───逝屠───
ルヒド「創造するものに比例して体力を消費するのは仕方が無いことだよ。
この世の楔(くさび)に絶対的に反した能力なんだからね」
悠介 「そうだよな……。
この能力自体、体力の消耗ごときで出来るのが一番解らないんだよな……」
ルヒド「さて、僕の話はここまでだ。
まず自分の魂にもうひとつ分くらいの魂が追加されます、くらいのイメージで、
自分の魂を復活させてあげてくれ。
いいかい?これがキミの魂のイメージだ」
ルヒドが俺の額に触れ、イメージを流し込んでくる。
そのお蔭で、自分の魂のイメージというものを掴めた。
正直、どうイメージしたらいいか解らなかったからありがたい。
ルヒド「魂の形は千差万別だから、このイメージを他の人に使っちゃいけないよ?
まあそんなことはしないだろうけど……まずは魂を作っちゃってくれ。
その後に魂結糸を切れる鎌が出ますとか唱えて、胸の先の虚空を切ればいい」
悠介 「ここらへんか?」
空をなぞるように手を振る。
ルヒド「そう、そこだ。そこをその鎌で切れば完了だよ。
ちょっと意味不明の喪失感覚があるかもしれないけど気にしないように」
悠介 「あ、ああ……」
ルヒド「それじゃあこれで失礼するよ。退屈になったら呼んでくれると嬉しいな。
僕は結構キミのことが気に入っているんだ。呼ばれればすぐに行くよ」
悠介 「それは変な意味じゃないよな?」
ルヒド「彰利って子と同じ感覚だと思うよ。
もちろん僕はキミの布団に潜り込んだりはしないけどね」
悠介 「あっ、ああああたりまえだっ!!」
ルヒド「いやぁ、からかい甲斐があるなぁキミは。そういうところが大好きだ」
悠介 「さっさと帰れっ!」
ルヒド「ひどいなぁ。でもそうだね。そろそろ止まった時間も動き出す。
ああ、安心してくれていいよ。
他の誰にも、ここで起こったことは気付きようがないから。
この時の中で動けるのは僕とキミだけだからね」
悠介 「それは俺とアンタが何かで繋がっているって意味か?」
ルヒド「そんなことはしないよ。それじゃあフレイアやルナと一緒じゃないか。
僕のこの時間触は僕がそうなるように調節しているからだよ。
キミの友達は月空力って呼んでるけどね。
能力を高めれば時間も好きなように操れるから、ある意味で抵抗出来ないよ」
悠介 「そんなことに使う気はないんだろ?」
ルヒド「あはは、そこまで解ってるのかい?
そう、僕は月操力を殺しの能力として使ったことなんてないよ。
この能力は僕にとってはマジックをショーみたいに使ってる人と同じ感覚さ。
人に見せて喜んでもらえる。または、驚いてもらえる。
それもまた、人間としては嬉しいことだからね」
悠介 「いいから帰れ」
ルヒド「ははは、やっぱりひどいなぁキミは。キミが訊いてきたから答えたのに」
悠介 「引き止めて悪かった。悪かったから帰れ」
ルヒド「うん、それじゃあ暇になったら呼んでくれていいから」
悠介 「どうしようもなく暇だったらなー」
ルヒド「あははははは、本当に口が減らないなぁ。
それじゃあ、またあとで。ごきげんよう」
それだけ言うとルヒドはこちらの返事も待たずにさっさと消えてしまった。
その次の瞬間には景色が動き出して、風が俺の頬を撫でた。
悠介 「……忙しいヤツだな……って、どうして『またあとで』なんだ?」
穏やかでいて疾風怒濤を思わせる死神に呆れながら欠伸を噛み殺す。
眠いな。
寝るか───って、その前に。
悠介 「……俺の魂にもうひとつ分の魂が追加されるように出ます」
慎重に組み立てたイメージを弾かせる。
それとともに自分の中に今まで足りなかったものが満たされた感覚に襲われた。
悠介 「───魂結糸を切れる大鎌が出ます」
続けてイメージを弾かせる。
出てきた大鎌はゲームかなんかで出てくるような、どこかカッコイイ鎌だった。
悠介 「……こんなイメージしたか?俺……」
俺もまだまだヤングメンよのぅ。
悠介 「さてと、こいつで……いや待て。慎重にいかないとな。
魂結糸の見える眼鏡が出ます」
ポムッ。
悠介 「よし、これで……」
───んー……?
ああ、これか。
よし、覚悟ッ!
ヒィンッ!
