───聖夜───
───季節はめぐる。
秋から冬へと姿を変えてゆく町並みを見下ろして、
既に白くなっている息を見て肩をすくめる。
……寒くなったよな。
サク、と音が鳴る地面を見て溜め息を吐く。
まったく……なんだってこう都合よく雪が降るかねぇ。
悪態をつきながら見下ろす街から踵を返し、視界をずらして家へ向かった。
こうして、今日───クリスマス・イヴは発動したのだった。
───。
家に入る前にまず目につくツリー。
バカでかいその大木はルナが持ってきたものだ。
もちろんツッコんだ。
思いっきりツッコんだ。
そしたら『えー?だって《くりすます》には木を飾って、
その大きさと飾りの美しさで競うんでしょ?』などとぬかしやがった。
で、当然追求してみれば出てきた名前は予想通りだったわけで、彼は雪原に散った。
大木の下にある雪達磨(ゆきだるま)がそれを物語っている。
雪達磨「やあ、ぼくはスノーメン。龍神烈火拳を覚えるならぼくに任せておくれよ。
ところでそこのキミ、お腹が空いていたりしないかい?
空いていたらぼくの頭をおたべよ。そうすれば本体のハンサム顔が」
悠介 「いらん」
雪達磨「ゲッ……い、いや、そんなこと言わずにどうだい?
こんなことを言うのもなんだけど、
ぼくはこんなところでポツンとひとりぼっちで寂しいんだ。
もう少しくらいぼくのお話を聞いてみる気はないかい?
今なら漏れなく高枝切りバサ」
悠介 「いらん」
雪達磨「ぬおお……!た、頼むよ。ぼくの話を聞いておくれよ」
悠介 「……寂しいのか?」
雪達磨「寂しい寂しい!」
悠介 「話を聞いてほしいか?」
雪達磨「聞いてほしい聞いてほしい!」
悠介 「だめだ」
雪達磨「ええっ!?そんな!なんのために聞いたんだこの野郎!」
悠介 「ん?反抗的な態度だなぁこの雪だるま。ほっとくか」
雪達磨「ゲェーッ!ま、待てーっ!いや、ま、待ちなよそこのキミ。
ぼくのお話を聞いていってもバチはあたらないよ?」
悠介 「ありがたみの無い貴様の話を聞かないだけでバチがあったら、
そんなものは割りに合わないだろ」
雪達磨「こっ、こんガキャ……!」
悠介 「あー寒い寒い、家に入って暖まるか」
雪達磨「待ちやがれそこのボーイ、俺の顔を殴ってみろ。
今ならキス一発で許してやる」
悠介 「断る」
雪達磨「ゲェッ!?タダでいいから殴って!このままじゃ窒息するわアタイ!」
悠介 「穴開けてあるだろ?」
雪達磨「俺の熱きハートの所為でちょっと雪が溶けてさ。
水滴で穴が塞がって、しかも固まっちゃってさー。
いやー、まいったまいった」
悠介 「じゃあな、達者で暮らせよ」
雪達磨「イヤァ待ってーっ!助けてアタイを!助けてー!」
悠介 「お前さ、どうせそんなもんさっさと破壊出来るんだろ?
だったら抜け出すか破壊するかしたらいいじゃないか」
雪達磨「それがさぁ、完璧な造形で固められた所為で指一本動かせんのよ。
なにせ、ママっちとエドガーとゼノの合作だしさ。
弦月彰利のぉ♪動けないってことは不便だねっ♪
───助けてぇええええええええっ!!
もはや月然力で酸素作りすぎて月操力切れてるんです!
しかもこの状態で凍死しないためにも保温効果も使ったせいで、
アタイの月操力ホントにマジでミソっかすですよ!死ぬ!死んでしまう!」
───どうやら本気でヤバイらしい。
ぬう、遊んでる場合じゃなかったか。
悠介 「わかった、殴るぞ?」
雪達磨「よしこぉい!」
悠介 「っ───ぉおっ!!」
ガチィッ!!
悠介 「───」
雪達磨「?」
ぶしぃっ!
悠介 「───いってぇえええええええええええええええええっ!!!!」
血が噴き出した。
ああっ!こりゃ硬い!硬いよコレ!
