───鬼士───
やがてクラスの男子が俺にバトンを渡し、俺は走った。
前方には若葉。
やはり速い。
が、俺は走ることには自信がある。
体力を温存する意味もないので、俺は持ちうる限りの全速力で大地を蹴った。
若葉 「あっ!」
若葉を抜き去り、先の方に居る男子を追い抜く。
それに対抗して若葉もスピードを上げるがもう遅い。
それよりも気になるのは───誰だ?あの前の女子は。
全力で走ってはいるんだが、なかなか追いつけない。
というか……あの娘、さっきどっかで見たことある、って───
悠介 「あぁああっ!?」
その娘がグラウンドを曲がった時、はっきりとその顔が見えた。
俺はその驚きもあってか全速以上の速度を発揮して、その横に並んだ。
女 「あ」
悠介 「日余!?」
日余 粉雪。
中学の時にクラスメイトだった女子だ。
って、今はそんなことどうでもいい!
枕投げで負けたあの日の思い!!俺は忘れたわけではなぁああい!
粉雪 「負けないからっ!」
悠介 「望むところ!」
ふたりして限界以上の速度で走り、アンカー目掛けて大爆走する。
アンカーによってどちらが勝つかではなく、
どちらが先にバトンを渡すかで競っていた。
悠介 「彰利ぃっ!」
彰利の姿を確認すると、その姿目掛けて最後のフルパワー。
彰利 「ダーリン!アタイを捕まえて〜!リー、リー、リー、リー!」
だっていうのにあのタコは全力で幅を空けて走った。
悠介 「アホォッ!バトン渡せないだろうが!」
彰利 「冗談よ!よし、預かった!応援よろしくっ!」
俺からバトンを受け取ると、彰利が今の俺よりも速い速度で疾走してゆく。
あいつ、何者だよ……。
悠介 「はっ、はぁ……!はぁあ……!」
息を切らせて、邪魔にならない場所へ座り込む。
そんなことをしていると、日余が俺のところまで来て座り込む。
粉雪 「あ〜あ、ま、負けちゃった……」
日余も息を切らせていた。
当然だ。
あんな速度で走ったら普通はこうなる。
悠介 「いつ、帰ってきたんだ?確か外国の方に行ってたんだろ?」
息を整えながら、疑問をぶつける。
すると返ってきたのは簡単の言葉だった。
粉雪 「昨日」
悠介 「昨日!?だって、手続きとかは」
粉雪 「実はここの校長さんとお父さんが知り合いでね?
手続きとかは帰って来る前に書類とか送って済ませちゃった」
小さく舌を出していたずらっぽく微笑む。
悠介 「はぁ……帰ってきてたんなら言ってくれればよかったのに」
粉雪 「うん……そう思ったんだけどね。迷惑じゃなかった?」
悠介 「迷惑?どうして」
粉雪 「だってさ、わたしがここを離れてる間に、
晦くんにはこの街での暮らしがあったでしょ?
わたしは会ってなかった分、そこには空白があるから、ね?」
悠介 「……別に気にすることでもないだろ。人の暮らしなんてそうそう───」
そこまで言って、大いに変わったことを思い出す。
悠介 「……変わるな、そうそう」
粉雪 「………」
日余はクスクスと笑いながら俺を見た。
まるで、何もかも知っているような、そんな笑顔。
そんななんでもない会話の中、パンッ!と大きな音が響き、大きな歓声が聞こえる。
視線を向けて見ると、そこには一着ゴールした彰利の姿があった。
彰利 「ダーリンの馬鹿ーッ!
