それは昔の物語。
すべては産まれた時から始まり、土に還る刻に終わるのだと誰かが唱えた秋の年。
だけど俺の世界はきっと、あいつと出会った時から始まった。
生きることの意味を、希望を、夢を抱かせてくれた親友に、俺はきっと感謝する。
いつだって悲しみを抱いていたぼくらがあの日に出会い、
そして幾つかの未来で悲しみの涙を流しながら、相手の居ないお別れをした。
時々に思う。
望んだ幸せとはいったいなんだったのかと。
きっと答えは誰もが持っていて。
だけど確信が持てないから怯えているだけなんだと彼は言う。
───いつか見た輝く月はいろいろなことを思い出させる。
いつだって弱かった自分。
泣き虫だった自分。
何も出来なかった自分。
男の笑い声が聞こえる度に怯える自分。
男は自分にとって"死神"だった。
死ぬことの答え、絶対の恐怖、そして孤独を脳裏に焼きつかせた存在。
そんな恐怖に打ち勝てたのは、きっと自分の力だけじゃない。
だから俺は、この人生に感謝する。
心を込めてありがとう。
笑顔のままでさようなら。
いつか最後の時が訪れるまで、ぼくはこの幸せを手放したりしない。
たったひとつでさえ欠けちゃいけないガラス張りの夢。
強い衝撃で壊れてしまうとみんなは言う。
だけどガラスは磨けば輝くから。
だから、壊さないようにずっと大事に守ろうと誓った。
───ぼくらは夢を描いてゆく。
さようならの瞬間まで、その刹那まで、きっとそれは変わらない。
筆を置くのは手を振るだけだと微笑みながら、ぼくらは真っ白なキャンバスを彩らせて。
絶対に同じ絵にはならない未来を思い描いて手を取り合おう。
それがちっぽけな絵でも、合わせればきっと綺麗な絵になるのだから。
───だから。
絵の具が尽きるまで、炭が尽きるまで、ぼくらはその絵を描き続けてゆく。
いつまでも、その手が上がらなくなるまで。
そして筆を置く時が来たら、精一杯笑ってやるのだ。
その夢が、幸せな夢だったと確信できるように───
───輝月───
───彰利:1{溶壊せし我が精神の戦慄き}───
静かな時間なんて久しぶりだと誰かが言った。
それはよく知った声で、『ああ、これが自分の声か』、なんて馬鹿なことを考えた。
───黙って空を見上げる。
視線の先には欠けた月。
三日月をその身につけたような黒い空を、ただぼんやりと眺めた。
周りにはだれの影もない。
自分だけがその場に居て、本当に、ただぼんやりと空を見上げていた。
なんて静かな夜だろう。
風の音も無いその世界において、音を奏でられるのは自分だけだ。
自分の存在以外、その世界にはないのだから。
そう考えたらなんだかわくわくして、試しに地面を蹴ってみた。
そんなことをして初めて、地面を蹴った音を聴いた気がした。
こんな音が鳴るのか、と本気で感心した。
そうして冷静になってから『馬鹿か』と苦笑する。
石段に腰掛けていた身体を持ち上げ、のんびりと降りてゆく。
段差を降りる音さえ珍しく感じる自分は果たして正常だろうかと考えた。
だけどやがて、不思議だな、と呟いた。
どうして静かな空間っていうものは人を思考へと導くのだろうか。
そう考えたが、再び考えたものはあっけなく消えた。
孤独、静寂。
そんなものに耐えられるように人間が出来てないからかな、という結論に達したからだ。
考え終えてから、あらかじめ買ってきておいた缶ジュースのタブを開けた。
カシュッ、という水っぽそうでいて乾いていそうな矛盾を湛えた音が鳴る。
どちらかと言えば乾いた音なんだろうけど、
たぶん中身が水だからそういう先入観を憶えるんだろうな。
じゅっ、とすするように口に含むと、不出来さに不満を憶えて捨てた。
ソレは普段聞かないような音を奏でながら石段を落下していった。
そして再び降りる。
ざりっ、ざりっと鳴る石段。
石と砂が擦られて鳴る音はどうかしてるくらいに新鮮だった。
静寂とはこんなに世界を新鮮にするものか。
呟いてみて、また苦笑する。
───さて、この静寂の出口はどこに在るのだろうか。
考えないようにしていた思考を掘り返してみた。
もう長い間、自分はこの静寂から抜け出せないでいる。
いい加減、気が狂う。