悠介 「───通った───」
確かな手応えを感じて、いっちょ前に決めてみた。
のだが、その次の瞬間には例えようのない喪失感に見舞われる。
うわ……これがルヒドの言ってたやつか……?
悠介 「───くっ……うぅぅぁあああ……っ!」
喉を掻き毟る。
それでも何かが足りなくて、今度は頭を掻き毟った。
足りない。
何かが足りない。
足りない───!
なんだ!?
なにが───なにがなにがなにが───!
悠介 「……よし創ろう」
ポムと手を合わせた。
苦しむよりはさっさと創りましょ。
悠介 「俺に足りないものが出ます───って!
どんなものかも解らないのにイメージ出来るか!」
がぁあああっ!!
くそっ!くそくそくそくそ!
って待てよ?
悠介 「魂結糸の代用品が俺の中の隙間に出ます」
───。
悠介 「だ、だめだぁああっ!魂結糸がどんなのか俺は詳しく知らないんじゃあっ!」
彰利 「うるさいわね!今何時だと思ってるの!」
悠介 「やかましい!」
彰利 「ひぃっ!?───あ、あの、ダーリン?
アタイの方こそダーリンがやかましいから起きてきたんですけど……」
悠介 「わ、悪いっ……今は放っておいてくれ……!なにするか解らない……!」
彰利 「ええっ?そんな……あ、で、でも大丈夫よ……アタイ、心の準備は出来て」
悠介 「ほっとけって言ってるんだ!いいから離れろ!」
彰利 「キャーッ!?」
怒鳴られた彰利がドシュウウと物陰に逃走した。
彰利 「お、憶えてろよー!?PTAのおばちゃんに言いつけてやるからなー!」
悠介 「視界から消えろ!聞こえないのかっ!」
彰利 「わ、わぁったよ!───大丈夫なんだな!?問題ないんだよな!?」
悠介 「心配するようなことじゃない!いいから───早く行ってくれ!」
彰利 「……わかったよ!ルナっちとかは俺が抑えつけとくから!
なんなのかよく解らんけど危なくなったら言えよ!?」
悠介 「早く行けっ!早く!」
彰利 「わ、わぁったぁ!」
叫ぶように、彰利は視界から消えた。
───くそっ!
なんなんだ、この喪失感と何かを破壊したくなるような感情は───!
ルヒド「僕からのワンポイントアドバイス♪」
悠介 「くぅあっ!」
ルヒド「うわっと、危ない危ない。いきなり殴りかかるのはどうかなぁ」
悠介 「離れてくれ……!血が暴れてる……!」
ルヒド「それはそうだよ。ルナの力で抑えられていたとはいえ、
キミの中にはあの十六夜逝屠が飲み込まれているんだ。
彼の憎悪や野心は尋常じゃなかったからね。
それに、キミの血の力も事実上、子供の頃からルナに支えられていた。
この意味が解るかな」
悠介 「───」
ルヒド「うん、解ってくれたみたいだね。つまりそういうことだよ。
キミの血はキミが成長するにつれ力を増していた。
その上に逝屠の力も合わさって、
血の力に免疫の無かったキミは今の状態にある。
つまり支えを失った状態なんだ」
悠介 「ぐ───ど、どうすればいい……!」
ルヒド「一度暴れれば嫌でも免疫が出るんだけどね。
以前文化祭で暴れた時は、それでもリミッターがかけられていたからね、
あれじゃあ免疫なんてものは出来ない。
一切の免疫もないキミがそれを得るとしたら───
人を数人殺すまでは治まらないだろうね」
悠介 「なっ───冗談じゃ……ないっ……!」
ルヒド「いいかい?僕のイメージを創造してみせるんだ。
ゼノとの戦いで弦月彰利のイメージを創造してみせたようにね。いいかい?」
悠介 「や、やってみるしかないんだろ……!?」
ルヒド「そういうことだよ。それじゃあいくよ」
ルヒドが俺の額に触れて目を閉じる。
その刹那、見たこともない景色が俺の中を流れていった。
ルヒド「いろいろな景色が流れていくと思うけどそれに惑わされないで。
これだと思うイメージを創造してくれ。いいかい?
それは『闇を手に持つ光輝く者』だ」
悠介 「や、みを───?」
闇を手に持つ、光り輝く───
悠介 「ぐっ───」
ぐあ、あああ……ッ!?
あ、頭が───頭がッ!頭が割れ───!?
悠介 「ぐ、アァァぁぁああっ!あっ───ガァアアあぁあアアッ!!」
壊したい!(コワセ!)
殺したい!(コロセ!)