雪達磨「……あの、ダーリン?真面目にやってる……?」
悠介 「悪かったな!大真面目だよ!おー、いてぇ!おーぉおおいてぇ!」
フーフーと息を吹きかける。
ああ、熱い血液に冷たい冷気がありがたい。
悠介 「残念だけどこりゃ無理だ。
家系の腕力をもってしても破壊できないなんて、こりゃどうかしてる」
雪達磨「ぬう……最強の三すくみが作ったモノは伊達ではないってわけですな」
悠介 「……ふむ、よし。熱湯が出ます!」
ポムッ。
ばしゃっ。
悠介 「うわぁちゃぁああああああああっ!!!!」
おわちゃ!うわちゃぁああっ!
雪達磨「……ダ、ダーリンがコントを?」
悠介 「そんなんじゃないっ!痛さの所為でイメージがまとまらなかったんだよ……」
雪達磨「んもう、ダーリンたらアタイを助けたい一心で必死だったんでしょう?
まったくウヴなんだから〜♪」
悠介 「……彰利の口内に熱いお茶が出ます」
イメージを膨らませ、そして弾かせる。
彰利 「ウォーチャーッ!あちゃっ!うあちゃっ!ギャーッ!」
絶叫が轟いた。
やがて雪達磨の顔の部分からお茶が溢れ出す。
絶え間無く溢れ出す。
悠介 「……しまった。途中で止まるイメージ付け足してなかった」
さすがに今回ばかりは反省した。
のだが、彰利は自力で雪達磨を破壊。
あまりの熱さに滝壷目掛けてムーンサルトダイブを果たし、氷結して戻ってきた。
しくしくしくしくしく……。
情けなくも鬱陶しい声が響く。
悠介 「泣くなってば……確かに俺が悪かったけどさ、
滝壷に落ちたのはお前の意思だろ……?」
彰利 「熱かったんだもの……アルティメット熱かったんだもの……。
酒場でバーボンぶっかけられることなんて目じゃなかったよ……」
凄まじい体験をしちまっただ……と唸っている彰利。
それでも決めポーズなどを無意味にとっていたりするんだが、
ストーブの前に釘付けになった彼は情けない限りだった。
彰利 「ぬおお……ストーブがこんなにも暖かいものだったなんて……。
思わず歌ってしまいそうなアタイが怖い……でも愛しい」
悠介 「ナルシストだったのか」
彰利 「NO!チガウチッガァアアウ!アタイってばナルシスト違うヨー!
俺はアレですヨ!……あれ?なんだっけ」
知るか!
彰利 「忘れたからいいや。そんじゃ歌おうか。
初め〜て知ぃた〜スト〜ブ〜愛〜♪
そのぬ〜くもりに〜目ぇ覚〜めたおーとーこー!」
悠介 「たっぷり愛してやれ」
彰利 「あらやだ!ダーリンたらヤキモ」
ジュッ!
彰利 「ギャアア!熱い熱い!!」
悠介 「寝言は寝て言え。お前相手にヤキモチなんぞするか」
彰利 「うう、ひどいや……ぼくたち親友だろ?」
悠介 「そうだな」
彰利 「そしてお互い、愛のために生きるって誓い合った中でしょ?」
悠介 「誓っとらん誓っとらん」
彰利 「なにぃ!?キィイ!あな口惜しやァーッ!!」
悠介 「うおっ!?なっ、いきなり何しやが」
水穂 「あの、おにいさん。甘酒でもどうで」
がしゃんっ!
悠介 「あ」
襖を開けて入ってきた水穂が俺を見て硬直する。
っていうかギャア!なんか盛大に誤解してそうですぞ!?
水穂 「あ、あのあの、すすすすいませんっ!
まままさか本当にそんな関係だったなんてボクッ!
お邪魔なんかするつもりじゃなかったんですよぅ!
だだ、だけどこれでツジツマが合ったっていうか!
女の子に振り向かない理由が解ったっていうかぁああっ!」
悠介 「違う!断じて違う!誤解だ!濡れ衣だ!
これはこいつがいつもの調子でふざけて」
彰利 「ヒドイわ!アタイとは遊びだったのね!?アタイを見捨てるのね!?
前はこんな人じゃなかったのに……!だからカタギ仕事なんてやめれって……」
悠介 「なに恐ろしいこと吹聴してやがるーっ!!」
ボゴォッ!