だっていうのに感じるものは新鮮な物事ばかりで吐き気さえする。
そんなの、自分の意識がどうにかなってしまったとしか思えない。
ここで毎回、自分の意識を疑う。
こうやって石段を降りていった先に何があるかを知っているというのに、
そこにその知っているものがあっても初めて見るという感動以上に新鮮に感じるのだ。
どうかしてるとしか思えない。
そうこう考えながら石段を降りていくと、そこには扉があった。
毎度のことなのに新鮮さを感じる矛盾。
いい加減、腹が立ってくる。
だけどすることは毎回同じだ。
その扉の前に立って、小さくノックするだけ。
その音にさえ感動を覚えた途端、その扉は消えてしまうのだ。
そして自分の記憶以外の全てが白紙に戻る。
景色は石段から始まり、地面を蹴る音に感動して、石段を降りる。
そんなことの繰り返しだ。
だから今度はノックしないで開けてみよう。
そう思った。
ノブに手を伸ばして、ゆっくりと回す。
すると、回るどころかその扉は溶けだした。
ドロドロと地面に埋もれてゆく。
慌てて手を離そうとしたけど遅かった。
溶けたドアはその手までも飲み込むと、一緒に溶かしていった。
あまりの恐怖に、ひぃ、と喉が鳴った。
がむしゃらにその溶けた部分を離すつもりで手を振る。
すると嫌な音を鳴らして、手首から先が骨ごともげた。
全身に鳥肌がたった。
もげたことにではなく、その音に対してだ。
なんて鮮明な音だろう。
骨をねじ切るような音は産まれて初めて聞いたけど、こんなにも寒気のするものか。
たまらずに吐いた。
ドロドロと溶けていく手の上に吐いた。
それまでも溶けていく。
やがて恐怖で抑えつけられていた痛覚が戻ってくる頃、
今度はその激痛のために涙を流して叫んだ。
血も出なかった断裂部分から、血液までもが思い出したように溢れ出す。
痛みをやわらげたくて、地面を切れた手首で殴った。
やわらげたいのにどうして殴るのか理解出来ないままに殴った。
そこで悟った。
気が狂いそうなんじゃない。
もう、とっくに狂ってるんだ、と───
───……。
彰利 「……ん」
目を開ける。
その先には自分の部屋の天井。
変わり映えのしない景色に思わず溜め息が出る。
彰利 「……また、随分と懐かしい夢を……」
額に滲み出た汗を拭うと、体を起こした。
……ひどくダルい。
自分の体じゃないみたいに言うことを聞かない。
そうなって初めて思い出す。
子供の頃によく見た夢だと思い出すことから、その答えがほぐれてゆくように。
そうか、そういえばあの夢って高熱を出した時じゃないと見たことなかったんだっけ。
彰利 「……これで熱とか測ったら、もう起きられないな」
ダルい体を起こして、一応は立つ。
だがバランスが取れない。
彰利 「……まいったな、風邪か……?」
まさか月操力を身につけてから病気になっちまうとは、不覚だな……。
能力のこと知ってからは病気になる以前の問題で、
病原菌自体からガードしてたからなぁ。
いざこうしてなると、苦しみも久しぶりすぎて正直辛いな……。
彰利 「…………どうしようか」
出席日数の云々がヤバいことは確かだ。
サボリの日が圧倒的に多すぎる。
特に未来がひらけてからは遊びまくりの日々だ。
いや、出席日数がどうとかは関係ない。
俺はただあいつと馬鹿騒ぎしたいだけなんだ。
それ以上のことを望まない。
彰利 「……よし、這ってでも行くか」
倒れた時のことも考えつつ、着替えたのちに玄関へと───ぼてっ。
彰利 「───」
………………あ……───
おかしい、意識、が、保てない───
彰利 「はっ───」
息を吐いたら、もうダメだった。
突然呼吸が早くなり、鼓動も早くなって起き上がれなくなった。
彰利 「んな、ばかな……俺が、熱……!?」
異様に熱い体に驚く。
だがこれしきのことで俺を止められると思ったら大間違いだぜ神よ。
彰利 「見よっ……!俺はたとえ指一本でも自分の体を引っ張ることが───」
どしゃっ。
……だめでした。
彰利 「やばい……からだ、うごかねぇ……」
やがて意識までもが朦朧としてくる。
だってのに、意識は途切れない。
熱……?風邪……?ばかな……!