応援よろしくって言っておいたのに女とイチャイチャしやがってぇえっ!!」
───忘れてた……。
しくしくしくしく……。
奇妙な泣き声が響く。
悠介 「あつくるしい泣き方するなよ、謝ってるじゃないか」
彰利 「そんな今だけしょうがなく謝るような謝罪なんざ欲しくねィェエ……」
落ち込みながらも気取ってるこいつはやはり馬鹿だと思う。
春奈 「はい、悠介くん」
悠介 「あ、サンキュ姉さん」
ルナ 「ネッキー、醤油」
セレス「体育祭の応援に来てまで大根おろし醤油を食らいますか貴女は……」
ルナ 「いいじゃない、美味しいんだから」
木葉 「はい、姉さん」
若葉 「ありがと、木葉。それと麦茶を取ってくれる?」
雪子 「あ〜、やっぱり彰利と悠ちゃんのお弁当は美味しいわぁ」
悠介 「雪子さん、自分のガッコは」
雪子 「さあ、すっぽかしてきたから解んないわ」
水穂 「恵ちゃん、この厚焼き玉子美味しいよ」
高崎 「あ、ホントだ」
彰利 「酒は無いのか?」
悠介 「あるか馬鹿者」
及川 「こらこらお前ら、少しは控えて食え」
彰利 「そうだそうだ。そんなに食ったら走った時に脇腹が痛くなるぞー?」
及川 「俺は主にお前に言ったんだ」
お馴染みのメンバーで昼食をとる。
そんな中でひとり、ポカンと口を開けたまま動かない奴が居た。
粉雪 「わぁ……」
日余だ。
悠介 「箸、止まってるぞ日余。遠慮しないで食えって」
彰利 「そうそう、もうこの厚焼き玉子なんてダーリンの愛情たっぷりで最強よ?」
粉雪 「う、うん」
このメンバーに面をくらっていたのか、しどろもどろになりながら弁当を口に運ぶ。
粉雪 「あ、ほんとに美味しい……」
彰利 「だろだろぉ!?
もう彼の愛がひしひしと全身に響き渡る食感がたまらねぇYO!!」
悠介 「……裁き」
バチィッ!
彰利 「ウギャアオゥ!!」
及川 「おぅっ!?ど、どうした弦月!」
彰利 「い、いや……彼のどうしようもない照れ隠しを全身で受け止めました……」
及川 「う、うんん……?まあ、いいが……」
水穂 「あ、そういえばお兄さん、この方は?」
悠介 「うん?あ、そうか、大体が初対面だよな」
木葉 「わたしと姉さんは知ってますけど」
若葉 「日余さん、でしたよね?」
粉雪 「え、え?会ったことあったっけ……」
木葉 「姉さんが発案した『お兄様に近寄る者、ことごとく滅ぶべし』作戦において、
一方的に会って、尚且つ要注意人物に入っていたのを憶えて」
若葉 「木葉っ!なんでも人の所為にするの、やめなさいって言っているでしょう!?」
木葉 「その割には殺る気満々で日余さんを」
若葉 「あぁあっ!な、なんでもありません!なんでも!」
粉雪 「………」
悠介 「彼女は日余 粉雪さんっていって、中学時代の知り合いだ」
彰利 「ああ。まあそんなに親しかったわけでもないけどな」
粉雪 「あはは、そうだね」
ルナ 「…………日余?」
悠介 「ルナ?どうかしたのか?」
ルナ 「ん……えっとね、昔、そんな名前、聞いた気がしたんだけど……。
ねえ、ちょっといいかな。ここじゃあ話づらいだろうからこっち来て」
粉雪 「え?あ……はい」
悠介 「おいおい、ルナ?」
彰利 「あ、おいどんも行くー!
ダーリンはここで待っといてね?夕飯までには戻るから」
悠介 「お前、いつもそれな」
彰利 「いやん、お褒めにならないで♪」
ルナが日余を連れて、人の居なさそうな場所へと歩いていった。
彰利 「ハイヘヤハイヘヤハイヘヤハイヘヤ!
ワンツースリーフォーファ〜イ!ハァアッ!!」
その後を彰利が何故かバク転しながら追っていく。
なんなんだその掛け声は。
声 「ああん、待ってよツナっち〜!」
声 「『ツナ』じゃなくて『ルナ』!」
声 「いや、似てるしゲブボッ!」
そんな謎の悲鳴が聞こえたが、俺は無視して食べることにした。
───……。
粉雪 「あの、こんなところで何を?」
彰利 「え?え?なに?襲っちゃうの!?」
ルナ 「ホモっちうっさい!!」
彰利 「なにをぅ!?俺はやかましいんだ!」
粉雪 「大差無いよ、それ」
彰利 「まったくだ」
ルナ 「単刀直入に訊くけど。……月の家系、って知ってる?」
粉雪 「あ、え?……えと」
ルナ 「やっぱり、知ってるんだね」
彰利 「ルナっち?」
ルナ 「日余……二十日余月。あなた、月の家系の子でしょう?」
粉雪 「………」
彰利 「おいおい馬鹿言っちゃいかんよルナっち。彼女は普通の人間ぞ?」
ルナ 「あのねぇホモっち?普通の人間が悠介と同じ速度で走れると思う?」
彰利 「前世がベン・ジョンソンだったんだ」
ルナ 「あのねぇ……」
粉雪 「……ふぅっ。じゃあ、わたしからも質問……て言うよりは確認かな。
あなた、死神さんでしょ?」
ルナ 「え゙ッ……」
彰利 「その時ルナっちは、
まさか自分にこんな質問が返ってくるなどとは予想もしなかったのだった。
何故!?どうして!?ホワイ!?何故!?何故なのグレート!