彰利 「ゼブラ!」
悠介 「水穂!俺の目を見ろ!これがウソついてる男の目か!?」
彰利 「うわーお、ウソついてる男の目だー」
悠介 「黙ってろこの珍獣百科事典がぁーっ!!」
ドゴォッ!
ベキベキドスドスガンガンガン!
彰利 「ジェーン!」
悠介 「俺はこいつに友情は持ってても恋心なんて持ってないんだ!信じろ!」
彰利 「そう、抱いているのはアタイへの不倫心のみなのYO」
悠介 「いっぺん死ねーっ!」
ドカァアアアアンッ!!
ベキィッ!ドガシャドシャァアアアアン!!
彰利 「……グヘッ!」
ガクリ。
悪は滅んだ。
水穂 「あのあの、でも」
悠介 「でもじゃないっ!」
水穂 「ひゃあっ!」
悠介 「あいつとの関係が認められるだなんて冗談じゃない……!
俺は男色でもなければホモでもオカマでもないんだよ……!」
水穂 「あうぅ……じゃあ、女の人、好きなんですか……」
悠介 「それは別問題だ」
水穂 「うー、でもでも、おにいさん、ハッキリしないとみなさん怖いですよ?」
悠介 「ハッキリって?」
水穂 「誰が好きか、ですよ」
悠介 「好き?誰が?」
水穂 「おにいさんがです」
悠介 「誰を??」
水穂 「それを訊いてるんですよぅ……」
悠介 「……?みんな俺の家族だから、みんな好きだぞ?」
彰利 「ハーレム気分全開!?ええのうええのうモテ男くんはよぅ!」
バチィッ!
彰利 「あぎゃぁっ!」
悠介 「この馬鹿は無視るとして。なんかよく解らんのだが水穂」
水穂 「むー……おにいさん、もしかしてこのテのことに慣れてませんか?」
悠介 「このテ?どのテだ?」
水穂 「……みなさんが苦労する意味が解ったです……」
悠介 「?」
彰利 「無駄だよ水穂ちゃん。悠介は他人のことばっか気遣ってて、
いざ自分のことになると頭が働かねぇんザマスよ」
水穂 「そうなんですか?」
彰利 「アイドゥ。その代わり、悩む時はとことん悩む。
そういう脳を持ってるんですのよ宅のダーリンは。ムホホホホ」
悠介 「あ、いや……そんなつもりはないんだが……」
水穂 「えーとですね?いいですかおにいさん。
今はおにいさんの好きな人は誰か、ってお話なんですよ?」
悠介 「俺が好きな人?」
水穂 「そうです」
彰利 「俺だ」
悠介 「断じて違う」
彰利 「むおっ!?……水穂ちゃん、追加。ツッコミにも脳がフル回転するみたい……」
水穂 「それはただ単にあなたが嫌われてるだけですよ」
彰利 「むほっ!?……ダーリン。
ここの女の子ってやさしそうな顔してヒドイこと言う人ばっかりだね……」
悠介 「お前が相手だからだろ」
水穂 「そうですよ。ひどい誤解です」
彰利 「誤解って……あの、水穂ちゃん?現に今アタイが中傷されてるんですけど」
水穂 「話は戻りますけど」
彰利 「戻っちゃいやーっ!水穂ちゃん冗談キツイよー!」
水穂 「結局誰が一番好きなんですか?」
彰利 「うわぁ、真面目に戻しちゃった。でも気になるそれ」
悠介 「知らん」
彰利 「気になった途端に落とされたァーッ!ええいハッキリしないわねダーリン!
いったい誰!?誰が好きなのよ!」
悠介 「だから知らんって。そんな風に人を見たことがないんだ、仕方ないだろ?」
水穂 「……子供の頃からの生き方を考えれば解らないでもないですけど……」
彰利 「でもね、ダーリン?連れ合いは居た方がええよ?
アタイなんてもう、粉雪と熱い日々を送っておますのよ?」
悠介 「訊いてないって」
彰利 「訊け!そしてアタイの愛の歴史を心に刻み込め!」
悠介 「遠慮しとくよ。それじゃあ俺は夜の準備もあるし、これで失礼するよ」
彰利 「あっ!こら待ちんさいダーリン!逃がしま───寒ッ!