なにもかも───なにもかもを否定したい!(ヒテイシロ!)
邪魔だ邪魔だ!全てが───この目に映る全てが───!
ルヒド「……これはまいったなぁ、魔人化が進んじゃってる。
気をしっかり持てばそんなことない筈なんだけど───あ、そうか。
悠介はもともと、自分に自信の持てない子だったね」
ウルサイ!ウルサイウルサイ!
ジャマ───!ナニモカモ、ジャ───マ───!
ルヒド「悠介。多分キミはこれから自分と戦わなきゃいけなくなる。
それによって、キミがどんな未来を築けるのかが決まると思うよ。
ただし、諦めたらその時点でキミは逝屠になると思う。
自分に自信を持つことだよ。そうでなきゃ───キミは人形でしかない」
──────。
───どこだろう。
そんな情けない声が口から漏れた。
ただ怖かった。
広い草原にただひとり取り残されたような不安。
目に見える景色はこんなにも綺麗なのに、ただぼくは怖かった。
だから小さく声を出した。
一番最初に呟いた言葉は親友の名前だった。
だけど返事はなくて、ますます不安になった。
逝屠 「……情けないな、人形」
悠介 「っ!」
逝屠 「くだらない。壊したいのならこの世をも壊せばいい。
神にも近しい理力を持つお前ならそれが出来る筈だ。
だというのに何故しない?お得意の偽善か?」
悠介 「うるさいっ!」
逝屠 「お前はいつもそうだ。
そうやって人に嫌われない程度のギリギリの人間関係の中で、
ただヘラヘラと穏やかに過ごしている。お前、本当に満足してるか?
俺にはお前が海に放り出された犬のようにしか見えないがな」
悠介 「うるさい!消えろ!お前なんか呼んでない!」
逝屠 「……そうやって、いつまで子供で居るつもりだ。
大人になりたくないだって?そんなものは幻想に過ぎない。
ガキでいたかったならあの時お前は死ぬべきだったんだよ。
それが死神などと契約を結び、のうのうと生きやがって……。
ああ、まったく腹が立つ。どうして俺はこんな青ビョータンに消されたんだ。
消えるべきはお前だったんだよ。
こんな生き方しか出来ない貴様など、猿の位にも満たない存在だ」
悠介 「うる……さいっ……!」
逝屠 「苦しいだろう?だったら俺と交代しろ。
俺が代わりにこの嫌な世界を壊してやる。
目障りだろう?自分は何もやっていないのに自分を否定する人間どもが。
お前自身、一度はそいつらを消したいと思ったことがある筈だ」
悠介 「お前と一緒にするな!人殺しっ!」
逝屠 「人殺し?……ふん、まさかお前の口からそんな言葉が出るとはね。
お前、本当に都合のいいヤツだよ。自分が何をしたかも忘れたのか?」
悠介 「え───?」
逝屠 「俺の両親を殺したのはお前だ。一家心中なんて生易しいものじゃない」
悠介 「───はっ……な、なに言ってるんだよ、そんなわけ───」
逝屠 「お前は耐えきれなかったのさ。あのクズどもの行為にな。
結果、お前の中の力は暴走。俺の両親をズタズタにした。
一家心中の時にルナに助けられたって?随分おかしくいじられたんだな。
お前はお前自身があの家に火をつけたことも忘れたのか」
悠介 「そんな───うそだっ!お前はうそつきだ!俺が───俺がそんなこと!」
逝屠 「火の中で笑ってたのはあのクズどもじゃなく、お前だったのさ。
お前は俺を消した時のように月蝕力を解放して、
クズどもをゆっくりと蝕んでいった。
その景色と炎を利用されて作られたのがお前の記憶だ。
おかしいと思わなかったのか?
燃えている人間が冷静にお前に声をかけられるわけがないだろう。
あの時すでに俺のおふくろは死んでいたのさ。
そう、お前の能力にところどころ食われた状態でな」
悠介 「あ───あ、ぅ、ゎ……!?あ───」
逝屠 「さあ、どうした人殺し。俺達は同類だろう?