そんな疑問が浮かぶ中、これは、そういうことだと確信した。
因果応報。そう……ルナっちの中には今までの悪行の数々が思い起こされて」
ルナ 「妙なナレーションつけないで!」
彰利 「妙じゃない。ルナっちの心内を的確にプロファイリングした結果だ」
粉雪 「実を言うとわたし、全部知ってるの。
晦くんが家系の人だったり、変わった能力を使えることとかも。
それから……弦月くんが、その……造られた存在だ、ってことも」
彰利 「……ふむ。接触型の未来視能力か。悠介と衝突したあたりからだな?」
粉雪 「……うん」
彰利 「そんじゃあゼノのことも?」
粉雪 「うん、あれは大変だったね、としか言えないけど。
ちなみに修学旅行の時のお風呂でのことも、相手が弦月くんだって知ってたよ」
彰利 「うぐっ……!」
粉雪 「本当は未来を見るとか、そんな大層な能力じゃないの。
自分でコントロールも出来ないし、いつでも使えるわけでもない。
でも……驚いた」
彰利 「ん?なにが」
粉雪 「だって……晦くんの視点で見た未来だと、その……。
弦月くんはゼノとの戦いで、死んじゃう筈だったのに……」
彰利 「……あのね、当時も俺、よく言ってたでしょうが。運命なんてクソ食らえって。
俺達ゃ決められたレールの上を走るガラクタじゃないの!
運命なんてのは変えるために存在するのよ」
粉雪 「だね。びっくりした。
そのお陰でわたしの中にあった晦くんの未来も消えたから。
多分、今はいろんな可能性とか分岐点がてんこもりだね。
……未来を見る能力なんて、無い方がよかったんだよ」
彰利 「そうそう。
どうせ変えられるなら見えなくても十分───って、お待ちになって日余さん」
粉雪 「なにかな」
彰利 「そ、それじゃあさ、もしかして───俺が女湯覗きに行ったことも……」
粉雪 「───うふふふふ」
彰利 「ああっ!なんか企んでる顔だ!いや、あれはほんの出来心で!」
粉雪 「弦月くん、わたしね?
もしもう一度会うことが出来たら絶対にやろうって思ってたことがあったんだ」
彰利 「え?え?どうして手に熱い吐息を吹きかけてるの!?え!?もしかして」
粉雪 「去ねっ!女の敵ぃいいっ!!」
ずぱぁあああん!!
彰利 「ウギャアーッ!!」
ルナ 「ホモっちは少女のビンタを一心に受け止め、
ギュルギュルと回転して、やがては地面に激突して倒れた」
彰利 「うう……ナレーションつけて説明しないで……」
ルナ 「さっきの仕返し。そっか、じゃあもう悠介の未来は見えてないのね?」
粉雪 「一応」
ルナ 「そっかそっか、それじゃあもういいや」
彰利 「そしてルナっちは禁止されていたにもかかわらず空を飛び、
俺様のえたーなるまいだーりんのもとへと戻るのであった」
ルナ 「ナレーションつけないで!」
彰利 「フフフ、俺はただでは終わらねぇ男よ」
ルナ 「〜♪」
彰利 「………」
粉雪 「………」
彰利 「……いった、な」
粉雪 「……うん」
彰利 「で、粉雪。お前やっぱりまだ、悠介のこと……」
粉雪 「…………女心って損だよね。
同じ学校に行って喋ったり出来たら満足だって思ってたのにね。
お父さんとお母さんの都合で外国に行って、それから全然会えなかった。
遠目に顔を見ることも許されなかった……。正直、とっても辛かったよ……」
彰利 「………」
粉雪 「外国の方で友達が出来てね?とっても仲良くなってさ……。
それで、笑い合ったりして……。楽しかったけど、どこかからっぽだった。
それでね、その人がね……わたしがこっちに来る時に言ってきたの。
好きだ、って。でも……はは、断っちゃった」
彰利 「そう言って、日余は涙を流した」
粉雪 「……こんな時にまで……ナレーションつけないでよぉ……!」
彰利 「……はぁ。仕方ないな、お前は。お前こんなに泣き虫だったっけ?」
粉雪 「うるさい、ばか……」
彰利 「誰が馬鹿だ。昔は同じ布団で寝た仲じゃないか」