ぬおお……ダメです……もはやアタイとストーブは一心同体ヨ……」
悠介 「なら遠慮せず合体でもしてなさい」
トンッ。
彰利 「ウィ?」
ジュウッ!
彰利 「うぁぢゃぁあっ!!うおっちゃ!ほあっちゃ!
アタタタタタ!ほあたぁ!ホアッチョウッ!」
残像を残しつつ手を腕から回転させている彰利。
そして回し受けの要領で最後に腕を交差させると今度は力を込めて
彰利 「コォオオオオオ…………ッ!!コッ!」
息吹きを始めた。
そしてなにやら『陵辱がないでしょッッッ!!』とか言って泣いている。
水穂はそんな彰利を見ておろおろするだけだった。
……そりゃそうだ。
悠介 「それじゃあな、あまり騒ぐなよ」
彰利 「今のはダーリンが押したからでしょ!?」
悠介 「はっはっは、気にするな」
彰利 「あっ───待つんじゃダーリン!まだ話は終わっちゃ」
バンッ!
ベキャア!
彰利 「キャーッ!?ゆ、指!指挟んだーっ!
ダーリンの馬鹿ー!追っていったのに目の前で閉めることないじゃない!
ぬおお、今の衝撃で爪が割れ、その隙間から血管芯が」
水穂 「あの、追わないんですか?」
彰利 「そーれ血管芯攻撃〜」
水穂 「キャーッ!?」
彰利 「説明しよう!血管芯攻撃とはジョジョの奇妙な冒険(第1部)にて、
餓鬼人(グール)どもが使っていた技である!
血管からマグマのごとく煮えたぎる血をたらすことによって、
かけた相手に致死と毒素を送り込むのだッ!」
水穂 「いやーっ!きゃぁあああっ!!きゃあああああっ!!!」
彰利 「いや、あの……水穂ちゃん?
……なにもそんな、本気で怖がることないじゃない……」
ポム。
彰利 「ウィ?」
春菜 「ウチの妹になにしてるのかなぁ、変態さん?」
彰利 「うむ、まあ聞いてくれよ年長者よ。
見ての通り血管芯攻撃で遊んでただけなんだが水穂ちゃんたら泣いちゃって。
アタイもどうしたもんかと……って!イヤァア!
人が語ってる隙になにほうき輝かせておりますかーっ!?」
春菜 「問答無用!晦家家訓ひとーつ!
家族に害を及ぼす者、ことごとく消し去るべし!ファイヤーッ!」
ドチュゥウウンッ!
彰利 「ゲェエーッ!!まるで俺のためだけに作られたみたいな家訓だーっ!!
ってぎゃああああああああああああああああああっ!!!!」
どがぁああああああああん!!
───。
悠介 「はぁ。まさかケーキを作るハメになるとはな」
セレス「慣れれば面白いものですよ。さ、これを焼いてください」
悠介 「ああ。しっかし提案しておいてなんだけどさぁ。俺達だけで作れるのか?」
セレス「大丈夫ですよ。
これでも産まれた場所ではフェイトのためにケーキを焼いてましたし」
悠介 「フェイト?」
セレス「あ───」
無意識で言ったのか、俺の言葉に表情を曇らせるセレス。
セレス「……昔の話です。忘れてください」
それだけ言うと、セレスは黙々と作業に取り組んでいった。
……昔、なにかあったのかな……。
悠介 「なぁ、セレス」
セレス「やめてください、思い出したくないんです。
……わたしは───ここに来てようやく、自然に笑えるようになったんです。
それでいいじゃないですか……。
わたしはやっと、あの子の分まで楽しく生きようって、思えるように───」
悠介 「……楽しく生きようって思うなら……どうしてそんな悲しそうな顔するんだ?」
セレス「え───?な、なにを言ってるんですか、わたしはいつも通りで───」
悠介 「───鏡が出ます」
セレス「悠介さん……?」
悠介 「見てみろ。こんな泣きそうな顔で、どうやって楽しく生きていける?」
セレス「………」
悠介 「……あのさ。たしかに俺は、セレスが昔どんな風に生きてたのか知らない。
でもさ、セレスの生き方───絶対間違ってる。
忘れたい過去は誰にだってあるよ。だけどさ……。
誰かの分まで生きるっていうなら、その人の思い出を放棄しちゃいけない。