彰利 「……マジか?俺もやっぱ人の子ってワケ……?」
キャア、初体験YO。
───がくっ。
───悠介:1{滅砕せし虚ろなる眼前の輝き}───
闇は深い。
目に見える景色は漆黒のみの闇世界だと解っているのに、
どうしてそれが黒だと解るのか。
もしかしたら自分の目が失明したんじゃないか、とか。
そんなことを考えず、どうしてそれが闇だと解ったのか。
それが解らない。
試しに手を前に伸ばしてみる。
が、それは何に当たることもなく空振りした。
仕方なく足で探りをいれながら前に進む。
足場はしっかりした石畳のようで、これなら大丈夫だと思って歩く。
だけど念のため探りを入れるのは忘れなかった。
だというのに、次に足を踏み出した途端、その足は虚空を裂いた。
落下する感覚。
慌てて逃げようとしたけど間に合わなかった。
足場全体が最初から無かったように消えたのだ。
気付いたときにはもう落下していた。
───なんて長い世界だろう。
もう何時間も落ちている気がする。
どこまで落ちるのか。
そんなことを考える前に、まず喉が鳴った。
落下する、というものは、人間ならば誰でも嫌なものだろう。
ましてや目の前が暗闇でしかないのなら、どうしても恐怖は増してしまう。
これならいっそ地面が見えた方が覚悟を決められるっていうのに。
───いい加減、感覚が麻痺してきた。
何度恐怖の所為で吐いたかも忘れた。
きっと、目は涙で赤く染まっているだろう。
それでも落ちる。
果てなく落ちる。
いったいどこまで落ちるのか。
……いや、もう落ちる先のことなんて考えなかった。
考えることはただひとつだけ。
───どうか、もう俺を解放してくれ、と。
そう考えた途端、遠くで何かが輝いた。
俺は思わずその光を凝視する。
落下しているというのに。
この長い落下ならば地面があれば死ぬというのに。
その時の俺は『助かった』と思って、次の瞬間地面に激突して絶命した。
血がいっぱい流れて、涙も流れて。
絶命した筈なのに感覚だけが蘇って、俺は臓物を吐いた。
そして必死にもがく。
タスケテ、タスケテと喉を鳴らしながら。
地面を引っ掻き、前に出ようとしたけど前に進んではくれなかった。
常識で考えれば即死の出来事だ。
だというのに、何故───死なせてくれないのか。
臓物がびちゃびちゃと口から垂れ下がる度に、もう殺してくれと願った。
すると空が光ったような気がしたあと、自分の体は粉々になった。
───それから先はもう解らなかったけど、どうしてだか痛みだけが残って。
俺は闇を裂くような絶叫を残して、その世界から消えた。
───。
悠介 「………」
……特に、叫ぶことはなかった。
子供の頃によく見た夢だ。
恐らく、逝屠を消飲したことで触発されて見たのだろう。
人間で居られるギリギリの崖の上で俺は泣きながら眠り、この夢を何度も見てきた。
いまさら叫ぶことなどない。
悠介 「でも……いい朝、とは言えないな」
既に覚醒している頭を1、2度叩く。
悠介 「さてと、朝飯の用意でもするか」
小さく欠伸をかみ殺すと、着替えてから部屋を出た。
洗面所で顔を洗い、歯を磨いて。