粉雪 「───それは、そうだけど……今の話と関係ある……?」
彰利 「皆無だが。まあいい、ほれ、触ってみろ」
粉雪 「え───?」
彰利 「未来、見てみろ」
粉雪 「な、なに言ってるの……?わたしがこの能力嫌ってるの知ってるでしょ……?」
彰利 「知らん。けどな、伊達に幼馴染みやってたわけじゃねぇぞ俺は。
今まで話し合わせてやってたんだからこれくらい笑って頷け」
粉雪 「……どうなっても、知らないから」
彰利 「望むところだ」
粉雪 「………」
彰利 「あ、いやん、もっとやさしく♪」
粉雪 「───」
彰利 「ごめんなさいもうしません」
粉雪 「………」
彰利 「……どうだ?」
粉雪 「───え?どういう、こと?」
彰利 「見えるけど見る度にコロコロ変わるだろ?」
粉雪 「……うん」
彰利 「それは俺が運命に逆らい続けてる証拠だ。
大体にして運命なんてのは人が勝手に言いだしたものだろ。
それを見る力があったとしても本当にそうなるかはその人次第だ。
俺は人間が勝手に創った『神』なんて存在が決めた運命なんて、
最初っから信じちゃいないってこった。アンダスタン?」
粉雪 「……ばか」
彰利 「まだ言うかお前は……」
粉雪 「でも……ありがと」
彰利 「まあ、な。ところでお前さ、外国行って、涙腺緩んだか?」
粉雪 「うっさいわよぅ……」
彰利 「……まあ、あれだ。ここには悠介も居ないから。
……気ぃ、済むまで泣いてみろ」
粉雪 「胸貸してくれるのが彰利っていうのが気に入らない……」
彰利 「まだ言うか……。レンタル料取るぞこの野郎」
粉雪 「じゃあ、いい」
彰利 「……意地っ張りなのは相変わらずか。
外国行ってから余計にねじ曲がった気がするけど」
粉雪 「ほっといてよ、気にしてるんだから」
彰利 「ところで、だ。能力が発動したのはいつからなんだ?
お前、訊こうとしたらすぐ逃げてたからなぁ。
お陰で、中学時代の風呂場では驚かされたぞ?」
粉雪 「……うん。自分の力に気づいたのは晦くんと衝突した時。
彼の未来が見えて、それでね。
小さかった頃、彰利のお母さんが話してくれた。
昔、触れた相手の未来を見ることが出来る人たちが居た、って。
それ思い出して、ああ……自分はそこの家系の子供なんだ、って解っちゃった」
彰利 「気にすんな。俺も捨てられたようなもんだし」
粉雪 「……そだね」
彰利 「さて、そろそろ戻りますか」
粉雪 「……待って」
彰利 「ん?どうし───お、おい?」
粉雪 「ごめん……やっぱり、胸……貸して……」
彰利 「…………ばか。いつでも我慢しすぎなんだよ、お前は……。
そんなんじゃ悠介は譲れねぇぞ」
粉雪 「……なに、それ」
彰利 「なにって?……お前、悠介のこと好きだったんじゃなかったっけ?」
粉雪 「……本気にしてたの?アレ……」
彰利 「あれ?なんだ、違うのか!?……じゃ、誰よ、その会えなくて寂しかったヤツ」
粉雪 「───……ッ!!」
彰利 「え?あ、おい?な、なに怒ってんだよ、落ち着け、まずは落ち着こう。な?」
粉雪 「こっ……ここまで馬鹿だなんて思わなかったぁっ!!ばかぁーっ!!」
彰利 「な、なんなん……ギャァアアアアッ!!」
───……。
彰利 「おまっとさ〜ん♪」
悠介 「何処で油売ってたんだよ」
彰利 「いや、最近ね?油のレートが上がって来てるから売るなら今かと」
悠介 「お前なぁ……」
彰利 「ムハハハハハ、まあ、苦しゅうない。
笑って見逃せダーリンこの野郎。今ならサービスしてやるから」
悠介 「いらん。で?日余は」
彰利 「フフフ、気になるか?」
悠介 「気になる」
彰利 「俺よりもか?」
悠介 「お前よりもだ。
そのボコボコになった顔が気にならないと言ったら嘘だが、
それよりも気になることは確かだ」
彰利 「キャアアヒドイわダーリンたら!今のあなたにはアタイが居るじゃない!」
悠介 「だぁらっしゃいこの変態オカマホモコン!
