇妙な泣き声が聞こえる。
言うまでもなく、ずぶ濡れになった彰利だ。
彰利 「ヒドイや……。
マットを撤去したならアタイに一報くれるのが人情ってものでしょ……?
しかもアタイがピンチだってのに完全に無視してくれちゃって……。
ウウ、グスッ、ヒック、しくしくめそめそ、ぬおお……」
嘘泣きで涙を流せる奴って役者になれるよね、うん。
でも『ぬおお』とか言ってる時点で嘘だってばれるからこいつは役者にゃ向かん。
むしろ『役者』より『愚者』がお似合いだ。
悠介 「しかしよく抜け出せたなぁ」
彰利 「フフフ、俺様にかかりゃあ縄のひとつやふたつ、紙みたいなものぞ。
月切力でスパッと切っちまやぁいいんじゃけぇのぉ」
ほら見ろ、やっぱり嘘泣きだった。
いや、本気で泣いてたとしてもこいつならこうやってすぐに立ち直れる。
こいつほど『本気で泣く』という姿が想像できない奴も珍しい。
まあレタスのためなら本気の涙も流せるかもしれんが。
こいつはそういう奴だ。
悠介 「あ、悪い木葉。お茶もらえるか?」
部屋の前を通りかかった木葉に声をかける。
木葉 「はい、お兄様」
彰利 「あ、木葉ちゃん!俺にも俺にもー!」
木葉 「気安く声かけてんじゃねぇです……」
彰利 「裏モード!?」
ギャア!と叫ぶ彰利。
実に元気だ。
木葉はそれだけ言うと、音も無く歩いていった。
悠介 「木葉自身の人格が現れてからもう随分経つけど……。
最近はもっぱら、あの人格だなぁ。
まああれが本当の木葉だっていうなら別にいいんだが、
調子が狂わないって言ったら嘘だな」
彰利 「だよなぁ。しかも殺劇に発展はしないものの、俺に冷たいのは相変わらずだし。
あれが本当の人格なら裏モードってのは的確じゃないか。
じゃあ……真・木葉?」
悠介 「どっかの裏キャラみたいなあだ名をつけるなよ……」
彰利 「んー、でもどのみちアタイ達には新鮮すぎて、裏っぽいじゃん今の木葉ちゃん」
悠介 「……否定はしない」
彰利 「んもう、しないんじゃなくて出来ないんでしょ?」
悠介 「オカマ語を放ちながらクネクネ動くな。見てて怖い」
彰利 「誰だってみんな怖いのよ。でもアタイは違うね。
むしろダーリンにとって『究極』と言っても差し支えの無い、
アルティメットガーディアンと成り得ましゃう」
しゃう、ってなんだ。
悠介 「それで?俺に何の用があって探してたんだ?」
彰利 「あれ?言ってなかったっけ」
悠介 「言ったかもしれんが聞き流した」
彰利 「ギャアもう!ちゃんと聞いてよアタイの言葉!
でも俺自身、言ったかどうかなど憶えてねぇのよ。
キャア、アタイ達ったら似た者同士!理想的なカップルYO!」
悠介 「黙れ」
彰利 「ああんもうつれないわねダーリンたら。
でもそんなシャイでウヴなところが最強!
抱きしめて振り回してその勢いでギガティックサイクロンしたい気分だわ!」
悠介 「で、何の用だったんだ」
彰利 「ああえっとな。実は」
木葉 「お兄様、お茶を淹れてまいりました」
悠介 「ん、ありがと。……ていうか木葉。その喋り方、なんとかならないか?」
木葉 「なんとか、と仰いますと……?」
悠介 「兄妹なんだからさ、もっと砕けて話してもいいと思うんだ」
木葉 「とんでもございませんお兄様。
わたしはこの口調を変えるつもりなど毛頭、ございません」
悠介 「………」
木葉 「他にご用はありませんか?」
悠介 「あ、いや……ない、かな」
木葉 「そうですか。それでは失礼致します」
ペコリとお辞儀をして、木葉が退室する。
彰利 「………」
悠介 「……なぁ、俺ってもしかして木葉に嫌われてるんカナ」
彰利 「いやぁ?俺様のナイスなお目々で見るからには、
大好きな人に尽くしたい一心での行為にしか見えんかったけどね」
悠介 「……そうかぁ?」
彰利 「今の木葉ちゃんならきっとメイド服が似合うぞ。……あ、言っておくけどな。
俺はメイドさんは好きだが『ご主人様』ってのは大嫌いだ。
やっぱ名前のあとに『〜さま』か『〜さん』だろ。これは譲れねぇ。
大体だね、ご主人様なんてのは何処にでもあるような言い方じゃないかまるで。
複数に通用する言葉なんてのは駄目だ駄目駄目無駄無駄無駄ァ!
そこで必要となるのが個人に向ける『〜さま』や『〜さん』なのだ!
これならそのメイドさんが『その人のみに仕える』!!
……という気持ちが十二分に溢れ出てもう最強!
俺ゃあ個人的に『〜さま』をオススメする。この方が仕えてる感覚があるし。
でもご主人様は頂けねぇ、あれはダメだ。旦那さまもやだなぁ。
やっぱ名前のあとに『さま』だろ。
嗚呼……この絶えることのない、鍋から溢れ出す煮汁のような気持ち。
無駄にアクが多くてしつこいがその中には確かな旨味が隠れてる至高の極み。
俺ゃあメイドを好きになるべく生まれたと言っても過言じゃねぇ。
ていうかメイド服作った人ってば最強。尊敬するね。
そして……嗚呼ァアアアア亜阿呀亞ァアアアッ!!
うわぁなんか語ってるうちに熱くなってきやがった!
ああんもう!この熱い思いをどうやってダーリンに伝えりゃいいの!?
こんな……こんな切ないのに灼熱の如く熱い思い……!」
……うるせぇ。
彰利 「こ、こうなりゃ……!実力行使だダーリン!
この『偶然にも』持っていたメイド服を木葉ちゃんに着てもらうのだ!」
悠介 「……常時携帯してんのか」
彰利 「偶然って言ってるでしょダーリン!」
悠介 「ところで。それはどこに入れてたんだ」
彰利 「秘密だ。キャプテンガントレットの秘密、貴様にだけは」
悠介 「それはもういい。ていうか鞄見せろ」
彰利 「おっとそいつぁいけねぇぜ奥さん!
プライバシーの侵害ギャアア!なに勝手に見てんのー!」
悠介 「うお……何も入ってねぇ……。やっぱりお前、鞄の中に」
彰利 「くっ───アタイのキャプテンガントレットの秘密が……」
悠介 「ガントレットじゃなくて鞄だろが」
彰利 「ふっ、だがな!
メイド服さまにシワを作るような無理やりな入れ方はしてねぇのYO!
ちゃあんとソフランC使ってアイロンかけて美しく畳んだのYO!最強!」
悠介 「そいつぁ肌にやさしそうだな……」
彰利 「でしょう!?最強でしょう!?ってわけで着てダーリン!」
悠介 「着るかっ!」
彰利 「そんな!それじゃあ話が盛り上がらんじゃない!
この野郎ダーリン!それでもそんなダーリンが大好きぃ!」
悠介 「どわっ!?な、なにしやがるてめぇ!離せ!やめろこら!」
彰利 「んふふふふふ、大丈夫、怖くないから。お着替えしましょうね〜」
悠介 「な、なに考えてやがるーっ!!」
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