台所に立つ頃には完全に朝を迎えていた。
悠介 「さてと、今朝は何にするか」
冷蔵庫とにらめっこをして苦笑する。
結局、朝はあっさり系のモノに限るかとか呟いて料理を始める。
───そこで、ふと考える。
例えば自分。
いくら子供の頃の人生が荒んでいたとはいえ、
あんな夢を見て平然としている自分は正常なのだろうか、と。
どんなヤツにだって怖いものはある。
俺の場合、それが『闇』だった。
それはただ単に暗ければ怖いという意味での闇じゃない。
そう、言うなれば『人間の中の闇』。
人として、これほど怖いものはない。
信じている者、家族、友人。
そういう人達に裏切られてなお、平然としているヤツなんて見たことがない。
いや、言ってしまえばそんな場面に行きつくことが滅多なことなんだ。
もし裏切られて心から笑っていたヤツは、最後まで相手を信じていなかったってこと。
ただそれだけだ。
もっとも、裏切りには前兆がある。
それを感じ取れる人間なら誰だって最後は『やっぱり』って思う筈だ。
だけど信じた心は確かにあったのだから、傷つかない筈もなく───
悠介 「───ああっ……!やめやめっ……!」
飯が不味くなるっ……!
どうも最近の自分はおかしい。
いらない知識ばかりが頭の中をぐるぐると回転している。
考えることを否定するつもりはないが、朝っぱらからこんなこと考えてどうする。
ルナ 「相変わらず陰気出してるね、悠介」
悠介 「ほっとけ。……おはよう」
ルナ 「うん、オハヨ。それで?なに考えてたの?」
悠介 「くだらない話だよ。言って聞かせるようなものじゃない」
ルナ 「そっか」
悠介 「ほら、そろそろ出来るからみんな起こしてきてくれ」
ルナ 「おーらい」
ルナは壁抜けをして台所を出て行く。
それを見送ってから皿に盛り付けをして溜め息を吐く。
悠介 「……まったく、いまさら出てきて人の過去を引っ掻きまわしやがって……」
せっかく纏まりかけていたモノがまたバラバラになってしまった。
悪態のひとつも吐きたくなるというものだ。
悠介 「───さてと、朝食にしますか」
言って、皿を運ぶ。
相変わらずの朝を迎えた筈が、どこで踏み間違えたのか……。
俺は朝から頭を痛めてた。
───彰利:2{哀}───
彰利 「だ、だめだ……せめて、悠介のフェイスを、見なけりゃ……!
お、俺の朝は……始まらねぇのよ……!」
ずるりずるりと這う。
ぬうおおおおおお……!
ドアにへばりつくように玄関を開け、外に出る。
手摺りを掴みながらなんとか立って、カンコンと階段を降りた───ところで倒れた。
彰利 「ぐおお……!なんたる無様な……!」
しかし構わん……!這って辿り着けるのであれば、俺は喜んでブチャアッ!
彰利 「ぎゃあああっ!!」
キキッ!
オバン「ちょっとアータ!なにそんなとこで寝てんだい!」
彰利 「ぐ、ぐおお……!」
思いっきり遠慮なく手を轢かれた。
オバンは自転車から降りると、俺にガミガミと説教を力説したのちに去っていった。
彰利 「うう……この手ではもう這うことも叶わん……!」
しゃあない……根性出して歩いていこう……。
諦めるな、俺なら出来る……!