お前と一緒に居て無事だったか確認したいだけだ!」
彰利 「お、俺ってそんなに信用ねぇの!?」
悠介 「当たり前だ!」
彰利 「ゲェーッ!?常識にまで発展しそうな勢いじゃねぇか!
ダーリンヒドイ!そんなにあの女がいいの!?」
悠介 「勘違いすんな!この脳味噌スポンジ男!」
ルナ 「あーもう、落ち着きなさいよふたりとも」
彰利 「黙っとれツナ!」
ルナ 「ツナ言うなぁあっ!!」
彰利 「お?悔しいか?悔しかったら言い返してみいこのツナ!
シーチキン!稲葉ライトツナ!
い〜なば♪い〜なば♪いな〜ばライトツ〜ナ♪ラ〜イトツナは、い・な・ば♪」
ブチリ。
何かが切れる音を聞いた。
ルナ 「ガアァアアアアアアアアアッ!!!!」
彰利 「え?あ、ギャア!!ルナっちがキレたぁあああああっ!!
ぼ、ぼぼ暴力はいかんよチミィ!俺とキミの仲じゃないかぁあああ!
いやっ!やめっ!イヤアアアアアアアッ!!!!」
ドカグシャベキゴキガンガンガン!!!!
彰利 「ギャアアアアアアアアアアアッ!!」
彰利は必死で走っていったが、途中で捕まりマウントパンチの餌食となった。
そんなことをしている内に日余が戻ってくる。
その目は、訊いてみるまでもなく赤かった。
悠介 「日余、それ……」
粉雪 「え?えっと、これは……」
彰利 「襲っちゃった♪」
バガァアッ!!
彰利 「ウギャアーーーッ!!」
いつの間にか側に居た彰利を全力で屠る。
何度目のフライトかは忘れたが、彰利がギュリギュリと大回転して地面に落下する。
彰利 「がぼっ、がぼっ……」
悠介 「アホかてめぇぇえっ!やっていいことと悪いことの区別もつかんのかぁっ!!」
彰利 「ギャアア!ダーリンの本気で怒った顔って初めて見たぁあっ!」
春奈 「このッ───女の敵ぃいいっ!!」
彰利 「ええっ!?参戦!?いや待って話を聞いガフホッ!?」
若葉 「おにいさまのことが誤解だったのは解りました───が!
こんなことをする輩はやっぱり始末しておくべきでした!」
彰利 「だから話を、はな───ハブボッ!」
木葉 「黙りやがれ、です」
彰利 「ええ!?あああ裏モード!?落ち着いて木葉ちゃゲッハァッ!!」
悠介 「くたばれ!くたばって償えぇっ!!」
彰利 「イヤアアアア!いつもの冗談でブボッ!やめっ!ブボッ!やブボッ!!」
粉雪 「わぁあ!やめて晦くん!ほんとになんにもなかったから!」
悠介 「───」
ドサッ。
掴んでいた彰利の胸ぐらを離す。
彰利 「し、死ぬかと思った……」
悠介 「次からは冗談も選んで唱えろ愚か者……」
彰利 「肝に銘じます、ホント、絶対……」
彰利が血ヘドを豪快に吐きながら懺悔する。
その仕草がまたわざとらしかった。
彰利 「さて、午後の競技で決着が着くよな。
どうする?もうお開きにするか?」
悠介 「そうだな、あんまり食っても腹痛くするだけだろうし」
セレス「そうですか。それでは後片づけはわたし達でやっておきますから、
悠介さんは戻っていてください」
悠介 「ああ、悪い」
ルナ 「吐血我慢しながら言ったって怖いだけよ、ネッキー」
セレス「仕方ないでしょう……!