一緒に世界を壊そうじゃないか。
こんな平和なだけでなんの意味もない世界など───存在する価値もない。
お前は逃げていただけだ。畜生ほどの価値もない人間だ。だが───
ずっと逃げるより、少しの志でも持って世界を壊すのも悪くはないだろう」
悠介 「うそだ……うそだうそだ……ぼくは、人……人を殺してなんか……」
逝屠 「───また逃げるのか?」
悠介 「ぼくは……ぼくは……」
逝屠 「……チッ、コワレやがった。こんなヤツが宿主だなんて情けない限りだ。
お前はずっとそうやって怯えて殻に閉じこもっていればいいさ。
あとは俺が引き継いでやる。いや、返してもらうんだ。俺の人生を」
悠介 「ぼく……は……」
逝屠 「───」
闇が深くなる。
綺麗だった景色は黒く染まっていき、草原に咲いた花を枯れさせていった。
逝屠 「見ろ。お前の中の闇が暴れてるぜ。今まで抑えられてきたんだ、当然だな。
これが解放されたらどんなことになるのか想像もつかないだろう。
……そうだな、まずはお前の大事な家族とやらを、お前自身が殺すだろうな」
悠介 「………」
逝屠 「そうしたら今度は俺が操って、家系の人間を皆殺しにしてやるのさ。
今の俺に怖いものなんてない。
なにせ、家系を簡単に殺せる力が手に入ったんだからな」
悠介 「家族……殺す……?」
逝屠 「あん?……ああ、そうさ。殺すんだよ、他ならぬお前がな。
信頼しているお兄様に殺される女どもの顔が目に浮かぶぜ。
泣きながら『どうして』とか言い続けるんだろうなぁ。ははははは!」
悠介 「───」
ぼくは───
逝屠 「お前は腐ってればいい。余計なことは考えるな。
そうじゃなけりゃあお前に恐怖を擦り込ませた意味がねぇ」
悠介 「恐怖───……過去……?」
逝屠 「……チッ、コワレモノ相手に何言ってんだ俺も。
さあ、自由を手に入れる時だ。
お前の身体を使って、気にくわない存在の全てを否定してやる!」
ぼくは───……俺は───!!
悠介 「───黙れ」
逝屠 「あぁ?なんだ?」
悠介 「黙れ、って言ったんだよ。キチガイ野郎」
逝屠 「なんだとぉ?もういっぺん」
悠介 「黙れキチガイ野郎!」
逝屠 「───へっ!ようやく本性現しやがったか!この死神め!」
悠介 「……やっと解った。闇を手に持つ光輝く者───それは自分を信じる自分だ。
自分が光だと信じればお前はその光に握られてる闇にすぎない……。
お前がなんと言おうが俺は俺を信じてみせる!
お前なんかに───俺の大切な世界を壊されてたまるか!」
逝屠 「来るかよ!死神!」
悠介 「なんとでも呼べ!でも───ここで消えるのはお前だけだ!」
逝屠 「ガキがっ!粋がってんじゃ───」
キヒィンッ───!
逝屠 「なっ!?ば、ばかな───あぁああああああああっ!!!!」
悠介 「な、なんだ!?」
突然、闇が晴れるとともに蒼空の広がった空から光が瞬いた。
次の瞬間にはその光が逝屠の胸を貫き、彼は大量の血を吐いて倒れた。
やがてその姿が指先から霧のように散ってゆく。
悠介 「これは……?」
《───おめでとう、これでキミの中の鎖は消えたよ───》
悠介 「その声───ルヒドか?」
《───ピンポーン、正解。それじゃあ意識を回復させるよ───》
悠介 「ま、待てこらっ!いきなり戦いを終わらせといて───おい聞け!」
キィイイイイン───!
悠介 「無視すんなーっ!」
人の話もまるっきり聞かずに、その世界を閉じようとするルヒド。
散々止めたんだが、一切聞く耳持たなかった。
───。
ルヒド「やあ、おかえり」
悠介 「シールド解除しろ。一発殴りたい」
ルヒド「せっかくの提案だけど却下させてもらうよ」
悠介 「どういうことだよアレは!人が今度こそ決着つけようって時に!」
ルヒド「忘れてもらっちゃ困るよ。アレは僕の仕業じゃない。
先に言ったろう?闇を手にした光輝く者のイメージを掴むことが目的だって。
イメージが完成した時点で逝屠の消滅は確実だったんだよ。だから僕は無関係」
な、なんだそりゃぁ……!
ルヒド「それと、逝屠の言葉は真に受けなくていい。キミは人殺しなんてしていない。
彼は人を絶望させるのが好きらしいからね。
絶望させ、その上でどうにかしてキミの身体を乗っ取りたかったんだと思う。
まあ結局は自分が出した『家族を殺す』って言葉が消滅の原因だね。
最後の最後で詰めが甘いなぁ彼は」
悠介 「甘くてよかったんだよ。そうじゃなきゃここに立ってるのは逝屠だった」
ルヒド「悠介。キミのその考え方がいけない。
もっと自分がここに立っているのは当然だ、くらいに考えないと」
悠介 「家族を殺したくなかっただけだ。守りたかったんだ」
ルヒド「キミの意思の方向性がよく解らないよ。
自分を信じるより他人を信じる方が強いんだから。
自分を守ることより家族を守りたい意思の方が強いなんてね。
人間はもっと黒い生き物かと思っていたよ」
悠介 「穏やかな顔で恐ろしいこと言うなよ……」
ルヒド「ははは、だからこれは性分だよ。それよりどうだい?