そんなものはその人の分まで生きた、なんて言えないよ」
セレス「───……じゃあ、どうしたらいいんですか……。
わたしは……わたしはこの時代までずっとそれを考えて生きてきました……。
でも答えなんて見つからなかった……。
これ以上、何をしろっていうんですか……」
悠介 「全てを背負った上で生きてみたらいいんじゃないかな。
その枷が軽くなるまで、そうやって生きてみればいいと思う。
逃げ出したら……否定したらそれこそ、一生そこから進めないよ」
セレス「背負う……?すべてを……?」
悠介 「そ。まあ……現実に恐怖して記憶を封印してた俺の言うことじゃないけどさ。
俺でもそう思えるようになったんだから、セレスにだってきっと出来るよ」
セレス「………」
悠介 「偉そうなこと言ってごめんな。料理、続けようか」
セレス「あ、───あの……」
悠介 「うん?」
セレス「……わたしは、わたしに感情を教えてくれた少年を目の前で失いました……。
そんな事実まで……わたしを庇って死んでしまったという事実まで……。
わたしは背負うべきなんですか……?そんなことまで……」
悠介 「───セレス、その考えが違うんだ」
セレス「え───?」
悠介 「庇って死んだんじゃない。庇って未来を築いてくれた、って考えるんだよ。
その少年っていうのがどんな子かは知らないけど───
それはセレスのことを守りたかったからそうしたんだろ?
死んだ、なんて言ったら可哀相だよ。
それと『背負うべき』じゃなくて、一緒に歩く。
そういう考え方をしたらいいよ。って、これは俺の言い方が悪かったか」
セレス「一緒に歩く……」
悠介 「んー……例えばさ。火事が発生した家に子供が残されていました。
子供は囲まれた火の海でただ泣いていました。
だけど大人の人が来て、助けてくれました。
───でも、その人は落ちてきた柱に潰されてしまいました。
けれども子供は無事だった。……さて、ここからだ。
ここで少年がこの人の分まで生きると決心するか。
それとも自分を守ろうとした所為で死んだと思い込んで、
せっかくひらけた未来までも放棄してしまうか。
極論だけど、今のセレス後者だよ。放棄するよりはまだマシな方だけどね」
セレス「そんな……」
悠介 「そんな顔をしないの。話はこれからなんだから。
人が死んだのにいきなりこの人の分まで、なんて無茶な話なんだよ。
それが子供だったら余計にだ。
俺が思うに、セレスがそれを体験したのは、
創造されてからそこまで時間が経ってなかった時だろう?」
セレス「はい……」
悠介 「だったら条件は揃うわけだよ。
セレスは創造されたばかりに近かったこともあって、
情報は取りこぼしがないように手当たり次第憶えていった。
それがたまたま罪悪感と重なって、当時の状態にあるんだと思う。
それは絶対忘れることは出来ないよ。
だったら一緒に歩いてやればいいんだ。
そうだなぁ……それを嫌な思い出と思わないで、
その記憶自体をその少年だと思えばいいんだと思う」
セレス「この記憶を……フェイトと思う……?」
悠介 「───そっか、その少年っていうのがフェイトって名前なのか」
セレス「あ───……はい。わたしを庇って、親に殺された子供です」
悠介 「なかなかヒドイ話だな……」
セレス「たしかに悠介さんの言う通り、忘れるのは不可能です。
でも……いつから間違ったんでしょうか。
わたしも最初は一緒に歩こうとしていた筈なのに……」
悠介 「考え方が変わったってことだよ。それだけ成長してるんだ」
セレス「成長?わたしが?」
悠介 「吸血鬼だからって、大体が成長しないからって、
絶対成長しない部分が無い存在なんてないよ。
セレスの場合───うん、考え方が成長したんだと思う。
それがたまたま『逃げ』の方に成長しただけなんだよ」
セレス「逃げ、ですか?」
悠介 「ああ。誰だって辛い思いと一緒に歩くのは嫌だろう?