───悠介:2{刻}───
───…………。
及川 「弦月。弦月〜?居ないのかー?」
彰利はガッコに来なかった。
大方、サボって遊んでるんだろう。
それか家でメイド服の手入れでもしてるのか。
及川 「ふむ、弦月は休みか」
教師という立場上、及川もハッキリとサボリとは言えないらしい。
及川 「よし、ではホームルームなんぞ適当に切り上げるぞ。
あとは勝手にしてよろしい」
及川はおよそ教師らしくないことを言いつつ教室を出ていった。
まあな。
このクラスには何言ったって無駄だろう。
でもその大元の彰利が居ないってのもなんか表し抜けっていうか……。
悠介 「ま、どうせすぐ会うだろ」
あいつの場合、心配するだけ無駄だ。
よし、家に帰るか。
エスケープ最高。
…………
……
悠介 「………」
ぴんぽーん。
…………。
悠介 「居ないか。まったく馬鹿だな俺も。
あいつが家でジッとしてるわけないじゃないか」
苦笑する。
結局、なんとなく気になって彰利の部屋にまで来てしまった。
居留守かもしれないと部屋に入ってみたのだが、
『妖精さんは居るの?』という血文字以外、おかしな点はなかった。
相変わらず訳解らん。
血はまだ新しく、
そう時間が経っていないことが解った───と思ったらトマトジュースだった。
悠介 「……何やりたいんだあいつは」
頭を抑えつつ、部屋をあとにした。
───彰利:3{上腕二頭筋の乱}───
───危機というものがある。
今、己という名の彰利様はその状況下に身を置いていることは、まず間違いない。
ていうか断言する。
オレ、アブナイ。
いや、俺の人格がアブナイんじゃなくてね?
今のの俺の状況がとても危ないのよ?
そこんとこ解ってね?
彰利 「………」
犬A 「ガルルルル……!」
ッチィ、まさか野良犬のナワバリに突入しちまうたぁツイてねぇのう。
犬B 「───ウオゥッ!」
彰利 「じゃあしゃあっ!」
犬B 「キャイィンッ!」
お犬様Bを咆哮で黙らせる。
フッ、まだまだ気迫じゃあ負けてねぇぜ?
犬A 「ウーッ……!!」
でも大将には嫌われたみたいね。
いやーん。
犬A 「ヴォウッ!ウォウォウッ!!」
お犬様Aの咆哮。
……ッチィ、いちいちやかましい犬だ。
吼えてる暇ァあったらこいやぁ!アァ!?
とりあえずメンチきってみた。
犬A 「ヷゥッ!」
そしたら問答無用で襲いかかってきた。
……かかったな、この馬鹿野郎が。
彰利 「くらいやがれっ!フェイスフラッシュゥッ!」
───がぶり。
彰利 「ギャーッ!」
頭を噛まれた。
思いっきり噛まれた。
彰利 「馬鹿な!光らねぇだと!?そんな暴挙が許されていいの!?
ていうか痛ッ!痛いわコレ!めっちゃ痛い!」
こ、この犬ジャリがぁ……!
調子のってんじゃねぇぞですよーっ!?
彰利 「地球のみんな!オラにお犬様を怯ませる力を分けてくれ!」
俺は右拳に力を込めた。
そして大きく振りかぶり───
彰利 「ゴールデン・スマァアアアッシュ!!」
コキィンッ!!
犬A 「ギャワォゥンッ!?」
お犬様の黄金を見事に打ち抜いた俺は、牙を離した犬畜生にビンタをドパァンッ!
犬A 「キャイイィンッ!」
それを食らったお犬様は驚いたのか、さっさと逃げていった。
彰利 「もう二度と人様狙うんじゃねぇぞー!?今度は砕くからなーっ!」
そこまで叫ぶと、緊張が切れたためか、尻餅をついた。
彰利 「───ぐはっ……もうアカン……」
ぜーぜーと息を吐く。
と、そんな時だった。
猫A 「……フ〜……───!」
彰利 「…………いやーん!」
ヤバイ!相手が猫じゃ黄金への制裁が出来ない!
出来るだろうけど範囲が狭すぎる!