こんな陽気の日に正常でいられるほうがどうかしているんです……!!」
ルナ 「わたしはネッキーが異常なんだと思うけど」
セレス「やかましいです、黙りなさい……」
そんな、額にリボルバーを押しつけ合ったような状況を背に、
俺は苦笑しながらその場を去った。
───とうとう、この時が来た。
男子全員強制参加無差別一騎当千式騎士戦。
要するに己の力のみを信じて男子生徒全員と戦う、ひとり式の騎馬戦のようなものだ。
これがあるからこの学校は最高だ。
ちなみに前回の優勝者は彰利だったりする。
ヤツはそれほど暴れ回り、勝ち名乗りを挙げた。
俺はというと情けないことに、そんな彰利を呆然と見ていたら、
俺の鉢巻はさっさと奪われてしまった。
そんな俺に一番に罵倒を飛ばしてきたのが他でもない、彰利だった。
『あれほど決勝で会おうって言ったじゃないの!ダーリンのばかーっ!』と。
意味は不明だったが、今回も彰利は燃え盛っていた。
彰利 「ダーリン、決勝で会いましょう」
ウインクして投げキッスをかますと、クネクネと踊りながら鉢巻を取りに行った。
そして戻ってきて、俺に鉢巻を渡す。
彰利 「そんじゃ、お互いベストを尽くそうか。
今度あんな無様な負け方したら俺はダーリンを恋人ととしてじゃなく、
ひとりの武士(もののふ)として罵倒するぜ」
悠介 「あ、ああ……」
彰利 「……上がってこい。ここまでな……」
彰利は自分の喉をトントンと指でつついた。
そして怪しげに笑い、彼は去っていった。
……あの様子じゃあ、月操力とか平気で使いそうだなぁ。
及川 「準備はいいかーっ!?」
及川が声を張り上げる。
男衆はオオッ!と叫び、心を引き締めた。
及川 「武器の使用以外、全てを認める!どんな方法をもってしても鉢巻を奪え!」
なかなか無茶を言う。
だがこれがこの高校の伝統だって言うんだから恐ろしい。
及川 「男を決めろ!己こそが最強と、己自身を称えよ!───試合開始ッ!!」
バァン!
及川がトリガーを引くと同時に、男子全員が彰利に襲いかかる。
だが流石に一度に襲いかかれる人数などタカが知れている。
そのためか、他の男子は俺に目をつけた。
番長 「ぬおお!晦ぃいっ!」
悠介 「おおっ、番長気取りすぎて留年喰らった番長さん!」
番長 「今日こそはこの俺が」
悠介 「甘いわぁあっ!」
バガァッ!
番長 「ぐあぁはぁああっ!!」
番長がフッ飛ぶ。
それに何人かが巻き込まれ、大地に沈んだ。
俺はその隙に鉢巻を奪い、他に襲ってくる輩の攻撃をかわしつつ鉢巻を取ってゆく。
彰利 「フゥウォオオゥ……ッ!!見よ、前回優勝者の我が魔力の胎動!
八極正拳奥義・波動旋風脚!」
彰利が足を振り回すと、そこから生じた波動が人々を屠る。
その勢いに乗って彰利は足を弾かせ、体を回転させた。
彰利 「旋風ゥウウウウーーー剛ォオオーーー拳!!」
回転しながら男子生徒をなぎ払ってゆく。
大回転しながら迫ってくる彰利は不気味なことこの上無かった。
ていうか浮いてる!浮いてるよアイツ!
永崎 「どこ見てんだよっ!」
悠介 「おっと、まあちょっと彰利の様子を───ねっ!」
ブンッ!
永崎 「うわっ!?」
襲いかかってきた男子を背負い投げして鉢巻を奪う。
彰利 「うおー!今のアタイってば輝いてるー!
オンラブラトルドアンベルト・オンラブラトルドアンベルトー!
キリングハートでフェェエイスフラッシュゥウッ!!」
ギシャアアッ!
彼が輝いた。
予想していた俺はサングラスを創造してあったりする。
悠介 「今ァッ!」
目が眩んでいる者どもの鉢巻を奪う。
大漁大漁。
彰利 「あ、ダーリン!ここで会ったが百年目ィェーッ!」
彰利が現れた。
彰利 「なんちゃってね♪」
最初の半分くらいになった男子が争っている中、馬鹿は笑った。
彰利 「調子はどうだい?」
笑いながら俺に近づく。
そして射程範囲に入った途端!