感情のコントロールも魔の抑制も出来るようになってると思うんだけどな」
悠介 「え?あ、ああ……それは確かに……」
身体を軽く動かしてみる。
思ったより楽に───いや、十分に好き勝手に動かせる。
さっきまで感じていた喪失感も破壊衝動も今は無い。
ルヒド「うん、それはよかった。潜り損だったら力を分けた僕の立場が無い」
悠介 「……好き勝手なヤツだなお前───」
ルヒド「それは一番最初に言われた気がするけど」
悠介 「言ってない。だから殴らせろ」
ルヒド「まいったなぁ、僕は殴られるわけにはいかないんだよ。
結果オーライで納得してくれたりしないかな」
悠介 「う……」
ルヒド「はい決定。それじゃあ僕はもう行くよ。今度こそごきげんよう」
悠介 「ああっ!待てこらっ!」
言いたいことだけ言って、ヤツはさっさと消えてしまった。
悠介 「に、逃げられた……?」
その場で呆然と立ち尽くす俺だけが、その景色の中に取り残された。
よし、今度会ったら攻撃のひとつでも絶対撃とう。
絶対だ。
密かにとても重大な決め事を心に刻み込み、俺は頷いた。
悠介 「……自分より家族か。そりゃそうだ。
あいつらが居なかったら、俺は小さい頃に希望すらも持てなかった」
子供がそれを手放すことはある種、死ぬことを意味する。
なんの楽しみもない子供がその中で生きていくのはあまりに酷だ。
親も居なければ頼れる場所もない。
そんな状況の中で俺が生きられたのは、
ルナのおかげであり、若葉や木葉のおかげであり。
それから出会っていったたくさんの人達のおかげでもあり。
そして───馬鹿な親友のおかげだ。
そんなことを手放してまで自分に自身を持つことは出来ないと思うし、
もとよりするつもりなんてなかった。
俺はまだまだ子供だ。
でもそれでいい。
悠介 「あ、そうだ。彰利にもう大丈夫だって言っておかないとな」
思い立って歩き出す。
この状況をどう説明したものか、なんて考えながら自分の帰る場所へと歩いてゆく。
───さて。
このガラス張りの世界の中で、俺はどんな大人に成長するのだろう。
その過程。
その情景の中で、いつまであいつらと一緒に過ごしていけるのか。
正直、その未来は解らない。
けれどもそれは、それが未来だからこそ解らないのだと確信する。
だから、手を取り合おう。
自分が信頼する人達と一緒に、その宛ての無い未来への旅路へと歩き出そう。
それはきっと、とても楽しい旅に違い無いから───
───穏やかな時の流れに撫でられながら、俺は帰るべき場所の扉を開いた。
……が。
その先に居たみんなが俺を見た途端、揃って悲鳴をあげながら逃走した。
呆然とする俺。
そしてその視界の隅で、
『悠介に近寄らないようにあることないこと吹聴しといたゼ!』
などと爽やかにぬかす馬鹿がひとり。
───ああっ……!本当にどんなことが起こるかわからないなぁ未来はっ……!
喉から大きな唸りをあげながら馬鹿者に突進する俺。
それを見て彼は尋常ならぬ殺気を感じたのか、全力で逃げ出した。
だが前方不注意で壁に激突してジェニファー!とか叫んだ彼は、とうとう俺に掴まった。
そして爽やかに『妖精さんはどこ?』と現実逃避していた彼はのちに絶叫をあげる。
そんな中で俺は思うのだ。
ああ、なんていつも通りなんだろう、と。
そうした微妙な情景の中で俺は、やっぱりこいつらが居ないと始まらないと思った。
どれだけ背伸びしても、やっぱり俺はひとりで生きてきたわけじゃないから。
だから落ち着いた時にみんなに感謝しよう。
───それまではこの馬鹿ブチノメーション。
イヤァとかギャアアとかお決まりの絶叫をあげて、
未だにアフロな彼がボコボコにされてゆく。
……ちなみに、それから俺の誤解が解けたのは翌日の夜のことだった───
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