だったら放棄しちゃえばいい。簡単だ。
でもそれは辛い思いだからで、辛くなければいいんだ。だから」
セレス「だから、その思い出をその人物だと思え。ですか」
悠介 「そゆこと」
セレス「…………ふ……ふふふ……」
悠介 「んあ?ど、どうかしたか?」
セレス「すいません……。ああもう、いやだなぁ、って……。
どうしてわたし、こんなことで何年も悩んでたんだろう……。
わたしが何年も苦しんできた答えを、
わたしより全然短い時間しか生きてない人に教えられるなんて───」
悠介 「む。生きた歴史は人の思考に関係ないだろ?
確かに子供の考えることはアレだけど、
それが答えになることも支えになることもあるんだから」
セレス「ごめんなさい、そういう意味でいったわけじゃないんですよ」
悠介 「だったらそのクスクス笑うの、勘弁してくれないか?
まるで自分が恥ずかしいこと連発して笑われてるみたいじゃないか」
セレス「ええ、普段の悠介さんと比べれば恥ずかしいことの連発でしたよ」
悠介 「くはっ……」
セレス「ああもう、おかしい……っ。あははははっ……」
悠介 「………」
鼻の頭を掻いた。
なんていうか照れくさかったからだ。
思わず、こんな風に笑うことの出来る人だったのかと、見惚れてしまっていた。
グミミッ。
悠介 「───」
ルナ 「………」
セレス「あらルナ、居たんですか」
悠介 「……ほひ(訳:おい)」
ルナ 「………」
悠介 「ほひっへ(訳:おいって)」
ルナ 「……ゆーすけ、なに、今の顔」
悠介 「はほ?(訳:顔?)」
ルナ 「見惚れてた、なんて言わないわよね?」
悠介 「はほはは……(訳:あのなぁ……)」
すぱんっ。
悠介 「いでっ」
ルナ 「ネッキー、わたしの悠介にちょっかい出さないでよね。
なにさ、仲良くお話なんかしちゃって」
いつからお前のになったんだ俺は……。
セレス「……人と話すのに誰かの許可がいるなんて聞いたこともありませんけど?
解ったらさっさと出ていってください。
ここは料理の出来ない者の立つ場所じゃあありません」
ルナ 「むっ!わたしだって料理くらい」
セレス「出来るんですか?」
ルナ 「う……うー……!」
セレス「出来ませんよねぇ。この数百年を無駄に過ごしてきたあなたでは」
ルナ 「わ───わたしは大根おろしさえ作れればいいんだもん!
なにさ!悠介のばか!デレデレしちゃって!」
悠介 「あっ、おいっ!ルナッ!?
───……あの馬鹿、盛大に誤解して逃げるなよな……」
壁に消えていったルナを考え、頭が痛くなる。
どうしてこう、人ってのは誤解することが好きなんだか……。
……俺も含めてな。
セレス「誤解なんですか?」
悠介 「ごっ……誤解だよっ!おお俺はべつにセレスに見惚れてなんてっ───」
セレス「そうですか。魅力無いんですかね、わたし」
悠介 「い、いやっ、そういう意味じゃなくて───ああっ!笑うなよ!」
セレス「ふふふっ……いえいえ、ごめんなさい。
こういうことに関してはまだまだ子供中の子供なんですね、悠介さんは」
悠介 「わ、悪かったなっ……。
人に好かれるのも好きになるのも慣れてないんだよっ……」
セレス「いいえ、好感をもてますよ。そういう人は嫌いじゃありません」
悠介 「……好きでもないって意味だろ?」
セレス「いいえ。好きですよ」
悠介 「ぶっ!?───あ、ああ、家族としてって意味だよな?は、ははは……」
セレス「さあ、どうでしょうか」
悠介 「お、面白がってるだろっ!絶対面白がってるだろっ!」
セレス「どうでしょうかね。ふふふふふ……顔赤いですよー」
悠介 「くっ……セ、セレスのばかーっ!」
ずだだだだだっ!
セレス「あ───残念、逃がしちゃいました」
でも、なるほど。
確かに気持ちが軽くなった気がする。
いいものですね、相談出来る人が居るというのも。
───となると……。
ああ、そうか。
これで少しは彼女たちの気持ちも解りました。
相談するべき人が他の人に取られるのは癪ですね。
ええ、癪です。
……こういうことですか。
セレス「あ、そういえばケーキが───!?ああっ!煙が!」
ドカーンッ!
セレス「きゃーっ!」
───……ケーキって爆発するものだったんですか。
初めて知りました……。
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