彰利 「脊髄!もらったァーッ!!」
襲いかかってきた。
バガァッ!!
彰利 「ギャーッ!」
カウンターで拳を見舞う。
彼はギュリギュリと回転し、大地に沈んだ。
ていうか脊髄は関係無い。
品田 「あっ!?弦月が倒れたぞ!」
久山 「取れ!取っちまえ!」
彰利 「え!?あ、ギャア!」
まるで人間にむらがるゾンビが如く。
あっと言う間に彰利は人の波に飲み込まれた。
───筈だった。
彰利 「てめぇら、よってたかってアタイを狙いやがって……!
ていうか誰だ!我先に、って俺の顔に雷獣シュート決めやがったのは!
ユニフォーム交換してやるから前に出ろこの野郎!」
ドス黒いオーラを放ちながら、彼は立ち上がった。
その殺気に気づいたのか、彼らは後ずさる。
そして、そんな彼らの様子に彼はキレた。
彰利 「オガァアアアアアアアアッ!!」
品田 「う、うわぁーーっ!!」
───語るまでもないが、そこには地獄絵図が展開された。
観覧料金は当然無料だ。
彰利 「ウガーッ!」
ドゴォッ!
彰利 「グオーッ!」
ガコォッ!
彰利 「オンブラボアベヒャーッ!!」
ドカッ!ごしゃっ!ガンゴンガン!
既に何を喋ってるかすら解らなかった。
やがてその場に居た男子生徒達は掌抵ラッシュをくらったり人間ロケットくらったり
ビッグファイヤー(炎を吐く)をくらったり毒霧くらったり三大奥義のひとつを
彰利 「貴様はこの弦月彰利自らの力でこの世から消し去って」
ゴキィッ!!
彰利 「ギャーッ!」
くらわせようと上に放って頭突きをしたが、ニブイ音とともに中断された。
彰利 「ぬおお……頭蓋が……」
そりゃあ、実用出来ればそれこそ超人だ。
俺は彰利に投げっぱなし頭突きをされた男の鉢巻を取った。
それで、決勝の舞台は整った。
……ほとんどこいつひとりで片づけてしまった……。
彰利 「フフフ……お前ならここまで上がってくると思っていた……」
顔を上げる彰利。
悠介 「涙たっぷりで格好つけられてもな」
彰利 「痛かったんですもの!しょうがないじゃない!」
悠介 「じゃあ、やろうか」
彰利 「御託はいらんぞ」
悠介 「どこまでもパロってないで、いくぞ!」
彰利 「おう!」
彰利が俺に向かって駆け出す。
声 「彰利ーっ!頑張りなさいよーっ!」
彰利 「え!?え!?雪子さん!?」
バガァアッ!!
彰利 「ウギャアアーーッ!!」
彰利が大回転して大地に落ちる。
怯んでいる内に鉢巻を取った時点で、俺は勝った。
彰利 「ゲェーッ!?め、珍しく雪子さんが応援してくれたと思ったらいきなり敗北!?
呆気ねぇっ!こりゃ呆気ねぇよダーリン!」
悠介 「面倒だったんでな、雪子さんの声援を創造してみました」
彰利 「なっ───サギだぁーっ!!
でもそんな照れくさそうに言うダーリンがカワイイったらねぇぜラブリィー!」
ゴガァアアッ!!!
彰利 「ギャアヤヤァアアアアッ!!」
打ち上げ花火のように飛び、ゴシャアと背中で着地する彰利。
及川 「勝者!晦悠介ーッ!」
及川が勝者の名を叫ぶ。
俺の事情を知らない父兄の皆様が拍手をくれるが、生徒の中で拍手をする者はいない。
彰利 「ふふ、ぼくの乾杯だよベイビー」
彼は微笑む。
ていうか何故に乾杯?
ああ、まあいい。
彰利は前回、勝者になった時には拍手を貰ったものだが、
おそらく今回勝者になったとして拍手はもらえなかっただろう。
この学校の生徒が俺達を見る目は、
文化祭前にクラスメイトを殴った時点で変わってしまった。
だけど、誰も拍手をくれない中で、姉妹と日余と外野だけが拍手をしていた。
ああ、それと高崎さん。
……こんな日もあるか。
どのみち俺らには合わん。
そうやって無理矢理に納得することで、俺達は進んできたんだからな……。
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