それに黙って食らってくれるわけがない!
彰利 「……フ……フフフ……!」
こんなこともあろうかと、オヤツとしてチクワを持ってきてあったのよ〜ぅ!
彰利 「オラッ!貢物じゃい!ありがたく食らうがいい!」
ひょいっ、ボテッ。
猫B 「!」
猫Bが飛びつく。
そしてカフカフと早口で食べてドシャア。
倒れた。
猫A 「!?」
彰利 「フフフ、ただでくれてやると思うたかダァホが。
丹念に皮を剥いて鮫皮で擦った純粋ワサビ入りチクワよ!
猫などが耐えられる刺激ではないわ!」
猫A 「ゴギャーッ!」
彰利 「ってギャーッ!堪忍!かんにんやーっ!
ていうかなんで犬のナワバリに猫がいるのよ変じゃない!
イヤア爪立てないで!ギャアア引っ掻かないで!ギャッ───ギャアァッ!」
───悠介:3{呆}───
悠介 「…………」
猫が倒れていた。
一匹はチクワの前で悶絶していて、もう一匹は眉毛を書かかれていて、
腹部に『ホワッツ・チャトラン』という張り紙が巻かれ、見事に倒れていた。
ああ、確かにホワッツマイケルとチャトランって似てるよな。
こんな『ゴルゴ13』みたいな太マユゲは無かった気がするが。
じゃなくて。
悠介 「……こんなことするヤツ、あいつしか居ないよな?」
断言できる。
いったい何をやってるんだあの馬鹿……。
───彰利:4{無頼伝 彰利}───
孤立せよっ……!
散れっ……!
彰利 「お願い散ってーっ!孤立してーっ!」
犬F 「ワォウッ!」
犬Ω 「ガウゥッ!」
彰利 「なんでーっ!?どうして病人の俺様が犬に襲われなくちゃならねぇのーっ!?
ていうか何匹居るんだよ犬ども!『Ω』ってなんだよ!改造犬かてめぇ!」
ガブリ。
彰利 「ギャース!」
ガブリ。
彰利 「ギャース!」
こ、こいつら俺を食事かなんかだと勘違いしてやがる!
どうなってんだ日本の野良犬様は!
彰利 「図にのるなっ……!たかだか手を噛んだくらいでっ……!図にのるなっ……!
修正しなければならないっ……!
こんな犬もそうだがこんな犬を作ってしまった世の中もっ……!
散れっ……!散れっ……!変わるべきっ……!変わるべきだっ……!」
───あの馬鹿を見つけたのは、あれから間も無くだった。
野良犬に囲まれながら、しきりに『無頼伝涯』の真似をして孤立せよと言う馬鹿を発見。
彰利 「キミ達は犬かっ……!?そうじゃないだろうっ……!!
半ばケモノは卒業っ……!さあっ……!人間になろうっ……!」
ゴリッ。
彰利 「ギャーッ!」
……なにをやっているんだあいつは。
彰利 「き、貴様ーッ!!人がせっかく課長の真似してやってたのに噛むか!?
もう辛抱たまらん!歯ァ食い縛れ!修正してやる!」
彰利は強引に犬に噛まれた腕ごと犬を持ち上げると頭突きをドゴォッ!
犬Z 「キャイィンッ!」
彰利 「素直になぁれっ!素直になぁれっ!」
ゴツンッ!
ドゴッ!ゴゴォンッ!
犬X 「ギャワッ!キャイッ!」
彰利 「素直に……!素直に素直になぁれっ……!」
ゴスンゴスンッ!
ボゴッ!ゴツッ!
犬ZZ 「ギャワァンッ!キャィインッ!」
彰利 「悪魂退散!悪魂退散!綺麗な魂戻ってこいっ……!」
ブシィッ!
犬λ 「キャイィンッ!」
トドメに何故か毒霧を吐く彰利。
あれで綺麗な魂戻って来いだなんて言われても説得力が無い。
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